流閃の凶器

作者:夏雨


 某県の清掃会社。社員はすでに帰宅したことを示す消灯した事務所。
 会社の駐車場に停められているのは、1台の軽トラックのみ。トラックの荷台には、廃棄するために積まれた水圧洗浄機があった。そこへ現れた小型ダモクレスはクモのような脚で駐車場内を走り、荷台にある洗浄機を目指した。
 ダモクレスは特殊な力で洗浄機と一体化し、新たな機体を生み出す。
 洗浄機から改造された機体はトラックを踏み潰し、獣のような四足歩行の姿を現した。加圧された水が発射されるノズルが主砲として頭の部分に存在し、両前足の付け根からも前方にノズルが突き出している。
 頭のノズルから射出された水はビームのように一線を描き、アスファルトの地面に直線の切れ目を刻む。すると、ほぼ同時に数メートル離れた先の標識が真っ二つに寸断された。
 ダモクレスは動作確認を終えたかのように、隣接する住宅街を目指して移動を開始した。


「とある清掃会社の水圧洗浄機がダモクレスと化し、住宅街を襲撃することが判明しました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、招集されたケルベロスたちに向けて確認された予知の内容を説明した。
「洗浄機のダモクレスは、会社の駐車場から隣接する住宅街を目指そうとします。民家を襲撃し、人々からグラビティ・チェインを奪うのが目的です。放っておけば虐殺が繰り返され、多くの人命が失われるでしょう」
 駐車場へ赴き、住宅街に向かうのを事前に阻止することが求められる。
 原付バイクほどの大きさの四足歩行の機体には3つのノズルが備わり、無尽蔵に水流を射出する。ビームのように射出される水はマッハの速度に達し、あらゆる物質を撃ち飛ばす。その攻撃は『バスターライフル』と同等の性能を発揮する。
 イマジネイターは原形となった水圧洗浄機について触れる。
「加圧された水を噴射して外壁の汚れなどを落とす機械のようですが、原型の洗浄機も人に向けるのは充分危険なようです。ダモクレスによってより危険な代物となりましたが……皆さんの力で破壊に至るよう、力を貸してください」


参加者
源・那岐(疾風の舞姫・e01215)
霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
アップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)
源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)
シララ・クリーブ(クリーニングクリーニング・e38987)

■リプレイ


 人気の失せた駐車場に、破壊音と機械の起動音が交じる。
 廃棄されようとしていた水圧洗浄機が、新たな姿へ生まれ変わりダモクレス化した直後、ケルベロスという種類の攻撃対象を認識した。
 慌ただしく駐車場へとなだれ込む8人と2匹を品定めするように、洗浄機のダモクレスは順々にノズルの先端を向ける。
 ダモクレスの荷重によって大きく傾く軽トラックの荷台を踏みならし、アスファルトの上へと降り立った機体は、獲物に飛びかかろうとする前の獣のように低い姿勢を取る。
 両手に刀を構える源・那岐(疾風の舞姫・e01215)は、同時に戦闘域とを隔てる殺気の幕を張り出していく。発動された『殺界形成』は、域内に踏み入ろうとする者に不穏な気配となって作用する。
 住宅街側とは逆方向の会社の敷地側を背に位置取る流れを確認し、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)は警戒を促した。
「来るよ。警戒して」
 攻撃へのカウントを図るように、じりじりとトラックから移動するダモクレスだが、頭部のノズルから前触れもなく発射された水流が霖道・悠(黒猫狂詩曲・e03089)を襲う。
 反射的にロッドを握る手を掲げれば、水と共に何か鋭いものが皮膚の上で弾けたような感覚が走る。スパッと走る濡れた裂傷を見れば、撃たれたと言うよりも斬られたと言うのが相応しい。
「怖いなァ。ダモクレスのせいで。随分悪い子に、なったね」
 悠はそうつぶやきながら、ロッドから紫電をほとばしらせた。複数生み出した電流の柱を、ダモクレスとの間に防壁のように展開していく。
 悠のそばに寄り添うボクスドラゴンのノアールは、悠の傷を癒やすために自らの闇の力を引き出し、同時に攻撃への耐性となる力を注ぎ込んだ。
 戦鬼の目をその双眸に宿し、四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)は弓を引き絞るような態勢で刀を掲げると、
「再起したところ悪いけど……ここで、さよなら」
 狙いを定めた千里の一突きは瞬時に距離を詰め、刃をかわそうとするダモクレスの後ろ足の太もも部分を捉えた。千里が突き放った衝撃はその機体を駐車場の奥へと転がす。
 傷口から激しく火花を散らしながらも、ダモクレスはすばやく起き上がる。
「汚すのならばボクらがお掃除だ!」
 追撃を仕掛けるシララ・クリーブ(クリーニングクリーニング・e38987)は、自らのオーラを集束させた弾丸を撃ち出す。透かさず水流を撃ち出して応戦するダモクレスに対し、バケツに入った姿のボクスドラゴン、バケットくんは果敢に向かっていく。連続で撃ち出され、鋭く弾ける水流から逃れることは困難だったが、突き進むバケットくんはダモクレスへ強烈なタックルを命中させた。
 バスターライフルを駆使する詩月と源・瑠璃(月光の貴公子・e05524)は、確実に狙いを定めてダモクレスを駐車場の隅に追いやろうとする。
 四足歩行のダモクレスは獣と変わらない身のこなしを見せ、駐車場内を動き回って照準からそれようとする。
 致命傷こそ許さないものの、ダメージを蓄積させる障害の1人、瑠璃に対しダモクレスはノズルを向ける。


 射撃でけん制しながら接近しようとするダモクレスだが、ノチユ・エテルニタ(夜に啼けども・e22615)はその側面へと向かってすばやく回り込む。
 ノチユの気配に気づくダモクレスは急停止し、頭部分のノズルを向けようとした。しかし、水流が撃ち出される前にノチユの放った蹴りはダモクレスの腹部を突き上げる。
 ノチユの足には機体の重みがのしかかったが、わずかに機体を浮かせた拍子の凄絶な衝撃音が威力を物語る。
 瞬時に撃ち出される攻撃にも反応してみせるノチユは後退し、那岐の繰り出す炎弾がダモクレスの攻撃を隔てる。
「お掃除されるのはあなたの方デス!」
 機械化された体を駆使するアップル・ウィナー(キューティーバニー・e04569)は、高速で回転させた肘先をドリルのようにダモクレスに突き立てようとする。
 ギリギリで機体をそらし続けるダモクレスの動きを封じようと、詩月はアップルの援護に加わる。
 サブアームを支柱にして身の丈を超えるライフルを扱う詩月は、正確に相手の動きを妨害する。
 詩月の援護を受け、ダモクレスはアップルに装甲の一部を削り取られた。すると、威かくするようにノズルから何度も水を噴出させ始める。
 同じ線上に立つ詩月とアップルの立ち位置を見出したダモクレスの反応に、防衛の要を担う2人はいち早く行動に出た。
 3つのノズルからから放出される水流が1つの奔流と化し、鉄砲水のように詩月とアップルに向けて放たれた。
 刀を構え、那岐は水流の前に立ちはだかる。受け止めた那岐の刀によって水流は2つに裂けたように見えたが、持ち堪えるのはわずかな間しか叶わない。吹き飛ばされる那岐だが、狙われた2人には逃げる余裕を与えた。
 一度那岐を吹き飛ばして水流の勢いは止まったが、激しい駆動音を響かせながら詩月からノズルを逸らさない。
 再び激流が放たれようとする瞬間に、盾になろうとする悠は果敢に挑む。水流にさらされた体は瞬く間に限界を超えて吹き飛ばされるが、水の勢いは打ち消された。
 その機に乗じて、シララはエネルギー体の光る盾を具現化させる。光る盾を悠の前に浮遊させたシララは、傷を癒す能力を発散させて悠を包み込む。同時に、千里は自身の周囲を舞うカラスアゲハに語りかけた。
「さあ……クロ……⼀緒に踊ろうか……」
 そのカラスアゲハは金属細工のような光沢を放ち、千里の言葉に応えるように、たちまち流動する金属体と化す。宙を水のように流れ、千里の背中に蝶の羽を形作る金属体。はばたく羽からは鱗粉のごとく輝く粒子が舞い散り、鉄砲水にさらされた那岐らの傷に作用する。
 飛び交う水流は止むことはなく、支援の手を尽くすかたわら、激しい攻勢に耐える者にも目を配る。
「これ以上水を浴びるのはごめんです。瑠璃、援護して」
 一層気を引き締めて刀を翻す那岐は、瑠璃からの支援を頼る。
 『必ず食い止めてみせるよ』と瑠璃が意気込みを返すなり、那岐はダモクレスとの距離を詰めようと向かっていく。
 那岐の鋭い勢いに気づいたダモクレスはノズルを向けるが、瑠璃からの銃撃を受けて怯む様子を見せた。弾かれた機体に向けられた那岐の刃は、頭のノズルを斬り落とそうと激しくダモクレスを斬りつけた。その衝撃はダモクレスを凄まじい勢いで突き飛ばすが、
「さすがに頑丈ですね」
 わずかに根本に入った切れ目を認めた那岐はつぶやいた。それでもゆっくりと起き上がるダモクレスは損傷を隠し切れない節がある。


 どこからともなくちりんと鳴る鈴の音を合図にしたように、うごめく影がダモクレスの足元へ群がる。その影は無数の黒猫たちのかたまりで、「にゃあ、お」という悠の鳴き真似と共に、鋭い爪を立てながらダモクレスに必死にすがりつく。
 ダモクレスは猫たちを振り払おうと何度も体を揺り動かすが、次第に身動きが取れなくなる。
 飛びかかろうとするノアールとバケットくんだが、ダモクレスは頭部のノズルだけを動かして水流を射出し続ける。
「大人しく潰れろよ、粗大ゴミ」
 ノチユが向けた杭打ち機の先端は射出された水流を弾き、容赦なくその機体を砕こうとする。
 砕け散るアスファルトと一緒に吹き飛ぶ黒猫たちは、空気に溶け出すように姿を消していく。
 頬にはねた水滴をぬぐいながら、ノチユはひとりつぶやいた。
「嗚呼、今日は調子がいい」
 役目の終わった掃除道具なら、何の引け目も感じずに済む。
 地獄化されたノチユの片翼と角は暗灰色に燃え、笑みさえ浮かべるノチユの口元をうっすらと照らし出す。
 ノチユの視線の先のダモクレスはバラバラにこそなっていないものの、腹部の下の基板がむき出しの状態になっている。
 すでにボロボロの機体はぎこちない動きが目立つが、放たれる水流の勢いは衰えない。
 油断ならない攻撃を放ち続けるダモクレスに対し、スポンジを手にしたシララは掃除好きらしい特有のスタイルで治療に専念する。
「ボクのお掃除はどんな汚れだって落とすよ! キミの洗浄力にも負けないよ!」
 水流が裂傷を刻むと同時に、触れた箇所から冷気が侵食し始め、体中を凍りつかせようとする。表面の水から霜へと変わる冷気の侵食を汚れと捉え、『汚染が検出されました、クリーニングプロセスを開始します』というシステム音が鳴り響く。
 シララのスポンジからはフローラルな香りの泡があふれ出し、泡で包み込まれた箇所は霜も傷口も跡を残さない状態に近づいていく。
「ハートの弾丸、受けてみなサイ!」
 ダモクレスに向けて投げキッスの構えからハート型の光線を放つアップル。その愛らしい仕草に反して、ハートのエネルギー体に込められた力は対象を爆砕する威力を発揮した。
 詩月は最後の段階となる攻撃に備え、コンパウンドボウの全長を広げる。それと同時に、周囲にはバッと御札が舞い上がり、防壁のように詩月を囲んで布陣する。その間にも、自らの力を引き出す瑠璃の手には、月の女神の力を具現化した大剣が現れる。
「月の元にて奏上す。我は鋼、祝いで詩を覚えし一塊なり。なれど我が心はさにあらず――」
 楽器のように矢のない弦を鳴らしながら、儀式のように詩を唱える詩月のかたわらで、瑠璃は大剣の切っ先を引きずる。
「うん、ちょっと重いけど――」
 強大な力から生成された大剣を軽々と扱うのは難しいものの、日々鍛錬を重ね続ける瑠璃の肉体はそれを支えるだけの力を発揮する。
「――許し給え。我が心のままに敵を打ち砕かんとする事を」
 張り詰めた弦との間に見えない力が発生するように、詩月の周囲の札がふわりとはためく。
 ダモクレスは最後の力を振り絞るように、詩を唱えた詩月へと襲いかかろうとするが、不可視の矢がダモクレスの不意を突く。ノズルと胴体のつなぎ目付近を穿つ一撃が決まった瞬間、
「行くよ!」
 一気に大剣を振り抜く瑠璃はダモクレスをなぎ払った。そして、機体はとうとうバラバラに砕け散る。
 転がり抜けたノズルからわずかに水を噴き出したダモクレスは、遂にただの鉄屑となった。

 ダモクレスの始末を終え、駐車場やその周囲の修復に励む中、
「瑠璃、お疲れ様。帰ってお⾵呂はいりたいよね。皆さんも、濡れた服だと気持ち悪くないですか?」
 そう声をかけた那岐はグラビティの特殊能力を駆使し、濡れた服を叩くだけで元の綺麗な状態に戻して回る。そこで1人ダモクレスの残骸を見つめる千里に気づき、どうしたのかと尋ねると、
「機械に取り付く⼩型ダモクレス……⼀体どこからやってくるのか……気になって――」
 手がかりを求める千里は、破片の1つ1つを熱心に確かめていた。

作者:夏雨 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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