オグン・ソード・ミリシャ~狂乱惑星

作者:baron

『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
「何言ってるか判んねえよ!」
 荒れ狂う植物とも触手とも付かぬ異業。
 オウガは鉄棍でソレを殴りつけ、跳ねるたびに傷付くがお返しとばかりにダメージを与えて行く。
 ぬたりぬたりと滴るのは、樹液か血液か。それとも別のナニカであろうか。
「やれるぞ! このまま叩き潰せえ!」
「ウオオオ!」
 ソレは40m程の巨体で会ったが、八名ほどのオウガが集団がなんとか叩きのめした。
 鉄棍あるいは逞しい拳で乱打し、グラビティで雷撃を放って活力を削り取っていった。
 そしてとうとう、その植物は動きを止めたのだ。
「よし、やっ……!?」
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
 トドメを刺して勝利の歓声をあげようとした時、ソレは奇妙な動きを見せた。
 内側から避ける様に、『50m』の巨体に成長して周囲に居たオウガを踏み潰し、あるいは絞落としたのである。
 その姿は煌めく鉱石のようであり、同時に蠢く植物の様でもあった。
 あるいはそれらの因子を兼ね備える生物だったのかもしれない。ただ判るのは、我々の常識では計り知れないと言うことだ。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
 宝石化する仲間達の中で、運よく避けた者や生き残った者たちは諦める事無く挑み続けるが、一人また一人と倒され、やがて全滅したのである。


「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)さんが予期していたのですが、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているようです」
 セリカ・リュミエールが一人の女性を伴って説明を始めた。
「オウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきていたのだそうです。詳しくは、新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミさんから説明をしてもらいますので、聞いてください」
 そう言ってセリカはラクシュミにその場を譲った。
「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います」
 ラクシュミと呼ばれた女性は、かつての力を喪失したことなど一切の後悔を見せずに言い切った。なんというか新しい力に目覚めて興奮して居るのであろう。その勢いは留まる事を知らない。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから」
 そう口にした時、ラクシュミは少しだけ口惜しそうな顔を浮かべた。
 方法を間違えた……という後悔では無く、今のケルベロスの力があればヤれたのにな~と言う感じに聞こえるのは、何故だろうか。
「地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。
 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
 戦いの中で何名ものオウガがケルベロスに倒されたはずだが、一切の躊躇なくラクシュミは共闘を訴えた。
 それが支配者として悲しみに耐えて居るスタンス……だと思いたい所である。
「お分かり頂けたと思いますが、クシュミさんが、ケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高いと思われます」
 再びセリカが説明を引き継いだ。
 要するにこの戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いとなるということだ。
 また、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むかわかったものでは無い。
 同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いは重要となるだろう。
「現時点でオグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではないようです。オグン・ソード・ミリシャの外見は、非常に冒涜的で、長く見続けてると、狂気に陥りそうになるので、気を付けてください」
 戦闘には影響でない筈だが、こう聞くと不安が残る。
 おかしな行動をとってしまう場合は、正気を残した仲間がフォローするのが良いだろう。
「オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくるようです。基本は2m級ですが、中には、3~4m級や最大7m級の個体も存在する可能性がありますので、注意が必要でしょう」
 セリカはそう付け加えて、油断は禁物だと注意を促した。
「オウガは少し何と言うかアレですが、真っすぐでサッパリとした判り易い方々です。助け出せばきっと、心強い仲間になってくれるはずでしょう」
 セリカは苦労して良い点を探しだすと、仲間になるのだから色々教えて行けば大丈夫だと言い訳じみた説明を加える。
 それにこのまま放置して、邪神クルウルクの復活みたいな事件が起これば大変だ、いまのうちに対処しておくのは間違いあるまい。
「それではみなさん、よろしくお願いしますね」
 セリカは深々と頭を下げると、みなの相談を見守るのであった。


参加者
秋草・零斗(螺旋執事・e00439)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)
エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)
鏡月・凛音(狂禍髄血・e44347)
桂城・子子(怒りの淵で眠る猫・e44912)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ


「よし、ここから糸を伸ばし続ける。撤退の際にはこの赤い糸が目印だ」
 エング・セナレグ(重装前進踏襲制圧・e35745)が出発点を刻む。
 この時、未知とは希望で満ち溢れている言葉であった。
「いっぱい、たすけて、こよう、ね」
 眠たげに見える表情を強張らせ兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)が決意を固めた。
「オウガさんを一人でも多く助けましょう……!」
 無表情な少女の瞳に何かを見たのか、少年は少しだけ大人になる。
 ソレを勇気と言うのだと、地留・夏雪(季節外れの儚い粉雪・e32286)は後で教えてもらった。
 やがて一同も小さな個体を選んで戦闘を始め、あるいは大きな敵や、多数の敵を迂回しながら突き進む。
 未知と言うパンドラの箱を開けてそこに在ったのは……。
「いやー。驚いたの何のって……びっくり仰天ってこのことを言うんだね」
「頭おかしいのは知ってましたが、まさか此処までとは想いませんでした」
 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)が何戦目を終えて苦笑浮かべると、秋草・零斗(螺旋執事・e00439)は肩をすくめた。
 そして頭の狂いそうな光景に、なんとか整理を付ける。
「どう見ても、地形も何も無いよね? っと丘くらいはあるか」
「地方なだけかもしれませんが……おっきなエアーズロックの上で探索してるみたいです」
 静夏の言葉を夏雪が補足する。一面の荒野とはとは冗談の様な光景であるが、まさしく全てが薙ぎ倒されているとは思わなかった。
 これでは建物の影に隠れて移動する……ということすら難しい。せいぜいが地形の起伏と、他の班が行っている戦闘に紛れるだけだ。
「コギト珠も回収すらして居ないとはな」
「集積地を襲って効率よく回収どころか、まさかその辺に落ちて居るだけ。回収したいならばく見つかることを覚悟して地道に拾うしかありません」
 エングの言葉に零斗が頷く。
 コギト珠の回収は戦力補充として有効な手段である筈なのだが、オグン・ソード達は回収すらせずに放置していた。
 効率など存在もせず、良い意味では獲り放題、悪い意味では徒労に思える。狂った敵が居ると言う事実だけが、現実であった。
「まあ戦闘に継ぐ戦闘の結果やけど安全圏も確保できてきたし、もうちょっとは頑張れそうや」
 窪地の上に汚した布を置き、簡易宿舎を桂城・子子(怒りの淵で眠る猫・e44912)が作りあげた。
 ただ布で遮っただけなのに風が通らないだけで不思議と温かい。
「地図もなんとか出来とるし、参考にはなるやろ。しっかし、まさか他の星に行くことになるとは、ケルベロスちゅーのは。行動の幅が広いなあ。ま、お仕事は頑張りましょか」
 何も無い様な場所だが隠れる場所はゼロでは無いし、敵を倒せば潜める場所も増える。戦闘自体も他の班が既に倒して無事に移動できる区画もある。砂漠を突き進むよりはマシだと言えた。
「見たこともない、星空だ、ね」
「はい。知らない星。僕たちドワーフの先祖も地球に来る時はこんな緊張したのでしょうかね」
 そして十三とユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)は見張りを交代しながら、ふと夜空を見上げるのだ。


「ひとまず逆転の発想しかないわな。拾える限り拾う、戦って拾う。その内に何か見付けたらラッキー」
「そしたら玉を、拾って、えっと……そう。オウガ、助ける。敵は、殺す。……よし、がんばろう」
 子子が上げるシンプルな案に、鏡月・凛音(狂禍髄血・e44347)がぼんやりと頷いた。
 戦うしかないなら、やって結果を出すしかない。
「他の地方には何かあると良いのですけど。あるいは何処かの班が地下を見付けるとか」
「そうですね。もし居るのならオウガの生き残りも見つけられると良いのですが」
 今回は無理だが数カ月かけて他の地方に行くか、偶然に地下でも見付ければ話は別かもしれない。
 ユリスの呟きに頷きながら零斗は移動を開始した。
 休憩を切り上げ、場所を探してケルベロス達は気を引き締め直す。
「やっぱり敵、弱いね。殺すの、簡単。これなら、大丈夫、そう。問題は数か、大きい奴」
 空から見下ろしながら、凛音は他の班の動きを眺めた。
 小さい個体はそれほど苦労しておらず、大きくなるごとに苦労して居る。
 数日の日時が経過して良くなったことは安全に移動できる区画が出来た事、悪くなったことは徐々に撤退する班が増えて居ることだ。
 大型になると強さが何もかも変るのと、増援が来たり沢山居過ぎた場合が問題であった。
「んー。そろそろ大きな戦い……避けられない、かな」
「……察するに他の班へ限界が来ましたか」
 凛音は姿を隠して空を飛んでいたが誘導しきれない状況がとうとうやって来た。
 その報告を受けて、零斗はうまく忍んで行けなかった班や、各個撃破に失敗した班が脱落した結果。ここから先は戦いを避け、あるいは瞬殺することが難しいだろうと悟った。
「戦いは避けられぬのは覚悟の上。先手必勝、機先を制する!」
「よーし、最後に思いっきり暴れて帰る感じだね。無事に全員残れたらまだまだ居座る感じで」
 エングは抜き身の刀を振って刃が固定されているかを確認し、静夏は栄養ドリンクを配って気合いを入れ直す。
「ありがとうございます……!」
 夏雪の舌にはドリンクの味が辛く感じてしまうが、仲間を思いやる気持ちはありがたく感じる。
 こくこくとコップを片付けて呑み干して行った。
「もう直ぐ戦い……焦らない、よ。……いつもの、ことだ、ね」
 十三は今直ぐ飛び出して敵を倒せと語りかけて来る刃を握り締めたまま、空の仲間が降りて来るのを迎え入れた。
 狂気は心を狂るわせるが、心を強く耐える事も、慣れて抑える事も出来るのである。

 そしてケルベロス達は、囲まれる前に各個撃破できそうな場所を選んで飛び込んで行った。
 そこに居た敵の大きさは5m級と実に巨大だが、どうせ戦いが避けられないのならば少しでも良い場所を選ぶだけだ。
「大っきいの、大変。でも、殺す。敵は、殺す。とにかく、殺す。だから……斬った」
 凛音は地上に降りた後で音も無く忍びより、自らの血潮で染め抜いた刀を振るう。
 呪詛と物理の二重螺旋が描く力で、避けることを許さない。
「消えろ」
 タイミングを合わせて子子が仮面を降ろしながら飛び込み、怒りを殺意と共に込めて排除しに掛る。殴りつけると同時に怒りをエネルギーに注ぎ込む。
「ゆっくり急いで確実に行かなきゃ駄目だよー! 直ぐにお代わり来るからねー」
「本当は大型を避けて小形のみと行きたかったんですが、あちらに行くと囲まれますからねぇ。と言う訳で死んでください」
 静夏が輝く斧を勢いよく振り降ろすと、零斗は闘気を放って仲間との距離を離す。
 不本意ではあるが何処に行っても大型か多数が待って居る状況ならば、少しでも確実な方法を取るしかあるまい。
「前に戦った大きい個体よりも強そうですね。先に動きを止めます」
 自分はともかく仲間が当て難いとみて、ユリスは大地を割ってオグン・ソードを挟み込む。
 その甲斐あって陥れることに成功はしたが、何分大きいのでどこまでやれたか少しだけ疑問だ。後は同じ様な技を繰り返し、なんとか削り取る他あるまい。
「戦うからに、は……その首、刎ねる、よ」
 十三の放つ呪われし刃は、敵と出会えたことで禍々しく唄い始める。
 でもまだまだ。その真価を発揮するのはもう暫く後の方が良い。どうせ次の敵が直ぐに来るのだ。その時まで温存しておくとしよう。


「我が体躯は重鈍。されど刃は飛燕の如く!」
 エングは高速の突きを放ち、自身の重量を勢いに乗せ突き刺した。
 そのまま抉りながら抱きついて、オグンソードの態勢を崩そうとする。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
「やらせはせん!」
 エングは突き刺したまま樹上で暴れ回り、その攻撃を受け止めようとする。
 そのおかげもあって確かに攻撃を弾きはしたが、全てを防ぐのは流石に難しい。
「大丈夫……。痛くない、です……」
 まず仲間の後方に結界を張っていた夏雪は、直ぐに前衛を癒す事にした。
 泡雪が虚空より降り注ぎ、雪が解ける様に痛みを和らげていく。
 解けるたびに優しく、降り注ぐたびに痛みを融かしていった。
「小さい個体は……大したこと無かったけど……大きいと結構、痛いものだ、ね」
「この子たちを増援側に置く様に戦ってください、場合によっては挟まれる位置へ。……最悪の場合は任せましたよ、カタナ」
 十三はその申し出に頷きながら、震える刃を跳ね上げる。
 今までの敵ならここまでで倒す目途が付いており、零斗はキャリバーのカタナに盾としての任務を全うさせる必要があると感じたのだ。
 そして零斗自身は精神力を編み込み防壁を張って、前衛陣が少しでも長く立ち続けられるように配慮する。
 こうなれば消耗は避けられないし、挟み討ちの可能性もゼロではない。その時が来るとしたら、被害担当を受けるとすればサーヴァントの特性をフル活用すべきだからだ。
「夏より熱い炎の花よ、夜の空へと咲き誇れ! それは真夏の花火、ミッドサマーファイアーワークス!」
 ここで静夏は敵の懐へ入り、跳び上がりながら炎を纏った左拳で渾身のアッパーを繰り出した。
 炎で敵を焼いたりはしないが、冒涜的な蠢きをするオグンソードの蠢きを隠す程度の働きは有る。
 いや、良く見れば近くで花火が撃ち上がり鮮やかな火の粉を散らしたではないか。
「大丈夫でしょうか」
「問題無いってー。来る敵は放っておいても来ちゃうし、樹が付かない時は全然気が付かないモンだからね」
 ユリスが首を傾げるのだが、静夏は豊かな胸を反らして自信たっぷりに断言した。
 そもそも、周囲で他にも戦闘が起きたりしているのだ。
 どっちに来るかはただの運だし、探索中にグラビティで合図を送るという行為が成功し難い様に、派手な攻撃だからと言って気が付く物でもないのだ。
「それもそうですね。今は一刻も早く倒してしまうことにしましょう。……夢想の門を遥か越え。思い描く理想の大地へ。我らを導け虚人の鍵よ。阻む全てを斬り裂いて」
 ユリスは次元の狭間から水晶で出来た剣を出現させ、まるで居合いの様に振り抜いた。
 次元をも断絶させる水晶剣は容易く敵の胴を薙いだのである。そして切り裂いた瞬間に剣は狭間へと消え去って行った。
「避けた……? もっと小さくても当てた、のに」」
「能力は倍々ゲームゆうとこかな? まあギリギリで行けるやろ。……せやからとっとと死ね」
 凛音が放った呪詛の剣撃を回避したところを、子子の刃から解き放たれた怨霊達が食い散らかして行く。
 確かに大きくなるごとに強くなっていくが、その分だけ見付け易かったし、ちゃんと相手を選んで戦っている。
 5m級ならば圧倒的な強さと言うほどでもないし、何とか囲まれるまでに倒せるだろう。


「あ、あと二分くらいで囲まれます! い、一番近いのは一分……!」
「ちょっと急がないといけませんね。少し揺らすです」
 後方に居た夏雪は、治療しながら頑張って大きな声を出した。
 ユリスは懐のコギト珠が飛び出ない様に気をつけながら、跳ね回って突撃を敢行する。
 その際に敵の体に引っかかっている珠があれば振り落とさせようと、小さな体を激しく動かした。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
「あとちょっとだし待って欲しいなー。今必殺のルーンディバイド!」
 更に時間が経過し新手が取りつき始めた。
 そこで最も火力の高い静夏が斧を振り被り、樵の様に真横に薙ぎ倒す。
 さしもの5m級もこれにはかなりダメージを受けたようで、ぐらりと傾いて行ったのである。
「今度……こそ」
「おしまいだ、よ」
 凛音が血刀をオグンソードに潜り込ませ、十三が呪われた刃で挟み込んだ。
 火力の高い三人娘が三人とも攻撃を成功させたことで、なんとか仕留めることに成功した。
 倒れたオグンソードはビクンビクンとのた打ち回った後、それっきり動きを止めたのである。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
 新手達の延ばす触手にテレビウムやキャリバーが絡み取られるが、攻撃役への直撃はなんとか避けることに成功した。
 間にあったと言う安堵や達成感と共に、早く蹴散らさねば囲まれると言う危機感も湧きがっていくのであった。

 一同が攻撃を受けながらも態勢を立て直した時、タイミングを僅かに変えて次なるオグン・ソードがやって来た。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
 複数の影がやってくるが何体かはその場で種か何かを射撃し、一部の個体だけが接近して来る。
「小さいと弱くてなんとか……でしょうか。今のうちに治療をしますね」
「それもですが、手の空いた人は珠を拾う作業をお願いします。この集団を倒しても、直ぐ次が来ますよ」
 夏雪は粉雪を降らせ、零斗は盾を張りながら動き回った。
 第二波・第三波と続けて接近され、第四波以降は暫く来ないと聞いているが無事だとは言っても治療しきれなくなって来ている。
「なかなか無茶言われますなあ。実は余裕なんちゃいます?」
「正直。他の惑星での探索という状況を楽しんでいる部分も否定できませんね。あ、できれば口より手を動かしていただけると幸いです」
 子子は零斗の無茶ぶりに答えつつ、態勢を低くして走り始めた。
 二人はピンチの中でなお笑いつつ、途中でコギト珠を拾うと、新しく現れた2m級の個体に殴りかかったのだ。
「何とか回収できればよいのですが、難しいかもしれませんね」
「その場合はここは俺に任せて作業と、……撤退を優先しろ。頑丈ではあるしまだ『彼』も居るからな」
 ユリスは水晶剣で斬り掛り、仲間の収集作業を見守っていた。
 だが既にキャリバーが集中攻撃を受けて落ち、エングの連れたテレビウムの『彼』も危険水域だ。
「まだまだ!」
 そしてエング自身、度重なる攻撃に荒い息をつくことが多くなった。
 最初は刀を杖にして戦っていたが、一番危険な位置に置いたサーヴァントが落ちた頃、彼にも攻撃が集中するようになったからである。
「そろそろ潮目やな。これ以上に欲張るんは危険やろ」
 増援を蹴散らした時、後衛である子子へも普通に攻撃が届く様になって居た。その頃には既に一人と二体の盾役を失っている。盾役を失えば加速度的に負傷が増えると言ってよい。
「ん。玉、いっぱい。これで、助かる。よかった。嬉しい」
 凛音は血を拭いながら、空を舞って一同を先導するのであった。
 ゲートに向かうその姿は満身創痍で無表情のままであったが、きっと満足して居たことだろう。気絶した仲間を抱え途中で起こし、また戦闘で気絶を繰り返しながらケルベロス達は帰還を果たす。

作者:baron 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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