海の漢の料理

作者:久澄零太

「やっぱ海の飯はこれだよな……!」
 まだ朝日すら昇るかどうか怪しい時間帯。船着き場に集まった漁師たちは新鮮な魚の身を叩き、調味料と合わせた料理に舌鼓を打っていた。
「魚の旨味が最も出る、かつ作るのに手間もかからねぇ。変わった材料も器材もいらねぇし、旨くて簡単とか、これしかねぇ!!」
 カーッ! 感嘆の声を漁師の一人が漏らした時だった。まるで水平線の向こうから太陽が顔を出すように眩いばかりの閃光に包まれて、やがて光を振り払うその姿は鳥の異形。どよめく漁師仲間達へ、異形は翼を広げる。
「お前らも思うだろう? なめろうこそが魚料理の大正義よ!!」

「皆大変だよ!」
 大神・ユキ(元気印のヘリオライダー・en0168)はコロコロと地図を広げて、とある漁港を示した。
「ここになめろうを大正義にするビルシャナが現れる事が分かったの!」
「なめろうが大正義、ですか……」
 ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893) の面持ちは暗い。自分の信条とするなめろう。それが原因で犠牲者が出てしまった。
「できるのなら、その方とは違う形でお会いしたかったです……」
 ビスマスが意気消沈してしまうが、同時にこの異形に対抗できるのも、恐らくは彼女くらいのものだろう。
「大正義ビルシャナはなめろうに対していい事も悪い事も、関係した意見を言われると必ず反応するよ。だから本当になめろうが好きか、逆に大嫌いな人が意見をぶつけたらこっちに注意を引けるの。その間に他の漁師さんを逃がしてあげて。じゃないと、そのまま信者にされちゃうよ!」
 裏を返せば、熱意が足りなければ目の前で信者を量産されてしまう。番犬達の愛憎が問われるだろう。
「それと、現場なんだけど……」
 ユキは船着き場と、停泊している船のイラストを描くと、船の前にいくつかの丸を描いた。
「漁師さん達は漁から帰ったばかりで、ここでお魚を整理しながら、そのままだと売れないお魚をなめろうにして朝ごはんにしてるの。それで、その配置が大変で……」
 ユキが赤丸をつけたのは、一番外側の丸。
「ここにいる漁師さんがビルシャナになるから、他の漁師さんを逃がしてあげる為には、意見をぶつけながら視線ていうのかな? 意識を強く引き付ける工夫もなくちゃいけないかも。じゃないと逃がそうとしてるってばれて、急いで洗脳されちゃうよ!」
 見た目か、言葉か、意識を完全に向けざるを得ない議論の仕方を求められている。番犬達のプレゼン能力を問われることになるだろう。
「敵はなめろうを作る包丁捌きと、なめろうを焼くための火力と、なめろうを食べたくなる洗脳をかけてくるよ。お腹はいっぱいにしてから戦場に向かってね?」
 空腹で臨めば、回避が困難な攻撃が多くなりそうだ。
「決して悪い人じゃなかったみたいだけど、大正義ビルシャナになったらその人は……」
 ユキはその言葉を飲み込んだ。それでも察してくれた番犬達へ、少女は無理に、笑顔を作る。
「できれば、美味しい思い出と一緒に、送ってあげて欲しいな!」


参加者
クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)
ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)
ユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)
月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)
シャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856)
惟任・真琴奈(白昼独り百鬼夜行・e42120)
クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)

■リプレイ

●仕事風景に見えない
「毎日一回はやってる、なめろうについて語る会、はっじまるヨー!」
 いつからそんなものが始まったのかさっぱりだが、クロエ・テニア(彩の錬象術師・e44238)は大声を上げながらビルシャナに向かってダッシュ。
「アタシ、なめろうのファン! もっとなめろうの良さを聞かせて!」
「お、おう……」
 いきなりマイクなんか突きつけるから、鳥オバケの方も困惑しかしてないよ。
「う~ん、なにか……郷土料理の食レポ? 見たいかもー?」
「郷土っちゃあ郷土だが……なめろうはそんな狭いもんには収まらねぇ!」
 どことなく棒読みのユーフォルビア・レティクルス(フロストダイア・e04857)だが、鳥オバケはそんなの気にせず語り始めてしまった。そんな異形にマイクを向けるクロエを見ていると、ユーフォルビアの脳裏に過るのは某残念系アイドル(という名の被害者)。あいつがいたら、絶対「この天才料理人にお任せください!」とか言い始めて犠牲者を量産してたよ。
「まー、悪い子じゃない……んだろうけどねぇ……」
 遠くをみるユーフォルビアが焼鳥を頬張ると、異形がギョロリ。
「おいテメェ、漁港にいてなめろうを食わねぇのはまだ分かる。魚料理ってのはどれも美味いからな。だがしかし、肉食ってるってなぁどういう了見だ? えぇ!?」
 焼鳥を食ってたせいで怒りを買ったユーフォルビアは面倒くさそうに目を逸らすと、何か思いついたように電球ピコン。
「これはもちろん、なめろうの可能性を示す為の小道具だよ。というわけで先生、お願いします!」
 ササッと道を譲るようにして退いたユーフォルビアの背後から現れたのは、我らがなめろうオバケこと、ビスマス・テルマール(なめろう鎧装騎兵・e01893)、その人である。
「テメェか、焼鳥となめろうを一緒くたにしてやがんのは?」
 殺意むき出しで迫ってくる異形にビスマスは首を左右に振った。
「むしろ何故別の物だと捉えているのですか? なめろうは多種多様な姿を持つ万能料理なんですよ? なんで鶏肉のなめろうを否定するような事をおっしゃるんですか? あなたこそ、なめろうを正義と掲げておきながら、その可能性を潰してしまってはいませんか?」
 じとー……嵐の前の湿った潮風のように、べたつく視線にさらされ全身嫌な汗でじっとりする鳥オバケに、まぁまぁ、と月宮・京華(ドラゴニアンの降魔拳士・e11429)が仲裁に入ってマイ箸と日本酒を手に。
「そんな事よりなめろう食べませんか?」
 ジッと異形を見つめる京華……あ、違う。鳥オバケじゃなくて鳥オバケの向こうの、生簀の方を見てる。その様、魚の横取りを狙う野良猫のごとし。
「じゃあここで今日のなめろうに行ってみよう! 何が出るかなー……」
「あ、こら! 勝手に生簀を開けるんじゃねぇ!!」
 クロエが船に乗り込んでしまうと、慌てて異形が後に続く。ついでにマサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・e02729)も乗船するなり生簀を覗き。
「オレはなめろうの中では特にアジのなめろうがいいな! 釣りたてピチピチの奴で作ると最高オブ最高。あとサバ! 釣りたて船上のでしか作れなくて、レア感ない? サバは鮮度が命だからね」
「あー……今日はアジが揚がってたな……」
 嘴を揉みながら本日の漁を振り返る鳥オバケに、マサムネが小さくガッツポーズするが、ネコキャットがその頬に猫パンチ。「本来の目的忘れてないか?」という半眼にそっと顔を背けるマサムネなのだった。

●大体皆マイペース
「なめろうは素材の良さや旨味を直接引き出しますし、滑らかな舌触りも相まって皿まで舐めたくなる美味しさ、が由来の候補に上がる程魅力的ですよね」
 語りながらなめろうを調理するビスマスがふと、持ってきた魔法瓶を取り出して。
「あっ……なめろうのお吸い物如何です? 美味で暖まりますよ。漁師の皆さんも是非」
「お、おう……」
 さっきからなめろうの話しかしてない番犬達に困惑を隠せない漁師達は元同僚と番犬を見比べて、恐怖よりも困惑の方が強まってしまっているもよう。
「ささ、皆さんずずーっと飲んじゃって」
 クリームヒルデ・ビスマルク(自宅警備ヒーラー天使系・e01397)はなめろう汁を配り回り、漁師達が飲み干したのを見計らってスマホを取り出し、声を上げた。
「いけない、もうこんな時間……おにーさん、早く市場に魚出さないと、今日の競り始まっちゃいますよ。魚も市場にでて高値がついて、おいしく食べて貰えれば魚冥利に尽きるってもんです。街の子ども達や、田舎のじっちゃんばっちゃんが、おにーさん達が捕った魚を心待ちにしてますよ……たぶん」
 最後だけ顔を背けてボソッと言ったクリームヒルデに、ビルシャナが手羽先を顔に当てて天を仰ぐ。
「おっといけねぇ。いつまでもここでなめろう食ってるわけにはいかねぇな! 俺もそろそろ行かねぇと……」
「おっとそれには及びやせんぜ!」
 器と箸を置こうとする異形に、両手を翳して腰を落ち着かせようとするクリームヒルデはビッと親指を立てて漁師達を示す。
「この新鮮なお魚は私達が責任を持って市場に運んでおきます。ねっ?」
 にこー。振り返るクリームヒルデに困惑する漁師達だが、手元の器が光った気がして目を落とすと、そこには小さな光のスクリーンが浮かんでいて「合わせて」の文字。驚いて顔を上げればクリームヒルデがウィンク。この文字は彼女が自分達を誘導するために浮かべた物なのだと察した漁師達はやや戸惑いながらも、頷きを返す。
「じゃ、そういうわけでこっちは任せて、あなたは存分になめろう談義に花を咲かせてくださいな」
「お、お前ら……すまねぇ!」
 ぶわっ。感涙を翼で拭う異形に見送られて、クリームヒルデと漁師たちは今日の漁の成果を市場に向けて運んでいく……。
「なめろうは味の引き出し方も、風味を引き立てる味噌や塩昆布や醤油や塩麹等、多種多様。そのままも焼いても、パンに挟むも良しですし」
「ばっか男なら白飯だろう! ……って、アンタは女か?」
 まさかのクリームヒルデがさっさと避難誘導を完了させてしまった為、これ以上なめろうを語る必要はないのだが、そこはそれ。一度なめろうった(動詞)ビスマスは止まらない、ていうか止められない。アジのなめろうを完成させて皿に取り分け始めた。
「なめろうか、初めて聞いた名だな」
 じっと皿を見つめるシャルフィン・レヴェルス(モノフォビア・e27856)はふむ、一つ頷く。
「てっきり先日死んでしまった、手塩にかけて育てたなめくじのなめじろうの親戚かと思っていた。どうやら違ったようだ」
 なんでなめくじだと思ったのさ!?
「シャルフィンなめくじ死なせちゃったの?」
「なめじろうはな、手塩にかけて可愛がったのに翌朝無残な姿になっていてな……」
 マサムネがツッコミたいという本音を押し殺して踏み込むと、シャルフィンはそっと空を見上げた。
「知っているかマサムネ。実はナメクジに塩をかけてはいけない……」
 潮風が頬を撫ぜる埠頭で、シャルフィンは愁いを帯びた瞳を伏せてなめじろうとの思い出に浸り、マサムネはキョトン顔。
「え、シャルフィンまさか……」
「しかしなめろうは塩をかけても美味しいのです!!」
 マサムネが驚愕の事実に到ってしまう寸前、ビスマスの声が全てを塗りつぶしていく。

●ただの食事会
「あ、焼きなめろうも大正義ですよね?」
「あたぼうよ。なめろうは叩き料理だけじゃねぇからな!」
 普通に会話しちゃってるビスマスと鳥オバケ。大正義じゃなかったらどうすんだ……。
「焼なめろう、ハンバーグみたいにしても美味しい。これまた酒が進むんだー!」
 日本酒の瓶を掲げるマサムネ……現在二十歳にしてそんな台詞が出てくるって事は、結構飲んでるね?
「私もさんが焼きは好き。お肉に負けず劣らずな美味しさなのに、軽くてヘルシーで言うことなしだよね」
 コクコク頷く京華もまた、スッと日本酒を取り出して。
「そしてなめろうにはこれだよね!」
「ささ、まずは一杯……」
 クロエも持ち込んでた……マサムネ、京華、クロエの三人が異形に迫り、ビスマスの仕上げたなめろうと共に日本酒が並ぶ。
「ほらビルシャナさん、イッキ! イッキ!」
「バカ野郎、酒はあまり煽るもんじゃねぇ」
 手を叩き、囃し立てるマサムネに説教しつつもコップ一杯の日本酒をぐいーっと一飲み。そしてなめろうをかきこみ旨味に震えながらクロエに酒を注がれて再びそれを空にする。
「わー……ペース速いけど、ダイジョブ?」
 あまりにも景気よく飲み干されて、クロエは逆に心配になってくるが、鳥オバケは笑い飛ばした。
「当たり前だ。酔うのは船だけで十分だっつうの!」
「いや、漁師が船酔いしちゃダメっしょ!?」
 と、クロエがツッコミを頑張っているのにも関わらず。
「とても簡単に作れるのにとても美味しい。なめらかな舌触り、あふれる旨み、ごはんなんばいでもいけますね。あ、おかわり貰えますか?」
 京華、お前どんだけ食うんだよ?
「美味しい物をお腹いっぱい食べて何がいけないんですか!?」
 真顔で返されてしまった……ふと、京華は帰ってきた茶碗を見て固まる。
「赤い……?」
「それはトマト味噌を使っているんです」
 ビスマスのさりげないドヤァ。
「トマトと味噌が互いを高め合い、美容健康にもいい調味料なんです。それを今回はなめろうに使って、さんが焼きにしてみました。粉チーズとバジルでイタリアン風にどうぞ!」
「わ、オシャレですね……」
 真っ赤なさんが焼きにチーズの白とバジルの緑が踊り、見た目も鮮やかにして香りが食欲をそそる一品に。まぁ、食欲の権化と化している今の京華には関係なさそうだが。
「シャルフィンさんにはこちらですね」
 ビスマスが差し出したのは塩なめろう。なめろうに軽く塩を振り、余分な水分を排して歯ごたえを生みつつ、淡泊になりがちな魚の味に塩と隠し味のレモンの果汁でサッパリした仕上がり。
「ほら、シャルフィン」
 マサムネが代わりに受け取って、一口分を箸でつまむとシャルフィンの口元へ。
「はい、あーん!」
「ふむ、ビスマスが美味しいなめろう料理を振舞ってくれるなら、ごちそうにあやからないわけにはいくまいよ」
 マサムネに食べさせてもらいつつ、周囲にハートをまき散らす夫婦ならぬ夫夫に誰かツッコミを入れてください。
「マサムネの手料理も良いが、たまには外で食べるのもいいな……」
「何それ、オレちょっと敗北感……絶対家でもなめろう作ってシャルフィンに美味いって言わせて見せるからな!」
「はっ! 塩さんが焼きにワサビって美味しいのでは!?」
 京華、食い意地のあまり夫夫の空気ぶち壊すのはやめてやれよ。

●その参考資料、うちにもある
「なめろうと言えば、使う魚と調味料次第でかなりアレンジが効くのが魅力的ですよね。ですが大正義を語るならば、敢えて捻らず王道で」
 惟任・真琴奈(白昼独り百鬼夜行・e42120)は本来は漁師の避難誘導のはずだったのだが、その出番がなくなったため今回は調理に挑戦。細かく叩いたアジに味噌、醤油、みょうが、生姜、ネギを加えて更に叩きながら混ぜ合わせて、ご飯にかけたら上からもみのりを散らしてゴマを振りかけて、出汁を注いで完成。
「なめろうの出汁茶漬け。どうですか。王道そのものでしょうコレ」
「おぉ……漁で冷えた体にありがたい茶漬けときたか……」
「そ、そうでしょう……?」
 異形は感動を禁じ得ないようだが、真琴奈はそっと顔を背け、京華がじー。
「何かあったの?」
「実はコレ、私が考えたメニューではないのですよ。同居人が見つけてきたレシピをそっくりそのまま使ってまして……」
 ビスマスのオリジナルメニューの数々の前に、某運命の漫画のメニュー持ちこんだら居づらいわな……って、あの吸血鬼アレ読んでるの?
「まあその、美味しかったですし……現にコレ、美味しいでしょう。それが正義なのです。手段や方法などどうでもよかろうなのです」
「応よ」
 まさかの鳥オバケの方が頷いた。
「なめろうってなぁ大雑把な調理法も魅力の一つだ。裏を返せば、色んな作り方に派生できる。やり方なんか関係な……」
「ちょ、皆食べてるし……私にもその焼いた奴プリーズ?」
 クリームヒルデが帰ってくるなり両手を伸ばし、いい事言おうとした鳥オバケがしゅーん。ビスマスがなめろうを大葉で包み、味噌を塗って焼き上げる。
「……あなたの正義、捨てる事はできませんか?」
「できねぇよ」
 焼き上げたさんが焼きをクリームヒルデに渡すビスマスに、異形はなめろうを嘴に運んで海を見た。
「若い奴らはなめろうを生臭いとか、衛生的にヤダとか、色々言いやがってな……」
「生のお魚って、寄生虫とかも恐いもんね。おねーさんも生魚はダメかなー」
 クリームヒルデは火が通ったなめろうを頬張りつつ、生魚のリスクについて思案する。その様子に、鳥オバケは寂しそうに笑った。
「いつかなめろうがなくなるんじゃねぇかって思ったら、急に虚しくなってな……でも、こだわり過ぎたのかもしれねぇ……」
「そんな事は……!」
 自らの翼を見やる異形に、ビスマスは拳を握る。震える彼女の肩に、クロエが手を乗せた。
「なめろうに対する愛に差異はなかった。ケド、アタシたちは相容れぬ存在……」
 分かるよネ? クロエの目はそう問うていて、俯くビスマスの顔を真琴奈が無理やり起こす。
「非常に、胸糞の悪い話ではありますが。始まってしまったものは、正しく終わらせましょう。それはなめろうを愛する、あなたの役目です」
「でも……」
「やれよ」
 踏み切れないビスマスに、異形は両翼を広げ瞳を閉じる。
「漁師として……海の漢として、逝かせてくれや」
「鎧装……転送……!」
 ビスマスの装甲が海底の砂のような色彩に染まり、水の抵抗を逃がす様な丸みを帯びた物に形を変えて、背部の巨大なアナゴを握ればロックが外れ、実体を失い霊子の大剣と化す。消えゆく食文化を憂いただけだった。なめろうを愛した漁師だった。そんな彼へ……。
「ナメビス……くん……?」
 得物を振るえずにいるビスマスに、箱竜が小さく鳴いた。
「そうですね……私が……終わらせなくては……」
 大剣を握り直し、一歩踏み込む。
「アナゴなめろう……」
 視界が揺らぐ。溢れだす感情は、飲み干さなくてはならない。それが文化を守ると決めた、自分の役割だから。
「神霊剣……ッ!」
 振り抜いた得物の先、消えゆく漢は微笑む。
「ありがとよ……」
 小さな声は、さざ波に飲まれて消えた。
「……なめろう、作ってよ」
 ユーフォルビアは、崩れ落ちたビスマスの背中に微笑む。
「漁師さんが命張れるほど、美味しいんでしょ?」
「えぇ……なめろうは……素晴らしいものです……!」
 この食文化を絶やしてはならない。ビスマスは決意新たに、包丁を握った。

作者:久澄零太 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。