熱き出撃、たこ焼き器ロボ!

作者:七尾マサムネ

 とある住宅街のゴミ置き場。
 故障し、雑に廃棄されたたこ焼き器が、寂しげに横たわっている。
 そこへ、かさかさと何かが近寄った。拳ほどのサイズの小型ダモクレスである。
 スリットからたこ焼き器内部に入りこんだ小型ダモクレスが、光を放つ。哀れなたこ焼き器に、ヒールを施しているのだ。
 すると、たこ焼き器が変形を遂げた。瞬時に、腕部や脚部が構築される。力強く立ち上がったそのシルエットは、人型のロボットそのものだ。
 ちょうどそこへ、犬の散歩中の若い夫婦が通りがかった。
 ターゲットを捕捉。頭部のカメラアイが発光する。
「タコヤキ、アツアツー!」
「うわー!?」
 腹部の焼き型から発せられた熱線が、夫婦と犬を焼き尽した。

「仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)さんの調査により、ダモクレスの襲来が予知されました。その元となったのは……たこやき器です」
 たこ焼きや焼き芋が恋しくなるような天気の日、セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)による説明が始まった。
「住宅街の一角にあるゴミ置き場。そこに廃棄されていたたこ焼き器が利用され、ダモクレスへと変化してしまうのです。まだ実際に被害は出ていませんが、このままでは予知通り人々の命が失われ、グラビティ・チェインが奪われてしまうでしょう。その前に、現場である住宅街に急行、これを阻止してほしいのです」
 かねてから報告がある通り、このダモクレスも廃棄家電が変形した、人型ロボットのような外見をしている。
「攻撃能力は3つ。1つは、たこ焼きを焼くための熱を何百倍にも増幅させた、たこ焼き熱線」
「おいしく焼かれちゃいます!」
 セリカによる説明を受けるかりんの目は、しかし、どこか輝いていた。ロボットへの憧れのなせる業か。
「2つ目は、片腕をたこ焼きを返すピックのように変形させ、刺突する攻撃」
「槍みたいです!」
「そして最後は、体内で生成した、たこ焼き型爆弾をばら撒くたこ焼きボムです」
「これはおいしく食べられない……ですよね」
 ちょっと残念。
 廃棄された恨みゆえか凶暴で、ポジションはクラッシャーであるという。
「このままでは人々がたこ焼きにされて……もとい、焼き殺されてしまいます。住宅街が焼け野原になる前に、撃破をお願いします。皆さんなら阻止できると信じています」
 セリカの激励を受け、出撃していくケルベロス達であった。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
ミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)
樒・レン(夜鳴鶯・e05621)
エレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)
夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)
仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)
サフィ・サフィ(青彩・e45322)

■リプレイ

●アツアツの襲来
 寒空の下。
 どろん、と電柱のてっぺんに、樒・レン(夜鳴鶯・e05621)が現れた。
(「熱々たこ焼きで皆を笑顔にしたいとの思いが機械軍に悪用されて、罪なき民草の魂を啜ろうとする所業は見過ごせん」)
 この忍務、必ず成し遂げよう。その気迫が、レンの全身から放たれた。
 形成された殺界により、周辺エリアから人々が離れていくのを見届け、とてとて、とキープアウトテープを張り巡らせるサフィ・サフィ(青彩・e45322)。
 上空より人影の探索を終えたミルカ・アトリー(タイニーフォートレス・e04000)が、天翼を畳み着地した。
「もう一般人を巻き込む心配はないね。存分に力を振るえるよ」
「レンさんたちに感謝ですわねぇー」
 周辺のチェックを終えたフラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)の微笑み顔が、不意に上下にブレた。震動が、ケルベロスたちの体を揺らしているのだ。
 ずしん……ずしん……。
 重量感のある足音が近づいてくる。そして、マンションの陰から威容を現したのは、家電から変容を遂げた機械の人型……たこ焼き器ダモクレスである。
「わー、でっかいパオ。かっこいいパオけど、これは悪のロボットなのパオ。我輩達がせーばいしてあげるのパオ!」
 敵を見上げ、堂々と指を突きつけるエレコ・レムグランデ(小さな小さな子象・e34229)。可愛らしい年少組の前では、お姉さんぶりたいお年頃。
「たこ焼き器は美味しいたこ焼きを提供してくれる機械です。それが人々を襲うなんてあってはなりません! 一刻も早くたこパ……」
 決意から思わず本音がこぼれるアイカ・フロール(気の向くままに・e34327)。誤魔化すように咳払いすると、傍らの少女に声をかけた。
「……じゃなくて、たこ焼き器退治です! ね、かりんさん!」
「はい! えへへ、お友達のみんなも一緒で頼もしいです。もちろん、ぼくのことも頼ってくれて大丈夫ですよ!」
 仁江・かりん(リトルネクロマンサー・e44079)が、えへんと胸を張った。
 ……とは言ったものの、やはり戦うのは怖いし、痛い。自分の死霊魔法だって、恐くて泣きたくなりそう。
 けれど、みんなが傷付くのは、もっと嫌だ。
「ぼくが、絶対に守ります!」
「僕も負けずに頑張りますよ」
 夜歩・燈火(ランプオートマトン・e40528)がガジェットの最終チェックを終えると、敵を見据えた。
「元同種族のレプリカントとしては、正直少し心が痛むのですが、倒さないと色んな人が死んでしまいますしね。長く苦しまないように全力で倒しましょうか」
 いざ、戦いの時だ。

●迎撃開始!
「タコヤキ機が相手であるならばー、お誂え向きですわねぇー。この腕の丁度良いー、試し先とさせて頂きましょうー。どちらの方がー、より熱いのでしょうー?」
 フラッタリーのおっとりもここまで。開く瞳、ほとばしる地獄。1体の狂獣へと変貌を遂げる。
 九尾扇の風を受け、アイカの体が、幻影をまとった。飛翔したウイングキャットのぽんずも、リングを飛ばして迎撃を開始。
「タコヤキ……ヤクヨ……」
 ケルベロスたちを排除対象と認識したダモクレスが、戦闘行動に移った。
 ダモクレスの放つ余剰熱により、周囲の景色が歪むのを見ながら、ミルカが飛翔した。
「こんな住宅街で暴れさせるわけにはいかないし、早々に黙らせようか」
 生成した特殊弾をバスターライフルに装填すると、照準を合わせ、射出。跳ね返そうと振るった腕に着弾すると、凍結が始まる。
 駆動の熱により解凍を試みる敵から距離を保ちつつ、印を結ぶレン。招来されたのは、梅や福寿草の葉と花弁たちが協奏する旋風。敵の巨体を震わせ、センサーをかく乱する。
 テレビウムのトピアリウスが、回復役の手伝いに向かうのを見守りつつ、エレコが声を飛ばす。
「みんな! 頑張ってなのパオ!」
 周囲の土やコンクリートを素材に、ミニサイズの人型……戦闘用ゴーレムを造り出す。
 エレコの号令一下、散開したゴーレムたちは、仲間たちにくっついていく。
「タコヤキ、クルクル……」
 ぎんッ、と双のカメラアイが輝いたかと思うと、ダモクレスの左腕が変形を始めた。
 虚空から出現したパーツが、見えざる手により組みあげられると、巨大ピックを構築する。
 ケルベロスたちへと振り下ろされる銀の槍。それを、燈火が全身の力をこめて受け止めた。重量差により、その足が道路に沈み込むが、後方の仲間への被害は押しとどめた。
「ひとりぼっちで寂しかったのかもですが……せいぎのみかたとしては、見過ごせないですね!」
 かりんが勇ましく構えたハンマーが変形し、竜の口を敵に向ける。反動に押されつつも放った一発は、敵の胸部に見事命中した。
「たこやきって、サフィはご本でしかみたことがありませんが、かわいらしいものですね! でも、かりんや、みなさまをアツアツにするわけにはまいりませんの! まるまるころころのたこやき器に、もどっていただきますの!」
 サフィの言葉とともに、白の花弁と深紅の雫が舞い上がった。ガーベラとガーネット、2つを触媒にした癒しの奇跡だ。みるみるうちに、燈火の損傷が回復していく。
 この戦いは試し。己の力の加減を知るべく、フラッタリーが最大の技を繰り出した。増大させた捕食衝動、その具現たる黒い爪牙でダモクレスの装甲をかきむしり、削りかすへと変える。
 戦線復帰した燈火は、いったん心を落ち着けると、敵との距離を詰める。ダモクレスより幾分シンプルなプロセスで腕をドリルに変形させ、剥離した装甲下部へと突撃を敢行。飛び散る火花。削られる装甲。
 ケルベロスたちが攻撃するたび、エレコの小ゴーレムも一緒になって、パンチを繰り出す。
「アツ、アツ……!」
 ずぅん、と公園の花壇を潰して、踏みとどまるダモクレス。近くの住居の屋根を支えに、前進する。まだまだその戦力は健在である。

●高まる熱量
「何処迄デモ追ヰ、ソシテ潰ス」
 念動の衝撃にて、フラッタリーがスピアーを強襲、その軌道を仲間からそらした。攻撃のたび、その技と狂気は研ぎ澄まされていくよう。
 己が仇を逃さぬ為には、十全でもまだ足りぬ、とフラッタリーは思う。自らの限界を見極め、越えるように四肢を動かす。
「なんかすごく固そうだから、壊れやすくするのパオ! ここを狙ってなのパオ!」
 エレコは仲間に手を振ると、気合一発。オウガメタルをまとった鬼拳をぶち当てた。派手な破砕音を響かせ、装甲に穴がうがたれる。
 それに応え、ミミックのいっぽと一緒に敵に近づいたかりんが、重力のこもったパンチをお見舞いした。その衝撃は、堅牢なボディをもたわませる。
 そして、一通り敵の能力を把握したミルカが、近接攻撃に転じた。相次ぐ攻撃により損傷の大きな箇所を目指し、ハンマーを振り上げ、打撃する。宙に舞う、金属片。
(「自分を使って皆が笑いながら作り食する、家族や友人らが団欒の賑やかで楽し気な時。最早それらに触れられぬ哀しみが、機械軍を呼び込んだのかも知れんな」)
 螺旋力を噴き上げ、突撃したレンが、敵の腹部を貫通した。その速さと鋭さを兼ね備えた様は、邪を喰らう嘴の如く。
 燈火がガジェット『蒸気匣ロマンスミス』を変形させた。小柄ゆえ小回りが利くのを活用して、敵の腕をかいくぐると、下方から魔導弾を撃ちこむ。
 バランスを崩すも、思わぬしなやかな機動で、態勢を立て直すダモクレス。巨大な掌で こちらを潰そうとする機械仕掛けの人形を、一筋の雷光が撃った。アイカの古代語魔法だ。すぐ再動しようとするダモクレスだが、各部に迸る雷の残滓が、駆動を妨げる。
 自らを鼓舞するように、プシュー、と煙を噴き上げると、ダモクレスが胸部装甲を解放した。そこに並ぶのは、装填済みのたこ焼き型爆弾たち。
「タコヤキ、オフルマイー!」
 掛け声とともに、爆弾が一斉に射出された。ソース色の尾を引いて、ケルベロスたちを追尾する。香ばしい匂いが、戦場を包む。
 その様子を見たアイカを襲ったのは、たこ焼きを食べてみたいという衝動だった。ぽんずも爆弾をばっちり目で追っている。食いしん坊。
 ミルカも、武器開発趣味を刺激され、ついつい感心。ちょっと面白いネタかも、と、次の開発のアイディアを練り始めそうになったところで、
「いやいや、今はそれどころじゃないか」
 さて、後方から戦況の把握に努めていたサフィが、ケルベロスチェインで味方を守る陣を描く。たこやき爆撃を受け、一時退避した仲間を、優しい輝きで癒すのだ。

●怨みの熱を鎮めよ
 戦闘開始から数分が経過した頃、ダモクレスの動きは、明らかに低下していた。
 重装甲はあちこち剥がれ、露出した内部機構からは、ばちばちと火花が散っている。
 あと、もう少し。トピアリウスの応援を受け、エレコが妖精靴で半壊したアスファルトを蹴った。虚空でくるりと身を回して、敵の装甲に星型を刻んでやる。
 あがくダモクレスの視界が、紅一色に染め上げられた。フラッタリーが、縛霊手『蝶之掌』から炎を吐き出したのだ。狩人の如く狙いすました砲撃が、敵の片目から機能を奪い去る。
 小さな爪で、懸命に敵機体をひっかくぽんず。遂に装甲板を引き剥がしたところに、アイカが影を凝縮した弾丸をぶつけた。爆発の衝撃が、ダモクレスをひるませる。
 駆動部から小爆発を起こしながらも、なおも反撃するダモクレスに対抗すべく、サフィが両手をかざした。同時に噴出した蒸気が、味方を覆う。気体の中に含まれた魔導金属片の存在を、ダモクレスのセンサーは感知しえたであろうか。
 仲間と声をかけあった燈火が、巨大な腕を押しとどめると、全身からミサイルを射出した。相手の足元から頭部まで、余さず爆破で飲み込んでいく。
 今ですの、とサフィの合図を受け、かりんがジャンプした。
「かりんはもう、泣き虫の生贄じゃないのです。ぼくは、強くてカッコイイ、せいぎのみかたです!」
 先に噛みついていたいっぽが、ここだよ、と旗を振って離れたのを見届け、全力で蹴り飛ばした。
「嘗て持ち主へ美味しさと幸せな時間を届けていたお前が無辜なる民の命を啜ることなぞ、本来なら望まぬことだろう」
 突如、敵の背後に姿を現したレンが、如意棒、そして不動明王の真言と共に、鋼の傀儡を砕く。
「今俺達が呪縛から解き放つ……!」
「タ、タコヤキ、アツアツ!」
 一矢報いようと、片膝を折った状態のダモクレスが、目から熱線を照射した。超高温の光状が、後方に陣取っていたケルベロスたちを薙ぎ払う。
「タコ以外を焼くとか、たこ焼き器の風上にも置けない奴め! ……ダモクレスに言っても無意味だろうけど」
 飴細工のように溶解した標識を追い越し、ミルカがアームドフォートの出力を急上昇。
 放射された無数の超高出力レーザーが、ダモクレスの全身に照射された。ミルカによる圧倒的熱量に、耐熱を得意とするたこ焼き器も、限界を迎えた。
「アツ……アツ……」
 遂に、爆散するダモクレス。
 ケルベロスたちが爆風を耐えきった後、ダモクレスがいた場所には、元に戻ったたこ焼き器があったのである。
「傀儡とされたとは哀れ。その魂の救いと重力の祝福を願う。そして是までの沢山のたこ焼きと笑顔に感謝を。どうか安らかに」
 瞑目したレンが、片合掌にて敵機を葬送する。
 主にダモクレスの行動によって破壊された街を、修復にかかるケルベロスたち。
「もー、後片付けも押し付けるなんてはた迷惑なタコ焼き器なのパオ」
 情けない声を上げたエレコだったが、
「でも、これを作った人が一番悪いパオよね……」
 廃棄され、今また利用されたたこ焼き器も、ケルベロスたちのお陰で眠りに就くことができたはずだ。
「外して壊れた物を数えましてー、私の未熟と覚えましょうー」
 狂気を理性の箱に仕舞い直したフラッタリーが、自分の破壊跡をヒールしていく。
「ふう、熱々でいい香りな攻撃で、お腹が空いてしまいましたね……。たこ焼き食べたいですー!」
 アイカに合わせて、ぽんずも鳴いた。
「たこやき……サフィも、食べてみたいですの!」
「実は、僕もまだ食べた事がないんですよね」
 サフィが青の瞳を輝かせるのを見て、燈火が言った。
「せっかくですし、たこ焼き食べて帰りましょう!」
 かりんも、手をぱちん、と合わせる。
 今度は、小さなアツアツ体験。きっとおいしい。

作者:七尾マサムネ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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