美しき死の剣舞

作者:天木一

「ハァッ!」
 山の木々に囲まれた中、ヒラヒラした青いアオザイ風のカンフー服を着た若い女性が手にした倭刀を振るう。刀が美しい軌跡を描いて空を切る。
「フゥ……ハッ!」
 中国拳法を思わせる舞うような軽やかな動きと共に、振るわれる刀が幾重にも弧を描く。美しくありながらもその一振りごとに必殺の気迫が込められていた。
「ハィアッ!!」
 細身でありながら筋肉質な体が跳ね踊るように、仮想の敵の周囲を回りながら連撃を放ち、全身を切り裂くように刃を走らせて舞いが終わる。
「はぁ、はぁ、はーー」
 ゆっくり深呼吸しながら、刃を潰した倭刀を腰の鞘に納めた。
「今日は最後まで思った通りに舞えたわ」
 満足そうに動きを思い返しながら、ゆっくり動きを再現していく。
「剣はただ強いだけじゃダメ。これからの時代も伝えていくのなら美しさも備えた、そう……最強の美でなくてはならないわ!」
 抜き打つ刀もただ振るうだけではない。足の先から手の指まで全てが意識して躍動している。正に全身の力を使った動きだった。その背後に気配を感じさせずに幻武極が降り立つ。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 そう言葉を掛けられると、まるで操られるように女性は倭刀を振り抜く。美しく舞うように跳ね飛びながら刃を幾重にも振るって斬撃を浴びせ急所を狙い突きを放つ。刃の合間には蹴りも叩き込むが、幻武極はじっと攻撃を無傷なまま受け続けた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 刃を振るい続ける女性に幻武極は手にした鍵を胸に突き刺す。すると女性に傷は無いが意識を失い倒れ込んだ。
 倒れた女性の隣には、同じ姿をしたドリームイーターが生まれ出る。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極の声を聞くと、女性のドリームイーターは手にした真剣の倭刀を振るい舞い踊る。見惚れるような美しき舞いに合わせて銀閃が奔り、周囲の木々が全て斬り倒された。
「美しさこそ強さ」
 そして刀を鞘に納めると、山の麓にある町に向かって歩き出した。

「新たな武術家ドリームイーターを見つけました。次の相手は舞うように剣を振るう女剣士のようです」
 西院・織櫻(櫻鬼・e18663)が新たなドリームイーターの事件をケルベロス達に告げる。
「ドリームイーターの幻武極が新たな剣術の稽古をしている女性を襲い、自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしたようです」
 隣に立ったセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)から詳細な説明が始まる。
「結果モザイクは晴れませんでしたが、新たなドリームイーターを生み出し人々を襲わせようとしているようです」
 生まれたドリームイーターは女性の理想の武術家の姿となっている。その武は一般人では太刀打ちすることが出来ない。
「今ならまだ被害が出る前に敵を迎撃する事が出来ます。町に辿り着く前に撃破し人々を守ってあげてください」
 敵の進路は分かっているので、山から町に続く道で待っていれば自然と遭遇する事になる。
「ドリームイーターは30歳程の女性の姿をしています。中国拳法の動きと剣術を混ぜ、倭刀を使い舞うような動きで闘う武術を使うようです」
 身軽な動きで敵を翻弄し、刀を振るって敵を斬る。美しい見た目に反して恐ろしい殺傷能力を持つ。
「現れるのは兵庫県にある山の麓の町です。戦場となる周辺は避難警報が出て通行止めされています。一般人を巻き込む心配をせずに戦う事ができるでしょう」
 一般人は既に町の方へと逃げ、到着時には山へと続く道に人っ子一人いない状況になっている。
「敵は己の武を使ったり人々に見せつけたいと思っているようです。皆さんが戦いを挑めば堂々と戦いを受けて、決着が着くまで戦い続けます。ですので巻き込む心配なく全力で戦い、敵を倒し武術を奪われた女性も助けてあげてください」
 説明を終えたセリカが急ぎヘリオンの準備へ向かう。
「美を求める武。あながち間違ってはいないかもしれません。武も極めれば美しい動きをするようになりますから。どれほどの武なのか、死合いが楽しみです」
 織櫻の言葉に武を求めるケルベロス達も頷き、意気揚々と戦いの準備に取り掛かった。


参加者
白波瀬・七緒(契り・e01799)
浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)
草間・影士(焔拳・e05971)
西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)
西院・織櫻(櫻鬼・e18663)
レイヴン・クロークル(水月・e23527)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)

■リプレイ

●女剣士
 町から少し離れた山道でケルベロスは足を止め、道を塞ぐようにして山の方を向く。
「なんとも、同じ刀を振るう武人としては放っておけないわよね」
 柔らかい口調で白波瀬・七緒(契り・e01799)は煙草に火を点けて余裕をもって待ち構える。煙を飛ばすように山の冷たい風が吹き抜ける。
「30程の女性が働きもせずに山奥に一人で住んでるなんて……家族の人心配して無いのかな?」
 そんなずれた事を心配しながら、浦葉・響花(未完の歌姫・e03196)は寒そうに温かなジャケットの襟を上げた。
「美を求める武……ね。わたしも、それには同感よ」
 寒そうな露出の激しい服を着た西院・玉緒(夢幻ノ獄・e15589)が平然と笑う。
「舞うように戦うってどんな感じなのかなぁ? とっても気になるよね!」
 うーんと想像していたイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)が元気に仲間に振り返る。
「美しさこそ強さ、か。確かに完成された武術ってのは美しいものも多い。強さと美しさを併せ持つ武術の使い手、どんな戦いになるか楽しみだぜ」
 楽しい戦いになりそうだとティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)は笑みを零す。
「体術と剣術を併せた武術ですか、私が求めるのは至高の刃。しかし至高の刃にはそれに見合う技もなければ……舞のような武技、私自身の糧としましょう」
 静かに西院・織櫻(櫻鬼・e18663)は己が内に闘気を高めてゆく。
「夢喰いが暴れて、剣舞そのものが愚弄されるのは我慢ならないな」
 地獄化した左眼で遠くを見ながらレイヴン・クロークル(水月・e23527)が思い出すのは、脳裏に焼き付く程の美しき剣舞だった。
「どうやら現れたようだな」
 周囲を警戒していた草間・影士(焔拳・e05971)の視線が道の先に人影を捉える。近づいてくるとそれが青いアオザイ風のカンフー服を着た腰に刀を下げた女性である事が分かる。目標の武術家ドリームイーターが現れたとケルベロス達は戦闘体勢に入った。

●武と舞
「あら、別嬪さん」
 そんな軽口を叩きながら七緒はオウガ粒子を放出し、仲間達の超感覚を目覚めさせる。
「私の舞を見にきたのかしら?」
 女剣士は倭刀を抜き放ち、ゆらりと刀身を揺らした。
「その風体に剣。話しに聞いていた武術使いか。美しい剣舞とやら、存分に見せてもらおう」
 堂々と前に立った影士が隙なく光の剣を構える。
「ハァッ!」
 それに応えるように敵も剣を振るい、刃が交わり光が舞い飛んだ。
「身のこなしと刃を見るに、武を修める方と見えます。私も至高の刃を目指す身、貴方に死合いを申し込みます」
 正面から織櫻は勝負を挑み、間合いを詰めて二刀を抜き放つ。放たれる剣閃が奔り四肢を斬りつける。
「受けて立ちましょう」
 その足を狙う刃を刀で防ぎ、腕から血を流しながら女剣士は反撃の突きを放つ。
「そんな寒そうな恰好でよく居られますね。冷えは女性の大敵ですよ」
 響花は紙兵をばら撒き、仲間達を護るように配置されたそれは刃に貫かれ勢いを落とさせる。その間に織櫻は横へと飛び退いた。
「こちらも一つ、御指南頂けるかしら? 得物は違えど、目指す道は同じ」
 ジャケットから二丁拳銃を抜いた玉緒が構えると敵が飛び掛かって来る。刃を舞うように躱しながら玉緒は懐に入り、左の銃底で脇腹を叩き右の銃口に付いたスパイクで刺突を胸に突き入れた。すると女剣士も舞うように刀を振りながら近づく。
「まずはBSをいっぱい付けちゃうからね!」
 イズナは緋色の蝶を手のひらからそっと放ち、幻想的な光の蝶が強制的に敵の視線を釘付けにする。
「舞うというのなら、まずは足を封じのが常道だ」
 そこへレイヴンは鎖を猟犬の如く放ち、敵の足に絡みつかせて動きを封じた。
「さて、楽しませてもらうぞ」
 勢いをつけて跳躍したティリルは真っ直ぐ矢の如く蹴りを放ち、受け止めようとする刀を押し込み敵を吹き飛ばした。
「こちらこそ楽しませてもらうわ!」
 鎖を刀で断ち、跳ね起きた女剣士は刀を幾重にも振るい舞い踊る。それは見る者を惑わす幻想的な舞だった。心惑わされ近くのケルベロス達の攻撃の手が緩む。
「見る者を惑わす剣か、だが……」
 レイヴンは戦場を駆け抜け、舞い散る花びらが仲間達の惑わされた心を正常に戻し、テレビウムのミュゲも応援動画を流して仲間を元気づけて癒す。
「おっさんの相手もしてもらおうかしら」
 踏み込んだ七緒はメタルを腕に纏わせて勢いのまま殴りつける。拳が腹にめり込み吹っ飛ばした。
「美しさと強さ。容易く両立できるものではないだろう。その武術には興味があるが、今回はゆっくりと見せて貰っている場合ではないな」
 そこへ炎の如きオーラを纏った影士は横から飛び蹴りを放ち、敵の体を地面に叩きつける。
「年期では劣るけど……現時点での、わたしの最強の美を魅せてあげる。味わって、感想を聞かせてくれるかしら?」
 挑発的に言いながら、玉緒は軽やかに跳び上がりピンヒールで蹴りを浴びせた。だが蹴った後の足を斬りつけられる。立ち上がる女剣士の前を響花が立ち塞がる。
「わたしも武術の心得があります。相手をしてもらいましょう」
「いいわ、相手をしてあげる!」
 放たれる刃を響花は地面に素早くしゃがんで避け、相手の足を刈るように蹴り払う。敵が倒れながらも放つ二の太刀を響花は仰け反って躱した。
「空を舞う鳥であろうとも、この刃で貫いてみせましょう」
 刀に雷を纏わせた織櫻は大きく踏み込んで追うように間合いを詰めて突きを放つ。敵は体を回転させながら回避しようとするが、間に合わず斬り裂く刃が背中から血を撒き散らした。
「まずは小手調べだ、受けてみろ!」
 妖刀を抜きながらティリルは間合いを詰め、無造作に上から斬り下す。体勢を立て直しながら敵も刀で受け止めるが、勢いに押され肩に刃が当たる。すると敵は蹴りを放ってティリルの体を押し退けた。
「舞うように華麗に戦うって素敵だね! わたしも、槍とか武器の使い方は上手なんだよ。えへへ、わたしの槍と手合わせ(演舞)してほしいな♪」
 槍を手にしたイズナは突っ込み、雷を纏って体当たりする勢いで突きを放ち腹部に突き立てる。
「おっさんも剣の腕には少し自信があるの。この剣閃、見切れるものなら見切って頂戴な」
 刀を抜いた七緒は、周囲の空気を歪ませて己が分身の幻を作り、一斉に激しく舞うように斬撃を浴びせ、防ごうとした敵の刀は幻を斬り、本物の刃は胴を斬り裂いた。
「動きが速いなら、搦め手を混ぜていきましょう」
 縛霊手を腕に嵌めた響花は踏み込み拳を胸に叩き込み、同時に霊糸を巻き付けて敵を拘束する。
「ハァァッ」
 雁字搦めになる前に、女剣士は刃を振るい拘束を抜け、響花に向けて斬撃で手足を狙い、蹴りで敵の注意を逸らすと連撃を浴びせて全身に傷を作っていく。
「確かに強い。そして美しいと言っても良いだろう。だが、それだけで負けてやれる程この戦場は甘くないんでな」
 影士は光の剣を振るい敵の攻撃をいなすと、蹴りを放って腹を打ち抜いた。
「多重攻撃を前に、舞続ける事が出来るか、見せてもらいます」
 続けてすれ違うように駆け抜けながら織櫻は右の刀で胴を薙ぐ。同時に敵から放たれた撫でるような首を狙う剣を左の刀で受け止めた。
 脇から血を垂れ流し女剣士は跳躍すると、空から無数の斬撃の雨を降らす。
「あくまでも、剣での斬撃に拘るのね。……ふふ。嫌いじゃないわ、そういうの」
 笑みを浮かべながらするりと滑るように近づいた玉緒は、炎の軌跡を描きながら回し蹴りを叩き込み撃墜した。
「……確かに強く、美しいな。俺が知っている舞手には劣るが、夢喰いのお前なら尚更劣る」
 本物の剣舞はこんなものではないと、レイヴンは縛霊手で敵を殴りつける。すると敵は剣で受け流すが、放たれる霊力の網が剣と腕に絡みついた。
「わたしも蝶々とか舞わせたりして綺麗だと思うけど、そういうのとはちょっと違う感じだよね? 洗練された動きっていうのかなぁ」
 敵の動きを止めようとイズナは緋色の蝶を飛ばし、敵はそれを見ないように咄嗟に背を向けた。だがその動作が隙となる。
「なかなかやるじゃねぇか、ならこれはどうだっ」
 ティリルは刀を横に薙ぐ。それを敵は屈んで躱し刀を振るおうとするが、そこへティリルは前蹴りを叩き込んで転ばせた。

●剣舞
「この程度だと思わない事ね、美しさを上げていくわ!」
 跳ね起きた女剣士は、流れる血など気にも止めずに舞を始める。
「足元がお留守になってるわよ」
 そこへ七緒は鎖を伸ばして足に絡ませ引っ張り寄せて妨害し、影士がチェーンソー剣を振るうと、敵も剣をぶつけ受け止めた。
「たとえ美しくなくともそれで勝てれば易い。そしてそれはこれからお前が屈する強さだ」
 体重を込めた影士がチェーンソー剣を押し込み、駆動する刃が敵の肩を抉る。
「屈するのはそちらよ!」
 ゆらゆらと切っ先を揺らし、そこから目を惹きつける剣舞を始めケルベロス達の心を侵食する。
「何度でもその幻惑を打ち破ってやる」
 レイヴンが戦場を縦横に駆け、舞う花びらが仲間達の心を晴らし、ミュゲも動画を流してそれを手伝った。
 玉緒はくるりと回転しながら懐に入り込み、後ろ回し蹴りでピンヒールが側頭部を突き刺す。
「わたしの舞はどうかしら? 気に入ってもらえた?」
「ええ、私には及ばないけれどね」
 女剣士の風る刃が玉緒の足を撫で、跳ねあがった脚が腹に突き刺さろうとする。
「素早くとも蹴りが来ると分かっていれば防げます!」
 響花は腕で蹴りをガードし、回し蹴りをお返しする。すると敵も素早く次の蹴りを繰り出し蹴りと蹴りがぶつかり合い、両者が弾けるように下がった。
「成程、無駄に見えながらも、舞の動きで剣筋を読ませぬ武技ですか、面白い」
 口の端に笑みを浮かべた織櫻は斬り上げる刃で敵の刀を弾き、反対の刃を払うように振るい脚を斬りつける。
「もう輪舞が踊れなくなっちゃうくらい痺れさせてあげるよ」
 近づいたイズナは槍を払って刀を弾き、隙を作って胸を突く。敵は仰け反って刃は肉を浅く裂くに留まった。
「いいえ、どれだけ傷つけようと踊り続けてみせるわ!」
 傷だらけで死が近づいた女剣士は、一層殺気を漲らせて剣速を上げ舞ながら斬り掛かって来る。
「面白れぇ、ここからは本気だぜ」
 凶暴な笑みを浮かべたティリルは呪詛を放つ刀に弧を描かせ、袈裟斬りに肩から胴へと抜け赤い鮮血を撒き散らした。
「最後は剣の勝負で決着といくわよ」
 分身した七緒は一斉に斬り掛かる。敵もまた舞うように刃を振るい分身を消し飛ばしていく。
「本物が分からぬなら全て斬るわ!」
 そして刃と刃がかち合い火花を散らした。互いに舞うような剣が幾度も火花を咲かす。そして敵の刃が腕を裂き、七緒の一撃が逆袈裟に体を斬った。
「ハアアアッ!」
 女剣士は気合で刀を振るい首を飛ばそうとしてくる。
「見切りました」
 先と同じように響花は屈んで避けながら蹴りを放ち足を払おうとする。すると敵は跳躍して躱し、上から飛ぶ鳥の如く飛び蹴りを放ってきた。それに対して響花は腕で受け止め仰け反らされるが、お返しにと下から敵の体を蹴り上げた。
「美しき舞を見てしになさい!」
 空中で剣舞が始まり、斬撃の雨が響花の体を斬り裂いていく。
「強さと美しさはイコールではない」
 鋭く飛び込んだ影士が薙ぎ払うように蹴りを放ち、防ごうとする剣ごと炎纏う脚が敵を叩き落とした。
「最後の舞に付き合ってあげるわ。リードは、わたしがしてあげる」
 同じく舞うように玉緒は敵の攻撃を避け、左右の銃を鈍器とする連撃を敵もまた剣で弾く。互いに舞い合うような華麗な演武が続き、やがて静止して退治すると刃が玉緒の肩を貫き、鈍器が女剣士の肋骨を打ち砕いた。
「人の武を盗む夢喰い如きに、剣舞を汚させる訳にはいかん」
 レイヴンは地獄化した左眼から溢れる焔を弾丸へと変え、それは迸る白雷となり空を切り裂き一瞬にして敵に届いて撃ち抜いた。
「ハアアアアア!!」
 腹に穴を空けながらも、女剣士は刀を離さない。
「こいつを喰らいやがれッ!」
 大上段に刀を構えたティリルは、真っ二つにする勢いで刀を振り下ろす。敵はそれを受け止めるが、刃は中ほどから折れ刃が額を割っていた。血に顔を染めながら女剣士は反撃の刃で脚から狙う。
「こっちを見ないと危ないよ?」
 背後からイズナは敵に向かって槍を放り投げる。それは容易く弾かれるが、その隙に光の蝶を目の前に飛ばしていた。視界に入れてしまった敵は思わず魅入って動きを止めてしまう。
「その武技、私の糧としよう」
 踏み込みながら織櫻は右の刀で突きを放つ。それを敵は跳ねるようにして上へと躱し、上段から剣を振り下ろす。対して織櫻は更にもう一歩踏み込み左の刀を突き上げた。女剣士の剣は肩を斬り裂き、織櫻の刃は胸を貫き串刺しにした。
「がはっ」
 血を吐き力尽きた女剣士の体が薄れ消えた。

●美しさと
「助ていただいてありがとうございます」
 介抱を受けた女性が事情を聞き頭を下げる。
「本物の方が別嬪さんね。とっても綺麗な剣舞だったわよ。また立ち会ってみたくなるくらいにね」
「すっごく舞い綺麗だったよっ、オリジナルなのにすごいね!」
 元気づけるように七緒が優しく微笑み、興奮気味にイズナが戦闘風景を語る。
「なかなか楽しめたぜ、その調子で精進するんだな。そうすりゃもっと楽しい戦いが出来そうだ」
 ニヤリとティリルが笑ってその時が来るのを楽しそうに想像した。
「ええ、もっと鍛錬するつもりよ」
 女性も強く頷き、まだまだ強く美しくなりたいと願う。
「それだけ真剣なら、もっと美しく舞えるようになるだろう」
 夢喰いなどよりよっぽど美しい舞が出来るだろうとレイヴンが告げる。
「美しさと強さ。それを極めるのは困難な道だろう。だが、だからこそやりがいはあるというものだろう?」
 そう言って影士は不敵な笑みを見せた。その笑みに釣られるように、女性も破顔し深く頷いた。
「人の事情と生活に口を挟む訳では無いけど、たまには家族に会いに行ったら、30程の女性が職や結婚もせずに山奥で過ごしているのは心配してると思うから」
「え? あ、いえ、私はここが実家で仕事もちゃんと……」
 響花のしみじみとした言葉に女性が説明しようとしたが、響花は全て分かっているという顔で女性の肩を優しく叩いた。
「今回の死合いは貴方の糧になりましたか。暫くは休養が必要になるでしょうが、また機会があれば死合いましょう」
 今は休息が必要だと織櫻が体を労り、元気になればまた鍛錬を積めばいいと励ます。
「あなたの美、とても参考になったわ。お礼に、食事でもどう?」
 微笑しながら玉緒は手を差し伸べる。
「ええ、是非!」
 手を取り女性が腰を上げる。ケルベロス達は女性をエスコートし町へと向かうのだった。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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