決戦クロエディーヴァ~絢爛舞踊

作者:久澄零太

「どうして皆分かってくれないんだ……」
 とある男子中学生は人気のない公園で、ブランコを揺らす。
「オーケストラは凄くカッコいいのに、授業みたいとか古臭いとか……」
 はぁ。ため息をついた少年の肩を、柔らかな物がポムン。振り返ると、ハチドリみたいなバケモンがいた。
「うわぁ!?」
「まぁ待ちたまえ」
 逃げ出そうとする少年だが、デウスエクスに押さえられてブランコに座らざるを得ず、ジッと目を合わせられる。
「オーケストラは良いものだ……しかし、それは何故か広まっていない。これは人々にとって、大変な過ちだ」
 ストンと、その言葉は少年の胸に落ちた。この異形には、自分の想いが伝わっているのだとさえ思えてくる。
「悲しい事に、それに気づける人は少ない……でも、君は気づいた。君はね、多くの人にこの真実を伝える事で、たくさんの人を救う事が出来るんだよ」
「僕が、皆を……」
 彼は気づかない。異形の瞳に映る自分の姿が、鳥の化物になっていることに。
「さぁ、行くんだ。最高の音楽を広めるために……!」
「行ってきます……オーケストラ最高!!」
 新たなビルシャナを見送り、異形は……クロエディーヴァは嬉しそうに微笑む。
「ふふー、これでまた一歩、音楽による救済が近づいちゃった♪」

「皆、集まったね?」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある公園を示した。
「上里・もも(遍く照らせ・e08616)さんの調査のおかげで、クロエディーヴァの動きを予知できたの。今回は誰かがビルシャナにされる前に、クロエディーヴァ本人と直接対決できるよ!」
 ユラリ、四夜・凶(生きてる暖房器具・en0169)が得物に触れる。
「裏を返せば、非常に危険な相手との戦闘になります。心して挑んでください」
 目が据わっていた彼の様子に、番犬達は察する。彼は捨て駒なのだ。いや、下手をすれば彼だけではなく、部隊の面子ですら犠牲にしなくてはならないかもしれない。改めて覚悟し直した番犬達へ、ユキは語り始める。
「この公園で、オーケストラの良さが友達に認めてもらえない男の子がビルシャナにされるの。皆はそのちょっと前に現場に踏み込めるんだけど、クロエディーヴァは皆の姿を見たら逃げ出しちゃうから、逃げられないようにする工夫が必要になるからね!」
 今回は布教するビルシャナではなく、そのビルシャナを生んでいた元の方を相手にする為、少々勝手が違うようだ。
「クロエディーヴァは音楽と舞踊で皆を救済しようとしてたっていう事もあって、グラビティもダンスで構成されてるよ。その関係で攻撃は全部全体攻撃になるから気を付けて。しかも、威力が分散する普通の範囲攻撃と違って、クロエディーヴァの攻撃はダンス、つまりたくさんの人に見られる事を元々の目的にしてるから、対象が増えても減衰しないの」
 数に任せて有利に立ち回る、という事は難しそうだ。仲間との連携、部隊の布陣、更にはヒールの使い分けも考えておいた方がいいかもしれない。
「今回の依頼は成功すれば、ビルシャナの勢力の一つを止める事になる大切な案件なの。でも、皆が帰ってこないんじゃ意味ないんだからね? ……おかえりって、言わせてくれるよね……?」
 少女はじっと、番犬達の目を見つめていた。


参加者
クーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
レスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)
猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)
ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)
雪城・バニラ(氷絶華・e33425)
ライガ・アムール(虎さん・e37051)

■リプレイ


「うわぁ!?」
 夜の公園に少年の声が響き、ブランコに座らされた少年の目を覗き込むクロエディーヴァ。今まさに、新たなビルシャナが降臨しようとしていた。
「その勧誘……ちょっと待った……」
 フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)が土色のシートを翻し、花壇から姿を見せる。突然の出現にクロエディーヴァが動きを止めた隙に上里・もも(遍く照らせ・e08616)が飛び出し大声を上げた。
「早く逃げて!!」
 しかし、少年は虚空を見つめて動かない。咄嗟に少年に翼を伸ばすクロエディーヴァの足元に一発の魔弾が撃ち込まれ、凍てつき、氷の結晶が育つ。
「うわわ!?」
「異形化は防げても、洗脳は間に合わなかったみたいね……」
 少年から彩鳥が離れるのを横目に、雪城・バニラ(氷絶華・e33425)は小さくため息をこぼした。
「火珠!」
 猫夜敷・愛楽礼(白いブラックドッグ・e31454)に応えた騎乗機は少年にスピンして車体をぶつけると、その背に受け止め走り去り、戦線を離脱していく。
「これで懸念はなくなりました、行きます!」
 愛楽礼が歌い、奏でるそれは賢明に生きる獣の歌。時に賢く、時に狡猾な二面性を持つその言葉は聴く者に活路を見出す目を与える。
「支援します……しっかり当ててください」
 加護を受け取ったクーデリカ・ベルレイム(白炎に彩られし小花・e02310)は刀に纏わせた白炎を後衛に向けて放つ。それは元々、家族の仇を忘れないために、あえて仇の魔法を再現したモノ。彼女の覚悟とも言えるそれは、敵を焼き殺さんとする意思となり、番犬達の重力鎖を活性化させる。
「葉っさん……お願い……」
 フローライトが地面に青い長剣を突き立てると、右肩の葉牡丹は腕を、刃を伝い地面に潜っていく。やがて地響きと共に飛び出したそれは葉牡丹の花のような葉と攻性植物の蔓でできた防護壁。戦場に散在した壁が前衛を守るように立ち並ぶ。
「一気に仕留めるよ!」
 躍り出たライガ・アムール(虎さん・e37051)は物陰を伝い、クロエディーヴァの背後から足払いをかけようとするが、彩鳥は軽やかに避けてライガの背を見ながら小刻みにステップを刻む。
「愚かな……その程度では私には届かない!」
 タッタン!手拍子のフィニッシュと同時に凶がライガの前に割って入り、舞踊により引き起こされた事象、迫りくる業火から彼女を庇うと、肩越しにライガを睨みつけた。
「考えなしに戦場に立つんじゃねぇ……フォローしきれねぇぞ……!」
「あの動き……やっぱり当てるのは難しそう」
 ティリア・シェラフィールド(木漏れ日の風音・e33397)は真紅の大鎌を振るい、斬撃をレスター・ストレイン(デッドエンドスナイパー・e28723)へ飛ばす。握り込むように受け止めたレスターの手の中にあったのは、一発の弾丸。
「当てられる気がしないの……私の分まで託すね!」
「あぁ、任された……!」
 受け取った『斬撃』を握りしめ、レスターが放つ弾丸は空間を駆ける。音速とはいえ、直線的に進む事しかできない弾丸をクロエディーヴァは躱したが、弾丸は葉っさんの防壁に当たって甲高い音と共に跳ね返り、背後から彩鳥の肉体を穿つと瞬く間に燃え盛る。
「あつーい!?」
 彩鳥は柔軟性を見せつけるように、ゆったりと踊り始めた。細胞が修復され、弾丸を吐き出した皮膚は元通りに再生し、羽毛がより艶やかにその身を覆う。
「むぅ……長引きそう……葉っさん、壁を……」
 葉牡丹の壁をで後衛を隠すようにしながら、フローライトは小さく唸るのだった。


「守護魔法陣、展開、防げ!」
 クーデリカはフローライトの防壁に白炎を纏わせて、更に守りを強固にしながら歯噛みする。
「攻撃が届かないなんて……!」
 現状で当てられるのはレスターだけだが、その狙撃手は敵を足止めできる弾丸を持ち合わせていない。他の番犬は敵の動きを鈍らせることはできるが、正確性に欠けている。
 しかし、早まってはいけない。ここで狙の加護を優先して部隊が瓦解しようものなら、目も当てられなくなる。故に、追い詰められながらもクーデリカはあえて防御を固めていく。いつか来る、その時の為に。
「これならどうだ!」
 ライガは両手の腕甲に黄金の闘気を纏わせ、壁から壁へ飛び移る様に、空間を駆けまわり死角から爪を振るうも、クロエディーヴァは背部にも目があるかのように躱して見せ、円を描く様なステップを踏んだ。
「愚か、実に愚か!とにかく愚か!!」
 複雑なリズムと単調な言葉と共に、周囲を圧殺するような重圧が襲い来る。単に押し潰すそれではなく、まるで大気が質量を増し、番犬を締め上げるような……。
「かは……っ!」
「だから考えなしに突っ込むなっつったろ……!」
 肺の中身を吐き出してライガは意識を失い、彼女を庇ってきた凶もまた膝を着く。
「ティリアさん……」
「大丈夫……!」
 バニラを庇い、二倍の圧を受け止めるティリアの体は悲鳴を上げ、骨が軋み肉が潰れる音が微かに響いてくる。口の端から血をこぼす彼女は重圧から解き放たれた後も、動けずにいた。
「力が……入ら……ない……?」
「それが音楽の力だ」
 クロエディーヴァは番犬達に背を向け、優雅に歩き始める。
「聞く者見る者をその魅力で引きつけて、他の事は何一つ気にならなくなる。嫌なことも辛いことも全部忘れて、また新しい一歩を踏み出せる!音楽は人々を救済できるんだ」
 クルリ、振り返った異形はゆっくりと下がっていく。
「だからこそ、私はここでは終われない。音楽を広め、人々を救済するために……!」
「逃がすと思うなよ!スサノオ!」
 ももの声に吼えた白焔の霊犬は彩鳥へ火炎の砲弾を吐きつけるが、それは容易く躱されて。
「では、さようなら」
「待て……!」
「逃がしません……」
 ティリアをバニラが支え、二人の周囲を黒炎と白氷が舞い始めた、その時。
「逃がしやせんでよ、ウラー!」
「えぇ!?」
 物陰から飛び出した物九郎の跳び蹴りをすんでの所で避けたクロエディーヴァの顔に浮かぶのは、焦燥。
「不肖俺めが……いんや、俺め『達』が助太刀いたしやす!」
「思ったより大事になってたね」
「それだけ危険な事件だという事だろう」
 空を舞うは黄金と青の竜。ガロンドの携えた偽箱の放つ死霊の群れと、晟の放つ蒼炎の竜息が彩鳥の視界を塗りつぶし、後方へ跳んだ瞬間、一条の光が二つの天幕を引き裂いて胸を穿つ。
「逃さないわよ!ハンティングは得意中の得意なんだから!」
 シィは銃に見立てた自分の手に、硝煙を吹き消すように息を吹きかけてウィンク。
「なんで……こんなに……」
『止まれ』
「!?」
 狼狽えるクロエディーヴァに、凛の言葉の重圧がのしかかる。竜人の持つ独特の威圧感を乗せた言の葉は、質量を持つかのようにその歩みを止めさせた。
「助太刀参上!」
 前衛にわかなが割り込み、振り返って凶をじとー。
「お役目とはいえ、凶お母さんは無茶し過ぎじゃなぁい?」
「だから母ではないと!」
「捨て駒いってる奴の言う事なんか聞いてられねーんだと」
 陸也がわかなと並び、札を天に投げれば、雨霰と降り注ぐ飴が前衛の傷を癒す。
「どんな劇にも幕は降りる物。これがキミの幕引きって事だね」
「エンディングに向かう準備はいいかしら?」
「せっかくの大物だ。逃がすわけにはいかないんだよ!」
 アンセルムの抱いた人形から魔力が解き放たれ、光の盾となり前衛の番犬達の前に広がっていく。一方カレンの魔導機は蒸気を噴き、白霧の中に後衛を飲み込んでその姿を隠して、雄太の分身が番犬達に応急手当を施して部隊の傷を塞いでしまった。


「なんでこんなに!?」
 二部隊はあろうかという新たな番犬達を前にクロエディーヴァは慌てふためき、小刻みなステップと共に爆炎をまき散らした。業火を前に身構える凶がティリアを庇おうとするのだが。
「怪我人は引っ込んでるっす」
「自分達も援護します!」
 佐久弥によって強引に下げられ、凶の代わりにユウマがカバー。前衛への被害を引き受けて、真っ黒に焦げた佐久弥が首を振る。
「俺らは危ないからって、仲間をほっとけるほど単純じゃないっすよ」
「今ここで、皆で勝利を掴むんです!」
 ユウマが大剣を振るい、九連の刺突を叩きこむも全て避けて見せるクロエディーヴァに、奥歯を噛む。
「やはり当たりませんね……!」
「いや、上出来だ」
 回避直後の隙であるにも関わらず、泰地の回し蹴りを回避する異形……だが。
「散々躱されて、動きを見切ってねぇわけねぇだろ!」
 空振った脚の力をそのままに、全身を捻って回転。脚を切り替え逆の脚で、下段回し蹴りを叩きこみ彩鳥をひっくり返した。着地までの数秒、上下反転した世界の中、彩鳥が見たのは三日月のような口と、目元に朱を差した灰の瞳を持つ戦闘狂……紫音。
「さて、この戦場を踊り明かそうか!」
 名もなき刃は左右から食らいつき、蹴り飛ばされた彩鳥は番犬達の中心に転がされる姿は、極刑を待つ罪人のよう。
「よし、そろそろ幕を降ろしてやろうじゃないか!」
「ゔっ!?」
 割と派手に背中を叩かれたレスターが呻きつつ、妙に視界が冴える感覚に目を白黒させていると、弥奈はケラケラと笑う。
「このまま押し切っちゃおう!」
 支援に来た番犬達へ、ももは拳を突き上げた。
「手伝いに来てくれてありがとう!お礼に見せてやるぜ。もちろんみんなも参加するんだよ?さあショータイムだ!」
 息を吸い込み、歌おうとした時だ。周囲を沈黙の帳が包む。
「……あ、あれ?」
 声が、より正確には歌が出ない。動揺を隠せないももを、スサノオが心配そうに見上げている。ふと、耳をつく旋律があった。それは……。
「まさか、私と音楽で勝負するつもりだった?」
 小鳥の囀りのような、猛禽類の雄叫びのような、クロエディーヴァの歌声だった。


「他の音楽を否定するみたいで、あまりやりたくないんだよね……」
 もはや素の少女のような自分を隠そうともしないクロエディーヴァ。歌うのをやめた今でも、ももが歌おうとすると彩鳥と同じ歌になってしまい、力が振るえずにいた。
「あ、愛楽礼さん、歌える……?」
 ももの縋るような目に、もう一人の旋律闘士は首を横に振った。
「それじゃ、さようなら」
 先ほどとは違う意味と共に彩鳥は踊り、業火が舞う。
「あ……」
「……っ!」
 反応が遅れた二人目がけて、燃え盛る炎が覆いかぶさろうとして……黒衣が翻る。
「凶さん……?」
「火珠!?」
 凶が炎を一身に受けて崩れ落ち、一瞬遅れた隙に火珠が二人をかっさらい、射線から離脱するも逃げきれず、騎乗機は二人を遠くに放り投げ、自身は炎に飲まれて消えた。
「二人とも大丈夫!?」
「ここは私達に任せて……」
 ティリアとバニラが二人を庇うように立ち塞がり、支援部隊の介入により放たれることのなかった、練りに練った重力鎖で狙いを定める。当たりさえすれば、この戦局をひっくり返せるだろう。しかし、彩鳥の舞により受けた傷で力が入りにくい今、放つ瞬間に脱力しようものなら、それは一撃を決め損ねるだけにとどまらず、大きな隙を見せる事になってしまう。それ故に、いつでも放てる状態を維持して牽制しようとするが。
「形成逆転っていうんだっけ?」
 彩鳥は舞い踊る。周囲の空間ごと番犬達を握り潰すように、ステップと共に重圧をまき散らしながら。嘲笑うようにクルクルと踊り、動けないと分かっていて番犬達と額を突き合わせ、その苦悶の表情を眺めてそっと離れていく。
「さぁ、フィナーレだ……よ?」
 ふと、宙を舞うアンプルに彩鳥の意識が奪われ、その瞬間にフローライトが踏み込んだ。
「顎がお留守……」
 後方へ宙返りしながら、遠心力を乗せて加速させた爪先でクロエディーヴァの顎を打ち上げて、頭上のアンプルに叩き付けて小瓶を割り、その内部の液体を頭から被らせれば、肉が溶ける腐臭と耳をつんざく金切声が大気を揺らす。
「その傷にこれは効きますよ?」
 耳に走る激痛に顔をしかめながら、クーデリカは肉薄し刀を突き立てる。刀剣の扱いに慣れていない彼女ではただ突き刺すので精一杯だが、そこに魔法が絡むのなら話は別だ。
「燃えてください」
 途端、刃に纏わせていた白炎がクロエディーヴァの体を包み込み、その全身を真っ白に染め上げるほどに燃え盛る。異形の身を焼く炎はその傷口を焼き、水分を失った皮膚は縮こまり傷口を拡張させた。
「後は、攻撃さえ確実なら……」
 不安定に震える自分の手を見つめるティリアに、ももが嗚咽を漏らす。
「ごめんなさい……私がちゃんと歌えてたら……!」
「上里さん……」
 歌声を失くした愛楽礼が、旋律を失ったももに寄り添う。
「せめて、曲を思い出せれば……」
「……何か来るわよ」
 バニラが聞いたのはエンジンの駆動音、木をなぎ倒す轟音、急制動でタイヤを横滑りさせながら番犬達の背後で止まるトラックの重音。荷台を開いたそこには、音響装置が並んでいた。
「間に合ってよかったお……」
「マチャヒコさん!?」
 窓から顔を覗かせた正彦のトンデモ参戦にももの涙も引っ込んでしまう。
「嫌な予感がしてこれを取りに行ってて遅刻した正彦です。ミュージックスタートですお!」
 音響装置から流れ出すそれは、ももと愛楽礼の曲。グラビティに昇華した歌の伴奏が、周囲の音を飲み込む程の大音量で響き渡る。
「ももちゃん、愛楽礼たん。今だ!あっちが歌を支配するなら、こっちはそれを塗り替えるくらいの大声で歌えばいいんだお!!」
「あれ……曲が分かる、歌える!」
 立ち上がるももと愛楽礼は視線を重ねて、頷いた。
『いつも一人で漂って ふらりとどこかへ歩いたら ご飯を持ってごきげんに 不思議? 気になる? いいよ、君なら ほらついてきて』
『今日は二人さまよって ふらふら寄り道 君の秘密どこにある? 見つけた! すごい! ありがとう 連れて来て、くれて』
 二人が歌い出せば、戒めを解かれたようにティリアとバニラが動き出す。
「炎の螺旋よ、敵を焼き尽くせー!」
「私の闇の一撃から、避けられるかしら?」
 三つの黒い竜巻が異形を焼き、竜巻に紛れた魔弾が撃ち込まれて業火の中だというのに氷結晶を生む。自ら竜巻に突っ込んだティリアは黒炎を脚に纏い、暴風を圧縮した脚甲を以て彩鳥を蹴りつければその全身を業火が包み、バニラが槍を突き立てれば傷口が凍結して先に生まれた氷結晶も成長して取り込もうとしているのに、燃え盛る業火は更なる燃料を求めるように逆巻き、黒炎の災厄へと変貌してしまう。
「随分硬そうな羽毛だけど……諸共貫いてあげるわ」
「あっちは歌のデュエットだけど、私達のデュオだって負けてないんだからね!」
 振るわれる氷槍は触れれば凍結する絶対零度。対して脚甲は業火の竜巻そのもの。黒炎ごと凍てつくクロエディーヴァを、ティリアの蹴脚が熱波と共に氷ごと吹き飛ばした。
『知らない事は 知りたいし 見たことないなんて 嫌だ 僕はまだまだ 帰らないよ』
『ついていくよ どこまでも 一緒に行かせて いいよね? 私もまだ 帰りたくない』
「私は……音楽で救済を……」
「音楽による救済は断じて強制されるものじゃない」
 愛楽礼とももの歌を聞きながら、今だ逃走を諦めていないクロエディーヴァへ、レスターは声を荒げた。
「音楽を愛する心は……そんな狭量なものじゃない!」
「君に何が分かるのさ!?」
 その瞳に怒りと、わずかに悲しみを浮かべて、彩鳥は立ち上がる。逃げる事をやめて、狙撃手の目を見据えた。
「音楽は万人共通の娯楽で、人々を救済できるはずなんだ。なのに、人種と思想とか、色んなモノに振り回されて……!だから私は、唯一にして最高の音楽を求めるよ。それが、世界を救うはずだもん……!」
 目の端に涙を溜めた異形へ、レスターは首を左右に振る。
「音楽はもっと自由で豊穣なもの。狭義な教義は興ざめだ」
 カチリ、銃に緋色の弾丸を込めた。
「お前のダンスは見事だ。道さえ違えば、大衆を魅了し喝采を浴びていたかもしれない。それこそ、誰も彼もが心を一つにするような……少し哀れだ」
 銃口を向けて、シニカルに笑う。
『『ドアを開けて 出かけよう 『知ってる』の その先へ 不安なんて置いていこう  どこまでも行けるさ 二人一緒なら』』
「この曲にはちょっと合わないが、これが俺の銃弾乱舞【バレット・ダンス】だ!このキレと速度についてこれるかな?」
 重なる歌声に苦笑しながら、ドリームキャッチャーを提げた愛銃に地獄を纏わせ、体を這わせるように回転させながら遠心力を高めて脳天に叩きこみ、下がる頭を蹴り上げて、至近距離で引き金を引けば異形は翼で弾丸を受け止めた。しかし弾丸は……ティリアから預かった一撃は、無数の大鎌に姿を変えて硬化した羽毛を貫通し、その加護を斬り捨てる。
 よろめく異形に零距離で連射、一撃毎に全身の傷口から血を噴き出し、数歩後ずさる彩鳥を蹴り飛ばしながら、回し蹴りの最中にある弾丸を装填。磔刑のように木に叩き付けた異形の顎に銃口を突きつけて、その銃身に口づけを落とす。右腕の鎖の刺青が弾けて淡い輝きを放ち、左手に隠された刺青が呼応する。
 かつての始末屋としての自分と、今の番犬としての自分。その両面から、捧げる。
「Rest in peace」
 一発の銃声が夜の町に響き、極彩色の蝶が夜空に消えた。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月14日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 20/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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