オグン・ソード・ミリシャ~狂気ノ渦へ

作者:成瀬

 頭の中を掻き回されるような、狂気と呼ぶに相応しい鳴き声が響き渡る。
 オグン・ソード・ミリシャと呼ばれるそれは30メートルはあろうか、うねる触手はオウガの戦士たちの血に濡れて卑猥に光っている。八人でチームを組み戦い、がむしゃらに攻撃していれば勝てると考える彼らの中に、作戦というものを考える者は一人もいなかった。
 戦い続けいくつもの傷を負いながらも、何とかオグン・ソード・ミリシャを撃破する。太い触手が大きな音を立てて切り落とされた。
 ――が。
 醜い肉塊と化したオグン・ソード・ミリシャがぐちゃぐちゃと音を立てながら再生を始める。今度は40メートルにまで大きさを変えた。それでもオウガたちは諦める様子など無い。どんなに攻撃を受けて押されても、決して退かず媚びず省みない。
 ついに一人、また一人と倒れ、後にはコギトエルゴスムが残った。敗北の、証として。

「お疲れ様。早速だけど、大事な依頼があるの」
 ミケ・レイフィールド(薔薇のヘリオライダー・en0165)がいつになく緊張した面持ちでケルベロスたちに声をかける。ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が既に予想していた通り、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているようだと話す。
「詳細については、アタシより適任がいるわ。どうぞ」
 と、ミケはオウガのラクシュミに説明を頼む。
「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
「ラクシュミさんがケルベロスとなった。ということは、コギトエルゴスム化しているオウガたちもケルベロスとなる可能性は非常に高いわ。プラブータにいるのは同胞であるケルベロス。デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いじゃなくなってるの」
 また、とミケは続ける。
「プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込んで来るか。同胞であるケルベロスを救い地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いはとても重要よ」
 オグン・ソード・ミリシャの多くは体長2メートル程度、初期状態に戻っておりそれほど強敵というわけではない。外見は非常に冒涜的で長く見詰めていると、狂気に陥りそうになるので気をつけて欲しいとミケが注意を促す。
「戦いには影響は出ない筈だけど、軽い錯乱状態になっておかしな行動をとってしまうかも知れないわ。その時は、一緒に行った仲間がフォローしてあげてね。それから、オグン・ソード・ミリシャは攻性植物に近い戦闘方法と、触手を利用した攻撃を繰り出して来るようね。基本は2メートル程度だけど、中には3~4メートル、最大7メートル程もあるオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があるわ。注意してね」
「オウガはきっと心強い仲間になってくれるはず。ちょっと、その……言葉を選ばず言えば脳筋が過ぎるけれど。仲間に違いない。彼らを救う為、プラブータに赴いてくれないかしら」


参加者
マイ・カスタム(ゼロと呼ばれたカスタム・e00399)
久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
リカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
フィルメリア・ミストレス(夜の一族・e39789)

■リプレイ


 オウガの主星プラブータ。
 ゲートの使用によって地球を飛び出し、この星へとやって来たケルベロスたちはオウガのコギトエルゴスムを回収する為、探索を続けていた。
 広いこの星では他のケルベロスチームに出会うことはなく、担当地域を探索するに当たりそれぞれ各メンバーが役割を分担し、工夫を重ね上手く消耗を抑えることができた。オグン・ソード・ミリシャとの戦闘痕には幾つかのオウガのコギトエルゴスムがあり、ケルベロスたちはそれを回収しながら探索を進めていく。朝があり、夜があった。
 此処に、仲間になってくれるかもしれない人達がいるのだとシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は胸躍らせていた。此処が地球ではないとは、何か不思議な気もしていた。
 地には乾いた土、時折巨大な岩や細い木が見える他は変わり映えのしない景色が続けている。荒野と呼ぶのに相応しい土地であった。
「未知なる冒険ですね。あまり楽しめない状況なのが残念です」
 この日も拓けた場所を野営地として選び、野営の見張りをしていたウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)が、同じく晩をしている久遠・征夫(意地と鉄火の喧嘩囃子・e07214)へ話しかけた。
「まさか地球を飛び出す日が来るとは」
「あまり、不安はなさそうですね」
「まあ、そうですね。頼れる人達も居ますし、それに」
 倒したい敵もいると征夫はひとりごちる。赤く赤い喧嘩屋の血はこの瞬間も身体を巡り、感情という血が眠気を飛ばしていく。ちらり、と見る先には筐・恭志郎(白鞘・e19690)の平和そのものといった寝顔が。眼鏡の奥の瞳が僅かに柔らかい色を帯びる。
「見張りお疲れ様ですわ。私も混ぜて頂けますこと。何だか心が騒いで仕方ありませんの」
 暗がりからフィルメリア・ミストレス(夜の一族・e39789)が姿を現し傍へと座った。スリットの入った狩猟服からは、白い艶やかな女の足が妖しく見え隠れする。フィルメリアはさりげなく足を組み替え服を直すと、話題は昼間に仲間に振る舞った芋煮の話に移っていた。だがしばらくすると、フィルメリアが不自然に言葉を途切れさせ闇の向こう、一点を凝視する。耳をすませてみると、不気味な人の声とも獣の鳴き声とも取れるものが聞こえて来る。ここ数日、幾度か遭遇した敵、オグン・ソード・ミリシャに違いない。フィルメリアはウエンたちに目配せをして微笑んだ。
「あら、いらっしゃいましたわ。夜の時間を邪魔するなんて無粋……けど仕方ありませんわね」
 乱れも無く銀の髪を纏めたリカルド・アーヴェント(彷徨いの絶風機人・e22893)も、敵発見の報せを受け他の仲間たちと共に起き出す。闇色をした布地に光沢のある青緑色が輪郭を浮かび上がらせ、リカルドが踏み出すに合わせコートがさらりと揺れる。
「敵、一体確認した。昨日の奴よりでかいな」
「見たところ、他にはいないようですわね」
「そうですね、シアさん。でも狂気には皆さん、気をつけてください」
 天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)が皆にも注意を促す。
 準備を整えたマイ・カスタム(ゼロと呼ばれたカスタム・e00399)は征夫と仮面越しに視線を合わせ僅かに口角を上げるだけ、特に何を言うでもなく戦闘態勢に入る。征夫も敢えて言葉をかけることはなかった。交わった無音の一瞬。それで十分、事は足りる。


「なーてりふ ろう ろう おぐんそーど!」
 オグン・ソード・ミリシャだ。幸い、一体だけで他に個体は見当たらない。手数は圧倒的にケルベロスたちが勝っているが、その大きさや7メートル程だろうか。今まで倒してきた個体と比べてもトップクラス。無数の触手を携えた木のようではあるが、口のように開いたそこからは人間の歯のようなものが見える。触手の先には淡く緑色に光る実をつけているものもある。舌と呼ぶには余りにも長くおぞましい触手を揺らしながら、鳴き声は闇夜に、ケルベロスたちの頭の中にまで響いて侵蝕する。
「……見慣れちゃいけない気もしてます、アレ。……畑に生えてきたら除草剤じゃ効かないだろうし、あの実はちょっと食べたくないですね」
 口元を指で掻いて少し悩んだ後、筐・恭志郎(白鞘・e19690)がそう言う。丹精込めて育てた作物にあんなものが混じっていたらと想像するのは既に狂気の域なのかと、仲間の何人かが心配そうな眼差しを向ける。が、杞憂のようだ。
「確実に腹痛……で済めばいいんですが、どうでしょう」
 溶ろけるような蜂蜜色の瞳もその中に。否定するでもなくただ柔らかく、ウエンは笑みを浮かべる。
「後半部分が軽いホラーになってるよ、恭君」
 マイはすっと息を吸い込み己を整える。一人でも多くのオウガを救いたいと思いながらも気持ちだけ先走るのは避けるべきだ。理性は力、いつ何時でも思考を止めるな。そう心に刻み、得物を構える。
 全員が配置につくと同時、動いたのはオグン・ソード・ミリシャだ。自らを抱くように触手を巻きつけ、異常な刺激に対抗すべく守護の力で身を守る。
「るるりいえ ぐりふ ねるねるねーる そーど くるうるく」
 意味を成さぬ響きが不気味に空気を震わせる。防御姿勢を取り、間髪入れずにリカルドへ触手の先が向けられた。集められ束となった光線がその鍛え上げられた体躯に触れる寸前、ウエンが盾となり代わりに傷を引き受ける。守り手といえど、どんっと響く衝撃と熱を殺し切ることはできなかったが、腕で火の粉を払い前衛にドローンを飛ばすと仲間の警護に当たらせる。
「……おばあさまは何処?」
 不安げなシアの瞳が辺りを見回す。
 今は亡き人を探し、此処にいる筈のない存在をその目が追い掛けている。だがすぐにはっとして、お守りに触れ狂気を打ち払う。野紺菊、青苑の硬質な鞘がシアの指に触れた。主を案じるように、力を貸すように。
「……ああ、申し訳ありません……なんでもないわ」
 不意にぞわりと鳥肌が立った。理由もわからぬ侭に征夫の頭に不気味な鳴き声がこだまする。
「俺の内側には入らせない。――東の喧嘩屋の意地、御覧じろっ!」
 感謝の欠片を手に握り込み、気合と共に征夫は狂気を退ける。びりびりと空気が震え、触手が気圧されたように引くのが見えた。
「あの触手は恐らく攻撃と防御、どちらにも存分に使用されるだろう。そもそも触手というものはだな……」
 冷静に敵の分析を進めていると思いきや、リカルドの話が徐々にアヤシイ方向に傾き初めた。言葉のキャッチボール改めドッヂボールに試合は変りそうになるが、
「リ、リカルドさん?」
 と、詩乃が呼ぶとリカルドは咳払いをひとつ。
「さあ。進みましょう」
 音もなく忍び込んでくる狂気にぞっとしながらもシアはミモザの花を小さく揺らし、前衛に金枝の祝福(キンシノシュクフク)を。守りの力を打ち破るべく、ヤドリギの加護を仲間へと。その花言葉が示すのは、『困難に打ち勝つ』。今以上に合う事態はそうそう無い。
 マイの鉤爪がきらりと光った。蠢く触手を正確に捉えると爪は食い込み、それだけに収まらずに細い何本かを勢いに任せて切り落とす。地に落ちたそれがびちびちと跳ねて、切り口から粘液を撒き散らした。次いでリカルドが後方からのバスターフレイムで緑色の実、そして触手の先端を炎で黒く焦げつかせる。
「こちらを。……どうぞご覧になって」
 魔力を湛えたフィルメリアの瞳が敵の姿を捉えた。瞬きもせず凝視し、思考を侵蝕するよう妖しげな力を送り込む。


「コギトエルゴスムは渡して頂きます!」
 雷の力で前衛に立つ仲間を支援したシアは、敵の足元に散らばる宝石を見て心を傷め強い口調で声をあげる。地球ですらなくとも、此処は仲間のいる地。此処に来たのは単に戦う為ではない、あの輝かしい宝石をひとつでも多く持ち帰る。その想いがシアの心を震わせた。
 守りの姿勢で最初こそ、ケルベロスたちの痺れや足止めから逃れていたオグン・ソード・ミリシャであったが、破剣の力を宿した攻撃が重ねられついに守護の力を打ち消されてしまう。もう一度守りの姿勢を整えようと時を費やせば、それだけ火力を削られその間にも絶え間ない攻撃が触手を切り裂き本体に傷を与えていく。じわりじわり、と動く度に赤き炎がその身体を焼き続けた。
「せうぐりふ ほろほろあう みりしゃ みあ みあ!」
 だが撤退の二文字は無いようだ。鳴き声にはどんな意思や感情が篭っているのかは分からない。ただ一つ、ケルベロスたちへの明確な敵意を除いては。
 炎に焼かれながらも触手が詩乃を襲いかかり、腕や胴に絡み付き首筋をつうと撫で上げる。守り手として防御を心がけていたせいか致命的なダメージとまでは至らなかったが、確実に詩乃の体力を削り取った。だがフェアリーブーツを履いた詩乃は深呼吸一つてせ息を整え、軽やかに地を舞い踊り生み出した花弁で前衛の仲間を癒す。
「ジゼルカ……!」
 ワインレッドカラーのボディーが花弁の道を進み、詩乃の相棒がタイヤを軋ませながら走り追撃をかける。
「これは、前に進む為の――」
 目には見えぬ内に宿した地獄の炎。
 焼き尽くすだけに使えば、破壊。灯りとして使うなら誰かの光にもなろう。陽炎のような揺らめきを後衛メンバーへ与えると共に、恭志郎は触手によって裂かれ貫かれた体躯を回復させる。
 戦いで傷付く仲間を見ていると、頭を過ぎるのは懐かしい痛み。冒涜的な気配もその存在も、あの日の敵と欲似ている。とウエンは思うのだ。どくん、と心臓がうるさく鳴る。血に乗り身体中を駆けるのは、怒りと狂気。ざざ、っと、思考にノイズが走る感覚。
「……そうですね、これは僕ではありません」
 小さく『Edelweiss』が、ウエンの声を肯定するよう揺れた。己を保て、息をしろ、世界は此処にいる。自分は何者にも妨げられることはない。閉じた目をもう一度開ける頃にはもう、ノイズなど消えていた。不思議な程、心が凪いでいる。ナイフを握り込み踏み出して太い触手を一度二度と切り刻むと、他の触手が動きを鈍くした。痛みに震えた触手が粘液を散らしながらフィルメリアへ光線を放つが、ドローンが素早く動いて守りダメージを軽減する。
「……さすがに、簡単には倒させてくれませんわね」
「だが無敵ではない。最初に比べればこちらの命中率も上がってる。このまま押し切るぞ」
 重量のありそうなドラゴニックハンマーを慣れた動きで砲撃形態へと変化させ、数秒で竜砲弾を撃ち込み リカルドは敵の動きを阻害しにかかる。
 視線を、感じた。
 恭志郎はぴくりと指先を揺らし、敵を直視しないよう気を付ける。見てはいけない。だが近くにいるだけで、狂気はじわじわと迫ってくる。カタチも無く、音も無く。己に向けられるあの日の殺意は混じり気無く、鈍い刃の照り返しさえ鮮やかに蘇る。何故とさえ思うことを避けてきたのに、閉じた記憶の蓋は強引に抉じ開けられていく。
「――恭君」
 マイさん、と呼び返した。肺が膨らみまた萎む。慣れ親しんだ声が狂気に陥る前に現実へ引き戻してくれる。
「痺れて動けないんだろう。そのままでいてくれると、こっちも楽なんだがな」
 攻撃を繰り出そうとしていた敵の触手、その先が地面に落ちてびくびくと不規則に痙攣している。リカルドはそれを一瞥し言い放つ。
「あら、それではこれは如何。あなたに良くお似合いですわね」
 場に突如として真紅の花が生み出される。濃厚な花の香り、薔薇だと誰もが気付いた。それはフィルメリアの魔力を含んで妖しく花弁を散らし、風に乗り舞い上がった花弁が敵の上にひらりひらりと落ちて、包み込む。逃しはしない。
「薔薇の香りはお好きですか?」
 そう囁くフィルメリアの声は、まるで睦言のように甘く蜜の響き。
「次から次へご苦労様だ。そろそろ終わりにしようか」
 握った拳に宿りし『零』の境地。その体躯は生と死も乗り越え、マイにとって零の力を使うことは既に息をするにも等しき容易さ。己の何倍もある敵を前にして立ち、溜めた力を一気に本体へ叩き込む。確かな、手応えがあった。
「大丈夫ですか。今回復します、詩乃さん」
 マイの動きに合わせて連携を取り、恭志郎が回復に回る。片手を胸の前で握りオーラを集め、詩乃に向けて飛ばす。
「ありがとう。結構押してる。もうちょっとだと思うんだ。……オウガの人たちが地球を好きになって、一緒に戦えるようになったらきっと、すごく嬉しいと思うんだ」
「俺も、そう思います」
 ふわり、と本当に嬉しそうに、血のついた頬をそのままに恭志郎が笑う。さらと漆黒の髪を揺らし横を駆け抜けた征夫は、焼けて煙の匂いのするオグン・ソード・ミリシャへ冷えた刀身を振りかざす。一方が優しく癒すなら、もう一方は容赦なく斬る。殺すのとも征服するのとも違う、敵を打ち倒す喧嘩屋の一撃。
「凍てつけ、鳴龍っ!」
 落ちた触手を足がかりに飛び上がり、高くから叩きつける。――久遠・伍の太刀「鳴龍」。
 伍に込められし意味を、オグン・ソード・ミリシャはその身をもって知ることになる。或いはそんな知能など、持ち合わせてはいなかったか。
 幾つものコギトエルゴスムを奪還したケルベロスたちは、チームの消耗具合を考えて帰還を決定した。
「俺、もうすぐ二十歳なんですけど、地球の外で成人とか凄くレアな経験ですよね」
 前髪を留めていたピンを直し恭志郎が呟くと、マイや征夫が少し驚いたような顔をして言葉を返す。
「まずはおめでとうと、帰ったらケーキ責め……じゃないお祝いですね」
「うん、本当に。何か懐かしい感じがするね。数日なのに」
「帰ろう。地球に。もう十分、やるべきことはやった。……さらばだ、プラブータ」
 息を吐いてリカルドは仲間たちとゲートに足を踏み入れる。
「皆さん、飴は如何? お友達に頂いたのだけど、美味しいのよ」
「綺麗な色の飴玉ですね。ありがとうございます。良ければ僕にも頂けますか」
 休憩中にも配っていた飴玉をシアが取り出すと、ウエンは一つ二つを貰い受け掌に乗せて貰いその色に目を細める。
 夜明けが近い。
(「……綺麗だな」)
 昔々の記憶は今も此処に。今度は自分が手を差し伸べられたことを詩乃は嬉しく思い、微笑むのだった。

作者:成瀬 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 4
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