ミッション破壊～狂信の鳥

■リプレイ

●
　８人のケルベロスを乗せてヘリオンが飛んでいく。
　目指すは原宿竹下通りの強襲魔空回廊。今回の強敵は「絶対かわいい明王」であるという。
　ヘリオンの轟音を聞きながら、ケルベロス達は敵について考える。
「誰でも考えるような、ちょっとした願いで肉体を乗っ取られるなんてね。デウスエクスはどれもやっかいだけど、これは早いところビルシャナのゲートを破壊しないと。それに、人に夢を与える舞台役者としては、「かわいくなりたい」なんていう前向きな願いのせいで破滅させられるなんて事、認められないしね」
　ロベリア・エカルラート（花言葉は悪意・e01329）は、明王について思っている事を述べた。
「憑依したビルシャナさんを倒し変異された女子をお救いして、絶対に回廊を破壊しますよ」
　土竜・岳（ジュエルファインダー・e04093）も前向きな気持ちであるらしい。
　喜屋武・波琉那（蜂淫魔の歌姫・e00313）、平・和（平和を愛する脳筋哲学徒・e00547）、上村・千鶴（陸上競技部部長・e01900）、チェリー・ブロッサム（桜花爛漫・e17323）、柳生・梵兵衛（スパイシーサムライ・e36123）、ソルヴィン・フォルナー（ウィズジョーカー・e40080）－－みなも真剣な面持ちで作戦に向かっていた。
　やがてヘリオンの眼下に、半径３０mほどのドーム状バリアが現れた。そのバリアを破壊することが今回の作戦である。
（「弱気な考えかもしれないけど今回の作戦で完全なミッション破壊は無理かもしれない。しかし、少しでもこの地域の解放が早まるよう全力で事に当たり必ず帰ると心に決めて行きたい」）
　波琉那はそんな心境であった。
　ケルベロス達は立ち上がり、降下口に降りていった。

　最初に降下口に立ったのは岳だった。
　強風の煽る中、目を見開いて遥か下方にあるドーム状バリアを睨み据える。
　そして心の底から猛る想いを叫んだ。
「可愛くなりたい。そんな当たり前の些細なお気持ちから融合され、その想いに支配された心・肉体に変えられてしまう。人間の心と体を己の手駒として扱い、その事に一片の憐憫すらないビルシャナさんが、私は大っ嫌いです！　そして仲間や家族と笑いながら過ごす、心の通い合う時間、その積み重ねがこそが、人々の魂がGチェインを秘める理由なのだと、私は思います。皆が安心して竹下通りで沢山笑い合える日々を、必ず取り戻します！　ここで明王さんと回廊は絶対に倒します！　宇宙に輝く蒼き宝石…地球に代わって大！　大！　大！　お仕置きですよ！」
　叫びを終えると同時に、岳は降下口から飛び降りた。
　光る小剣グラディウスを携え、真っ直ぐにドームへと急降下していく。グラディウスがバリアに触れた瞬間に激しい爆炎と雷光と煙が巻き起こり、それに巻かれるようにして岳は逃げた。

「俺は朴念仁の与太郎だから『カワイイ』とかよく解らねぇが……独り善がりな偏った考えを人に押し付けるのはチョイとばかり粋じゃないと思うんだよな。人の見かけってのはカワイイだけがすべてじゃないのさ……カッコ良いも個性的もあって全部それぞれ魅力的だぜ。みんな同じ『カワイイ』じゃ面白くも何とも無いとは思わねェか？」
　次に立った梵兵衛がそう叫び、グラディウスを掲げるとドームへ向かい飛び降りていく。グラディウスが光の軌跡を描く。梵兵衛が力任せにグラディウスをバリアに振り下ろすと、やはり爆発的な火炎と雷光とスモークが広がる。

「独り善がりの『カワイイ』を押し付けるなんて酷いよ！　自分が正義だと思わないけど、人それぞれの個性が『カワイイ』を楽しむ自由を奪って大きな顔をしているあなた達がゆるせないんだよね……ここを取り戻すために叩き潰して滅ぼされても絶対に文句は言わせないんだからね！」
　続いて波琉那が降下口からドームへと向かい魂の叫びをぶつけた。
　その後、素早くグラディウスを構えると降下口から飛び降り、ドームへと急降下していった。小剣の切っ先が触れただけで、激しい爆発音とともに火炎と雷光が飛び散り、スモークが濛々と立ちこめていく。

「絶対かわいい明王……白いヒヨコの姿で絶対かわいいなんてちゃんちゃらおかしいよ！　時代はいつだってお猫様！　それも黒猫こそ至高！　優雅で優美な姿態、王者のオーラを醸し出しつつ、きまぐれにこっちを振り回すあざとかわいさ……これに勝るものなどあろうか！　いや、無い！（反語）　絶対かわいいを云々したいなら、お猫様になって出直してこーい！」
　和は和なりに魂の熱い叫びを行うと、グラディウスを構えて降下口から落下していった。
　急降下しながらグラディウスを構え直してその先端をドームのバリアに触れる。爆炎、雷光、煙！　その凄まじい衝撃を浴びながらも和は退避していく。

「かわいいは自分だけのもの！　自分のかわいいを発信する竹下通りで、かわいいを強要するなんて言語道断！　ボクのかわいいをくらえーっ！」
　チェリーもまた、グラディウスを構えて魂の叫びを行う。
　そして降下口からドームへとまっしぐらに急降下。
　グラディウスを叩きつければ、激しい火炎、激しい雷光とともに、びっくりするほど大量のスモークが辺りに立ちこめた。

「人の往来の激しい場所の回廊……後々強敵に利用されたら目も当てられん。というわけで今のうちのぶっ壊させてもらうぞい！　しかし個奴らかわいいという普遍的なものを謳っておきながらやることが一端、狭義的！　そんな見せかけで狭苦しい教義はノーサンキューじゃ！　てかわしのペットの子供梟の方がかわいいんじゃくたばれいいぃぃいぃ！！！」
　ソルヴィンは思いの丈を存分に叫ぶとグラディウスを掲げる。
　光の小剣とともにヘリオンから飛び立つと真っ直ぐにドームへ急降下し、グラディウスの先端をバリアに突き立てた。恐ろしい勢いで爆発が起こり、炎、雷、煙が辺りを覆うがソルヴィンは華麗に退避していく。

「デウスエクスの中でもアンタは飛び抜けて気に入らないやつだね。その内ゲートはぶち壊しに行ってあげるから、挨拶がわりにこれを取っときなよ！」
　ロベリアははっきりした決意を魂の叫びとし、グラディウスを構える。
　ヘリオンから急降下しながら先端を思い切り、ドーム状バリアに突き立てる。
　激しい火炎、雷電、スモークを受けてロベリアは仲間の元へ走る。

「人々を害するデウスエクス！　その非道な行いも、かわいいの押しつけも許さない！」
　千鶴はそう叫ぶと、グラディウスを構えて飛び降りた。
　眼前にドーム状バリアが迫れば、小剣を思い切り叩きつける。
　最後の爆発が起こり、轟々たる火炎、雷光－－そしてスモークが、今度こそドーム周辺全体を覆い尽くした。

　漂うスモークの中を進み、ケルベロス達は全員集合していた。
「みんな揃ったねー。よーし、撤退だ－！」
　和が一人一人の顔を確認しながら言った。
「これを頼むね」
　和は、梵兵衛に自分のグラディウスを預けた。
　梵兵衛は万が一のためにアイテムポケットの中に自分と和の分のグラディウスをしまいこんだ。安全確保のためである。

　ドームでは爆発が爆発を呼び起こし、大変な騒音を立て続けていた。
　ケルベロス達は思わずドームの方を振り返った。
　そのとき、かっと巨大な光がバリアにヒビを入れたかと思うと、ドームの中心に走った亀裂が大きく避けていき、最後の最後の大爆発とともにドームは破壊された。
　ケルベロス達が呆気に取られたのも一瞬。
　彼らは歓喜の叫びを上げて、仲間同士でハイタッチを行った。
　原宿竹下通り、ミッション破壊作戦成功！！

「油断大敵なのです……」
　喜びに溢れるケルベロス達の耳に、あざといぐらい可愛い声が聞こえてきた。
　やがてスモークをかきわけて現れたのは白いふわふわのビルシャナ、「絶対かわいい明王」であった。

　真っ白いふわふわつるつるすべすべのもふもふ羽毛、つぶらな瞳。
　確かに明王は可愛かった。
「ぶっちゃけもう楽勝じゃろ今回は。むしろ負ける要素あるんじゃろうか？」
　ソルヴィンは余裕綽々でそう言った。
　その可愛い明王はさささっとロベリアの傍に歩み寄ると、その全身でもってすりすりをしてきた。
　すりすりふわふわもふもふ。
「な、何よあんたの可愛いなんて気に入らな－－ッ！」
　抵抗を試みるものの、あまりの可愛さに悶絶ダメージを受けてしまうロベリア。

　慌ててケルベロス達は戦闘態勢を取った。あざとく小首を傾げてきゅんｖなポーズ取っている明王に。
　チェリーは抑え込んでいた狂気を解き放って前列にも感染させていく。次のターンで後列にも配るつもりだ。
「戦いの力を！」
　岳はライトニングロッドを掲げると電気ショックを飛ばしてロベリアを治癒、回復させていった。
　ソルヴィンは地獄の炎を武器に纏わせ、明王へと叩きつけた。
　波琉那はケルベロスチェインで魔方陣を描き、仲間達を守護していく。
「いっくぞー、てややー！」
　和は、装甲から光り輝くオウガ粒子を飛ばし、仲間達の超感覚を覚醒させていった。
「イラつくんだよね、君。さっさと終わらせるよ」
　正気に返ったロベリアは、空中高く跳躍すると、虹を纏いながら急降下蹴りを明王に炸裂させた。
　千鶴はパイルパンカーに凍てつく冷気を纏わせて明王を突き刺し、その瞬間に凍結させようとする。
　梵兵衛は明王を弱体化させる光線をバスターライフルから撃ち出した。

　それらの攻撃を－－絶対かわいい明王は「本気で毛繕い」で持ちこたえた。
「あたし、かわいい」
　愛らしく小首を傾げてちょんちょんと嘴で毛繕いをするだけで、明王の体力は回復していく。
　戦闘中に腹立つぐらい可愛らしい。
「この白いけだまめー！」
　まさかと思うが魅了効果でもあったのか、和が飛びついてもふもふを堪能するほどであった。そしてもふもふされてもあざとく首を傾げてキョトンとするのだこの明王め！
　ケルベロス達は催眠にやられる者を何人か出しながら鉄の精神で持ちこたえ、攻撃を持続させていく。
　そしてそのたびに明王は本気で毛繕いをして自身の体力を回復。
「イリス、防御お願い！」
　ロベリアはビハインドに指示を出しつついらつきを押さえて攻撃を続ける。
　チェリーも思う。
　彼女は自分のことをかわいいと思っているし、さらにかわいくなりたいと思っているけれど、絶対かわいい明王のかわいいはセンスに合わないと。
「普通に強いのう」
　意外に粘る明王に対してソルヴィンがそう言った。

　一進一退が続く中、明王が動いた。
　毛繕いをしながら竹下通りの瀟洒な建物の影に隠れた－－と思ったら、その建物の影からちょこんと頭を出してキョトンな表情でこちらを見て、つぶらな瞳をキラキラッとさせてみせた。
「あたし、かわいい」
　絶対あざといアピールである。
「ぐはあ！」
　やられたのは波琉那であった。
　その場に膝をついて屈したかと思うと、徐々にドラゴニックハンマーを隣の岳の方へと……。
「ま、待ってください。私は味方です。正気に返って！」
　大慌てでメディックの岳がブレイクルーンで回復を行い事なきを得た。

『勇往邁進！　……避けられるかなっ！』
　これ以上長引かせる訳にはいかない。チェリーがグラビティチェインで一時的に身体能力を著しく強化し、雷の如き速さで明王に雷鳴拳聖の発勁を打ち込んだ。
「雷光の守護を！」
　岳は雷の壁を周辺に巡らせて仲間達を強化、守護した。
「愛らしい姿ですが……自分のエゴを押しつけるだけの貴方は仲間と心を共鳴させて戦う私達には決して勝てませんよ！」
　岳は冷静に明王を説き伏せる。
　波琉那はケルベロスチェインを精神で操作し、明王を巧みに捕縛した。
「明王……君の敗因はたった一つだよ……たった一つのシンプルな答えさ……君はお猫様には成り得ない」
　和はイガルカストライクでその明王を凍り付かせる。
　梵兵衛がさらにバスターライフルから凍結光線を発射して明王に当てた。
『イヤーッ！』
　そこでソルヴィンがイマジネイション・キリを行う。
　スペース・オペラ・フォースを用いてカタナめいたマインドセーバーにて敵をイットリョダン！　ナムサン！！
『On your mark! 　Get set! Go!』
　続いて千鶴がOn Your Markを行った。
　クラウチングスタートから全力で駆け抜ける。全ての力を溜め込みスタートし、自身の力で出せる最高速度で距離を一気に詰めるとともに、明王を殴り伏せた。その鬼気迫る走りが更なるプレッシャーを明王に与える。
『地獄に吹くこの嵐、止まない嵐を見せてあげる』
　ロベリアが悪意の嵐（オラージュ・ド・ロベリア）を使用する。
　両腕を構成する地獄の一部を無数の刃に変形させ、剣風と同時に明王に叩きつけた。地獄で作られた刃は舞い散る花のようにも見え、正に悪意の花弁。
　明王を切り裂いたあとは傷口を蝕み、回復を阻害し－－絶対かわいい明王は滅びた。

　スモークはまだ周囲に立ちこめていた。
　岳は明王のために祈った。
「地球の重力の元どうか安らかに」
　梵兵衛も思いを馳せた。
（「今はもうどうして独り善がりの考えに至ったかわかんないが…三人寄れば文殊の知恵って位だから『カワイイ』を語り合える仲間がいたらこんなことにならなかったのか……？」）
　女子陣はみんな一様にぐったりと疲弊している。
　その中、元気よくソルヴィンが言った。
「敵の警戒はわしに任せい！　後ろを振り向かず撤退じゃ！」
　それを聞いて、疲れ果てていた女性迅はグラディウスを梵兵衛のアイテムポケットに預け、スモークの中をひたすらに走り出した。
　その女性迅の尻を追っかけてソルヴィンが走る。
（「役得、役得♪」）
　……かわいいは苛立たしい事もあるが、かわいい故に苦労することもあるのである。ソルヴィンから見ればケルベロスの女性陣も充分過ぎるほど可愛かったのだろう。別の意味での可愛い被害を受けている女性陣。

　こうしてミッション破壊作戦は成功した。
　ケルベロスに栄光あれ。

作者：柊暮葉	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月25日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 6
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。