刀の錆になれ!

作者:緒方蛍

「はあああ!!」
 一声とともに振り下ろされた太刀。力強く鋭い斬撃は、彼の目の前にあった大岩を割った。
 構えから静かに太刀を納刀した青年は、肩に着かないくらいのざんばらの髪、着古したぼろぼろの袴という和装の出で立ちだった。
 ただの人間である彼は、大岩を割ってなお満足していない。
「拙者の刀に斬れぬものはない……しかし……」
 技を極めれば、まだまだ斬れるものがあるはず。金属はもちろん、ダイヤモンドだって斬れるようになるかもしれない。
 だが今はまだその境地にはたどり着けていない。
 唸る剣術家は、不意に刀の柄に手をやると素早く後ずさり、背後を振り返った。
「……何奴!」
 先程まで誰もいなかった空間に立っていたのは、不敵な笑みを浮かべる子供、に見えるもの。
「……おまえの、最高の『武術』を見せてみな!」
 ぱきん、と指が鳴らされると同時、剣術家との石とは関係なく体が動き――その者へと斬りかかる。
「いいねえ……すごくいい」
 余裕の様相で交わす子供のような者は、剣術家の鋭い太刀を次々とかわす。
「はあああああッ、斬岩剣!!」
 気合い一閃。袈裟懸けに高速で振り下ろした太刀は、子供をまさに真っ二つにした、かに見えた。
「……ふふ。僕のモザイクは晴れなかったけど……」
 紙一重で避けた子供は余裕の笑みを浮かべる。
「おまえの武術は、これはこれで素晴らしかったよ」
 いつの間に持っていたのだろう。巨大な鍵を手にし、剣術家へと構え――胸に突き立てる!
「う……ぅ」
 がくりと膝から崩れ落ちた剣術家。その代わりに出現したのは、踵に届くほどの銀髪を靡かせた、黒いコートをまとう長身の男。手には抜き身で身の丈以上に長い大太刀、目つきの鋭さは視線だけで斬り殺せそうで、もし彼にBGMがつくなら荘厳な音楽になりそうだった。
 ドリームイーター。生み出された彼は、岩壁に向き直ると片手で大太刀を無造作に左右に振るう。くちばしのように突出した岩は斬られ、重い音を立てて落ちた。
 子供は満足そうに頷く。
「おまえの剣術、見せつけてきなよ」
 誘惑するような言葉に背の高いドリームイーターは頷くと、一路海から街へと向かったのだった。
 

 御門・レン(ヴァルキュリアのヘリオライダー・en0208)が集まったケルベロスににこやかに一礼する。
「剣の道を極めようとしている剣術家が襲われる事件が起こります。皆さんに助けて頂きたい剣術家を襲うドリームイーターの名前は、幻武極。この事件に関しましては、ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)さんが以前の事件から調べてくれていて発覚したものです」
「武術家を狙うドリームイーターがいることはわかっていた。だから名のありそうな武術家を探していたら、事件になりそうな人を見付けたんだ」
「今回の襲撃ではモザイクは晴れませんが、代わりに襲った武術家のドリームイーターを生み出して暴れさせようとするようです」
 出現するドリームイーターは襲われた剣術家が目指す究極の剣術を使いこなすようで、相当の強敵となるだろう。
「幸い、そのドリームイーターが人里に到着する前に迎撃できます。また、周囲は何もない海岸、岩壁の下になるかと思いますので、周囲の被害を気にせず戦うことが可能です」
 また、敵は1体で心を抉るようなトラウマを見せてきたりすることもあるという。
「刀を得意武器としているようですので、そういった系統のグラビティを使用するようです。対策は充分に取れるはずですし、私は皆さんのことを信頼しています」
 レンは断言すると微笑みを向けてくれる。
「生じたドリームイーターは、剣術家の本心を歪んで増幅させたものなので、己の剣術を見せつけたい、目の前に立ちはだかる者は皆殺しにしたいと思っています。ですから、戦える場所、相手を用意すれば逃げることなく立ち向かってくれるはずです」
 近くに倒れているであろう剣術家は、ドリームイーターを倒さねば目を覚ますことがない。彼のためにも、またドリームイーターによる被害を拡大させないためにも、ケルベロスたちが食い止めなければならない。ケルベロスたちならそれができる、とレンの瞳は信頼で満ちていた。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)
立影・龍牙(黒衣の復讐者・e02504)
綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)
錆・ルーヒェン(青錆・e44396)

■リプレイ


 押し寄せる波濤が大岩にぶつかり、はじけ飛ぶ。押せては返し、返しては押して。一時も止まることのないうねり、しぶきは海の荒々しさを物語っているように思える。
 波や海面を眺める錆・ルーヒェン(青錆・e44396)はどこか無感動にしていた。
「すっごい潮風、わいるどだねー」
 こっから落ちたら痛そうだと、切り立った岩たちを見回す。
(早く終わらせなきゃ、俺ももっと錆びちゃいそー)
 自分の両足を見下ろす。錆びた金属の脚。はあ、と溜息を吐く。
 ルーヒェンから少し間を開けた隣で海を眺めている者がいる。彼はどこか剣士然としていた。
「……武を極めし者か。我流ではあるけどオレの剣がどこまで通用するのが楽しみだ」
 くるりと振り返ったのは立影・龍牙(黒衣の復讐者・e02504)。視線の先にいたのは天羽・蛍(突撃戦闘機・e39796)だった。
「……なんて、ね。不謹慎かな?」
「そんなこともないんじゃないかな? 私も近距離だけの敵とやり合うのは初めてだし……」
 肩を竦めるといたずらっぽく笑う。
「身の丈以上の刀を使うというのも昔の剣豪みたいで強そうでワクワクするね」
「……そうだな。……黎鷲はどうだ?」
 話を振られて振り返ったのは、和風の衣装を着た、一見細身の美少女。しかしれっきとした男の彼は、名を鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)という。
「まるで興が乗らん」
 だから普段なら考えられない支援、癒し手に回るのだと黎鷲は切り捨てるように言い切る。
「俺が相手をするまでもない」
「クールだね!」
 蛍が明るく笑い飛ばす。
 そのそばで、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)はフィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)と「ご一緒するのは初めてですね?」と顔見知りらしい挨拶を交わしていた。
 そうして、ひときわ大きな波濤が間近で爆ぜた時。
 大岩の上からケルベロスたちを見下ろすように、ドリームイーターは現れた。そう、あたかもBGMは荘厳な、コーラス入りのものが聞こえてくるのではないかと思えた。
 身軽に大岩から岩場へと降りてくる夢喰いの長い銀髪が潮風になびく。抜き身の大刀が錆びないのかという突っ込みを心の中でした者もいたかもしれない。
(……あれ、この格好……容姿……なんかのゲームで見たような……)
 まあいいか、と思いつつフィオは余計なことに気を取られないよう集中を高める。
「貴様ごときが究極か、笑わせる」
 鼻で笑うと、黎鷲は自身の愛刀の鞘をするりと撫でた。
「……天胤剣を振るうまでもない。貴様は刀の錆にもさせん」
 その価値もない、と断じる。
「ここで消え去るがいい」
「……邪魔スル者ハ斬ル」
 思いの外いい声で不敵な笑みを浮かべた夢喰いに、メリーナ・バクラヴァ(ヒーローズアンドヒロインズ・e01634)が彼女らしからぬ厳しい顔をする。
「見せつけたい、試したい――その欲望は、必要です」
 人は見られて美しくなる。それは振る舞いだとか武道やスポーツなら基本の型だとか、そういうものだ。そうしてそれらは試して磨いていくもの。
「負の面のみこんな醜悪に抜き出すなんて意地悪です!」
「おにーさん、強そーじゃん。こっち、もう錆びてるから感染っちゃったらゴメン、ヨロシクねー」
 緩い言葉だが、ルーヒェンの気合いはその眼に見て取れた。
 一同の前に、す、と出たのは綾小路・鼓太郎(見習い神官・e03749)だ。
「――さて、剣の腕は刀剣士や妖剣士の皆様ほどに、という訳には参りませんが……」
 敵は斬って殺せれば、それで良し。
「綾小路・鼓太郎、参ります」
 睨み合いは長くは続かない。大波が高く弾けて、それが開戦の銅鑼になった。


 鼓太郎が腰に差した二振りの刀を抜いた。
「征くぞ、銅、虚蒼。――存分に斬り結ぶ!」
 姿勢を低く、力強く踏み込んでドリームイーターとの間合いを詰める。鋭い袈裟斬りは開かれたコートの肩を裂いたが、肌、肉を深く抉ることは出来なかった。
 鼓太郎に続いたのはフィオだった。鼓太郎が斬りかかった反対側から密かに詰め、ドリームイーターの右胸へ喰霊刀・灯喰い刀を突き立てようと繰り出す。その先端がコートを裂き肉を穿つ、かに思えた。
「……見エテイルゾ」
 後ろへと飛びすさりざま、夢喰いの長い太刀が、おのれの肉へ浅く穿った刀を鍔で弾く。
「なんでも極めることは素敵なことだと思います。誰にでもできることではありませんから」
 だが、それが人を害することに結びつくとなれば話は別だ。
「――だから、止めます」
 宣言した泉が日本刀・廻から繰り出すのは、矢の射るがごとく疾い達人の一撃。
「はあっ!」
「ッ、グ……」
 躱しそこねた一撃を左腕に食らったドリームイーターが片目を眇める。確たるダメージを与えられたのは明白だった。
「続くよ!」
 ガトリングガンを構えた蛍が後ろの岩へ下がった夢喰いへ銃口を向ける。
 が。
「……おわあッ?! あぶなッ!!」
 射線にいたのは龍牙で、彼は危ういところで銃弾たちを躱す。
「一発だけなら誤射かもしれない!」
 内心冷や汗をかいた蛍の断言に、龍牙は肩越しに振り返る。
「一回までは誤射じゃない、よな?」
 逆に、と言う龍牙にあらぬ方向を向いて蛍が視線を逸らす。
「服が黒っぽいし刀持ってるから見間違えたんだよ……」
「そんな雑な……」
「何やってるんですか、ふたりとも!」
 ハートウォーミング(?)なやりとりの間に、メリーナが岩場をひとつふたつ跳躍し、こちらも鋭い達人の一撃を食らわせる。その一撃をまともに受けたドリームイーターは後方に吹っ飛んだ、かと思うと激突しかけた岩へ横向きに着地、次いでケルベロスたちへと肉薄する。
 ドリームイーターが大きく刀を薙いだ先にいたのは、泉だった。
「っ、く……!」
 なんとか愛刀の鍔で受ける。鍔迫り合いかけたところをなんとかしのぎ、後方へ下がって安全を取った。
 後方で見ていた黎鷲が、己の喰霊刀『天胤剣【零式】』を抜き、構える。
「……力を解き放て。倒すべき敵はここにいるぞ」
 囁くように紡がれた言葉、指先から伝う己の血はあたかも呪のように天胤剣にまとわりつき、放たれた『何か』が仲間たちの武器に力を与える。『天胤励起』、黎鷲だけのグラビティだ。
「気を取り直して……ッ」
 ぐ、と踏み込んだ龍牙が刀を下段から上段へ斬り上げる。気合いの一撃はドリームイーターの腰を裂く。痛みにか顔を歪める様を見、心中でガッツポーズを作った。
 メリーナの後ろ、隙を窺っていたルーヒェンは、龍牙がドリームイーターに手傷を負わせた時に己の鉤爪を己の胸へと突き立てていた。
「――……”お食べ”」
 流れる血に染まったその手を、敵目がけて鋭く振り抜く!
「グアッ……?!」
 ぐらりとドリームイーターの体が傾ぐ。それを隙と見、泉が、そしてフィオが続いて月光斬を叩き込む。左右それぞれから三日月の軌跡を描いたグラビティは、敵の肉を斬ることに成功。
 そうしてケルベロスたちの頭上では、蛍のドローンが前衛の泉、フィオ、鼓太郎、メリーナ、そして彼女自身へとエンチャントを付与すべく飛び回っていた。
「小賢シイ……ッ」
 1ターン目よりよほど深いダメージを与えられているのは明らかだ。
 舌打ちした夢喰いが低く姿勢を構えた。
 来る。
 思った時にはもう間合いが詰められている。
「フィオさん!」
「っ、させない!」
 泉の声、だが誰より早く動いたのはメリーナだった。身軽なのも幸いしてか、夢喰いの動きに反射的に反応していた。
 大太刀とフィオの間に割って入ると庇い、身代わりに一閃を受けて背後の岸壁に叩き付けられるように吹っ飛ぶ。
 邪魔をしたことの報い、とどめを刺すとばかりにさらにメリーナを狙おうとする夢喰いに、横から鼓太郎が二刀流に構えた一閃を放った。
「させませんよ」
「…………ッ」
 凍り付くようなドリームイーターの睨みを正面から受けても、鼓太郎は少しも怯まない。そんなものに怯むような者は、この場にはいないのだ。
 その隙にと、黎鷲が魂うつしでメリーナの傷を癒やす。
「俺からもお返しだッ!」
 食らえ、と叩き込んだブレイズクラッシュ一瞬の間をおいてルーヒェンが夢喰いの肌を素手で引き裂く。
 連撃を食らったドリームイーターが膝をついた。


 数十分も経過したような錯覚があるが、実のところは数ターンしか経っていない。
 早く倒してしまいたい。8人の誰もがそう思っていた。
 そうしてくらりと一瞬眩んだ感覚に囚われた者がふたり。緩く頭を振り、戦闘中だと自分に言い聞かせる。
「メリーナさん、大丈夫ですか?」
 そっと声をかけてきたのは鼓太郎だった。足許が少しふらついたのが見えたらしい。
「もちろん、だいじょ、…………?」
 ふと視線を落とした先、足許の岩場の先にある海面。そう、海面のはずだ。
(……え……?!)
 目を疑う。じわりと海に赤が滲み、一面に広がって――それは。
(血……!?)
 ひ、と小さく悲鳴を上げたかもしれない。反射的に後ろへ飛びすさる。
「? メリーナさ、」
 訝しんだ鼓太郎もまた言葉を途切れさせる。
 目の前にいるのは、仲間たちと夢喰いのはずだ。それなのに、どうして。
「……あなたたち、は」
 鼓太郎に向かって歩いてくるのは、一見ただの人間、一般人だ。けれどよく見れば違うとわかる。彼らは――デウスエクスへと改造されている。鼓太郎は一歩二歩と後ずさった。
「嗚呼……駄目です、いけません」
 二度とあの悲劇を繰り返したくない。本当に殺さなければならなかったのか、なんて何度考えただろう。殺さなければ事件はいっそう発展していたはずだ、いやそれは逃げではないのか、いやあれは仕方なかった、いや本当はあの時に未熟だっただけで何か手立てがあったのではないか――。
 罪悪感が胸を潰し心を殺す前に、目の前の改造された者たちをすべて破壊しなければならない。
「殺さないと、……殺さなきゃ!」
「ふたりともしっかり!!」
 蛍のオラトリオヴェール、ルーヒェンの気力溜めが癒しの光を与えてくれる。その光はこの数ターンの間に夢喰いから受けていたバッドステータスもいくつか解除してくれた。
 暑くもないのに汗をかいたふたりが肩で息をし、大きく深呼吸する。どうやらトラウマの幻視からは脱したらしい。
「……助かりました。ありがとうございます」
「ありがとう、蛍ちゃん、ルーヒェンくん」
 どんなトラウマを見たのかは本人たちにしかわからないが、きっと真正面から見るのにはつらすぎる過去の傷の一部だったのだろう。
「贈ッテヤロウ、絶望ヲ」
 不敵に笑い長刀を突きつけてくる夢喰いに、フィオが長いコートの裾をはためかせ肉薄する。いつ動いたのか、誰にもわからなかった。
「――崩す!」
 しなやかにも見えるその動き。この夢喰いの動きはずっと見ていた。リズム、拍子は取れる。
 その確信があったからこそ、間隙に挟む一撃は無拍子になりえる。フィオのグラビティ『差し無拍子』は夢喰いが攻撃に移ろうとしていたその一拍を突き、崩した。
「ッ、ク……!」
「自信はありませんが――フタツメ」
 当たると痛いですよ?
 空気を断つ音が聞こえた気がした。すべての無駄を省いた、ただ斬るためだけのグラビティ『Genau und Geschwind zwei(セイカクニハヤクフタツメ)』。泉が放ったその技は、夢喰いを袈裟斬りにする。
 この戦いの最後の足音が、誰の耳にも聞こえていた。
 たたみかけようと、その支援のために黎鷲が『天胤励起』を行いさらにダメージアップの手助けを、きらめく一撃で夢喰いの動作をルーヒェンが妨害する。
「行くよ」
 仲間を好きにしてくれた代償、と翼の地獄を全身にまとわせるかのように輝かせ、一瞬だけ腰を落とすと夢喰いへと踏み込み、突撃する。
 そのきらめく軌跡は流星に似て、蒼き焔は誰の目も奪うかのように目映い『明けの明星』。
「ルシファードライブ!」
 高速の突撃による一撃はドリームイーターの肩を貫いた。そうして膝を地に着けた彼へ、更なる連撃が襲う。
「ながむ世にちる、花がちる。せめてその散り際は、鮮烈に……」
 赤に白に紫に黄色にオレンジに、色とりどりに咲く花々。それを鬱陶しそうに夢喰いが払おうとする。だが花は払われるどころか絡み、まとわりつき、その間に五感を攫っていくような錯覚をもたらした。
 そうして命の欠片たる花弁たちは見る間に凍り、かと思えば砕け、ドリームイーターを引き裂いていく。
 『華煉徒(カレント)』、凍てついたダメージを与えるグラビティ。
「……仕返しです」
 常の太陽のような笑みでなく、静かな、何かを含んだ笑みでダメージを受けた夢喰いを見る。
 もう終わりだ。誰もが理解した時、動いたのはふたつの影。
「斬り、断つ!」
「この一撃で、すべてを断つッ!」
 左右から大上段に構えた刀を小太郎が、龍牙が、ありったけの力を込めて振り下ろす!
「ガッ……ッ!」
 たしかな手応え。
 夢喰いの体が傾ぎ、がくりと上体から力が抜けたのがわかる。
「オノ、レ……」
 怨嗟に満ちた声。そうしてその言葉を最後に、岩場に倒れ込むより先、夢喰いの体は大気に溶けるように消えてしまった。


 戦いの名残、呼吸をととのえている間、胸に染みるようなブルースハープ。
「……金打もできませんでしたからね」
 するヒマもなかったが、せめてもの弔いの曲だ。
 その曲を最後に岩場からは去り、岩壁の上にいる剣術家のもとへと皆が急ぐ。
 剣術家はまだその場に倒れていた。メリーナが駆け寄り、助け起こすと、持参していた保温性の高い水筒から暖かい茶を淹れて剣術家に渡す。
 事情を手早く伝えれば、剣術家は恐縮しきった顔をしていたが。
「これに懲りず、何度でも試して、成果が出たら誰かに見せてあげてくださいね! それはあなた亜倫理を持って生きる限り、疑いなく尊い営みでーすよ♪」
 言い切り、にこっと笑ったメリーナの目が、今度は怪しく光る。
「……っていうか、ダイヤ斬れたらマジ私に見せてくださいね超見たいですからね!!?」
 早口でまくし立て、剣術家の肩を掴み揺さぶらんばかりの勢いを見かね、苦笑しつつ龍牙が剣術家へ話しかける。
「……俺と手合わせをしてもらえないだろうか?」
 ケルベロスと一般人とでは、多分に力の差が大きい。模擬戦でなくとも、型を合わせるだけでもいい。強くなりたいという気持ちは同じだから。
「不躾ながら、是非とも貴方の剣術を拝見させて頂きたく存じます。手合わせなど過ぎたことと仰いますならば、見取稽古だけでも叶いませんか」
 丁寧に剣術家へ伺いを立てる鼓太郎の熱意に打たれたか、剣術家はとうとう頷いて、三人揃っての稽古となる。
「こちらのほうで治して欲しい場所とかありますか?」
 蛍が剣術家に問いかけ、他のものもヒールに勤しみながら、守れた平和に安堵していた。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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