決戦鬼百合の陽ちゃん~だったら、仲間を作っちゃお!

作者:柊透胡

 鬼百合――丈1~2m程の大型の百合。小さめの葉は披針形で先端はゆるく尖る。茎は紫褐色に細かい斑点が、花弁はオレンジ色で暗紫色の斑点を生じる。種子の代わりに葉の付け根に暗紫色のムカゴを作り、鱗茎はユリ根として食用となるという。
 日本では北海道から九州の平地から低山で普通に見られるが、有名なのは石川県白山市――八田農村公園にある群生地は、地元民の丹念な手入れにより、1万5千本もの花が咲く。
「~♪」
 とは言え、鬼百合の花季は7月から8月。冬は日本海に臨む豪雪地帯だ。そろそろ3月になろうかという頃にも、保安林は一面の雪が積もったまま。鬼百合の球根も芽生えの刻を待ち、ひっそり眠っているだろう。
 そんな雪景色に、場違いな色彩がヒョコヒョコ動く。
「この辺り、かなぁ?」
 大きなリボンが目を引く赤いワンピースの少女。山吹色の髪から小さな角が覗いている。細腕に違う大きな斧を軽々と担ぐその背後に、尋常でなく大きな鬼百合が不穏に蠢く。
「鬼蓮の水ちゃん、鬼薊の華さま、鬼胡桃の姫ちゃん、鬼縛りの千ちゃん……みんなみんな、いなくなっちゃった」
 編上げブーツで雪を踏みしめ、少女はむぅっと唇を尖らせる。
「……つまんない」
 背中の鬼百合が更に大きく花開くや、花粉めいた何かを、一面の真白に降り注いでいく――。
「だったら、仲間を作っちゃお!」
 一転、緑の瞳を期待に輝かせ、少女は楽しげに笑み零れた。

「くぁ~、とうとう最後の1体が見付かったのオチで」
 赤いペンギンぐるみ、もといヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)は、黄色いクチバシの下でにんまりと。
「では、定刻となりましたので、依頼の説明を始めましょう……秋口より暗躍していた攻性植物、『人は自然に還ろう計画』の最後の1体を発見しました」
 ヒナタと肩を並べ、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は集まったケルベロス達を見回した。
「鬼百合の群生地に現れるのオチね」
「はい。イクスェスさんの見立て通り、鬼百合の群生地……石川県白山市『八田農村公園内の保安林』に『鬼百合の陽ちゃん』は現れます」
 冬の間は球根状態の鬼百合を、「鬼百合の陽ちゃん」は無理矢理、攻性植物に成長させようとしているのだ。
「新たな仲間を作ろうとしているのかもしれません」
 新たな手駒が、1体でも宿主を得れば厄介だ。だが、球根から戦力まで成長させるのには、時間が掛かる。
「単身の鬼百合の陽ちゃんと対決するチャンスです。ヘリオンから保安林に直接降下し、急ぎ駆け付けて下さい」
 流石に降下地点には些か誤差が生じる為、奇襲は成立しない。降下後は時間を置かず、戦いを挑むべきだろう。
「戦闘中は鬼百合の攻性植物化も中断されますから、戦い始めれば増援の心配はありません。ここで彼女を倒す事が出来れば、『人は自然に還ろう計画』に終止符を打てるでしょう」
「せ~っかくの機会、ヨロシクお願いしたいのオチね~」
 軽口を叩くヒナタの隣で、創は粛々と情報を提示する。
「保安林の中も一面、雪が積もっていますが……皆さんなら戦いに支障はないでしょう。ただ、あんまり雪を蹴散らしますと、地中の鬼百合の球根を傷めかねません。群生地に入り込むのは避けて下さればと思います」
 昼下がりの時間帯ながら、周辺に一般人はいない。戦闘に集中できるのは幸いだ。
「鬼百合の陽ちゃんに配下はいません。武器は……大きな斧。少女の見た目に反して力は強そうです。又、攻性植物としての力も侮れません。油断は禁物です」
 体育会系の雰囲気に違わず好戦的。外見は少女だが、既に完全に攻性植物と同化している。説得の類は不可能と見てよい。
「鬼百合の花言葉は賢者、愉快、華麗、陽気……けして蛮勇ではなく、戦闘に魅力を感じなくなれば逃走しようとするでしょう。是非とも、今回で決着を。皆さんの健闘を祈ります」


参加者
橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)
ケルン・ヒルデガント(銀に槍を華に風・e02427)
エリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)
ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)
マーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)
葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)
花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)
神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)

■リプレイ

●仲間作りを阻め
 その時、公園に積もる雪が、相次いで煙のように舞った。
「あっちじゃ!」
 ヘリオンからの直截降下――銀髪に煌く雪片を払い、ケルン・ヒルデガント(銀に槍を華に風・e02427)は保安林を指差す。
「まちゅかぜ、急ぐでござる!」
 元気よく一輪木馬に跨るマーシャ・メルクロフ(月落ち烏啼いて霜天に満つ・e26659)。一見、ファンシーなライドキャリバーは滑るように疾駆。
「あ、あれが……」
 果たして、雪白の中で、赤い姿はよく目立つ。背の大輪を揺らし何かを振り撒く少女こそが、鬼百合の陽ちゃん――『人は自然に還ろう計画』の最後の1体。
「さてさて、鬼ちゃんシリーズもこいつで打ち止めか」
 念の為、殺界を形成しながら、不敵に碧眼を細めるエリシエル・モノファイユ(銀閃華・e03672)。ここで逃がして、新シリーズを増やされでもしたら堪ったもんじゃない。
「きっちり文字通り、根切りしないとね」
「仲間を増やされる前に決着を付けないとね! 楽しいバトルにしよっ!」
 神冥・飛燕(アニマートポルカ・e45124)も快活に同意。得物を豪快に担ぐ。
「でも、あんまり、群生地に入り込まない方が良さそうね」
 怒って攻性植物化を再開されても厄介だ。橘・芍薬(アイアンメイデン・e01125)の言葉に頷き合い、ケルベロス達は散開する。今回の編成は、サーヴァントを伴う者が半数を超える。包囲するには都合が良い。
(「斧が得意な相手、ですか……」)
 少し近付けば、大きな斧もよく目立つ。思わず、雷鳴の戦斧を握り締める花見里・綾奈(閃光の魔法剣士・e29677)。斧を得手とする綾奈。仄かな親近感を覚えるというもの。
(「でも、敵は敵……必ず此処で倒してしまいましょう」)
(「鬼百合の陽ちゃん、あなたも大切な仲間を失って寂しいのかもしれませんが……私もケルベロスとして、これ以上、被害を出させる訳にはいきません」)
 今日の二刀は、斬霊刀とゾディアックソード。葵原・風流(蒼翠の五祝刀・e28315)は、静かに期待斬霊刀『我思我在』の鯉口を切る。
「せめて、早く仲間の許に送り届けるだけです」
 風流が雪を蹴って飛び出す寸前――突如、轟き渡るド派手なロック!
「くぁ~はっは~~! 赤ペンさんの野外ライブへよ~こそ~!」
「……は?」
 雪がある程度音を吸い取るが、流石に鬼百合の陽ちゃんも振り返る。
 MDミニコンポを抱えるテレビウムを伴い、赤いペンギンぐるみ――ヒナタ・イクスェス(世界一シリアスが似合わない漢・e08816)は陽気に、狂気に、飛び蹴りを放つ!
「歓迎しよう、盛大にな!」
 ガキィッ!
 流星の軌跡描く赤ペンの足裏を、大斧の一閃が弾く――それが、戦闘の始まり。
「何よ、あんた」
 顔を顰めた少女の姿の攻性植物は、ヒナタへ背の大輪から光線を発射。ゼロ距離射撃の火柱が上がる!
「くぅっ!?」
 急ぎミニコンポは雪上に、ヒナタの応援動画を流すぽんこつ一号。ヒナタと入れ違い、マーシャを乗せたまちゅかぜが突進する。
 続いて、エリシエルの雷刃突がワンピースを切り裂き、風流の呪怨斬月が正確な軌跡を描く。だが、綾奈の雷気帯びた突きと飛燕のシャーマンズゴーストの魂抉る爪はかわされた。
 実戦経験の差が、命中率に顕れるのはやむを得ない。大事なのは「全員の攻撃が命中する」状況を成す事。早速、オウガ粒子を放出したマーシャだが……その効果の程にアッと声を上げた。
 ケルベロス+サーヴァントで総勢13名。それが前・後衛に分かれ、何れも列減衰が発生する。元より列強化の付与率は五分。更にマーシャは使役修正も被る。これに列減衰まで加わっては、即効性は到底見込めまい。
 一方、芍薬は眉を顰めてヒナタを見やる。被ダメージの程は、眼力では量れぬ。見極めようとするのは、メディックの観察眼だ。
 ヒナタは既にぽんこつ一号と九十九、テレビウム2体から応援された。それでも完治には程遠い。防具耐性がそぐわずとも、実戦経験も豊富なヒナタを抉る重撃ならば。
「クラッシャーか……まあ、らしいけど」
 マーシャと同じ理由で、メタリックバーストは勿体無い。それで光の盾を具現化する芍薬。敵は正に「破壊担当」に相応しい前のめり。対して、メディックはサーヴァント伴う芍薬とヒナタのぽんこつ一号、綾奈のウイングキャット、夢幻だが……現状で、清浄の翼の効果は期待出来まい。
「これは……正面からやりおうて、どちらが競り勝つか、じゃな」
「うんうん♪ 全力勝負って凄く楽しいよね。いざ尋常に勝負!」
 意気軒昂に言い放ったケルンのスターゲイザーが奔る。楽しげな飛燕は、如意棒をヌンチャクのように操るや、敵の大斧目掛けて強かに叩き付けた。

●重撃一身
「あんた達、ケルベロスね!」
 有無を言わさぬ開戦に、鬼百合の陽ちゃんは眦を吊り上げる。
「あんた達の所為で、仲間がいなくなったんだから!」
 全身のバネを使ってぴょーんとジャンプ。ブンッと大斧を振り被った。
「これ以上! 邪魔するな!」
 バキィッ!
 狙われたのは、風流。その頭上からの一撃を、綾奈の斧が遮る。
「……っ」
 少女の姿に違う強力に、唇を噛む綾奈。すかさず、メディックからヒールが飛ぶ。
(「攻性植物の『チーム』ね……私の姉妹に重なるわ」)
 引き続き光の盾を作り、芍薬は遠くを見る眼差しになる。
(「名前も植物繋がりだし……って、そんな事どうでも良いか」)
 今は、戦闘に専念しよう。一転、表情を引き締めれば、九十九は既に応援動画を流している。
「仲間が欲しいなら、妾達に勝ってからゆっくりとすればいいのじゃな。その頃には多分、『骸が1つ』くらいは増えて肥料になるじゃろう?」
 何の、とまでは言わない。不敵に笑むケルンの掌中に竜影が湧くや、少女に喰らいつく。
「ヒャッハァッ! 攻性植物は伐採だぁっ! のオチ」
 狙い澄ましたヒナタのチェーンソー剣が唸る。胸奥に凝る苦さを億尾にも出さず、鬼百合の陽ちゃんの傷を抉らんと。
「今宵のうどんはまた格別でござるよ!」
 激しくスピンするまちゅかぜに続き、空の霊力纏うオウガメタル【金剛】鬼鋼-うどん-を放つマーシャ。その斬撃は、一輪木馬の軌道を正確になぞる。
「……ま、最低限、飽きさせない自信くらいはあるさ」
 無数の霊体を纏った斬霊刀は、その銘も二代孫六兼元真打。螺旋忍者の体術に様々な武術を組み合せたエリシエルの太刀筋は、確かに目新しいかもしれない。
(「楽しめるかどうか、ってのは知ったこっちゃないけど、ね」)
 変則的な軌道が、鬼百合の陽ちゃんのポニーテールを幾筋か払う。
 そして、風流は意図的に光翼を暴走させ、全身を光の粒子に変えた。どんなに高威力でも、当たらなければ無為となる。その点を考慮してか、序盤はホーミング技を丁寧に重ねる心算のようだ。
「光の翼よ、私に、力を」
 やはり綾奈もヴァルキュリアブラストを以て突撃すれば、その一撃は確かに小柄を捕えた。
 序盤より、着実に攻撃を重ねんとするケルベロス達。サーヴァント伴う強味は手数の多さと攻防の柔軟性だ。一方で、サーヴァント達はディフェンダー又はメディックに振り分けられており、その火力を活かしたくば、まず敵の動きを鈍らせるのが重要となる。
(「私は、私の出来る事を頑張るだけだよ!」)
 ドラゴニックハンマーを掲げ、轟竜砲をぶっ放す飛燕。使役修正故に、厄付けは些か心許ないが、スナイパーはケルンとヒナタもいる。他の攻撃を交えながら、足止め技は着実に。
 総攻撃の準備が整うまで、ケルベロス達は1人も落とすまいと踏ん張る。
 ――――!!
 勿論、鬼百合の陽ちゃんも負けていない。デウスエクスも眼力を備える。その攻撃は一方のクラッシャー、風流に集中した。斧の重撃が、大輪から熱線が奔る。盾は5枚と相当に厚いが、全てを庇える訳ではない。
 クラッシャーの一撃は、重い。故に、芍薬を始めとするメディックは早々に回復に専念。更に他がヒールで援護するのも少なからずだ。
「矢倉は将棋の純文学と人は言う!」
 矢倉囲いは絶対防御の型。マーシャの構えは王ならぬ仲間を護る決意の現れだ。その射程故に、肩を並べる風流が狙われたのは、寧ろ幸いだったかもしれない。
「……私の斬霊刀は、病のみを切り裂きますから」
 ヒールを一身に受けても、じりじりと残る炎。斧の重撃は防具を抉り、敵との距離感を狂わせる。悪影響が深刻となる前に、風流は自らの厄を斬り払う。だが、着実に最大HPダメージは蓄積する。このままでは、クラッシャーの一角を喪いかねない。
「シャーマンズゴーストくん、頑張れ!」
 焦燥がケルベロス達の胸を食む。だが、飛燕の相棒の爪が、漸く鬼百合の陽ちゃんを抉ったその時――攻性植物の少女は、苛立たしげに神霊を睨む。
「あんた、目障りよ!」
 斧刃の星が輝き、シャーマンズゴースト目掛けて振り下ろされる。鬼百合の陽ちゃんの標的が、初めて変わった。

●最後の1体の最期
 比較的、実戦経験の浅い飛燕の相棒が、鬼百合の陽ちゃんを捕らえた――それは、一斉攻撃の準備が整った証。
「エンターテインメントの華、それはラストの大大大逆転劇! 陽ちゃん殿、油断してると痛い目見るでありまするよ!」
 勢いよく天を指すマーシャ。天空より無数の刀剣を召喚し、解き放つ。
 ――――!!
 死天剣戟陣――剣雨の衝撃に、樹上の雪がバサバサと落ちる。
「雷よ、来たれ……そして、敵を薙ぎ倒す力となれ……」
 マーシャに続き、綾奈も大斧に雷の力を宿らせ薙ぎ払う。何れも範囲攻撃ながら、多彩な攻撃で彼女の気を引くべく。
 序盤、呪怨斬月とヴァルキュリアブラストを繰り返した風流のように、見切りと命中率を重視すれば、回すグラビティは2種で事足りる。だが、それで敵に飽きられては厄介だ。
 故に、今は活性化したグラビティ全てを駆使する風流。ヒナタも攻撃パターンを読ませないよう、ランダムにグラビティを選ぶ。芍薬自らは回復に専念しながら、時に相棒の九十九が十徳ナイフを振り回す。元より短期決戦を目指すエリシエルも、我流奇剣を振るった。
「くっ!」
 顔を顰める鬼百合の陽ちゃん。一方的な猛攻を被れば面白くないだろう。その表情を見て取り、ケルベロス達はすかさず挑発する。
「鬼百合の陽ちゃんも大したことないね! もっと強いと思ってたよ。期待はずれだな~」
「後ろに隠れてる奴が、偉そうに!」
 飛燕の言葉に案の定、ご立腹の様子。
「貴女も斧が好きなの、ですね。私も、斧を得意としてます」
 そんな鬼百合の陽ちゃんの斧刃を遮り、綾奈は淡々と言い放つ。
「どちらが強いか、白黒つけたくないですか?」
「ここで勝たねば、また独りぼっちというやつなのじゃな」
 特にケルンの言葉は覿面で、背の花を向ける鬼百合の陽ちゃん――だが、ギリッと歯噛みしながら、光線はシャーマンズゴーストに浴びせられた。
 敵に列攻撃がないのを幸いにじわりと重ねた神霊撃が、鬼百合の陽ちゃんの怒りを深めていたのだ。敵の標的となって積極的に盾を為す、ディフェンダーの真骨頂とも言えようが……惜しむらくは、防具耐性そぐわず長くは保たない。
「ありがとう! 後は私達に任せて!」
 ヒール許さぬ二重の熱線に、敢え無く、掻き消えた相棒を労い、飛燕はドラゴニックハンマーを担ぐ。
「そーれっ!」
 身を引いた攻性植物の動きに合わせ、アイスエイジインパクトが奔る。理想はクロスカウンターだが、幸か不幸か、飛燕は標的とならなかったので、お楽しみは別の機会に。
 そして、シャーマンズゴーストの犠牲が齎した、ヒール要さぬタイミングこそが好機。
「『人は自然に還ろう計画』も今日で最後よ。鬼百合の陽ちゃん、ここで終止符を打ってやるわ!」
 勢いよく啖呵を切り、ふと苦笑を浮かべる芍薬。握った拳が赤熱する。
(「……しょうがないとは言え、敵にちゃん付けも締まらないわね」)
 だが、初めて攻撃に転じた動作に躊躇いはない。掌の放出口から熱エネルギーを送り込み、内側から爆砕する。
「ぐがぁっ!」
 半身砕かれ、それでも、鬼百合の陽ちゃんは大斧を片腕で引き摺る。
「その意気や良し、ではちょっとばかり面白い妹を見せてやるかの!」
「キャッ!?」
 思わず身を竦めたのは綾奈だ。ケルンが妹と呼ぶ短銃より発射した銃弾は、気紛れに空間を越え、艶やかな金髪を掠めて、鬼百合の陽ちゃんを穿つ。
「すまんな。かなり気分屋の妹での」
 夢幻の咎める視線にも、ケルンは肩を竦めるのみ。綾奈自身は、困惑の表情で斧を構え直す。
「さあ、神速の突きを避けられますか?」
 バチリ、と斧のルーンがスパークするや超加速。綾奈の突進に風流の剣閃が続き、二連の雷刃突が小柄を貫いていく。
「全く、強制的に自然に還そうだなんて、大きなお世話にも程があるっての!」
 まちゅかぜと九十九の追い打ちに、猛攻の度に身を凍らせながら、攻性植物はまだ潰えない。しぶとさに呆れながら、冷ややかに吐き捨てるエリシエル。脱力から縮地・無拍子を用いて一気に最高速まで加速。布都御魂剣も又、最速の斬撃を以て斬り払う。
「人の手を入れなきゃ生きていけない植物だってあるってのに」
「……うる、さい」
 上目遣いに睨め付ける少女の声音は、地を這い怨嗟を帯びる。
「そんなの、自然じゃない……人間が勝手に歪めた、玩具じゃないか!」
 何処にそんな力が残っていたか。少女の大斧がブンッと唸る。
 バキィッ!
 エリシエルに迫る斧刃を、マーシャのフェアリーブーツが豪快に蹴り飛ばした。
「……いったぁ」
 重い衝撃に呻きながらも頑張って踏ん張り、ぽんこつ一号の応援動画を背に声を張る。
「これまで宿主さん達を助けるのすんごく大変だったのですぞ! 陽ちゃん殿、わかっておりますか!」
「あんた達が、散々邪魔してきたって事はね!」
 マーシャの叫びに、鬼百合の陽ちゃんはだからどうしたと言わんばかりだ。人の命を斟酌しない、それはデウスエクスとしては当然かもしれない。だが、刹那、赤ペンぐるみの下でヒナタの眼差しが零下を帯びる。脳裏を過る払うべき負債――彼女が起こした一件で、一般人をこの手に掛けた事。
「くぁ~はっは~~! ヒナタ氏の左腕に、また不明なユニットが無事接続された模様。これはいけませ~ん!」
 あくまでもマッドピエロの哄笑を上げて。ヒナタさんの左腕に、追加接続される超特殊ステキ兵装。6基のチェーンソーブレードが唸りを上げるや、花火が飛び散り、豪炎を撒き散らしながら突撃する。
「くぁ、あの世で。じーさんに詫びて来るが良いのオチね」
 返事は、なかった。ヒナタの刃に問答無用で豪快に抉り潰され、攻性植物の少女は翠の瞳を見開いて事切れる。
 『人は自然に還ろう計画』の最後の1体は、最期まで独りのまま、引導を渡される――積雪踏み荒らされた激闘の跡には、もう何も残っていなかった。

作者:柊透胡 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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