ラーメン大好きビルシャナさん

作者:天枷由良

●ラーメン以外は滅ぶべし!
「特にうどんを始めとする小麦粉原材料のやつな! それを作るための粉でどれだけラーメンが作れるか! ああもう、考えるだけで腹が立つ! 貴重な小麦を無駄にしやがって!」
「そーですね!」
「大体、ラーメンより優れた麺類など存在するはずがないだろう! そば屋、うどん屋よりもラーメン店の方が多いことがそれを証明している!」
「そーですね!」
「よしよし、貴様らが大変利口であるのもラーメンのおかげだな! ラーメン最高!」
「ラーメン最高!」
「素晴らしい! 気分が良くなってきたから――ラーメンでも食うか!」

 そんな感じで。町外れの倉庫に屯するビルシャナが、信者七人に熱弁を振るっていた。
 このまま放っておけば、いずれ更なる面倒事を起こすだろう。
 そうなる前に信者たちを目覚めさせて、ビルシャナを退治しなければならない。

●ヘリポートにて
「ビルシャナの活動が予知できたわ」
 ミィル・ケントニス(採録羊のヘリオライダー・en0134)は淡々と語りだす。
「今回は『ラーメン最高! 他の麺類は滅すべし!』という教義を持っているビルシャナよ。影響を受けた信者は七人。ひと気のない倉庫に集まっているようだから、信者の皆さんを目覚めさせたあとで、ビルシャナを撃破してちょうだい」
「……これは大変な事件だよ!」
 佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)が息巻く。
 彼女が得た情報による予知だからか。それとも麺類に一家言あるのだろうか。
 多分後者だ。なぜなら彼女は二月ほど前、うどん祭りなんかに参加していたのだから。

「ビルシャナは、ラーメンを称える呪文や調理に欠かせない大火力を模した炎で攻撃してくるのだけれど……こういう事件に関しては、もっと考えるべきことがあるのよね」
「信者の皆さんをどうやって説得するかですね!」
「そうね。ラーメン以外滅べという乱暴な教義だから……やっぱり、こっちも乱暴な感じでやっちゃったらいいのかしらね? 色々な麺を茹でて目の前で食べてみせるとか、食レポしてみるとか」
 そんなことでいいのか、としばしば思われないこともないが。
 大事なのは論理性なんかよりインパクトとも言われる。がつんと頭を殴りつけられるような――今回で言えば『ラーメン以外もいいものだ』と感じられる衝撃的な何かを、見せつけてやればいいのだろう。
「具体的に何をするかは皆次第だけれど、ラーメンを茹でちゃうとビルシャナの教義を肯定しかねないから、そこは注意してね」
 ミィルがそういって説明を終えようとしたところで。
「……あ、今回もお手伝いするから。よろしくね」
 フィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)がほんのりと同行を申し出て、話は終わった。


参加者
リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)
エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
カッツェ・スフィル(黒猫忍者系ドラゴニ娘ー死竜ー・e19121)
眠姫・こまり(矛盾した眠り姫・e44147)
峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)

■リプレイ

「やめろ、やめてくれ!」
 信者たちが悲痛な叫びを上げている。
 しかし眠姫・こまり(矛盾した眠り姫・e44147)と佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)は止まらない。
 ちらりと信者に一瞥くれた後、まっさらな小麦粉に手を突っ込み、ちょろちょろと『塩水』を加えていく。
 悲鳴が大きくなった。中には涙を流す信者までいる。
「なんたる屈辱……!」
 一団を纏めるべき鳥人の教祖は、己が無力さに拳を握って天を仰いだ。
「せめて此処に『かん水』があったなら……あの小麦粉を救えたというのに……!」


 ビルシャナはそのまま動かなくなってしまった。
 頭目の醜態に信者たちも右往左往するばかり。
「兎に角、面倒事が起こる前に済ませましょう」
 彼らの教義になどまるで関心がないことを隠しもせず、リシティア・ローランド(異界図書館・e00054)が平坦な声で言った。
 確かに今のうちだ。ケルベロスたちはラーメン教過激派をひとまず放置して、様々な麺料理作りに取り掛かる。
 まずは貴重な小麦粉をビルシャナたちの目の前で蹂躙した、こまりと勇華のうどん党。
「頑張って美味しいおうどん作ろうね、こまりさん!」
「そうです……ね」
 元気溌剌な勇華にぼんやりと返しながら、こまりは小さな身体を目一杯使って生地を捏ねる。
 その手つきには無駄がない。どうやら初めてではないらしい。
 勇華にもコツを伝授しつつ、こねこね。ねりねり。あっという間に出来上がった団子状の生地を平たく伸ばして畳み、ちょうどいい具合の太さに切ってしまえば、あとは茹でるだけ。
「昔は、うどんを打てないと……お嫁さんになれなかった、そうです……よ」
 調子よく生地を押し切りながら、こまりはそんなことを呟いた。
 そこで微かな反応を示したのは――エーゼット・セルティエ(勇気の歌を紡ぐもの・e05244)。
(「お嫁さん……?」)
 おかえり煩悩。ようこそ妄想。
「エー君、どうかした?」
「あ、え、いや、なんでもないよ!」
 危ない危ない。麺を茹でる前に頭が茹だるところであった。
 エーゼットは勇華に両手を振って、自身の仕事に向き直る。
 目の前には幾つかの鍋とバラエティ豊かな生パスタ。
 さらにトマトやチーズクリーム、バジルなどのソース。
 飾り付け用のミント。
 あと猫耳。
「さあ、茹でるわよ」
「えっ」
「……冗談よ。あなたが驚いてどうするの」
 古鐘・るり(安楽椅子の魔女・e01248)が頭の猫耳から手を離して言った。
 そもそもそれはリボンだ。装飾品だ。まさか鍋の中に突っ込むはずもない。
 突っ込むのは、こまりたちと同じように小麦粉と塩水で練り上げた生地。それを小さく切り取って親指で潰した――その名もずばり猫耳麺。
 正しくは猫耳朶(マオアールトゥオ)。中国北方・山西省辺りが発祥と言われる、猫の耳のように丸まった独特な形の麺である。
「案外知られていないのかしらね、これ。オレッキエッテとかに似ていると思うのだけれど」
「ああ、確かにそうかもね」
 エーゼットは持ち込んだ食材の中から一袋取り出して見比べた。
 オレッキエッテも小さな耳を意味するショートパスタだ。大陸の東西に似たような食品があるというのは、なかなかどうして不思議に思える。
 しかし食文化の研究はまたの機会で。二人は準備万端と沸騰する鍋の湯に、それぞれの麺を放り込んだ。
「さあカッツェ隊員! 我々もやるぞー!」
「おー!」
 仲間たちが着実に調理を進めていくのを見て、上里・もも(遍く照らせ・e08616)とカッツェ・スフィル(黒猫忍者系ドラゴニ娘ー死竜ー・e19121)も気合十分に動き出す。
 彼女たちが教義打倒に選んだのは、ずばり盛岡冷麺。
「まずは具材を用意するよ! チャーシュー! 玉子! キムチ! きゅうり!」
「カッツェの前に来たのが運の尽きだ! ほうれん草にオクラに小松菜、纏めて刻んでしまえー!」
 元より親しい仲の二人は、共同作業でちょっとテンション高め。
 そのせいか、傍らで待つオルトロス・スサノオの表情はやや渋め。
「もも、大変だ! スサノオが暇してる!」
「なんだって!? ……でもアイツに頼めそうなことってある?」
「……ない、かな?」
「ない! じゃあ! 仕方ない!」
 今は冷麺作りで忙しいので。
 ももが作業に戻ると、凛々しい雰囲気のスサノオもまるで興味なさげに丸くなった。
 そして興味の有無に関わりなく、ケルベロスたちの調理は続く。
 何より、まだあの麺が姿を見せていない。
「ラーメン以外は滅ぼすなんて、いい度胸だな。あの鳥は」
 未だ硬直しているビルシャナを睨み、峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)が満を持して取り出したるは――うどんと対成す国民的麺食、蕎麦!
「鳥頭でも忘れられないくらいにたっぷりの蕎麦を食わせてやるぜ」
 もちろん量だけでなく質にもこだわりを。譲葉は大鍋を火にかけている間に、ねぎや鰹節に柚子皮、最も欠かすことができないわさびなど薬味類を準備しつつ、蕎麦つゆやお椀なども手際よく揃えていく。
「こっちもネギをだだだっと刻んで、蒲鉾切って、さらにあまーいお揚げを用意して……」
 勇華たちのうどん作りも佳境に入ったようだ。
 一方、るりは湯通しした猫耳朶を魚介類で取ったスープと合わせ、トマト、セロリ、木耳などをぶち込んでから煮詰めている真っ最中。
 作業の終わりが見えてきたからか、それとも漂う香りに釣られてか。普段は無愛想な彼女もほんのり笑みを浮かべて、うっかり歌なんかも口ずさんだりして……。
「ぐつぐつ……にゃーにゃー」
「随分ご機嫌だね。るりさん」
 食欲と好奇心に誘われ、フィオナ・シェリオール(地球人の鎧装騎兵・en0203)が覗き込んでくる。
「……あ、ごめんなさい。別に聞かせるつもりじゃなかったんだけど……料理中に暇だと歌いたくならない?」
「あー、わかる。それにちょうど今作ってるのも猫な――あっと、そんなことは置いといて」
 フィオナは妙な咳払いを一つ挟んで、るりに尋ねた。
「るりさんが料理してるところ見てて思い出したんだけど。うどん祭りで食べてたあれ、おっきりこみは皆に作ってあげたの?」
「ああ、ちゃんと作ってあげたわよ。なかなか好評だったわ」
「そっかぁ。じゃあこの、猫耳煮込み? これも美味しく出来るね」
「調理手順に間違いはないわ」
 あなたの口に合うかはわからないけれど。そう付け足しつつ、るりは黒酢や山椒油などを鍋に加えて仕上げに入る。
「此方も仕上げていくぞー!」
「おぉー!」
 ももとカッツェの盛岡冷麺組もラストスパート。
「具材よし! スープよし! あとは茹で上がった麺を水で締めるだけ!」
「もも! 冷水は準備万端だよ!」
「よしきたぁ! 熱々のうちにブチ込んでやるぜー!」
 ばしゃん。鍋から上がった麺が、勢いよく水の中にダイブする。
「さぁカッツェさん! さささーっと洗って!」
「え? やだよ」
「……え?」
「冷たいじゃん。ももがやって」
「嫌ですー! 私は鍋から麺上げたんだぞ! 分担! 作業分担!」
「カッツェは盛り付けで頑張るから」
「だめ!」
「えー」
 顔を顰めつつ、カッツェはなおも抵抗を試みる。
 しかし、ももだって譲らない。
 結局数秒間の応酬を経て、二人は至極公平かつ単純かつ手軽な勝負で決着をつけることにした。
「じゃん、けん!」
「ぽんっあああああああ!」
「勝ったぜー!」
「くっそ、くっそ!」
 勝者ももは高々と腕を突き上げ、敗者カッツェは竜尾でびたんびたんと地面を叩く。
「ほら、伸びるから! 早く!」
「わかったよ! やればいいんでしょ、やれば!」
 負けは負けだ。カッツェは腕まくりして覚悟を決め、水に両手を突っ込んだ。
「――――!」
 冷たい。
「っ、あーもー! ももはなんでカッツェに厳しいのさ!」
「なに言ってんだ。勝負の機会をあげただけ十分優しいじゃないか」
 ほらスサノオもそう言って――と、見やった先でオルトロスはやっぱり渋い表情を浮かべていた。


 冷麺騒ぎも一段落した頃、ケルベロスたちの麺料理は次々と完成に至る。
「最後に温かい、この『いりこ出汁』のお汁をとぽとぽーっと注げば……」
 ちゃちゃん。うら若き乙女たちが丹精込めて打った、自家製おうどんの出来上がり。
「上手に作れました……ね」
「うん! こまりさんのも美味しそう!」
 出汁入りの水筒に蓋をしつつ、勇華はこまりと出来栄えを褒め合う。
 その傍らには、エーゼットが茹でたパスタ――極々普通の紐状から、蝶々形に貝殻形、車輪形などの多様な麺に、これまた様々なソースを合わせて一際華やかな食卓を築いた。
 そこにはいつの間にやら、リシティアが用意した桃と生ハムのパスタなんて小洒落たメニューも。
 さらに加えて、るりが作った海鮮風味猫耳煮込みの大皿、もも&カッツェの盛岡冷麺、譲葉の大好物たる蕎麦が盛られた小さなお椀の山。九人がかりでも食べ比べるに申し分ない量である。

「ああっ! 貴様らー!」
 そしてケルベロスたちが食事を始めて程なく、お間抜けな鳥人が目覚めた。
 信者たちも一安心といった様子で、ビルシャナを支えるように並ぶ。
「それだけ麺料理を並べておいてっ、ラーメンがないではないか!」
「確かに、ラーメンも美味しいですよ……ね」
 でも、と一呼吸置いた後、こまりはちゅるちゅると自作麺を啜る。
「わたしは、うどんの方が好きなので……」
「はぁ!? 何を戯けたことを!」
「ふざけてるのはそっちでしょ!」
 勇華が負けじと応戦。
「他の麺類だって美味しいもん、おうどんとか、おうどんとかおうどんとか!」
「うどんばかりではないか! このうどんばか!」
「私はともかく、うどんをばかにするのは許さないぞ!」
 憤懣やるかたないと言い返しつつも、しかし殴り掛かるわけにはいかないのでうどんを啜り続ける勇華。
「んー! この歯ざわり、喉越し! いりこ出汁の香りも味もたまらない! もう最高! あ、こまりさんのおうどんも頂いていいですか!」
「……どうぞ」
「では遠慮なく! ……うんうん、こっちもシコシコとした麺のコシがいいですねー! 同じ材料で作ったのに、ちょっと食感が違うところが不思議!」
「いいなぁ。僕も勇華の作ったやつ、食べていい?」
「もちろん!」
 エーゼットもうどん党の一員としてしまえ。そう言わんばかりにぐいぐいときつねうどんを勧めて、勇華は矛先を信者にも向ける。
「ほらほら皆さんもどうです? 食べたいなら用意しますよ!」
「おひとつどうでしょうか……?」
 こまりも控えめながら、試食を促す。
 信者たちの何人かが、ぐっと喉を鳴らすような素振りを見せた。
「えぇい騙されるな!」
 怒鳴る教祖。
「まったく、視野が狭いなぁ」
 呆れて言いつつ、エーゼットは一旦ビルシャナを棚上げして、勇華に向き直る。
「このうどん、とっても美味しいよ! 勇華は良いお嫁さんになるね!」
「……ふぇっ!?」
 おかえり煩悩、以下略。
 ほのかに顔を赤らめた彼女を惜しみつつも、エーゼットはうどんからクリームソースのたっぷり絡んだ車輪型ショートパスタに武器を替えて、ビルシャナに挑む。
「麺はいろいろあるからいいんだよ。ほら、このルオーテを見てごらん。あっちはファルファッレとコンキリエ。それからラビオリ! もちろん食べれば美味しいんだけど、見るだけでも可愛くて楽しくないかな?」
「ふざけるな! 小麦粉で遊ぶような真似をしおって!」
「心外だなぁ。SNS映えする見た目は重要なポイントだよ? 料理は目で食べるともいうのに。……あぁ、君らの狭すぎる視界じゃ味わえないのかな?」
「このっ……」
 意外と能弁なエーゼットに、気圧されるビルシャナ。
 そこにリシティアが畳み掛ける。
「最近はフルーツなどを交えた冷製のパスタなんてのも流行っているそうだけれど、女子力を見せつけるのならこちらよね? まさかラーメンで女子力を磨こうなんて考えを持ってる人はいないでしょう?」
「そ、そんなことはない! ラーメン女子だっているだろう!」
「そのラーメン女子より、ラーメン店には一人で入りにくい女子の方が遥かに多いわよね?」
「ぐぅ……」
 ラーメン好き故、証拠など明示されなくてもビルシャナには分かる。多くの男性は一人で入りやすい飲食店にラーメン屋を挙げる一方、女性はそれほど支持していない。
「し、しかしだな……!」
 反論材料を探して、ビルシャナは暫し黙り込む。
 そこで。
「ねぇエー君、一口貰っていい?」
 なんだかちょっとしおらしくなった勇華が、おずおずと申し出た。
 チャンスである。
「うん! ほら、あーん!」
「え、あ……あーん」
 流されるまま。二人は暫しそんな感じのやりとりを続ける。
 エーゼットが従えるボクスドラゴン・シンシアにも食べさせたりして、なんとも微笑ましい光景だ。
 一方で信者たちは胸焼けでも起こしたかのような、そんな表情を浮かべている。
「哀れね」
 淡々と述べて、るりが自作の猫耳を口に運んだ。
「……うん。思った通りの味が出たわ。鯛の出汁とトマトの酸味が上手く混じり合って、さっぱりしているけれどコクがある。ほんの少しだけ生姜や胡椒も利かせてあるから身体も温まるし……パスタ風の見た目と猫耳麺の字面で女性受けも狙えるわね」
「意外と饒舌な解説だね」
 フィオナが笑って箸を伸ばす。
「うん、美味しい! こっちのパスタもトマトなのに、全然味が違うね!」
「……確かに想像以上の違いね。同じ魚介ベースでこの違いは……やっぱり泡辣椒とか……でも此方にも赤唐辛子は入っているし……」
「魚介ベースのラーメンだって沢山有るぞ!」
 無茶苦茶なところを取っ掛かりにして、ビルシャナが息を吹き返した。
「大体、猫耳麺ってなんだよ! そんなものは食べるまでもなく失格だ! ラーメンこそ至高なんだ!」
「ふん、何がラーメンだ」
 譲葉が一笑に付す。
「年越し蕎麦に引っ越し蕎麦。蕎麦の方がずっと昔から、この国の風習として俺達の生活に根ざし、深く関わっているんだぜ。蕎麦に喧嘩を売るなんざ百年、いや千年早いんだよ」
 とにかく蕎麦を食え。譲葉は半ば押し付けるような勢いで信者を蕎麦の前に立たせると、薬味やら蕎麦湯やらを手に食わねば逃げられない雰囲気を醸した。
「なんて強引な……!」
「まぁまぁ、これでも食べて落ち着けよ」
 にやにやとしながら、ももが鼻息荒いビルシャナに近づいていく。
「まさか、まさかラーメン――うわ冷たっ!」
「はっはー! 驚いたか、ラーメンじゃ味わえない温度だぜ!」
 でもお前には食べさせてやんなーい、と皿を取り返してから、ももはカッツェと組んでさらに言う。
「ラーメンラーメンって、ちょっとカロリー取りすぎてない?」
「その点、カッツェたちの盛岡冷麺は野菜たっぷり、油少なめでヘルシー!」
「糖質も少な目! あっさりとした辛さと酸味で食べやすい! でも弾力ある麺が食べ応えと満足感を齎すからダイエットにもお薦めだぜ! もちろん暑い日にもね!」
「ほらフィオナ! 最後にドラゴニアン風冷麺のお味を教えてやるんだ!」
 いきなり誘われて驚きつつ、フィオナは大皿一杯山のような特盛冷麺を啜って一言。
「これは美味――」
「美味しいのは当たり前だから! ちゃんとした感想!」
「えっ……ていうかカッツェさん、自分はドラゴニアン風じゃないよね?」
「うん」
 まるで問うた方がおかしいかのように、カッツェはケロリとした顔で並盛冷麺を食べ始めた。

 その後もあれが美味いこれが美味いと料理を口に運び、信者にも試食を勧めているうちに、ビルシャナに付き従う人影は一人、二人と心底どうでもよくなったような顔で倉庫を離れていった。
「あとはお前で鳥ガラスープでも作って……変な汁出てきそうだからやっぱいいや」
 茶化すように言いつつ、大鎌を閃かせるカッツェ。
「ビルシャナさんには麺類の気持ちになってもらいましょう……ね?」
 こまりはドラゴニックハンマーと喰霊刀を手に、何ともおっかない台詞を吐く。
「そもそも洋の東西を問わず美味いものは美味い、不味いものは不味いのよ」
 それを理解したなら――さようなら。
 なんとも身も蓋もないことを言って、リシティアは不可視の「虚無球体」を放つ。
 倉庫には羽毛一本すら残ることはなかった。


「さて、せっかく作ったんだから残さず食べてやらないとな」
 譲葉がようやく落ち着いてありつけると、蕎麦のお椀を掻っ攫っていく。
 やっぱり食べ物は粗末に出来ない。ケルベロスたちはゆっくりと色々な後片付けを済ませていく。
 それも一通り片付いたところで。
「まあ、あれだよ。散々冷麺勧めたけど、私もラーメンは好きだ」
 ももは呟くと、カッツェを捕まえて言った。
「それじゃ食べにいこっか! ラーメン!」
「食べにいきますかー! カッツェもなんだかんだでラーメン好きだし!」
「私、塩バターラーメン好きなんだよねー。あのほうれん草をね、あっさりしたスープに浸してレンゲで掬って食べるのが好き……あと味玉な!」
「味玉、いいね! でもカッツェはとんこつラーメンバリカタでいくぞ! フィオナもバリカタね!」
「……今日はラーメン食べながら反省会かぁ」
 そんな風に騒いで倉庫を後にする三人に続き、残りの者たちも現場を後にしていくのだった。

作者:天枷由良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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