オグン・ソード・ミリシャ~惑星『プラブータ』突入戦

作者:秋津透

「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 宇宙のどこか、惑星『プラブータ』の一隅。
 全長三十メートルほどもある巨大な蔓の塊が、おぞましい声で喚きながら暴れまわる。一見、巨大化した攻性植物のようだが、そうではない。それは邪神「オグン・ソード」の子供とされる「オグン・ソード・ミリシャ」であり、たいていの生物は一目見ただけで発狂してしまうほどの、非常に冒涜的な姿をしている。
 そして、八人ほどの戦士が、「オグン・ソード・ミリシャ」と激闘を繰り広げている。彼らは一見人間のようだが、全身あちこちから角が生えている。彼らはオウガ、凄まじい腕力を誇るデウスエクスであり、「オグン・ソード・ミリシャ」の冒涜的な姿を目にしても、簡単に発狂したりはしない。
「オウガ・クラッシャー・バーンチ!」
「オウガ・バーニング・タイフーン!」
「オウガ・ライトニング・ハンマー!」
 凄まじい破壊力を誇る必殺技の名が続けざまに怒号され、「オグン・ソード・ミリシャ」の蔓が次々に破壊される。一方、「オグン・ソード・ミリシャ」も巨大な蔓を振り回し、オウガ戦士を叩きのめす。何しろ全長三十メートル級、まともに喰らった一体のオウガ戦士が、そのまま力尽き、コギトエルゴスムと化す。
「おのれ、よくも!」
 仲間を倒されても、オウガ戦士はひるまない。ますます闘志を燃やして「オグン・ソード・ミリシャ」を破壊する。やがて、三人のオウガ戦士がコギトエルゴスムと化したものの、「オグン・ソード・ミリシャ」もぐちゃぐちゃに砕かれて潰れる。
「やったぞ!」
「がっはっはっは、オウガは必ず勝つ!」
「無敵、無敵ぃ!」
 残った五人のオウガ戦士は、能天気に凱歌をあげていたが、なんと、倒したばかりの三十メートル級「オグン・ソード・ミリシャ」の死骸が周囲のグラビティ・チェインを略奪・吸収、名状しがたい冒涜的過程を経て、四十メートル級「オグン・ソード・ミリシャ」となって復活する。
「なにぃ! また出やがったか!」
「殴られ足りないか! よっしゃ、存分にやったろうじゃないか!」
「相手にとって不足なーし!」
 オウガ戦士たちは歓声をあげ、四十メートル級「オグン・ソード・ミリシャ」と激闘を始めるが、こっちは人数が減っているのに、向こうは更に巨大化している。いくらオウガ戦士の士気が折れなくても、物理的に肉体が耐えられない。
 やがて五人のオウガ戦士は、奮闘空しく全員コギトエルゴスムと化してしまった。

「えー、ステイン・カツオ(剛拳・e04948)さんが予期していたのですが、オウガの主星『プラブータ』が邪神クルウルク勢力に襲われ、オウガ戦士がほぼ全滅に近い惨状に陥っているそうです」
 ヘリオライダーの高御倉・康が、緊張と当惑の混じった表情で告げる。
「先日、岡山に出現した飢えたオウガたちは、この襲撃から逃れて地球にやってきていたのだそうです。詳しくは、新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミさんから説明をしてもらいますので、聞いてください」
 そう言って、康は傍らの美しい女性……定命化してケルベロスとなったオウガの元女神ラクシュミを紹介する。ラクシュミは、一礼して話を始めた。
「こんにちは、ラクシュミです。このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います」
 ラクシュミは心底嬉しそうに告げたが、そこで表情を引き締めて続ける。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう」
 その状態を理性があるというのか、と、内心突っ込みを入れた者もいたが、ラクシュミは真面目な顔で言葉を続ける。
「このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
 ご清聴ありがとうございました、と、ラクシュミは一礼し、康が後を続ける。
「えー、ラクシュミさんのお話の通り、コギトエルゴスム化しているオウガ達を回収して地球のグラビティで復活させると、定命化してケルベロスとなる可能性が非常に高いそうです。ですから、この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いと考えてください。また、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むかわかったものではありません。同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いは大変重要となると思います」
 そう言うと、康はプロジェクターにモザイクのかかった画像を出す。
「えー、オグン・ソード・ミリシャはドリームイーターと違って、実際にモザイクに覆われているわけではありませんが、非常に冒涜的な外見をしており、普通の人間では一見しただけで発狂しかねないんです。まさに、絵にも翔けないおぞましさ、という奴です」
 皆さんケルベロスには耐性がありますが、それでも長く見続けてると軽い錯乱状態に陥りそうになるので、気を付けてください、と康は言う。
「戦闘には影響は出ない筈ですが、おかしな行動をとってしまう場合もあるそうですので、その場合は周りの仲間がフォローして、正気に戻るよう適切な処置をしてください。また、普通のオグン・ソード・ミリシャは、体長2m程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではありませんが、中には、3~4m級や最大7m級も存在する可能性があるので、注意が必要です。オグン・ソード・ミリシャの戦闘方法は攻性植物に近いらしいですが、オークのように触手を利用した攻撃等を繰り出してくることもあるようです」

 そう言うと、康は一同を見回して告げる。
「オウガの人たちは、えー、ちょっと脳筋すぎるようですが、きっと、心強い仲間になってくれると思います。彼らを助け、いずれプラブータを奪回できれば、邪神クルウルクを復活させようという意図を挫けるのではないかと思います。敵地になっている異星への遠征は大変ではありますが、どうか、気を付けて、頑張ってください」


参加者
喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)
流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)
エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
鏡月・空(一日千秋・e04902)
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)
紅・姫(真紅の剛剣・e36394)

■リプレイ

●惑星プラブータにて
「結局のところ……オグン・ソード・ミリシャを見つけて斃して、その近くに落ちてるコギトエルゴスムを探す、という作業の繰り返しになりましたね」
 惑星プラブータで探索を始めて、もう、どのくらいになるのだろう。
 夜営中に見張りに立っているイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)が、相番の流星・清和(汎用箱型決戦兵器・e00984)に向かって、半ば独言のように告げる。
「コギトエルゴスムが落ちているのは、オグン・ソード・ミリシャの近くだけですし……街どころか、集落らしきものすら、全然見当たりませんし……」
「まあ、我々の担当区域になかっただけなのかもしれないけどね」
 何しろ、惑星一つを相手に、限られた人数で、限られた時間で、しかも徒歩で探索しようというんだから、よほど運がよくなきゃ特別な成果なんて得られないよ、と、清和は淡々と応じる。
「今回の作戦の目的は、一つでも多くのコギトエルゴスムを回収することだ。プラブータがどんな世界なのは、コギトエルゴスムからオウガさんたちが復活して、話してくれるようなら聞きゃいい。訪問が、これっきりってことはありえないしね」
「それはそうですが……」
 少々微妙な表情で、イッパイアッテナが呟く。ドワーフではあるが地球生まれの地球育ちで、初めての異世界探索に気負っていた彼と、往時の記憶はほとんどないが元ダモクレスで、他の世界から派遣されて地球を訪れた清和では、そのあたりの感覚は違って当然だろう。
 すると、その時。
 イッパイアッテナのサーヴァント、ミミックの『相箱のザラキ』が、近くにある高い岩山……というか、岩が重なった細い塔のようなものの上にあがっていたのだが、不意に飛び降りてきて、周囲をぴょんぴょんと跳ね回り始めた。
「何だろう? 何か見つけたのかな?」
 呟いて、イッパイアッテナは岩の塔を見上げる。サーヴァントならともかく、飛行できないケルベロスが普通に登ったら、おそらく崩れてしまうだろう。
 そして、今回同行しているメンバーには、飛行可能種族の者はいない。
「……他に、近くに高みはないですかね」
 そう言って、イッパイアッテナが目を転じようとしたところへ、いつの間にか現れた鏡月・空(一日千秋・e04902)が落ち着いた口調で告げる。
「壁歩きで登れるかどうか、試してみます」
「ああ、頼む。しかし、どうして起きてきたんだ?」
 訊ねる清和に、空は淡々と答える。
「胸騒ぎがしました」
 そう言うと、空は防具特性「壁歩き」を使い、慎重な足取りで岩の塔を登る。壁歩きは、自然物相手に通用するとは限らないが、空は巧みに歩調を操り、今にも崩れそうな塔の頂上に至る。
「……これは!」
 塔の頂上で周囲を見回した空は、いつになく緊張した口調で呟き、すぐさま地上へと飛び降りる。反動で塔が崩れ、岩が落下するが難なく避け、空は着地するより早く清和とイッパイアッテナに告げる。
「凄い数のオグン・ソード・ミリシャが、一団となってこちらへ近づいてきます。急いで退避しないと、危険です」
「わかった。すぐに、皆を起こそう」
 応じると同時に、清和は夜営地へと走り出した。

「だけど、何で急に、オグン・ソード・ミリシャがまとまって動き出したのかな?」
 ゲートを目指して小走りに進みながら、ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)が難しい表情で呟く。
「もちろん、本当の理由なんてわかるわけもないけど」
「そうだな。だから、最も危険な理由で推定しておくべきだろう」
 そう言って、清和が軽く肩をすくめる。
「奴らは、オウガではない敵……我々の存在を感知し、すみやかに叩き潰すために集団を組んで動き回っている。そう考えておけば、間違いない」
「やれやれ……」
 じゃあ、探索はこれにて終了ね、と、若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)が吐息をつく。
「できれば、アイテムポケットいっぱいになるまで、コギトエルゴスムを集めたかったけどなぁ」
「まあ、これで終わりというわけではないからな。危険を冒して取得数を少々増やすよりも、集めた分を確実に持ち帰ることの方が優先だ」
 応じる清和に、エルネスタ・クロイツァー(下着屋の小さな夢魔・e02216)が訊ねる。
「でも、ここまで闘ってきた孤立した小者のオグンなんちゃらは、全部確実に潰してきたじゃない? なのにどうして、わたしたちが来たこと、バレちゃったのかしら?」
「さあ、なぜだろうな。本当はバレてないのかもしれないが、奴らのコミュニケーション能力を甘く見るのは危険だと思う」
 そう言って清和は、自分の目を指さす。
「たとえば、私がアイズフォンを使って仲間と連絡を取っていても、外から見る分にはわからないだろ? 同じように、オグン・ソード・ミリシャも、外から見てもわからない伝達手段を持っているのかもしれない。最悪、テレパシーで全個体が繋がっていて、完全に情報を共有してるのかもしれないぞ?」
「……それは、怖い考えだね」
 紅・姫(真紅の剛剣・e36394)が眉を寄せ、ぼそりと呟く。
「私たちだけじゃなく、すべてのケルベロスとの戦闘経験を、種族全体で共有されてるとすると、今回はともかく、次に来た時には大苦戦する羽目になる」
「その可能性は低くないと思うが、今から次回を案じていても始まらない。まずは今回、無事に帰ることだ」
 清和が応じた時、喜屋武・波琉那(蜂淫魔の歌姫・e00313)が叫んだ。
「右前方にオグン・ソード・ミリシャ出現! 一体だけだけど、大きい!」
「7m級って奴ですね。躱しますか?」
 先頭でアリアドネの糸を手繰っているイッパイアッテナが、振り向いて訊ねる。何でおっちゃんに訊くのさ、と、思わないでもなかったが、清和は瞬時に判断して応じる。
「下手に躱すと追いつかれて、最悪、大群と挟み撃ちにされる! 突破しよう!」
「異議なし!」
 ミリムが叫びながら足を速め、イッパイアッテナを追い抜き、7m級オグン・ソード・ミリシャへと殺到する。
「気持ち悪い奴は、さっさと潰す!」
「おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!」
 意味は不明だが途轍もなく冒涜的な響きの叫びをあげ、7m級オグン・ソード・ミリシャは複数の触手を一斉に振り上げた。

●激闘連戦、邪神の子ら
「邪神を潰すには、やっぱりこれだよね!」
 言い放つと、ミリムはチェーンソー剣を振りかざし、オグン・ソード・ミリシャへと斬りかかる。細めの触手が一本、見事に斬り飛ばされたが、別の触手が横合いから繰り出され、ミリアの脇腹を手痛く打ち据える。
「くっ……!」
 眉を寄せて唸るミリムへ、めぐみがオウガ粒子を放出して治癒を行い、併せてミリアと自分を含む前衛の命中率を上げる。
 そしてめぐみのサーヴァント、ナノナノの『らぶりん』が、ミリムをハート型のバリアで包み回復させる。
「……時間はかけられませんね」
 もたもたしていると、あの大群に追いつかれてしまいます、と、唯一「大群」を実見している空が、早々とオリジナルグラビティ『業滅覇龍撃(ゴウメツハリュウゲキ)』を発動させる。
「邪神の子に、慈悲は要らないでしょう。常識的に考えて」
 呟きながら空はオグン・ソード・ミリシャの周囲を回り、猛烈な蹴りの連続攻撃を仕掛ける。二十発の蹴撃を叩き込み、最後に蒼い龍のオーラを纏った回転かかと落としを喰らわせると、オグン・ソード・ミリシャは地面にめりこむが、すぐさま触手を振り回し大地を割って動き出す。
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
「……さすがに、まだまだ元気だな」
 植物なのかどうかよくわからんが、この手のぐちゃぐちゃは燃やすに限る、と、清和がバスターフレイムを放ち、オグン・ソード・ミリシャを炎上させる。
 続いて、ゴーグルを下したイッパイアッテナが、触手がまとまっている根元へ踏み込んで一撃を見舞う。更に『相箱のザラキ』が、同じ個所に噛みつく。
「あ、あまり集中して見たくないわね……」
 微妙に視線を外しながらも、波琉那はドラゴニックハンマーを砲撃形態にして撃ち放ち、見事命中させる。
 ところが、外した視線の先に、よりにもよってというかとんでもないものを見つけてしまい、波琉那は悲鳴のような声をあげる。
「も、もう一体来たあっ! やめてーっ!」
「7m級が、二体……」
 もう、とにかく全力で急いで突破するしかないよね、と、エルネスタは縛霊手『エルのミシンハンド56.75』を構える。
「みたまさんおねがい!」
 縛霊手より御霊を載せた針を発射し、敵の急所を衝くオリジナルグラビティ『穿鵠御霊箭術(センコクゴリョウセンジュツ)』が発動。複数の触手が、一気にちぎれ飛ぶ。
「くっ、やっぱり増援が来たか……」
 敵は間違いなく情報を共有し、連携している。少しでも躊躇していたら、よってたかって袋叩きにされて全滅だ、と、シビアな呟きを漏らすと、姫はミリムに気力を送り、回復可能な分を完全治癒する。
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく! みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
 叫びながら、オグン・ソード・ミリシャは再びミリムへと触手を叩き付ける。まともに喰らった、と見えた瞬間、ナノナノ『らぶりん』が飛び込んで身代わりになる。
「らぶりん、グッドジョブ!」
 そう言って、めぐみは前衛に士気上げの爆発を送り、攻撃力を高める。この爆発には治癒効果もあるが、それでは足りなかったらしく、『らぶりん』はハート型バリアで自己治癒をする。
「頼みもしないお代わりが来てしまいましたので、一皿目はさっさと下げてもらえませんか」
 はっきり言って、もううんざりです、と言い放ち、空が超音速の拳を叩き付ける。
 そして、ここが勝負どころと判断した清和が、オリジナルグラビティ『装甲転換重量斬(ヘビィストラッシュ)』を炸裂させる。
「アーマー連結解除、攻撃形態へ強制転用! これがいま出せる最大火力!!」
 元ダモクレスのレプリカントにとっては、皮膚にも等しい装甲を転用。巨大重厚な剣を造り出し、オグン・ソード・ミリシャを真っ向から両断する。
「みりしゃ みあ おぐん そーど……!」
 致命的な痛手を受けた邪神の子の咆哮が中途で途絶え、両断された身体それぞれが煙をあげて急速に蒸発する。
「やった……!」
「気を抜かないで! 次が来ています!」
 いつになく厳しい口調で言い放ち、イッパイアッテナが新来のオグン・ソード・ミリシャへ突撃。全身を高速回転させて、触れる触手を千切り飛ばす。
 そして、続いて飛び込んだ『相箱のザラキ』は、黄金に輝く冒涜的な影を出現させる。
「な、なんだ、あれは?」
「まともに見てはいけません。あれは愚者の黄金、邪神クルウルクの影。あれで、邪神の子を魅せるのです」
 スピニングドワーフで反対側へ抜けたイッパイアッテナが、影に背を向けたままシリアスな口調で告げる。なんで一介のミミックがそんなもの出せるんだ、と、突っ込みたい者もいたようだが、突っ込むと不幸になりそうな気がして止める。
「と、とにかく、これでもくらえっ!」
 目を瞑ったまま、波琉那がケルベロスチェインを飛ばす。これまた見事に命中し、触手を二、三本まとめて吹っ飛ばす。
「……当たった?」
「いける、いけるよーっ!」
 図体がでかいし、気配もむちゃくちゃ異質だから、見なくても勘と見当だけで当たるねっ、と、身も蓋もなく言い放ち、エルネスタが『エルのミシンハンド56.75』から網状の御業を放つ。
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 二体目のオグン・ソード・ミリシャは咆哮しながら触手を振り回すが、ケルベロスたちにはかすりもしない。それどころか、自分自身を打っているようにも見える。
「まさか、愚者の黄金が効いて……」
「何でもいい! チャンスだ!」
 姫が叫び、マインドリングを剣に変えて斬りつける。触手が一本斬り飛ばされ、邪神の子はますます激しく暴れまわる……が、相変わらずケルベロスにはかすりもしない。
「……こいつ、もしかして、敵が何だかわかってない?」
「わかってるのかわかってないのかわからないけど、とにかく潰す!」
 考えるのは、あと、あと、あと! と咆哮し、ミリムがオリジナルグラビティ『緋牡丹斬り(ヒボタンギリ)』を炸裂させる。緋色の闘気を帯びたチェーンソー剣を振るって、素早く複雑な緋色の牡丹を描く斬撃を放ち、ミリムは敵を切り刻む。
「そうね、それが正解ね」
 呟いて、めぐみがオリジナルグラビティ『菌糸の牢獄(マイセリアプリズン)』を放つ。
「彼の地の友に願う、我に助力を」
 詠唱とともに、異世界から召喚された菌糸で編まれた大きな投網が、オグン・ソード・ミリシャに覆いかぶさる。複数を対象とする術なのでダメージは小さいが、麻痺を起こす力がある。
「では、再度……今度は、とどめを狙いましょうか」
 いずれにしても慈悲は不要ですね、と、淡々と言い放ち、空が再度『業滅覇龍撃(ゴウメツハリュウゲキ)』を放つ。
 二十発の連続蹴撃が、すべて中枢に深々と決まり、最後に蒼い龍のオーラを纏った回転かかと落としが炸裂すると、オグン・ソード・ミリシャの全身が粉々に砕け散った。
「やった……!」
「で、ここには、コギトエルゴスムは……」
「あるかもしれませんが、探している暇はありません! 後方から敵の大群が迫ってきていることをお忘れなく!」
 どうにか千切れずに繋がっている赤い糸をたぐって走りながら、イッパイアッテナが言い放つ。
 そうだった、そうだった、と、ケルベロスたちは全員、ゲートに向かって一目散に、異星の大地を疾走するのだった。

作者:秋津透 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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