ミッション破壊作戦～苛むは鬼か幻か

■リプレイ

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　女木島上空。
「直径６０ｍものバリアに一撃与えた後、どの方角へ着地するかで脱出経路も決まるが……」
　リューディガー・ヴァルトラウテ（猛き銀狼・e18197）は、女木島の地図を広げて、如何に素早く脱出するかを思案していた。
「翼飛行でもあればまだしも望み通りの方角に落下できるかは……難しいかもしれんな」
　ミッション破壊作戦自体が『撤退戦』であるとよく心得た彼だからこそ、思い通りの地点に着地して地図を活用できるかも楽観視せず、そっと地図を閉じて宙空へ歩み出た。
「よくよく考えたら、オーク退治の依頼って今回が初めてだわ」
　と、余裕を持って感慨に耽るのはソフィア・フィアリス（黄鮫を刻め・e16957）。
「まだ被害が少なくてもオークをのさばらせるわけにはいかないし、少しでもダメージ入れときましょ」
　まるで散歩に行くかのような気軽さでパッとヘリオンから外へ出るソフィア、流石は年の功である。
「あれが女木島ね。大して大きくもない島だけど、風情の分からない豚には宝の持ち腐れね」
　レイス・アリディラ（プリン好きの幽霊少女・e40180）は、童顔に似合わぬ辛辣さで淡々と言い放つ。
「魔空回廊とかいう敵の根城をグラディウスで壊せばいいのよね？　思い切り叩きつけてやるわ」
　豪語するなり、村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）の横をさっさと通り抜けるレイス。
「先に行くわよ」
　そう告げてひらりとヘリオンの床を蹴った。
「ああ」
　頷いて応じた柚月は、一見するとリラックスした風情で乗降口の前に立つ。
「女木島には桜並木があると聞く。解放できた暁には、是非見に来たいね」
　彼の趣味は自らの心の赴くままに調査を行う事で、もうかなりの期間ミッション破壊作戦に従事している模様。
「……行くか」
　なればこそ、柚月は気負いなくグラディウスを手に、回廊目掛けて降下していく。
　胸の内に熱い想いを秘めて。
「さぁて、今回の作戦で果たして破壊できるかどうか……」
　ピンっとコインを弾いて、グラディウス８振りによる回廊攻撃の成否を占うのは、卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）。
「裏か……まァ、外れる事を期待して行くかね」
　泰孝は、受け止めたコインをポケットへ仕舞うや、アイズフォンで同地域で活動中のケルベロスを探したり島内の道路情報を確かめたりしていたが、
　——げしぃっ！
「ゴフッ？！」
　さっさと行かんかいとばかりに、彼と仲の良い小檻から理不尽に蹴りを入れられ、そのまま落下していった。
「鬼ヶ島に鬼退治……っていうか豚退治か。何か締まらないわね」
　橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125）は、眼下に広がる細長い島を眺めて、そう呟いた。
「でも、デウスエクスであることに変わりはないし、大きな被害が出る前に丸焼きにしてやるわ」
　蓮っ葉で誰に対してもざっくばらんに接する性格で、連れているテレビウムの九十九とは、お揃いのメイド服を着ているのが可愛らしい。
「んじゃ、行くわよ！」
　ガバッとグラディウスを掴み、芍薬は気合を入れて飛び降りた。
　一方。
「女木島……かあ。かつては鬼ヶ島だったって伝承もあるって話だっけ」
　豊田・姶玖亜（ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077）は、女木島の愛称である鬼ヶ島の由来となった桃太郎の伝説へと思いを馳せた。
「でも、伝説の鬼さん達は、触手でペロペロとかしてた話なんて残ってないようだし、やっぱりあの子豚さん達はパチモノだね」
　島の地図を確認せずには居られないのかひと通り目を通してから、姶玖亜はニヤリと笑ってヘリオンの外へ身を躍らせた。
　他方。
「初めてのミッション破壊作戦だけど……それを理由に失敗する気はない」
　信田・御幸（真白の葛の葉・e43055）は、固い声音で呟いてから、
「あの子のためにも出来る限りの事はやらせて貰うよ」
　グラディウスがベルトにチェーンで繋がっているのを手で確かめ、張り詰めた空気を纏って空へ跳んだ。

●
　８人はグラディウスの刃を下に構えると、まだまだ寒い上空を流れ流れて、勢いと落下速度の乗った突撃を見舞う。
「オーク共……女性を陵辱し、生まれてきた無垢な赤子を殺す外道」
　チェーンストラップでベルトと繋がったグラディウスを握り締めるのはリューディガー。
「人の愛情、そして命を冒涜するその本質は、正に卑劣、残虐、鬼畜の極み！　最早貴様等には、一片たりとも同情の余地はない」
　元警察官という経歴故か、人一倍の正義感を有する彼の言葉は力強い。
「俺には愛する妻がいる。もし最愛の妻がこんな輩に……などと想像しただけで虫唾が走る」
　また、愛妻家で将来は子どもをもうけ、暖かい家庭を築くのが夢だそうな。
「この島は、俺たちケルベロスが必ず解放する。人々の安寧のため。尊い命と心を守るために」
　それだけに平和な家庭を壊す犯罪者へは厳しく、性犯罪者に等しいオークなら尚の事怒りが込み上げるのも道理だろう。
「貴様ら鬼畜共は、この地上から一匹残らず駆逐してやる……！」
　憤怒の咆哮を上げたリューディガーが突き出したグラディウスは、彼の激情を現すかのように、満杯のグラビティを湛えていた。
「メギシマの桜って綺麗っていうじゃないの」
　次いで、ソフィアが静かな闘志を燃やしてグラディウスを振るう。
「楽しくお花見させてもらうためにも、ブスイな奴にはどっか行ってもらって、この島を取り戻させてもらうわよ！」
　女木島を救いたい強固な意志をぶつけるように、光の小剣をバリアへ突き刺すも、通り一遍の叫びが刀身へ伝わらず、溜まったグラビティはほんの僅かであった。
（「瀬戸内海のこの辺りは結構色んな小島があるのよね」）
　降下中にも視線ばかりは周囲へ巡らせて、女木島と隣接した男木島を遠目に眺めるのは芍薬。
「香川は讃岐うどんも美味しいし、島は綺麗で観光にはもってこいなんだけど……あの豚どもは景観の邪魔ね」
　グラディウスの柄をしっかと掴んで、豚と嘲罵したくなるぐらいのオークへの怒りを滾らせる。
「このまま放っておくと、四国側にも本州側にも辿り着かれそうだし、何としてもここで魔空回廊ごと吹っ飛ばしてやるわよ！」
　威勢の良い掛け声と共に、芍薬は幾許かのグラビティが篭ったグラディウスを思いっきり突き立てた。
「女木島は救うべき物が少ないから、助けを求める声が少ないから、助けに向かうのは後でいい？　——俺はそういう考えが大嫌いだ！」
　柚月は、この時ばかりは日頃の冷静さをかなぐり捨てて、熱い魂の叫びを上げる。
「自分たちが見放されているとわかれば人はすぐ絶望の淵に落ちてしまう。支え合う存在がなければ耐え忍べる時間もわずかだ」
　普段口に出さないまでも、何よりデウスエクスの被害に遭った人々——殊に魔空回廊のせいで地元を追われた人々の短くない苦しみを慮って、
「だからこそ、今を逃せば消えてしまうかもしれない島の人々の希望の灯を守ってやりたいんだ！　俺は全てを助けたい！」
　ミッション地域の解放は急務だとありったけの声を張る柚月。
「島に巣食うオークをぶっ潰して、決して女木島を見捨てていないことを！　希望を失わないでほしいということを！」
　握り締めたグラディウスがみるみるうちにグラビティで満たされ、溢れんばかりに眩い光を放つ。
「一刻も早く島の人たちに伝えたいんだよ！」
　柚月は確かな手応えを感じながら、バリアへ一番目立つ損傷を残した。
「鬼ヶ島の鬼気取り、人口密集地帯へのとっかかりか？　下卑た笑いにドラゴンが後ろ盾、なんて態度も気にくわねぇ」
　青々と広がる瀬戸内海を臨みながら、そう苦々しく険しい表情になるのは泰孝。
「暴れまわって泣き顔増やされちゃ何のためにオレたちが居るのかってなるんでね。好き勝手できるのも今日まで、鬼退治の番犬がご到着ってなぁ」
　オークに苦しめられる被害者の心情を顧みる様たるや、普段の自由気ままな彼からは考えられない真摯な態度である。泰孝の口からケルベロスとしての矜持が聞けるなど、誰が想像したろうか。
「さておき観光地ジャックまでしたんなら接客担当には御代を支払おう」
　紐で腰に結わえていたグラディウスを右手で構え、全力で振り下ろす泰孝。
「グラディウスの一撃だ、釣りはいらねぇ、とっときな！」
　彼の思いの丈に呼応してグラビティを充満させたグラディウスが、バリアへ深々と突き刺さった。
「女木島にオークの群れとは、冗談にしても笑えない……かつて鬼ヶ島だったという伝承にしては、ロマンの欠片もない鬼さん達だ」
　姶玖亜は、ロマン主義な視点から、オークへの憤りを露わにする。
「段々畑の石垣は、人の手が入らないと荒れ果て、船は人が動かさないと朽ち果てる。悪い子豚さん達には、早々にお帰り願おうか！」
　快活とした彼女らしい義憤に燃えた大声で、ゆっくり光を増すグラディウスをバリアへと叩きつける。
「島の人々が安心して生業に励めるように、島外の人々が安心して島を訪れられるように、現代の鬼退治と洒落込もうじゃないか！」
　姶玖亜の女木島の人々を守りたいと言う熱意に嘘は無くても、他の仲間に比べるとグラビティの量は残念ながら奮わない。
　女木島ならではの想いも確かに大事だが、場所に拘るあまり観光ガイドのようになって本気さが伝わらず、己の内なる熱が空回りするのは芍薬やソフィア同様大変惜しい所である。
「あなたたちの凶悪さは目に余るわ。ただでさえ恐怖の対象とされるオークにその目、その牙、その体……まさに鬼に金棒ね」
　鈴を転がすような声で皮肉に呆れてみせるのはレイス。
「そんな人間の最低最悪な天敵を野放しにしておくほど私も愚かではないわ！」
　率直な義侠心を魂の叫びへ乗せて、グラディウスにグラビティを順調に注いでいく。
「もし四国本島への侵攻を許せば人間に与える恐怖・絶望もそこらのオークとは比べ物にならないでしょうしね」
　レイスは一般人の命だけでなく心の平穏が崩れるのも憂いて、紫電一閃。
「侵略者が生き長らえる糧を最も生み出し、より長く、より苛烈に星を蹂躙する未来が見えているのだもの——真っ先に潰すに決まっているでしょうが！」
　グラディウスもレイスの吐露した憤懣に共鳴し、バリアにしっかり刀傷を刻みつけた。
「あの子はドラゴンのせいで孤独になった。あの子はオークに純潔を踏みにじられた。そしてあの子はまた貴様らに穢された……」
　御幸は、呪詛を吐くかの如き地を這う声で、恋人の苦難をつらつらと述べる。
「あの子の人生を蹂躙した貴様らを絶対に許さない、女の敵どもめ――悉く根切りにしてくれる。これ以上好きにはさせない。その邪な欲望の犠牲を一人でも減らしてみせる」
　最近想いが成就した恋人の来し方が聞くのも辛いものであれば、過ぎた事と済ませられないのも当然だ。
「あの子の復讐の一部を引き受けよう、あの子のためなら修羅にも羅刹にもなってみせよう」
　悲壮な覚悟の滲んだ声が、グラディウスへグラビティを充填させる。
「鬼ヶ島の鬼気取りなど片腹痛い、まして禍津など大言壮語にもほどがある」
　貴様らは名も無き有象無象として――ここで死に晒せ！
　御幸が魂の叫びと同時に放った一撃は、リューディガーや泰孝と同じく、魔空回廊のバリアへ深く長い亀裂を齎した。
　バリバリバリバリバリ！！
　８人の魂が宿ったグラディウスは、強襲型魔空回廊のバリアへ大きな亀裂を幾筋も刻みつけ、爆炎と稲光を生み出した。

●
　もうもうとスモークが立ち込める中、オークの絶叫が其処彼処から響く。
　グラディウスの起こした炎に巻かれたり雷に撃たれたりした外道禍津衆の声である。
　ケルベロス達は、それぞれベルトやホルスターに仕舞ったり服に結わえたりとグラディウスを持ち直して、視界の晴れぬ道を駆けた。
「禍津を崇めずに同胞へ仇なすのはお前らブヒか……」
　そこへ、何本もの触手蠢く人影——もとい豚影が立ちはだかる。
　太く荒い刃の鉄剣を携え、濃いピンクの触手が醜悪さを醸し出す、強化型外道禍津衆だ。
「出たな、鬼畜な豚め」
　リューディガーが、ゾディアックソードで守護星座を描きつつ、苦々しい顔つきになる。
　かつて、ドン・ピッグが保身の為に仲間を見殺しにするのを見て以来——多少なりとも同族への情があったローカストと異なり、オークは最早愛情や信頼、仲間意識とは無縁の、一切の和解の余地のない邪悪——と認識している為だ。
「見なさい！　オーク達がまるでゴミのよう……って、スモークで見えないわね」
　ソフィアは、遠隔操作型縛霊手『イノセント・プレイ』で紙兵散布に励みつつ、そんな事を言った。
　速攻を作戦の主軸にしながらいささか服破り対策が過剰なのは、今回行き先選びが難航した為、運が悪かったと言う他ない。
「触手を奥まで突き入れたるブヒ！」
　それでも強化型外道禍津衆がこちらの事情を斟酌してくれる訳もなく、厳しく剣と触手で攻めてくる。
「ふん……外道禍津衆なんて大層な名前だけど、所詮はオークね」
　ソフィアを庇っててらてら光る肉鞭の餌食になった芍薬が、負けん気の強い瞳で睨めつける。
「何か可愛げがないわね、肉も硬そうだし」
　と反撃に喰らわせたのは、赤熱した掌から熱エネルギーを体内へ送り込む火葬である。
　九十九は応援動画を芍薬へ見せて気力を奮い立たそうと一所懸命だ。
「斬りごたえのある肉塊だな！」
　意気揚々と月光斬を放つのは柚月。
　戦いは続いた。
「勧善懲悪の昔話に、教育に悪い内容は盛り込めなかったのかな？　子ども達が寝る前に読んでもらう絵本の鬼さんがペロペロだなんて、逆に眠れなくなっちゃいそうだよ」
　姶玖亜は、強化型外道禍津衆の足下に絶え間なく銃弾を撃ち込み、無様なダンスを躍らせる。
「というわけで、その教育に悪いものは残らず撃ち抜かせて貰うよ」
　しかし攻撃の手数不足から戦闘が長引くにつれ、強化型外道禍津衆の触手突きの命中精度が冴えに冴え渡り、メディック達でも回復が追いつかず、時間がかかれば尚の事一撃で倍の威力を食らう回数が増えてきた。
「今日は医者としてはオフだ。一人の番犬として殲滅する」
　そんな気概を持って白衣を着ていない御幸も、幻影を付与したり緊急手術したりと忙しい。
「無事に脱出しないとソフィアおばあちゃんから孫——いや、お小遣いせびれねーからな」
　やる気満々で魔力より生まれた百点棒を投擲する泰孝だが、運悪くディフェンダー勢の次に倒れたのは彼だ。
「柚月、手を貸しなさい。愚かな豚に闇の鉄槌を下すわ」
　柚月へ混沌の鈍い光を分け与えるのはレイス。
「わかった、乗ってやるぜ！」
　呼吸を合わせた彼と強化型外道禍津衆の固肥りな腹を交差するように斬り裂き、何とか引導を渡した。
「ブヒっ」
「体が痛いブヒ……女を嬲って紛らわすブヒ！」
　だが、外道禍津衆達が意識を取り戻しわらわら集まってきた為、撤退は困難を極めた。

作者：質種剰	重傷：橘・芍薬（アイアンメイデン・e01125） リューディガー・ヴァルトラウテ（猛き銀狼・e18197） 卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412） 豊田・姶玖亜（ヴァルキュリアのガンスリンガー・e29077）  死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月28日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 1／キャラが大事にされていた 3
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