アタクシの前に皆ひれ伏してしまいなさいっ!

作者:なちゅい

●全てを屈服させようとする大女
 福井県越前市。
 県で3番目の人口を持つこの地域は、三方が山で囲まれている。
 日本海側の地域にある為、冬場は雪に覆われることになるが、以前は武生市と呼ばれていたこの地域に突如として現われたのは、大きく肌を露出させた黒いボンデージ姿をした、見事なボディラインを持つエインヘリアルだった。
「オーッホッホッホッホッ。アタクシに屈服なさい!」
 雪に覆われた越前武生駅周辺に現われたエインヘリアルは、この場の人々へと皮製の鞭を振るう。
「オーッホッホッホッホッ。いいわ、愚民がひれ伏すこの感覚……たまらないわぁ」
 エインヘリアルは高笑いしながら人々に鞭を叩きつけ、その命を奪い取っていく。
 長らく幽閉されていたからこそ、そいつはその鬱憤を晴らすように思う存分暴れる。
 己を誇示するのにエクスタシーすら感じ、寒さなどまるで感じていない様子だ。
「さぁ、アタクシにグラビティ・チェインを捧げるのよ、愚民ども!!」
 豊満なボディを揺らすその女はあまり知性を感じさせず、力技で人々の命を奪い取っていくのである……。

 エインヘリアルの虐殺事件の予見。
 ヘリポートでは、それを食い止めるべくケルベロスが多数集まっていた。
「女性のエインヘリアルが現れるそうだな」
 雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)の言葉に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)が険しい顔で頷いた。
「アスガルドの凶悪犯罪者……重罪を犯したエインヘリアルがまた送り込まれてくるようだよ」
 エインヘリアルは平均身長が3mある大柄な種族。一般的に頑強な肉体を持ち、総じて好戦的な戦闘種族だ。
 現在、『永久コギトエルゴスム化の刑罰』を受けた者の中から、反乱勢力にはならないと見なされた者が解き放たれているらしい。
「このままでは、たくさんの人がこのエインヘリアルの犠牲となってしまうよ」
 そうなれば、人々に恐怖と憎悪がもたらされる事にも繋がる。
 地球で活動するエインヘリアルの定命化を遅延させることにも繋がり、エインヘリアルにとっては一石二鳥というわけだ。
「その前に、このエインヘリアルを討伐して欲しい」
 今回現れるエインヘリアルの女性は、イザベラという。
 相手を屈服させるのが好きな女王様気質で、きわどいボンデージ衣装を纏った女性だ。
 エインヘリアルとしては平均的な体格をしているが、それでも地球人らからすれば、3mと大柄な相手だ。
「相手は囚人扱いされていたこともあって、その場から逃げずに戦おうとし続けるようだね」
 その為、こちらも全力で叩き、倒してしまいたい。
 現場は、福井県越前市、越前武生駅付近だ。
 夕方に現れるエインヘリアルは皮製の鞭を操り、相手を縛りつけたり、叩きつけたりと、グラビティを使い分けて攻撃を仕掛けてくる。
「予知に影響が出る恐れがあるから、現地にエインヘリアルが現われてから、避難勧告を頼むよ」
 到着もその前後となる予定だが、敵の出現後、できるだけ速やかに一般人の避難と敵の対処を始めたい。
 そこまで話をした後、リーゼリットはケルベロス達に一言断わってからヘリオンの離陸準備に入る。
 参加するメンバー達が挨拶を交わす中、リュエンがそういえばとこんな話を持ちかけた。
「福井の旧武生市区域とのことだが、……一度、ボルガライスというものを食べてみたくてな」
 ボルガライスは、オムライスの上にカツを載せ、ソースをかけた一皿。戦いの後なら、さぞ美味しく頂くことができるだろう。
 ヘリオンの準備を終えたリーゼリットも、それを聞いていたらしく。
「いいね。お腹一杯食べてくるといいよ」
 そう告げた彼女は笑顔を見せ、自らのヘリオンへとケルベロス達を招き入れるのだった。


参加者
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)
リーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)
隠・キカ(輝る翳・e03014)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)
エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)

■リプレイ

●人を傷つける下品な女王様
 福井県越前市に降下したケルベロス達。
 現れるエインヘリアルの罪人を討伐すべく、出現予定地の越前武生駅を目指す。
 駅が見えてくると、メンバー達はそれを発見する。
「オーッホッホッホッホッ。アタクシに屈服なさい!」
 鞭を振るうボンデージ衣装の大女。エインヘリアル、イザベラだ。
「女王様、というやつか!」
 男装の麗人といった姿をしたリーファリナ・フラッグス(拳で語るお姉さん・e00877)は、奇抜な相手の姿に思わず叫ぶ。
「やれやれ。力無き人々を傷つけ悦に浸る……か」
 黒髪長身の四乃森・沙雪(陰陽師・e00645)は心底、前方の相手に呆れを見せる。
「春が訪れてくると、こういう変な輩が現れてきますのね……」
 馬のウェアライダー、エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)は今回、人の姿での参戦。灰色の髪で目元を隠す彼女も嘆息していた。
「けど、黙って見過ごすわけにはいかないな」
 表情を引き締めた沙雪は真剣な眼差しで覚悟を決め、仲間と共にエインヘリアル目掛けて駆け出していく。
 一方、隠・キカ(輝る翳・e03014)は相手の行いに表情を陰らせていて。
「人をきずつけることがすきなんて、かなしいよ」
 ――そんなのきっと、だれも幸せにならないのに。
 小さなおもちゃのロボット『キキ』を抱く手を少し強め、キカは小さく独りごち、仲間を追う。
「オーッホッホッホッ!」
 高笑いするイザベラは、早速その鞭を周囲の現地民に向けて振るおうとする。
 そこに飛び込んでくるケルベロス。そのエインヘリアルへ、カピバラのウェアライダーの霧鷹・ユーリ(鬼天竺鼠のウィッチドクター・e30284)が呼びかけた。
「そんな衣装を着て、オーホッホッホ、だなんてありきたりすぎじゃないですか?」
 庇いに回ろうとしたユーリより先に、低い態勢からエニーケが飛び出して敵に纏わり付いていく。
「女王様ごっこをしたいのなら、SMクラブでも開きなさいな」
「人をきずつけるのがたのしいの?」
 エニーケの後方から、キカも青い瞳に敵の姿を映して呼びかける。
「…………ケルベロスね」
 しかし、イザベラは応えず、威嚇するようにこちらを睨みつけてきていた。
 その隙に、避難を請け負うメンバーが散開していて。
「露出度高いのは嫌いじゃねえが……、俺の好みとは100万光年ほど離れてやがるぜ!」
 白と銀の毛を持つ狼獣人、ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)は一度相手に悪態づいた後、周囲に割り込みヴォイスで避難勧告を行う。
 そして、事前に沙雪から避難誘導を託されていた、雛形・リュエン(流しのオラトリオ・en0041)も声を上げ、極力この場から人々を遠ざけようと動く。
 やや後方にいた、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)。
 普段の戦装束を纏う彼女も割り込みヴォイスを響かせ、避難を促していたのだが。
「どう見ても、変態のおばさんにしか見えないのだけど」
 事前情報を何度も確認する度、エリンにとってこのエインヘリアルがおばさんにしか思えず、後ずさりしてしまう。
「うーん、ナイスバディ……大きくともバランスでいい感じ、なのだろうか?」
 リーファリナは相手に近寄りながら、その露出の高い容姿に唸り込む。
「しかし、なんというか、下品というか困った感じだな」
「下品ですって……!?」
 相手は暴れて、人を襲おうとしている罪人だ。
 それを許さぬリーファリナは銀髪ポニーテールを揺らし、身構えて。
「ガツンとお仕置きしてやろうか」
 それに合わせ、ユーリも、イザベラを止めようと意気込みを見せる。
 さらに、軍服姿の宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)が口を開く。
「物言わぬ像であれば、そういう店の看板にでもしておけという所だが、……口を開けば下品極まりないな」
「きーっ、愚民のくせに言わせておけば!」
 鞭をしならせるエインヘリアルは、双牙の一言に地団駄を踏む。
「愚かなのは誰なのか、すぐに解らせてやろう」
 左目の地獄を燃え上がらせ、双牙は戦闘態勢に入る。
 隣の沙雪も敵の注意が地元民に及ばぬよう慎重になりながら、相手を見据えて。
「陰陽道四乃森流、四乃森沙雪。参ります」
 刀印を結んだ左手で神霊剣・天の刀身をなぞり、彼は仲間と同時にイザベラへと攻撃を仕掛けるのだった。

●上から目線の女王を地べたに
 ケルベロスとエインヘリアルの衝突。
 この地の人々は、戦場となる駅周辺から逃げようと足を動かす。
「ボサッとすんなッ! 死にたくなけりゃ、とっとと逃げやがれ!」
 ランドルフは半ば脅すように、彼らへと叫びかける。
 その狼型獣人という姿もあって人々は多少怯える素振りもあったが、そこはランドルフもケルベロスだ。
「後は俺らに任せな! アンタらの笑顔、守らせてもらうぜ!」
 そんな頼もしい言葉を背に、人々はこの場を離れていく。
「ここは戦場になる。急いで離れるんだ」
 リュエンもワイルドなランドルフな呼びかけに微笑を見せつつ、避難を促す。
 また、サポーターとして、フローネも凛とした風を吹かして人々に落ち着きを取り戻させ、自力での避難に時間を要する負傷者、高齢者、幼児を優先して誘導に当たっていたようだ。
「オーホッホッホッ、さぁ、アタクシの前にひれ伏しなさい、愚民ども!」
 さて、女王様スタイルのエインヘリアル、イザベラを相手にするメンバー達は、相手を自分達に強く気を引き付けながら交戦する。
「冗談は胸だけにしてくださいませ」
 確かに、イザベラの胸は大きく揺れてはいるが、その一撃を左腕で受け止めるエニーケは口元を吊り上げて。
「力無き人をいじめたって、ストレス解消にもなりませんのよ。おバカさん」
 毒舌の本領発揮とばかりにエニーケは相手の加虐性癖を刺激しながら、その手の鞭を狙って空烈竜牙紅斧【グリュックスヒューゲル】を叩きつける。
 武器が多少傷むのを気にするイザベラの顔面目掛け、空高く飛びあがっていたユーリが虹を纏いつつ急降下してきた。
「良かったですね! これで顔の小じわも目立たなくなりました!」
「きーっ、そんなもの最初からないわよ!」
 その煽りに顔を真っ赤にするイザベラへ、沙雪は涼しい顔をして刀印を結ぶ。
「祓い給い、清め給え、百鬼を避け兇災を祓う、四神の名のもとに悪鬼討滅。急々如律令!」
 そして、渦巻く汚れを指先に集め、イザベラの腹へと突き入れる。
 盾役メンバーが相手の神経を逆なでする一方で、攻撃に専念するメンバーもいる。
 獣のような身のこなしをしながら飛び込むのは、双牙だ。
 術式を編みこんだ軍靴「爪脚」を双牙は相手の体が大きく露出した腹へと叩き込み、エインヘリアルの巨体に痺れを駆け巡らせる。
「ただ暴れるだけでは、見苦しいだけだな」
 リーファリナも肉薄し、フェアリーブーツを履いた足で蹴りつける。
 そのまま彼女は相手を壁代わりにして、アクロバティックに宙返りしてみせた。
「そんな鞭程度で、私を縛れると思うなよ?」
「愚民のくせに生意気な……」
 相手を挑発するリーファリナを、イザベラがちらりと横目で見る。
 避難の呼びかけもそこそこに、エリンも攻撃に加わる。
「愚民愚民って連呼して、恥ずかしくないの?」
 状況的に自分は挑発するひつようはないと判断したエリンは、「おばさん」にしか見えぬ相手へとその名で告げるのは控え、金属製のハンマーから竜砲弾を叩き込んでいく。
「あんた達の相手は後よ」
 しかしながら、盾役メンバーばかり睨みつけているのに、リーファリナもエリンもいささか拍子抜けしてしまっていたようだ。
 盾役が気を引くということは、そちらに相手の攻撃が飛ぶということ。
「あなたも、こわれちゃったのかな。それとも……最初から?」
 イザベラの鞭による連打が浴びせかけられる前衛陣が傷つくのに、キカは少し顔をしかめて。
「あなたがみんなをこわそうとするなら、きぃがみんなを支えるよ」
 きぃことキカは虹色に光る淡い白金の髪を靡かせ、前に立つ仲間達にオウガ粒子を放って、仲間達の手当てと支援を合わせて行う。
 交戦が続く中、避難が進んだことで周囲から人がいなくなって。
「おばさん、もうちょっと個性を出さないと寒いですよぅ! ぷぷっ!」
「まだ、アタクシは若いわよ!」
 思いっきり吹き出すユーリに、青筋を立てたイザベラは鞭を投げ縄のように振り回して彼女の足を縛りつける。
「そうだぜ、おばさん」
 そこで、この区域の避難を終え、さらに広域の誘導を他メンバーに託して駆けつけたランドルフ。
 彼もまたボンデージ衣装で豊満な身体を包むイザベラへと言い放つ。
「女王様、っつーかアレだな、ハム」
「……ボディラインには気を使っていてよ?」
「だったら、俺のエステを試してみるかい!? ちっとばかり荒っぽいがな!!」
 叫びかけながら飛び上がるランドルフは、鞭を振るうイザベラを頭上から強襲して流星の蹴りを浴びせかけた。
「ふっふっふ、これで後方の憂いは無くなりました! 大人しくボルガライス引換券になってもらいましょう!」
 戻ってくる仲間の姿に、ユーリはドヤ顔で胸を張る。
「これだから、愚民は……!」
 エインヘリアルはわなわなと身体を震わせ、鞭をケルベロスへと浴びせてくるのだった。

 今回、数人のサポーターがこの戦いに協力してくれている。
「こういうの女王様って言うんですよね」
 サポートに駆けつけたソールロッドは相手の大胆な姿に赤面しながら、英雄の詩を紡ぐ。
 昨年のこの時期、青森であったエインヘリアルとの戦いの記憶。
 それが今、この場所で戦うメンバー達に力を与えることとなる。
「与えられる苦しみに喜びながら、しぶとく耐える人のほうがいじめ甲斐があるというもの。やれるものならやってみなさい!」
 エニーケは挑発を続け、エインヘリアルの怒りを誘う。
「どいつもこいつも……!」
 また、イザベラは沙雪にも気を払っている。
 沙雪は仲間の戦力がある程度揃ったことを受けて回復をやや押さえ目にし、四乃森の家に受け継がれていた霊剣「神霊剣・天」で仲間達の傷を斬り広げていく。
 すかさず飛ぶイザベラの鞭。狙い打ったのはユーリだ。
「その程度ですか!? そんなんじゃ、鬼天竺鼠一匹倒せません!」
 ユーリはなおも相手を一通り煽ってから、裂帛の気合を込めて叫ぶ。
「ボールーガーラーイースー! ……食欲は無敵です!」
 この後、控えているご馳走に力を得て、ユーリはなおも応戦する。
 抑えるメンバーの回復は、キカが依然として請け負う。
「だいじょうぶ。こわいけど、こわくない」
 彼女は1人1人、過去の大切な思い出を思い出させ、共有する。
 優しい記憶はグラビティによって、傷や痛みすらも塞いでしまうのだ。
 逆に、ケルベロス達はエインヘリアルの傷を次々に増やしていく。
「ご自慢の体を傷物にしてしまってすまないな? 重たい一撃行くぞ!」
 リーファリナは不敵に白い歯を見せ、降魔の拳でイザベラの体を殴りつけた。
「ところで、私の方がナイスバディ―だと思わないか?」
 自身で言うと台無しだが、それでもリーファリナの所作は非常にサマになっており、男女問わず見る者に好感を抱かせる。
 もっとも、イザベラだけは口をへの字にしてご不満な様子だが。
「……図体がデカいのがいけないようだな」
 双牙はその相手の難点をズバリ言い当てた後、地獄化した手で相手の後頭部を鷲掴みにして。
「貴様はもっと、低い視点で物を見るがいい」
 勢いのままに、双牙は相手の頭を地面に叩きつける。
「ああああぁぁっ!!」
 その叫び方がまた、エリンにとってはおばさんのように聞こえてしまう。
 相手は十分に足を止めており、こちらの命中率も十分。
 エリンは瞬時に攻撃命中率の目算を立て、食らいつくオーラを発してイザベラの体力を大きく削っていく。
 十分と言えば、一般人避難も問題ない状況となったことで、リュエンが戦列に加わる。癒しの雨を降らせる彼だが、それももう必要がなくなりそうだ。
「敗者に相応しい末路を見せてあげますわ」
 相手に接近したエニーケは自慢の美脚にエネルギーを篭め、渾身のローキックを見舞う。
「あああううっ!!」
 もはや、ケルベロスの攻撃に悶える一方となってきていたエインヘリアル。
 そいつに浴びせるべく、ランドルフはグラビティ・チェインと気を練り合わせる。
「喰らって爆ぜろッ! ハム女ッ!!」
 リボルバー銃「アストラーダ」に生成した特殊弾を装填し、ランドルフは発射した。
 着弾した弾丸は魔法力により爆発し、イザベラの体を焦がす。
「あの世へ逝ったら、アンタが責められる番だぜ。女王さン」
 だが、その言葉は相手には聞こえていない。
「あああああぁぁ…………」
 豊満なボディがどんどん萎み、エインヘリアルは徐々にその身体を崩していった。
 敵の消滅に、沙雪は不浄払いの意を込めて指を弾く。
 その戦いの一部始終を目にしていたソールロッドは、この戦いもまた「英雄たちの詩」として、別の戦いで歌うことにしようと考えるのだった。

●ボルガライスタイム!
 エインヘリアルが倒れ、ケルベロス達は戦場跡の修復に動く。
「野生パワー全開! わに! わに!」
 ユーリは具現化した巨大ワニの力を使い、両手を合わせて口をパクパクする。それによって、周囲に野生の力を振り撒いていく。
「ガラクタの海にある十字架は……♪」
 キカが歌声を響かせるそばで、桃色の霧を展開していたリーファリナが作業の合間に呟く。
「ボルガライス? というものを食べていきたいものだな」
 ヒールグラビティを持たず、手作業で修復を手伝うランドルフも同意する。
「聞いたことはあるが、果たしてどんな味わいなのか。楽しみだ、な」
 双牙も瓦礫を片付けつつ、どんな食べ物かと思いを馳せる。
 破壊箇所にライトニングロッドを突き出し、リュエンも電気ショックを飛ばして幻想で埋めていく。
「こんなものか。少し待っていてくれ。店を予約しておこう」
 大所帯ということもあり、修復作業を終えたリュエンは店の手配を始める。
 それに同行する形のメンバー達。エリン、沙雪もついていくことにしていたようだった。

 とある飲食店。
 ほぼ貸切状態となっていたこの店に、ケルベロス達の声が響く。
「腹減ってるんで、特盛で!!」
 嬉しそうにランドルフがオーダーする。
 ある程度下ごしらえはしてくれていたようで、店主はすぐにメンバー達が囲む卓にボルガライスを運んできた。
 ふんわりとした卵に包まれたチキンライス。その卵の上には、肉厚なトンカツがのっている。実にパワフルな見た目の一皿だ。
 キカはそんな料理に、きっと美味しいと目を輝かせて。
「オムライスとトンカツが合体なんて、ぜいたくだね!」
「これは……、グリゼルダたんが涎垂らしそうな逸品ですわね。後で教えましょ♪」
 エニーケはいつも腹ペコな愛らしいヴァルキュリアを思い浮かべつつ、スマホのカメラで撮影してから頂く。
「美味しいですよぅ! 身体を張った甲斐がありました!」
 ユーリは待ちに待ったボルガライスを一口食べ、頬を緩ませる。
 オムライスとカツを同時に食べるという贅沢さもあり、一層幸せな気持ちを感じることができる。
 リュエンは満足気に味わう。双牙も濃厚な味に舌鼓を打ち、沙雪も小さく頷いて堪能していた様子だ。
「オムライスふわふわだ!」
 キカは早速オムライスをその小さな口に入れ、その柔らかい感触を舌で確かめる。
 そして、今度は肉汁たっぷりなトンカツ。
「トンカツもサクサクしておいしいよ、キキ」
 キカはその味を伝えようと、抱くおもちゃのロボットへと話しかけた。
 お肉も噛み応え十分だが、何よりサクサクの衣が肉の美味しさを際立たせてくれる。
「うおォ~ン、私はまるで肉食系動物です!」
 その反対側では、ユーリがガツガツと目の前の料理を平らげている。
「ごちそうさまでした!」
 あっさりと食べ終えたユーリに対し、キカはもきゅもきゅとその味を噛み締めて。
「また食べに来たいな」
 彼女はこれ以上なく、幸せそうな表情を浮かべていたのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 9
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