オグン・ソード・ミリシャ~邪神眷属殲滅作戦

作者:紫村雪乃


『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
 それは哭いていた。何をいっているのか、わからない。が、宇宙を穢し尽くす呪言であることは間違いなかった。
 おそらくは三十メートル。それは威容を誇っていた。姿は悪夢存在といっていい。不気味にねじくれた樹木のような本体に幾つもの口が開き、涎を滴らせていた。
 全体は粘液のようなものにまみれている。幾本もの触手がうねうねと踊っていた。――オグン・ソード・ミリシャである。
「やるぞ」
 声は、オグン・ソード・ミリシャを囲む八人の中から発せられた。
 八人は人間ではない。オウガであった。
 すると、他の七人は我に還ったにうなずいた。オグン・ソード・ミリシャは冒涜的で、見ているだけで正気を失いそうになるような宇宙的な狂気を与えるような外見をしていたのである。
 からみとろうとする狂気から逃れようとするかのように八人のオウガたちはオグン・ソード・ミリシャに襲いかかった。そして幾ばくか。
 オウガたちはオグン・ソード・ミリシャを斃した。満身創痍となりながら。
「やったぜ」
 オウガたちは快哉をあげた。が――。
 恐るべきことが起こった。どろどろに溶けた肉塊と化していたオグン・ソード・ミリシャが再生し始めたのである。
 いや、ただ再生したのではない。それは前にも増して巨大化していたのであった。
「倒したら復活する? なら、復活しなくなるまで倒し尽くすぜ」
 勇躍オウガは襲いかかった。が、それが間違いであった。次々とオウガたちが斃されていく。再生することにより、邪神の眷属は強力になっていくのだった。


「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)さんが予期していたのですが、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているようです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)はいった。オウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきていたのである。
「詳しくは、新たにケルベロスとなったオウガのラクシュミさんから説明をしてもらいますので、聞いてください」
 セリカが目をむけると、美麗な女が口を開いた。ラクシュミである。
「こんにちは、ラクシュミです。このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。オウガの女神としての強大な力は失ってしまいましたが、これからまた成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています」
 ラクシュミは小さく微笑んだ。
「オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったので、ケルベロスになる事ができれば、きっと私と同じように感じてくれる事でしょう。皆さんに確保して頂いたコギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。ここからが本題なのですが」
 ラクシュミは表情をあらためると、
「オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです」
 辛そうに目を伏せ、しかしすぐにラクシュミは続けた。
「とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。彼らも、理性さえ残っていれば最後まで戦い続け、コギトエルゴスム化した事でしょう。このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でした」
 けれど、とラクシュミはいった。
「ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。オウガの戦士との戦いで強大化したオグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います」
 オウガのゲートは岡山県の巨石遺跡に隠されている。その事実はわかっていた。
「一緒にプラブータに向かいましょう」
 ラクシュミはいった。
「ラクシュミさんがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高いでしょう」
 セリカはいった。
「この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いではなく、同胞であるケルベロスを救出する戦いとなります。またプラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むかわかったものではありません。同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いは重要となります」
 オグン・ソード・ミリシャの多くは体長二メートル程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではない。が、その外見は非常に冒涜的で、長く見続けてると狂気に陥りそうになるので気をつけなければならなかった。
「戦闘には影響は出ない筈ですが、軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう場合もあるようです。その場合は周りの仲間がフォローするようにしてください」
 オグン・ソード・ミリシャは攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくる。基本は二メートル級だが、中には三、四メートル級や最大七メートル級のオグン・ソード・ミリシャも存在しているらしい。注意が必要であった。
「ケルベロスの仲間となるオウガ達を救うために、頑張りましょう」
 セリカはいった。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
ウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)
燈家・陽葉(光響射て・e02459)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
エストレイア・ティアクライス(従順系メイド騎士・e24843)
ユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)
雨宮・利香(漆黒の雷刀・e35140)
ランサー・ファルケン(正義を重んじる騎士・e36647)

■リプレイ


 鈍色の空。辺りは墨を流したように昏い。遠くに峨々たる山脈が見えた。
「ここがオウガの方々の母星……」
 目を丸くして、可愛らしい顔立ちの娘が辺りを見回した。メイド騎士を自称しており、溌剌としている。記憶をなくしているのだが、とてもそうは見えなかった。名はエストレイア・ティアクライス(従順系メイド騎士・e24843)。ケルベロスであった。
 するとランサー・ファルケン(正義を重んじる騎士・e36647)という名の男がうなずいた。篤実厳然としたところがあり、騎士というのも納得できる若者である。
「ああ。オウガの主星『プラブータ』だ。まさに異世界に来たという感じだな」
 ランサーはいった。エストレイアはアリアドネの糸を使用しつつ、
「私異星って初めてです! ……たぶん?」
「俺も初めてだが……しかし、本当に変わった所だな。研究者がいたら大騒ぎになるだろうな」
 ランサーは広げた紙に地図のようなもの書き始めた。すると三人めのケルベロスも感慨深そうに辺りを見回した。
「ここがプラブータ……酸素もあるし気温も快適、地球と環境が近いのだな」
 ケルベロスである女はいった。艶やかな黒髪を揺らした凛然たる美しい娘である。名をユーディット・アルニム(装甲砲士・e29597)という。
「いにしえの石のゲートをくぐると地球の外なのか。この星については天文学的にも気になるが……今はそんなことを気にしている場合じゃないな。未知の惑星だ。地の利は敵にある。気を引き締めてかかろう」
「宇宙にぃてここ、にはぃなぃって不思議。無事に戻ってこれたらぃぃけど」
 眠そうな目の少女が口を開いた。ゴシック・アンド・ロリータの衣服を身につけた、人形のような少女である。
 名をラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)とゆるゆると続けた。
「一匹ぐらぃ小さぃ、もの持ち帰って観察しても……冗談。何か話してるって聞くし録音しとけば後々厄に、役に立ちそぅ」
「それは良い考えなのー」
 盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)という名の少女が紫の瞳を輝かせた。
 ぎくりとした他のケルベロスたちはふわりを見た。邪神の眷属の声を録音することに同意するとはどういうつもりなのだろう思ったのだ。
 確かにふわりという少女、ラトゥー二に似ている。人形を思わせるほど可憐であること、どこか眠そうであることなど。が、一番似ているところは掴みどころのない思考法ではないだろうか。
「アイテムポケットとリュックを持って行って、最初は日持ちのきく食料とか水を入れておくの。コギトエルゴスムを見つけたら使った分は捨てて、必要なら未使用分と入れ替えてでも空きを作って持って帰るの」
 ふわりはいった。
「すごぉい」
 今度はラトゥー二が感心したように声をあげた。
「長めにぁっちぃるならご飯どうしよ、て思ってたぁ。巣作りで食べなくても、だけどぉ菓子ぐらぃは持ってくってぇ」
「それなら大丈夫なのー」
 ふわりがはしゃいだ声をあげた。随分気が合うようである。
「そのアイテムポケットがいっぱいになるくらい、オウガの人達、沢山連れて帰れるといいね」
 燈家・陽葉(光響射て・e02459)がふわりに微笑みかけた。陽光を思わせる煌く金色の瞳が特徴的な美少女である。その明るすぎる微笑みの裏に、家族をデウスエクスに殺された哀しみがあると誰が知ろう。
「そのためにも、戦闘は最小限、消耗を抑えて広く探索、かな」
 陽葉は昏い空を見上げた。


 からみつく汚泥を振り払うように八人の男女は足をとめた。ケルベロスである。
 すでに彼らは傷ついていた。数度戦いを終えているのである。コギトエルゴスム化しているオウガ達も幾つか発見していた。
「まだです」
 華奢だがしなやかな肢体の娘がいった。金髪をポニーテールにした端正な顔立ちの娘である。名をウォーグ・レイヘリオス(山吹の竜騎を継ぐもの・e01045)というのであるが、その外見からは神裏切りし十三竜騎(ノブレス・トレーズ)】が一騎【山吹の竜騎】に連なる一族レイヘリオス家の長女であるとは窺い知れなかった。
「そうだよね」
 雨宮・利香(漆黒の雷刀・e35140)はうなずいた。サキュバスらしい官能的な肉体の持ち主だ。いつもの輝くような美貌にも、今は疲労の色が濃く浮かび上がっていた。
 それでも、まだだと利香もウォーグもいう。彼女たちが進むぶんだけ助かる命があるからであった。
「その気持ちはわかるが、焦ってもしょうがない。事故を防ぐためにも慎重にいこう。この鎧から、こうやって……」
 ユーディットは外装から糸を噴出、巣作りをはじめた。それを待って五人が腰をおろす。そして水を飲み始めた。ランサーとエストレイアは地図を描く。
 立ったままでいるのはウォーグと利香だ。見張りに立つ。
 利香は隠密気流を発動させた。これで敵に見つかる可能性は低くなるはずだ。
「うん?」
 双眼鏡を覗いていたウォーグが声をもらした。
「どうした?」
 ランサーが問うと、ウォーグはこたえた。
「敵がいます。今まで遭遇した中で最大の敵が」
 その時、風が汚泥の大地を吹き抜けた。生暖かい気持ちの悪い風が。そこには呪詛のつぶやきがまじっている。
 はじかれたようにケルベロスたちは視線を投げた。その先、異様なものが屹立していた。大きさ七メートルほど。オグン・ソード・ミリシャであった。
 ごくりと唾を飲み込んだのは誰であったか。眼前のオグン・ソード・ミリシャは彼らが今まで出会った最大の大きさを誇っていたのである。その根元には宝石のような玉が多数転がっていた。
 一斉にケルベロスたちは頭を振った。からみつく狂気を振り払うように。
「オグン・ソード・ミリシャ、か。んん、確かに気持ち悪い見た目。さっさと倒しちゃおう」
 陽葉は小さく笑んで見せた。そして妖精が造りし弓――阿具仁弓をかまえた。
「響け、大地の音色」
 陽葉は弦をはじいた。
 鳴弦。弦を鳴らすことによって妖魔を驚かせ退散させる呪法である。弓矢の威徳による破邪の法だ。
 するとオグン・ソード・ミリシャの根元の地が崩れた。動きがとまる。
「わかったのー」
 ふわりは縛霊手の祭壇から霊力を帯びた紙兵を放った。大量のそれは寄り添うように仲間のそばで舞い踊る。
 あくびをすると、ラトゥーニはちらりと傍らを見た。ミミックがいる。
「リリ」
 仕方ないというようにリリはオグン・ソード・ミリシャに噛み付いた。
 不気味な唸り声をあげ、オグン・ソード・ミリシャは鞭のように蔓をのたくらせた。
「Rauchgranate!」
 攻撃の意思を見て取ってユーディっとは叫んだ。武装付属の小型発射機を解放。スモーク・グレネードを撃ちだし、周囲に濃密な煙幕をはる。
 妖刀『供羅夢』の柄に手をそえると、利香は煙幕を見つめた。こちらからは敵の姿は丸見えだ。
「この剣で……勝利を掴む!」
 利香は地を蹴った。自らの筋肉に魔力の電流を流し込み、一時的に身体能力を飛躍的に増大させている。
 超人すら超える存在と化して、利香は襲った。超音速で邪神の眷属を切り刻む。凄まじい威力であった。
 呪詛の言葉をまきちらしつつ、オグン・ソード・ミリシャは蔦をのばした。利香の身体に巻きつける。利香の身体が悲鳴を発した。
「ぬうん」
 ランサーは槍を放った。それは空で分裂、光流となってオグン・ソード・ミリシャに降り注いだ。利香を締め付けていた蔓がぷつりと切れた。


「祈りを捧げます。かの者に、守りの加護を!」
 祈りの対象は彼女自身も知らず、エストレイアは叫んだ。すると倒れていた利香が身を起こした。完全ではないが、彼女の肉体は再生していた。
 その頭上、邪神の眷属の口がニタニタと笑っている。ぼたりと涎が滴り落ちた。
 その時である。ふらふらとふわりが歩き出した。オグン・ソード・ミリシャに近寄っていく。
「待って」
 ウォーグがとめたが、ふわりの足はとまらない。
「おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!」
 潤んだ瞳で呪詛の言葉をつぶやき、ふわりは邪神の眷属に抱きついた。粘液まみれの本体に舌を這わせ、股間をすりつける。いつの間にか下着を脱いでいた。
 ニタリ。果実の口が笑ったように見えた。くわっと口を開いてふわりに襲いかかる。
「まずい」
 ウォーグが跳んだ。稲妻をまとわせた槍で口を切断する。
「離れてください」
 ウォーグがふわりにむかって叫んだ。が、ふわりは離れない。ねだるように腰を振り続けている。
「あっ」
 ウォーグは呻いた。その身に蔓が巻き付いたからだ。バキバキと異音が響いた。
 その時だ。ユーディットのサーヴァントであるライドキャリバーが地を走った。炎をまとわせ、蔓に激突、引きちぎった。
「くっ」
 解放されたウォーグは跳び退った。邪神の眷属と距離をとる。
「へえ」
 感心したのはラトゥーニだ。がんばれとばかりにリリにひらひらと手を振る。
 すると仕方ないとばかりにリリはエクトプラズムで斧を作り出した。躍りかかると、オグン・ソード・ミリシャの本体に切りつける。
 悪夢もまた痛みを感じるのであろうか。身悶えすると、オグン・ソード・ミリシャは蔓を鞭のようにしならせ、リリに叩きつけた。
「グラビティ以外じゃ死なないっていっても、知らない世界で数日は中々難儀な物だね……」
 さすがに利香は己の疲労を感得した。そして恐怖した。オグン・ソード・ミリシャの強靭さに。
「でも見つかったからには……やるっきゃないよね!」
 利香は素早くオグン・ソード・ミリシャを目で走査。傷を確認すると刃を舞わせて迫った。傷口をさらにえぐるように妖刀『供羅夢』の刃を薙ぎ下ろす。
 再びオグン・ソード・ミリシャは身悶えた。その震えが伝わり、地もまた鳴動する。
 否。震えているのではない。地は蠢いているのだ。邪神の眷属を中心に現れた無数の蔓は四方に伸びて戦場を侵した。
 咄嗟にケルベロスたちは跳んだ。が、遅い。蔓の大群は大波の如くケルベロスたちに押し寄せる。
「ノブレス・トレーズが一騎、山吹のウォーグ! 参る!」
 名乗りをあげると、ウォーグは跳んだ。飛鳥のように緑の海から脱する。
 その跳躍高度は十メートル以上であったろう。遥か高みから舞い降りると、ウォーグは邪神眷属に騎の御旗・聖斧形態――ルーンアックスを思い切り叩き付けた。
「ふわりさん」
 舞い降りると、ウォーグはふわりの腕を掴んだ。
「しっかりしてください」
 告げると、ふわりの腕をつかんだまま、ウォーグは走った。名残惜しそうにふわりがひかれていく。
「あれ、なのー」
 ふわりが正気にもどったのはすぐであった。そして気づいた。自身のあられもない格好に。
 衣服の前ははだけられ、小ぶりだが形のよい乳房が露わとなっている。ぴんと勃つったピンク色の乳首が上をむいていた。さらに脱いだ下着が足首にからみついている。
「ふわり、おかしくなってたのー」
 何事もなかったかのように笑うと、ふわりは助けてくれたウォーグに抱きついた。
「ふわりが全部癒してあげるの……痛いのも苦しいのも全部、今は忘れちゃって良いの。ふわりが愛してあげる、忘れさせてあげるの……」
 ふわりはの蕾のように愛らしい唇がウォーグのそれを塞いだ。驚いて目を丸くするウォーグであるが、かまわずふわりは彼女の唇を割り、舌を差し入れる。手は優しくウォーグの全身を撫でた。
 これはふわりの治癒行為。そうとわかってはいても、やはりウォーグは慣れることはできなかった。恐る恐るといった様子で舌をからませる。


 オグン・ソード・ミリシャの振る舞いは傍若無人で、一片の容赦無くケルベロスたちを攻め立てた。それは、やはりどこか狂気じめている。
 この敵が最後。陽葉はそう見極めていた。が、ゲートまで帰還するまでにあらたな敵と遭遇する可能性もある。全力をだしきるわけにもいかなかった。
「やるしかない。待っててよね」
 転がるたくさんの宝玉を見やり、陽葉は全身を覆うオウガメタルを形状変化させた。するすると動いたそれは凶猛な姿を形作る。鬼だ。
 鋼の鬼をまとった陽葉は、鋼の拳を音の壁ごと破る速度でオグン・ソード・ミリシャに叩きつけた。威力は絶大。打撃は邪体を貫き、向こう側が見える程の大穴を穿った。
 その時である。邪神眷属が身悶えした。
 苦悶か、
 違う、と判断したエストレイアが跳んだ。空に舞うエストレイアの眼下、蔓に飲み込まれるケルベロスたちの姿が見えた。
 飛び降りざま、エストレイアは地に第二星厄剣アスティリオの剣先を地に突き立てた。するすると守護星座を描く。
 すると守護星座が光った。ケルベロスたちに星の力をやどす。
 次の瞬間、二つの影が空を舞った。傷を修復させたユーディットとランサーである。
 空を舞った姿勢のまま、ユーディットはバスターライフルをかまえた。
 その事実に気づいたか。邪神眷属は蔓を鞭のように疾らせた。
 が、ユーディットはバスターライフルをかまえたままだ。唸る旋風をたくみに躱しつつ、ポイント。トリガーをしぼる。
 銃口から青白く凍てついた閃光が迸りでた。
 直撃。着弾した箇所が急速に凍りついていく。余波は吹雪と化して辺りを席巻、極圏の風景を現出させた。
「邪神の眷属よ。死すべき時はきた」
 オグン・ソード・ミリシャの凍りついた箇所を見つめ、ランサーは告げた。そして、ゆっくりとランサーの長槍をかまえる。
「我が剣よ。伝説の竜殺しの魔剣となりて、我に勝利をもたらせ。斬り裂け、伝説の竜殺しの魔剣(バルムンク)!」
 槍使いの大英雄に憧れを抱いた彼もまた英雄であった。放たれた槍は流星と化して空を裂く。光の亀裂を刻みつつ疾ったそれは、狙い誤ることなく邪神眷属の凍てついた箇所を貫いた。
 無音の咆哮。脳に直接ひびく呪詛に、さすがのケルベロスたちも頭を抱えた。そして――。
 舞い散る氷の砕片の中、オグン・ソード・ミリシャは溶解し、汚泥へと還っていった。


 ケルベロスたちは疲労した身体を引きずりながら残された宝玉――コギトエルゴスム化したオウガたちを拾い集めた。
「オウガの方々は、大切なものを護ろうとしたんですよね」
 ぽつりとエストレイアはつぶやいた。
「それを護る戦いにいなかった事は、仕方がないのかもですけど、それでも少し、悲しいです」
「そうだな」
 うなずくと、ユーディットは目を細めて遠くを眺めた。空はまだ暗く、荒れている。
「いつか日かわからないが、デウスエクスがいなくなったこの星の真の姿を、見てみたいものだ」
「そんな日が……この星を取り戻せる時が来るのでしょうか」
「来るさ、必ずな」
 いいや、とランサーは続けた。
「つくるんだ、俺たちの手で。さて、帰るか。皆が待っている」
 いうと、ランサーはゲートにむかって歩み始めた。

作者:紫村雪乃 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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