月夜に光る金の双眸

作者:霧柄頼道

 月の出ている夜だった。
 どうしてその神社へ入って行ったのか、理由は判然としない。何か身内がざわめくような、焦燥のような胸騒ぎを感じてはいたものの、鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)は正体を測りかねていた。
 静かな夜だ。目の前には無機質に立つ本殿。人もいず、動物も虫も鳴かず、風もなく。ただ耳に届くのは自身の呼吸音と、そして。
 ひた、ひたと。擦るような足音と、含むような笑いが、背後から不意に聞こえた。
「……見つけました」
 鈴の音の鳴るようなその声に橘花は息を呑み、振り向く。そうして再び、驚いた。鳥居をくぐり、いつしかそこに佇んでいたのは、自分とよく似た顔の少女。
 抜けるような白い肌を持ち、頭部の耳と尾、両足は狼のそれ。髪も体型も、先ほど呼び掛けられた声色まで、自分のものとそっくりで。
「あなた、は……」
 ぞわりとした怖気を感じる。少女が把持する長大な大鎌と、血糊が跳ねてまだら模様のようになった白装束と、流れ落ちる鮮血を想起させる赤い袴に気圧されたからか。
 あるいは、過去を呼び起こすかのような存在そのものにか。彼女――死神・橘姫御前は落ち着いた、けれども極上の獲物を前にした風に眼を細めて微笑む。
「お相手、願えますか……?」
 ひた、とまた一歩。大鎌から垂れ下がる金色の鎖が不吉な音色を奏でる。
 橘花もまた、身構えた。似ているが、違う。そこにいるのはただのデウスエクス。なのに胸中のうずきは嵐のように吹き荒れ、どうしようもなく強く湧き上がってくるものがある。
「そう……ですか。そういう事なら、逃げるわけにはいきませんね」
 だからそれを鎮めるように、静かに両目を閉じて。
「それなら――嫌というほど、相手したるわ」
 開かれた時には、はっきりとした怒気を孕む底冷えするような視線が放たれる。
 どちらともなく、くつくつとした笑い声。互いの瞳が、闇夜の中で艶やかに輝いていた。

「鞍馬・橘花さんが宿敵のデウスエクスに襲撃される事が予知されたっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、慌てたようにケルベロス達へ説明を始める。
「急いで連絡を取ろうとしたんですけど、出来なかったっす! もう一刻の猶予もないので、橘花さんが無事なうちに、急いで救援に向かって欲しいっす!」
 橘花がいるのはとある市内の神社。時刻は夜中で障害になるようなものはなく、またひと気もないので人払いをする必要はない。
 敵は一人。その名は死神・橘姫御前。物腰は柔和で言葉遣いも丁寧だが、妖艶な容姿の薄皮一枚の下には苛烈な残虐性が隠されているため、甘く見てはいけない。
 手にした大鎌と腰のベルトに挟んだナイフを操り、素早い攻勢を仕掛けて来るだろう。「ポジションはクラッシャーで、技も攻撃偏重型っす。大鎌と体術を組み合わせた攻撃は威力が高く、多くの標的めがけて投擲もするみたいっすね。ナイフを使った身軽な機動は、後列のメンバーにまで攻撃を届かせるので気をつけて欲しいっす」
 現場へはヘリオンで向かう事になるが、到着までには1~3分ほどかかる。その直後に戦闘開始となるので準備は万端に、とダンテは補足して。
「手強い相手っすけれども皆さんのお力で敵を撃破し、橘花さんを助けてあげて下さいっす!」


参加者
クリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
揚・藍月(青龍・e04638)
スミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
愛宕・幸(空気を読まない無貌のヒト・e29251)
二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)

■リプレイ


 月明かりの差す市内へと急行するヘリオン。目的地へ差し掛かると、そこから七名のケルベロス達が迷わず降下していた。
「宿縁邂逅ねぇ……こんな風に出現するとかちょっと意外だったけど、狙われてる人はちゃんと助けるよ!」
 着地したクレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)達は、通りを挟んで見える神社を見据え、走り出す。すでにデウスエクスは標的と相対し、戦闘が始まっているかも知れないのだ。
「はてさて、無茶をしてなきゃいいんだけどねぇ。因縁のある人は大抵熱くなりすぎますからなぁ」
 それなりの長さの階段を駆け上がりつつ、二階堂・たたら(あたらぬ占い師・e30168)はのほほんと漏らす。これは決して他人事ではない。こんな風に自重を求める自分達の中にも、同じような状況に陥れば平常心を失う恐れはあるのだから。
 とはいえ猶予はなくとも備えはある。襲撃場所の見取り図を頭に入れる事で最短ルートを通り、連絡も取れるようにしている。
 後はどれだけ急げるか、という段階で、奥の境内からは凄まじい剣戟音が響いてきていた。
「さあ、先ほどまでの威勢はどうしたのですか? 私をもっと楽しませて下さい」
 身の丈ほどもある大鎌を振り回し、せせら笑う死神、橘姫御前。そしてその猛攻を防ぐ鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)。
 互いに振るうデスサイズは大きさも重量もごく似通っているのだが、それらがかち合う度に敵は笑みを増し、こちらは表情を険しくする。ただでさえ手強い相手である、仲間の懸念通り心を乱し、怒りに呑まれては思うつぼと努めて冷静に応じているのだが、踊るような相手の斬撃はこれがどうして見切りにくい。
「いきなり現れたかと思えば、一体何を考えてるん?」
「ふふ……それを私が話すと思いますか?」
 とても情報を引き出せる状況になく、しかもこいつはとびきり性格が悪そうだ――とその時、死神が大鎌を地面に突き立て、棒高跳びの要領で真上を飛び越すように跳躍する。
 橘花も鎌の遠心力を利用しつつ半回転し、振り返りざまに獣化させた裏拳を放つも、読みが外れた。視野の中心に敵の姿はなく、下方からはぎらりと鈍く光るナイフのきらめきが吸い込まれるように迫り。
「やれやれ……血に飢えているね」
 刹那、両者の間へと素早く割り込んだ揚・藍月(青龍・e04638)が、その切っ先を腕ごと縛霊手で抑え込みながら、すんでのところで止めてみせる。
 間髪入れず、敵めがけて幾重にも連なった無数の蛇鎖が殺到した。
「間に合ったか……このまま戦わせるわけにはいかないな。援護をするよ……変身!」
 あらゆる死角から群れ寄る鎖は死神を捕えて速やかに引き離し、後方へぶん投げる。同時に駆けつけたライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)がベルトに鍵をかざし、フォームチェンジ。
 すぐに態勢を立て直し、余裕の微笑みを浮かべる橘姫御前。しかしこちらへ注目を引きつけつつも、背後から姿を隠し気配を殺し、ひそかに近づく者がいる。
「イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ! イヤーッ!」
 直後、木陰より飛び出したクリュティア・ドロウエント(シュヴァルツヴァルト・e02036)が雨あられと苦無を降り注がせる。とっさに大鎌を回転させて打ち落とす死神だが、奇襲はこれで終わったわけではない。
「おっと、お取込み中悪いね。邪魔するよ……!」
 さらに懐へと飛び込んでいたスミコ・メンドーサ(グラビティ兵器技術研究所・e09975)が、背を向けた瞬間を見計らって渾身の刺突を叩き込む。目を見開いた敵はよろめくように飛び退き、改めて戦線へ合流する二者を睨むも、どちらも涼しい顔。
「アンブッシュなどされるお主がウカツなのでござる」
 休ませる暇を与えまいとクレーエが斬りかかり、囮となっている間に負傷している橘花へボクスドラゴンの紅龍、たたら達がそれぞれ治癒にかかる。
「ご無事でしたかぃ? それなら結構、加勢するさね」
「礼は言っとくよ、ありがとな」
 肩をすくめ、小さく唇を歪めてそれだけ口にし、橘姫御前へと向き直る。敵もこれで全員が揃ったと見たのか、獰猛な輝きを双眸に宿し。
「それでは次はどなたが、お相手をして下さるのでしょうか」
 優しげながらも挑発的なセリフを投げかけた矢先である。突如として妙な音が上から聞こえ始めたのだ。
「まずは俺が相手をしよう」
 上方からの声に金の瞳が訝しげに上向くと同時、土煙を上げた何かが勢い任せに急降下突撃して来たのである。轟音が響き渡り土が飛び散り、爆心地にはささやかながら巨大なクレーターが形成された。
 何を隠そう、別段奇襲でもなんでもない、ただパイルバンカーで跳ね上がりミサイルの如く飛来して来ただけの、裸ネクタイの変態、愛宕・幸(空気を読まない無貌のヒト・e29251)である。
 当たろうが当たるまいが関係ないとばかり死神を吹っ飛ばし、悠々と上がって来るや何事もなかった風に仲間達の方へ歩いて行く。
「あっはっはぁ、あまり無茶はしないようにねぇ」
「なんたるワザマエでござるか!」
 派手な登場に湧き上がる仲間達。そこへ衣装が汚れ、髪も乱した橘姫御前がクレーターから這い上がってくる。
 もう笑ってはいなかった。


「ドーモ。初めまして橘姫御前=サン。クリュティア・ドロウエントにござる」
 だからどうしたとマイペースにアイサツするクリュティア。一拍置いて駆けだし、右腕に巻き付けたケルベロスチェインを伸ばして軽やかに跳ね、側方の木立へと身を潜める。
 その動きを追おうと目を向ける敵へ、ライゼルが肉薄。踏み込みながらのカオススラッシュを見舞い、すぐさま離れて反撃を警戒する。
「たった一人を助けるために、死にに来るなど……とても無様で、みじめですね」
「へへ! 三度の飯より厄介事が好きなたちでね!」
 大鎌を八の字に振り回す死神と併走しつつ、スミコが稲妻突きを繰り出す。これも深追いはせず、一撃入ったと見るなりただちに離脱。後続を仲間に託す。
「こんな神社で何を望んでいたのかな」
 藍月が橘姫御前と対峙し、静かに構えを取る。
「殺す事かそれとも祈りか……もっとも貴殿らが何かを祈るというのは……少し意外だがね」
 何方かというと、祈られる方ではないのか。――途端、雷を帯びて最高速にまで引き出された刺突が放たれた。月光を照り返して振り抜かれる大鎌に刃先を逸らされるも、したたかに敵の二の腕を削ってのける。
 お返しのように大鎌が投擲された。木々を斬り裂き地面をえぐる複雑な軌道。被害が大きくなる前に、クレーエらディフェンダーが味方を庇う。
(ワイルドハントの時もそうだけれど、一人になった時を狙ってくるのは卑怯だよなー……あーでも確実にこちらを倒そうとしてるなら当然かー……)
 気を抜けば防御姿勢を打ち砕かれそうな威力に苦笑しつつも、即座に守護星座を描き前衛の傷を癒していく。同じく庇いに出た紅龍も、自らのダメージはまだ軽微と見て他に治療の必要なメンバーへヒールをかけていた。
「攻めるのはいいけど、慎重にねぇ」
 たたらの描いた守護陣の恩恵と声を背に受けて、クラッシャー二人が奔る。左右より橘姫御前へ接近し、それぞれ攻撃を仕掛けるのだ。
「大地の歪みし力を我が拳に宿さん」
 左方から幸の拳が振りかぶられる。当たればその場で石化させてのける大地の呪拳は寸前で敵の大鎌に返され、刃の部分を叩くにとどまる――が、パンチの着弾した箇所からぴしりという音とともに、大鎌の中ほどまでが石へと変わっていくではないか。
「さあ、終わりにしましょう。進むべき明日の為に」
 逆側からは橘花の掌底が放たれる。岩をも砕き灰燼へと帰すその一撃に対応するのは片手に握られたナイフ。水平に傾いた白刃に矛先を流され、のみならずこちらの首を刈り取ろうと突き入れられるそれを、上半身ごとのけぞりながらデスサイズを振るって相殺。
「惜しい、もう少しで鮮やかな血が見られましたのに」
「そう簡単に死んではやらへんよ……それに」
 と、目線をあらぬ方へ逸らして敵の意識を引きつけた瞬間、背後にある茂みががさりとうごめく。
「怒りのサンダーを喰らうでござる!」
 橘姫御前が息を呑み、振り返るももう遅い。胸を揺らして疾走しながら鎖を伸ばして反対側の木の枝へ飛び移り、瞬く間に頭上を取ったクリュティア。
 怒りを込めて打ち込まれた雷撃が背中を捉え、激しく打ちのめしたのだ。
「容赦はできない、追い打ちをかけるよ」
 衝撃が収まらない相手に、ライゼルが夜陰を貫く炎弾を射出する。しかしふらつきながらも橘姫御前は大鎌を盾に直撃を逃れ、肉の焼ける匂いを漂わせながらも俊敏に走り続ける。
「幸さん、無理しないで回復するよ……と、長期戦は避けられそうにないかな」
 叩き斬られる仲間にはクレーエの迅速かつ的確なサキュバスミストが間に合うが、同様に相手もドレインによって傷が塞がっている。見た所注意すべきはやはり大鎌。ダメージが積み重なり手の施しようがなくなる前にペースを握らねばならない。
 そのためには、とスミコが再び橘姫御前へ切迫。動作が終わる間際を狙い、後背よりの痛烈な槍撃。
「……夜闇に紛れての強襲ですか。浅はかですね」
「悪いね、正面から真っ向勝負とか、そういうキャラじゃないんだ」
 髪の上すれすれを横切る大鎌を宙返りで避け、間合いの外へ逃げる。
 入れ替わりに駆け込んだ藍月がスミコを背へ庇いつつ、敵の傷口めがけて刃を振り下ろし、紅の飛沫を吹き出させるとともに斬り広げた。
 橘姫御前の瞳が橘花へ注がれる。と、ステップを踏みながら目にも止まらぬ速さで迫って来た。
 ほとんど相打ちの要領で大振りに斬りつけあい、続けざまの追撃は割って入った紅龍がブレスを吐いて弾き返すが、敵はなおも執拗にまとわりついてくる。
 絶体絶命のその時、パイルバンカー二本という重武装の裸ネクタイ、幸が雄叫びを上げてきりもみ回転しながら突貫。ぎょっとしたように牽制する橘姫御前にぶった斬られつつも無理矢理引きはがして見せたのだ。
「ははぁ、まったく忠告が届いているのかいないのやら……ともあれ倒れないよう支えるだけですかねぇ」
 何かと引っかき回してくれる変態ネクタイの肉体にグラフィティを描き込むたたら。そのデザインはより変態性を引き立たせる結果になったが、まあいいだろう。
 一方の橘姫御前も大鎌を持ち直し、距離を測っていた。機を窺っているのだろうが口角はつり上がり、抑えきれない猟奇性が表出し始めている。互いに削り合うこの状況を心底楽しんでいる風で、ケルベロス達も負けじと、一層戦いは激化していくのだった。


「なんのまだまだ――させぬでござる!」
 もう幾度目か、返り血にまみれた赤い大鎌が風を切って飛んでくる。対してクリュティアが本殿の屋根から逆さの体勢で舞い降り、斜め上から大量の苦無を投げまくって軌道を変えさせた。
「好機と見るか……行こう紅龍」
 藍月が駆ける。ここまで攻勢を受け続け、身体は鈍い。だが終わりは必ず見えて来るはずだ。紅龍に仲間の護衛を任せ、縛霊撃を押し込み敵を封じ込めにかかった。
(一人で戦おうとしてるとき、駆けつけてくれた仲間は頼もしかったよなぁ……今度は僕が誰かを助ける番だから頑張らなきゃ)
 仲間達の勇姿を見守りながら、クレーエは役目を果たすべくスターサンクチュアリを懸命に描き続け、癒しの力をもたらしていた。
「命中率……悪くはない。そろそろ近づいて一撃入れるか?」
 オーバーロードをブンブン回し、具合を確かめるライゼル。言うが早いか疾駆して、側面から勢いをつけて躍りかかり、炎を纏わせた鎖の巨剣を叩き潰すように打ち下ろす。
 境内中に響く金属音。そして火花が散った。敵もさるもの、寸時に大鎌にて防ぎ止めたのだ。ライゼルも今度は退かず、満身込めて大剣を押し込み――ついに敵を吹き飛ばし、片膝を突かせた。
「いよいよ大詰めみたいですなぁ、ここはあなたにお任せしますよ?」
 たたらが高速で描き込んだゴッドグラフィティを受け、猛然と突っ込む橘花。しかし橘姫御前も血化粧の施された壮絶な表情で見返し、大鎌を振りかざして待ち受けた。
 が、タイマンの空気をぶち壊すようにまたしてもパイルバンカーの急降下爆撃をかましていく幸。境内に二つ目のクレーターを作り出しながら土煙を巻き上げ、敵の視界を奪う。
「くっ……一体どこに」
 あたりを見回す橘姫御前だが、その間合いには中空で身を丸め、回転するクリュティアが飛び込んでいた。着地するや否や逆手に握り込んだ緋桜一文字を一閃。胴体から肩にかけて斬撃を叩き込む。
 そしてチャンスを逃さずスミコが手榴弾を投げ込み、絶対零度の爆発を引き起こさせて時間を稼ぎ、粉塵の中を振り返った。
「最後は君がケリをつけちゃってよ!」
「おヌシの悪行もここまででござるな……橘花殿、カイシャク! でござる」
「これだけお膳立てされたら、決めない事には格好がつかんやね」
 面を振り上げた橘姫御前の目に映ったのは、三日月のように輝くデスサイズを背負う橘花。銀の刃が軌跡を残して彼女を通過し、背後へと降り立つ。
 数瞬の沈黙。橘姫御前が首もとへ手を置くと、鮮血がとめどなくあふれだしてくる。
 くすりと、わずかな笑声が鳴った。
「……お見事です。中々に、楽しめましたよ」
 それが最後。ゆっくりと仰向けに倒れ伏す死神の姿は、すでに消え去っていた。

「橘花どの、無事で何よりでござる」
「みなさんもお疲れですなぁ。色々とタイムリミットのある戦いでしたからねぇ」
 静寂の戻った境内で、クリュティア達は奮闘をねぎらい、傷の深い仲間(主に幸)に応急処置をしたり、荒れてしまった神社を修復したりと後始末に動いていた。
「無事に帰れます、ありがとう」
 作業も一段落したクレーエは作法通りに神社へお参りする。やむをえない事情とはいえ、これだけ騒いでしまった事を奉られている神様に謝罪と、お礼を言うためだった。
 この静けさは考え事にも適している。戦闘の熱を冷ますように、ライゼルは仲間の様子を見ながら思案していた。
「星外任務で出払っている間に色んな奴らが動き出そうとしている気がする……」
 たとえば今回のデウスエクスは一人で何を企んでいたのか。何かの前兆と捉えるのが自然だろう。
 あるいは、もっと個人的な事。藍月は紅龍を伴い、月を見上げて思いを巡らせていた。
「因縁……か。ケルベロスとデウスエクス……その宿縁こそがケルベロスを生む要因にもなっているかもしれないね」
 そうなれば、自身もまた、そういう事があるのだろうか。ちらりと視線をやれば、一つの因縁に片をつけた橘花は佇み、物思いにふけっている。
 月は薄い雲に隠れ、されども見えなくなるわけでもなく、かすかな光を差し続けていた。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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