オグン・ソード・ミリシャ~狂花繚乱

作者:秋月諒

●オグン・ソード・ミリシャ
「なんと血肉湧き踊る戦場よ!」
 ぐちゃり、と切り落とした触手が跳ねた。飛び散ったのは奴の体液か、それとも己の流した血か。そのどちらであっても構いはしなかった。足元が滑ろうが、踏みとどまれば良いだけのこと。此処は、この戦場は。
「これほどの強敵と戦う為の場なのだからな」
 は、とオウガは息を吐くこぼれ落ちたのは事実愉悦であった。
「倒したら強くなるなど、ただ強敵と相見える感覚を味わい続けられるというだけのことではないか」
「ハッ、ようは強ぇやつと殴り合えるってことだろ。んな愉快なこと他にあるかよ」
 そいつが倒したら復活するってぇことは、とオウガの戦士は口の端をあげて笑った。
「復活しなくなるまでぶん殴りゃぁそれで終わり、だ!」
 見上げる程に巨大な40mのオグン・ソード・ミリシャへとオウガの拳が沈み込んだ。胴を貫き、血みどろの額をオウガの戦士が叩きつければ衝撃波に巨体が砕け散った。触手が散らばり、跳ねた破片がやがてぐちゃぐちゃと這うように絡み合い次のオグン・ソード・ミリシャを構築していく。
「おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ! みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!」
 オグン・ソード・ミリシャが身を起こす。血だまりの中を這い上がったそれは50mの巨体と化していた。感じる圧迫感は強敵の証か。血を拭うことさえ最早しないまま、オウガの戦士は斧を構えた。
「良い、良いぞ! さぁ、もう一度だ。お前が倒れ果てるまで……!」
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
 果たして、それは何度目の再生であり始まりであったのか。
 50mのオグン・ソード・ミリシャのひと薙ぎがオウガの戦士たちを、刈り取った。一瞬。それが一瞬であったと知っているのはこの戦場には存在していない。
 ひとつ前の戦いが、それが奇跡的な勝利であったことをオウガの戦士たちが知る由もなく。血みどろの戦場に8つのコギトエルゴスムがカラン、と落ちた。

●狂花繚乱
「皆様、お集まりいただきありがとうございます。ステイン・カツオ(剛拳・e04948)様が予期されていた通り、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているようです」
 レイリ・フォルティカロ(天藍のヘリオライダー・en0114)は集まったケルベロス達を見ると、先の遭遇戦について話を続けた。
「あのオウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきたようです」
 そうだ、と分かっているのは理由がある。
「詳しくは私ではなく、新たにケルベロスとなったオウガのラクシュミ様からご説明していただきます」
 どうぞよろしくお願いいたします、とレイリはラクシュミに小さく礼をした。

「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」

「ラクシュミ様がケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高いと言えます」
 この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いとも言える。
「それに、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むか分かりません」
 何よりやっぱり、分かっているのにそのままにしておく、というのも如何なものかと思うので。
 そう言ってレイリはケルベロス達を見た。
「同胞たるケルベロスを、オウガの皆様を救い、そして地球の危機を未然に防ぐという意味でもこの戦いは重要なものとなります」
 敵はオグン・ソード・ミリシャ。
 オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではないという。
「ですが、注意点があります。オグン・ソード・ミリシャの外見です。非常に冒涜的でであり、長く見続けてると狂気に陥りそうになりますのでので、気を付けてください」
 戦いには影響は出ない筈だが、軽い錯乱状況となりおかしな行動をとってしまう場合もあるのだという。
「その際は、どうか周りでもフォローするようにしてください」
 オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃などを繰り出してくる。
「基本は2m級ですが、中には、3~4m級や最大7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性もあります。注意してください」

 レイリはまっすぐに、ケルベロス達を見た。
「此処まで話を聞いてくださり、ありがとうございました。どうかオウガの皆様を救うために、皆様の力をお貸しください」
 それでいて、ちゃんと無事に戻ってきてくださいね。とレイリは言った。
「えぇ。無茶を言っている自覚はちゃぁんとありますが、無事に戻っていただきたいのも本当ですから」
 それでいて皆様ならば成せると思うのも。
「それでは行きましょう。皆様に幸運を」


参加者
立花・恵(翠の流星・e01060)
大粟・還(クッキーの人・e02487)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)
ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)
一之瀬・白(八極龍拳・e31651)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487)

■リプレイ

●異界の荒野
「宇宙なう!」
 プラス本日の夕ご飯!
 すちゃ、とスマホ片手に黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)はポーズをとった。右には夕ご飯、左には本日の荒野なのだが。
「いやぁ、見事なまでに何もないっすねー」
 そこには初日から変わらず遮るものの無い空間が広がっていた。
「……そうだな」
 もう随分と見慣れた光景に瀬戸口・灰(忘れじの・e04992)は息をついた。
 初めての異星、ゲートの向こう側。荒れ果てた土地を想像していたが、こうも想像通りというのは頭が痛い。所謂目印になるようなものが無いのだ。
「これだと正確な地図は描けないな」
 コンパスを片付けて、灰は息をつく。
 スーパーGPSもマーカーの位置も不正確となる以上、簡単には使えない。
「とりあえず進めてるってのは確かだな」
「そうだな」
 ほれ、これは今日の分だ、と鳳・小鳥(オラトリオの螺旋忍者・e35487)は胸元から栄養ドリンクを取り出した。
「疲労大敵だからな」
 異性の目など気にする様子もなく、ほいほいと取り出した彼女から受け取った先で、ごふ、と物九郎が噎せる。辛党な小鳥の出す栄養ドリンクはピリ辛味だ。
「ラクシュミがメロンパン知らなかったらしいから、あまり美味しいものは期待できないかもとは思ってたんだけど」
 ユーロ・シャルラッハロート(スカーレットデストラクション・e21365)は辺りを見渡した。
「やっぱり、広いよね」
「えぇ。まさか他の星を探索することになるとは思いませんでしたね」
 展開した巣の中、クッキーを齧りながら大粟・還(クッキーの人・e02487)は息をついた。
「何があるか分からないものです」
「まぁ、この状況で、消耗も少なく進めてるってのは順調ってことになるな」
 そう言って、立花・恵(翠の流星・e01060)は手入れを終えたリボルダーのシリンダーをはめ直す。
「今のとこそう大きな敵ともぶつかって無いしな」
 恵が構えて見た先に見えるのは代わり映えのしない空だ。
(「いつかは来ると思ってたけど、こんなに唐突に実現するとはな……。宇宙旅行? うーん、旅行って言うには、ちょっと物騒だな」)
 でもやっぱり別世界の探索っていうのはわくわくする。荒野だと言うことだって、此処に来て漸く知れたのだ。
「敵のいる場所がこの感じ、ということかもね」
 考えるようにアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は息をついた。
 隠密気流を使い、探索時先頭に立っていたアンセルムが見たのは荒野ばかりだ。こちらから敵を発見できている状況も多いの良いことだろう。ひとつ、気になったことがあるとすればーー。
「最初のコギトエルゴスムを見つけた場所。あの不自然に地形が変化は、戦いの跡だろう。残る七つを探すという意味でも戦いのあった場所を見る良さそうだよ」
「そうじゃのう。光輪足も、まだ残ってはいるが、そろそろ厳しくもなるじゃろうしな」
 一之瀬・白(八極龍拳・e31651)はそう言って、顔をあげた。
「狙いを定めて移動しつつ、退くことも考える必要が出てくるじゃろう」
「そうですね」
 頷いたアンセルムの目が一点を、見る。白の手ある丑寅まんだ。
「ハズレさえ引かなければ、食料としては優秀……んぐっ!?」
 ーーそう、ハズレこと店長の気まぐれ味を引きさえしなければ。
「……」
 ビクンビクン、と痙攣しながら白目を向いている白を横目に、アンセルムは一度、目を伏せた。その勇気に敬意を。自分では絶対にあれには手をつけない。絶対に。
「よし、明日の為にも先に見張り、行ってくるね」
 立ち上がったユーロにアンセルムが頷く。
「交代まで宜し……」
 言いかけたアンセルムが、は、と顔を上げる。うん、と頷いたのはユーロだった。さっきまでの無邪気な少女は、小さく息を吸い込みーー告げる。
「右の奥。あれは、夜空じゃない」
 夜空の色が違う。ほんの僅かな変化であったが、交代に見張りに立っていた二人には分かる。代わり映えもしない荒野だったのだ。そこに変化が起きれば『違う』と思う。
「敵だね」
 それが敵であれば尚更。
 アンセルムは小さく息を吸う。闇に紛れて近づくつもりだったのか。
「数は一体。6メートル級、というところか、地図に書くには不向きだな」
 息をついた灰にアンセルムは頷く。
「うん。それに敵の周り、地面の荒れ方がコギトエルゴスムを見つけた場所同じだよ」
 音もなく削られた大地。奇妙な平たさの理由は奴の触手が滑った故か。
 アンセルムの横、起き上がった白が頷いた。
「戦場の跡も同じとなれば、奴か。あそこで戦っていたのは」
「それにーー見つけたっすよ」
 獲物を見据えた金の瞳は、笑うように落ちた吐息と共に弧を描く。
「コギトエルゴスムっすね」
 物九郎の指差した先、鈍く光るものがある。7つ。異形に取り込まれる形で、命はそこにあった。

●捕食者
「百火、動きを止めろ!」
「!?」
 音もなく荒野を進んでいた「それ」は気がつく。己の腕を捕えたものに。己が餌として捉えていたもの達が今あの場所にいない事に。
「みあ みあ!」
 歪んだ声が、怒りに満ちる。身を起こそうとする巨体にーーだが、飛び込む影があった。
「噛み砕け」
 白だ。
 手刀の構えを取った少年は地を蹴る。キュイン、と収束した魂魄は巨大な戦斧の形状へと変わる。飛ぶように前へ、身を倒し向かう先はオグン・ソード・ミリーシャの影の中。
「咬龍の牙!」
 白の腕が、勢いよく振り下ろされた。
「キィいいい!?」
 それは先制の一撃。驚いたように、暴れる触手に白は身を横に飛ばす。
 そして夜の闇の中、敵は姿を見せた。6m級の巨体を揺らし、蠢く触手を操る。
「オグン・ソード・ミリーシャ」
 恵の声が低く、響いた。
 深い森の木々に似た胴に、無数の口を持つ異形は一気にこちらに触手を伸ばして来た。
「散開だ!」
 警戒を告げる灰の声が高く響く。巨体が踏み込んでくれば地面も揺れる。今まで遭遇した敵とは明らかにサイズも違うのだ。
「彼奴は大物、か」
 手の中、武器を落として小鳥は視線を上げる。
「しかし、先にオウガの戦士と戦ったけど……あれだけの強さを持つ者たちが破れるとは。祗園精舎の鐘の声、 諸行無常の響きあり……」
「みあ みあ!」
 狂気に満ちた声は、夜の戦場に響き渡る。は、と息を吐き、灰は言った。
「無事に帰ること。それが一番大事な目標だ。こんなどことも知れない星でくたばる訳にはいかないぜ」
 夜朱、と唇に乗せれば、翼を広げたウイングキャットがふわり、光を帯びる。
「狂気に陥ることがあれば殴ってでも目覚めさせてくれよ?」
「あぁ」
 ふ、と吐息を零すようにして恵は笑った。
「じゃぁ、行こうぜ」
「みあ おぐん そーど!」
 甲高い声と共に触手が伸びた。鞭のようにしなる一撃が狙った先は前衛だ。薙ぎ払う一撃、切りつけられたように血がし吹く。
「は、また楽しそうにしてくれるっすね……!」
 物九郎が口の中の血を吐き出すと、手にナイフを構えた。チリ、と指先、残ったのはやはり毒か。息を吐きーー灰とアンセルムは右に飛んだ。敵が動いたのだ。後ろに避けては間合いを詰められない。流した血の分、視界は歪むがーーまだ、動ける。
「回復しますよ」
 だからこそ、素早く還は告げた。藍色の髪が揺れ、癒しの光を空へと紡ぐ。解き放たれたのはオーロラに似た光であった。毒さえ払うように還の紡いだ光に、敵が動く。無数の口がこちらを向いた。
「みあ みあ!」
 叩きつけられるのは分かりやすいまでの殺意。回復手を嫌ったか。地面を叩くように巨体は身を浮かす。ーー来る、と思ったその瞬間、冷気が広がった。
「邪魔は、させないよ!」
 ユーロだ。
 少女の呼びかけに応え、顕現した氷河期の精霊が異形を凍りつかせていた。身を震わせるように巨体は氷を振り払いーーだが、踏み込むその触手に影が落ちた。
「遅い」
 夜の空に身を翻し、青年は落下の勢いから蹴りを叩き込む。着地の瞬間には敵へと銃口を向けた恵が口元に笑みを乗せた。
「ぼやぼやしてると、撃ち抜くぜ!」
 ぐらり、と巨体は揺れる。だがすぐに跳ね上がる気配を感じて小鳥は猟犬の鎖を伸ばす。
「許すと思うか?」
 鎖は触手の動きを絡め取る。締め上げれば、無数の口が不可解な鳴き声をあげた。
「キィいい!?」
 甲高い声は金属の擦れるような音であり、同時に女の叫び声のようでもあった。冒涜的な旋律に小鳥は息を吸う。血の匂いが鼻についた。
「彼奴はクラッシャーか。今までの個体とは違う」
 一撃一撃が、強力だ。ーーだが、それだけだと小鳥は思う。
「素早さで言えば、先の彼奴らの方があったからな」
 ならば答えは一つ。
 戦って倒し、コギトエルゴスムを取り戻す。それだけだ。

●饗宴に捧げよ
「みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!」
 冒涜的な鳴き声と同時に放たれた光線が、一拍の後に爆発する。衝撃と共に打ち出された音波が指先を痺れさせた。
「ーーだが」
 それだけだ、と灰は制約を払う。狙いが単体であれば、受け止めたその時は仲間の踏み込む時となる。一撃を交わし、時に受けながらもケルベロス達は戦場を駆ける。状況は悪くはない。やっかいなのは敵の齎らす狂気ではあったが、長く見なければ正気でいられる。
 叩きつける触手が砂埃を生んだ。一瞬。その一瞬でアンセルムは行く。身を、前に。地は蹴るは飛ぶように。
「キァア!?」
 間合いに落ちた影に。揺れる髪に、漸く敵は彼の到来をする。ーーだが先手を取っていたのはアンセルムの方だ。た、と触手を蹴り上げ、胴へと蹴りを叩き込む。それは影の如き視認困難な一撃。敵の影の中、己の間合いとするシャドウエルフの一撃。
「みあ みあ おぐん そーど!」
 異形が声をあげその大口が、目のようにひたりとアンセルムを見据えた。
「ーーがう、違う」
 心を落ち着かせるように人形を愛でる彼の声が、変わる。不安定さを見せるアンセルムの後ろ、ゆらり、と動く影があった。
「死なば諸とも、ボンバーっ!」
 白だ。
 握りしめているのは自爆スイッチ。あの目は狂気か。駆け出した白が向かう先はーーアンセルムだ。
「!?」
 衝撃が、戦場に生まれた。おいおい、と声を落としたのは誰であったか。
「大丈夫?」
 呆気にとられるこちらなど気にせずに、突っ込んでくる触手にユーロが一撃を叩き込む。追撃する小鳥の目の端、爆風の中、先に立ち上がったのはアンセルムだ。
「戻ったらお礼するね」
 サムズアップ。
 白へとお礼参り宣言がされる中、戦闘は加速する。弾け飛ぶ触手を蹴り飛ばし、踏み込めば身を折るようにして異形は回避を取る。そこを、埋めるようにケルベロス達は長く踏み込む、間合いを己のものとする。
「これが、オラトリオの秘術と螺旋の奥義の合わせ技……」
 胸元から取り出した黒の折り紙が、小鳥の手から飛び立つ。それは秘術により仮初めの命を得た鳥が螺旋の回廊を通り抜けーー行く。
「キィア!?」
 嘴が、剣の如く深く触手を貫いた。淡く光る明かりの果実が弾け飛び、巨体が揺れる。地面が揺れ、そのまま強引に一撃を狙う敵にユーロは踏み込む。敵の姿は長くは見続けない。でも体は前に、影を踏み、体に残る傷を無視して少女はその手に炎の剣を具現化する。
「全て焼き尽くす!この真紅の炎で!!」
 悪魔の翼が炎を生んだ。噴射する熱と共に前へ進みーーユーロは貫く。
「!?」
 ゴウ、と炎が空に抜けた。暴れる触手が焼け落ち流。みあ、と落ちる呪言に灰は息を吸う。力任せに、暴れるように振るわれた触手は接近を嫌ってか。
「悪いが、やられる気はないんでな」
 その触手に灰は触れる。踏み込みの、最後の一歩に利用して。間合いにて握る灰の拳が降魔の力を帯びた。
 ガウン、と重い音を還は聞く。
「ぷらぶーた なうぐりふ!」
「私がおかしくなったら誰が皆さん回復させるんですか……!」
 ここが勝負だ。歪む視界にクッキーを齧って、耐えると還は手を広げる。溢れるは光り輝くオウガ粒子。光は、前衛へと。
 回復は途切れさせない。
「狂気がなんだ、俺らははるばる地球からやってきてんだ!」
 恵は息を吸う。地球で待つ人を思い浮かべーー行った。全身の闘気を込めて、前へ。
「一撃をッ!ぶっ放す!!」
 叩き込む銃弾は零距離にて。触手が折れ、敵の反応よりも早く恵は後ろに飛ぶ。瞬間、銃弾は触手の中で炸裂した。
「キァアア!?」
 衝撃に傾ぐ異形へと白は刃を埋める。緩やかな斬撃は、だが確実に急所を捉えーーそのまま、巨体が地につく。
 誰一人負ける気などなく、足を止める気など無いのだ。
「みあ みあ おぐん……!?」
「出ましたわなオグン・ソード! オッケーラクシュミ様! 呪言戦でアイツに勝利すればイイんですよな!」
 咆哮と共に物九郎が飛んだ。
「十万億土の彼方まで! 根こそぎブチのめしてやりまさァ!!」
 猫の目はかつて時計代わりに用いられたという。
 短期未来を覗き込む受動性と、未来目掛けて自身を加速させる能動性を同時に発動させた物九郎は己に向かって放たれる光弾を足場として、敵へと拳を叩き込んだ。
 ゴウ、と地面を揺らし、叩き込まれた一撃に地面が揺れた。割れた地面を、飛び散った砂をかき集めるように触手が揺れる。ーーだが、そこに光が差した。
「其は、凍気纏いし儚き楔」
 青白い光が、無数の氷槍と敵は知っただろうか。魔術を展開しアンセルムは告げた。
「刹那たる汝に不滅を与えよう」
 無数の氷槍がオグン・ソード・ミリシャを突き刺しーー磔とする。ミア、と溢れた声ごと凍りつかせるように氷像がこの地を奪った異形を刈り取った。

●夜明け
「あ、ここにも一つあるっすよ」
 最後のひとつを手に、物九郎はくぅ、と背を伸ばした。
「しっかし、朝っすねー……」
 気がつけば、夜が明けていた。チリチリと痛む怪我はそれぞれにあったがーーオグン・ソード・ミリシャを相手に誰一人倒れず勝利を得たのだ。
「夕食っていうよりはもう、朝ごはんって感じだよね」
 ユーロは受け取ったコギトエルゴスムを袋の上に並べた。
「これで8つ。8人分だね」
「……ふむ、光輪足が限界じゃな。もう戻った方が良いじゃろう」
 状況を確認して戻って来た白が帰還を告げた。にこり、とアンセルムが笑みを浮かべる。お礼参りは絶賛準備中だ。
「コギトエルゴスムになったオウガは生きているが死んでいる。死ねないってのはどんな感覚か」
 一生分からない謎だ、灰は息をついて顔をあげた。
「このコギトに眠っているオウガが目覚めたら、次は地球を案内してやろうぜ」
 例えば晴れ渡った空を。青い海を。
 見慣れた夜明けが、ケルベロス達の影を大地に刻む。戻ろう、と声が重なった。
「この星の空もいつか自由に飛んでみたいものだ……」
 一度振り返り、小鳥は呟いた。
 崩壊の大地に、それでもあり続ける空に見送られるようにケルベロスたちは帰路についた。

作者:秋月諒 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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