菩薩が降りる時

作者:霧柄頼道

 雑多な物が散らかった、薄暗い自室。唯一の光源である自前のPCを前に、彼は机へ突っ伏していた。
「はぁ……つまらない。何もかもがつまらない」
 田舎から都会を夢見て東京に出て来たものの、期待と違い会社で身を粉にするだけの仕事三昧。家に帰ってもする事がなく、こうして遅くまで酒とネットサーフィンに浸る日々。
「これでいいのか、俺の人生……輝きも張りもなく、ただ一人寂しく朽ちていくだけ……ああ神でも悪魔でも誰でもいいっ、俺に刺激を与えてくれーッ!」
 髪をかき乱して叫んだその時、煌々と部屋を照らすPCの画面に、何かが映った。正確には彼の背後。驚きながら椅子を回転させて振り向くと、そこには幻影――大願天女が優しく微笑みかけていたのである。
 ふは。彼の口から笑声が漏れた。ふははは。そのまま、椅子から転げるように立ち上がる。
「……そうか、そういう事か! 悟ったぞ! 刺激を得るには自らの身で体験するに限るッ……つまりは殺人だ! モラルを蹂躙する禁忌、この手に人間をかけてこそ、スリリングなリアリティを体感できるのだぁっ!」
 どこでもいい誰でもいい何人でもいい、ありったけの殺人の実感を、とそれまでの鬱々から一転、躁状態に陥ったみたいに哄笑を響かせて彼は部屋を飛び出す。その姿を、大願天女は優しい眼差しで見守っているのだった。

「ビルシャナ菩薩『大願天女』の影響により、ビルシャナ化してしまう人間が現れてしまうっす!」
 黒瀬・ダンテ(オラトリオのヘリオライダー・en0004)が、集まったケルベロス達へ説明を始めていた。
「ビルシャナ化されてしまった人間は、個人的な願望を叶えるためにビルシャナの力を用いて襲撃事件を起こそうとするので、その前に撃破してほしいっす」
 だが今回ビルシャナ化したサラリーマンの青年を説得して、計画を諦めさせることができれば、命を奪わずにビルシャナ化から救う事が可能だ。できるなら、助けてあげて欲しいとダンテはケルベロス達へ告げる。
「彼は閑静な住宅地にある自宅のリビングで、閃きに有頂天になって踊り狂っているので発見は容易、逃走もしないっす。一人暮らしだから誰かが訪問する心配もなく、これといった障害物もないため普通に乗り込んじゃって大丈夫っすよ」
 説得には三つの方針があり、一つは願い自体をかなえて充足させてやる事だ。
「彼の望む刺激に満ちた演出や芝居を行うのもいいし、皆さんがこれまでの冒険で経験したり、培ったりした体験談や冒険譚を語り聞かせるのも良さそうっすね。退屈しきっていた彼を揺さぶり、心の琴線に触れてくれればこっちのものっす!」
 殺人という手段では生きる喜びが得られない事を証明する、というのが二つ目だ。
 達成するには、人を殺す事で生まれ変われると思い込む青年を論破する必要がある。現在はとてもハイな状態なので、理詰めで諫めるよりも勢いで押し切る方が効果的だろう。
「三つ目は、彼の抱いている夢をあらゆる方向から完膚無きまでに破壊し尽くし、殺人に踏み切らせる気持ちを叩きつぶしてやればオッケーっす。……この場合助けられても、何かしらのフォローがないとその後の人生に色々支障が出そうっすけども」
 他の説得方法で解決できそうにないなら、いっそこれで苦悩そのものを断ち切ってやるのも一つの救いかも知れない。
「ビルシャナは閃光や経文を読むなどで攻撃し、自身の傷を回復する事もあるっす」
 説得の結果いかんでは弱体化も狙えるので、どの方針にしてどんな内容で説得をかけるかは慎重に決めよう。
「確かに今は灰色の日常を送ってはいるみたいですけど、だからといって人を殺してまで充実感を得たい! ……なんて思っているはずがないっすよ。ここは皆さんのお力で、ぜひとも救出してあげて欲しいっす!」


参加者
ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)
戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)
ツォーナ・カーン(ツナ狂い・e01315)
舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)
相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)
鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)
大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)

■リプレイ


 舞阪・瑠奈(モグリの医師・e17956)達ケルベロスは、ビルシャナの住まいである民家の前へとやって来ていた。
「給金目当てで引き受けたが……面倒な話だな。私なんて、日々の生活に忙しくてそんな事考える時間無いわ」
 塀の向こうに見える窓は全て、青年の鬱屈した感情を物語るようにカーテンが閉めきられてしまっている。その有様は瑠奈の胸中に余計に腹立たしさと、いくばくかのうらやましさを呼び起こさせるのだ。
「やれやれ、一般人にとっては日々の労働こそ生きる糧であり、人生にとっての刺激であろうに……」
「刺激を求めて殺人とは……発想がワープしすぎであるな」
 ワルゼロム・ワルゼー(枢機卿・e00300)の呟きに、大道寺・悠斗(光と闇合わさりし超者・e44069)も考え深げに頷く。
「あるいはこれが、大願天女の為す業とやら、か……」
「M87星雲目指してたら、M79星雲に到着したレベルである」
 よく分からんたとえは置いておいて、さっそく作戦開始なのである。
 一番手はメイド衣装に身を包んだ相川・愛(すきゃたーぶれいん・e23799)で、仲間達の見守るような視線を背中へ受けながら、玄関へ向かう。
 インターホンを鳴らせば、屋内で聞こえていたギガグヘボヘヘと奇怪な笑い声はやみ、ややあってドアからビルシャナが姿を見せる。
「こ、こんにちはー、訪問メイドサービス、です」
「メイドさん?」
「あ、は、はい。突然で申し訳ないですけど、その、もしよろしければ、ご奉仕させていただけませんか」
 見習いなので代金はいらない、などあらかじめ何度も練習しておいたセリフを言い切る前に、ビルシャナはにやにやしながら愛を招き入れた。
「そうだなー、とりあえず料理とかしてもらおうかな。オムライスとか作れる?」
「せ、精一杯、頑張らせていただきます、ご主人さま!」
 キッチンへ案内され、大きなフライパンを片手にわたわたと作業に入る。しかしビルシャナはすでに一本包丁を抜き取っていたのだ。
「グヘへ、料理されるのはおちびちゃんの方だぜ!」
 カメラ目線でにやりと笑うも、料理に集中している愛は無防備な背中を見せている。ビルシャナはその格好の獲物めがけて包丁を突き立てた。
「あ、あうー……」
 ただの包丁の一突きなどダメージにはならないのだがそこは演技、情けないような力の抜けた声を上げてケチャップを取り落とし、くるくるぱたんとその場に倒れ込んでしまう。服の中に仕込んでおいた血糊を放出するのも忘れない。
「そこまでだぜ、ビルシャナ!」
 そこへ、戸口で耳をそばだてていた戦場ヶ原・将(ビートダウン・e00743)達が突入。今し方起きた殺人現場のダイニングルームへなだれ込むと、ビルシャナは驚いて叫ぶ。
「だ、誰だっ」
「ケルベロスだ。止めに来――」
「我輩達はシャドウエルフのぉ~~……」
 セリフを遮るように悠斗が身体をひねり、軽やかにステップを踏みつつ回転して。
「……大道寺・悠斗!!」
 しゅぴん、と謎の効果音を引き連れながら決めポーズを見せつけてのけたのだった。


「刺激が欲しいっつってたな……とりあえず座んな。落ち着いて話を……おい、立つんじゃねー!! 聞けっつってんだろ!! 座れ!!!」
 仕切り直しも兼ねた将の凄まじい勢いに押され、渋々適当なソファーに腰掛けるビルシャナ。将もその対面側に座って。
「おーしんじゃ俺の武勇伝の話を聞かせてやる。あれは2年前の4月、八竜迎撃戦で……強大なドラゴンが8体いっきに攻めて来た事件さ。覚えてるだろ?」
「テレビで見たぞ」
「俺は千葉の海岸で砲竜ヴァイスカノーネと戦ってね……そこで俺の一撃が奴を捉えた! だが奴もドラゴン、まさに生きる要塞だ。奴の必殺技が……」
 そう、それはまさに激戦の記憶。身振り手振りを加え、将の口から熱く語られる熾烈な武勇伝に、ビルシャナは目を輝かせて聞き入っていた。
「……どうだい。少しは楽しめたか? 刺激が欲しい、って気持ちはわかるさ。俺もそうだからね」
 それじゃ次の人どうぞ、とちょっとした照れを隠すように将が席を譲ると、入れ替わりのツォーナ・カーン(ツナ狂い・e01315)が元気よくビルシャナと向かい合う。
「一方的な殺戮で刺激など得られません! お互いに全力を出し、真剣勝負するからこそ良い刺激が生まれるんです!」
「くっ……一理ある。やはりこの世は殺し合いなのか……」
「おすすめなら色々とありますよ! 拳一つでぶつかり合い、頂点を目指すボクシング!
 礼を知り、己を知る精神修養ともなる紙一重を掴み取る剣道!」
「おお! それは殺し合いよりよほど楽しそうであるな!」
 悠斗の援護射撃を受けて、ツォーナはここぞとばかりにスポーツや武道を紹介していく。体育会系のノリで次々挙げられるそれらに、ビルシャナは耳を傾けているようだ。
「どうですか? 真剣勝負は楽しそうですよね! あなたが新しい一歩を踏み出すなら、きっともっと刺激的な毎日が待ってますよ!」
 ツォーナの言う通りだ、とワルゼロムも口を出す。
「人を殺すことでスリルや充足感を得る……というが、殺した時の感触、血肉の臭い、苦痛に満ちた表情、どれもスリルには程遠い代物だ。得られるものは後悔でしかない!」
「確かに、さっきの子を刺した時の喜びはまぁそこそこ止まりだったからな……」
「そうだろう? あえてスリルのある人生を求めるのであれば、不殺の真剣勝負の場を求めよ」
 むむむ、と言葉に詰まるビルシャナの口元めがけ、鞍馬・橘花(乖離人格型ウェアライダー・e34066)が突然握り飯を詰め込もうとした。
「うお、何をする!」
「なんや、刺激が欲しい言うてたのに、嫌なんか?」
 のけぞり叩き落とすビルシャナを、橘花は流し目に見据える。
「うちもおもろい話、いくらか知ってるんやけど聞いてみたない?」
「そ、そこまで言うなら聞かせてもらおうじゃないか」
「あれは侵略期の頃やったわ。色々あったっけなー集落を襲ったり、斬った張ったの大立ち回り。刀を振る度に肉が切れてモツが飛び出て、膝の下までどっぷり血で浸かるような日々で」
 淡々とした語り口で紡がれる出来事の数々を聞かされ、ビルシャナは次第にがくがくと震え始めた。
「あ、そうそう。うちもおすすめの遊びがあるわ。こう、饅頭の皮と餡の境目に針を通してな」
 白くたおやかな指で輪を作り、右手と左手を交差させてぐい、と押し込む仕草をする。
「間違えたらあんこがめっちゃ飛び出るから力加減が大事でな、あの感覚は結構やみつきになるんやない?」
 あばばば、と打ち震えるビルシャナ(あと悠斗)に、容赦なく畳みかける二人がいた。
「殺して廻る、ていうのは。相手から殺されても文句は言えない立場なんだよー? その辺……わかってるかな?」
 パール・ワールドエンド(界竜・e05027)のガントレット、きょむががぱっと大きく口腔を見せつける。
「お、俺はそんな事にはならないぞ……」
「何言ってるんだ? お前のような――ずっと家でゴロゴロしている男が殺しなんて出来る訳ないだろう」
 追い詰めるように瑠奈が吐き捨て、きょむも口をがちがち開閉させて。
「その状態で、相手が自分よりはるかに強かったら……あとはわかるよね……?」
「そ……そんな」
「そういえばここのところ、あんまり満足に捕食できるお仕事がなくてねぇ……」
 さらにきょむの目がぎょろり、と威圧的にうごめき、ビルシャナを後じさらせる。
「そもそもまず誰を選ぶ? 殺害方法は? 隠蔽工作は? 殺す際のリスクは考えて計画たててるか?」
 ビルシャナは視線を逃がす。一人は笑ってて一人は無表情。あの二人怖いです。
「考えてないだろう……お前は殺すより殺される側。所詮は餌に過ぎないんだ」
「食~べちゃうよー?」
 だ、だって人を一人殺して見せたのである、ほら、あのメイドとか。
「が、がおー、うらめしやー……」
 そこにはずっと死んだふりを続けていた愛が立ち上がり、ぎこちなく腕を上げて迫って来ている。メイド服や頬にはべったりと偽の血糊が張り付き、幽霊なのかゾンビなのか曖昧な動作も不気味さに拍車をかけていた。
「ぎゃああああああ!」
「生きてるうぅぅう!」
「え、あ、あの……えっと、ご、ごめんなさい……?」
 悲鳴を上げたのはビルシャナとついでに悠斗。その剣幕に愛も変な体勢のままびくりと固まってしまい、何だかよく分からない状況だ。
「も、もうやだ、ひとごろしとか怖い、やだ、やめてやる!」
 ビルシャナがやぶれかぶれに叫んだ瞬間、彼を包んでいた光が大願天女によって急激に勢いを増して弾け、がくりと倒れ伏させてしまう。
「いかん、様子がおかしいぞ!」
 ワルゼロムが警告を発した直後、ゆっくりと身を起こしたビルシャナの目には意思の光がない。
「これじゃまるで戦闘マシーン……でも、勝機は充分あります! 力を合わせて、彼を救い出しましょう!」
 寸前に抵抗していた青年の心は本物だ。ツォーナの声を契機とし、一同は戦闘態勢に入ったのだった。


 怒る事も恐怖する事もないビルシャナは、機械の如く荒れ狂う。
 とはいえケルベロス達の懸命の説得の甲斐あり、敵は手負いも同然。互いにフォローし合い、攻め立てていく事で戦況は優勢を保っていた。
「に、逃がしませんっ!」
 押し込まれ、攻撃を回避するべく後退するビルシャナに、愛が巨人たちの腕を召喚する。圧倒的質量と盛り上がった筋肉を備える何本もの腕は速やかに敵の退路を断ち、教育的指導ともいうべき平手打ちを四方八方から食らわせ、とどめにボクスドラゴンのドラコがブレスを浴びせて吹き飛ばしてのけた。
 めこめこになった身体のビルシャナだが、すかさず向き直ると催眠をもたらす経文を読み上げ始める。
 下手をすれば仲間達に深刻な被害を与えかねないと見て、ワルゼロムが飛び出した。
「あの青年が見ているかは分からんが、まずは我々が真剣勝負の手本とならねばな!」
 攻撃を盾となって防ぎ、至近距離から御業による炎弾を発射。詠唱を中断させつつはじき飛ばすと、その先に待ち構えていたシャーマンズゴーストのタルタロン帝がすり抜けざまに鋭利な爪で引き裂いていった。
「一応は抗ったって事で……そこは見直しといてやるか」
「ああ、早く助け出してやろうぜ!」
 敵の動きが止まる間隙を突いて瑠奈のライトニングウォールが強固な防壁を張り巡らし、その恩恵を受けた将が突進しながら宙返り、ビルシャナを下方から蹴り上げる。
「裏コード入力。1000-10-0……これが我輩の最終兵器である!!」
 空中へ浮き上がるビルシャナを睨みながら、悠斗がガジェットに裏コードを素早く打ち込み変形させると、射出された浮遊砲台が敵を最大火力で砲撃し始める。
 どかんどかんと強烈な爆発が連続する中、パールがビルシャナへとてとてと間合いを詰めていく。
「それ、気付けの一発!」
 嬉々として打ち込まれたきょむがビルシャナの胴体を深々とえぐり、硬直させるとともについに膝を突かせた。その様を楽しそうに見下ろすパール。
「もう喋らないのは張り合いないけど、この戦いもいつか大願天女に通じるはずだよね」
 心境を語るきょむの横を駆け抜け、ツォーナが構えた刀をビルシャナへ突き入れる。
「ボクのとっておきです、行きますよ! 剣風・昇り竜巻ッ!」
 棒立ちの敵にも関わらず、その一撃はあえなく空を切り足下の床を穿つのみ。
 かと思いきや、引き抜かれた直後にはとてつもない爆音がとどろき、発生した強力な竜巻がビルシャナを思うさま打ち上げていた。
「さあて、お仕置きの時間や」
 きりもみ回転するビルシャナを、跳躍した橘花がその頭を両足で挟み込みながら中空で捕らえる。そのまま縦に回転しながら敵の脳を揺さぶり、またがったまま一息に地へと叩きつけていた。
 なんとも妖しい笑声を響かせ、足の間に捕えていた首をあらぬ方向へねじってへし折り、飛び上がりつつ解放するや、即座にデスサイズを叩き下ろして鮮血を吹き上げさせていた。
 気づけばその場からはビルシャナの姿は消失し、代わりに青年がぐったりと伸びている。
 どうやら、救出は成功したようだ。ケルベロス達は顔を見合わせ、ほっと胸をなで下ろしたのだった。


 ケルベロス達が戦闘によって荒れた部屋を修復し、片付けが終わる頃には青年は目を覚まし、一同へ礼を述べる。するとおずおずと愛が踏み出した。
「だ、だましてすみません。実は、ケルベロス、なので、死んでません……」
 無事な事が逆に申し訳なさそうに聞こえて、思わず青年も吹き出す。
「……どうだい。こういうの。怖い? 楽しい?」
 将の問いかけに、青年はうつむいて口ごもる。
「怖いと思ったなら、身の丈に合う刺激を探してみな。俺は協力する。……そうとも、カードバトルだ! 今ならデッキをプレゼント。熱いバトルを保証するぜ!」
 そうまで太鼓判を押すなら、という事で初心者用スターターデッキを受け取る青年。
「確か作りかけのオムライスがある事だし、せっかくだから作ってやるか」
 キッチンに行く瑠奈に、愛もついていく。お茶菓子なども給仕、配膳してくれるようだが、たちまちきゃーという声や何かの落下音が響き、残った面子からは苦笑が漏れる。
「おう、これはなかなかどうして美味な……」
「……」
 温かくまろやかなオムライスに舌鼓を打つワルゼロムと、いけるいけるとこくこく同意を示すパール。
 美味いか、とかきこむ青年に瑠奈が尋ねれば、涙ながらの返答が返ってきた。
「故郷にいた頃からの俺の好物で、それがまさか、女の人に作ってもらえるなんて……っ」
 感極まる様子に多少引くものの、それならばと言葉を続ける。
「何もする事が無いと言うが、何もしてないだけではないか? 他愛無い生活の中でも意外と刺激に満ち溢れているぞ……まあ何だ。「とりあえず動け」と言う事だ」
 説教臭くなったが、と途中でそっぽを向く。けれど少なくともパチンコとかに傾倒するよりは、料理でも始めてみた方がよほど健全である。
「スポーツジムもいいですよ! 一緒に情熱の汗を流しましょう!」
 ツォーナがぐっと拳を突き上げると、悠斗も興味をそそられたのか乗ってきた。
「腹ごしらえもした事である、健康のために身体を動かすのも良いであろう、いざ出発! ふぁっはっ……はがぁっ!」
 高笑いをしかけた瞬間、人心地ついて緊張が緩んだからか派手に吐血。その血が青年に降りかかったが、どうせ偽物だろうと慌てず騒がず。
 当の本人も「と、トマト……」と口を抑えながら目線で頷くものの、すぐに橘花が指先で赤い液体をぬぐい取り、見せつけるようにしながら唇をひん曲げて。
「安心して、これちゃんと本物や」
 しばし、沈黙。
「ほんぎゃああああっ!」
 青年の絶叫が響き渡った。刺激に満ちた一日はまだまだ終わりそうにない。

作者:霧柄頼道 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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