オグン・ソード・ミリシャ~異星へ

作者:長谷部兼光

●Brain Muscle
「むぅ、面妖な……」
 頭部に金の角持つ男が呟く。
 ……オウガ遭遇戦より時は少々遡り、ここは惑星プラブータ。
 地球から星の海を隔て遥か彼方、オウガ達の住まう世界。
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
 そして今、徒党を組んだ八人の鬼達が相対しているのは、突如として現れた異邦よりの侵略者、邪神の眷属・オグン・ソード・ミリシャ。
 初めて邂逅した際、地球単位換算で精々二メートル程度の大きさでしかなかったそれは、戦闘を重ね撃破される度に強く、大きくなって復活し、今やその全長、四十メートルに達しようとしているだろうか。
「幾ら復活しようが構わんが、なぜ力を出し惜しむ? 貴様の力は底が見えん。ならばこそ全力を出した貴様とやり合って見たくもあるが……」
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
「ううむ! 何言ってるのかさっぱりわからん!」
 植物のような、軟体動物のような形のそれは意味不明な単語の羅列を繰り返すのみだ。
「……わかりました。彼らは……」
 そんな中、鬼達の参謀役らしき、利発そうな女性は連戦を経てとある確信に至る。
「力を出し惜しみしているのでは無く、倒される度に力を増しているのでは?」
「何!? という事は……!?」
「そう! かつてない強敵と戦える千載一遇のチャンス! という事です!!」
 利発そうな女性は、
 利発そうに見えるだけだった。
「それは……何て頭の良い理屈なんだ!」
 女性の分析に深く感心する仲間達。
 この世(プラブータ)は即ち、筋肉である。
「よぉし皆! 行くぞぉ! 倒しても復活するのなら復活しなくなるまで倒せばいい! 俺たちオウガの腕っぷし、見せてやろう!」
「おお!」

 その後。
 激戦の末、オウガ達は奇跡的に巨大オグン・ソードを征するものの、その後さらに大きく復活したそれにあえなく瞬殺。
 哀れコギトエルゴスム化してしまうのであった。

●時間軸・現在
 クルウルク勢力がオウガを襲っている、というステイン・カツオ(剛拳・e04948)の予測はどうやら当たっていたらしい。
「先に遭遇したオウガ達は、そこから――惑星プラブータから逃げ延びてきたのだな」
 詳しくは彼女に説明してもらおう、とザイフリート王子(エインヘリアルのヘリオライダー)は後ろに控えていたオウガの女性――ラクシュミにその場を譲る。

●ケルベロス・ラクシュミ
 こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう。

●地球外活動
「……と、言う訳だ。宇宙は広い。種族として定命化に然したる抵抗の無いデウスエクスが居たとしても不思議ではないだろう。現状、地球内外を問わずコギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高いと考えていい」
 そうなるなら彼らは最早地球の脅威たり得ない。
 手を伸ばせば繋がる隣人であり、同胞であり、同じ定命の時を生きる仲間だ。
 救出することに何の躊躇いがあろう。
 また、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込んでくるか解らない。その点から考えても、放置出来る問題ではない。

 オグン・ソード・ミリシャの多くは体長二m程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではない。
 使用するグラビティは、毒・捕縛・催眠・炎など、攻性植物と性質を同じくする物が多いようだ。
 基本は二m級だが、中には、三~四m級や最大七m級のオグン・ソード・ミリシャも存在している可能性があるので、要注意だ。
 また、彼らの外見は非常に冒涜的で、長く見続けてると、狂気に陥りそうになるので、気を付けて掛かる必要があるだろう。
 戦闘には影響は出ない筈だが、軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう可能性もある。
 その場合でも、仲間同士でフォローし合えば乗り切れる筈だ。
「何。最初から宇宙人と戦っていたのだ。遅かれ早かれ地球を飛び出すことにはなっていただろう。ケルベロスとしては今回がその記念すべき第一歩、と言う事だな」


参加者
ノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)
シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)
ルーク・アルカード(白麗・e04248)
ギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)
九十九折・かだん(自然律・e18614)
霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)
パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)

■リプレイ

●異星の夜
 最初の夜が来た。
 見渡す限りの荒野を巡り、戦闘と宝石の回収、長時間の探索を経て、野営に適した場所を見出したケルベロス達は、一先ずそこにテントを張る。
「正直なんだろ、面白いね。キャンプとか久しぶりだよ」
 怪力無双を振るうノーフィア・アステローペ(黒曜牙竜・e00720)は、ボクスドラゴン・ペレと手分けして、野営地を囲むバリケードを構築する。
 材料となる瓦礫や大岩は四方に散乱していたし、さらに窪地を掘って竪穴式にテントを設置すれば、ある程度音と光が外に漏れるのを防げるだろう。
「やー。海外どころか宙外活動とはねー。びっくり」
「しかも、端からデウスエクスの母星だ。ひと月、いや、数日前までは想像も出来なかったな」
 情報も少ないし、範囲も広いとなると色々と気を張り詰めていかないと、とルーク・アルカード(白麗・e04248)は努めて真面目に語る。が、そんな様子とは裏腹に、彼の尾は機嫌良くぱたぱたと揺れていた。
 初めての外宇宙。心が躍るのも無理はなく。
 ルークの尾から彼の内心を察したギメリア・カミマミタ(俺のヒメにゃんが超かわいい・e04671)は大きく頷いた。
「自宅警備員の俺だが、未知の場所を探索するという浪漫はわかる、実にわかるぞッ!」
 だからこそ新たな仲間達の救出――コギトエルゴスムの捜索にも力が入るというものだ。
「ヒメにゃんと共に全力を尽くさせて頂こう!」
 ギメリアに呼応するように、彼のウイングキャット・ヒメにゃんも一鳴きすると、接地しているドローンをこつんと叩いた。
 ……全力を尽くした結果、ドローンを飛ばすより、隠密気流を纏い自前の翼で空を飛行した方が遥かに効率が良いという、悲しい事実が明らかになってしまったが、ドローンと戯れるヒメにゃんの超かわいい姿が見れたので取り敢えず良しとすることにした。
 こんなこともあろうかとニコニコ動画で学んだドローンの操縦技術は、いつかどこかで日の目を見る。かも。しれない。
 ドローンは兎も角、その他の機器が正常に扱えるのは幸運だった。
 空撮にも成功し、地形情報を繋ぎ合わせ出力すれば周辺の地図が完成するだろう。
「いろいろ考える前に、先ずはさっぱりしようか。汚れた人はおいで。綺麗にしてあげるよ」
 シェイ・ルゥ(虚空を彷徨う拳・e01447)が仲間の体を数度叩く。瞬く間に汚れが祓われて、皆、清潔な状態となる。クリーニングの効果だ。
「ゲートを潜ってすぐ異星、なんて今一つ実感がわかないけれど、これは宇宙旅行になるのかな?」
 シェイはギメリアから特製デジタルカメラを借り受けると、記録された画像を見る。
 写っているのは、荒れ野か、瓦礫か。どれも代り映えのしない風景だ。
「……やれやれ。どうせ来るならもっと良い場所が良かったけどね」
 シェイは肩を竦めた。
 もしかすると、撮られた写真の中に、何かしらの史跡だったモノが写っていたのかも知れないし、以前は風光明媚な場所だったのかもしれない。
 だが、今となっては文字通り塵と芥か。
「この星で一体何があったのでしょう。邪神……少なくとも嫌な響きですね」
 どこかですでに見知っているような、知らないような、あやふやな感覚。
 メルカダンテ・ステンテレッロ(茨の王・e02283)は、誰に答えを求める訳でもなく、ぽつりと呟いた。
 かつてのこの星がどんな様子だったのか、異星人(じぶんたち)だけでは辿れない。
「んー、真相は、当事者達に訊いてみるしかないのかも」
 ノーフィアは簡易テーブルに置かれたコギトエルゴスムへ目を向ける。
「少し待ってるのだよ、うまくすればリベンジできるから」
「そうだね。この状態じゃ話もできないけど……まぁ、縁があればその時は、ゆっくり食事でもしながらお喋りしよう」
 シェイが宝石たちに微笑んで、ゆるりと語りかけた。
「ええと、現在地がここで、ゲートが向こう。二m級と戦ったのがあっちで、五m級の位置が……」
 パフェット・ドルチェ(自称お菓子の国の魔法少女・e41619)は鍋を混ぜる手を止めて、出来上がった地図にこれまでの情報を書き込む。
 情報を整理すると、オグン達の位置とコギトエルゴスムが散らばっている位置はほぼ同じ。
 オグン達がコギトエルゴスムを何処かに運んでいる様子はなく、戦場跡と思しい場所には概ねオグンが一、コギトエルゴスムが六から八の割合で存在している。
 そしてこの割合はオグンのサイズとは無関係。
 また、荒野の外にオグンの姿は見当たらない。
「……より多くのコギトエルゴスムを救出する為には、より多くのオグンを倒す必要がある。という事か」
 ルークは手持ちのタブレットにパフェットが注釈をつけた地図のデータをコピーする。
 探索範囲を広げ地図を拡張すれば、それだけ身動きがとりやすくなる筈だ。
 ……戦場跡地を中心に孤立した敵を各個撃破。チームが建てた方針は正解だ。
 このままいけば、より多くのオウガ達を救えるだろう。
「……ところでパフェット殿。先程から一体何を?」
 人知れず大きな鍋をかき混ぜつつけるパフェットを訝しんだギメリアが問う。
 カレーを作っているのかとも思ったが、恐らく絶対に違う。匂いからして何やらコズミックな予感がする。
「いやぁちょっと、そこら辺に生えてた奴をさんちちょくそうでちょこっとね……」
 さんちちょくそう。
「へへへへへ……新メニューはこれで決まりだよ……今夜は寝かさないぞっ」
 鍋の中身は冒涜的で名状しがたく酸鼻を極め、思わずダイスを二つほど放り投げたくなるような香ばしさ。寝付けそうにない。
 パフェットの瞳は、鍋の中で回る液体らしきものの如く、同心円状に凄いぐるぐるしてた。
「……いけない」
 今になってオグンに当てられた狂気が染み出してきたのだろう。
 メルカダンテはパフェットの頬をはたく。パフェットは小動物のような悲鳴を上げ、がくりと伸びた。
「日中の疲れが狂気に対する抵抗力を弱めたのかもしれません。今日の所はもう休みましょう」
 そう言って、霧山・和希(碧眼の渡鴉・e34973)が懐中時計・silver fagelに目を落とす。実に半日以上も荒野を彷徨していたらしい。
 消耗の少なかった和希はそのまま見張りに志願すると、九十九折・かだん(自然律・e18614)も同様の理由で挙手した。
 かだんはぼんやり数本のドリンクを胸元から出すと、そのまま気怠げな調子でバリケードの外に出る。
 見張りの当番は消耗の少ない順から持ち回り。ギメリアはヒメにゃんを抱きかかえ、ノーフィアはペレを頭に乗せてそれぞれのテントに向かう。
 メルカダンテはパフェットに肩を貸し、正気を取り戻したパフェットは名状しがたきモノの処分を明日の自分に任せることにした。
 ルークはもうしばらく、とタブレットを睨み、シェイはテーブルの上にあったコギトエルゴスムを和希へ渡すと、戦場食をひと齧り。
 そして和希は全ての宝石をアイテムポケットへしまい込み、軽く周囲の様子を確認する。
 ふと、上を向くと、荒野とは対照的に、満天の星空が広がっていた。

●深夜の跡切
 月によく似た衛星が浮かび、常識の通用しない星の並びが空に瞬いて夜を彩る。
 初冬のようなうっすらと寒い気候も相まって、未知の空を仰ぎ見惚れるかだんが想うのは、故郷の雪山。既知の星。
 ……あるいは、夜空を見て抱く感慨に、国境はおろか星の違いも無いのかも知れぬ。
 動物変身したかだんの角に引っ掛かるコギトエルゴスムが一つ。野営地近くの小さなスペースに挟まっていたものだ。
 日中も動物変身を駆使して似たような場所を隈なく探索したが、特段の成果は無かった。
 この宝石は、風に吹かれ、どこからか偶然に転がってきた『はぐれ』だろう。
「九十九折さん」
 と、和希の声。かだんは動物変身を解き、人の形に戻る。
「あまり食べてないように見受けられらます。どこか具合でも?」
「……いや。そうだな。元々そんなに食べない性質なんだ。余った分は、皆で分けてくれればいい」
 和希は携帯していた戦場食を引っ込め、かだんと協働して周囲を警戒する。
 オグンの影は無い。不気味なほどに静かだ。
「今は身を潜める時。けれど、この静寂をもどかしくも感じます。オウガ達を、僕達が助けられるのであれば……!」
 ……緊張しているのかと、和希に宝石を渡しながらかだんは問うた。
 和希は束の間、見果てぬ星空に映える宝石を覗く。
「……そうですね。緊張していますし、不安が無い訳でもありませんけれど……」
 オウガメタル・イクス――一緒にプラブータの地を踏んだ和希の大切なともだちが、彼を鼓舞するように震えた。
「全員で帰りましょう。絶対に、ですよ」
 決意を秘めた和希の言葉に、かだんは幽か頷いた。

●逢魔が時
 プラブータ進入より数日後。
 ケルベロス達は順調にオグンを撃破し、多数のコギトエルゴスムの回収に成功していた。
 しかし、宝石を得る為に戦闘が不可避である以上、消耗もまた避けられない。
 地球へ戻るための余力を考えるなら、後一戦程度が限度だろう。
 隊のやや先頭を歩き、斥候を担っていたメルカダンテは、沈みゆく陽の向こう、複数のオグンを発見する。
 数は三。サイズは二m。つい先ほどまで空から周囲を伺っていたギメリアも目測に相違ないと首肯した。
「……あれ?」
 オグンの群れと作製した地図を見比べて、パフェットは違和感を抱く。
 数日前、そこにいたのはもっと大きな個体だったはず。
「もしかして縮んだ? ……のかな?」
 時間を経て縮む性質があるのなら、現状で四十m級を見かけない説明もつくが……。
 ルークは甘い錠剤(タブレット)を齧り、使い慣れた一対のナイフを構えた。
「どうあれ……撃破するだけだ!」
 白麗が、朱の荒野を疾駆する。

 理性の箍が外れたものを狂気と呼ぶならば、彼らの振りまくそれは一種の本質を暴くモノなのかも知れない。
 ノーフィアがそれに相対して抱く狂気は、飢餓。
 飲み込めるものならば何でも良いと、オグンが苦し紛れに放った石を飴の如く噛み砕く。しかし、まるで満たされない。
「我、流るるものの簒奪者にして不滅なるものの捕食者なり。然れば我は求め訴えたり、奪え、ただその闇が欲する儘に」
 ペレのブレスで調理したオグンを漆黒の球体が飲み込む。超重力の餓えは邪心の眷属を散々に食い千切り、終には跡形も無く完食した。
 ノーフィアとは反対に、かだんの意識を支配するものは暴食衝動だ。
 普段空腹を抑え込んでいた居た反動か。毒を持ち、火を噴くおぞましい筈のそれが、どんな果実よりも美味に見える。
 故に叫ぶ。跪いて命を捧げよと、異星の大気を揺るがし咆哮した。
 食欲のまま、かだんがオグンの骸に手を伸ばしたその時、空が陰る。
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 ――空より来るは、敵の増援。二m級が三、三m級が一。敵もこちらの行動を警戒していたと見るべきか。
「かだん、しゃがんで!」
 それ一口で正気に戻るレベルの味だよ、と、ノーフィアは気付けを兼ねてかだんの背を蹴り低く飛び、増援の一体に十字撃を見舞う。
 それだったら私が何か作るよ……芋煮とか! と、パフェットは狂気より立ち戻った二人に声をかける。
「それにしても、どいつもこいつもなんでこんなに気持ち悪い見た目をしているのかな……喰らえ! プリズムシュート!」
 叫び、パフェットは勢いドロップキックを見舞う。
 その一撃は、元を辿ればとあるアニメの魔法少女のフェイバリット。
 プロレス団体が監修した由緒正しいドロップキックを受けたオグンは弾け飛ぶ。
 やはり、この世は物理が至高なのかもしれない。
「……成程。今までの話を総合すると、つまりヒメにゃんかわいいやったー!!」
 ギメリアには裏表が無かった。しかしこのまま放置すればヒメにゃん賛歌をエンドレスで熱唱しかねない。ヒメにゃんの視線は冷たかった。
「目を覚ましてギメリアちゃん!」
 パフェットがギメリアの頬を思い切り叩く。
「……は!? 俺は一体今まで何を!?」
 正気を取り戻したギメリアは、ヒメにゃんとのハグをぎゅっと堪え、パイルバンカーをオグンに打ち込む。
 凍てつき枯れ果てた同胞など意にも介さず、残ったオグンはギメリアを焼き棄てようと炎を吐き出す。
「おっと、そうはいかないね。オウガ相手に好き勝手したんだろう? ツケはここで払ってもらうよ」
 シェイはギメリアの盾となって炎を受けると、龍の牙の如き無数の棘に彩られた『霹靂龍牙棒』を捌き、カウンターで超重の氷撃を叩きつけた。
 燃える荒れ野と煌く氷雨のその奥で、和希はイクスをその身に纏う。
 魔導装甲・試製遊撃外骨格の挙動も良好。唯一不満があるとすれば、外部から止めどなく押し付けられる狂気の存在。
 囁くどころの話ではない。壊せ、奪えとがなり立てる狂気の狂騒。
(「……良いだろう」)
 和希は瞬刻、オグンの発する狂気を残さず受け止めて、絶対の殺意に転化する。
(「そこまで売りつけたいのなら、買ってやる」)
 鋼(とも)と一緒に拳へ収束したそれを、和希は一片の容赦なくオグンに叩つけた。
 最後の二m級は自身が放ったはずの狂気にあっけなく飲まれ砕け散り、残すは三m級一体のみ。
 軟体動物の如き触腕がルークを絡め取り、骨をそのまま砕かんと締め上げ、メルカダンテは即座、ルークを癒すために御業を下ろす。
 メルカダンテの御業――護殻を装着しながら、弓なりにのけ反るルークが見たものは、月。
 否、あれは違うモノだと理性で否定しても、敵の齎す狂気がそれ揺さぶる。
 故に理性は一時消失し、後に残った獣性と凶暴性が呪怨を吟じる。
「おおぉおおお!!」
 絶叫のまま、破剣を帯びた一対の刃は月を描く。
 右の三日月がオグンの命を奪い去り、左の暁月が植物とも動物とも判ぜぬ朧な躰を断ち切った。

●帰還
 碌に息つく暇もなく、オグンの増援がこちらに迫る。
 これ以上、彼ら戦うだけの余力はない。
 メルカダンテは殿を務め、サングラス越しにオグンを伺う。
 ……これが万一地球に現れたら、罪なき人々を蹂躙するのだろう。やはり、ここで多くを撃破すべきでは――。
「――と。ここは逃げるが勝ちの局面だよ。命あっての物種、って奴だね」
 シェイより大樹の加護・東海龍樹で癒され、メルカダンテは自身が狂気に侵されかけていたことを知る。
 無辜のオウガ達。全てを喪った記憶。侵略。襲撃。
 彼らに覚える不快感を、知らずの内に増幅されていたか。
「……気味の悪い敵だ」
 これ以上、ここに留まる理由は無い。
 自班で回収出来得る宝石はすべて回収した。
 ケルベロス達は荒野を背に走り出す。

 オウガ達と共に、地球へ帰還するために。

作者:長谷部兼光 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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