其れ即ち破断の一手

作者:六堂ぱるな

●徒手空拳の極み
 人も寄りつかぬ古寺で、伴・秀人はひたすらに修行に励んでいた。ひたすらにシンプルな技と型を繰り返すこと、それが強さへの確実な道だからだ。
 そこへふらりと現れた者が放った一言が、彼の精神を揺るがせた。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その言葉に逆らえず、彼は鍛え続けた貫手で挑みかかる。
 速く。鋭く。重く。――なのに。
「ほら、他にもあるだろ。もっと、もっと!」
「せい!」
 呼吸が乱れる。体の乱れは心の乱れになる。
 焦燥はものの数分で胸の裡を焼き、荒れた歩調は雪を蹴散らしていた。自慢の貫手は確かに相手に命中しているのに、技が通じている実感がまるでない。
 彼の全ての技をひとつ残らず受け続けた相手――幻武極は最後に喉を狙った一本貫手を受け、事もなげに笑ってみせた。
「うん。まあ僕のモザイクは晴れなかったけど、これはこれで素晴らしかったよ」
 茫然とする彼の胸を無造作に鍵で貫く。
 それきり、彼の意識はぷつりと途切れた。

 昏倒した無精髭の男の傍らに、彼によく似た男が立っている。無駄のない締まった身体と、より武器としての力を増した両手の指。貫手を極めんとしていた男のいわば理想だ。確かめるように繰り出す四本貫手は空を穿ち、二本貫手は空を震わせる。
「よし、お前の最高の武術を見せてやりな」
「承知した」
 己の技に満足したように頷いて、男は寺の境内を出ていった。
 さびれた田舎道の先、人々が住まう街なかを目指し。

●禁手の使い手
 慌てた黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が呼んできたのは、この事態を予測していたケルベロスの一人。ベヤル・グリナート(自己犠牲マン・e44312)は困った顔になった。
「本当に現れちゃったんだね」
「慧眼っすよ。おかげでヤツが被害を出す前に止められるんっすから!」
 今回も原因となっているのは幻武極だ。被害者でモザイクが晴れることはなかったが、代わりに彼の技を昇華した技術を持つ武術家のドリームイーターを生みだした。お腹がすいていそうなベヤルの為にカップ麺にお湯を入れつつ、ダンテの説明に力がこもる。
「古寺は郊外にあるんすが、田舎道を30分も歩けば町っす。その間に迎撃できれば周囲を巻き込まずに済むんで、よろしくお願いするっすよ!」

 被害者の伴・秀人は貫手を得意とする格闘家だ。結果、彼の理想を形どったドリームイーターは三種の貫手を駆使し、鳩尾を突いての麻痺、喉を狙った催眠状態、それに肋骨の間を抜いて攻撃力を減殺するなどの技がある。しかもクラッシャー。
「貫手……それは攻撃力が凄そうだね」
 カップ麺の出来上がりを待ちながらのベヤルの問いに、ダンテがこっくり首肯した。
「自負もあるっすから、かかってこい! な挑発には簡単に乗ると思うんすよ」
 昼すぎで照明が要らないのもいい。この寒空で、彼が倒されるまで被害者の意識が戻らないのだけが懸念である。
「皆さんでサクっと倒しちゃって下さいっす!」
「そうだね……攻撃はボクが全部受けとめるよ」
「一人で全部はダメっすよ危ないっすから?!」
 割り箸を割りながら頷くベヤルに、ヘリオンの支度をするダンテが反射でツッコんだ。
 いずれにせよ武を競い、上回らなければ止められない。
 ならば撃破するまでだ。


参加者
幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)
御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)
真上・雪彦(狼貪の刃・e07031)
ディー・リー(タイラントロフィ・e10584)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
リョウ・カリン(蓮華・e29534)
逸見・響(未だ沈まずや・e43374)
ベヤル・グリナート(自己犠牲マン・e44312)

■リプレイ

●雪残る戦場
 あちこちに雪の残る一面の畑の中を、町へ続く一本道が伸びている。
 ヘリオンでその道に降下した幸・鳳琴(黄龍拳・e00039)は意気軒昂、白い息を吐きながら微笑みをこぼした。
「貫手の武術ですか。学ぶところも多いかと思いますが、夢喰いは砕かせていただきます!」
「随分息の長いドリームイーターだよなァ。俺としちゃ、知らねェ武術を見れるんで面白ェんだけどな!」
 真上・雪彦(狼貪の刃・e07031)が道の彼方へ鋭い眼光を向けながら応じる。既に敵は姿を現しつつあった。殊更急ぐでもなく悠々と歩を進める偉丈夫――被害者の伴・秀人の理想を形とした夢食いだ。
 武術家の夢想から生まれたドリームイーターと彼を産んだ武術家に興味津々のリョウ・カリン(蓮華・e29534)も、会敵をかなり楽しみにしていた。
「ふふっ、おっと、不謹慎ながら楽しみでつい笑ってしまうね。夢想から生まれた武人、どれだけ強いか……手合わせできることが単純に楽しみだよ」
「貫手か! よいな! 肉弾戦はディー・リーも望むところなのだー」
 金の瞳をきらめかせてディー・リー(タイラントロフィ・e10584)が不敵に笑う。
「ケルベロスでない被害者氏の方とはグラビティが絡む限りうまいこと戦えぬのだから、ケルベロスって奴も全く良し悪しであるなー? やれやれ」
 被害者のことを想って肩を竦めたものの。他への被害は出さぬにこしたことはないが、彼の理想とやりあえるとあっては燃えずにいられようか。
「まーその分ドリームイーターと死ぬまでやらせてもらうのだー。1対8で相対するに相応しい強敵、実に楽しみなのだー!」
「ま、勿論それで誰かが死んでしまうのは気が引けるから全霊を尽くすけどね」
 リョウが表情を引き締めた横に降り立った逸見・響(未だ沈まずや・e43374)が周囲をぐるりと見渡してみる。幸い、辺りに巻き込まれそうな人はいない。
「貫手か……格闘技は苦手なんだ、あんまり打たれたくはないな……それにしても貫手って突き指とかしないんだろうか……」
「市民に被害が出る前に倒せそうだな、よかった。ええと、慣れてない人がやると突き指するらしいよ」
 予定通りの迎撃ポイントにつけて安心した鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)が響の疑問に答えた。降下前のカップ麺でお腹と気持ちが落ちついたベヤル・グリナート(自己犠牲マン・e44312)がぽそりと呟く。
「……どんな技を使おうが変わらない。ボクが全部受け止めればいい。ボクが全部耐え抜けばいい」
 聞こえていたのかいないのか、飄々と横を通り御神・白陽(死ヲ語ル無垢ノ月・e00327)がずいと前へ出た。道を近付いて来る夢食いの歩調に乱れはない。

 距離を詰めたケルベロスとドリームイーターが足を止めたのは、互いを間合いに捉えた位置で。ディーが朗らかに声をかける。
「やあやあお主、なかなかの使い手であるな? ディー・リー達と一戦やり合おうではないか!」
「右往左往するだけの者どもよりは、歯ごたえがありそうだ」
 不遜ともいえる口調。挑発に乗るという見立てに間違いはなさそうだが、雪彦は念の為に一押ししておいた。
「貫手ねェ。そいつは俺達相手に見せてくれんのかよ?」
「見たが最後死ぬのでよければな」
 せせら笑うドリームイーターに、微かな笑みを浮かべた白陽が冷徹に告げる。
「死を撒くモノは冥府にて閻魔が待つ。潔く逝って裁かれろ」
 瞬時に殺気が膨れ上がった。両手をあげ腰を落とした夢食いの男に対し、半身の構えをとって鳳琴が吼える。
「八極拳系幸家・幸鳳琴、参りますっ!」

●譲れぬ激突
 初手をとったのは郁だった。強さを求める人の気持ちを利用している黒幕への憤りはもちろんだが、この寒空の下で意識を失っている被害者も心配だ。
「できるだけ早めの撃破を目指さないとな……!」
 ドラゴニック・パワーの噴射で郁の巨大なハンマーが加速し、避けようのない速度で男の体に叩きつけられる。
 跳ね飛ばされないよう踏ん張った男が、郁にお返しとばかり鳩尾を狙った一本貫手を繰り出した。命中間違いなしに思われた一瞬、鳳琴が身を捻じ込むように立ちはだかる。
「うぇッ……!」
 避ける術などない。悶絶する彼女を後方へ引き戻し、畔の端に生えた桜の木を蹴ったベヤルが高く舞った。虹の尾をひく蹴撃を男の顔面に食らわせる。
「貴様!」
 男が気色ばむのも無理はない、端から神経を逆撫でし注意を引こうというのだ。
「アナタがどれだけ打ち込んでこようと、ボクは全部耐えてみせるさ。誰かから奪っただけの技に負けはしない」
「ずいぶんと大きく出たな!」
 背後に回った響も身軽に跳ねると、怒り狂う男の頭に踵落としを見舞った。頭を振って気を取り直した彼が素早く自分へ向き直る男へ、リョウもまた軽いフットワークで回りこみながら問う。
「武術に必要の心、技、体。技と体は確かに理想そのものなのだろうね。でも心は? 作り物の心は真に至ることはできるのか、それを見せて貰おうじゃないの」
「真骨頂の理念から生まれたものが頂点へ至れないと思うか?」
 尊大極まる返答を聞いたリョウは愛用の紅色の如意棒・紅蓮を取り出し、多節棍に変化させると軽い足取りで間合いを詰めた。小手調べに繰り出される貫手を或いは打ち、或いは躱す応酬で立てつづけに鋭く打ち込む。
「……まだまだ、このくらいっ!」
 心に灯す紅蓮の闘魂を燃やして絶え、呼吸を整えた鳳琴の周りでケルベロスチェインが魔法陣を展開した。前衛の仲間に盾の加護をかけ、傷ついた己の身体が癒される。
「どれだけ鋭い貫手でも、捌き、耐え切ります!」
「吠えたな!」
「強い敵はよい敵なのだー。楽しませろ?」
 せせら笑う夢食いを、縛霊手の祭壇から紙兵を放つディーがあしらう。戦いは楽しみたいが仲間に必要以上の怪我は追わせたくない。それでも癒しきれないダメージをかかえた少女の腕を引いて、雪彦がにまりと笑った。
「痛ェの我慢しろよ、っと!」
 叩きこまれた左手の殴打で痛みが消え、驚いた顔をした鳳琴が笑顔を取り戻す。
 腰の後ろに交差させた得物を手に、白陽がゆらりと動いた。動きを読ませない不可解な軌道、幻のように男の傍らを抜けたと思うと宙を舞っている。
 氷結の呪いをまとった閃光のような斬撃は、夢食いの体を袈裟掛けに裂いた。
「なんだと?!」
 驚愕の声を男があげる頃には、もはや貫手の間合いにはいない。死角と間合いの外を自在に動き回る白陽に目を奪われれば隙も生まれる。

 八人も敵がいれば、気に食わないものから片づけようとするのは人情だ。殊更神経を逆なでしたベヤルへ夢食いの敵意が向くのも無理からぬところだった。
「うらぁ!」
 男の貫手がベヤルの肋骨の間にしたたか突き刺さる。刃物じみた破壊力を知りながらも、仲間を庇うことを最優先とするベヤルは敢えて受けた。
「ふん、いつまでもつか見ものだな」
「血を流すのは、ボクだけでいい」
 激痛を堪え、そう簡単に血を流さずにはいさせてくれないだろうけど、とも思う。
 囮同然の彼の動きを受け、白陽の気配が存在しないものの如く解けてゆく。死角へと踏み込み、死を運ぶ影色の月たる七ツ影を携えた白陽が斬撃を放った。
「な、んだと?!」
 魂そのものに斬りつけられた男が愕然と振り返る。その直線上、彼方でドラゴニックハンマーが砲撃形態への変形を終えた。構える響を排除しようと夢食いの男が駆けたが間に合わない。至近距離で竜砲弾が発射され、したたか男を直撃した。
「悪いね。近付かれたくないんだ」
「この小娘!」
「行かせるか!」
 憤る男と響の間に郁が立ちはだかる。如意棒をヌンチャク型へ変形させると貫手を受け流し、もう一方で続けざまに打撃を食らわせた。たたらを踏んで頭を振る男と距離を保ちつつ、リョウがネクロオーブから水晶の炎をぶちかます。
「しっかし貫手とは面白ェな……余裕があったら学んでみてえが。ま、今はきっちりヒーラー努めるかァ」
 仲間との攻防を目の端に捉えながら雪彦がベヤルの傷を塞ぐ。再びケルベロスチェインの魔法陣で仲間に盾の加護をかける鳳琴へ、苛立った夢食いが迫った。その軌道上に再び飛び込んだベヤルの手から血の染みついた包帯が疾る。
 槍のごとく鋭く尖った包帯にざっくりと腹を突かれ、男が怒りに顔を歪めた。
「小僧、どこまでも!」
 表情ひとつ変えないベヤルへ紙兵を飛ばし、ディーは夢食いへ向かって駆ける。仲間の為の手は打った。あとは戦いを楽しむだけだ。
 仲間の喉めがけて貫手を放つ男へ囁きかける。
「――歯ァ食い縛れ?」
 炎を灯した彼の尻尾がぐるりと夢食いの胴を巻く。絡めとられた男がこちらを向くのと同時、ディーは炎をまとった拳で顔面を殴り飛ばした。歯の欠片を散らす男が畦道を抉って吹き飛ぶ。

●理想なれども仮初の
 何故自分が追い詰められているのか、夢食いには理解できなかった。
 自分は強いはずだ。理想を形となした圧倒的な力があるはずだ。それなのに。
「何故貴様らは死なぬのだ!」
「ボクは全部耐えてみせるって言ったはずだよ」
 どんな相手の攻撃をも引き受けること。血にまみれようともそれが今のベヤルにとっては大切なことで。血の呪いのこもった彼の眼光は男の魂を蝕み、血を吐かせた。
「おのれ……!」
「そら、いくぞ!」
 傷を負おうとも楽しげなディーの尻尾が一閃。地獄の炎――デウスエクスすら焼き生命力を食らう火炎が弾丸となって夢食いを直撃し、炎にまみれて道を転がった。
 跳ね起きた男が憤怒の形相で構えをとる、その眼前にリョウがするりと滑り出た。
「うーん、我流だけどこんな感じかな!」
 開戦の時から男の貫手の呼吸や動作を注意深く観察した成果。真似た四本貫手は視認が難しいほどの斬撃となって男の鳩尾を抉る。血の糸を引いてリョウの繊手が抜け、男が血にまみれた息をつくと。
「遅いよ」
 宣告する響のグラビティが発現した。『雷電鳴リ響クガ如シ』――詠唱で生まれ出た幾つもの雷が、耳を聾する激しい音をたてて男に叩きこまれる。連鎖的な出現は彼女の途切れることのない詠唱のせいだ。
「ぐ、あ、がああああ!」
 麻痺を伴う雷撃を受けた男は獣のような叫びをあげた。
 振り向きざまに標的としたのはたまたまそこにいた鳳琴。圧倒的な筋量の差を思えば彼女の肢体が千切れても不思議ではなかったが。
「……肋骨間狙いの四本貫手。見えたっ」
 既に目が慣れた彼女は、氷の呪いに蝕まれ足運びの乱れた貫手を鮮やかに躱す。
「こっちだ!」
 姿勢を乱した夢食いの前に飛びこむ郁の腕は、彼自身のグラビティが形成するナックルに覆われていった。渾身の一撃が鈍い音をたてて脇腹へ叩きこまれる。骨の折れる音が響き、たたらを踏んだ男が呪いの言葉を吐いたとき。
「死にゆく者は無知であるべきだ。要らぬ煩悶は捨てて逝け」
 瞬きひとつの間に白陽に間合いを侵略されていた。七ツ影が鈍く陽光を撥ねて振り抜かれる。斬撃は夢食いの生命そのものへ襲いかかった。
「ぐは……っ!」
「テメエの年貢の納め時だぜ」
 ばきばきと音をたてる氷に体表を蝕まれ、呻く男は雪彦の浮かべた獰猛な笑みを見た。刻みつけられた幾つもの傷を、雪彦の霊力を帯びた日本刀が深く広く斬り広げる。
「これが幸家の技ー……、そして絆の力です!」
 小さな拳に宿るのは龍の姿をとる降魔の力。鳳琴の渾身の一撃は夢食いの男の胸めがけ、吸い込まれるように打ち放たれる。
「砕けろぉっ!」
 重い打撃が魂を食らい奪い去る。男は驚愕の表情のまま、どうと倒れた。
 途端に体はまるで砂利のように細かに砕け、飛び散り――消えて行った。

 派手な戦いだったが、舞台が畑に囲まれた田舎道であることが幸いした。仲間の傷を手当てし、手分けして周囲にヒールをかければ荒れた道の原状回復も完了。
「あとは被害者の保護、かな」
「ああ。寺に直行して保護だ」
「怪我をしていないといいけど」
 傷の塞がったベヤルの呟きに雪彦が頷き、リョウも道の彼方に見える寺を振り返った。

●台風の目は何処
 雪の残る境内に倒れ伏した秀人は呻き声をあげていた。怪我はなさそうだが念の為ベヤルが秀人にヒールをかける。郁が自身のコートでくるんで助け起こすと瞼が開いた。
「大丈夫か。ここで倒れていたのだが」
「生きておるかー? 風邪などひいておらぬかー?」
「……あ、ああ。大丈夫だ」
 白陽とディーに声をかけられた秀人は、真っ青ではあるがしっかりした口調だった。
「温かいコーヒーだ。飲んだほうが落ちつくよ」
 秀人に湯気のたつカップを真っ先に渡して、響は仲間にもコーヒーを次々手渡していった。保温ポットの中身は『BEKKAKU』、高級豆を使って美味しく淹れた逸品だ。一口飲んで目が覚めたような秀人に、ついでに質問も投げかける。
「貫手のみの武術とはあまり見かけないね。親指だけ使う貫手もあるようだけど、指を痛めたりしないのかな?」
「貫手自体は世界中の格闘技に含まれるものだ。毎日の指の鍛錬は必須だからな、貫手のみを極めようという者は多くはなかろう」
 秀人は頭を振りながらも質問に真摯に応えた。響からコーヒーを受け取って一口飲んだリョウも気になっていたことを聞いてみる。
「なぜそんなにも鍛錬を積むの?」
「何故? 鍛錬は試練であり、業余であり、己への投資だ。そもそも……」
 会話をするごとに秀人の意識ははっきりしてくるようで、低体温症の危険性はないと判断した雪彦が息をついた。それでもこのままはよろしくない。
「まァ、一度町へ戻って身体を休めたほうがいいと思うぜ」
「……その方がいいかもしれんな」
「ゆっくり起きるんだ。肩を貸すよ」
 郁の手を借りて立ち上がる様子を見ると、幻武極にあしらわれたショックが見て取れる。勝負にならない相手だとしてもそれが武術家というものだ。
 拳法家として気持ちがわかる鳳琴は拳を強く握り締めた。
「幻武極……近く必ず決着をつけなくては」
 今どこで、誰の武術を食らおうとしているのか。
 その背に追いつき、こんな被害をなくさなくてはならない。

 人の理想を食らって生まれた夢食いたちの大元、幻武極の行方は今もわかっていない。けれど、猟犬たちが捜し出すのもそう遠い先のことではないだろう――恐らく。

作者:六堂ぱるな 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月6日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。