闘麺

作者:宮内ゆう

●マシ
 遥かなる高み。
 マシマシチョモランマ。
 完全なるロットが織りなす奇跡の饗宴。
 故にこの道は、武に通ず。
「着丼! からのぉ……天地返しッ!!」
「っとと、そんなものじゃないだろう。お前の武術は!」
 渾身の連携が、まるで吸われるように受け流される。
「ならばコールタイムだ! フライングは許されないぜ!!」
 怒濤の呪文で攻め立てる。しかして効果はない。
「こうなったら仕方がない……これが俺の、フィニッシュムーブだああああ!!!」
 すべてを終わらせるとどめの一撃。
 しかし、相手はそれでもなお意に介さぬように立ち続けていたのだ。
 それもそのはず、相手はドリームイーターなのだから。
「バカなっ……この俺が、撃沈だと……」
「いいや、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 僕のモザイクを晴らすほどではなかったけどね、とドリームイーターはいう。
 あとは語るまでもない。
 鍵を突き立てられた男から、新たなドリームイーターが現れたのだった。

●マシマシ
 ライドキャリバーのちふゆさんがラーメン持ってきてくれた。颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)は受け取り相棒を労った。
 この寒い時期にラーメンは良いものである。
 しかし彼女はなにやらしかめっ面。
「いやね、ちはるちゃん確かに言ったよ? ラーメン道は拳法に通ずるって言い出す奴がでるって。だけどさ……」
 ちゅるちゅる麺をすする。
「食べる方だとは思わなかったよ」
 とても大柄な男性が山奥で、意味わかんないくらい野菜やらにんにくやら調味料やらぶたやら山盛りのラーメンを食べながら修行に明け暮れていたらしい。
「そこにドリームイーターが現れたみたいですね」
 ヘリオライダーの茶太がそのまま説明を引き継ぐ。
 夢を奪われ昏睡状態に陥った男性から新たなドリームイーターが生まれ、すぐさま街を目指して動き始めたということだ。
 とはいえ今ならすぐに迎え撃つことが出来るだろう。
「うーん。いってる言葉はよくわからないんですが、戦闘方法はまあ普通っぽいですね」
 ラーメンと関係させた理由はよくわからない。
 きっとそういう味の濃いラーメンとか好きなんだろうきっと。
「とりあえずは人通りのない山中で相手できそうなので周囲のことは気にしないで大丈夫です」
 思いっきり戦って構わない。
 倒せば件の男性も目を覚ますので遠慮する必要は一切ないのだ。
「ラーメンと武。どう関わるものなのかさっぱり分かりませんが、まあ退治お願いします」
 そういってなんとも微妙そうなかおで茶太は頭を下げた。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
ダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)
リリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)
ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)
颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)
金剛・小唄(ごく普通の女子高生・e40197)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ

●3倍盛り
 ヤサイマシマシニンニクカラメ……。
 ニンニクマシヤサイカラカラ……。
 ニンニクアブラヤサイチョモランマ……。
 なんだかよくわからない呪文が聞こえてきた。ともすればドリームイーターはすぐそばに迫っているのだろう。
「でさぁ。どーゆーことなの」
 まだラーメンをちゅるちゅるすすりながら颯・ちはる(寸鉄殺人・e18841)が言う。平たく言えばアレ、拳法とかラーメンとか関連性が意味不明ということ。
「さすがのわたくしにもラーメンを食べることと拳法の関係性は全くさっぱりわかりませんね~」
 これには物知りおねーさんの鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)もお手上げ。
「ただひとつ、言えることがあるとすれば~」
 人差し指を立てて、顔を寄せてくる。
「わたくし、ラーメンはカレーラーメン派です~!」
「なんだってー! それなら私はどっちかと言えば焼きそば派だ!」
 思わず話に割って入る金剛・小唄(ごく普通の女子高生・e40197)。ラーメンも良いが焼きそばの方がお手軽感ある。まさにジャンクフード。
「でもどう戦うんだろう。何かしら、ラーメンで戦うって言ってほしいよね」
「けど~、食べ物を粗末にするようなら許せません~」
「ああ、それはダメよね、絶対」
 頷き合う小唄と紗羅沙のお嬢さんふたり。
「……」
 そんなふたりをながめて、年月の残酷さを噛みしめつつ、ラーメンを完食したちはるはライドキャリバーのちふゆさんを見た。
「これ、しまっといてくれる?」
 差し出されたゴミ。
 ちふゆさん、めっちゃ身体を左右に振る。生ゴミはやだって言ってるのがよくわかる。でもほかにしまっとく場所もないので渋々受け入れた。
 大丈夫、あとでちゃんと捨てるから。
「ふむ」
 呪文を聞き分け、ウィゼ・ヘキシリエン(髭っ娘ドワーフ・e05426)が進んでいく。
「やはりこれもフードファイターというものかの」
「ファイター? なんだ、そもそも戦士なのか」
 その言葉に応じて、アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)が首をかしげた。
「そも拳法家だしのう。もっとも、大食いや早食いなどのスタイルがあるとは聞くが……」
「ちょっとまって、拳法の話? ラーメンの話?」
「……どっちかのう」
 あまりに淀みなく言うものだからアンゼリカは混乱した。でもウィゼもわかんなくなってた。
「戦闘スタイルは分かりません。ですが、大食いか早食いかと言うのであれば……」
 静かに結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)が語り出す。
「どちらでもない、というべきでしょう。アレは量を競うものでも早さを競うものでもない。そう、ロットがすべて……!」
「え、何それヘビーユーザーなの?」
 なんだか玄人的なセリフを聞いてダレン・カーティス(自堕落系刀剣士・e01435)は驚きを隠せなかった。
「ほら、アレって有名なアレだろ? 豚の餌って言われるカロリーフー……」
「きしゃー、がおー!」
「うぎゃわー!!」
 足にリリウム・オルトレイン(星見る仔犬・e01775)が噛みついてきた。割と全力。
「ぶたのえさとはなにごとですかー! よのなかのラーメン屋さんにあやまってくださいですー!」
「いや、言いだしたの俺じゃねえしっていうか噛むな噛むな!!」
 スッポンの如く噛みついて離さない。
「いやぁ、今日はなんですか、ライオン、きつね、子犬にゴリラ……良い具合に動物園ですね」
 うんうん頷くレオナルド。彼は何か勘違いしているようだが、ここに動物のゴリラはいない。女子高生ならいる。
「イヤなんか納得してないで、この狂犬剥がしてくれませんかねぇ……って、なんだこの豚骨臭!」
 やや開けたところにでた瞬間、充満した香りが鼻腔を貫き、ダレンが顔をしかめた。
 極限まで圧縮した豚と脂の匂いのなか立ちはだかるドリームイーター、そしてその目の前には、ひとつのラーメン。
「えっ……なんですかあれ……」
 そしてリリウムは真実を知った。驚きに目が見開き、あほ毛がラーメンを指し示す。山のように、バケツからひっくり返して出したかのように綺麗な円柱型になった野菜が積まれたソレを。
「あんなのらーめんじゃないです…!」
 ひとは、理解できないものを目にしたとき、思考が停止する。

●ギルティ
「ラーメンが呼んでいる……」
 アンゼリカが前方に飛び上がり、一回転して着地。そしてとてもよく肥えてるドリームイーターへ構えを向けてみせる。
「麺をすする音を悲しみの音にはさせないさ。さあ、君のラーメンを見せてみたまえよ」
「イヤ何言ってるのよあなた」
 小唄が一言。
 動きはポーズは決まっているのに、セリフだけがとにかく変。
 だが、ドリームイーターはラーメンを食べ続けて反応しない。
「っていうか、アレがヤサイマシマシとかの奴かぁ……」
「ううん、見るだけできぶんがわるくなっちゃいそうです」
 げんなりしながらちはるとリリウムが顔を見合わす。
「しかし、こちらに注意を向けんのう」
「そんなにおいしいものなんでしょうか~」
 不意打ちしても良いのだがそんな雰囲気じゃない、ウィゼが首を捻り、紗羅沙が首をかしげた。
「なぁ、それ、そんな良いものなのか?」
「……」
 ダレンが声をかけるが返答はない。
「お~い」
「……」
「もしも~し」
「……曰く、神は沈黙を尊ぶ」
 ようやく反応した。
「神とはロットだ。ロットがすべてだ」
「ああ、そういう……ならば」
 その答えにレオナルドは合点がいったようだ。深く息を吸う。
「にんにくましましあぶらからめやさいちょもらんま!!」
 淀みなく宣言した瞬間、ドリームイーターが箸を置いた。
「ギルティというものを3つ教えよう。ロット乱し、撃沈、そして……」
 ぶわりと、圧が襲い来る。
「フライングコールだッ!!!」
「ぐ、ぬっ……!?」
 その身体からは想像もつかない、瞬速の踏み込みで一気に詰めてきた。そして冷気を帯びた一撃が叩き込まれる。
「ニンニクマシアブラ!」
「コイツもすでに達人の域ということ……かッ!」
 油断したわけでもない、だがそれでも一撃繰り出すだけで奇襲。レオナルドといえども受け止めるのが精一杯。
 もちろん、さらに重ねてくる一撃に対応は仕切れない。
「ヤサイカラカラ!!」
「くっ」
「させるか!」
 よこから小唄が割り込んでフォロー。ドリームイーターはとっさに飛び退いて回避したが、全体重を乗せて打ち込んだ拳は掠め、そのバランスを僅かに崩した。
 その隙を逃すダレンではない。
「このカロリーモンスターがッ!!」
「ぎゃわー、とまりませんー!!」
「おぐぼぉっ!」
 空中に道を作ったリリウムが突進してきた。後ろからぶつかった。ふたりしてドリームイーターにつっこんだ。ストライク。
「……という幻だったのです~」
 不意に青白い炎が浮かび上がりかき消えた。一瞬の後再び現れた炎がそのままドリームイーターを囲っていく。
 紗羅沙のおかげで今の事故はなかったことになった、ということにしたい。
「ちふゆちゃん! 合わせていくよ、足止めお願い!」
「え、ちょ、回復は!?」
 抗議なぞ知らぬ。
 ちふゆさんがドリームイーターを囲いスピンでその動きを押さえ込んでいく。
「足さえ止まれば……なんてね」
 ちふゆさんが駆け巡る中に、ちはるはいともたやすく入り込み、ドリームイーターに肉薄すると、ナイフでジグザグに斬りつけた。
 さらにおまけといわんばかりにカプセルが投げ込まれる。
「動かなければ、病気も待ったなし、じゃのう」
 ウィゼの言葉通り、少しずつドリームイーターに異変が生じ始める。
 思うように動けなくなりつつあるその身体に一瞬の戸惑いが表われた。
「ひとつだけ言っておこう」
 もう一度、アンゼリカが飛び込んできた。
「あまりもたもたしていると……伸びるぞ、この豚野郎」
 わざわざ接敵して至近距離からのフロストレーザー。ドリームイーターの腹が凍り付いた。

●インスパイア
 敵の動きさえ鈍ってくれば対応のしようもある。戦いに時間がかかればかかるほど、頭数のあるケルベロス側が優位になるのは至極当然のこと。
「ニンニクカラアブラマシマシ!」
「うおおおおおおおん!! いい加減にしろ!!」
 ドリームイーターの一撃を、小唄が叩き落とす勢いで殴り返した。
「さっきから見てれば、なんか言ってるだけで、ただの拳法じゃん!」
「ぐふっ……ならば見せよう、我が髄の髄。はああああああ!!」
 ドリームイーターが今までにない動きで力を蓄える。
「大豚ダブル!!」
 そしてバウンドして飛び上がった。
「い、いけません! きょうのえほーん!!」
 危機を感じたリリウムがとっさに飛び出し絵本を開く。
 中国4000年の歴史を誇る1000万の技を駆使し、リングの上で闘う男の物語。
 かつて残虐に身を染めていたころ出会った男に恥じぬ戦いをするべく、正々堂々とした戦いに挑む――。
「あーっと、てきのこうげきをゴングでうけとめましたですー!!」
 正々堂々とは。
 だが、ドリームイーターの体重を乗せた一撃はそれでは止まらない。
「フィニッシュムゥゥゥゥゥブ!!!!」
「ちゅうごくのひとー!!」
 ゴングごと潰れた。
「うぅん、やっぱり1000万の力を持つ人がペアでないとダメなんでしょうか~」
 残念そうに紗羅沙が言う。
 でもあの人、ソロの方が戦績が良いよね。
「まだまだ! これが全マシ!!」
「あー、ちふゆちゃん」
 動きで見切った。ドリームイーターが広範囲に攻撃してきそうなのを予期して、ちはるが指示。ちふゆさんが待ち構えていた掃射を開始する。
「ここだ! この豚野郎が相手じゃ締まりは悪いが、決めさせてもらうぜ!」
 たぶんずっと機会を窺ってたダレンがトドメに走る。だがしかし。
「その丼、すでにアヒルが乗っておるぞー」
「天地返しより生まれたこの秘技――燕返し!」
「地水火風の魔力をただ1つの裁きの刃と為す……これが、ジャッジメントセイバーだ!!」
「オオオォイイイイ! なんでみんなまとめて突っ込んでんのオオオオ!!」
 せっかくの見せ場と思ったのに、ウィゼもレオナルドもアンゼリカも突っ込んでた。
「ええい、こうなったらとにかくなんかかっこいいセリフ、セリフ……!」
「ふぉふぉ、それがお主の武器の異変、このドリルで終いじゃーっ」
「説明しよう! 燕返しとは目にもとまらぬ早業で麺を3回転させるという恐ろしい技であるっ!!」
「一心一気にかきこむ……もとい、切り込む!」
「ごちゃごちゃしすぎイイイ、セリフ思いつかねええええ!!」
 かくして、攻撃を受けたというより、4人から轢かれたといった様相で、ドリームイーターはぼろ雑巾のように吹っ飛んだ。
 だが、まだ息はあるようで、小唄の足下に転がり込んできた。
「カロリーいっぱいラーメン、たまには食べたいけど……ううん、ガマンもしなくちゃ」
 そういって、パチンとウインク。
「だって、太っちゃう☆」
 ドリームイーターは消滅した。

●巡礼
 なんやかんやあったが、ドリームイーターの討伐は成功。
 喜びのあまり興奮気味にあほ毛振りつつ、リリウムはレオナルドに飛び乗った。
 ぴょーん。
「それじゃー、らいおんさんのたてがみもふもふしますねー……ってええっ、もちもちです!?」
「はっはっは、いつも引っ張られていると思ったら大間違いですよ。これぞポン・デ・たてがみカバー! これを装着する限り、絶妙にたてがみを守ってくれるという優れものです! あと食べられます」
「おぉー!!」
 それを見てた小唄はちょっと羨ましそう。
「あ、いいなぁ。私ももちもちしてみたいかも」
「えーっと、なんか怖い絵面しか思い浮かばないんで許してください」
 なんか、こう力で引きちぎられるイメージ。
「ところで、やみのあんさ……」
 なんか言いかけたアホ毛をちはるが即座に掴んだ。ちふゆさんの収納スペースに押し込んだ。意外と入った。
「もがーもがー!」
「ああそうそう、ちはるちゃんひとつ知りたいことあったんだ」
 完全になかったことにした。
「こんな山奥でラーメン食べてたみたいだけど、自分でつっくったのかな。それとも出前したのかな」
「あ、そういえばそうだなぁ」
「む、そこは重要なのかの?」
 ダレンが納得したように頷くと、ウィゼが聞き返す。
「いや、出前だとすると別の店のラーメンってことになるし、作ったのならそもそも店のラーメンじゃないだろ」
 黄色い看板のあの店のぶたのえもといラーメンとは別物ということになってしまう。
 はたしてそれは今回のラーメン拳法を得るに相応しいものなのだろうか。
「どうでも良いんじゃないか?」
 アンゼリカがぶった切った。
 まあ、拳法とラーメンの繋がりも分からないままだったので、考えるだけ無粋というもの。
「なにはともあれ、食べ物を粗末にする拳法はなかったのですね~、安心しました~」
 ほっと胸をなで下ろした紗羅沙。こう見えて緊張していたらしい。しかし、緊張の糸が切れると、ふっと要求が沸いてくるものである。
「カレーラーメンが食べたくなりました~」
「あ、結局それなんだ」
 要求の内容はともかく、アンゼリカとしても気持ちは分かる。
「こうなるとラーメン食べなきゃ収まりがつかない、そうだろう?」
 これだけラーメンの話をしてきたのだ。豚の餌……は行き過ぎにしても、何かしらラーメンで満たされなければ満足できないというもの。
「ここは、被害に遭った男性を見つけてともにラーメンを食べなければ!」
 ぐぐっと拳を握ると、ダレンが思いついたように声をあげた。
「なら、この言葉は欠かせねえな!」
 そういって、どこか明後日の方向に指を突きつける。
「俺たちのラーメンはこれからだ!!」
「ごちそうさまでしたなのじゃ」
 でも結局ウィゼにシメを持って行かれたのだった。

作者:宮内ゆう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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