オグン・ソード・ミリシャ~響くのは冒涜的な呼び声

作者:青葉桂都

●オウガたちの敗北
 ときの声をあげ、角を生やした鬼の戦士たちが敵に襲いかかっていた。
 敵は鬼たちよりもはるかに大きく、また異様な外見をしていたが、彼らはけして恐れることはない。
 ぬらぬらと光る異形の体は、まるで無数の触手が絡み合ってできているかのようだった。
 触手は木の枝のようでありながら、同時に肉の塊のようでもある。
 いくつかの触手の先端には、緑色に怪しく光る塊がくっついていた。おそらくは果実の類なのであろうが、むしろ緑色の鬼火とでも呼ぶ方が似合っていると感じられただろう。
 体のところどころには巨大な口が開いていて、そこから触手が舌のように伸びて自分の体に絡みついている。
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 口からは、時折意味の分からぬ鳴き声が流れ出している。それは聞く者を狂気に誘う冒涜的な響きを秘めていた。
「すげえぜ! こいつ、どんどん強くなる!」
 鬼の1人が叫んだ。敵の強さを感じ取りながらも、その声にあるのは強敵と戦える歓喜のみ。
 30m以上あるであろう異形を、鬼たちは殴り、叩き、切り裂いている。
 無論鬼たち自身も敵の攻撃で傷ついていたが、誰1人としてひるむことなく、やがて異形はぼろぼろの残骸と化した。
 だが、鬼たちに休むことは許されなかった。
 異形の残骸は絡み合い、ねじくれながら集まり、そして先ほどよりもさらに大きな姿となって立ち上がったのだ。
「また復活したぜ! まだ戦える!」
「よーし、復活しなくなるまで何度でもぶっ壊してやるぜ!」
 傷だらけでありながらも気勢を上げて敵へ殴りかかる鬼たち。しかし、敵はまるで無限のような体力の持主であり、そして鬼たちはそうではない。
 40m近い大きさと化した異形に鬼たちは捕らわれ、薙ぎ払われ、1人、また1人と宝石――コギトエルゴスムに変えられていった。

●ラクシュミからの依頼
 ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していた通り、邪神クルウルクの勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃しているようだ。
 集まったケルベロスたちに、石田・芹架(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0117)はまずそのことを告げた。
「オウガの戦士たちが蹂躙されている状態です。先日岡山に出現したオウガは襲撃から逃れて地球にやってきていたようですね」
 まずはケルベロスとなった女神ラクシュミからの説明を聞いて欲しいと彼女は告げる。
 芹架にかわって、先日までオウガの女神であった女性が進み出た。
「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
 ラクシュミが説明を終えると、芹架がまた口を開いた。
「コギトエルゴスムと化したオウガたちは、ラクシュミさん同様にケルベロスとなってくれる可能性は非常に高いものと判断できます」
 デウスエクスがデウスエクスに倒されるのなら気にする必要はないが、彼らがケルベロスの同胞となるのなら話は別だと彼女は告げる。
 それに、プラブータを邪神クルウルク勢力に制圧されたままにしておいて、邪神に復活されるのも困る。
「地球の危機を未然に防ぐ意味でも重要な作戦となります」
 オグン・ソード・ミリシャの大半は、体長2mほどの初期状態に戻っており、強敵ではないらしい。
 ただ、外見は非常に冒涜的で、長く見続けているとケルベロスでも軽い狂気に陥る可能性があるため注意が必要だ。
 戦闘に影響があるほどではないものの、軽い錯乱状態になっておかしな行動をとってしまうことがある。回りの者がフォローしたほうがいいだろう。
「オグン・ソード・ミリシャは攻性植物に似た攻撃と、触手による攻撃を行います」
 2mクラスが大半だが、中には3、4m級から最大7m級の強敵が混ざっている可能性もある。それに2m級でも群れをなしていれば危険な敵となりうるだろう。
「地球を直接守る戦いではありませんが、オウガを味方に引き入れ、邪神クルウルクの勢力拡大を防ぐことは、今後の戦いのために役立つことでしょう」
 どうかよろしくお願いしますと芹架は頭を下げた。


参加者
月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)
九石・纏(鉄屑人形・e00167)
生明・穣(月草之青・e00256)
ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)

■リプレイ

●野営地の朝
 窪地に潜んで迎えた3日目の朝は、まだ平穏に訪れてくれた。
 起き出してきた者たちと、見張りのために起きていた者たちが朝の挨拶を軽く交わす。
「今日もコギトエルゴスムが見つかるといいな。だいぶ集まってきてるぜ」
 アイテムポケットの中にしまってある宝石を確かめながら、月宮・朔耶(天狼の黒魔女・e00132)が言った。
 ケルベロスたちの探索は、これまでのところ、おおむねうまく行っていたと言っていいだろう。大きな負傷も受けず、コギトエルゴスムを見つけることができていた。
 もっとも、大きな傷を負っていないのは、多数の敵との戦いを避けたおかげもある。
「ああ。……まだ探索していないのはこちらのほうだな」
 顔を上げずに相槌を打ち、ヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)は自分で作った地図に目を落としていた。
 残念ながらラクシュミから役に立つ情報は得られなかった。遥か昔の記憶のみで、しかも必要な場所や範囲が特定できない地図を描くのはちょっと無理がある。
 それに探すものは先日まで生きていたオウガたち。どこに動いていたっておかしくないのだから、過去の目印は結局あまり意味がなかった。
「こちらには荒野が広がっていますから、よさそうですね。なにかの痕跡がある場所はほぼ空振りで、オグン・ソード・ミリシャを倒した後に見つかることが多いですから」
 地図を覗き込んだ生明・穣(月草之青・e00256)が顔を上げ、軽く眼鏡を直した。
「そうだねー、がんばっていろいろ除けたんだけどなあ」
 ルア・エレジア(まいにち通常運行・e01994)はいつも通り笑顔だが、声がちょっとだけ乾いていた。
 これまでの探索では、なにもない荒野の真ん中にオグン・ソード・ミリシャがいて、倒した後にコギトエルゴスムが見つかるというパターンばかりだったのだ。
「逆にオグン・ソードが荒野を作ってるのかも。なにか名状しがたい力で」
 無表情に名状しがたい身振りを交えて、ノーザンライト・ゴーストセイン(ヤンデレ魔女・e05320)が言った。手にしたスマホに女性の画像が映っているのがチラリと見える。
「それ、冗談になってない可能性もあるよな」
 九石・纏(鉄屑人形・e00167)が静かな声を発した。
「あいつらなんなのかよくわからねぇもんな。できれば、オグン・ソードのゲートもついでに探せたらよかったんだけど」
 神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)が天を仰いだ。
「オグン・ソードがゲートでここに来やがったんなら、大本を破壊できりゃプラブータのゲートを閉じる必要ねぇよな?」
 誰にともなく問いかける。
「オウガの奴らも戦い好きの面白れぇ奴らだし、故郷へのゲートは残してやりてぇな」
 もっとも、ゲートがあるなら敵の重要な拠点だ。コギトエルゴスム探索のついでに見つかるような場所にあるとは考えにくい。
「とりあえず、気になる場所は写真に撮ってあります。帰ったら腰を落ち着けて調べてみましょう」
 穰がサキュバスちゅっちゅフォンM+を軽く振ってみせた。
「団員の奴らに見せてやるのに、俺もいろいろ撮ってるんだ。調べるなら送るぜ」
 煉の言葉に穣が頷いた。
「気になることは多いけど、まずはコギトエルゴスムだよね。俺、ちょっと今回は真面目にがんばるつもりなんだ。今日もしっかりやるよ」
 ルアが立ち上がる。
「……あ、なんか語弊があるかも。俺はいつも真面目にがんばってるけど、いつも以上にってことだよ」
 言い訳がましいことを言う彼の前に、栄養ドリンクが差し出された。
「大丈夫ですよ、頼りにしていますから」
 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)は、すらりとしたその胸元からドリンクを取り出して仲間たちに配っていく。
 3匹の犬をかたどったケルベロスおにぎりは初日に仲間たちの好評を博したが、3日目の食事はさすがに味気ないものだ。
 配っているうちに、鈴はスマホをじっと見ているノーザンライトに気付いた。
「寂しくて死にそう……帰ったら、キスしなきゃ。ハァハァ」
 恋人の動画を見ているようだ。昨日も見ていた気がする。よほど寂しいのだろう。
 とはいえ、そうやって想う相手がいることは、少しだけうらやましい。
「ノーザンさん恋人いるんだ。いいなぁ……」
「……いや姉ちゃん。ありゃ狂気に侵されてねぇか?」
 画面にキスしようとする様を見て、煉が言った。
「帰ったら結k……危ない、フラグぞな。鈴と煉こそ、恋愛どうなの?」
 フラグを立てかけたところで、我に返ったノーザンライトが青い髪の姉弟に問う。
「うーん、今のところはまだ……レンちゃんは?」
「は? い、いねぇよ。恋愛なんてしてる暇があったら、俺はもっと強くならなきゃいけねぇんだから。親父みたいにな!」
 姉に話を振られ、煉はそっぽを向いた。頬が少しだけ赤らんでいるのは光の加減か。
「ま、とりあえずやれるところまで頑張ってこう。結局は、それが自分のためになるんだからな」
 纏が告げる。
 言葉を交わしながら、ケルベロスたちは野営地から出発の準備を始める。
 今日は激戦を避けられないかもしれない。そう、考えながら。

●強敵との遭遇
 アリアドネの糸を伸ばしながら3日目の探索を始めてすぐ、ケルベロスたちは1体のオグン・ソード・ミリシャを発見した。
 先行させていた朔耶のオルトロスが一声吠える。
「3m級が1体……か?」
「いや、近くにもう2体……いや、3体いる」
 義理の妹である朔耶の言葉に、ヴォルフは首を横に振った。
「一番遠い敵は、他よりもっと大きいように見えますね。できるなら戦闘を避けたい数ではありますが……」
 双眼鏡を目に当てながら、穣が言った。
「けど、敵の周りにコギトエルゴスムがあるんなら、見逃すわけにはいかねぇよな」
「大丈夫。これまで通り、私の大活躍で粉砕して進むの」
 煉の言葉を、本気とも冗談ともつかない調子でノーザンライトが継いだ。
「なんとかなるんじゃない。ここにいるみんなが頼りになることはわかってるからさ」
 ルアが言った。
 仲間たちが頷く。
 敵はすでにこちらに気づいているだろうか。
 できれば奇襲したいところだったが、荒野の真ん中にいる相手ではなかなか難しい。
 戦うことを決めた瞬間、ヴォルフが偃月刀とナイフを手に敵へと加速した。
 他の者たちも彼に続いてオグン・ソード・ミリシャへと接近する。
「みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!」
 遠目にも異様なその敵の体に、一つ目がついた花が咲いた。
 目が激しく輝いて、ヴォルフへと光線を放つ。
 だが、穣のウイングキャットである藍華が主の頭から飛び降り、代わりに受けた。
「その調子だよ。みんなを守りながら、翼で邪気を祓ってくれ」
 藍華に声をかけながら、自身も攻撃のために身構える。
 近くにいたオグン・ソードもすでに動き出している。
 絡み合いながら蠢く触手の姿は、何度見ても嫌悪を呼び起こす。
「台詞だけは可愛いのに……」
 朔耶は手にした攻性植物に黄金の果実を実らせる。
 対峙している敵がこの武器と同類だと言うことがまるで信じられない。
 果実からあふれ出た光が仲間たちを守護する。
 光を浴びながら、まず稲妻を纏った槍でヴォルフがもっとも近くにいた敵を貫く。
 そこに、3体の敵が接近してきた。
「義兄、みんなも! 敵が近づいてきているぜ!」
 それ自体が意思を持つ生き物であるかのように伸びた触手が、ヴォルフと煉を襲う。
 煉が守りを固めて自身へ向けられた2発の攻撃を防ぎ、ヴォルフへの攻撃は鈴のサーヴァントであるボクスドラゴンのリュガが防いだ。
 集まってきたところで、他の仲間たちもまとめて攻撃をしかける。
 穣は黒藍の縛霊手を振り上げた。
「そのかそけき光り身を蝕む死の色に染む」
 敵は集まっているが、けして協力して敵を排除しようとしているわけではないらしい。
 どの敵も、ただケルベロスたちに接近して打撃を与えようとしている。
 だが、まとめて攻撃するにはちょうどいい。
 縛霊手を装備した腕を、穣は斜め下へと振り下ろす。
 打撃を当てるには遠い間合い――けれど、打撃を当てることは穣の目的ではない。
 オグン・ソード・ミリシャたちの体に青白い光が生じた。
 巻き起こした風が触れた場所から、神経毒が敵を蝕んでいるのだ。
 纏が高速回転する刃を持つ槍を、さらに嵐のごとく頭上で回転させながら敵の間を駆け抜け、足を止める。
 そこにさらに2つの魔法が敵へと襲いかかる。
「邪竜よ、その目を開け。真紅の眼差し以って、我が敵どもを狂気の闇に叩き落せ」
 ノーザンライトの詠唱によって単眼の邪竜が姿を現す。その赤き瞳が開き、狂気をもたらす敵へと逆に狂気を与えた。
 一瞬高まったオグン・ソードの鳴き声を、ルアの召喚した氷河期の精霊が凍らせる。
 鈴は、仲間たちが攻撃している間に、防御を固めていた。
「敵を倒しながら進まなきゃいけないなら、なおさら守りを固めるのが重要だよ」
「言われなくてもわかってるさ、姉ちゃん」
 前衛で守りを固める煉に声をかけると、彼女はオラトリオの秘技を発動させる。
「空間に咲く氷の花盾……皆を守ってっ!」
「炎よ 全てを遮る盾となれ!」
 青い髪をした姉弟の声が重なる。
 鈴の技は敵の攻撃を凍結させる空間を作り出していた。周りにいる者たちには、まるで氷の盾が現れたかのごとく見えたことだろう。
 次の瞬間、透明感のある氷盾を、蒼い炎が照らしていた。
 地獄化した煉の右腕から生み出されたものだ。蒼焔は壁となって仲間たちを守る。
 氷と炎、二重の守りに防がれながら、ケルベロスたちは攻撃を続けていく。

●狂気の終焉
 最初、もっとも近くにいた1体は、数分とかからずに限界へ達していた。
「もうそろそろ終わりだな。何処まで逃げてくれますか?」
 ヴォルフは弱った敵へと大型のシースナイフを投げつける。
 敵は蠢き、逃げようとしたが、刃はどこまでも敵を追い詰め、突き刺さる。
 深々と刺さった刃の柄をつかんで、ヴォルフはオグン・ソード・ミリシャへとさらに切りつけようとする。
 ……足に刺すような痛みを感じ、彼は顔を上げた。
 リュガが噛みついている。
「大丈夫か、義兄?」
 義妹の声を聞き、すでに死んだ敵を斬ろうとしたことに、ヴォルフは気づいた。
「狂気に飲み込まれかけた、ということか。……もう問題ない。次は、ちゃんと生きている方を殺す」
 両手に刃を構えなおした彼は、もう敵の死体には一瞥もくれなかった。
 戦闘では圧倒しているが、少しずつ仲間たちの心に狂気が入り込んでいるようだ。
 ノーザンライトは仲間たちに呼びかける。
「ほかのみんなも。心を強く持って。地球の景色を、思い出すの。……そう、例えば恋人の顔を思い浮かべたり……」
「ノーザンさんも正気に戻ってください!」
「……はっ。甘い記憶にトリップしかけた。これも狂気のせい」
 軽く頭を振り、魔女は次に弱っている1体へ目を向ける。
「殺さなきゃ……オークより気持ち悪いし」
 できれば殺したくないと感じる敵との戦いも最近よく経験しているが、このオグン・ソード・ミリシャは無理だ。紅の契約のナイフで容赦なくジグザグに切り刻む。
 地獄の炎を纏い、狼の牙に似た姿となった剣を振り回し、煉が敵の攻撃を引き付ける。
 サーヴァントたちがかばってうまくダメージを分散させて、鈴が徹底して回復を続けながら、ケルベロスたちは敵の体力を削っていく。
 2体目の敵を倒すのには、1体目ほど時間がかからないように思えた。
 毒やトラウマ、氷や炎が敵の体力を削っていたからだ。
 ルアはよく伸びる輪ゴムを指に引っ掛けた。
「俺も当たったことあるけど、地味に痛いんだよね~。今度はアンタに当ててあげるね♪」
 ただの輪ゴムでも、グラビティを込めればデウスエクスに通じる武器となる。
 バチン、と痛そうな音が響いた。
 敵をさいなみ、あるいは弱体化させる効果が、痛みによってさらに強化される。
 数分後、朔耶の使い魔による攻撃が2体目、ノーザンライトの石化の術が3体目を、それぞれ打ち砕いていた。
 纏は仲間が敵に止めを刺している間に、もっとも大きな最後の1体を狙っていた。
「こいつで……」
 武器の代わりに自作の散弾銃を抜き、近距離から銃口を向ける。
 すでに動きが鈍っている敵に散弾が直撃し、痛打を与えてさらに動きを鈍らせる。
 足の止まった敵に、ルアのオウガメタルが表皮を破って防御力を低下させた。そこにケルベロスたちの攻撃が集中する。
 弱っていく敵が、大きく口を開いた。
「みあ みあ!」
 ノーザンライトへと襲いかかる牙の前に、マフラーをなびかせて少年が走りこむ。
 煉は棍で牙を受け止めようとしたが、防げたのは一部だけだった。
 いくつかの牙が彼へ毒を注ぎ込む……だが、仲間たちの支援のおかげで毒はすぐに体の中で霧散していったようだ。
「フラグの回収なんざ、絶対にさせる気はねぇんだよ」
 少年の左右から、朔耶のコキンメフクロウとヴォルフの偃月刀が敵を捉える。
 翼持つ姉の指輪が盾を形成して、煉を守ってくれた。
 なおも噛みつこうとする牙をさばきつつ、彼は棍の一撃を加える。
 のけぞったところに、穣が踏み込んだ。
「これ以上のダメージは遠慮させていただきます。まだ探索は続きますので」
 将来を感じさせる動きで、スマホを握った拳を叩き込むと、4体目も動かなくなった。

●探索は続く
 戦いは終わった。けれど、探索は終わりではない。
 自身の手当てを終えたヴォルフは周囲を観察し、黙々と地図の続きを書き込んでいる。
「レンちゃん、かなりダメージをくらっちゃったね……」
「ま、まだ撤退するほどじゃねぇさ」
 鈴に声をかけられて、煉が強気に応じる。
「心霊手術、するかどうか検討してもいいかも」
 ノーザンライトが言った。回復の技が使えなくなるのであまり良い選択肢ではないが、それでもやらなければならない場合もある。
「とりあえず、休めるうちに休んでおきなよ。頼りにしてるから、無理しちゃだめだよ」
 ルアも煉へと声をかけた。
 検討しつつも、手当てを終えた彼らは周囲の探索を始めた。
「コギトエルゴスム、あったか?」
「ええ。やはり、集めるには敵を倒すのが一番の近道みたいですね」
 発見した宝石を手に、穣が朔耶へと近づいていく。
 4体それぞれが元いたあたりで、他の者たちも見つけたようだった。
「定命化したら、オウガさんたちもお腹いっぱい食べてくださいね」
「それに、何時か此処も元通りに出来ると良いね」
 鈴や穣はオウガたちに声をかけてから、朔耶へと預ける。
「次はまた別の敵探しか……ま、これも後々の面倒を軽くするためなら良いさ」
 纏が呟く。
 広大なプラブータで、オウガたちを見つける探索は、まだしばらく続くようだった。

作者:青葉桂都 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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