木葉梟の孤剣

作者:犬塚ひなこ

●剣術の行先
 人気のない路地裏にて、少年は木刀を振り下ろす。
「――秘技・コノハズクの舞!」
 その瞬間、激しい風が巻き起こり周囲の葉を舞い飛ばしてゆく。というのは彼の想像内の話であって実際はただ木刀が空を切ったのみ。なんてね、と肩を落とした少年は自分の手を見下ろす。
「剣道の技が必殺技だったらなあ……。あいつらをやっつけることも出来るのに」
 溜息を吐いた彼は自分を虐めている同級生たちを思い返した。
 だが、剣道はそのような目的の為に行うものではないことも知っている。それゆえに少年はこうして夜中に刃を振り、悪い奴らを倒す想像をしていた。
 いつものように素振りをしてから遅くならないうちに帰路につく。今日も普段と変わらずに時間が過ぎていくはずだった。だが――。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 誰も居なかった路地裏に少女の声が響き、驚いた少年が振り向く。
 しかし彼はまるで何かに操られたかのようにその少女――幻武極に対して攻撃を仕掛け始めた。幻武極はその剣を受け続けていたが、やがて軽く肩を竦める。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 そう言って少女は手にしていた鍵で相手を貫いた。
 すると少年は倒れ、その代わりに梟の仮面を被り剣道着を身に纏った剣士が現れる。彼が手にした木刀を振りあげると周囲に風が巻き起こった。その素早い動きを眺めていた幻武極は小さく頷き、剣士のドリームイーターに言い放つ。
「さあ、お前の武術を見せ付けてきなよ」
 そして――夢喰いは命じられるがままに人通りの多い街中へと繰り出した。

●孤剣
 ドリームイーターのひとり、幻武極。
 彼女によって少年が襲われてしまい、新たなドリームイーターが現れた。そのような予知が視えたと話した雨森・リルリカ(花雫のヘリオライダー・en0030)は集った仲間達に事件の阻止を願う。
「出現するドリームイーターは剣士さん風の格好をしていますです。襲われた男の子の理想が形になったみたいなのでございます」
 そのイメージ通り、敵は少年が目指す究極の剣術家のような技を使いこなす。風の剣を扱う夢喰いはなかなかの強敵となるが、幸いにして敵が繁華街に到着する前に迎撃可能だ。
 件のドリームイーターも剣術を披露する相手を探しているのでケルベロス達が戦いを挑めば、その場に留まってくれるだろう。件の路地裏も滅多に人が通らない場所なので周囲の被害を気にせずに戦える。
「敵は一体ですが、十分に気を付けてください」
 必殺の一撃を繰り出すことを理想としていた少年の思いは強く、夢喰いが放つ一閃はかなり強力だ。此方が全員で協力して立ち向かってやっと互角くらいらしい。
 だが、敵は逃げも隠れもせずに正攻法で戦う。
 強敵との正々堂々の戦いが出来るはずなので或る意味では戦いやすい。そう話したリルリカはそこで説明を終え、仲間達をじっと見つめる。
「男の子の理想が作った剣士さんはとてもかっこいいです。でもでも、その剣で人を傷つけちゃいけないのです!」
 このままでは彼が抱く剣の道が穢されてしまう。
 悲しい未来を引き起こさない為にもどうか夢喰いを止めて欲しい。お願いします、と頭を下げたリルリカは戦場に向かう番犬達を見送った。


参加者
ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)
ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)
タルパ・カルディア(土竜・e01991)
角行・刹助(モータル・e04304)
クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)
ウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)
イ・ド(リヴォルター・e33381)
天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)

■リプレイ

●梟と剣
「――ハロー、ソードマン」
 静かな冬の夜、人気のない路地にて軽い呼び声が響く。
 その声に梟の仮面が揺れる。振り返った剣士が目にしたのは片手をあげて笑いかけるウィリアム・シャーウッド(君の青い鳥・e17596)の姿。
 その傍、天淵・猫丸(時代錯誤のエモーション・e46060)が今一度、呼び掛ける。
「夢幻より出でしそこな剣士よ!」
 猫丸の翠の双眸が標的を映す中、ギルボーク・ジユーシア(十ー聖天使姫守護騎士ー十・e00474)が、こんばんは、と礼儀正しく挨拶を交わす。
 すると、ドリームイーターの剣士が薄く笑った気配が感じられた。
 クーゼ・ヴァリアス(竜狩り・e08881)は仮面の下の顔はきっと夢主の少年と同じなのだろうと考えながら静かに名乗りを上げる。
「俺は九重流双剣術、師範代のクーゼだ。木葉梟の孤剣士よ、お前の目的は分かっている。そして、それが我らと相いれないのもな」
 ならば、答えはこれ――剣で出すしかあるまい。
 クーゼが宵月の名を抱く斬霊刀を構えると、剣士も身構え返す。
「我が剣技、お前達に見せてやろう」
 此方を敵として認めたらしき相手を見据え、イ・ド(リヴォルター・e33381)はジークムントの楔を掲げた。
「……己が名はイ・ド。ケルベロスの名に於いて、キサマと交わす剣戟を所望せん」
 やや芝居がかった言い回しではあるが、イ・ドの口上は見事なものだ。其処に続き、タルパ・カルディア(土竜・e01991)が地に槍を突き立て吼える。
「名も無き剣士、否、木葉梟よ! 我が名はタルパ、心臓の部族に名を連ねる者なり!」
 其の刃、数多のいのちを断ち切らんとするならば我が身は焔となりて汝を燃し尽くす。凛と告げたタルパに合わせ、猫丸も筆を構えて名乗る。
「天淵流師範代、天淵猫丸! いざや、いざいざ。尋常の勝負を求むるでにゃんす!」
「あっマジで? やっぱ名乗っちゃいます? 俺はウィリアム・シャーウッド。ま、その辺飛んでる青い鳥さ」
 ウィリアムも冗談めかして名を告げ、敵を見据えた。
 ベルノルト・アンカー(傾灰の器・e01944)と角行・刹助(モータル・e04304)は張り詰めていく雰囲気を感じ取り、互いに軽く視線を交わす。
 そして、ベルノルトは一歩前に踏み出し、刹助は後方支援の為に後方に下がった。
 生き試しや辻斬り、試し斬り。そういったのものは碌でもない。人でなしがやるようなことをしてしまえば刀と技が穢れてしまうだろう。
「真剣勝負の死合いが望みなら、地獄の番犬が相手をする」
 そう告げた刹助が肩を竦めると、ベルノルトが喰霊刀の切先を敵に差し向けた。
「人の魂を喰らう妖刀は此処に、貴方の剣で試されてみますか」
「ほう、面白い」
 木葉梟の剣士はそれだけを口にした瞬間、鋭い殺気が辺りに満ちた。手強い相手だと肌で感じ取りながらもギルボークは強い眼差しを敵に向ける。
「僕たちで真に格好いい戦い方をお見せしましょう!」
「いざ、尋常に勝負ッ!」
 そして――クーゼのあげた鬨の声が響き渡った刹那、戦いは始まった。

●憧憬
 先手を取ったのは木葉梟の剣士。
 振り上げた刃が激しい風を巻き起こすのだと悟ったタルパが警戒を強め、猫丸は「気を付けるでにゃんす!」と前衛達に向けて呼び掛ける。
 その予測通り、ギルボークやウィリアム達に鋭い痛みが襲い掛かった。
 しかしベルノルトは衝撃に耐え、喰霊刀が宿す魂の力を解放する。
「血濡れた刃が欲するは強き者。貴方の魂を喰らいたいと声がするのです」
 敢えて悪役として対峙するベルノルトの声は冷たい。それも少年が理想とする剣士に対して、格好良い戦いを演出する為だ。
 そして刀から放たれた力はイ・ドの元へと廻る。その間に匣竜のソルとシュバルツが痛みを受けた仲間に己の属性を施していく。
 ウィリアムは匣竜達の援護に小さく頷き、自らも魔鎖で陣を描いた。
「地獄の番犬と正々堂々、一勝負して下さいよ」
 対する剣士は一撃が重い相手。盾役として気合いを入れたウィリアムに合わせ、刹助は剣士の背後に回り込む。そして、ひといきに雷杖を振り下ろした。
「俺達は意地汚いからよ、お前の力量で満足させてもらうとするさ」
 喉笛を喰い千切られたく無ければ全力で来いよ、と挑発めいた言葉を向けた刹助が放つのは地を裂く程の一撃。
「《反抗》、開始」
 其処にイ・ドが続き、腕の刃による超高速斬撃を見舞う。
 戦闘において見栄えを求めるなど、イ・ドにとっては非合理的にも思える。だが、それが一つの士気向上となり得るならば仲間の策に乗ることも悪くはない。イ・ドの斬撃が敵を穿っていく最中、猫丸は地面を強く蹴りあげた。
 軽い身のこなしからの高い跳躍、そして其処からの急降下。
「貴殿の進まんとするその先は、人道を外れた外道のそれとお見受けする! 同じく道を志す者として、その堕落ぶりは捨て置けぬ!」
 粋を感じさせる言葉と共に、流れる星の煌めきを思わせる蹴撃が敵を貫いた。
 されど、剣士は少しも揺らがずに立っている。
 タルパは武人然とした彼の姿をしっかりと見つめながら、首裏が熱を持ち疼くような感覚をおぼえた。
 ――燃やせ、燃やせ、殺せ、殺せ。
 耳に木霊する怨嗟に瞳孔が細まり、タルパは勢いを付けて駆ける。食い縛る歯の隙間から溢れる鉄の味が自我を満たす。しかし、此の衝動に奪われてなるものかと首を横に振ったタルパは槍を握る手に力を込めた。
 稲妻を帯びた一閃でタルパが敵を穿った所へ、ベルノルト達が追撃を加えに動く。研ぎ澄まされた魔力の爆発を起こしたベルノルトに合わせ、ギルボークが跳んだ。
「ドリームイーターが生み出したとはいえ人の理想の剣士。それを乗り越えてこそ僕の剣もより高みへと向かうでしょう」
 ヒメちゃんの為にも、と口にしたギルボークは鋭い蹴りをくらわせる。
 クーゼはシュバルツへと続けて皆の癒しを担うように願い、自らも攻勢に入っていく。だが、剣士の次なる一閃が刹助に迫っていた。
 クーゼは即座に仲間を庇い、木葉返しの一撃に耐えてみせる。
「少年のあこがれかぁ、確かに、派手な見目の技の数々だねぇ」
 だが、それで自分達を殺せるかと言ったらそれはまた別の話。クーゼが掌を天に向けて掲げると空から無数の刀剣が舞い降りる。戦場に解き放たれた刃が敵を捉えた刹那、クーゼは仲間に合図を送る。
 それを受けたウィリアムは携えた脇差、朱野晴定の柄に手を掛けた。
「ほんと、やり合うにゃいい夜だよな」
 一度だけ夜空を振り仰いだ彼は瞬時に敵を見据え、緩やかな弧を描く斬撃を見舞う。三日月めいた剣筋が閃き、剣士が僅かに傾いだ。
 猫丸はその瞬間を逃さず、体勢を立て直そうとする敵の剣を如意棒で弾く。
「隙あり! わちきの一撃、受けてみるでにゃんす!」
 己は書家としても番犬としても未熟。決定打には遠いと自覚している猫丸だが、この一手は無駄ではないとも知っている。
 結果的にそれは剣士の武器を一時的に封じ、猫丸は、にゃんと目を細めた。
 タルパは裡に渦巻く衝動と戦いながら敵との距離を詰める。其処から撃ち込まれた炎の連撃が剣士の刃に反射して赤い光を戦場に散らした。
 そうして、イ・ドは自身が抱く重力鎖を冷気へと変換していく。
「凍り穿てッ!」
 鋭い声と同時に戦場の熱が一気に貫かれた。
 だが、敵はまだ凛然と立ち続けている。イ・ドはあれが剣士という者なのかと頷き、その様子に気付いた刹助も、なかなかだな、と呟いてから息を吐く。
 思うのは少年が抱く強さへの憧れ。
「気持ちだけでも、強さだけでも。理想には決して届かない。難しいよな」
 自分には最早、強さを求める意味や戦う理由は残されていない。この身に備えた力と燻り続ける義務感だけが、己を戦場に駆り立てる。それゆえに剣士という強さに憧憬を抱く少年が何処か羨ましくもあった。
 刹助が縛鎖で相手を縛り上げる中、クーゼも攻撃に移る。剣士が迎え撃つように一閃を見舞ってきたがクーゼは敢えてそれを受け止めた。
「其は連剣の極み、斬撃織りなす夢幻の華、穿てッ! 瞬華瞬刀ッ!」
 繰り出すのは九重流双剣術、七の型。
 木葉と風を巻き起こす剣士の斬撃と対になるような形で閃き、華のような斬撃が構成されてゆく。クーゼの一撃が敵を切り刻み、多大な衝撃となって巡る。
「かなりの実力ですね。夢の力というものは大したものです」
 ギルボークはそれでも倒れぬ敵を評し、絶空の斬撃を重ねた。ウィリアムは其処に誇りのようなものを感じ、薄く笑む。
 竜人、番犬、剣士。自分はどの誇りも持ち合わせてはいないが、それくらいは解る。
「振るう剣がただ真実ってヤツだ」
 そして、ウィリアムが言葉を落とした直後、空の霊力を帯びた刃が敵の傷口を抉った。
 巡りゆく戦いの中、ソルとシュバルツは懸命に仲間の傷を癒している。タルパは相棒竜達が頑張ってくれていると察し、呼吸を整える。
 我は獣に非ず、誇り高き竜の血族なり。
 我は獣に非ず、誉れ高き竜の守人なり。
 昂る熱と高鳴る鼓動を抑えながらも、タルパは吼えた。鋭く迸る雷撃めいた槍閃を見つめ、猫丸はタルパの衝動を感じ取っていた。
 真剣に。ただ、真っ直ぐに。
 力と力が衝突しあう戦場の最中、ベルノルトは敵を見据えた。相手は再び刃を此方に向けている。それならば、と真正面に回ったベルノルトは告げる。
「――さあ、貴方の真の力を見せてください」
 きっと、間もなく戦いの終わりが訪れる。最期まで相対し続けると決めた思いは強く、放たれた木の葉が夜の静寂に舞い上がった。

●折れぬ刃
 一撃で決まる戦いというものは確かにある。
 それは実力に大きな差があるか、或いは同等でその一手が結果として勝負を決めたというものが殆どだ。
「さて、この戦い、何がその『一撃』となるか……」
 ギルボーは得物の鞘を握り、いざ、と地を蹴る。秘の光、愛しき人を思う事で極限に研ぎ澄まされた一閃が剣士を穿った。
 その瞬間、梟の仮面が真っ二つに割れる。
 タルパはソルを呼び、最大の好機が来たと実感した。木葉梟、其れは鎌鼬にも似ている。だが、誰も倒れさせはしない。己も最後まで膝をつかない。
「此の炎を掻き消せるものならばやってみろ」
 師の教えを思い返したタルパはソルと共に敵を捉える。滑空、そして其処からの急降下による衝撃を乗せた刺突撃は何人にも縛られぬタルパの意思を示しているかのよう。
 ひゅう、と称賛代わりの口笛を吹いたウィリアムは身構える。
「決闘なんぞ縁遠かったけど、ま、悪くなかったんじゃないですかね。上出来でしょうよ」
 自分に対しての評価を口にした彼はまるで青い鳥が舞い降りるが如く、白刃は宙を滑り降ろした。猫丸もウィリアムに続き、猫丸も筆を掲げる。
「貴殿の繰るその剣技。今は泡沫に消えゆく夢なれど……この天淵猫丸、確かに記憶したでにゃんすよ!」
 書筆で描かれたるの黒一色。されど、それは確かな色彩の奔流となって二つの閃きを刻んだ。更に刹助が信念と苛烈を宿した重突で敵を穿つ。
「折れず、曇らず。気高く在り続ける少年の未来と志を守る為になら――」
 この戦いに確かな価値を感じられる。
 そして、ベルノルトとクーゼが体勢を崩した剣士を捉えた。ベルノルトによる斬撃による衝撃波が実体化してゆく中、再び振るわれたクーゼの瞬刀が振り下ろされる。
「後はお願いします」
「これにて終幕だ。さよなら、幻想の剣士さん」
 二人の言葉を受け、イ・ドは答えの代わりに即座に行動に出た。これまでの熱をすべて融かすかのように、凛冽たる刺突が剣士を真正面から貫く。
 そして――。
「《反抗》、完了」
 静かなイ・ドの言の葉と同時に、戦いは終結した。

●其の道の先には
「おう、少年。気が付いたかい?」
 戦いの後、クーゼは目を覚ました少年に温かい珈琲缶を差し出す。
「疲れた時には甘いものもお勧めでにゃんす!」
 猫丸も目を細めて微笑み、とっておきの甘い大福を手渡した。不思議そうに辺りを見渡しながら缶と大福を受け取った彼に、ウィリアムは明るく笑いかけた。
「そろそろ未成年にゃ危ない時間だぜ。風邪引いても事ですからね」
 続けて、イ・ドも少年が驚くことのないように簡潔に状況を説明してやる。
「夢喰いの存在は撃破した。案ずることはない」
「そうだったんだ……。助けてくれてありがとうございました」
 彼は丁寧に礼を告げ、ご迷惑をおかけしました、と謝った。タルパはソルを少年の傍に向かわせ、「名前は?」と問う。すると彼は「剣也です」と名乗った。
 自分の所為で夢喰いが生まれたと落ち込む彼に対し、ギルボークは気にしなくても良いと首を振る。
「あの剣士、強敵でした。僕たちケルベロスにも負けないくらいに、ね」
 それに少年は剣技を仕返し目的に使うものではないと知っている。そんな彼は十分に格好いい剣を学んでいる。ギルボークの言葉に静かに頷き、ベルノルトも口をひらいた。
「剣の道は貴方の心を研ぐ為の鍛練です。決して人を傷付けるものではありません」
「剣の道は人の道、理の修練によりヒトを成すものなり。俺も師匠に教わってきた」
 此の身は刃で在る前に、民守る為の盾足らん。
 ベルノルトが伝えた思いに続き、タルパも笑みを浮かべる。そうそう、と少年の頭を撫でたウィリアムは皆の剣に対する思いに密かに感心を抱いていた。
 そんな中、刹助は剣也少年に告げる。
「自分に優しく出来ない人間が他人に優しく在ろうとするのも矛盾しているとは思わんかな……。あまり気負い過ぎるな。剣道の姿勢は自然体、だろ?」
 鍛練も大事なんだろうがもっと自分の身体を労れ、と話した刹助に少年はすみません、と頭を下げた。おそらく気弱な部分が虐められる原因になっているのかもしれない。
 すぐに彼が抱く問題を解決することは出来ないが、何か力になってやりたいと感じたクーゼはそっと拳を握る。
 剣の道にあるのは敵を倒すという気概、その一歩を踏み出す勇気。
「自信がないっていうなら、そうだな、時々でいいなら稽古をつけてやろう。一人じゃあ強くなんてなれないからねぇ」
「本当ですか?」
「勿論ですとも。折角知り合ったご縁ですゆえ!」
 顔をあげる少年に猫丸は人懐っこい笑顔で応えた。
 自分の歩む書の道と、彼の歩む剣の道。道は違えど、頂を目指すその志は同じはず。
 一先ずは帰るか、と手を差し伸べるクーゼ。イ・ドも少年を送って行くのが最善だと考え、ギルボークも帰路を指差す。
 これで一件落着か、と呟く刹助にベルノルトも同意を示した。そして、二人は少年達が歩き出す様子を見つめる。
 歳も近いということもあり、互いに目指す道を語らう猫丸と剣也。
 その後ろ姿を見守るタルパは緩やかに目を細め、少年の歩む未来を思った。
「おまえ、きっと強くなるよ。だってさ」
 彼の胸にはもう、確かな剣の道が刻まれているのだから。

作者:犬塚ひなこ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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