天の川よりひとしずく

作者:つじ

●せせらぎ
 山間に廃棄されたゴミの中に、小型のそれが姿を見せる。
 こぶし大の宝石に、蜘蛛のような細い脚。何かを探して歩きまわるそれは、小型のダモクレスだった。
 星だけが見下ろす中、行ったり来たりしていたそれは、やがてケーブルに繋がった電球の一つに目を付けた。立ち止まり、眺めるようにした後に、光を忘れて何年も経ったガラス球を、無機質な爪先が軽く小突く。
 すると。
「……」
 ぼんやりと、電球が薄い光を放つ。そして次に、電球の繋がったケーブルが体を震わせるように、動き始めた。
 それは、民家の玄関先やクリスマスツリーに使われるような、シンプルな電飾だった。
 機械的なヒール効果を受けたそれは、最初に『宝石』を包み込み、周りの同じような者達……電線、銅線、ケーブルの類を次々と取り込み始めた。
 蠢くそれは蔦か触手か。繋がり合い、絡み合い、糸から紐へ、紐から縄へ。せせらぎが大河を作るように、長く、長く。やがてそれは、ヘビのような形を成した。

 ――きゅるる、ららららら。
 軋み、擦れ合う電線が不可思議な音色を奏でる。体の各所についた電球が、色とりどり明かりを灯す。
 頭を上げて星を見上げ、そして次に麓を見下ろす。眼下に街の明かりを見つけたダモクレスは、そちらに向けて動き出した。

●イルミネーションを追って
「というわけで、今回はこのダモクレスの討伐任務となります!」
 現場の山間の地図を画面に提示し、白鳥沢・慧斗(オラトリオのヘリオライダー・en0250)がケルベロス達に呼びかける。
 現れたのは、不法投棄された電飾から成るダモクレス。今のところ被害は出ていないようだが、放っておけば人里に至り、グラビティ・チェインを集めるべく虐殺を始めてしまうだろう。
「皆さんには、このダモクレスが移動中の林の中に降下してもらいます! さすがに戦闘状態になれば、このダモクレスも進行を止めるでしょう!」
 そして以降の悲劇を回避すべく、ここで撃破してほしい。慧斗はそう言葉を続けた。
「敵は、ケーブルを束ねたヘビか、蔦状の攻性植物のような外見をしています。動きもだいたいそんな感じであるとお考え下さい!」
 地面や木々を這いまわり、体を鞭のように使ったり、巻き付いたりして攻撃してくるようだ。また、体に並んだ電球で星座を描き、守護を得る……ゾディアックソードのような動きもしてくるという。
「身体は結構簡単に切れますが、互いに絡み合うことですぐにまた繋がってしまいます! それでもダメージは必ず入っていますので、諦めずに戦ってください!」
「人々の盾となり、剣となるのも私達ケルベロスの役目、なのだろう? やってみせようじゃないか」
 声を上げたのは、五条坂・キララ(地球人のブラックウィザード・en0275)、最近救出された失伝者の一人だ。
「頼もしい限りです! ……あれ、でも僕の記憶が確かなら、キララさんは戦闘に出るの初めてですよね?」
「ああ、その通りだ。色々と学ばせてもらおう」
 やけに自信に満ちた様子で応え、彼女は共に行く仲間達へと向き直った。
「それでは、よろしく頼むよ」


参加者
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)
翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)
日月・降夜(アキレス俊足・e18747)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)
死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)

■リプレイ

●流れ星
 ヘリオンから飛び降り、目標地点に向けてアプローチ。夜空の真ん中へと身を躍らせたケルベロス達は、眼下の様子に目を見張る。
「すごーい! 光が星の輝きみたいに見えるよ!」
「電飾のダモクレス、なるほど銀河の名を冠するに相応しいってワケだ」
 歓声を上げるイズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)、そしてティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)の言葉通り、木々の間からは無数の光の粒が覗き、それらは明滅しながら一定の方向へと流れている。その正体は、電球をぶら下げたケーブルの蛇……今回の標的であるダモクレス『ミルキーウェイ』だ。
「遠くから眺める分には、割とキレイなのかもしれませんね」
「灯りが付いてる様は綺麗っちゃ綺麗なんだがなあ」
 死道・刃蓙理(野獣の凱旋・e44807)の言葉に、日月・降夜(アキレス俊足・e18747)も似たような感想を口にする。とはいえ、彼が思い浮かべるのは本物の星空。長大なダモクレスとはいえ、本物とは比べ物にならないだろう。
「元は空の星々のように綺麗な電飾であったのでしょうけれども……」
「ま、見た目がどうあれ敵は敵、だな」
「ここで食い止めないとダメだよね」
 翡翠・風音(森と水を謳う者・e15525)に、ティリルとイズナが頷いて返した。

「――さて、迎え撃ちましょう」
 敵の向かう前方に舞い降りた刃蓙理の言葉に、五条坂・キララ(地球人のブラックウィザード・en0275)が応じる。どこかぎこちないその様子に昔を懐かしみつつ、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)はその背を押した。
「大丈夫、落ち着いて対処すれば必ず倒せるはずです」
「……ああ、わかっているとも」
 得物を取り出した彼女等に、ダモクレスが迫る。
 きゅるるる、という敵が身を擦り合わせる音も、確実に近づいていた。
「――今だ」
「清浄なる刃よ、天より降りて彼の敵を撃て!」
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)の声に、シャイン・ルーヴェン(月虹の欠片・e07123)が合わせる。空中で放たれたグラビティによって、無数に生じた刃が、雨の如くダモクレスへと降り注いでいった。

●小さな銀河
「ついでにこいつもだ!」
 狂狼の氷牙。ティリルの生み出した無数の氷剣が、彼女の降下に合わせて第二波を形作る。
 振りくる二重の刃の雨に、悲鳴のような音を立ててダモクレスがのたうつ。そこかしこで体が千切れる様が見えるが、それはすぐに互いに絡まり、元の姿へと戻ってしまう。
「前情報通りか、見た目よりしぶといな」
 右目の地獄を憎悪に揺らし、悠仁が呟く。降夜もまた着地から上方を見上げ、扇を手にする。
「切れても大丈夫ときたら……蛇というよりミミズだな」
 ダモクレスの体は枝を伝い、木々を繋ぐように蠢いている。電飾を纏ったその体が、外敵を認識したように流れ出した。
「来ますよ!」
 せせらぎはやがて濁流へ。風音と悠仁が身を呈し、その流れを反らすべく努める。その合間に。
「その長い身体、利用させてもらいましょう」
 紺が縛霊手から光弾を解き放った。爆ぜた光が多重に絡んだ敵の身体をまとめて呑み込む。通常は敵の集団に仕掛けるためのグラビティだが、今回の場合はこれも有効。
「――緋の花開く。光の蝶」
 イズナの生み出した緋色の蝶も、霞の如く広がって敵を包み込む。
「わたしの緋蝶は電飾にも負けないんだからね!」
 色とりどりの電球を呑み込むように展開したそれに紛れ、彼女は木々の間へと飛び込んでいった。
「では、援護しよう。捕まえておけばいいのだろう?」
 光の影から闇が伸びる。キララの放った暗黒縛鎖がケーブル状の敵の身体を拘束にかかるが。捕らえ損ねた敵の一部が軌道を変え、鞭のように空を奔る。
「おっとぉ!?」
「後衛とは言え、足を止めていると危ないですよ」
 警句と共に、刃蓙理が急流に飲まれかけた仲間を引き寄せた。
「そ、そうね。気を付けるわ」
「私も跳び回るのは向いてないのですが……」
 このままでは、下手をすれば敵の身体に包囲されてしまう。先導するように跳んだ刃蓙理は、そのまま殺戮衝動を味方へと伝播させる。敵の攻撃に対するカバーと、味方の攻撃援助を見込んだ一手。
「ああ、良いじゃねぇかこの感じ!」
 妖剣士としては慣れ親しんだ『狂気』に、ティリルが笑う。血色の刃でケーブルの束を断ち切った彼女は、途切れた流れを潜って近場の木を駆け上がって刃蓙理に並んだ。
「はぁ、そういうものですか」
「何だ、自覚無いのかよ?」
「……抑え込んでいたつもりもありませんし……?」
 おかしな奴だな、というティリルの言葉に応える前に、迫ってきたダモクレスの身体をかわし、二人は別方向へと跳んだ。

 風音がグレイブテンペストで開いた道に切り込み、降夜が展開した九尾扇を振るう。多節鞭の如く伸びたそれは、奔る過程で長大な敵を複数回打ち据えていく。
「……まぁ、悪くはないが」
「敵の動き次第、という面は否めませんね」
 手応えの程を確認しつつ、二人はそう言葉を交わす。今回の場合、範囲攻撃は嵌れば非常に有用だが、どうしても実力以外の運が絡む。単体攻撃と範囲攻撃、攻め方を吟味しつつ移動しようとしたところ。
「――あ?」
「えっ」
 背後から迫る蛇が、降夜に絡み、濁流に呑み込むように掻っ攫った。
「この、ミミズが……っ!」
 抵抗する彼を巻き込んで、きゅるきゅるとダモクレスがその身を鳴らす。街に向けて一方向に流れていたせせらぎは、戦闘状況に入って渦を描くように展開していた。
「えぇ、ちょっと待ってよ……!」
「仕方ない、共に踊ろうか?」
 流れに乗って連れ去られる仲間を追って、イズナが手近な木を駆け上がり、シャインが軽やかにステップを踏む。
 舞踏乱舞。彼女の瞳が獲物を追って細められる。幸い、敵の電飾のおかげで追跡の目印には事欠かない。とぐろを巻く蛇が徐々に上へと向かうのに合わせ、銀のドレスもまた枝の間をすり抜けていった。
「逃がしはしない」
 遅れることなく敵を追ったシャインは、頃合いを見てその長い脚を振るう。
「返してもらうよ!」
 そこに枝から枝へ、直線的な動きで先回りしていたイズナが螺旋掌を叩き込んだ。二箇所で身体を断ち切られ、その間に絡め捕られていた降夜の拘束が緩む。
 ダモクレスの側も、千切れた体を即座に結びつけようとするが――。
「そこまでだ。これ以上、好きにはさせない」
 流れを遮るように、追い付いた悠仁が魔剣を突き立てる。そのまま振り切られた刃は暴風を生み、ダモクレスの切れ端をまとめて吹き飛ばした。
 解放された降夜の様子をイズナが覗き込み、刃蓙理が負傷に対してヒールグラビティを発動する。
「大丈夫?」
「よかった、無事なようね」
「ああ、全く酷い目に――」
 『禁断の処方箋』、それは刃蓙理の扱う泥の治癒術。ようするに負傷箇所は一時的に泥で覆われるわけだが。
「もう少し何とかならないのか、この回復方法」
「気を付けてください、また敵が来ますよ?」
 複雑な表情を浮かべる降夜の横に、もう一度盾となるべく風音が立った。

 戦闘は続く。次々と繰り出されるケルベロス達の攻撃に、劣勢を感じ取ったかダモクレスが森の中に奇妙な図形を描き始める。動きはケーブルの流れのみに留まらず、その光にも。
「わぁ、綺麗だね!」
「ふむ、なかなかの見世物だ」
 思わず歓声を上げたイズナにキララが頷く。無数の電飾が明滅し、時折強調するように強い光が混じる。瞼に残る輝きを繋げば、それは空の星座の形に。
 長大な体を生かし、いくつも描かれる星座は、多重の加護をその身にもたらす。ほつれたケーブルが修復され、凍り付いた箇所なども、このままいけば元に戻ってしまうだろう。
「やっぱり、こうなるのね……」
「大人しく見ているわけにもいかないようですね」
 前情報から予想はされていた状況だ。刃蓙理の呟きに紺が頷き、ティリルが前に出る。
「星座だろうが天の川だろうが、断ち切ってやるよ」
 狂刃鳳凰、漆黒の刀身に紅い刃を持つそれで、移動に邪魔な部分を叩き切ったティリルがキララを見つける。どうやら禁呪の詠唱に入っているようだが。
「攻撃が単調になってんぞ」
「む、そうか」
「キララが使える中だと、アイスエイジなんかオススメだな」
「本来なら集団に撃ち込むところですが、今回は敵の電球が集まっている辺りが狙い目ですよ」
 ティリルの言にそう付け加え、付近に来た紺がゾディアックミラージュで先に攻撃してみせる。手本に則るように、キララもアイスエイジを発動、紺の凍らせた部分に追い打ちをかける。
「なるほど、これは効果的だな……!」
 ふむふむと頷く彼女の様子に、過去の自分を思い返しつつ、紺は再度敵へと向き直った。

●瞬き
 敵の動きに合わせてグラビティを展開しつつ、ケルベロス達は渦巻く蛇を追い詰めていく。敵の一撃の重さもさることながら、厄介なのはその回復能力だ。描いた数だけ星座の加護を得て、刻まれた傷を、氷を、和らげていく。
 そんな動きを妨害するべく、刃蓙理は再度、前衛へと殺戮衝動を伝播させる。
「あれ、弾けますか?」
「当然だ!」
 破剣の力を流水の如き剣閃に乗せ、ティリルがそれを断ち切りにかかった。
「お天道様が見ているとは、良く言うが……お前のは、その星か?」
 同時に、凝血剣を手にした悠仁も蠢く敵の中へと踏み込む。星の加護、星座の加護、だがそれがデウスエクスに対するものならば。
「そんなものは――」
 喰らいつくしてやる。右目から溢れ出た殺意が、敵の流れに逆らうように渦を巻く。
 『穢喰』。闇色の牙が、作り物の星空を侵していく。
「頃合いかな」
 ――きゅらららら、と悶えるようにのけぞったその頭に、拳を固めた降夜が着地。物理的な一撃と共に、グラビティを流し込んだ。
「流れに乱れが生じれば、溢れ出してくるもんだろ?」
 掻き混ぜるようなそれを受け、ミルキーウェイの各所がスパーク、隠れていた傷や、無理やり繋げていた箇所が露になる。
「――!!」
 抑えきれない不調を掻き出されたダモクレスは、苦痛から逃れるように、軋む身体を振り回す。
「効いてはいますが、油断はできませんね」
「ああ、なかなかしぶとい」
 一旦距離を取る降夜と入れ替わるように、紺が黒影弾を放った。

 心の無いダモクレスとはいえ、危機になれば動きも変わる。ケルベロス等を脅威と見て取ったダモクレスは、当初より確実に抵抗を強めていた。
 確実に早くなった流れのまま、ダモクレスは目の前を横切ったイズナに狙いを定める。
「忍者のわたしに追いつけるかな?」
 迫りくる電線と光の束に笑いかけ、彼女は木々の合間を舞う。身軽さを誇る彼女はダモクレスの一歩先を行くが、しかし。上へ上へと追い立てられた彼女は、木の頂上で足場を失う。
「まだだよっ」
 光の翼を展開して飛び上がったイズナに、勢いを留めぬままダモクレスが突進する。長大な体を土台とし、高く伸ばした首は、確実に彼女の下に届くだろう。
「いえ、十分です」
 その間に飛び込んだのは、マインドリングを手にした風音だった。展開された光の盾と激流がぶつかる。頭の先端を四方に弾き飛ばされながら、それでもケーブル束であるダモクレスは風音を絡め、呑み込んでいく。
「ちょっと、動かないでくれるかしらっ!?」
 地上から、微妙にテンパった声と共にキララが黒鎖を放ち、同時にイズナがシャーマンズカードを投げる。
 召喚された【暴走する殺戮機械】が剛腕を振るって怒涛を割るのに合わせ、イズナと風音が離脱した。
「シャティレ、こっちへ」
 主の呼びかけに応えたボクスドラゴンが、無事を喜ぶように属性インストールで治癒にかかる。
 そんな攻防の中、シャインと紺、狙いどころを探っていた二人が視線を交わした。
「どう思う?」
「そうですね、核があれば狙いたい所ですが……」
「あるのか、そんなポイントが!?」
 耳聡く食いついてきたキララに、まだわからない、と紺が首を横に振ってみせる。ダモクレス発生の契機となった『宝石』が候補に挙げられなくもないが、それがコギトエルゴスムの類だとすれば、もう形は残っていないだろう。
「試すにしても、何かしら場所の当たりをつけたいですね」
「蛇なら頭を潰したい。へびつかい座だとするならラサルハグェやケプラーの星、か?」
 シャインが思い当たるところを挙げる。通常の生物ならともかく、敵はデウスエクス、しかもダモクレスである。中々に難しい課題だが。
「星、ですか……」
 敵の身体を迂回するように枝を移り、紺はイズナと合流する。
「少し、手伝っていただけますか?」
「もちろん! 何か思いついたの?」
「ええ、核というわけにはいきませんが――」

 ――きゅる、きゅららら。

 乱れた先端をまとめるように捩って、ダモクレスが元の形に戻っていく。落ち着かせる暇を与えないように、悠仁の魂うつしを受けた降夜が御霊殲滅砲で追い立てるが。
「また、あれか」
 星座を描き出す動き。しかし今回は、そこにイズナと紺が割り込んだ。
 ……観察していて分かったことが一点。電飾の星は無数にあるが、星座を描くのは常に発光量の大きい大玉の電球だ。
 ならばそれを狙えばどうなるか。
「いっくよー!」
 レガリアスサイクロンと、黒影弾。部位狙いの攻撃がミルキーウェイの身体で弾けた。
 カギとなるそれらを的確に潰され、戸惑うように、その身体が迷路を描く。当然、そこには何の加護も生まれない。
「ザマァねぇな!」
「闇に……帰してあげる」
 ティリルの憑霊弧月、そして刃蓙理のシャドウリッパーがそこに追い打ちをかけ、続けてシャインがダモクレスに迫る。
「コル・セルペンティス……ダモクレスとしては悪くない造形だった」
 長い身体に輝く石、それは彼女の言うように、ヘビを模したアクセサリーに見立てることもできるだろう。しかし。
「でも、肝心の石がガラス玉では、ね」
 放たれるは禍津星。足元のピンヒールから流れた星が、ダモクレスを貫いた。
「――!!!」
 その一撃に、限界を迎えた身体がぐらりと揺れる。そして金属の線で結ばれ、無数の星で描かれた星座が、ゆっくりと崩れていった。

●静かな夜空を
「これはまた、盛大に散らかりましたね」
 傍らに寄ってきたボクスドラゴンを撫でつつ、風音が戦闘後の惨状に溜息を吐く。結びつく力を失い、元に戻った電飾があちらこちらに散っている。木に引っかかっているものもある……というか、ほとんどはその状態だろう。
「不法投棄もどうにか抑えたいところですね。それがなければ、この電飾の未来も変わっていたかもしれませんのに」
 森を守護してきた身としては、捨て置けないところ。だが、まずは、と彼女は仲間達の方へと向き直った。
「……さて。キララさんは初陣、如何でしたか?」
「そっか、はじめての戦闘だったんだよね?」
 イズナ、そしてシャインも微笑んでそちらに視線を移す。
「初戦闘、頑張ったな。勉強になったか?」
「ああ……勉強になる事ばかりだ。中々イメージ通りにはいかないものだね」
 そう応えるキララだが、言葉の割にはめげた様子もないようだ。
「その、自信満々ですね。何か根拠が……?」
「ふふん、決まっているだろう?」
 刃蓙理の問いに、曖昧に答えて胸を張る。要するに虚勢だ。
「君には一度救ってもらっているからな、借りを返したかったのだが……」
「ま、いきなりは無理だな!」
「これからも、一緒にがんばろうね!」
 ティリルとイズナがそう笑って声をかける。それに対し、キララは素直に頷いた。

 見上げた先、木々の枝を透かした向こうには、満天の星が輝いている。
「やっぱ、星はああやって空で輝いてないとな」
 動き回られてはたまらない、そんなティリルの言葉に、降夜とシャインが頷く。
「あー……良い空だな。イルミネーションも良いが、俺はやはりこっちかな」
「ええ、本当に」
 山を下りた向こう、ケルベロス達が守り抜いた麓の町からも、きっとこの空は見えるだろう。

作者:つじ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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