おぞましい。ただひたすらにおぞましい緑が押し寄せてくる。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
およそ言葉にできない意味不明で冒涜的な鳴き声をあげ、狂気と混沌を形どった触手の群れがオウガの世界を飲み込んでいく。
「まだくるか! 殺せ!」
神ならざる者が凝視すれば一瞬で正気を失いかねない大敵、だが抗うオウガたちもまたデウスエクス。
「オーガー!」
あるものは拳で、あるものは剣で、鈍器で、ありとあらゆる手段で押し寄せる触手の海を殴り、千切り、身を削って蹴散らしていく。
身の丈30メートルはある冒涜的な触手が瞬く間に解体されていく様は、恐怖を振り払う魂のように爽快であり、また同様に狂気的であった。
「やったか……!」
「いやまだだ!」
そして狂気はまだ終わらない。オウガたちの不幸はその拳であり、退くことを知らぬ心であった。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
辺り一面に散らばった狂気と混沌が集結する。世界より命たるグラビティ・チェインを略奪し、より強大に、冒涜的に。
傷ついたオウガたちの前、再び触手が形を取る。二回り、三回りと巨大となった力が挑みかかるオウガたちを蹴散らしていく。
「オー……ガー……」
「オォ……」
蹂躙はほどなく終わり、後には狂気とオウガ戦士達のコギトエルゴスムだけが残った。
「ケルベロス、オウガ襲来の原因が分かったぞ」
リリエ・グレッツェンド(シャドウエルフのヘリオライダー・en0127)は、どこか引いた調子で説明を始めた。
事の真相はおよそステイン・カツオ(剛拳・e04948)の予感の通り……クルウルク勢力と呼ばれる新手のデウスエクスがオウガの主星『プラブータ』を襲撃、オウガたちは逃れるように地球へとやってきたという。
「ある狂気に苛まされた作家は、人類を宇宙という深淵の彼岸で遊ぶ児子に過ぎないといったが……あぁ、すまない。詳しい話は彼女がしてくれるそうだ……紹介しよう」
リリエに促され現れたのは、背と頭に角を伸ばした麗しい……オウガの女性。
「新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミさんだ」
リリエと場を変わったラクシュミは、よろしく、と微笑んだ。
こんにちは、ラクシュミです。
このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。
ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。
このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう。
「……と、そういうわけだ。ケルベロス」
再びリリエ。
「ラクシュミさんがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高い。彼らの救出は感情抜きでも有益なはずだ」
この戦いはデウスエクスでなく、同胞たるケルベロスを救出する戦いといってもいい。
なによりプラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むともしれないのだ。
「現地で戦うだろうオグン・ソード・ミリシャだが……外見は先の説明通りだ。私もあまり触れたくないのでざっくりいくぞ!」
ざっくりいったリリエの説明によれば、オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っており、攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくる。
ただし中には3~4m級や最大7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があり、それらはより強大だ。
そして注意すべき点は非常に冒涜的な外見。ケルベロスやデウスエクスなら戦闘に影響が出るほどではないが、長く見続けてると狂気に浸食され、おかしな言動をとってしまう事もあるという。
「直視しないよう見ろ、などという言葉もあるが……まぁ難しいな。錯乱状態になってしまったら、正気なものがフォローするのがいいと思う。そう長くは続かないはずだ」
ケルベロスならば耐えられる……だが逆に言えば常人は見るだけで正気を失うようなデウスエクス、邪神クルウルクと眷属。
そんな輩が地球まで押し寄せれば、どれだけの惨事になることかは想像に難くない。
「状況は危機的だが、これはチャンスでもある」
オウガたちの飛び抜けた戦闘力は先の遭遇戦でも明らかだ。この危機をかわし、救出できれば心強い仲間となってくれるだろう。
参加者 | |
---|---|
天尊・日仙丸(通販忍者・e00955) |
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983) |
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953) |
アーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895) |
霧崎・天音(星の導きを・e18738) |
マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176) |
アトリ・セトリ(スカーファーント・e21602) |
常祇内・紗重(白紗黒鉄・e40800) |
●深淵の彼岸の沖にて
探索開始から50時間強、その津波はやってきた。
「触手の出前を頼んだ覚えはござらぬが……宇宙の深淵にもネガティブオプションとは」
「映像拡大。体長10m?! ……修正する。密集陣形の3m級、個体数4。SYSTEM COMBAT MODE!」
朝のプラブータの薄闇のなか、見張り立つ天尊・日仙丸(通販忍者・e00955)の声に、マーク・ナイン(取り残された戦闘マシン・e21176)のライフル備え付けのスコープ『MN16-HAWKEYE』が、気配の主を確認する。
時おり映像が乱れるのは既に狂気を送り込まれているゆえか?
黒鋼のボディや忍び装束は『奴ら』以上に闇になじんでいるはずだが、敵の動きに迷いはない。
「最後だけに、腕によりをかけて準備したのですけどね……」
「食べ始める前でよかったよ。戻さない自信がなかった」
リリエさんも喋りたがらない訳だ、と苦言を漏らしながらアトリ・セトリ(スカーファーント・e21602)は料理セットをしまうアーニャ・シュネールイーツ(時の理を壊す者・e16895)にドライフルーツをほおった。
「腹ごしらえ。今日のも期待してる」
「今日も任せてください。キヌサヤも」
青と灰の瞳が悠然と向き合う。
アーニャの脇では相棒のウイングキャット『キヌサヤ』が、よっこらせとマーク持参の携帯コンロ『グラビティ・クッカー』を後にどかし、コイツは守ると黒翼を広げた。
緊張感とは場違いだが、先に待つ楽しみは狂気と疲労を和らげる大事なものだ。
「タコは……たこ焼きがいいなー……」
「無事乗り切れば、話も食事もできるにゃ……た、タコ?」
志穂崎・藍(蒼穹の巫女・e11953)が見返す霧崎・天音(星の導きを・e18738)の金瞳は少々危なげに揺れていたけれど、大丈夫だろう。たぶん。
「タコはおいしいけど……ここはあまり良いところじゃない。オウガの人達のためにも、狩る」
ここまでのうまく身を隠した立ち回り、こまめな休息で心身はまだ余裕がある。十分、いけるはずだ。
「唸れ、氷鱗纏う気高き龍の魂……」
氷鱗の首飾りを通したアトリのオーラが冷気を帯びて紫黒色に変化した。3m級との戦いは初めてだが、ここまでの小物相手でもオグン・ソード・ミリシャの情報は十分にそろっている。
「冥き刃に載せて命脈の刻を絶つ」
放たれる『幻葬凍刃』から、姿によらぬ素早さで邪神の眷属が散開する。捕らえられたのは出遅れた一体、だが目論見は果たした。
「この、得体の知れない感覚……ですが!」
「皆さんのココロは、必ず地球まで護ります」
声に出す確固たる自信が、正気を保つ力となる。ライフルを構えるアーニャの言葉を継ぎ、フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の宣言にアメジスト・シールド、更に随伴するアメジスト・ドローンが展開した。
薄紫の輝きに照らされた深淵からの怪物へ、フローネは巨人めいた『ジェムズ・グリッター』をコアとした決戦兵装で構え立つ。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
惑星プラブータのグラビティ・チェインを奪いつくしたおぞましき緑がうごめき、素早く展開する力場の拘束から逃れようとする。巨大化してなお2m級と遜色ない動きはフローネたちも舌を巻く。
「この大きさでこの速さは……!」
「逃しません!」
アーニャの『高性能スコープ』が散開する邪神を追尾し、フロストレーザーで狙撃。更に一体を捕捉する。だが大外にいた残りはどうするか。
「どなたか、端を!」
「任された。何もない荒野をこそこそ、退屈させられた腹いせだ!」
アーニャの声に常祇内・紗重(白紗黒鉄・e40800)が飛び出しざま駆けた。ボクスドラゴン『小鉄丸』が鋼の吐息でひるませ、噴射加速する竜金槌『鬼神太夫』の槌頭が敵を包囲へと打ち返す。
さながら同じ鬼……オウガをの名を冠した種族の逆襲だとばかり。
「助かります。私たちも……ミチェーリ、行きますよ! ―――アイズ、ベルク! “氷山”の棺で眠りなさい!」
完成した包囲に感謝し、フローネはすかさず次の段階、『Айсберг』へと移る。
蠢くオグン・ソード・ミリシャめがけ、彼女の恋人、ミチェーリ・ノルシュテイン(e02708)の残霊から叩き込まれる圧縮した冷気。おぞましい触手の怪物は一瞬、氷山と化した。
「お見事! しかるに各個撃破させていただく」
オウガメタルから『メタリックバースト』をはならせ、日仙丸は韻を組む。散開させ、各個撃破。通販も戦闘も同じ、サイズは変わろうと前例に沿えば対処はできる。
●這いずり、抗う
『みあ! みあ!』
「FIRE! FIRE! FOOOHAAA!」
ひび割れる氷山にマークは20mmガトリングガンを叩き込む。
この名状しがたきものども唯一のわかりやすさは、その撃破だ。ケルベロスに倒されたオグン・ソード・ミリシャは再生図消滅する。消滅しなければ生きているという事。
「ちょ、ストップ! ずれてる! ずれてるにゃ!」
反撃は既に始まっていた。ずれ始めるマークの照準に藍が悲鳴を上げて飛び退く。無貌の混沌が呼び起こす催眠……オグン・ソード・ミリシャの不気味さは攻撃すらも読めないことだ。
「狂気の密度も増してますね……交代します、回復を!」
「しからば通販クーリングオフの遁……螺旋掌・癒!」
フローネの大型アームが抑えたマークへ、日仙丸が癒しの螺旋を打ち込む。悪徳通販への猶予制度の通称『頭を冷やせ』『冷静になれ』は、奇縁だが狂気にも有効な処方だった。
「SYSTEM GREEN……SORRY」
「気にするな、まだぶちこまれちゃない。それより悪さをしているのは……コイツか!」
縮んで見えるマークの復帰を励まし、紗重は手甲と化した盟友『アダマント』の導きを受けて竜金槌を振り下ろした。凍結を逃れた一体めがけ、進化可能性を奪う冷気の一打が振るわれる。
「火や冷気は有効だ。このまま正攻法で」
「下ごしらえは……ぬめりを取って……叩くッ」
紗重の呼びかけへ食い気味に反応する天音。霜を帯びた触手を踏みつぶすような『獄炎斬華・恨壊』。彼女の地獄、デウスエクスの犠牲者たちの憎しみの刃を帯びた右足が執拗に踏む。
切り裂く。
踏みにじる。
「天音さん、止まって! もう倒しています!」
「っ……!」
砲声を伴うアーニャの呼び声に少女はハッと顔を上げる。流れる赤髪の横を、触手が吹き飛んだ。
「ありがとう……見えて、なかった……」
いつもの無表情だが、震えている声を天音は自覚する。自分は怒り、恐れている。
オグン・ソード・ミリシャ、得体のしれぬ怪物による犠牲を。怪物が到達した地球で起こりうる惨劇を。
「このうすらデカさが厄介だな……常に正気を疑って戦わされるのか」
「ここはまかせるにゃ。昔、ししょーに目隠しされて修行した成果で!」
自分は大丈夫だろうか? 冷や汗を書く紗重に藍はウインクし、我に策ありと片目を閉じてみせる。敢えて視界を減らし、横切るものを無心で撃つ。
グラビティではないが、武術の技としての心眼の応用だ。
「そこっ!」
いやな感触を振り払い、藍は捕らえた触手へと指を突き入れる。硬くなる手ごたえを感じつつ、突進は半身で全力回避。
オグン・ソード・ミリシャの巨体が倒れた。
「これだけ硬化したなら……よし」
スピードローダーを叩き込んだアトリは『S=Tristia』のシリンダーを回転させ、引鉄を引いたまま撃鉄を叩く。いわゆるファニング、リボルバー銃特有の連射技法だ。
「タフになっても、デカけりゃ狙いは苦労しないよ」
弾丸が無数の機動を描き、キヌサヤの羽ばたきが更に修正する。絡み合い着弾する跳弾。傷口が広がり異常が邪神の眷属を内部から蝕んでいく。
「しぶといな……止め、お願い」
「承りました。邪神であろうと、時の流れからは逃れられない……!」
なおも蠢く眷属に呆れた様子のアトリを引き継ぎ、アーニャが攻めを継いだ。アームドフォートから曲射砲撃しつつの時間干渉、停止と同時に砲口を正面に変えてガトリングガン、ライフルと共に更に連射。
「テロス・クロノス! デュアル……バーストッ」
宣言と共に時が動き出す。爆発、更に時間差で大爆発。
さしものオグン・ソード・ミリシャも、二重の全力砲撃の前にとうとう息の根を止めた。
●滅ぼし、滅ぼす
「残り一体……油断はしません。確実に仕留めます」
「まず追い詰めている感触があまりせぬのが、困りものというかでござるな」
フローネからヒールドローンの展開をバトンタッチし、日仙丸は量を減らした邪神の眷属をしかめ見る。
重力の鎖は打ち込まれているはずだし、眼力を駆使すれば命中率の変化も見える。
だがいくら情報を得てもオグン・ソード・ミリシャの動きは全く見えない。残る個体は仲間を倒されて怒っているのか、怯えているのか?
「マイペース、マイペース。押してるのは間違いないよ。わかんないなら好きにやれば大丈夫!」
言いながら放つ、藍の『殺意の瞳』。何処に視覚があるかもわからない邪神だが、蒼穹に輝く瞳で睨めばもだえ苦しみ、溶けだしていく。
それはつまり、見た目以外の中身はそう自分たちと変わらないという事だ。
「ね?」
「行動も割と単調なのが救いですね……セオリー通りいきましょう」
「承知。チルド便でお届けいたす」
藍に相槌を打つフローネに応え、続く日仙丸は『螺旋氷縛波』。
凍結の螺旋がヒールグラビティの護りを貫き、凍らせたところへフローネがアーマー肩部の『トパーズ・キャノン』アームドフォート連装砲を斉射を叩き込む。
『みりしゃ みあ! おぐん そーど!』
黄昏色の光線をさかのぼる触手がおぞましく伸びてくるが、力比べなら負けはしない。
「ブレスを!」
絡みつく前にバックパックアームで掴み、応えるボクスドラゴン『小鉄丸』のブレスに焼き切らせる。
「よし、よくやった。後は……コイツだ」
紗重の竜金槌が袖に仕込んだ『武装隠蔽装置「ソデノシタ」』へとほおりこまれれば、入れ替わりの長柄物が射出される。
ゲシュタルトグレイブ……否、両手で展開した姿は名前のまま『白兵戦用携行シャベル』だ。
元は工作用だが、こと超接近戦での使い勝手は侮れない。
『みあ! みあ!』
「GRAVITATION FIELD ON」
延びる触手をマークの『重力装甲』が鈍らせる。紗重はさかさず地を抉るようにシャベルを蹴り込み、獲物越しに『波羅尼陀那』を叩き込む。
「喝ッ!!」
『みあ! みあ! おぐん そーど……!』
狂ったように暴れ、触手が爆発する。
降魔の得た際にデウスエクスから奪った紗重の技は理力を操り、攻防に利用する。活性化させれば回復、更に打ち込めばかの敵の如く暴走、破壊……邪神の眷属には少々当てづらい技だが、念入りに状態異常で拘束されている今なら最大の火力を存分にいかせる。
「まだ動いている……イキがいい……よすぎる!」
なおも暴れまわる触手の残滓に天音は容赦なくダメ押しを叩き込んだ。もう食欲はない。
両腕のパイルバンカーを打ち込み零距離から回転、貫通すれば後には何も残らなかった。
●そして朝が来る
戦いが終わった時、気づけばすっかりと朝だった。
で、あればケルベロス……いや、人間としてやるべきことは一つ。
「みなさん、温まりましたよー」
「ここで汁物とはまさしく地獄に仏……いただきます」
アーニャ特製のスープをひと啜りし、日仙丸は心底ほっとしたと顔をほころばす。
残った食材と限られた時間での料理だが、料理にはうるさいアーニャ渾身の一品はちょっとしたプロ並だ。
「レーションの重要性がよくわかったよ。補給は栄養だけではないな」
「人として生きている……ってことだもんね」
神妙に語るマークに、アトリも同感だと深々と頷く。未踏の地の探索は多くの発見と成長があった。惜しむらくは、その多くは彼女の内面からのもので、プラブータに関する学術的なものではなかったが……。
「地球と、全く違うね」
「うん……何もない」
地平線までを見渡すアトリに、天音がぽつりと呟く。
これまで探索した一面の荒野は、異様なほどに人工物がなにもない。これがグラビティを奪いつくされた世界。オウガたちと同じ、死せる世界。
「ゲートの事と一緒に、ラクシュミさんに聞いてみたいね。この星がどんな世界だったか……ケルベロスなオウガにも聞けるにゃ?」
「うむ。俺もマキナクロスの事を……覚えてないな」
マークの答えにずっこける藍。まぁ彼は生い立ち上、仕方のないことかもしれない。
「この後は……予定通り?」
「ええ。コギトエルゴスムの回収も順調ですし、無理は避けましょう……帰れば、また来れます」
確認する天音に応え、フローネは紫水晶のペンダントを軽く握る。願わくば次はオウガたちと。
「この世界も、コギトエルゴスムと一緒ですね……邪神の眷属に蹂躙されましたが、まだ死に絶えたわけではないと信じます」
「あぁ。ラクシュミたちなら……ん」
紗重は言葉を切り、岩陰にちらついた光に手を伸ばす。
「それは、まさか……?」
「いや……コギトエルゴスムじゃない。ただの綺麗な石みたいだ」
先ほどのフローネの言葉を思い出して、紗重は石をポケットに拾った。人工物かわからないが、オウガの誰かの大事なものかもしれないと。
作者:のずみりん |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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