いちごに深紅をトッピング

作者:そらばる

●真っ赤な襲撃者
 いちごのソフトクリームにしぼりたてジュース、いちごジャムを練り込んだパンに、ケーキやパイ、大福などのスイーツも盛りだくさん。
 多種多様にいちごを堪能できるいちご祭りは、甘酸っぱい香りに満ち溢れ、大いに賑わっていた。
 メインブースでは豊富な種類の摘みたていちごが所狭しと並べられ、パック詰め放題や食べ比べの催しで、多くの人々を惹きつけている。
 そこに、不意に奇妙な少女が現れた。
「あら、きれいな赤ね。でも、これだけじゃ物足りないわ」
 見た目は十代半ば。真っ赤な髪に真っ赤な瞳。フリルのついた真っ赤な傘をさして、真っ赤な生地をふんだんにあしらったゴスロリワンピに、細緻な意匠の編み上げブーツ。
 人々は驚き後ずさった。少女の周囲にだけ、空白地帯が生じていく。
 愛らしい立ち姿は、背が高すぎた。会場の誰もが見上げるほどに。
 長身の少女は戸惑う人々を振り返ると、にっこりと微笑みかけた。傘を畳み、ステッキを振るようにして、優雅に横に振るって見せる。
 ――深紅が走った。周囲に立っていた人々の喉元から、鮮血がとめどなく噴き乱れる。陳列されたたくさんのいちごに、真っ赤な鮮血が降りかかる。
「ほぉら。もっともっときれいな赤になったでしょう……?」
 くすくすくす。妖しい忍び笑いが、阿鼻叫喚の会場を這うように響いていった。

●赤色大好きエインヘリアル
「思った通りだ、いちご祭りがエインヘリアルに狙われるって!」
 風の如く元気よく、シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)が張り上げた声に、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は深々と頷き返した。
「左様にございます。ご慧眼でございました」
 アスガルドにて重罪を犯した、罪人エインヘリアルによる虐殺事件。
 今回の標的は、人で賑わういちご祭り。虐殺が為されれば、多くの命が無残に奪われるばかりか、恐怖と憎悪を人々に伝播させ、地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅らせてしまう可能性もある。
「現場へと急行し、いちご祭りを襲撃するエインヘリアルの撃破を、お願い致します」

 敵はエインヘリアル1体。名を、クリムという。
「赤色に偏執的な嗜好を示し、とみに血液の色を好む異常者でございます。見目は愛らしい少女なれど、スケール感は一般的なエインヘリアルそのもの。体長3メートルまでには少々寸足らず、といったところでございましょう」
 真っ赤な傘を武器として用い、杖のように振るい離れた場所にいる数人の体を掻き斬る、細剣のように素早い連続突きを仕掛ける、開いた傘をクルクル回して血の霧を散布する、といったグラビティを使用する。
「クリムが現れるのは、いちご祭り会場中央のメインブース周辺。皆様が会場に駆けつけられるのは、敵出現直前となります」
 あらかじめの避難誘導は予知を違えるし、前もって何かをしておく時間的余裕もない。
 クリムが現れた直後に周囲を取り囲み、同時に人々の避難誘導を始める、という流れになるだろう。
「会場のひとたちの誘導は、おれがやる」
 隅で静聴していた近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)が名乗り出た。鬼灯は頷き返す。
「他の方々は確実に敵を引き付け、戦いに専念なさいますよう、お願い致します」
 罪人エインヘリアルは使い捨ての戦力。戦いが不利になろうとも撤退しようとはしない。存分に戦うことができるはずだ。
「見目に似合わぬ凶悪な犯罪者。人々の楽しい時間と命を奪う者を、野放しにはできませぬ」
 鬼灯はしかとケルベロス達の目を見つめ訴えかけたのち、口許を綻ばせた。
「クリムさえ撃破できれば、いちご祭りは即時再開できましょう。皆様も来客者として、祭りを存分にご堪能ください」


参加者
ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)
ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)
ジェミ・ニア(星喰・e23256)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)

■リプレイ

●赤の誘惑
「きれいな赤ね。でも、これだけじゃ物足りないわ……あら?」
 真っ赤ないちごの並ぶ棚の前で、楽しげに振り返ったクリムは、微笑んだまま可憐に首を傾けた。
 異常な長身の少女の周囲に空白地帯には、武装した複数の人影が滑り込み、完全にクリムを包囲していた。
「3メートル弱の少女か……「少女」の定義がいまいち解らなくなるが」
 この場で自分がやることまで解らぬほどではない。そう小さく呟くと、ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)は近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)の肩に力強く手を置くと、深い赤色を基調とした戦鬼の衣を翻し、人々へと声を張り上げた。
「我々はケルベロス! これよりデウスエクスを駆除する! 皆はこのヒダリギ殿の誘導に従い、落ち着いて避難せよ!」
 初老の戦士の、冷厳なる鉄槌にも似た言葉が、瞬く間に会場中の空気を切り替えたのがわかった。
「避難はお任せします、ヒダリギさん!」
「何かあればすぐに報せてね」
 ロゼ・アウランジェ(アンジェローゼの時謳い・e00275)とアウレリア・ドレヴァンツ(瑞花・e26848)に次々と託され、ヒダリギはしっかりと頷き返すと、移動を始めた人波の中へと身を投じた。
「出口はあっちだ。おさないで、おちついて、まえのひとについていってくれ」
 ヒダリギ達の尽力により、潮が引くように去っていく人々。順調な様子に胸を撫で下ろすと、アウレリアはクリムへと視線を戻して顔を引き締めた。
「この先にはいかせないのよ。ひともいちごも確り護るの」
「皆に手出しはさせません! 女性と言えども手加減はしませんよ!」
 ジェミ・ニア(星喰・e23256)は人々を巻き込まぬよう布陣し、クリムに向けて毅然と言い放った。
「絶対に通さないよ」
 避難誘導に従うように呼びかけていた天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)も、人々を庇う形で立ちふさがり、真っ直ぐに敵を見据える。
 標的に逃げられ、隙なく包囲され、クリムはさぞや面白くなかろう……と思いきや、彼女の瞳はきらきらと輝き、目の前のケルベロス達に釘付けだ。
「こちらですよ、お嬢さん」
「ここに鮮やかな赤色があるよー!」
 ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)とシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)の兄妹によって息ぴったりに前へと押し出されたのは、見事な赤毛のゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)。傍らのライドキャリバーのライキャリさんも赤々と塗装されており、主従揃ってクリム好みの赤色に輝いているのである。
「苺スイーツのために! ――ンンッ、人々の平和を守るために! 頑張るぞ!」
 幼馴染たちの信頼(?)に背を押され、ほとんど全部漏れてしまった本音を咳払いで誤魔化して、堂々と胸を張るゼロアリエ。
「まぁぁ、素敵! 私の一番大好きな赤には劣るけれど……」
 クリムは実に嬉しそうに手を打つと、赤色の目立つゼロアリエとライキャリさんとダンドロとをえり好みするように見回した。
「赤が赤を浴びれば、もっと素敵になるわよね?」
 畳まれた真っ赤な傘が、優美な軌跡で真横に払われた。

●赤の舞踏
 真っ赤な血液が飛散した。細かな飛沫が返り血となってクリムに打ち付ける。
 クリムは頬に付着したわずかな血を拭い取り、赤く汚れた白い指を見下ろし、物足りなそうに目を細めた。
「意外と硬いのね?」
 不可視の斬撃は前衛を薙ぎ払った。が、ケルベロス達の備えや盾役たちの咄嗟のフォローもあり、急所を深々と掻き斬るには至らなかったのだ。
「貴女のお相手は私達。1曲踊ってくださいな?」
 常磐の瞳をきらめかせ、ロゼは光輝く粒子に包まれる。Chocolaによるオウガ粒子の放出に、金蜜の髪と七彩の薔薇がそよぎ、歌姫をいっそう華やかに演出する。
(「苺は鮮度も大事! フレッシュな苺が乾燥しないうちに素早く倒さねば……!」)
 有無を言わさず、緩やかな弧を描く斬撃で的確に斬り込むジェミ。人々のため、そしていちごのために全力だ。
 足元を狙った斬撃に動きを鈍らせるクリム。アウレリアのクロリスの息吹が蔓触手で畳みかけ、縛り付ける。
「いちごの赤で満足できないとか、こんなにおいしいのにもったいない! 大好きないちごのお祭りを血色には染めさせないよ」
 元気いっぱい、風のように一直線に飛び出すシエラシセロ。電光石火の蹴撃が、敵の腹部にクリーンヒットする。
「可愛らしい姿なのに、血が好きだなんて……人々に血を流させるわけにはいきませんね……!」
 妹とは対極の穏やかな気性を持つラグナシセロは、一生懸命に守護星座を描き上げ、仲間に膨大な耐性を施していく。
「うーん心なしか頭の方に目線を感じる気がするな! でも俺は苺祭りのためにも負けるわけには行かない……!」
 ゼロアリエも紙兵で耐性を仲間たちにばら撒く。詩乃の攻性植物が輝く果実を実らせ盤石にし、ダンドロはLycurgusによる魂うつしで攻撃手を強化していく。
「やぁね、痛いわ。おイタはだーめ。……あーでもどうしよ」
 クリムはくすくすと笑いながら、フェンシングのように構えを取った。傘の先端は迷うように少しだけ泳いだが、結局赤色の誘惑には抗えず、ダンドロへと連続突きを繰り出した。傘の赤色が執拗な残像を描きながら、降り注ぐように打ち付ける。
「豊饒を司りし神々よ、我らに赦しを与え給え」
 フライヤの施し。ラグナシセロは月の光を浴びて祈り、ダンドロの傷と不浄を消し去っていく。
「周辺施設を壊されると被害が広がりそうだよね……なるべく建物とかブースは巻き込まないように立ち回ろう!」
 Code:Agastyaからオウガ粒子を放出しながら、詩乃は仲間達に注意喚起する。避難は順調だが、油断はできない。
「それにしてもこの若人の中に年寄り一人とは、この祭りに乱入してきたあやつ並みに似合わぬものよ」
 ぼやき、軽く嘆息するダンドロ。それでいて、皆の中で己が技量は一段劣ると認め、だからといって気負うこともしない。『盾』としての役目を全うすべく、【鉄心】による光の盾を前衛に展開していく。守護をえたジェミがすかさず踏み込み、雷の霊力を帯びた神速の突きでクリムを牽制する。
 ケルベロス達はクリムの付与してくる状態異常を警戒し、守りを厚く、辛抱強く陣を敷いた。
 クリムはケルベロス達の攻撃を弱体化させ、ダメージが蓄積してくると、赤の断頭台によってケルベロスの生命力を奪い回復してしまう。自然、情勢は長期戦の様相を呈してきた。
 幸い、クリムは戦闘でも赤を好み、攻撃の多くは盾役が引き受ける事ができたが、それも全てとはいかない。
「うーん。なんだかうざったくなってきちゃった♪」
 唐突に赤の驟雨が狙いを付けたのは、耐性と弱体化の増殖に没頭していた、中衛。
 強烈な連続突きが、ラグナシセロに容赦なく降り注いだ。

●赤に染まる赤
「ラグ!!」
 大切な兄の名を呼び、浅からぬ傷を負ったその姿に、シエラシセロは怒りを瞳に燃やして敵を見返った。
「よくもやったね!」
 考えるより先に体が動いたとばかりに、シエラシセロの肢体はクリムの眼前に躍り上がっていた。流星煌めく蹴撃が、強烈に長身を打ち据える。
「押し返します!」
 オウガメタルを鋼の鬼へと変え、ジェミが鉄拳を叩き込んだ。強烈な一撃が、防護を破り取りながら、クリムを背後へと押し込む。
 その隙に、傷ついたラグナシセロへと治癒が殺到した。
「染まれ、藍より青く、空より鮮やかに!」
 藍染。ゼロアリエは青いインクで奔放に絵を描き、浄化と治癒を与えていく。
「内蔵兵装起動、対象の身体状況をスキャンします……完了。魔術回路接続、多元輻湊術式起動――完璧に癒やすよ!」
 A.A.code:SHIRMA。詩乃は腕部の外装甲下の魔術回路に仕込まれていた治療術式を起動し、多重の治癒魔法を展開する。
 会場の隅から隅まで網羅し誘導を終えたヒダリギ達も、長引いていた戦線に戻り、治癒をサポートする。ケルベロスの陣営は迅速に立て直し、敵の攻撃を凌いでいく。
「しつこい、なぁ……っ?」
 広げた傘を肩に預けてクルクルと回そうとしたクリムが、ひどくぎこちなく動きを止めた。重ねられ、増殖された捕縛が、その攻撃を許さない。
 敵の限界が近いことを見取り、ダンドロは眼光鋭い眼差しを細めた。
「時に、自分の血の色は嫌いとか申さぬよな?」
「ええ、大好きよ!!」
 動きを制限されながらも、きっぱりと即答するクリム。
 ダンドロの口許からは呆れ混じりの呼気が漏れる。もちろん、相手の嗜好を叶えることになろうとも、容赦はしない。
「死後の世界が闇ではなく、朱に染まっているとでも期待して逝くがよい」
 全身に溜めた力を載せた、超高速斬撃。精密極まる軌跡を描いたDiadochoiに打ち据えられ、クリムの長身が大きくのけ反る。
「今よ! ――その花は、あなたを逃がさない」
 朱花。アウレリアはゆるやかに紡ぐ。花よ、華よ。応えて。艶やかに、禍々しいまでの、赤い花が、大地を埋め尽くす。噎せ返るような甘い香り、眩むような芳香は、絡みつくように、クリムを捕らえて――逃がさない。
「真っ赤な苺、甘酸っぱくて美味しい苺、大好き! けれど貴女のその赤は違う。悲しみを招く赤を散らせるわけにはいかないの」
 ロゼはまっすぐに拒絶を叩きつける。
「貴女の為の鎮魂歌を歌います。真っ赤な夢に抱かれてお眠り」
 時護り。一族に伝わる時空と伝承の詩。絢爛の歌声が心震わせ魔を穿つ。
「ジゼルカ、行くよ!」
 炎纏うライドキャリバーと共に、突撃を仕掛ける詩乃。高速演算で構造弱点を算出し、クリムの至近距離で痛烈な一撃をお見舞いする。
 ジェミの影の中から、漆黒の矢が生まれ出でる。
「餮べてしまいます、よ?」
 Devour。矢は尾を引いて変幻自在な軌道を描き、クリムを射抜く。
「くぅ……っ!?」
 生命力を奪われていく感触に、クリムが呻く。それはあたかも、捕食者による容赦なき略奪。
 続けざま、ラグナシセロはジグザグに変形させたナイフで懸命に斬り込み、クリムの動きをいっそう縛り付けると、旧知の二人を振り返った。
「今だよ、シェラ、ゼロ様……!」
「オッケー! ささっと終わらせなきゃ。いちごが待ってる!」
 風切羽。召喚した光鳥の群れの中から、二羽を羽根を模したナイフへと変え、シエラシセロは群れと共に風の如くクリムの懐に飛び込んだ。鋭い斬撃、光還りゆく鳥たち、最後まで寄り添うような、切ない鳴き声……。
 と、ほぼ同時、ゼロアリエの親指が、敵に向けて掲げた朝空のスイッチを力強く押し込んだ。
 激しい爆発が、クリムを蹂躙し、その血肉を散らせていく――。
「ああっ、赤い! 赤いわ、わた――」
 どこか恍惚としたクリムの声は、爆発音に掻き消され、永遠に途切れた。
 敵の死を見届けたゼロアリエは、くるりと仲間たちを振り返り、天高く拳を掲げた。
「――待ちに待った苺スイーツ! 全制覇目指すぞ!」

●赤くて甘酸っぱくて、笑顔
 ケルベロス達が注意深く戦ったおかげで、会場は損傷も少なく、壊された部分も瞬く間に修復を終えた。
「これで大丈夫かな。苺祭り再開!」
 ロゼは笑顔を弾けさせると、『大好きな人』の元へと駆け寄っていく。
「お待たせ」
 アウレリアもまた待ち人の元へと駆け寄った。慈しむように頭を撫でられて、嬉しそうなアウレリア。そうして二人手を繋ぎ合い、ほどよく戻り始めた人波の中に溶け込んでいく。
「良い匂い」
 復旧した中央ブースに並ぶたくさんのいちご。ジェミは甘酸っぱい香りを、胸いっぱいに吸い込んで堪能する。こっそり試食に混ざって味見させてもらいながら、
「なんていう品種なのですか? お取り寄せも大丈夫?」
 などなど、しきりにお店の人に質問を投げかけていく。脳裏に思い浮かぶのは、家で待つ一人と一匹の顔。
「家族のお土産にするのも良いかな」
「だよね! 私も寮のみんなにお土産にするんだ。おばーちゃんには特別に、いちご大福もつけちゃおうかな」
 詩乃もどれが一番甘いか食べ比べ、楽しそうに吟味に吟味を重ねていく。
 若者たちの微笑ましい姿を見届けたのち、ダンドロは踵を返した。若い者は若い者同士がよかろう、とぼやきつつ一人会場を巡る。目的は茶菓子用のいちご大福だ。
「美味い茶に美味い菓子、そして人々の笑顔。一仕事終えた後の何よりの褒美よ」
 購入した大福を茶屋の一角でほおばりながら、ダンドロは取り戻した平和を存分に堪能するのだった。
 一方、シエラシセロ、ゼロアリエ、ラグナシセロの三人組は、賑やかに店舗巡りに興じていた。
「まずはチョコ系アイス系あたり行っときたいよね!」
「いいね、めいっぱい楽しむよ!」
「シェラには負けない……!」
「ボクこの前食べ過ぎたから今回は控えめ……やっぱ無理!」
 ゼロアリエとシエラシセロの軽口は途切れることを知らない。あれもこれもと苺スイーツを次々平らげていく。
「はー、やっぱ甘いモノ最高! どれもうま~」
「ロアずるい! それボクの! 次はアレおごってよね!」
「わかったよー。でも普通に食べる苺も最高に美味しいよね! 旬って最高だ~」
「うんうん、いちご最高! って、ラグ食べてる? これおいしいよ!」
 戦闘中から目をギラつかせていたように見えたのは、どうやら気のせいではなかったらしい、とラグナシセロは吐息を零す。
「二人とも、食べすぎないかな……お腹こわさないでね……?」
 などと心配しつつも、ラグナシセロはラグナシセロで女子力がむくむくと湧き上がり、スイーツを写真に撮ったり、レシピをこっそり聞き出したり、今後の参考にとばかりに資料を蓄積していくのであった。
「綺麗な盛り付け、美味しい味付け、思わず笑顔になるね。楽しいお祭り、ちゃんと守れてよかった……!」
 楽しく美味しい苺祭りは、カップルも御用達。ケルベロスからも二組のカップルが絶賛漂流中であった。
「美味しいね!」
 いちごジュースで乾杯して、いちごケーキに舌鼓。ロゼははにかみながらも、甘くてあまくて幸せな時間を噛みしめる。
 彼女の話を聞きながらいちごを一つ食べると、アレクセイはやにわに身を乗り出した。
「それでね、苺の花言葉は【尊重と愛情】だっ……?!」
 不意に唇を塞いだ暖かな感触に驚き、固まるロゼ。一拍置いて、いちごのように真っ赤になる。
「まるで苺みたいだね、可愛い」
 喜んでもらえた? 少し意地悪な質問に、ロゼは恥ずかしそうに目線を逸らし、小さく頷く。
 今日で一番、甘い苺でした、と。
 ……一方、いちご大好きなアウレリアは、右も左もいちごづくしな会場に目をきらきらさせていた。喉が渇けばいちごミルクを堪能し、亮のソフトクリームと交換してもらったり。
「いちごミルク……そんなに絶品?」
 目を瞬きつつ問われれば、蕩けた顔であむりとアイスを堪能しながら、
「ミルクといちごの組み合わせを考えたひとは天才なの。ミルクといちごの配分が絶妙なのよ」
 語る言葉には熱が入る。絶賛の口振りに、恋人はくすりと笑みを零し、その美味を分け合った。
 たくさんのいちごと時間を共有し、締めに寄ったのはケーキ売り場。
「帰ったら珈琲を淹れて、いっしょにたべよ」
 タルトにシフォンケーキにティラミスにぷりん。包みを片手に、ほくほく顔のアウレリアはきゅっと相手の手を握る。
 倖せも、美味しさも、あなたと。
 いちご祭りに溢れる、甘酸っぱい香りと笑顔。
 幸せそうな人々の姿を見渡して、詩乃は思う。
(「この笑顔を護れてよかった」)
 空に恋をして人になったレプリカントは、この空の下で生きるたくさんの人々の笑顔を守れたことを心から喜び、澄みきった笑みを浮かべるのだった。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 6
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