笑い笑われて生きるのさ

作者:土師三良

●謹厳のビジョン
 ある昼下がり。海が見える小高い丘の上の公園で。
「人は皆、シリアスに生きるべきなんだ!」
 ビルシャナ化した中年の男が叫んでいた。
「だって、この世界そのものがシリアスなんだから! 戦争、差別、貧困、犯罪、公害……いろんな問題が山積みで、笑っている余裕なんかないはずだ! にもかかわらず、へらへらと笑いながらテキトーな人生を送ってる奴が多すぎるよね!」
 男の外見はビルシャナ化の影響で『怪奇! アホウドリ人間!』とでも呼ぶべきものになっていた。そんなマヌケな姿をした者がシリアス云々と主張している光景は『シリアス』という概念から何万光年も離れているが、当人は気付いていないようだ。
 いや、当人だけではない。
 ビルシャナの前には七人の男が立っていたが、彼らもこの異常なシチュエーションになんの違和感も抱いていないらしく、真剣な顔をして話を聞いている。
「くだらないギャグ漫画のおバカキャラみたいな生き方をしてる奴らは許さない!」
 と、ビルシャナは断言した。
「そんな奴らはこの『聖(セント)シリアス』が粛清してやる! それから、ギャグ漫画やお笑い番組やコメディー映画も一掃し、ジョークや親父ギャグやすべらない話を法律で禁じ、全国のゆるキャラたちをガチキャラに変えて、このシリアスな世界をよりシリアスにしてやるんだぁーっ!」
 実に馬鹿げた野望だが、それに負けず劣らず『聖シリアス』という名前もひどい。
 しかし、七人の男たちは失笑を漏らすことなく……いや、表情筋以外のものもほとんど動かすことなく、ビルシャナのシリアスな馬鹿話を謹聴していた。

●ぴえり&イマジネイターかく語りき
「『聖シリアス』と名乗るビルシャナが茨城県日立市の公園に現れました」
 ヘリポートの一角でヘリオライダーのイマジネイター・リコレクションが静かに告げた。
「その名のとおり、とてもシリアスなビルシャナです」
「しりあす?」
 イマジネイターの前に並んでいたケルベロスの一人が思わず聞き返した。
 盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)である。
「はい」
 と、イマジネイターは頷いた。
「しかし、あまり良い意味でシリアスというわけではありません。ギャグやお笑いやユーモアを完全否定し、他者にもシリアスに生きることを押し付けようとしているんです」
「随分と勝手なビルシャナだねぇ。でも、シリアスなものを愛する気持ちは判らなくもないかな。だって、このぴえりんも――」
 自分の顔を両手で左右から指さすようにして、可愛いくもマヌケなポーズを決めるぴえり。
「――超シリアスな人間だからー!」
「そうですか」
「いや、真顔で頷かないでよ。今のはツッコむところっしょ……」
「あ、すいません」
 イマジネイターはぴえりに頭を下げ、話を本題に戻した。
「聖シリアスは七人の男性を洗脳して信者にしています。聖ビルシャナを倒すことができたとしても、その信者の誰かが後々に新たなビルシャナと化すかもしれません。よって、彼らの洗脳を解くことも考えるべきでしょう」
「どうやって解けばいいのかな?」
「お笑いの素晴らしさを知らしめて、笑顔を取り戻させればいいんです。たとえば、ビルシャナとの戦闘の際に一発ギャグを盛り込んだり、コント仕立てにしたり、おかしな恰好をしながらも真面目に振舞ったり、攻撃を受けたらリアクション芸人よろしく大袈裟に痛がったり……」
「うーん。イマちゃんはそんな風にさらっと言ってるけどさー。人を笑わせるのって、けっこうハードル高いんだよー」
「いえ、高度なお笑いセンスは必要ありません。信者たちはギャグにあまり免疫がないので、ベタなネタでも笑わせることができるはずです。それに地球には『すべり芸』と呼ばれるものがあるそうじゃないですか。自信のないかたはそれをやってみてはいかがでしょう」
「すべり芸は受けても受けなくても心が折れそうになるんだけどね。でも、本当にぴえりんの心が折れる時があるとすれば、それは――」
 珍しく『しりあす』な顔を見せるぴえり。
「――この世界から笑顔が絶えてしまった時だよ。だから、笑いを否定するビルシャナなんかに負けるわけにはいかない!」
「なんでやねーん!」
「いや、今のはべつにツッコむところじゃないっしょ……」
「あ、すいません」
 またもや頭を下げるイマジネイターであった。


参加者
浅川・恭介(ジザニオン・e01367)
アジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)
エルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)
シィ・ブラントネール(ウイングにゃんこ・e03575)
古峨・小鉄(とらとらことら・e03695)
華輪・灯(シリアスなオラトリオ・e04881)
盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)

■リプレイ

●戦慄! 血まみれの悪夢!
 茨城県日立市某所の児童公園。
 そこで七人の男たちが無表情に見つめていた。
 静かに対峙する二人の戦士を。
『聖(セント)シリアス』と名乗るビルシャナと、竜派ドラゴニアンのアジサイ・フォルドレイズ(絶望請負人・e02470)を。
「どうやら、君は――」
 シリアスに生きる者に相応しい(外見はマヌケな半鳥半人だが)冷たいオーラを全身から放射しながら、聖シリアス(以下、SS)が口を開いた。
「――おちゃらけたギャグ野郎じゃないみたいだね。でも、どんなにシリアスな人間であろうと、僕の前に立ちはだかるのなら、容赦はしないよ」
 両者の間を風が音を立てて吹き抜けていく。西部劇の決闘シーンさながらに。
 その風の音が消え去ると、アジサイはSSに言い放った。
「望ムトコロダ。カカッテコイ」
 ……いかつい外見に相応しからぬ甲高い声で。
「なんなの、その声ぇーっ!?」
 SSが叫んだ。全身から放射されていたシリアス・オーラはアジサイが声を発した瞬間に雲散霧消している。
「シリアスな雰囲気がだいなしじゃないかぁーっ! さてはヘリウムか? ヘリウムガスを吸ったのかぁーっ!?」
 SSのリアクションを意に介することなく、アジサイは同じ言葉を真顔で繰り返した。
「カカッテコイ」
「いや、かかっていくけどね! まず、その声をなんとかしようよ!」
「真剣勝負ダ」
「ヘリウムを吸っておいて、真剣もなにもないだろ!」
「臆シタカ?」
「臆してねーわ!」
 そんなやりとりが繰り広げられている間にアジサイの背後から進藤・隆治が姿を現した。
 いや、厳密に言うと『姿』を現してはいない。布団にくるまって、ダンゴ虫のように這っているのだから。
 ダンゴ虫モードの隆治は布団から片腕を出して、プラカードを掲げた。
 そこには――、
『シリアス終了のお知らせ』
 ――と、ポップな字体で記されていた。
「勝手に終了さすなーっ!」
「おーほっほっほっほっ!」
 SSのツッコミを哄笑でかき消し、自称『新世代レプリカント』のエルモア・イェルネフェルト(金赤の狙撃手・e03004)が園内に飛び込んできた。
「今日は金曜日! 皆さん、夕食はなにを召し上がりますか? ラーメン? それとも、焼き肉?」
 SSの信者たる七人の男たちに語りかけながら、バスターライフルを構えるエルモア。
「ちなみにわたくしはカキフライカレーをいただきますわ! 金曜日だけにフライやでぇーっ!」
 ゼログラビトンの光弾がSSに撃ち込まれた。フロストレーザー並みに寒いジョークとともに。
 その光弾が炸裂する様を鋭い眼差しで見ながら、アジサイがお約束の台詞を口にした。
「ヤッタカ!?」
「いや、ヘリウム声で『やったか?』フラグを立てても緊迫感皆無だからー!」
 と、SSがフラグ通り(?)に健在振りを示していると、新たなケルベロスが現れた。
「たぁ~らららら、らぁ~ららぁ~♪」
 バレリーナの衣装を纏い、誰もが知るチャイコフスキーの名曲を口ずさみながら、爪先立ちになって跳ねるように。
「たらぁ~ら、らららららぁ~♪」
 盛山・ぴえり(超電波系アイドルぴえりん・e20641)である。
 SSの前まで来ると、彼は華麗に舞い始めた。ただし、この場合の『華麗』は当人の主観的な評価。客観的に見た上で例えるなら、泥酔したタコだ。
 テレビウムのチャウやんも主人と一緒に舞っているが、頭部の液晶に映し出されているのはバレエとはなんの関係もない時報の画像。好きこのんでやっているわけではないという意思を示しているつもりなのかもしれない。
「……なんなの、君たち?」
 SSが呆気に取られていると、チャウやんの液晶の長針と秒針が重なり――、
『ピーン!』
 ――と、時報の音が公園内に響き渡った。
 それが合図であったかのようにファイティングポーズを取るぴえり。
「ネタに走るケルベロス――略してネタベロスの秘技を見さらせぇー!」
 優美な白鳥(客観的な視点:泥酔したタコ)が荒ぶる鷹(客観的な視点:発狂したクラゲ)に変わった。
「コマンタレブゥ~ッ! トレビアン、ボヘミアン、ナポリタン、ポムダダァ~ン!」
 フランス語で絶叫しながら、ぴえりはSSに蹴りを見舞った。その蹴りは達人の一撃……なのだが、『達人』という言葉の定義を根本から見直す必要があるかもしれない。
「なぜにフランス語? ここはロシア語の流れだろ! あと、ナポリタンはフランス語なのかって話だよ!」
 蹴りを食らいながら、SSは怒鳴り散らした。本人が好むと好まざるとにかかかわらず、ツッコミ役が板についてきている。
「あー、寒い……」
 SSの熱い叫びを聞き流し、冷め切った声でそう呟いたのはオラトリオの浅川・恭介(ジザニオン・e01367)だ。
「僕もあったかい布団が欲しいです」
 布団にくるまった隆治を羨ましげに見ていた恭介だが、その視線をゆっくりとSSに移した。
「そういえば、アホウドリからは上質の羽毛が大量にとれると聞いたことがあります。ビルシャナとなれば、さぞ多くの……」
 ゲシュタルトグレイブを手にして、SSに迫っていく。
 その後に続くのはテレビウムの安田さん。三角形の背鰭の突き出た海面が液晶画面に表示され、有名な鮫映画のBGMが流れ出した。
「ちょ、ちょっと待って! 僕はアホウドリなんかじゃない!」
「羽毛布団の材料がこんなにいっぱい……きっと、これは寒さに凍える僕への贈り物。そう、神様からの! 神様、ありがとう!」
 SSの言葉など聞こえないような顔をして、恭介と安田さんは羽毛を毟り取った。前者は百烈槍地獄で。後者は凶器攻撃で。

●怪奇! 血だるまの亡者!
 恭介と安田さんによる惨劇を別のオラトリオが見ていた。
 ただのオラトリオではない。
 頭にボケの花を咲かせたシリアス極まりないオラトリオ――華輪・灯(シリアスなオラトリオ・e04881)である。
「聖シリアス!」
 這う這うの体で恭介たち逃れたSSに向かって、灯は叫んだ。
 ウイングキャットのアナスタシアとともに公園のシーソーに乗り、ぎっこんばったんと上下に動きながら。
「覚悟しなさい!」
(ぎっこん)
「私がそこに!」
(ばったん)
「たどり着いた時が!」
(ぎっこん)
「貴方の最期です!」
(ばったん)
 どうやら、シーソー式の手漕ぎトロッコに乗って移動しているという設定らしい。
「こんなに漕いでるのに!」
(ぎっこん)
「ぜっんぜん前に進みません!」
(ばったん)
「しょうがない!」
(ぎっこん)
「こうなったら!」
(ばったん)
 灯はシーソーを蹴って跳躍し、すぐにまた全体重を乗せて同じ場所に着地した。
「ロケットアタァァァーック!」
 反対側に乗っていたアナスタシアが凄まじい勢いで跳ね上げられ、空中で弧を描き、SSの顔面にぶつかった。
「にゃあーっ!」
「うぉっ!?」
 体当たりと同時に猫ひっかきを食らい、体勢を崩すSS。
 その隙を見逃すことなく、オラトリオのシィ・ブラントネール(ウイングにゃんこ・e03575)がサーヴァントのレトラと一緒に追撃した。
 漫才という形で。
 ツッコミがシィで、ボケがレトラだ。
 身振り手振りを加えたレトラのトークは実に軽快かつ軽妙……なのかもしれない。実際のところは判らない。
 レトラはシャーマンズゴーストなので――、
「……」
 ――言葉を発することができないのだから。
 しかし、静かなる相方のトークをシィはしっかりと理解しているらしく――、
「いや、地下鉄で行けるわけないし!」
 ――と、ハリセンを手にして、的確な(?)ツッコミを入れている。
「……」
「それを言うなら、カルボナーラでしょ!」
「……」
「吊革の掴み方がおかしい! 決定的かつ致命的におかしい!」
「……」
「だから、カルボナーラだって!」
「……」
「巣鴨か! 気分はもう巣鴨か!」
 ツッコミの声だけが虚しく響くシュールな漫才。
 常人にはとても理解できない。
 にもかかわらず、大笑いしている者がいた。
「ぶはははははははは! なんで、カルボナーラなん! しかも、巣鴨って! 腹がよじれそうじゃあ~っ!」
 白虎の人型ウェアライダーの古峨・小鉄(とらとらことら・e03695)だ。足をばたつかせながら、地面の上を文字通りに笑い転げている。
 その傍ではボクスドラゴンのお花ちゃんも盛大に手を叩き、爆笑していた。公開番組の観客席にいるオバちゃんのように……と、言いたいところだが、根がおとなしいのでオバちゃんほどの迫力はない。
 もちろん、両者ともに本気で笑っているわけではなかった。場を盛り上げるためのサクラである。
「ほれ、ヴァオも一緒に笑うじゃ。野太い声で」
 と、笑っている振りを続けながら、小鉄はヴァオ・ヴァーミスラックス(憎みきれないロック魂・en0123)を促した。
 それに応じてヴァオも笑い役になったが――、
「ナハハハハハハ!」
 ――声が甲高い。ここに来る前、アジサイに勧められて(『騙されて』とも言う)ヘリウムガスを大量に吸引したのだ。
 彼らの笑い声を聞きながら、漫才を続けるシィとレトラ。ついにはノリツッコミも飛び出した。
「……」
「そうそう。やっぱり、スペングラーヤマガメには敵わないもんねー……って、意味が判らないから!」
「いや、本当に意味が判らないんだけどぉーっ!」
 と、SSが割り込んだ。この状況に我慢ならないのか、半泣きになっている。
「ってゆーか、お笑いなんかに興味ないのにボケの内容が気になってしょうがない! そのシャーマンズゴーストはどんな話をしてるの? せめて、カルボナーラをなにと間違っているのかだけでも教えてよ!」
 シリアスこそが至上と主張していたはずの彼までもがギャグの空気に毒されつつある。
 そんな彼に代わって……というわけでもないが、ウェアライダーのフィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)が信者たちの前に立ち、真面目な声で語り出した。
「世界には辛いことが沢山あるから、笑っている余裕なんかない――そんなことを聖シリアスは言ったそうですね。まあ、確かにその通りだと思います。私たちケルベロスの仕事もぜんぜん減らないですしね」
 寂しげな微笑がフィオの口許に浮かぶ。
 だが、すぐに消えた。『寂しげな』の部分だけが。
「それでも私がケルベロスを続けるのは……皆が気持ちよく笑えるようにするためです。笑うために、笑わせるために、辛いことに立ち向かっていくんです」
「ソウ、生キテイク上デ笑イハ大事ダ」
「ごめん、アジサイさん。入ってこないでくれる?」
 と、ヘリウム声の巨漢を脇に押しやり、フィオは信者たちにまた語り出した。
「私だけじゃありませんよ。今日、ここに集まった皆もそうなんです。バカなことをやってるように見えるかもしれませんけど、本当は……」
「スパイラルアーム!」
 フィオの述懐は咆哮に断ち切られた。
 声の主はエルモアだ。SSの胸部をスパイラルアームで抉り抜くと、彼女は仲間たちに満面の笑みを見せ、本日二度目のカレージョークを披露した。
「今のスパイラルアームは左手でしたが、インドでカレーを食べる時に左手を使うのは厳禁なんだとか。でも、『わたしのカレーは左きき』なんて歌がありませんでしたっけ? ちょっと歌ってみましょうか、ヴァオさん」
「俺、へりうむノセイデ声ガコンナ感ジニナッテンダケド……」
 渋りながらも、ヴァオはエルモアとともに(ヘリウム声で)替え歌の熱唱を始めた。
「ぶははははははは! カレーが左ききって、ありえんじゃろー!」
 尻尾を振り回して、小鉄がまたも大袈裟に笑い始める。
「……あー、前言撤回」
 と、こみかみを押さえて、フィオが呻くように呟いた。
「この人たち、これが素ですね。本当にバカやってるだけです、はい」

●恐怖! 血みどろの地獄!
「さっきからずっと気になってたけど、章題サギがひどくないか? なんだよ、血みどろの地獄って!? もっと真面目に書け!」
 SSがわけの判らないことを言い始めた。激しい攻撃を何度も受けたため、錯乱しているのだろう。
 だが、ケルベロスもまたダメージを負っていた。SSはツッコミ役に徹していたわけではなく、しっかり反撃していたのだ。そんな描写は一度もなかったが、嘘ではない。その証拠にエルモアとぴえりがトラウマの幻覚に苦しめられている。
「く、くそぉ……『ケルベロスのイメージを壊すな』とか『真面目なケルベロスに謝ってください』とか『ネタに付き合わされるチャウやんが可哀想』とか『テレビウムキングw』とか『ネタベロス、タヒね』とか……匿名で好き放題に言いやがってぇ!」
 ぴえりは涙目になって、怒りと悔しさで体を震わせていた。アンチたちにSNSを荒らされた時の記憶がフラッシュバックしているらしい。
 一方、エルモアが見ているトラウマは――、
「――虎と馬ですわー!」
「ベタにも程があーる!」
 と、SSがかぶせ気味にツッコんだ。
「いいかげんにしろ、君たち! トラウマだけじゃなくて、今までのお笑い攻撃もベタベタじゃないか! 言っておくけど、僕の信者たちは駄洒落だの変態バレエだのヘリウムだので笑ったり……してるぅ!? めっちゃウケてるぅ!?」
 七人の信者のほうを見て、目を剥くSS。
 そう、信者たちは大爆笑していた。ある者は腹をかかえて、ある者は酸欠に苦しみつつ、ある者は小鉄と同様に地面を転がりながら。
「いくらなんでも、笑いの沸点が低すぎる……って、君は君でなにやってんだよ!」
 SSが怒鳴った相手はアジサイだ。
 彼は威嚇するかのようにSSを睨んでいた。
 ヘリウムガスの缶を口にあてながら。
「ちゃっかり再充填してんじゃねえよ!」
「……カカッテコイ」
「やかましいわ!」
「臆シタカ?」
「ツッコまないからな! 君には二度とツッコまないからな!」
 SSが怒鳴り続けていると、その大音声に打ち据えられたかのようにアナスタシアが空中で体勢を崩し、地面に落ちた。
 それを見た灯が叫ぶ。
「あ!? 猫が――」
(ぎっこん)
「――ねころんだ!」
(ばったん)
「君もやかましいわ! あと、いいかげんシーソーから降りろぉーっ!」
 地球を割らんばかりの勢いで地団駄を踏むSS。
「それから、茨城県人として、これだけは言っておきたい! シーソーの幼児語および動作を示す擬音は『ぎっこんばったん』じゃなくて『ぎったんばっこん』だぁーっ!」
「うわー、おもしろいことをいいますねー。もしかして聖尻ASSさんはゲイニンさんなんですかぁ? そんけいしちゃいますー」
 心にもないことを棒読みで唱えながら、恭介がSSの羽毛をまた毟り取った。
 間髪を容れず、小鉄も攻撃を加えていく。あいかわらず笑い声をあげながら、しかし、羨望の眼差しを灯に向けて。
(「俺も遊具で遊びたかったん。ジャングルジムのてっぺん制覇したりとか。でも、笑い役じゃから……ガマンするじゃ! ガマンするじゃー!」)
 と、シリアスに葛藤する彼に続いて、シィとレトラもグラビティをSSに食らわせた。
 半サイレント漫才を続けながら。
「……」
「結局、ウエムラさんのシメサバ定食はほったらかしのままかーい!」
「妙に具体的なツッコミはやめろー! どんな話かますます気になるじゃないかぁーっ!」
 両膝を地面に落とし、上体を反らして頭髪(羽毛)を掻きむしるSS。半鳥半人であるという点を無視すれば、悲劇の主人公に見えないこともない。
「シリアスに生きることを否定はしないけど――」
 SSの悲劇(悲喜劇?)を終わらせるべく、フィオが『灯喰い刀』という名の喰霊刀を手にして、呪怨斬月を繰り出した。
「――気を抜ける時に抜いておかないと、パンクしちゃいますよ」
 微かに紅を帯びた刀身が美しくも凶悪な軌跡を描き、SSの頭頂部に叩き込まれた……といようなシリアスな死に様であれば、SSも本望であったかもしれない。しかし、彼に放たれた一撃は斬撃というよりも殴打に近く、しかも『ぺちぺち』という擬音が似合う類のものだった。
 なんにせよ、その攻撃でSSは息絶えた。
 あっさりと。
 シリアスな台詞を残す暇もなく。
「ね? どんなにシリアスぶっても、ふざけた連中にふざけた攻撃をされた挙句にふざけた倒し方をされたら、惨めなだけでしょう?」
 と、フィオは改めて信者たちに語りかけた。
 しかし、誰も聞いてない。
 彼らはまだ笑い続けていたのだ。教祖たるSSが死んだことにも気付かずに。

「さてと――」
 恭介の前には白い小山ができあがっていた。SSから毟り取った無数の羽毛を積み上げたのだ。
「――臭いから、焼却しましょう」
(「布団を作るんと違ったんかい……」)
 と、心中でツッコむ小鉄。
 彼と違い、肉声で反応した者もいた。
「ちょっと待って、恭介さん」
 灯である。なぜか、彼女の左右ではアジサイとヴァオが気取ったポーズを取っていた。
「ビルシャナに羽毛が何本生えてると思ってるの?」
 灯はそう問いかけると、皆に背を向け、すぐにまた振り返った。
「三十五億!」
 その流行り(?)のギャグを聞いて、笑いの沸点が低い元・信者たちはまた大爆笑した。
 だが、彼らもいつまでも笑ってはいないだろう。そう、大衆は飽きっぽい。昨日までの鉄板ネタが明日もウケるとは限らないのだ。
「笑いの旬は短いよね……」
 と、ぴえりがシリアスな顔で呟いた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 1
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