オグン・ソード・ミリシャ~オウガの呼び声

作者:澤見夜行

●邪悪なる子供
 冒涜的なまでの邪悪さを催すその怪物は、木の根を思わせる狂乱の触手を振り回した。薙ぎ払われる大地が岩塵を巻き上げ吹き飛ぶ。
「おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ! みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!」
 その場所では、理解不能な鳴き声をあげる怪物――オグン・ソード・ミリシャを取り囲むように八人の屈強な戦士――オウガ――が狂気に抗いながら立ち向かっていた。
「オォォォ――!」
 裂帛の気合いを持って怪物に殴りかかる満身創痍の八人。爆発的な威力を生み出すその一撃は、ついに三十メートルはあろうかという怪物を撃破するに至った。
「へっ、どんなもんだ」
「ざまぁねぇぜ」
 血濡れながらも野性的な笑みを浮かべた八人は勝利を喜ぶ。
 ――しかし。
 撃破した怪物の、細切れになった死体が、ミミズが藻掻くように這いずり回りながらウネウネとうねり気持ち悪く集まっていく。そうして集まった死体は肉を溶け合わすようにグチャグチャに混ざり合いながら元の形に――いや、元よりも一回り大きい四十メートルはあるかというサイズに復活する。
「……まだくるってのかよ。いいぜ燃えてきた!」
「ははっ、上等だ! だったら復活しなくなるまで殴り倒すまでよ!」
 迫り来る強敵に対し、戦闘欲を駆り立てられる戦闘狂達。傷だらけの身体に力を込め復活した怪物に立ち向かっていく。
 オウガ達に弱気は存在しなかった。ただひたすらに、殴り続ければいつかは勝てるという強い意志が存在するのみだ。
 だが、サイズと共に力を増した怪物の前に、一人、また一人と膝を付きその肉体を消滅させ、宝石――コギトエルゴスムへと変わっていく。
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
 奇怪な鳴き声を上げる冒涜的で邪悪なる怪物はオウガ達に容赦なく襲いかかる。
 そうして、数分の後、戦いがあった場所には八個のコギトエルゴスムが無惨に転がるのだった。
 誰も居なくなったその場所で怪物が一人鳴き声をあげた。
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」


 集まった番犬達にクーリャ・リリルノア(銀曜のヘリオライダー・en0262)が口を開き、事の次第が説明され始めた。
「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)さんが予期していたのですが、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているようなのです」
 クーリャによれば先のオウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきていたのだそうだ。
「詳しい話はですね、新たにケルベロスとなった、オウガのラクシュミさんから説明してもらうのです。話を聞いてあげて欲しいのですよ」
 そういうとクーリャは横に立つラクシュミへと後を引き継いだ。
「こんにちは、ラクシュミです。
 このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。
 オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
 オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。
 皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います。

 ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
 とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。
 地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。
 彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう。

 このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。
 ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
 オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。
 オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
 そこまで話し終えるとクーリャが後を引き取った。
「ラクシュミさんがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高いのです。
 この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いとなるはずなのです」
 そのことに加え、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むかわかったものでは無い。
 同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いは重要になるだろう。
「オウガ達を襲っているオグン・ソード・ミリシャの多くは体長二メートル程度の初期状態に戻っていて、それほど強敵ではないのです。
 ただオグン・ソード・ミリシャの外見は、非常に冒涜的で、長く見続けていると狂気に陥りそうになるので、気をつけて欲しいのです」
 戦闘には影響は出ない筈だが、軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう場合もあるようだ。
 その場合は、周りの仲間がフォローするようにしてほしい、とクーリャは補足する。
 オグン・ソード・ミリシャの戦闘行動についても説明がある。
 オグン・ソード・ミリシャは攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくる。
 基本は二メートル級だが、中には三~四メートル級や、最大七メートル級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があるので注意が必要とのことだ。
 最後にと、クーリャは資料を置き向き直る。
「オウガの皆さんがケルベロスになるのであれば仲間も同然なのです。仲間を救う為に頑張って欲しいのです」
 そこまで言ってクーリャは首を傾げる。
「それにしてもオウガさん達は猪突猛進な感じなのですね。私もゲームをするときは武器を振り回して突撃するばかりですぐやられてしまうので気持ちはよくわかるのです。……それはともかく、このまま放置して、邪神クルウルクの復活みたいな事件が起こればそれは大変なのです。ですから今のうちに対処しておくのは、きっと間違いないのですよ。大変だとは思いますが、どうか、皆さんのお力を貸してくださいっ!」
 ぺこりと頭を下げたクーリャは、そうして番犬達を送り出すのだった。


参加者
ルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)
福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)
花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)
クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)
アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)
那磁霧・摩琴(シャドウエルフのガンスリンガー・e42383)
紗・緋華(不羇の糸・e44155)
リリィ・ポー(愛に飢えた怪物少女・e45386)

■リプレイ

●邪悪の強襲
 番犬達が惑星プラブータに渡って数日が過ぎていた。
 惑星プラブータは番犬達が当初想像していた世界と異なり、どこまでも荒廃し枯れ果てた世界が広がっていた。
 グラビティ・チェインが枯渇した世界。露出した岩肌、うっすらと寒い気候、岩塵が舞い、どこか寂しさすら漂わせる終末の世界。
 そんな世界ではあったが、番犬達の入念な準備や作戦は上手くいったと言って良いだろう。
 まず福富・ユタカ(慕ぶ花人・e00109)を中心にゲート付近に拠点を作り上げ物資を集積したことは、その後の探索を効果的に行うのに大いに役に立った。
 花凪・颯音(欺花の竜医・e00599)と紗・緋華(不羇の糸・e44155)は探索中の索敵や情報収集に注力し、危険な場所の回避や敵の発見に貢献していた。二人の活躍により会敵する際はかなり有利に立ち回れ、奇襲を行う事ができた。
 クローネ・ラヴクラフト(月風の魔法使い・e26671)は番犬達の中心で情報の集積、そして地図の作成に力を発揮していた。
 目印になるようなものも少ない荒れ果てた世界だ、地図の作成にも困難はつきまとっていたが、その役目を十全にこなし、探索中の足がかりを提示する事ができたと言って良かった。
 アイカ・フロール(気の向くままに・e34327)もまた、クローネを手伝い地図の作成に力を注いだ。
 また怪力無双を使った障害物の除去、怪我人の搬送など、体力の消耗する行動を率先して行っていた。
 探索は長時間に渡った。一日のほぼ大半を探索に割り当てていた番犬達は、やはり疲労が溜まっていった。
 休憩時間を管理し、ローテーションを組み上げ仲間達の体調管理や食事の管理をしていたのはルトゥナ・プリマヴェーラ(慈恵の魔女・e00057)だ。
 ルトゥナの的確な管理は、番犬達の疲労を抑え、探索を効果的に行えるよう気が配られていた。
 植物が多い場所であればその特性を遺憾なく発揮出来たかも知れないが、探索中に植物を見かける事がなかったのが残念だ。
 拠点から離れすぎた場所での休息には巣作りが用いられた。用意するのは那磁霧・摩琴(シャドウエルフのガンスリンガー・e42383)だ。
 時間を決め休憩する際に、摩琴の巣作りが抜群の効果を発揮していたのは言うまでもないだろう。
 昼夜問わず現れるオグン・ソード・ミリシャに対応するために、番犬達は見張りを交代制で行っていた。その際にも巣作りによる休息地点の設営は巣の内外で分担を行え、負担の軽減に繋がっていた。
 長時間の探索を可能としたのはリリィ・ポー(愛に飢えた怪物少女・e45386)がアイテムポケットで物資を可能な限り運んでいたからだ。
 リリィができる限りの物資を運ぶことで、拠点へ戻る時間的ロスを減らし効率的な探索を行えることになったのは間違いなかった。
 このように番犬達は各自役割を分担し、未知の惑星プラブータでの探索活動を効率的にこなす努力をしていた――入念な準備や作戦はうまく機能したと言って良いだろう。
 そのお陰で、探索活動は順調に進み、大きな問題も起きる事なく、物資がなくなるその日まで探索を行う事ができた。
 これまでに現れた二メートル級オグン・ソード・ミリシャの死骸から回収できたコギトエルゴスムは三つ。収穫としては少なかったが、十分に探索を行ったことからこの付近では敗北したオウガ達が少なかったのだろうと、番犬達は考えていた。
「探索はここまで、だね」
 手にした自作の地図に最後の書き込みをしたクローネが仲間達に告げる。昇り始めた月明かりがこれ以上の探索の難しさを伝えてくるようだった。
「確かにこれ以上は厳しいね。物資ももうないし時間的にも、ここまでとしようか」
「賛成でござるな。地球外のこんな場所で無茶をしてもしょうがないでござるよ」
 颯音とユタカが賛成すると、残りの仲間達もそれに同意し首を縦に振った。
「それでは、拠点へ戻りましょうか」
 アイカがそう言って歩き出そうとしたその時、番犬達の耳にこの地に来て幾度となく聞いたあの忌々しい鳴き声が聞こえた。
「おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!」
「みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!」
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 冒涜的な呪言のように繰り返される鳴き声。声を聞いているだけで不快な気持ちが溢れていく。
「あいつらなのぉ? さっきまで気配なんてなかったのにぃ」
「皆、落ち着け。二、三メートル級なら私達の敵じゃない。確実に倒せば良い」
 リリィと緋華が声を上げ、仲間達との意思疎通を図る。
 すでに周囲は薄暗い。遮蔽物はないため、近寄ってくればその影が見えるはずだった。
 番犬達は背を合わせ周囲に気を配る。敵がどこからやってくるのか、慎重に気配を辿る。
 不意に、風切り音が聞こえた。
「――! 上だ!」
 颯音の声と同時、番犬達は咄嗟に身を翻す。上空から叩きつけられた木の根のような触手が、ほんの一呼吸前に居た地面を破砕する。
 奇襲の一撃が外れたのを確認したオグン・ソード・ミリシャがその姿を見せる。
「うっそでしょ……」
「まいったわね、最後にこんな大物がでてくるなんて」
 摩琴とルトゥナが冷や汗を拭う。
 番犬達の前に姿を現すは邪悪の化身。その身丈七メートル。
「小さいのもいるでござるな、やれやれ、最後に大仕事になりそうでござるよ」
 ユタカの言うように、七メートル級の傍には二体の三メートル級。寄り添うようにその触手を蠢かしている。
 倒されるのが遅かったのか、はたまたその力を失うのが遅かったのか。巨大な姿のオグン・ソード・ミリシャを前に、番犬達が武器を構える。
「どちらにしてもやるしかないね」
「一気に片付けて、地球に帰るよ!」
 荒廃した世界をのさばる邪悪の化身、オグン・ソード・ミリシャとの戦いが始まった――。

●狂気を打ち払う
「まずは小さいのから、一気に倒すとしようか! ユタカさん! ルトゥナさん!」
「了解でござ! てめぇらの不快な姿も見飽きたぜ」
「任せて貰おうかしら」
 颯音に頷くようにユタカが駆ける。狙うは三メートル級の一体。伸びる触手を躱しながら一気に距離を詰めていく。
 颯音は生命を賦活する電気ショックをユタカとルトゥナへと飛ばし、その戦闘能力を向上させると、続けて杖からほとばしる雷を放ち援護する。極力狂気に蝕まれないよう視線をはずしながら放たれた稲妻は直撃し、三メートル級が狂気的な悲鳴を上げる。
「逃がさねぇよ」
 ユタカから距離を取ろうとする三メートル級に対し、虚空を切り裂く爪で追い詰めるユタカ。空間を切り裂く真空波は三メートル級をズタズタに切り裂く。ユタカは動きを止める三メートル級に肉薄すると、鋭き眼光の光を持って追撃を加え、一瞬にしてその生命活動を停止させた。
 ユタカが一体を仕留める間にも、ルトゥナは残る一体を追い詰めていた。
「あなたの命、分けてくれる?」
 はためく翼の残像から生み出される蝙蝠達。生命力を求め残る三メートル級に襲いかかるとその禍々しい身体に吸い付いていく。そして間髪いれずにルトゥナが掌から『ドラゴンの幻影』を生み出し放つ。吸い付いていた蝙蝠達が離れると同時、ドラゴンの幻影が三メートル級を包み込み、その邪悪極まる肉体を塵へと変えた。
「みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!」
 一瞬のうちに消滅した仲間へと向けた鳴き声か。七メートル級が一際大きく鳴き声を上げる。
 一回り、いや二回りは太い巨大な触手を振り回し、その先端に突いた口のような部分で番犬達を捕食する。その姿とともにパワーも上がった一撃にアイカと摩琴から小さな悲鳴が漏れた。
「春の訪れを告げる、豊穣の風。穏やかで優しい西風の王よ。我等に、花と虹の祝福を授けたまえ」
 うっすらと寒い惑星プラブータに、クローネを中心に春のような暖かいそよ風が舞い込んでくる。番犬達を包み込む優しい花の香りが心を落ち着かせ、眠っていた才能を呼び覚ましていく。
「大きさのわりに俊敏そうだね……まずはその足止めさせてもらうよ!」
 つづけてクローネが竜砲弾の雨を降らし、七メートル級を釘付けにしていった。立て続けに打ち込まれる弾丸に邪悪な鳴き声を上げながら身をくねらす七メートル級。
「他のよりずっと怖い相手だけれど……私もぽんずも、やります!」
 初の地球外の任務。不安もいっぱいだったアイカだが、頼もしい仲間達に囲まれ戦意を高めていた。
 心を染めていく狂気に抗いながら、サーヴァントのぽんずと共に力一杯地を蹴り肉薄すると、視認困難な斬撃を繰り出し、その傷口を切り広げていく。
 反撃の触手を地面を転がるように躱しながら、その長い触手に向け影の弾丸を撃ち込んでいった。
「アキレアの花言葉って知ってる? 治療、勇敢、そして君の微笑み!」
 摩琴がガンベルトに備え付けられている薬瓶を割ると、ふわりと草の香りと粉塵が番犬達に纏わり付く。
 七メートル級の触手が緋華の腕を掠るが、その傷は直ぐさま癒えていった。
 ノコギリソウと名付けた摩琴の手製調合薬の守護の力だ。
 ――副作用については、摩琴のみぞ知る。
「回復はボクとクローネさんに任せて! 全力で支えるよ!」
 次々と襲い来る七メートル級の触手によって傷を負う仲間達を癒やして廻る摩琴とクローネ。メディック二名体勢による確実な支えが、この不測の敵を相手にした時、完璧に機能していた。
 戦場を美しく舞い踊り、仲間達を癒やす花びらのオーラを降らせる摩琴。行動阻害を打ち破る破邪の力が仲間達を癒やしていった。
「緋華さん、わたし達もぉ」
「わかった、合わせる」
 リリィと緋華が息を合わせて七メートル級の隙を突く。疾駆する二つの影が荒廃した大地を駆け、刹那の間で肉薄すると二対の流星を描くように、重力の楔を打ち込むがごとき蹴りを放った。
「リリィ――いまだ」
「任せてぇ」
 緋華がその尋常ならざる美貌から『呪い』を放ち七メートル級を捕縛し動きをとれなくすると、その隙を突いてリリィが尋常ならざる怪力によって、七メートル級の触手に溢れた肉体を引き裂き、溢れた生命エネルギーを啜り取った。
 ――狂気が戦場を支配する。
 冒涜的なまでの邪悪さを催すオグン・ソード・ミリシャ。七メートル級ともなればその立ち居姿は凶悪さを段違いに発揮する。
 蝕まれていく心に抗いながら、番犬達は七メートル級を追い込んでいく。
 優勢なれど油断はできず。
 惑星プラブータに降りたって最後に現れた強敵を前に、番犬としての力を最大まで解放していく。
「やらせませんよ!」
 颯音が仲間を庇いその身を盾に触手の食らい付きを受け止める。その身を引き裂くような痛みに歯を食いしばる。
「摩琴!」「任せて!」
 すかさずクローネと摩琴が息を合わせて癒やし支える。二人の支えにより常に番犬達はこの巨大な敵に全力で立ち向かう事ができた。
「リリィ、もう一度だ」
「えぇ、参りましょう」
 緋華とリリィがこの日何度目かになる連携を見せる。美しく描かれる流星は確実に敵の足を止めさせ、続く攻撃を確実に与える礎となっていた。
「ユタカちゃん、一気に決めましょう!」
 ルトゥナが声をあげると同時に、蝙蝠の群れが七メートル級に襲いかかる。嫌がる七メートル級が身を揺らしながら触手を振り回す。叩きつけられた岩盤が破砕し、砂塵が吹き荒れる。
「これで、終いだよ――!」
 虚空切り裂く爪撃が暴れる触手を悉く切り落とし、瞬足のまま駆け抜けるユタカを阻むものは無い。
 魂喰らう渾身の一撃と共に、その鋭き眼光を湛えた目蓋を開く。
 発光する橙の輝きが、七メートルの巨体を貫き切り裂いた。
 聞く者全てを狂気に陥れる断末魔が惑星プラブータの空に響き渡った。刹那の後、七メートルの邪神は一瞬で砂となり消えていく。
 ころりころりと、消えゆく砂の中から宝石のような石が五つ転がった。コギトエルゴスムだ。
「まったく、食い過ぎでござるな」
 いつもの口調に戻ったユタカはコギトエルゴスムを拾い上げると、リリィへと渡す。
「助けに、来たわよぉ」
 リリィは受け取ったそれを大切に箱へとしまい込むのだった――。

●帰還
 戦い終わってゲート付近に設営した拠点へと戻った番犬達は、帰還するための身支度を整えていた。
 いま拠点の中は女子が使う時間だ。颯音はサーヴァントのロゼを残し外で見張りを行っている。
「……何度見ても、見たこともない不思議な、星空だわぁ」
 空をぼんやりと眺めるリリィは地球とはまるで違う星空に感嘆の溜息を漏らす。
「そういえばユタカさんが隠し持ってきた携帯食美味しかったですね」
「バレたときはどうしようかと思ったでござるが、一緒に食べる提案をしてみてよかったでござるな」
 アイカに水のいらないシャンプーを渡しながらユタカは笑う。
 番犬といえど女子だ。身だしなみには余念が無い。汚いまま地球には帰れないとせっせと身支度を整える。
「うーやっぱり水浴びしたかったなぁ~。まさか綺麗な花も、水場もない場所だとは思わなかったよ」
 親友からもらったモフモフ黒猫ぬいぐるみをぎゅ~と抱きしめながら摩琴が愚痴る。
「本当に、なんとかやりくりしてきたけど、水が底を尽きかけたものね」
 ルトゥナが苦笑する。
「地獄の番犬とて、女子は女子。リフレッシュはしたいしな。帰ったらシャワーを浴びたいものだ」
 ロゼを撫でながら緋華が希望を述べると、仲間達は皆頷いた。
「ほら、ぽんずおいでおいで」
 クローネがぽんずを呼び寝かせるとお腹をモフモフと撫でる。
「あー私もしたいです。お師匠さん~おいで~」
 サーヴァントセラピーは任務中その効果をかなり発揮したようだ。一日にの終わりにはこうして皆でサーヴァント達をモフモフと撫で心に癒やしを与えていた。
「拙者も拙者も」
 サーヴァントのお腹に顔をこすりつけるユタカは気持ちよさそうに頬を緩めた。
「そういえば美味しい名物とか、お土産なんにもなかったですね」
「荒廃する前は、いろんな物があったのかなー。見てみたかったな」
 アイカの言葉に摩琴が応えていると、「そろそろ時間ですよ、皆さん」と、外から颯音が声をかけた。「いけないっ」と慌てて荷物を纏める女性陣。
 そうしてしばしの時の後、撤収準備を終えた番犬達はゲートへと辿り着く。
 もう一度、荒廃した惑星プラブータを見渡す。
 グラビティ・チェインが枯渇すればこのような世界の終わりを目にする事になる。地球を同じようにするわけにはいかないと、番犬達は皆思った。
 回収したコギトエルゴスム。新たなる仲間の誕生を願いながら、番犬達はゲートを潜る。
 そうして荒廃した惑星プラブータに別れを告げ、初の地球外戦闘を体験した番犬達は、無事に地球へと帰還するのだった――。

作者:澤見夜行 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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