スシ食わねェ!!!!!

作者:狐路ユッカ

●なんでお米つけんの!
「寿司なんぞ許すなぁあああ!」
 朝。仕込みを始めている寿司屋に、いきなりそのビルシャナと4人の信者は殴りこんだ。
「ヒッ、なんだあんたら」
 大将が炊いた米を、思いっきりひっくり返してビルシャナは叫ぶ。
「貴様はバカか! こんなに良い刺身があるのにそれを米と共に握ろうとは……愚の極み!」
「寿司屋で何言ってんだお前!?」
「うるさい! 貴様は死に値する!」
 そうだそうだ! と拳を突き上げて信者達が飛び掛かる。大将は悲鳴をあげ、逃げ惑うのであった。

●おさしみ
「と……いうわけで、イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)の予想通りお刺身至上明王が現れたよ」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082) は、お寿司おいしいのにねえ、と唸った。
「信者は4名。ビルシャナ達はお昼から営業するお寿司屋さんに朝から乗り込んで大将を襲うみたいなんだ」
 信者は刺身に米がくっついているのが許せないらしい。酢飯が嫌いな人もいるらしい。とにかく寿司が許せないのだ。なんとかインパクトのある事を言って撤退させられれば良いのだが。
「ビルシャナは、酢飯をぶん投げてきたり、凍らせたお魚をぶん投げてきたり、念仏を唱えるみたい。食べ物を粗末にしちゃいけないよね」
 配下は説得できずに戦闘に突入した場合、灰皿などを手に殴り掛かってくるようだがケルベロスの敵ではないだろう。けれど、ビルシャナに当てにくくなることが考えられるのでできれば退散頂きたいところ。
「お店の中には大将しかいないから、大将を避難させたら後はビルシャナ達を何とかするだけだね。撃破した後は皆でお寿司を頂いてくるのもいいんじゃないかな?」
 祈里はいいなあ、僕もお寿司行きたいなあ、なんてのんきな事を言いかけて、ハッとして首を横に振った。
「いやごめん、大事なお仕事だからね。くれぐれも気をつけて。それじゃあ、いってらっしゃい」


参加者
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)
イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)
上里・もも(遍く照らせ・e08616)
鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)
ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)
鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)

■リプレイ


「寿司! 撲滅!」
 騒ぎ立てるビルシャナの背後で、イルルヤンカシュ・ロンヴァルディア(白金の蛇・e24537)が高らかに叫んだ。
「刺身にコメがついてるのが許せないだとぅ!? その考え絶対に許せないね!」
「貴様の考えなど知ったことか―ッ!」
 信者がギャアギャアと騒ぎ立てる。
「お寿司はお魚のたんぱく質に加えて、シャリの炭水化物で効率よく栄養が摂れる昔からあるファストフードなんですよ~、お刺身だけでおなか一杯になるのでしたら大変じゃないでしょうか~?」
 鮫洲・紗羅沙(ふわふわ銀狐巫女さん・e40779)は、首を傾げ、そして続けた。
「それに皆さんは大事な事を見落としていませんか?」
「な、何を見落としていると……」
「お寿司がお魚を美味しく食べる為に工夫された食べ物だという事、それを否定する事はお魚を否定することではありませんか?」
「え……?」
「それを聞いてたらお寿司食べたくなってきたね! やっぱり、お魚を美味しく食べる食べ方のひとつだよね!」
 鮫洲・蓮華(ぽかちゃん先生の助手・e09420)は紗羅沙の話を聞きながら、既にお寿司を食べ始めていた。つやっつやのネタにシャリ。幸せそうに食べるものだから、やたらと美味しそうに見える。
「だ、騙されんぞ! 俺たちは騙さ……」
「お前たちが日ごろ刺身を始め! 肉や野菜! それと一緒に食べてる其れは何だ!」
 ずびし、と人差し指を突き付けるイルルヤンカシュ。
「え」
「米、コメ、こめ! 米だ!」
 高らかに連呼される米という言葉に信者はうっと言葉を詰まらせた。
「かつ丼、親子丼、中華丼数ある中で米と一緒に食べる食べ物はいくらでもある! 何故寿司だけが存在を否定されなければならないのか!」
「だってお刺身が……」
 有無を言わせぬ勢いだった。
「否、否である! 寿司を否定するというのなら米と一緒に食べることそのものを否定されなければならない! それをわかるんだよ!」
 ビルシャナもびっくりのハイパー演説に信者はぽかんと口をまあるく開けている。それでも許せぬという信者に、
「……では皆さんはいつもお刺身を食べるとき、主食に何を食べているのですか」
 イルヴァ・セリアン(あけいろの葬雪花・e04389)が問うた。
「まさかパンとお刺身というわけではないですよね?」
「そ、そりゃそうだけど……」
 信者の目が泳ぐ。
「そう、和食にはお米が欠かせないということを皆さんは既に知っているのでは?」
 イルヴァがにっこりとほほ笑むと、信者は口を噤んだ。
「おいっ、お前らどうした!」
 ビルシャナが焦りの色を見せる。
「お祝いの時に食べるちらし寿司、とかもお魚とご飯を一緒に食べますよね」
「で、ですよね」
 信者の1人が頷いた。
「美味しいお魚とご飯を一緒に食べる料理は皆さんの生活や日本の歴史に深く根付いているはず。ね、だから理解できない、と言わずに……少しだけ、触れあってみませんか」
 スッと差し出されたお寿司を、信者が受け取った。
「あああああーっ!」
 ビルシャナは流された信者を見て震えている。
「美味しいかも……ぅわなにこの鳥」
 洗脳が解けた男は、さっさとこの場を去ってしまったのだった。


「普通のご飯とお刺身一緒に食べたりした事あるよね? 酢飯じゃないだけで、ほぼお寿司じゃん。普段からご飯とご飯のお供の美味しいおかず、一緒に食べてるよね。お刺身と酢飯合わせてるのと変わらないよね」
 ルリカ・ラディウス(破嬢・e11150)がそう問うと、信者の1人がハッとしたような顔をして反論した。
「いいや、違う! 酢飯……あいつが良くない! あいつがダメなんだ!」
「酢飯が嫌いっていうけど、これもお寿司ってよく考えられてるな~って思うんだけど、防腐とかそういう効果だし、すご~く考えられてるよね!」
 蓮華がそう言うも、信者はぶんぶんと首を振る。
「あの味が嫌」
 そんなやり取りをしているうちに、アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)はサラッと店の奥に入り、大将を裏口から避難させた。
「そうだ、大将。酢飯を少し貰っても良い?」
 快諾した大将に、にこりと微笑んでアウィスは踵を返し店へ。
「待っててね、今お店解放してくる」
「ああ、ありがとうな!」
 酢飯嫌いの信者がギャアギャア言うのを、ちょっと待てと言わんばかりに上里・もも(遍く照らせ・e08616)が止める。
「冷えたご飯って食べたことある?」
 あるある、うっかり炊飯器の保温切っちゃうと冷たくなるよね、と信者が頷く。
「硬くてさ、美味しくないんだよな」
「それがどうしたという!」
 ビルシャナが何か言おうとするのを遮り、続ける。
「酢飯ってのはせっかくの刺身が温まって痛まないように冷たいままの刺身と同居するために作られてるんだ」
「ふぇ」
「……つまり! お前らが好きな良い刺身のために用意された許嫁ってことだ!」
 ぴしゃあああんと信者達の間に衝撃が走る。え、何それ知らなかった。みたいな顔をしている。
「酢飯の味が苦手ならそれでいい。苦手なものがあるのは仕方ないことだけど、刺身と一緒に美味しく食べられるように磨かれてきた酢飯は否定させないぜ!」
 どんっ、といつの間にかアウィスが運んできた酢飯の桶がカウンターに置かれた。
「一度この店の酢飯食ってみな」
「酢飯嫌いは損。魚の生臭さを消し、とても美味しくしてくれる」
 アウィスは、手のひらに酢飯を少量とって軽く握る。
「まろやかな酢飯もあって、むせない。ここの大将の酢飯とか食べたら目からうろこ」
「そ、そそそそんな」
「はい、あーん。食べてみて?」
 ヤダヤダと駄々をこねていた信者が、ちょっぴり絆される。
「酢飯ってのは作るのが大変で職人の腕が出るんだってさ。酢飯がやっぱり嫌いかそうでもないかもう一度決めるのはその後でもいいだろ」
 ももが肩を叩くと、信者は晴れやかな顔を上げた。
「このお寿司……おいしい!」
「ムキーッ!」
 ビルシャナショック。でも、それでもまだ信者は二人いる。気を取り直して、と思ったら。
「寿司とは単にご飯の上に魚をのっけたものに非ずさ。良い刺身をより引き立て美味しく頂くためにと知恵を絞り研究を重ねてきた歴史と伝統の積み重ねであり、個々人の職人が磨き上げてきた技術の結晶でもあり」
 二人とも三刀谷・千尋(トリニティブレイド・e04259)の話を熱心に聞いているではないか。
「ま、要するに人間の知恵と技術がこの寿司には詰まってるのさね」
「ふむふむ」
「ふむふむじゃあない!」
 ビルシャナが青筋たててブチ切れているのも気にせず、千尋は続ける。
「酢飯だって単に酢を混ぜたご飯じゃないし、魚を捌いて良い刺身にするのも職人の腕さ。ほら、だんだん寿司が職人の技が味わってみたくなるだろ?」
「食べてみたーい!」
 信者陥落。
「うあーん! お前ら破門破門―ッ! お寿司なんて許さないってゆったじゃん!!」
 すっかり洗脳が解けた信者は退場。残るはビルシャナだけだ。


「お寿司なんかぜええええったいゆるさぁあん!」
 ビルシャナはいきり立ち、酢飯(っぽいグラビティ)をぶん投げてくる。
「っとぉ!」
 イルルヤンカシュはその酢飯を受け、そしてビルシャナの懐へ飛び込んだ。
「そんなに米が嫌いなら、その胃袋から吐き出させてやるよ!」
 ドゴォッと良い音を立てて唸りを上げた破鎧衝がビルシャナの腹部に叩き込まれる。
「ふぎゅ!」
「スサノオ!」
 ももが命ずると、スサノオは口にくわえた剣でビルシャナへ斬りかかる。
「大丈夫?」
 その隙に、とイルルヤンカシュの傷を気力溜めで癒した。二人は視線を交わし合い、無事を確認すると笑う。
「お刺身はそのままが一番だ!」
 主張しながら冷凍マグロ(のようなグラビティ)をぶっ飛ばしてくるビルシャナ。
「わっ」
「とと」
 狙われたルリカの前に躍り出て、蓮華は凍てつくグラビティを受け、眉を顰める。
「食べ物を粗末にしないのっ!」
 トラウマボールが、ビルシャナの顔面にびたーんとぶつかった。ルリカは続くようにして声を上げる。
「君の攻撃方法ぜーんぶ嫌いなんだけど!」
 びしり、と指を突き付け、
「私のお刺身とかお魚とか投げるなんてっ」
 別にルリカのものではないといえばそうなのだが、食べ物を粗末にしているので良い事とは言えないだろう。一理ある。
「花よ! 力を」
 ぶわり、真紅の花びらのオーラがビルシャナを包んだ。
「うぐ、ぎ、ああ……」
 ビルシャナがもがいている隙に、
「好き嫌い、めっ」
 アウィスはいつのまにやらビルシャナの背後に立っていた。
「Trans carmina mei cor mei……tumultus」
 吐息のような歌声なのに、それはしかしてビルシャナの精神を揺さぶり、壊していく。
「蓮華ちゃん、しっかり」
 紗羅沙は蓮華へと気力溜めを施すと、ぽんと肩を叩いた。
「紗羅沙お姉ちゃん! ありがと!」
 千尋が、刀を構える。
「邪魔をする奴は三枚おろしするしかないねぇ」
 ざくりざくり。断たれて、ビルシャナはお星さまになったのであった。


「毎度の事だけど、倒しても焼き鳥にならないんだよねー、ちぇー」
 少し残念そうに、ルリカはビルシャナが消えた跡を見つめる。
「終わったのかい? 助かったよ」
 大将が、勝手口から顔を出す。ケルベロス達に寄りヒールされた店内は、すぐにでも営業を再開できそうだ。折角だから食べて行けと言う対象に、揃ってカウンターに座れば、あとは打ち上げモード全開である。
「大将、穴子としらすの軍艦巻き下さいな」
 ルリカの注文に、大将は『あいよ』と短く答え、酢飯を手に取った。
「はいはい! 私ブリと焼きサーモン食べたい」
 ももは大きく手を挙げて期待に満ちた目で大将へと声をかける。
「焼きかい? 渋いとこ行くねぇ」
「あとねあとね茶碗蒸しも食べたいな」
「はいよ!」
 おずおずと、イルヴァが千尋に尋ねる。
「お寿司を食べるとき、千尋さん、何か気をつけること、ありますか?」
「ん?」
 憧れの回らない寿司にテンションマックスの千尋が振り向く。
「わたし、日本には詳しくないから、教えてもらえるとうれしいです」
 うーん、と少し考えて、にこりと笑った。
「好きなモノ食べるのが一番の作法だって誰か言ってたような」
「好きな、物」
「特に拘りなければ生魚が美味しいんじゃねお嬢さん」
 ぱあっとイルヴァの顔が晴れる。
「あの、あの冬は『えんがわ』が旬だとききました前にわたしのお姉さんと一緒に食べたときとってもおいしかったのでぜひ食べたいなって……」
「うん、仕入れてあるよ。是非召し上がってくんな」
 嬉しそうに対象は目を細める。イルヴァは何度も頷いた。アウィスもそわそわと大将の手元を見つめている。回らない寿司は、初めてだ。
「玉子、玉子。他にも全部おいしそう。あとおすすめの生のお寿司!」
「玉子ね。おすすめか……じゃあ、色々握ろうね」
 あぶり、生……目移り気持ちもそぞろ。どれもこれもおいしそうだ。アウィスは傍らのイルヴァと視線を合わせて、はにかむように『楽しみだね』と笑う。
「一仕事のあとのお寿司も格別ですね~」
 出てきた握りずしを食べながら、紗羅沙はほうっと幸せなため息をつく。蓮華はぽかちゃん先生にマグロの刺身をあげると、自分も鉄火巻きを食べて、満足そうに笑った。はぐはぐとマグロを食んでいるぽかちゃん先生は、あっという間に平らげて二皿目に行くところだ。
「ぽかちゃん先生も美味しそうでなにより! お姉ちゃん、何食べる?」
「私はおいなりさんもいいですね~」
 千尋も、マグロの美味しさに感動している様子。
「他にはどんなのがあるの? 大将のお勧めがあったら聞きたいな」
 ももが問うと、大将はうーんと考えてから、
「やりいかもあるよ。どうだい」
「それください!」
 ルリカは、お寿司をもぐもぐしながら顔全体で幸せを表現している。
「はあ、もう美味しいなあ、これ。これ知らないともったいないよ、ありがとうね、大将」
 大将は同じように笑顔で答えた。
「礼を言うのはこっちのほうだよ。今日は腹いっぱい食べて行ってくれな!」
 うん、とイルルヤンカシュは頷く。
「……寿司は日本の文化!」
 その通り、と大将は感激するばかり。酢飯と刺身、互いが互いを引き立てあう極上の食文化である、と。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。