ミッション破壊作戦～不完全な不死者達

■リプレイ

●屍隸兵という存在
　上空を飛ぶヘリオンは、搭乗するケルベロス達が指定したミッションを目指す。
　その機内では……。
「破壊して少しは解放したーい」
　村雨・ベル（エルフの錬金術師・e00811）のそんなぼやきが聞こえてくる中、メンバー達は作戦会議を行う。
　グラディウスで魔空回廊を攻撃。合流して撤退する中、強敵撃破。ミッション中のケルベロスと連携して撤退。
　ベルと同じ苗字の村雨・柚月（黒髪藍眼・e09239）は、そんな流れを確認していた。
　左腕をジャンクで補う卜部・泰孝（ジャンクチップ・e27412）もまた、撤退の際に使う退路の確認そして、現在ミッション地域で活動中のケルベロスの情報をアイズフォンで収集し、仲間へと伝達する。
　その間、彼は慣れた様子で、右手でグラディウスを器用にクルクル回して弄ぶ。
「三度目か。そろそろ破壊できてもいい頃合いかもね」
　因幡・白兎（因幡のゲス兎・e05145）も作戦を確認しつつ、呟く。
　以前の作戦で、白兎は自身に因縁がある屍隸兵の支配地域の奪還に成功できている。その恩返しもあって、今回は参戦しているとのことだ。
「以前に、空蝉の作りだした悲しい屍隷兵を倒しましたが」
　話の最中、赤いツインテールのウィッカ・アルマンダイン（魔導の探究者・e02707）が語る。
「元に戻す手段がない以上、倒すことで解放するしかないのですよね」
　彷徨う屍隷兵の苦しみは、その活動を終わらせるしかない。ウィッカはそれを嘆く。
（「ありのままの世界の姿を、人々の平穏と幸福を。そして何よりも、めぐる命の理を守るために」）
　傍で聞いていた淡い水色のポニーテールの女性、イルヴァ・セリアン（あけいろの葬雪花・e04389）にとって、それが戦う理由だ。
「理をゆがめ、人々の命を弄ぶデウスエクスの所業を、……わたしは、絶対に許さない」
「グラビティ・チェインを奪うために殺すのに飽きたらず、人々の亡骸を操り人形にして、更に人々を殺戮しようだなんて……絶対に許せない」
　イルヴァの憤りに、ガートルード・コロネーション（コロネじゃないもん・e45615）も同調する。
　今から向かういわき市はミッションとして、一番古くから屍隷兵の脅威にさらされて来ている。
　それだけに、屍隷兵の犠牲になった人も、新たな屍隷兵にされた人も多いのではないかとガートルードは考えて。
「だからこそ、今回で解放しないと」
「屍隸兵ってのは、色々やりづらい相手だね」
　そこで、白兎は以前の攻略において、屍隸兵の創り手達に意識を向けすぎて、グラディウスの力を発揮できなかった経験を語る。
「この地域を取り戻す、そこに気持ちの照準をきっちり合わせるよ」
　その時、現場到着のアナウンスが流れると、山之内・涼子（おにぎり拳士・e02918）が立ち上がる。
「よーし、サクッと行って、サクッと倒して、サクッと終わり！　がんばろう！」
　気合十分な様子の涼子は、仲間に先んじてヘリオンから飛び降りて行く。
　泰孝は降下前に、コイントスしてみせる。表が出れば成功、裏なら失敗。
　出たのは、……表。
　その結果に彼はにやりと微笑み、最後に降下するのだった。

●魂の叫びをグラディウスに……！
　福島県いわき市。
　この地に出現した強襲型魔空回廊の破壊の為、ケルベロス達はグラディウスを手に、飛び降りていく。
　その行く手を遮る半円状のバリア。
　まずは、これを破壊すべく、最初に涼子が飛び込み、グラディウスをかざす。
　晴れ行くバリアの中へ、メンバー達が次々に降下して。
「この星の大地を返してもらうから、覚悟なさーい！」
　すでに、２度、ケルベロスのチームがこの地の魔空回廊の攻略に挑んでいる。所々に見える傷へ、ベルは淡く輝くグラディウスを突き立てる。
　発する雷光がこの地を照らし出すところへ、白兎が続く。
「いわき市ってのはね、東北でも有数の都市なんだよ」
　ここは特に、自然の恩恵を受け、時に自然の猛威にも耐えてきた街だと彼は言う。
「だからね、自然ならざるものたちはお引き取り願おうか！」
　彼もまた、口を開ける魔空回廊に煌く刃を突き刺す。
　周囲に、溢れんばかりの雷光が飛び散った。
「屍隷兵自体は哀れなる人形だとしても、人々を襲う以上、見逃すわけにはいきません！」
　その姿を目にしながら、ウィッカがさらに襲い掛かる。
「何より、屍隷兵がいれば、それを研究して更なる屍隷兵技術の拡大に繋がる可能性があるでしょう！」
　握るグラディウスは強い光を放って。
「生命を冒涜する屍隷兵の技術は、地球上より根絶します！！」
　ウィッカが強く突き刺した刃によって、強い爆炎が巻き起こる。
　さらに、３人がほぼ同時に攻撃を仕掛けていく。
「……屍隷兵たちは、もとはこの星に生きる無辜の生命だった」
　イルヴァもまた、グラディウスに魂の叫びを込める。
　――生きたまま、あるいは死してなおデウスエクスの尖兵とされ、歪められた在り方に縛られた者達。
　彼らはその肉体も魂も囚われ、何処にもいけないのだ。
「わたしは、彼らを救いたい」
　――哀しみも苦しみも、これ以上生み出させない。
「……必ず、です」
　そのために、イルヴァはグラディウスに願いを込める。
「どうしてこんな酷いことを」
　傍では、ガートルードが地上の有様を嘆く。
「グラビティ・チェインを奪うためでも許せないのに、命を奪うだけでなく、人々の命を奪う操り人形にするなんて！」
　――螺旋忍軍も冥竜も許せない。せめて、螺旋屍隷兵がこれ以上誰かを傷つける前に……倒す。
　ガートルードも手にする刃に、魂の叫びを込めていく。
「苦しみも、痛みも、悲しみも、何もかもが多すぎる」
　柚月もまた、真っ先に化け物からの侵略を受けて、受けて、受け続けるこの地の実状を憂いていた。
　――人の生きる姿、人が住まう街の形が明日も続くとは限らない。
　だからこそ、この刃を突き立てるべきはこの地と彼は決めたのだ。
「もうこれ以上、苦しませない！　傷つかせない！」
　消えゆかんとする人の命、人の未来。それらを掴み取るのは、今しかない。
　眩い光を発する刃を、柚月は大きく振り上げて。
「だからお願い、グラディウス。この魔空回廊を壊して」
　イルヴァが願うと、彼女とガートルード、柚月の刃が強く輝き始める。
「死に囚われた人たちを救うために――力を貸して！」
「彼らも被害者だけど、私にはこうすることしか……できないから！」
「侵略の魔の手は俺が全て消し去ってやる！　跡形もなく消えやがれ！」
　３つの刃が同時に魔空回廊へと突き刺さり、周囲に濃いスモークが噴き出す。
　魔空回廊にも大きな亀裂が発生し出したところで、泰孝が最後の一撃と降り立ってくる。
「命を使った人生ゲーム、それはもう終わってんだよ」
　――終わった連中繋ぎ合わせてゲーム再開。そんなブレイクスルーは認められない。
　――それに、今生きている連中のゲームを終わらせ、そっち側のプレイヤーにするわけにはいかない。
　そう考える泰孝の手で、グラディウスが煌く。
「ここは、今日でゲームセット。コイツで吹っ飛びな！」
　大きく振り払われた刃が魔空回廊の亀裂を深め、真っ二つに割ってしまう。
　次の瞬間、いわき市市内に轟音が鳴り響く。
　二つに割れた魔空回廊は瓦解し、徐々にその姿を消していくのだった。

●哀れなる命に安らぎを
　消えていく魔空回廊を柚月は見上げて。
「これでようやく、この街に明るい明日がやってくるな……」
「ウアアア……、ウウウウ……」
　感慨に耽るのも束の間のこと。苦しみ悶える螺旋の仮面を被った屍隷兵がこちらに近づいてくる。
　敵の接近に、泰孝は左腕のジャンクアームにライフルをねじ込む。
「屍隷兵にされた人々も犠牲者でしかない」
　グラディウスをベルトに固定していたガートルードも、指輪を光らせて光の剣を出現させる。
「彼らを弔うためにも、まずは彼らを倒して……これ以上の犠牲を出させない。そうするしか……」
　目の前に現われた螺旋屍隷兵を前に、彼女は自分へと言い聞かせるように繰り返していたが。
「それじゃあ、サクッと行くよー！」
　駆け出す涼子はそのまま、現われた敵へと突撃する。
　バトルガントレットにグラビティ・チェインを込め、彼女は力の限り叩き込んだ。
「お前も、かつては被害者だったのだろうな……」
　殴打で呻く屍隷兵へ、柚月が日本刀を抜きながら語りかける。
「だからと言って、この手を緩める真似はしない」
　相手は今、他のデウスエクスと変わらぬただの侵略者でしかない。だから、彼は敵の足や腕を狙って弧を描いて切りかかっていく。
「大人しくしな。終わらせてやるからよ」
　続き、泰孝がどこからか持ち出した長物の尖端で相手の守りを打ち砕こうとする。
　ただ、デウスエクスとなった相手はそう簡単には倒れてくれない。
「敵がキャスターじゃなきゃいいなあ」
　屍隸兵はまだ表立った動きを見せない。本格的に動く前に、白兎は黒い鎖を操って相手の体を縛りつけようとする。
　さらに、頭上にはイルヴァが跳び上がっていて。
　世界のあるがままの姿を愛し、めぐる世の理を守ることをイルヴァは旨としている。
　――全てを浄化し、あるべき理の中、正しき世界の姿に還したい。
（「死してなお囚われる屍隷兵という存在……」）
　その存在は、イルヴァにとって見過ごせない。だからこそ、この場で断りに還すべく、流星の蹴りを浴びせかける。
　幾度かケルベロス達からグラビティを受けていた屍隷兵はゆらりと動き出し、螺旋の拳を叩きつけてきた。
　それを、シャーマンズゴーストのイージーエイトさんが受け止める。
「とりあえず回復がんばっちゃいますので、みんながんばってね！」
　ベルは盾となりつつ仲間の支援に回り、祈りを捧げる」サーヴァントに合わせ、自らは雷の壁を築いて仲間の守りを固めていく。
　後方のウィッカも前線メンバーを助けるべく、氷の結晶で作られた氷晶扇を手に仲間達の陣形を見定めて力を与える。
　エルフの魔術師である彼女はさらに自らのマジックアイテムを使って、仲間の回復支援に動くようだ。
「こうするしか……ないんです」
　援護を受ける最前線のガートルードも意を決する。
　命中率を見てオウガメタルをその身に纏い、彼女はワイルド化した左腕を使って拳での連撃を叩き込む。
「ウウ、ウアア……」
　ただ、相手はケルベロス達の攻撃をじっと防ぎながら、螺旋の力で反撃を繰り出してくるのである。

「ウアア……、アアアア……」
　思った以上に、螺旋屍隷兵の守りは堅い。
　ディフェンダーとして立つ相手は、余り動かずにケルベロス達の攻撃に耐えている。
　相手がキャスターでないかと考えていたイルヴァや白兎としては助かったところだが、これはこれで面倒な相手だ。
　螺旋を気流となして放ってくる屍隷兵の一撃を体で受け止めたガートルードはまだ体力は持つと判断し、敵の螺旋の力を封じようとその頭や腕を狙って切りかかっていく。
　仲間達がうまく相手を押さえつけていることもあり、泰孝は長物を手に仲間達のつけた傷を斬り広げようとした。
「――衝き穿つは闇をこそ。凍て果すは穢をこそ」
　足止めは十分とイルヴァも見て、得意の氷雪の術を展開しつつ屍隷兵に飛び込む。
「……破魔の蒼星、凍夜の閃軌。凍て尽くし、裂き穿て！」
　極限にまで凝縮させた氷の魔力。
　絶対零度に近い極低音の冷気が宿る拳を、イルヴァは淡い蒼光と氷粒を纏って相手へと叩き込んでいく。
　体はもちろんのこと、魂魄までも凍らせる一撃。
　屍隷兵はもろにそれを受けたはずだが、デウスエクス達によって作られた肉体の枷を解放させるには至らない。
　なおも、螺旋の力を奮ってくる敵。ウィッカは仲間に魔法の木の葉を舞わせることで迅速な撃破に繋げようとする。
　ただ、そいつを縛りつける力は余りに強い。
　幾度グラビティを食らってもビクともしない屍隷兵は螺旋の気流を浴びせかけてきた。
　前に出たイージーエイトさんが耐え切れずに消えてしまう中、ベルは矢面に立つ自身とガートルードを重点的に施術して傷を縫合していく。
　それでも、相手の体は不死身ではない。肉体の綻びを白兎は目ざとく発見して。
「んじゃ、そろそろ刈り取らせてもらおうか」
　それは、伝説の兎を髣髴とさせる斬撃。彼のチェーンソー剣は敵の首を捉えて振り下ろされる。
　それでも、堅い。白兎は力を込めるが、なかなか切り落とすには至らない。
　泰孝が凍結光線を発射し、ガートルードがワイルド化した左腕を飛ばす。
「……地の果て、天までも届け！　ワイルドアーム！」
　左手に握られた光の剣ごと相手を地面に縫い付ける。
「契約に従いて、その力を我が前に示せ！」
　ベルが降らせた癒しの雨もあって、ウィッカはこの一時は攻撃に転じる。
「其が宿すは腐敗の魔力、絶対なる傷を与える刃なり！」
　ウィッカが呼び出した悪魔の刃は執拗に屍隷兵を狙い、消えない傷を刻み込んでいく。決して言えぬ傷口はやがて、腐敗していくことだろう。
　さらに、イルヴァが斬霊刀「朧雪」で斬りかかり、残り少ないはずの相手の体力を奪い取っていく。
　メンバー達が畳み掛ける中、涼子もジェットエンジンを加速させて猛然と殴りかかる。
「これで、おしまい！」
　勢いも加わった衝撃を受け、屍隷兵の首と体がややずれてしまう。
　まともに動けなくなってきた相手に、柚月が肉薄した。
「螺旋を以って、螺旋を制す！」
　取り出したるは、大いなる奇術の力を秘めたカード。それは小刻みに屍隷兵の体を傷つけていく。
「お前に最後の役目をやろう。果てよ、そして地に還れ！」
　そして、一気にカードを大きくし、柚月は相手の胴体を切断する。
「ウ、ウアァ……」
　身体を裂かれた螺旋屍隷兵は身体を維持できなくなり、その場へと崩れ落ちていったのだった。

●屍隷兵を作り出す者へ
　戦いを終え、メンバーは速やかに帰還へと動く。
　グラディウスを確認する涼子。同じく、柚月もしっかりグラディウスを所持してミッション中のケルベロスとの合流を目指す。
　泰孝が連絡をとり、それに従う形でガートルードはこの場から離脱する。
　それに続くウィッカは後方を振り返って。
「この地の屍隷兵は、いったい何者に生み出されたのでしょうか……？」
　屍隷兵を倒すだけでは真の解決とはならない。製作者をどうにかせねばならないが……。
　白兎はあえて、その創り手へと言い放つ。
「どれだけ屍隷兵を送り出そうと無駄さ。僕達がちょちょいっと奪還してやるからさ」
　軽い戦線布告を残し、彼もまたこの地を離れていくのだった。

作者：なちゅい	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月18日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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