ズゥゥゥンッ!
今しも、巨体が轟音立てて崩れ落ちる。
「よし! やったぞ!」
「やれば何とでも、なるもんだな!」
眼前に横たわるのは全長40mには及ぶだろう、邪神の眷属の、成れの果て、だ。
オグン・ソード・ミリシャ――倒せば倒す程、強大化する敵と、彼らは戦い続けてきた。
――倒したら復活する? なら、復活しなくなるまで倒し尽くすまで。
強力な戦士故に真正面から戦い続けてきた彼らは、最初は8人いた仲間も今は2人。コギトエルゴスムと化した同胞は既に眼前の敵に呑まれ、残った2人も立っているのもやっとな満身創痍。彼らが勝利出来たのは、恐らく奇跡だ。
――ぐちり、ぶちゅり。
傷を癒す時間もなかった。身構えたままの彼らの前で、徐に脈動を始める邪神の眷属。びちびちと触手めいた蔦がのたうち、千切れた塊同士が蠢いて融合していく。結合する音を聞くだけでも吐き気催す、狂気の光景だ。
「さあ、この次はどれだけ強くなるんだろうな?」
「ああ、楽しみだ!」
――――!!
それでも、強気に笑む彼らが一撃を繰り出す暇さえ与えず、触手の奔流が戦士を呑む。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
狂気の渦から転がり出た石は、2つ。それも忽ち呑み込まれる。全長50mにまで育った邪神の眷属は、獰猛に咆哮する。それはあたかも、不定形な悪夢を具現化したような、おぞましい光景だった。
「……定刻となりました。依頼の説明を始めましょう」
ヘリポートに集まったケルベロス達を、都築・創(青謐のヘリオライダー・en0054)は静かに見回した。
「節分の日に起こりましたオウガ遭遇戦の、続報となります」
ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していた通り――オウガの主星『プラブータ』は邪神クルウルクなる勢力に襲撃され、オウガの戦士達は蹂躙されたという。
「節分の日に現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきていたのだそうです。詳しくは、新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミさんから説明して頂きます」
創に替って進み出たのは、後光のように黄金の角を背に生やした美しい女性――『女神ラクシュミ』改めオウガの光輪拳士、ラクシュミ・プラブータ。
ケルベロス達に微笑みを浮かべ、彼女は静かに口を開く――。
こんにちは、ラクシュミです。
このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。
ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。
このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう。
「ラクシュミさんがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達もケルベロスとなる可能性は非常に高いでしょう。この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いと位置付ける事が出来ます」
再びケルベロスの前に立ち、ヘリオライダーは粛々と説明を続ける。確かに、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下に置いた侭では、いつ邪神が復活して地球に攻め込むか判ったものでは無い。
「本作戦は同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ為にも、重要な戦いと言えます。皆さん、宜しくお願い致します」
オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っており、それ程強敵ではない。
「ですが、オグン・ソード・ミリシャの外見は、非常に冒涜的で、長く見続けてると、狂気に陥りそうになります。お気を付け下さい」
ケルベロスならば戦闘には影響ない筈だが、軽い錯乱状態となっておかしな行動を取ってしまう場合もあるようだ。
「その場合は……一緒に戦う仲間の皆さんでフォローをお願いします」
オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い技や触手で攻撃を繰り出してくる。
「基本は2m級ですが、中には3~4m級、最大で7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があります。油断は禁物です」
尚、今回はプラブータでの探索及び戦闘となる。暴走すれば地球外の惑星に取り残される事になり、文字通りの命取りとなるだろう。
「……それにしても、真正面から戦い続けた末の敗北、ですか」
オグン・ソード・ミリシャの特性に対処する作戦を立てれば、今回のような事態は防げただろうに――オウガの脳筋振りに、苦笑を浮かべるのも束の間。創は、改めてケルベロス達を見回す。
「ですが、強大な敵に怯まぬ彼らは、きっと心強い仲間となってくれるでしょう。遠くない未来に仲間となるオウガ達を救う為にも、皆さんの武運をお祈り致します」
参加者 | |
---|---|
ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186) |
ミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193) |
マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462) |
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813) |
秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357) |
城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302) |
シエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414) |
ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679) |
●惑星プラブータ
ひやりとしたプラブータの空気には、そろそろ慣れただろうか。見上げれば紫の空、見渡せば黒い大地――荒野の一角で、ケルベロス達は今夜のキャンプを構える。
「やっぱり、水辺とかは無さそうだねー」
何となく埃っぽいミリタリーコートを払いながら、顔を顰める秋芳・結乃(栗色ハナミズキ・e01357)。すかさず、ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)は仲間をクリーニングして回った。そうして、爪楊枝サイズのミニ旗を立ててはカメラをパチリ――曰く、浪漫らしい。
一方で、野営にキープアウトテープを巡らせたい結乃だが、その効果対象は「一般人」だ。「オグン・ソード・ミリシャ」がそうかと考えれば……多分、効果は見込めまい。
「効いてくれたら、良かったんだけど、ねー」
「探索を開始して数日経つ。敵地と思い、これまで以上に、慎重に備えるしかあるまい」
結乃の残念そうな言葉に、軍人然として答えるのは、マルティナ・ブラチフォード(凛乎たる金剛石・e00462)だ。
昨日で、ウォーレンが采配した3交代の見張りは一巡している。それなりの時間を過ごせば、プラブータの現状も見えてくる。
オウガの惑星は――少なくとも、ケルベロス達の見た範囲では荒廃していた。森も無い荒涼たる野は、或いは「オグン・ソード・ミリシャ」にグラビティ・チェインを略奪された成れの果て、かもしれない。
「……未知なる神秘、といったところかしら?」
道中はカメラ撮影で記録を担った城間星・橙乃(雅客のうぬぼれ・e16302)は、碧の瞳に好奇心を覗かせながら地図を認めている。地球外の惑星であり女神の情報も乏しく、生憎とプラブータの「地図」はない。橙乃が丁寧に描き起こそうとするもまだ未完成故に、スーパーGPSは不発だった。それでも、ミミ・フリージア(ヴァルキュリアの鎧装騎兵・e34679)の準備したアリアドネの糸と橙乃の地図を併せれば、迷子となる心配は無さそうだ。
(「とうとう宇宙まできたんじゃのぅ。じゃが今回はオウガ達のためにコギトエルゴスム回収の任務じゃし、喜んでるばかりじゃいけないのじゃ」)
今回の目的はミミの思う通り、「オウガのゴキトエルゴスムの回収」。翼飛行に隠密気流を併用して、斥候を担当したシエラシセロ・リズ(勿忘草・e17414)は、敵影在る所にコギトエルゴスム在る事に早々に気付いた。そして、敵が荒野にしかいない事も。探せば遺跡などあるかもしれないが……目の前のコギトエルゴスムを看過するのは本末転倒だ。
荒野は比較的見晴らしが良い。ならば、シエラシセロが飛んでいようがいまいが、敵に見付かり戦闘に雪崩れ込んだ事も数回。こちらから仕掛けて殲滅した回数も同じくらい。幸い敵は2m級が少数ばかりで、コギトエルゴスムは比較的順調に回収されていた。殆どが、1回につき8個程度だ。
(「8人で小隊を組んでいたのかな……オウガさんとは気が合うかも。オウガメタルさんも心なしか嬉しそう」)
ケルベロスも大凡8名で事に当る。見えた共通点がちょっと嬉しい。一方で、オウガメタル云々は、ウォーレンの主観だ。今の所、持って来た如意棒も、特筆すべき反応は見られない。
「やっぱり、地球の星空とは違うんだね」
月のような衛星は、恐らく1つ。仲間にドリンクバーの栄養ドリンクを振舞いながら、仰いだ夜空にミライ・トリカラード(夜明けを告げる色・e00193)は暫し見惚れる。
「うむ、宇宙旅行といきたいところじゃがお仕事じゃからのぅ。見知らぬ星はわくわくしないでもないのじゃが」
流石に、数日に渡る調査は色々準備してきても、きつい。溜息を吐くミミに、テレビウムの菜の花姫は応援動画を流す。
「生きてるオウガがいるうちならガイドしてもらえたのにのぅ」
「確かに。どんな星座があるのか……オウガさん達に聞いてみたいなぁ」
「その為にも、たくさんオウガを助けて、絶対みんなで無事に帰ろ」
「うん! 頑張ろう!」
シエラシセロの快活な決意に否やは無い。ライドキャリバーのライキャリさんに寄り掛かりながら、ゼロアリエ・ハート(紅蓮・e00186)は屈託なく頷く。
(「オウガの、コギトエルゴスムの回収とか重要だって分かってる、けど……地球の外と聞いたらテンション上がる!」)
改めて、気合も入るというものだ。宇宙はやっぱりオトコノコの浪漫だ。
「でも、アイテムポケットは、そろそろ石で一杯になりそう、かな……」
「潮時か?」
自らのアイテムポケット確認して、今度は思案顔のゼロアリエ。小首を傾げたマルティナは――次の瞬間、二刀の斬霊刀を抜く。
「3m級、5体!」
モノスコープで確認するまでも無い。薄暮の向こうから現れた怪異を素早く見て取り、ミライも無骨な黒鎖を手に身構える。
本来ならば、戦闘を避ける戦力。だが、ここで逃れようとすれば追撃は明白だ。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
まだ、誰も仮眠に入っておらず幸いだった。神経を逆撫でする鳴き声に、ゼロアリエはギリッと歯を食い縛る。
「この戦いの後、撤収か? 7m級とも仕合ってみたかったが……仕方あるまい」
マルティナは残念そうだったが、敵が弱ければそれだけ消耗せず各個撃破が叶う。探索に費やした彼らの労力の賜物だろう。
●オグン・ソード・ミリシャ
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
そのシルエットは、触手を捩り合わせたような粘液に塗れた木――無秩序に付いた大口が歯を剥き、舌のように蔓触手を突き出す。所々にぶら下がる胞嚢が、不気味な淡緑に光っていた。
ぐちゅり、ぬちゃり。
蠢く度に粘性の音を引き摺り、居合わせるだけで目も耳も穢されそうだ。
(「大丈夫。この花が息づく限り、あたしの心は折れたりしないの」)
一回り大きくなっただけで、嫌悪感も倍増する。咄嗟に水仙の髪飾りに触れるも、それ以上、表に出すのを良しとしない。唇に薄笑みを刷いたまま、ケルベロスチェインを手繰る橙乃。前衛の4人+1体に守護の魔法陣を描かんと。
「菜の花姫も、皆を守るのじゃ!」
ミミの言葉に得物を掲げながら、テレビウムは物問いたげな視線をくれる。
細かに差異こそあれ、オグン・ソード・ミリシャは似たような姿。その立ち位置もまだ判然としない。先制攻撃が叶う時、何処から仕掛けるか。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
無から判断を下す為の僅かな躊躇も、戦闘では隙となる。機先を制し、次々と触手がしなる。ディフェンダーが動く暇があればこそ、相次ぐ汚濁の奔流が前衛を後衛を席巻する。
「……っ!」
右か左かでも良い、1人でも取っ掛かりを示していれば、先んじて攻撃出来ただろう。
強かに抉られた傷が熱を帯び、悪寒が走る。思わず唇を噛むミミ。
「わらわは、そう簡単には屈したりしないのじゃ……みーこ、ごーなのじゃ!」
込み上げる恐怖を呑み下し、ヴァルキュリアの少女は猫の縫ぐるみを力一杯、投げ付ける。
「わらわのぬいぐるみを特別に貸してやるのじゃ。楽しむといいのじゃ」
そう、後れを取ったままのケルベロスではない。
「本日は晴天なり。ただし所により俄か雨が降るでしょう」
天を指差し、雨を降らせるゼロアリエ。プラブータの気候そっちのけの白き雨は、後衛を癒す。同時に、エンジン音を上げてライキャリさんがキャリバースピンを繰り出せば、都合2体を巻き込み轢き潰す。
「ヘルズゲート、アンロック! コール・トリカラード!」
自らの地獄の炎で魔法陣を描き、ミライは大きな3本の鎖を召喚する。赤、黄、青の炎を纏う鎖は敵の触手に負けぬ執念で轢き潰された1体に迫るが、果たしてもう片方が軌道を遮った。
「ディフェンダー1体確定だよ! って、引きずり込んじゃだめだよ! 今回はおあずけ! めっ!」
(「うん、やっぱり前に……どこかで、戦ったような……気がするんだけど?」)
プラブータでオグン・ソード・ミリシャと対する度、ウォーレンが覚える不思議なデジャブ――。
「どうかした?」
「……あ、ごめん。大丈夫、まだおかしくなってないよ」
心配そうなシエラシセロの視線に、穏やかに笑む。温和なサキュバスの青年から、甘やかな霧が広がる。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
相変わらず、意味不明に鳴きながら、後方の1体が淡緑の胞嚢を振り回す。ビシャリと飛び散った粘液が前の2体に掛かるや、ぐちりびちりと傷が塞がっていく。
「へへ、何回見てもすごいよね!」
後方の左は、恐らくメディック。目星を付けながら、シエラシセロは今しも癒されたばかりの一方に殴り掛かる。
「でも、ボクだって色んなもの見てきたし、狂ってらんないよ」
(「『冒涜的』ね……正直、イメージ湧かないんだよね。ま、あれが冒涜的っていうなら、とことん気持ち悪いって感じかな」)
常のテンションの高さも鳴りを潜め、結乃は静かに両手に銃を構える。
「食欲がなくなる前に、倒しきらないと、だねっ!」
強がりを口にして弾幕を張る。スナイパーの確かな射撃が、後方の2体の動きを牽制する。
(「喩えどんな敵であろうと、眼は逸らさない。これしきで狂気になど侵されはしない!!」)
意気強く、マルティナはオグン・ソード・ミリシャを睨み据える。短期決戦を心掛けるのは、これまでと変わらない。ディフェンダーとして、仲間を庇い刃を突き立てるのみ。前の2体をすり抜け、流星の煌めきと重力を宿した飛び蹴りが奔るが、グニリと避けられた。
「く……っ」
どんなに威力が高くとも、まず命中せねば無為となる。確かに、中衛の敵は他と比して極端に命中率は低かった。となれば。
「キャスターだな」
前が2、後ろが2、中衛が1――残る2体は攻撃役、クラッシャーとスナイパーだろう。混沌としながらも連携めいた動きを見せる敵を、どう切り崩すか。
「わらわにまかせるとよいのじゃっ」
逸早く身構えるや、ミミは炎纏う蹴打を放す。狙い過たずディフェンダーに爆ぜれば、それを目印にケルベロスの攻撃が集中した。
敵が強くなろうと、数が増えようと、後は各個撃破で潰すのみ。
●ケルベロスの意気
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
触手の先に生えた牙が、守護の魔法陣を喰らい尽くす。幾重にも分裂した触手の奔流が、ケルベロスらを貫き汚染した。
「すぐ癒すわ」
敵の攻撃は範囲攻撃が多く、前衛・後衛に最大効率で並ぶケルベロス達を苦しめた。眼力で己の命中率は量れても、敵味方のダメージの程までは判らない。それを知ろうとするのは癒し手としての『眼』だ。
碧雷針を携え、橙乃はウィッチオペレーションをマルティナに施す。彼女が攻撃と回復を交互に行う分、ゼロアリエはヒールに専念している。
「なあ、キミはどんなお菓子が好き? 無事に帰ったら、食べまくろうな!」
サーヴァントと魂を分け合う身で範囲ヒールは些か使い難いものの、狂気に抗う声援を送りながら仲間に気力と注ぎ続けている。
『みあ みあ おぐん そーど みあ みあ――』
極限の集中の果て、ミライのサイコフォースがディフェンダーに爆ぜる。さしもの打たれ強さも堪え切れず、周囲と融合する事無くグズグズと崩れていく様は、いい加減見慣れた光景――些か手こずった感もあるが、1番苦しい所は乗り越えた。ケルベロス達の攻撃も勢いに乗る。
次の標的はクラッシャー。数合の後、神速を誇る光鳥を召喚するシエラシセロ。舞い落ちた羽が彼女の足を覆い最速の靴と化す。
「逃さないよ」
あたかも猛禽類の狩りの如く。強烈な蹴りが凄まじい衝撃波を巻き起こす。崩れ落ちる奇怪の向こうの紫の空を見上げる少女の金髪を、光鳥は柔らかに撫でて消えてゆく。
「見事な手前。わらわも負けてられぬのじゃ」
ドラゴニックハンマーを担いだミミが、すかさず轟竜砲をぶっ放す。キャスター故に中衛への総攻撃はまだ難い。ウォーレンのメタリックバーストとスナイパー達の足止め攻撃の間に、先にメディックから片付けんと。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
奇怪な鳴き声が響き渡る中、繰り広げられる激闘。正気と鬩ぎ合う狂気には、互いに声を掛け合って抗いながら、爆発音が幾重にも轟き、凍結の光線が夜気を裂く。集中攻撃の度、奇怪なる触手がビキビキと凍りつき、砕けていく。
「もう少しだよ!」
まずメディックにはシエラシセロのゼログラビトン、スナイパーへの止めはマルティナのサイコフォース――相次ぐ後衛撃破の後、残る敵はキャスターのみ。だが、これまでに無く戦いが長引けば、狂気にさらされる危機も深まる。
「こ、これくらい、なんてこと、な、な、な……」
明滅する胞嚢に目を奪われ、ビクリと身を竦ませるミライ。恐怖に呼応して、オグン・ソード・ミリシャの触手が彼女を狙う!
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
ガキィッ!
「自分を見失うな!! 意思を強く持つんだ!!」
敵の射線を遮りながら檄を飛ばすマルティナ。結乃の援護で動きの鈍ったキャスターに応酬のスターゲイザーを叩き付ける。
「惑わされない、惑わない……僕はウォーレン・ホリィウッド、地球のケルベロスだ。きみは?」
チェーンソーで斬り付けながらも穏やかなウォーレンの言葉に、ミライは何度か瞬きする。
「ボク、は……ボク、もケルベロスだ!」
気持ちを立て直したミライの旋刃脚に、もう迷いは無い。
ミミのデスサイズシュートの軌道を、菜の花姫の凶器攻撃が追い掛ける。ライキャリさんのデットヒートドライブと息を合わせ、初めて攻撃に転じたゼロアリエのハウリングフィストが唸る。そして、橙乃のライトニングボルトが、触手の反撃を封じた次の瞬間。
「とっておきを……あげるっ」
超集中の果て、瞳孔までも絞り切り、結乃は「KAL-XAMR50 “BattleHammer”」のトリガーを引く。
Armor Piercing Snipe――密度を高めたグラビティ弾は、初速と貫通性を高めた破壊力を以て、最後のオグン・ソード・ミリシャに引導を渡す。
バラリと散らばった8つのコギトエルゴスムを前に、ケルベロス達は快哉の声を上げた。
作者:柊透胡 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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