●黒猫さんの誕生日
「む」
アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、自室でふと、カレンダーを見上げていた。
2月11日。
アーサーの誕生日である。
「そうか。もうそんな時期か……」
アーサーはぼやいた。
この時期、イベント事は多い。節分にバレンタイン。其方への対処を考えていると、どうしても、自分の誕生日を忘れてしまう。
とは言え、今日はたまたま気が付いた。
「ふむ。偶にはこう、皆を呼んで、お祭り騒ぎをするのもいいな……」
アーサーはうなづくと、早速誕生日会のプランを練るのであった。
●そういうわけで。
ケルベロス達に、以下の様な電子メールだったり、手紙だったりが届きました。
拝啓 時下ますますご繁栄のこととお慶び申し上げます。
さて、私事ではございますが、来る2月11日、誕生日を迎えることになりました。
そこで、ささやかではありますが、宴席などを設けましたので、ご連絡いたした次第でございます。
……まぁ、無駄に硬くなってしまうのでここでメールの本文の紹介はやめにしておこう。
要するに、誕生日会と言う名目の、ちょっとしたパーティを開くので、皆にもぜひ参加してもらいたい、という事のようだ。
ちなみに、パーティの内容であるが、アーサーの好物であるチョコレートがメインの、チョコレート食べ放題なイベントなのだそうである。
チョコレートなら何でもあり。基本的なチョコレートから、チョコケーキ、チョコまんじゅう、まぁチョコとつけば何でもあり。持ち込みも可。
そう言ったわけで、ちょっとチョコレートでも食べに来るか、位の気持ちで、友人家族お誘いあわせの上、ご参加いただければ幸い、との事である。
ちなみに、アーサーが「バレンタインの前にチョコレートの食べ放題イベントって、イベントが丸被りなのでは……?」と気づいたのは、招待状を出してからの事だったそうな。
●ケルベロス達のチョコレート・パーティ
会場には、チョコレートの甘い香りが漂っていた。
よくよくかぎ分けてみれば、その種類も一つではないことに気付いたかもしれない。
例えばイチゴなどのフルーツの香りや、バニラの香り。およそ「チョコレート」と名がつけばどんなものでも、この会場にはあるのだ。
ここは、アーサーが自身の誕生日イベントとして――日頃頑張っているケルベロス達の慰問も兼ねたイベントなのだが――開催したチョコレートの食べ放題パーティの会場である。
その入り口で、受付も兼ねて、アーサーが来場者を待っていると、
「アーサー、誕生日オメデトウ!」
【日進月歩】の雅也が、笑顔でそう言った。
一応とは言えアーサーの誕生日にかこつけたイベントであったから、プレゼントを持参してくれたケルベロス達も多い。
「アーサー、誕生日おめでとう。直接顔を合わせるの初めてになるな」
いろこがそう言って、
「初めましてだけど誕生日おめでとう、アーサー! おまねきありがとうなんだぞ!」
ロイが元気よく続ける。
「ありがとう、日進月歩の皆。今日は来てくれて、嬉しく思うよ」
と、アーサーはあくまでクールにふるまってはいるものの、尻尾が嬉し気にピン、と立っているのを、雅也たちは見逃さなかった。
「俺からは、プレゼント兼、みんなで食えるように!」
雅也が差し出したのは、大ぶりなイチゴの詰まったイチゴのパックだった。チョコフォンデュなどに使う事が出来るだろう。
「私からはホットココアを。まだ寒いし、これでも飲んで温まって、ってことでさ」
いろこからのプレゼントは、ホットココアだった。
「ありがとう。イチゴもココアも、早速皆に振舞う事にしよう。もちろん、私もいただくよ」
嬉しげなアーサーへ、
「これな、プレゼント。板チョコみたいな折りたたみ鏡!」
そう言って、ロイが差し出したのは、板チョコを模した折り畳み式の鏡だ。
「ほほう、これは。面白いデザインだな……」
興味津々に鏡を見つめるアーサーへ、
「身だしなみ大事だからな、口もとにチョコついてないか確認しながらたくさんチョコレート楽しんでください!」
ロイが言う。アーサーは笑うと、
「ありがとう、こちらも早速使わせてもらおう。君達も、パーティを楽しんでいってくれ」
そう言って、アーサーは会場へと向かう3人を見送った。
「アーサーさんお誕生日おめでとうございます」
と、次にやってきたのは、ソールロッドとナザクの2人だ。ソールロッドがアーサーに挨拶をし、
「誕生日だと聞いたので。おめでとう」
ナザクが続いた。
「ありがとう、2人とも……いや、ソールロッド、どうかしたのか? その、口元が震えているようだが」
アーサーが首を傾げた。ソールロッドは慌てて首を振ると、
「いえ、いえ! なんでもないのです!」
「そ、そうか……?」
アーサーが不思議そうな顔をした。
「そ、それより! 誕生日プレゼントです、良かったら食べてくださいね」
と、生チョコのアソートを、ソールロッドが差し出した。
「おお、これはおいしそうだ。ありがとう」
そう言って、アーサーが生チョコを受け取る。ちょん、と、ソールロッドの手に、アーサーの手が触れた。
ふわり、とした毛の感覚が、ソールロッドに伝わる。
(「思った通り……ふわふわな……! い、いけないいけない、クールに、クールに……」)
頬を引き締めるソールロッドの様子に、再びアーサーが小首をかしげた。
「あまり気にしないでくれ」
ナザクがそう言って、チョコリキュールを差し出す。
「誕生日プレゼントだ」
「ありがとう。さぁ、2人とも、今日は楽しんでいってくれ」
プレゼントを受け取りつつ、アーサーは笑った。
「い、一体何を考えているの? シュネーをチョコレート空間に放り込んだからって手懐けれるだなんて思ったら勘違いも甚だしいのよ!」
と、声をあげるのは、シュネーだ。
「……ほらちょっと、何警戒してるの。早くきなさいって。離れて歩くと迷子になるよ」
そんなシュネーに声をかける万里。しかしシュネーは、そんな万里にびしっ、と人差し指を突きつけると、
「いつ意地悪してくるか、シュネーったら常に用心してるんだから!」
と、警戒心丸出しで言うのである。
「はいはい、わかったから……悪いね、アーサー。騒がしくて」
そう言う万里へ、アーサーは、
「いやいや。賑やかでいいと言うものだよ」
そう答える。
万里とシュネーが会場へと入っていく。と、その数秒後には、
「わーーーーい! チョコレートが沢山あるわ! ここは楽園ね、1週間住んでもいいと思える位!」
「さてシュネー嬢、まずはどれを……ってもういない!?」
と、喜びの色を含んだシュネーの声と、驚きに彩られた万里の声が響いたのである。
さて、会場では、参加したケルベロス達が、チョコレートを堪能している様子だった。ロザも会場をのんびりと歩きながら、チョコレートをいただいている。
(「こうしてると年相応の普通の子なんだけどなあ……」)
大喜びでチョコレートを探して走り回るシュネーのテンションに驚きつつ、万里が胸中で呟いた。
「んっ?」
と、シュネーが万里の方を振り向く。
「って万里お兄ちゃんちゃんと食べてる? もし食べてないのならそれはチョコレートに対する冒涜だわ!」
ぷんぷん、と怒りつつ、シュネーが万里へと詰め寄った。
「え? いや、普通に食べてるけど……」
うろたえつつ答える万里へ、シュネーは、
「あ! 万里お兄ちゃん、どのチョコレートが美味しいのかわからないのね? なら、シュネーがオススメのを一つずつ取って来てあげるからちょっと待ってて!」
「そ、それじゃあ折角だから、おすすめを教えてもらおうかな」
と、その言葉を聞いていたのかどうか、シュネーはにこにこと笑いながら、チョコレートを取りに駆けていく。
(「……え、取ってきて『あげる』って今言った? お茶を淹れるのも人任せなあの子が?」)
ふと、冷静さを取り戻した万里が、シュネーの言葉を思い起こす。
果たして、それが、本来の彼女の優しさなのか、或いはチョコレートの魔力にテンションのあがった結果なのか。
それは分からない。が、これはこれでいい事だ。
万里は楽し気なシュネーの姿を見つめていた。
さて、【日進月歩】のメンバーは、チョコレートを持ち込みしてきたようだ。
とは言え、普通のチョコレートとはちょっと違う様子。
「俺に出来る冒険はこのくらいだった……」
そう言って雅也が差し出したのは、フライドポテトにチョコソースをかけたものだ。
何やら、独特なチョコレート料理がテーマなのだろうか?
とは言え、ポテトチップスにチョコレートをかけたものもあるので、これはこれで美味しいのかもしれない。
「俺が持ってきたのはこれ、カリカリのベーコンにダークチョコレートをかけたやつ!」
続いたのは、ロイだ。これまた独特なチョコレート料理を取り出す。
「塩気と甘みの相乗効果ってやつだ、くせになる感じの味」
なるほど、ロイの言う通り、塩気と甘みの組み合わせはアリだ。雅也の持ってきたフライドポテトと、同じ系統の味なのかもしれない。
「雅也はポテト、ロイはベーコンか。私はこれ」
と、いろこが取り出したものは。
「……魚か?」
「魚だな!」
「焼き魚だ」
ふ、と笑いつつ、いろこが言った。
いろこが取り出したものは、焼き魚にチョコレートをかけたものだった。塩気と甘みの組み合わせはありだ。アリだが……これはどうなのだろう? 中々味の想像ができない。
こうして3人のチョコレートが出そろった。
うわぁ、と小声で、雅也は呻いたりしつつ。
「甘いのとしょっぱいのは相性いいって言うからな……うん、美味しいはずだ……」
と、頷いた。
「とにかく食べてみよう!」
ロイが言う。3人は勢いよく、或いは恐る恐る、それぞれのチョコレートに手を伸ばした。
「……意外と美味い……おぉ、新発見! 他の人にも勧めて来るか!?」
驚いたように、雅也が言った。
「結構何にでも合うんだな、チョコレートって」
そう言って、いろこが笑う。
「いろこのチャレンジャーな感じもきらいじゃないぞ、俺」
と、ロイが焼き魚を食べながら言う。
3人が持ってきたチョコレートは、意外と言うかなんというか、どれもおいしい物だったらしい。持ってきた本人たちもなんだか驚いているようだが、美味しく食べられたのならそれはそれでよし。
「こうやっていろいろ食べるの面白いな!」
ロイが笑う。
「さて、他には何があるかね? せっかくのお誘い、食べれるだけ食べて楽しまないとな」
いろこが言うのへ、
「そうだなぁ、一回会場出て、何か合いそうなもの皆で買ってくるか?」
と、雅也の提案に、
「お、それも面白そうだな!」
ロイが同意した。
「チョコレート自体は沢山あるからな。新しい味を追求してみるのも悪くないな」
いろこが言う。
3人による新たなる味の創造は、まだ始まったばかりのようだ。
「依頼の成功とアーサーさんのお誕生日を祝って」
「お疲れ様、だな」
ソールロッドとナザクはチョコドリンクで乾杯する。
「あの家族、ちゃんと日常に戻れていると良いですね」
ソールロッドが言う。話題は、2人が参加した病魔根絶作戦で、担当した患者の事だ。
「病魔は根絶できたんだ。今頃、幸せに暮らしているさ」
ナザクが答えた。
そうだと嬉しい。ソールロッドはそんなふうに思う。
「ん? ああ、アーサー。良かったらアーサーも一緒にどうだ?」
と、ナザクは声をあげた。アーサーが、2人の近くに立ち寄っていたようで、それをナザクが見つけたのだ。アーサーは片手をあげて挨拶をすると、2人の元へとやってくる。
「ありがとう。でも、構わないのか?」
尋ねるアーサーへ、
「ああ。勿論だ。私も甘いものが好きでな。アーサーとは色々話が合いそうだしな」
ナザクが言う。
さて、そんなナザクの影に隠れつつ、ソールロッドは、アーサーを見つめていた。
(「あの毛並み……! 触ったら柔らかいんだろうな……、ふわふわですね」)
胸中で呟く。どうも、ソールロッドは猫好きのようで、猫のウェアライダーであるアーサーに対して、興味津々のようであった。
「……? ソールロッド、私の顔に何か……?」
思わず首をかしげるアーサーに、
「い、いえ! いい毛並みだな、と!」
ソールロッドが慌てて言った言葉に、アーサーはふふ、と笑い、
「うむ。ありがとう。こう見えても手入れは欠かさないのだ」
と、得意げに言う。ソールロッドにとっては、そんな仕草がまたたまらなく可愛く思えて、
「はい、とても可愛……い、いえ、クールです!」
思わず本音が漏れそうになるのを、慌てて言いつくろったソールロッドである。
そんな2人のやり取りに気付かず、ナザクは凄い勢いでチョコレートを食べているのだった。
さて、パーティに参加したケルベロス達には、良い骨休めになったかもしれない。
明日からは、また闘いの日々が始まるだろう。
だが、今はそれを忘れて、この甘い香りに包まれ、日々の疲れを癒そう。
ケルベロス達のチョコレートパーティは、まだ始まったばかりなのだから。
作者:洗井落雲 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月26日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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