オグン・ソード・ミリシャ~走れ、探せ、ぶっ飛ばせ

作者:桜井薫

「ウオォォォォォォ!」
 激しい戦いのさなか、腹の底から真っ直ぐに辺りを貫くような鬨の声が響く。
 声の主は、ひどく傷を負いながらも一切怯むことなく意気軒昂な、オウガの戦士だ。
「よし、やったぞ!」
「やはり、殴り続ければ、不可能などない!」
 オウガ戦士の仲間たちも、口々に快哉を叫ぶ。
 勝鬨の声を上げた戦士は、今まさに恐るべき敵……昏い色の身体から野放図に気味の悪い触手を伸ばし、一目見ただけで生理的嫌悪感を催さずにはいられない、冒涜的で狂気を孕んだ存在を、完膚なきまでに叩き潰していた。
「…………!?」
 勝利に湧くオウガの戦士たちは、しかし、異変に気付く。
 原型を留めないほどに打ち砕いた、かつて敵であったものの肉片がずるずると地を這い、ぐちゃぐちゃと音を立てながら寄り集まり始めたのだ。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
 そして、倒したはずの敵は、意味の分からない音声を発しながら、再びぬらりとそびえ立つ。その体躯はおよそ40メートルほどにもなり、先ほど倒された時よりも遥か高くから、オウガの戦士たちを睥睨していた。
「倒したら、復活したってのか?」
「面白い……それならば、何度でも倒し直してやるまでよ!」
 既に満身創痍のオウガたちは、敵が蘇ったことに怖気づくどころか、ますます戦意を高揚させ、再び敵に向かってゆく。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
 だが、オウガの戦士たちの士気も、強さを増して復活した異形の存在の前には、戦力差を埋めるには至らず……一人、また一人と、オウガたちは倒れ、その身をコギトエルゴスムに変えていくのだった。

「押忍! 今日集まってもらったんは他でもなか。クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているんじゃ……ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していた通りじゃったのう」
 円乗寺・勲(熱いエールのヘリオライダー・en0115)は、緊迫した状況に立ち向かうように背筋を伸ばし、集まったケルベロスたちに説明を始める。
「先だっての遭遇戦で現れたオウガたちは、この襲撃から逃れて地球にやって来とったとのことなんじゃ。詳しいことは、新たにケルベロスばなった、オウガのラクシュミから説明してもらうじゃて、皆、聞いてつかあさい」
 勲は一礼し、ラクシュミに説明を引き継ぐ。
 ラクシュミもケルベロスたちに一礼して、事の次第を彼女自身の言葉で語り始めた。

「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」

 語り終えたラクシュミから、今度は勲が話を引き取り、さらなる説明を始める。
「聞いての通り、ラクシュミはこうしてケルベロスになったじゃて、コギトエルゴスム化したオウガたちも、ケルベロスになる可能性は非常に高か。こん戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出するんでなく、仲間のケルベロスを助けに行く戦いも同じじゃ」
 また勲は、オウガの主星プラブータを邪神クルウルクの制圧下に置いたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込んでもおかしくない……と、太い眉を寄せて表情を引き締めた。
「地球の危機を未然に防ぐためにも、ケルベロスの同胞となるオウガたちを救うためにも、こん戦いはきわめて重要となるじゃろうの、押忍っ!」
 勲は勇ましく気合いを入れ、続いて敵である『オグン・ソード・ミリシャ』についての詳細を話し始めた。

「オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2mぐらいの初期状態に戻っており、それほど強敵ではなか。ただ、オグン・ソード・ミリシャには、ちと困った特徴があっての」
 勲によると、オグン・ソード・ミリシャの外見は、非常に『冒涜的』で、長く見続けてると、狂気に陥りそうになるという。
「まあ、ケルベロスの皆なら耐えることはできるじゃて、戦えなくなるほどのことはない筈じゃ。じゃが、軽い錯乱状態になって、おかしな行動を取ってしまうことはあるかも知れん」
 その場合は周りの仲間がフォローするようにしてほしいと、勲は集まったケルベロスたちに視線を一巡させた。
「そいで、敵の攻撃手段じゃがのう。主に触手を利用して攻撃を繰り出してくる、攻性植物に近い戦い方のようじゃ。だいたいのオグン・ソード・ミリシャは2mぐらいで並の個体じゃが、中には大きくて戦力が高い奴もおるじゃて、十分に気をつけるじゃ」
 敵地を探索する手際の良し悪しによって、一度に遭遇する敵の戦力が変わってくるので、くれぐれも注意してほしい……と、勲は念を押す。
「戦略が必要な戦いじゃあ困ったことかも知れんじゃが、わしはオウガのような、ひたすら戦うことを求める真っ直ぐな気性を持つもんは、どうにも嫌いになれん。どうか皆の力で、未来の仲間を救い出してもらいたいじゃ……押忍っ!!」
 最後にひときわ力強く一つエールを切り、勲はケルベロスたちを送り出すのだった。


参加者
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)
ガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)
志藤・巌(壊し屋・e10136)
峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)
朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)
山蘭・辛夷(サンダークロス・e23513)
水瀬・和奏(火力系女子・e34101)
神苑・紫姫(断章取義の吸血鬼伝説・e36718)

■リプレイ

●異星の朝
 ところは、オウガの主星、プラブータ。
 時は、持ち込んだ時計によれば、地球・日本の標準時間で、朝8時頃。
「はーい、朝だよー!」
 平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)の可愛らしい声が、仲間の目覚めを誘う。
「ご苦労様です。さあ、今日も気を引き締めて参りますわよ」
 神苑・紫姫(断章取義の吸血鬼伝説・e36718)は、胸元から真っ赤なドリンクを次々と取り出し、探索活動再開のエネルギーを迅速に行き渡らせる。
「おう! 巌、しっかり喰って、気合い入れて行こうぜ!」
「当たり前だ。変なヤツは、残らずぶっ飛ばしてやる」
 峰岸・雅也(ご近所ヒーロー・e13147)が差し出す彼イチ押しの保存食品を粗っぽく平らげながら、志藤・巌(壊し屋・e10136)も凶暴に意気軒昂な様子を見せる。何度も背中を預けあった仲間の存在は、地球の外という究極のアウェー戦において、ひときわ心強い。
「はいっ、撤収、そしてさっさと出発ですっ!」
 防具で高められた怪力をフルに発揮して、朱藤・環(飼い猫の爪・e22414)は簡素な野営の陣地を手早く片付け、サクサクと荷物をまとめる。
「良かった、アリアドネの糸、ちゃんと繋がったままです……それにしても。これ、ずっとほどいてって、服、なくなったりしませんよね?」
 水瀬・和奏(火力系女子・e34101)が、プラブータに降り立った地から道標としてきた、ケルベロスたちにだけ見える『赤い糸』を確認し、安心と不安の混じった感想を漏らす。身を守るフィルムスーツ"White Knight”への信頼は揺るがずとも、そこはオトメゴコロ、というものなのだろう。
「なぁに、万が一ん時ゃ、私が隠してあげるから安心しなね。さ、早いとこ、新しい仲間を迎えに行ってやらないとねぇ」
 頼もしく和奏を力づけるのは、山蘭・辛夷(サンダークロス・e23513)だ。こちらはアリアドネの糸に何かあった時のため、光輪拳士の法衣の力で光る足跡を刻みながらの行軍を続けてきた。
「その通りだな。せっかくの待ちに待った冒険とお宝の匂いを台無しにする、無粋なオグンソード……綺麗に片付けてやろう」
 和とペアでの見張り番を務めていたガロンド・エクシャメル(災禍喚ぶ呪いの黄金・e09925)は、眠気や疲れも見せず、軽口とともにひらりと竜の翼を羽ばたかせて舞い上がる。隠密性に気を使いながらも、上空からの広い視野で一刻も早く敵を見つけるべく、ガロンドは青い瞳に力を込めた。

●駆け出して
「今、何か、光ったような……?」
 地上に目を凝らして荒野を進む和奏が、視界の端にかすかな輝きを認め、仲間たちに注意を促す。
「ボクにも見えた! あっちの方角だね」
 和が指差したのは、ケルベロスたちが進んでいた方向から見て、おおむね2時の方角、といったところか。
「……! 居たぞ」
 地上からの声で視線を巡らせたガロンドは、悪目立ちしないよう低く声を上げ、仲間たちに注意を送る。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
 一気に緊張感を高め、ケルベロスたちはその方向を注視する。
 果たしてその方角に在ったのは、気味の悪い触手を伸ばし放題に躍らせる、異形の姿。
 オグン・ソード・ミリシャの群れに、間違いなかった。
「光ってたのは、コギト玉で間違いなさそうだな……よし、邪魔な草は根っこから燃やして、しっかり回収するぜ!」
 そして、敵が闊歩している地面には、散らばったコギトエルゴスムの煌めきが反射していた。
 テンションはマックスで、しかし声のボリュームはミニマムで、雅也は戦闘とアイテムポケットの準備を素早く整える。
「変なヤツは……少しデカいのが1体に、並のヤツが4体、ってとこか。そこまで数は多くねぇが、油断せずに行くぜ」
 巌は手元に記録していた地図……ほぼ荒野が広がるばかりで目印を書き込むにも苦労するような代物ではあったが、そこに力強くバツ印で接敵の情報を記し、隕鉄と火が対になる特製のバトルガントレットを荒々しく身に着けた。
「うわー、覚悟はしてたけど、やっぱり、キツい……!」
 実はホラーが苦手で、オグンソードの見た目も苦手ストライクゾーンのかなりきわどいところな環が、つい敬語も崩れ気味な感嘆の意を表す。もちろん本来の使命は忘れておらず、その手にはしっかりチェーンソー剣が握られていたが。
「あんまり長いこと直視するんじゃないよ。狂気とやらにやられちゃ、つまらないからね」
 辛夷は怖いものや気持ち悪いものから力強く仲間を守るように、どっしりと安定感抜群な姉御オーラのようにも見える後光を、阿頼耶識からみなぎらせる。
「我が魂の同胞の皆様。私は夜の下に在る鬼、吸血鬼・神苑紫姫。この危地を退けるが為参上しました。召しませ、貴族の威光。ノブレス・オーラ!」
 紫姫の援護も、頼もしく味方を包む。なにしろ彼女、自称吸血『鬼』とあって、今回の作戦に対するモチベーションはとても高い。紫姫はオウガのコギトエルゴスムに呼びかけるように堂々と声を張り、これまた自称『ノブレス』オーラ、実際には自宅警備員のジョブレスなオーラを、守りに身体を張るべく前に出た彼女のビハインド『ステラ』に投げかけた。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
 十分な探索の準備のもと、慌てず迅速に先制攻撃の準備を整えたケルベロスたちに、オグン・ソード・ミリシャが少し慌てたようにも見える反応で、意味不明な言葉をざわめかせる。
「あれがミリシャ……あんま見てたくない……けど! オウガの人たちを連れて帰れるよう、がんばるぞー!」
 見た目も声も可憐な少女そのものといった和の決意が、プラブータの荒野に響く。
 比べるのもあり得ないほど気味の悪い音と、怖気立つような暗色の触手がうごめくのも、また同時のことだった。

●ひるまずに
「うー、ねぇね、ありがと……わーん、こわい、こわいけどっ! たまきのほんき、見せてやるですー!」
 一番槍は、環だった。元々苦手なタイプの相手でだいぶ精神に来ているようで、だいぶ幼児返りしつつも、辛夷の励ましと強化付与で力強く破剣の力を帯びた絶対零度の手榴弾は、前に群がってきたオグンソードたちに勢い良く炸裂する。
「俺はまだ大丈夫だが……何かありゃ、思い切りブン殴ってくれ。但し、グラビティは抜きだぞ」
「分かってるって! まあ、心配はしてねぇけどな!」
 ほぼ同時に前に出て、敵に肉薄したのは、巌と雅也だった。気心の知れた信頼のコンビネーションは、かたや魂を喰らう降魔の拳、かたや三日月の弧を描く軌道の太刀筋となって、環が派手に爆破した前衛の敵に追い討ちをかける。
『みり みり おぐん なうぐりふ!』
 早くも手痛いダメージを受けたのだろうか。先制攻撃を受けたオグン・ソード・ミリシャは、暗色の枝先にぶら下がる濁った果実状の肉塊をふるふると蠢かせ、傷を負った部分にその物体を取り込んでゆく。
 ずるずる、べちょべちょ……と、気味の悪い音を立て、穢れた塊が敵の体幹に吸収される。塊と融合したオグンソードは、自己の体力を多少持ち直させたようだ。
「敵が回復するなら、追いつかない打撃を与えるまでだな。……破っ!」
 まだ味方は無傷、相手には耐性が付加されたらしい……冷静に状況を読み、ガロンドは気合一発、鎧装騎兵の弱点を一気に破壊する一撃を敵に見舞う。今回は連戦も想定されるとあってヒール重視の布陣だったが、攻撃の機会にあえて休んでやるほど、ここに集まったケルベロスたちは甘くない。
「くらえー、目からビーム!」
 頼もしい戦友の好判断に乗るように、和はしっかりと定めてきていた技選択の条件から迷いなく、文字通りの目からビームな炎で前にひしめくオグンソードたちをなぎ払った。ビームは濁った触手を焦がし、燃えないゴミを無理矢理焼いたような臭いがあたりに広がる。
「さぁ、避けてみてください……『全て』避けられるのであれば、ですけど」
 和奏は攻撃対象を合わせ、『夢幻の弾幕』を鋭く射ち込んだ。
『くるうるく くるうるく……!』
 その弾丸は狙いあやまたず、オグンソードの1体を貫き、その動きを止めさせた。
 冒涜的な、生命? が尽きるその瞬間は、人間たち、そしてケルベロスたちにとって、想像し得る恐ろしさの範疇を超えた、おぞましいものだ。
 動き、音、臭い……その全てが人の正気を削ってくるような怖気立つ有り様で、オグンソードはプラブータの荒野に還ってゆく。
「標的を破壊しました。だから、脱がなくてはいけませんね」
 その瞬間をまともに目撃した和奏にとっても、それは例外ではなかった。
 普段と何一つ変わることない、それでいてきわめて不条理な言葉は、彼女の受けた精神的なダメージを淡々と表しているかのようだ。
「ん? ……落ち着くんだよ」
 和奏の状況にいち早く気づいたのは、辛夷だった。
 これ以上変なことを口走ることのないよう、そっと和奏の口元を抑えながら、耳元で優しく囁く。
「……あ。大丈夫です、ありがとうございました」
 効果はてきめんで、和奏はすぐに落ち着きを取り戻し、再び標的を変えて特製のアームドフォートを構え直した。
「なら、良かった……じゃあ、いくよ! 回路コネクト、霹靂閃電ッ!!」
 仲間の戦線復帰を確かめて、辛夷は心置きなく攻勢に転じる。
 激しい電圧をまとった紫電一閃の一撃は、もう1体の傷ついたオグンソードをしたたかに捉え、この生命体に神経があるならば全てを焼き切るかのごとく打ち付けた。
『くる くる くるうるく……!』
 やはり冒涜的な死に様で、さらに1体のオグン・ソード・ミリシャが活動を停止する。
(「……大丈夫だ。待ってる人も居るからな!」)
 敵の至近距離に居た雅也は、愛しい人から贈られた猫のシルエットが刻まれたシルバーリングにそっと触れながら、残る敵の殲滅に己の精神を奮い立たせた。

●心折れずに
 残る敵は、あと3体。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
 1体の大きな個体が、同族を屠った侵入者に殺意を露わにする。
 3mほどに伸びた体躯から、禍々しく濁ったツタが、激しく気味の悪い動きで環に殺到する。
「…………!」
 ガロンドのミミック『アドウィクス』は、細い足を踏ん張って、その強烈な一撃を肩代わりした。頑丈な箱は雄々しく震え、まだまだ味方たちを守りで援護する気満々のようだ。
「よく頑張って下さいましたわ」
 すかさず紫姫は、サキュバスの快楽エネルギーをアドウィクスに纏わせ、その傷を優しく癒やす。絶対に戦闘不能者を出さないとの意気込みは、もちろんサーヴァントもその対象だ。自らの『眷属』であるステラも、必ず最後まで戦場に立っているように……癒し手の誇りに賭けて、戦線を欠けさせるつもりは一切ない。
「しかし、以前は狂ってみるのも、それはそれで楽かと思ったが。結局宝まで道連れじゃ、面白くはない」
 主人であるところのガロンドも一見気軽な口調と共に、よく働く相棒の宝箱を、よく似た力の『黄金の蜃気楼』で、仕上げのヒールをもたらした。倒れる戦力を出さず、状態異常を寄せ付けずに戦えば、必ず勝機が訪れる……と、信じて。
「さあ、こちらの番です」
 機先を制して残る通常個体を潰してしまおうと、和奏は『試製30mm重狙撃砲「神送り」』からエネルギーの光弾を放った。
「合わせますよー!」
 すっかりいつも通りの元気な彼女に戻って、環が今度は同じ手榴弾でもとっておきの『強襲式・血河陥穽』で、傷ついたオグンソードに容赦のない爆発を浴びせる。
『 ! !!』
 強烈な攻撃を重ねられた敵はひとたまりもなく、その活動を停止させる。
 さっきまでの個体が放っていた正体不明の呻き声を上げなかったことは、そのダメージの強烈さをうかがわせた。
「負けていられないね!」
 さっきまで精神的に支えて回っていた味方たちが、本来の調子を取り戻して、いかんなく実力を発揮している……この状況に、辛夷が奮起しないはずもなかった。
『みあ みあ!』
 全身の力を込めた辛夷の体当たりは、光を放つ彗星の突撃となって、残る通常個体に強烈な衝撃を与える。
「くらえー、てややー!」
 カッコいいお姉さんの勇姿に、和も可愛く勇ましく、轟く竜の咆哮のごとき一撃で後に続く。かけ声の可愛らしさとはうらはらに、その威力は可愛くないの極みとなり、オグンソードの穢れた胴体を弾き飛ばした。
『くる うるく くる……!』
 力を失った触手は、断末魔の大暴れのごとくびちびちと跳ね上がり、穢れた体液がプラブータの地面に吸収されてゆく。
「チ、気色悪ぃ……あとは親玉だな、まずはその速さを削ぐッ!」
 相変わらず精神衛生上よろしくない敵の散りざまに多少げんなりとしつつも、巌は殲滅の仕上げに向け、大型オグンソードの脚に当たるとおぼしき部分を力いっぱい踏みつけ、普段とは違う感触の大地に敵を縫い止める。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ おぐん!』
 ひときわ大きな触手をのたうち回らせ、大きなオグン・ソード・ミリシャの個体は、見慣れぬ侵入者の理不尽な暴力に抵抗する。
「言われずともだろうが、たたみかけるぞ」
 ガロンドは前に立つケルベロスたちに、感覚を覚醒させるオウガ粒子……奇しくも助けに来た種族と重なった名前の、これまた既に地球に力を貸している異種族の力を付与して、この戦いに終止符を打つ備えをその手で打ち出した。
「おう、任せてくれッ!」
 雅也はニィと快活に笑みを向け、受けた力を存分に振り絞りながら、勢い良く刀を振りかぶって、プラブータの地面を全力で蹴る。
「ほら、燃えちまいな!!」
 手にした『妖刀【刹那】』に、揺らぐ焔が灯る。
 雅也の身体に流れる地球産のグラビティをたっぷり注ぎ込んだ一撃は、オグンソードの昏く色づいた禍々しい身体を貫き、絡み合う触手の集合体を真っ二つに切り裂いた。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ……!』
 鼓膜を逆なでする穢れた音と共に、最後のオグン・ソード・ミリシャが、その生命を停止させる。
 それが、彼らが今回の探索で遭遇した最も大きな戦いの、最後の瞬間だった。

●このために
「ここにあるのは、これだけみたいだね」
 辛夷がその場にあった最後の宝玉を雅也に手渡した時点で、7つの宝玉が回収されていた。
「だいたい回収できたと思いますけど、もしかしたらもう少しあるかも知れませんねー」
 環は精神的にきつかった戦いの癒しを甘い飴玉に求めつつ、頭をさらなる探索に向けて切り替える。
「大丈夫です、まだ行けると思います」
「ええ、まだ余力はございますわ。もう少し、探して参りましょう」
 和奏と紫姫が頷き合うのを合図に、ケルベロスたちは再び、プラブータの荒野に駆け出してゆく。
 全てのコギトエルゴスムを回収し、オウガを迎えるために。

作者:桜井薫 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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