オグン・ソード・ミリシャ~鬼世界探索行

作者:洗井落雲

●ある戦いの記録。
 惑星プラブータ。オウガ達の主星は、無数のおぞましき生命体によって攻撃を受けていた。
 それは邪神の眷属。オグン・ソード・ミリシャ。
「やるぞ、皆!」
「おお!」
 リーダーらしきオウガの言葉に、7人のオウガ達が鬨をあげた。総計8人のオウガが戦うのは、全長にして30mほどの大きさを誇る、形容する事すら憚れるような、おぞましき怪物。
 オウガ達は、劣勢であった。その姿はまさに満身創痍と言った様子であり、全てのオウガが傷を負っていた。
 だが、オウガの戦意は些かも衰えない。むしろ、強敵と戦う事の喜びに、戦意は際限なく向上していった。
 幾度かの打ち合いの末、邪悪なる怪物がその身体を地に横たえる。だが、オウガ達の顔に油断の色も、喜びの色もない。
 ぐぢゃり。
 と、音が鳴った。
 オグン・ソード・ミリシャの死体がぐしゃぐしゃに溶けると、その中から、びちり、びちりと音をたて、新たなオグン・ソード・ミリシャが現れた。しかし、その大きさは、先ほど30mを大きく超え、40mに迫ろうかとしている。
 倒せば倒すほど、巨大化し、強力になっていく。
 それが、この怪物の特性なのだ。
 だが、オウガ達の戦意は衰えない。
「復活するなら、復活できなくなるまで倒し続ければいい!」
 リーダーオウガの言葉に、仲間たちは声をあげた。再び、オウガ達は邪神の眷属へと立ち向かっていく。
 戦いは終わらぬかに思えた。だが、オウガ達は確実に消耗していく。
 一人、一人と倒され、オウガ達はコギトエルゴスムへとその姿を変えていく。
 全てのオウガをコギトエルゴスムへと変えた邪神の眷属は、新たな獲物を求め、うぞうぞと動き出した。

●プラブータへ
「皆、緊急事態だ。ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していたのだが、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙していることが発覚した」
 アーサー・カトール(ウェアライダーのヘリオライダー・en0240)は、集まったケルベロス達に向けて、そう告げた。
 話によれば、先日のオウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れ、地球にやってきた者たちなのだという。
「詳しくは、新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミから聞いてもらいたい」
 その言葉に、ケルベロス達の間にどよめきが走った。
 プラブータでの事件。オウガの女神、ラクシュミがケルベロスになったという事。様々な事実が、ケルベロス達に衝撃となって伝わる。
 果たして、ラクシュミは現れた。ラクシュミは、ケルベロス達に一礼すると、
「こんにちは、ラクシュミです。このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います」
 そう言って、にっこりと笑った。
 ラクシュミの言葉に、特別な想いを抱くケルベロスも居たかもしれない。
 先日の戦い。これまでのケルベロス達の行動。その成果が、このような形で結実したのだ。
 ラクシュミは目を伏せ、話を続ける。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう」
 なるほど、先日のオウガの襲撃には、そのような理由があったという事だ。
 それにしても恐るべきはオグン・ソード・ミリシャか。相性が悪かったとはいえ、あのオウガ達と戦い、全滅に追い込むとは。厄介な相手に違いはあるまい。
「このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです」
 これは朗報だ。ケルベロス達ならば、オグン・ソード・ミリシャの最大の戦法を封じることができるというわけだ。
 ケルベロス達の反応を見てから、ラクシュミは続ける。
「オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
「ありがとう、ラクシュミ。後は私が引き継ごう」
 そう言って、アーサーは説明を続けた。
「ラクシュミがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は、非常に高い。つまり、この戦いは、デウスエクス・オウガを救うための戦いと言うより、同胞であるケルベロス達を救出する戦い、と言い換えてもいいだろう」
 つまり、仲間を救うための戦いだ。俄然気合が入ると言うものだろう。
 それに、プラブータを邪神クルウルク勢力の好きにさせたままでは、いつ邪神が復活し、地球に攻め込むか分かったものではない。
「つまり、同胞を救い、地球の危機を未然に防ぐ。二つの意味で重要な作戦、という事だ」
 さて、オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の、初期状態に戻っている。戦闘能力だけ見れば、さほど強敵と言うわけではない。
 だが、オグン・ソード・ミリシャの外見は、非常に『おぞましい姿をしている』。よくある例え言葉を使うならば、『冒涜的な外見』と言えるだろう。その為、永く見続けていると、狂気に陥りそうになってしまうという。
「戦闘に影響は出ないはずだが、軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう可能性があるようだ。そうなってしまったら、周りの仲間たちがフォローしてやって欲しい」
 オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い戦闘方法と、触手を利用した攻撃を繰り出してくる。
 基本的に相手取るのは2m級だが、中には3~4m級、最大では7m級のオグン・ソード・ミリシャが存在する可能性があるという。注意が必要だろう。
「コギトエルゴスム化したオウガ達を救出し、オグン・ソード・ミリシャを殲滅する。長い戦いになるだろう。くれぐれも気をつけてくれ。君たちの無事と、作戦の成功を、祈っている」
 そう言って、アーサーはケルベロス達を送り出した。


参加者
コロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)
槙野・清登(棚晒しのライダー・e03074)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)
澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)
鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)
雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)

■リプレイ

●鬼世界探索行
 惑星プラブータ。オウガ達の母星。
 恐らく人類初になるであろう、地球以外への有人惑星への到達。
 それを成し遂げたケルベロス達を待っていたのは、あまりにも荒涼とした、荒野の光景だった。
 もちろん、それがプラブータの標準的な姿というわけではない。
 オグン・ソード・ミリシャの襲撃により、グラビティ・チェインが失われた結果の風景だろう。
 だが、前人未踏の地にその一歩を刻んだという事実は、何処か誇らしげな気持ちを、ケルベロス達に与えたかもしれない。
「……まるでアームストロングの気分……いや、オグンの次だからオルドリン、か?」
 ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)が口を開いた。
「ですが、人類にとっては偉大な飛躍。それに変わりはありません」
 プラブータの荒野と、自分たちの足元――異星への第一歩を刻んだ足跡を見ながら、鹿坂・エミリ(雷光迅る夜に・e35756)が答える。
「プラブータ、ほんとはどんな景色だったのかなぁ……?」
 リディ・ミスト(幸せ求める笑顔の少女・e03612)が、少し残念そうにつぶやいた。
「探索を続けて行けば、原風景を見ることもできるかもしれないな」
 腕を組み、プラブータの荒野を見つめていたコロッサス・ロードス(金剛神将・e01986)が言う。
「その時は、スマホで一枚、写真をパチリとね。記念というわけじゃないけど」
 槙野・清登(棚晒しのライダー・e03074)が言うのへ、
「そうですね~。地球で復活するオウガさん達も、故郷の景色を見たくなるでしょうし~」
 澤渡・和香(押しかけ事務員補佐心得・e13556)が笑って答えた。
「苦しくて長い戦いを必死に耐え抜いてきたオウガの皆さんの心意気……今度は、わたし達が!」
 決意を表すように、雅楽方・しずく(夢見のウンディーネ・e37840)が言った。
 その言葉に、ケルベロス達は頷く。オウガ達を救い、邪悪なる侵略者からこの星を解放するのは、ケルベロス達の使命だ。
「気をつけて行こうか」
 どこか緊張した面持ちで、館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)が言う。これから行うのは、敵地の探索だ。事前の説明によれば、オグン・ソード・ミリシャは、この惑星にうじゃうじゃと居るようだ。決して油断はできない。
 ケルベロス達は、探索の旅、その最初の一歩を踏み出した。

●巨大なる眷属
 ケルベロス達の探索は続き、幾度かのオグン・ソード・ミリシャたちとの戦闘も経験していた。
 多くは2m級の、時折3~4m級のオグン・ソード・ミリシャを退け、同時に荒野に散らばっていたオウガ達のコギトエルゴスムを回収する事が出来た。
 数度の戦闘、そして長時間の探索。疲労を感じつつあったケルベロス達は、その日の探索を打ち切り、一時の休息をとることに決めたのである。
 荒野の一部、切り立った岩場を利用し、『巣』を作り上げる。砂や岩などで外見をカモフラージュし、一時の宿の完成だ。
「お疲れ様です~。ドリンクをどうぞ~」
 和香が栄養ドリンクを取り出した。同時に、パソコンから動画や音楽を流し、皆の気持ちをリラックスさせる。
「ブイヨンも用意してあります。良かったらどうぞ」
 しずくは、即席でだし汁を作り、
「温かいお茶もあるよ」
 詩月がお茶を入れる。
「では、私が給仕を。お配りしますね」
 エミリがそう言って、出された食べ物や飲み物を、皆に配って回った。
「次は、もうちょと南に行てみるか」
 いつの間にやら飴をなめながら、シュオが言う。シュオが広げているのは、ケルベロス達が即席でマッピングした地図だ。南方の方は完全に白紙であり、まだ未探索であることを示していた。
「……しかし、噂に聞くオウガがこのような姿とはな」
 コロッサスが、回収したコギトエルゴスムを眺めながら、呟いた。
「願わくば、一度だけでも十全な状態のオウガ達と戦いたかった……などとな。いや、我ながら度し難い。わかってはいるが……」
 自嘲的な笑みを浮かべつつ言うコロッサスに、
「でも~、オウガさん達は戦うのがお好きとの事ですから~……意外と、そう言ってもらって喜んでいるかもしれませんね~」
 和香がフォローを入れた。オウガ達は、確かに自身を鍛える事、強敵と戦うことに喜びを覚えるものが多い種族だ。もしかしたら、コロッサスの申し出にも、喜んで応じたかもしれない。
 ――と。
「休憩中、ゴメンね」
 現れたのは、偵察に出ていたリディだ。普段は笑顔のリディだが、今回ばかりは、少しばかりの焦りの色が見えた。
「オグン・ソード・ミリシャを見つけたよ。……7m級だった」
 その報告に、ケルベロス達は息をのんだ。
「動いてるか?」
 ジンが尋ねる。
「ああ。最悪な事に、こっちに向かってきてるよ」
 同じく偵察に出ていた清登が帰還し、答えた。
「スマホは正に、万能の魔法の杖だね……見るかい? 撮ってきた」
 清登の差し出したスマホには、見るも悍ましい、巨大な邪神の眷属の姿が映っていた。単独のようであるが、なるほど、周囲の岩山などの景色を比較しても、大きい。
「どうしましょう?」
 しずくが尋ねる。
「……ここを放棄して、見つかる前に逃げるか……それとも、先手を打って奇襲……可能でしょうか?」
 エミリの言葉に、
「うん。相手は、こちらにはまだ気づいてないみたい」
 リディが答えた。
「だったら、奇襲を仕掛けるのも一つの手かもしれないね」
 詩月が言う。
「どうせいずれは戦う相手だ。だったら、少しでも有利な状況で叩いておいた方がいいと思うよ」
 詩月の言葉に、ケルベロス達がうなった。しばしの沈黙。その沈黙を破ったのは、コロッサスだった。
「――叩こう」
 コロッサスは、ケルベロス達を見まわしてから、続けた。
「詩月の言う通り、いずれはぶつかる相手だ。避けては通れない。ならば、ここで確実に叩いておきたい。……どうだ?」
 コロッサスの言葉に、
「私は~、賛成ですよ~」
 和香が答えた。
「ええ。近くにオウガの皆さんのコギトエルゴスムがあるかもしれません。早く助けてあげたいですから」
 しずくも同意する。他のケルベロス達も、戦う事に決めたようだ。
 皆が、コロッサスに向かってうなづく。
「……よし。では、行こう」
 コロッサスの言葉に、ケルベロス達は武器を手にする事で応えた。

『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
 悍ましい声。忌々しい声。謎の言葉を紡ぎながら、7m級のオグン・ソード・ミリシャが、のたり、のたりと大地を行く。
 冒涜的、という言葉がある。オグン・ソード・ミリシャの外見を指して「冒涜的な見た目」などと評したが、まさにその通りだろう。その外見は、生命への冒涜、宇宙そのものへの冒涜ともいえた。
 ケルベロス達は、近くの岩場の上から、その巨大なオグン・ソード・ミリシャを見ていた。近くで見れば見る程、正気を一気にもっていかれそうになる、おぞましい外見。
「……っ」
 エミリが思わず、身をすくめた。その悍ましい姿がかつての記憶をよみがえらせ、その恐怖と嫌悪が蘇る。エミリは、首元に巻いたストールを強く握りしめた。負の記憶には正の記憶を。正気を保つためのアイテムである。
「……大丈夫?」
 リディが尋ね、続ける。
「気持ち、わかる……ぞわっとするよ。幸せな気持ちすら吹っ飛んじゃうくらいに。あれは……」
 本当に、冒涜的で、おぞましく、相容れないモノだ。
 ケルベロス達の気持ちは、一緒だった。だが、これから……そして、これを退けたとして、その後も、奴とは対峙しなければならない。
「準備は良いか?」
 清登の言葉に、ケルベロス達は頷いた。
「如何に強敵であろうと、矜持無き敵が相手では、此度の戦いは名誉という彩に欠ける。だが……」
 呟き、コロッサスが武器を握った。
「――行くぞ!」
 コロッサスの号令一下、ケルベロス達が一気に飛び掛かった。
「我、神魂気魄の剛撃を以て獣心を討つ――!」
 コロッサスの言葉に応じ、顕現せしは闇を纏う炎の神剣。それを抜き放ち、落下の勢いを借りたまま、敵へと斬りかかる。
 刀身には、紅き神火と払暁の輝きが宿る。その刃が抜き放たれるさまは、正に夜明けが如く――。
 刃が、敵の巨体の一部を切り裂き、
『みあ みあ おぐん そーど!』
 敵が叫ぶ。
 『黎明の剣(レイメイノツルギ)』による一撃が戦端を開く合図となった。
「これ以上、あなた達に! 誰の幸せも奪わせないから!」
 リディが続く。リディが解放した、失われたはずのオラトリオの力が、敵の周囲の空間を液状に変質させた。その液体は、身体にまとわりつき、その動きを大きく阻害する。『ミスティック・エリアリキッド』。リディのグラビティが、炸裂するのに続けて、
「先手を取らせてもらうよ!」
 ドラゴニックハンマー『Tu-Ba.K.I』を携え、詩月が迫る。小型の鎚頭と長い柄を持つ戦鎚を、杖術のように華麗に振るいながら、相手の進化可能性を奪い、凍結させるとされる一撃を放つ。
 その一撃が直撃した瞬間、ジンは敵の背後にいた。
 グラビティで生成した黒い霧を纏ったジンは、その迷彩効果を利用し、敵の死角から攻撃を仕掛ける術を得意とする。『影(イン)』と名付けられたその業は、攻撃の直前に霧が消えてしまうものの、接近させしてしまえばこちらの物。
「――疾!」
 二振りの刃、惨殺ナイフ『闇妖』『月食』で敵を切り裂く。体液が迸る。少々服にかかったが、ジンは意に介していない。
「援護を!」
 エミリが戦闘力を向上させる電気ショックを、味方へと飛ばす。
「『今のわたしが、なにに見えますか?』」
 しずくが問いかける。途端、サキュバスミストにも似た桃色の霧がしずくの姿を包んだ。霧の向こうより覗くのは、この世の者ものとは思えない恐ろしき異形の影――。
 『フヴェルゲルミルの幻影』は、その姿を見たものに、体の芯から凍り付くような恐怖を与えるという。
「……あなた達にすら怖がられる。効果としては素晴らしいですけど、ちょっと複雑ですね……!」
 と、しずくは軽口一つ。
「足を止めてくれ、相棒!」
 ライドキャリバー『雷火』へ指示しつつ、清登がスマホへ指を滑らせる。
「さぁて天使様、今日の有益情報、お願いします! しゃべってエンジェル、起動ッ!」
 『音声検索(レディ・ナビゲーション)』は、話しかけるだけで可愛いミニ天使が何でも調べてくれるアプリだ。敵の弱点や周辺の地形等、戦闘に有益な情報を素早く検索して味方をサポートする優れもの。なお、検索結果は、天使のキャラと共に、ケルベロス達の頭の中に直接送信される仕様である。
「『あの敵をずっと見ていると、心がおかしくなっちゃうぞ♪ これって恋かなぁ?』」
「うーん、天使様! それ知ってるッ! 後恋じゃない!」
 情報の内容はさておき、あれやこれやでケルベロス達のサポートになるのが、このグラビティの長所である。一方、雷火は相棒の命に従い、果敢に突撃。根の様な足元をひきつぶし、足を止めた。
「さぁて、いくわよ~!」
 和香は敵の気脈を絶つ一撃を、敵にくわえた。指一本による刺突。ぐにゃり、とも、ぐちゃり、ともする、何とも言えない触感が、ガントレットごしに和香に伝わる。
「うう、やっぱりなれないわぁ、この感触……」
 今まで何体かのオグン・ソード・ミリシャと戦ってきたが、やはり敵の持つ不気味な感覚にはなれない。外見も、手ごたえすらも、気持ちが悪いとは。何ともあらゆる意味でやりづらい相手だ。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
 ケルベロス達の猛攻を受け、しかし敵は健在であった。その触手を地に突き刺すと、それは大地と融合した。浸食された大地が、前衛のケルベロス達を飲み込む。
「やはり一筋縄ではいかんか……!」
 攻撃を防いだコロッサスが、言った。
「それならそれで。倒れるまで切り刻むよ」
 ジンがナイフを構える。
「もともと長期戦のつもりだったんだろう? 地道に行こうか」
 清登が言いながら、油断なく構え直した。

 元より、速攻で片が付くとは、ケルベロス達も思ってはいなかった。ケルベロス達の予想通り、戦局は長期戦の形となる。
 ケルベロス達にとって幸運だったのは、7m級が単独で現れたことだろう。初の7m級との戦闘、対策や挙動を学べ、ある意味で今後の戦いの心構えを作れるタイミングで、邪魔者である相手のお供が存在しなかったため、7m級との戦いに専念できたのだ。
 とは言え、流石は7m級。その戦闘能力は2m級の比ではない。
 それに、ケルベロス達はそれ以前の戦いによる疲労が蓄積していた。それがまだ抜けきらぬままの戦いは、少々ケルベロス達にとって不利だ。
 それでも、ケルベロス達は果敢に戦った。そして、幾度目かの攻防の後。

 7m級の身体は、少しずつ、少しずつ崩壊していた。その代償として、ケルベロス達も相当のダメージを受けたが、幸い、脱落者は出ることなく、戦闘は続いていた。
 敵が触手を振りかざし、激しい殴打をコロッサスへ与えた。コロッサスは、その触手の一撃を如意棒『伐折羅』で以て受け止めて、
「そろそろ、決めさせてもらう!」
 反撃に、『黎明の剣』で斬りかかる。敵の体から大量の体液が噴出し、それが致命打に近い一撃である事が見て取れた。
「『ハピネス』、もう少しだよ!」
 リディは自身のオウガメタルである『ハピネス』に呼びかけ、自身をも奮い立たせる。ハピネスはリディの身体を包み、敵の胴体へ、共に拳の一撃を放つ。
『おぐん……そー……ほろ……わ……』
 敵の声がかすれかすれとなっている。限界が近い。
「ならば、これで……フィニッシュだ!」
 詩月がTu-Ba.K.Iを携え、氷結の一撃を放った。体に撃ち込まれたその攻撃が、トドメの一撃となった。その巨体が地に体を横たえる。すぐにぐちゃり、と体が汚い汚水の様なものへと変貌し、そのまま地に染み込み消えて行った。
 ケルベロス達の、勝利だった。

●一つの戦いの終わり
「お、おわりました~」
 和香が、思わず座り込んだ。
「皆、無事のようだな」
 コロッサスが、全員の無事を確認する。
「流石7m級……こっちも結構ボロボロだよ」
 リディが苦笑するのへ、
「ですが、ふいに遭遇するよりはよかったと思います。今後の心構えもできましたし」
 エミリが言った。
「だね。しんどかったけど、幸先はいいかもしれないね」
 清登が言う。
「そうだ、近くにコギトエルゴスムは落ちていませんか?」
 しずくの言葉に、
「そうだね、もしかしたら、さっきの奴にやられたオウガがいるかもしれない」
 詩月が同意した。
 ケルベロス達は、周囲を探索。7m級にやられたと思わしき、8つのコギトエルゴスムを発見する。
 そんなコギトエルゴスムを優しく手にしながら、
「……辛苦了」
 と、ジンは呟くのだった。

作者:洗井落雲 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 11/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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