●
「拳を握れ! 前に出ろ! 我らオーガに撤退の二文字はない!」
指揮者の声に張りはなく、勇ましさが空回りする。
オグン・ソード・ミリシャの圧倒的な再生能力が、オーガの戦士たちが与えるダメージを上回っていた。再生するそばから体は腐り崩れていくが、それでも体はゆっくりと元の姿を取り戻しつつある。
30メートル程度の高さだった異形の化け物は、一度はどろどろの肉塊にまで成り果てていたが、いまや身の下に腐った体液の池を広げながら、いまや40メートルほどの高さに達しようとしている。
退治するオーガの戦士たちは一様に肩から体が前へ下がってきていた。攻撃を予感しながらも、腕は重く、地に鎖でつながれたようにぴくりとも上がらない。
食いしばる歯の間から、恨みとも嘆きともつかぬ唸り声が漏れ出る。
「戦え! 殴り続ければいつかは勝てる!!」
「おー! 復活しなくなるまで倒し尽くすぜ!!」
オーガたちの声をはじき飛ばすかのように、とてつもなく太いオグン・ソード・ミリシャの触手が振り上げられる。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
直後、広い宇宙の淵では例外があることをオーガの戦士たちは小さくなっていく世界の内側で知った。
●
「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)さんが予期していたとおり、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているんだ!」
いま、このときも次々とオーガたちが倒れ、コギトエルゴスム化しているとゼノ・モルス(サキュバスのヘリオライダー・en0206)はケルベロスたちに熱く訴える。
「オウガ遭遇戦で現れたオウガたちは、この襲撃から逃れて地球にやってきていたんだ。詳しい話を、新たにケルベロスとなったオウガのラクシュミさんから説明をしてもらうよ。よく聞いてね」
背後で圧倒的な存在感を放っていた女性が、ゼノの前に進み出てきた。
集まったケルベロスたちを、顔に微笑をたたえて見回す。
「こんにちは、ラクシュミです。
このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。
オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います」
ケルベロスたちが大きくどよめいた。
ラクシュミは軽く腕を上げると、静粛を求めた。ここまでは単なる挨拶、話はここからだ。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。
とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう」
ここまで一気にしゃべりきると、元女神はふう、と小さく息をついた。
しんと静まった間を少し長めに置いてから、再び口を開く。
「このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。
オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
微かなうなずきを受けて、ゼノは前に出た。
ラクシュミの横に並び立つ。
「これは同胞であるケルベロスを救出する戦いだ。持てる力を尽くして一人でも多くの仲間を保護してほしい。それにね、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込んでくるか……地球の危機を未然に防ぐ為にも、この戦いは重要だよ!」
ゼノは用意していた資料をケルベロスたちに配った。
「オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っている。この字様態なら、それほど手こずらないはずだよ。ただ……オグン・ソード・ミリシャの外見は非常に冒涜的で、長く見続けてると狂気に取りつかれてしまうから気を付けて」
戦闘に影響は出ない筈だが、狂気に取り付かれてしまうと軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう場合があるようだ。
そうなったら周りの仲間がフォローするしかない。
「続けるね。オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくる。基本は2m級だが、中には、3~4m級や最大7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があるので、注意が必要だよ」
ゼノが資料を閉じると、待機していたヘリオンの羽が回りだした。
「……きっと、オーガたちはいい仲間になるよ。一緒に戦える日が楽しみだね。さあ、行こう!」
参加者 | |
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コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233) |
リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197) |
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360) |
ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518) |
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591) |
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085) |
雨野・狭霧(黒銀の霧・e42380) |
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215) |
●つかの間の休息
プラブータ星の荒れた大地を照らしていた陽が大きく傾き、刻一刻と空が薄墨色を帯びていく。
ひんやりとした日暮れの気配を妻が持たせてくれた『玻璃の護り』に映しつつ、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)は一人見張りに立っていた。
(「東、異常なし。北、異常なし。西……異常なし」)
岩の上で体をゆっくりと回しながら、指をさしつつ警戒する。
(「南、異常なし」)
背後で火と共に焦げた木片が跳ね、パチパチと耳に快い感触を残す。しばらくすると、食事を用意する仲間たちの声も耳に響いてくるようになった。
「でも、ラクシュミもメロンパン知らなかったみたいだし、オウガって料理に興味ないのかしら?」
ルリィ・シャルラッハロート(スカーレットデスティニー・e21360)が、持ってきたメロンパンをひとつひとつ、各自の鉢皿に配分していく。
「確かにめちゃくちゃになっていたけれど……、私にはどの住居地も生活臭ってものがまるで感じられなかったのよね」
ありがとう、とルリィに小さくお礼を言って、ヒエル・ホノラルム(不器用な守りの拳・e27518)はメロンパンを受け取った。
「そう言えばオウガは修行好きらしい。修行について語り合ってみたいものだ」
キアラ・エスタリン(光放つ蝶の騎士・e36085)は冷たい風に身を震わせると、畳んだ光の翼の上からブランケットを羽織った。
「でも、オウガの修行って……。ただひたすら殴る蹴るしかなさそうですよ」
「ふっ、確かに。だが、連中の事だ。コギトエルゴスムの中でも拳を振るい、足を蹴り上げていそうだな」
焚き火を囲む面々は、ヒエルとキアラのやり取りを聞いて控えめな笑い声をあげた。
誰もがみな、連日の探索と戦闘で疲れきっていた。
コギトエルゴスム化したオウガたちを、それこそ持ち運べないぐらい回収した。倒したオグン・ソード・ミリシャもまた数知れず。だが、まだ一度も無事でいるオウガを見たことがない。風景と一緒に、心まで荒れてしまいそうだ。
「オウガ。考え無しの戦闘民族よ。だが、星を護る為、未知の敵に恐れず立ち向かった勇気は称えよう」
鋳楔・黎鷲(天胤を継ぐ者・e44215)は大きく袖を振るった。長く伸びた影が岩肌の上で踊る。
「見よ、我が霊廟にも似たこの虚しい光景を。……我らの星も、ここと同じ運命にはしたくはないものだな」
雨野・狭霧(黒銀の霧・e42380)は、ポケットアイテムから水を入れた水筒と保存食を取りだした。
小鍋に水を張って火にかける。
「そうですね、黎鷲さんの言うとおりだ。しかし、よもや宇宙にまで行くことになるとは想定外でした。全員で帰れる様、全力を尽くしましょう」
ウルトレス・クレイドルキーパー(虚無の慟哭・e29591)は穏やかな空気に身を置いたまま、色彩の欠けた夜に艶やかに燃える焚火をただなんとなしに見つめていたのだが、狭霧が口にした「宇宙」というワードに気を引かれて顔をあげた。
地球の空とは月の大きさや色、それに星々の配置も違う。オグンソードによって、グラビティを奪われた荒野同様に、空もまた寒々しい。
コマキ・シュヴァルツデーン(謳う銀環・e09233)はドリンクバーで用意したコーヒーを二つ、手に持ってウルトレスの横に腰を下ろした。
カップをひとつ手渡してから、夜空を眺める愛しい人の肩に頬を寄せる。
「ねえUCさん、今日の探索は……あまり成果がなかったね」
「明日、また頑張りましょう。一つ、いや一人でも多く、オウガたちを地球へ連れ帰るために」
だが、仲間のアイテムポケットはほぼ満杯だ。すなわちそれは、用意して来た食料が底を突きかけているということでもある。
プラブータを探索する時間はあまり残されていない。明日にはもう帰還しなくては。
コマキは気分転換にアロマを薫らせた。
「うん、エコバックがいっぱいになるまで頑張ろうね」
ウルトレスはコーヒーを飲み干すと立ち上がった。
「ヴァルトラウテさんと見張りを代わってきます。ごちそうさまでした」
空になったカップを返そうとしたその時、リューディガーが警告の声をあげた。
●最後の戦い
「近いぞ!」
リューディガーは闇に向かって身構えた。
まだ姿は見えないが、風がオグン・ソード・ミリシャ特有の悪臭を運んできた。胸苦しさがはじまって、体が異様な気だるさに包まれる。
「くそ……!」
ぬるり、と大地から湧きだす姿を見て、ゾディアックソードを握る手が微かに震えていた。
――ぬるり、べちゃ。ぬるり、べちゃ。
少しずつ湧き出し、這いずりながら接近してくる。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
狂気の飢えを満たすべく、化け物は遥か高みから怨嗟の言葉が吐き出した。
でかい。二十メートル、いや、三十メートルはある。
銀狼は異星の月に吼えることで気を奮い立たせた。戦いの開始を告げるそれは、同時に駆けつけた仲間たちの力を活性化させた。
ルリィのチェーンソー剣の刃が唸りをあげて回転する。
「出たな、化け物。歓迎するよ、これでも食らえ!」
駆けだしのスピードを保ったまま、強く大地を蹴って飛びあがった。チェーンソー剣を振りかぶり、再生しながらうねる腐蔦――オグン・ソード・ミリシャの筋肉を袈裟掛けに切断する。
ドロドロした赤茶色の体液と肉片が飛び散って白く豊満な胸を穢した。すぐに煙が立ち、柔肌が焦た。あわてて手で払いのけると、その手もまた火傷を負った。
敵の体は度重なる再生によって瘴気が高まり、新たに腐食性を帯びたようだ。この個体だけの進化なのか、それともオグン・ソード・ミリシャと言う種すべてに共通する能力であるのか。ともにゲートをくぐり、この星にやって来た他のケルベロスたちと連絡が取れない以上、この場では分からないことだった。
同時にじゅくじゅくとした切り口から肉の腐ったような臭気が強く、広く放たれ、ケルベロスたちの鼻を瞬時に麻痺させた。
「おえっ……」
臭い、またはその姿からくる狂気によってケルベロスが直接ダメージを受けることはないが、精神的な苦痛は避けられない。多少なりとも動きが鈍る。
それは僅かな兆候だったが、オグン・ソード・ミリシャはケルベロスたちの動きが鈍った機を捉え、体に受けた傷を物ともせず、不届き者が着地する瞬間を狙って太い触手を振るった。
「危ない!」
乾いた地表をはぎ取り砕きながら飛んできた触手は、寸前に庇いに入ったヒエルを打ち据えた。
「……うっ!!」
ガードが僅かに間に合わず、ヒエルは触手をモロに腹に食らった。後ろにしたルリィもろともふっとばされる。
さすがにこれだけの大きさともなると、前日まで相手にしていた二、三メートル級の雑魚とはわけが違うようだ。スピードもさることながら、与えられる威力も桁が違う。
眼前の敵はそれだけ多くのオウガたちを倒し、強くなったいうことだ。
仲間のピンチにキアラの翼が蒼い光を放つ。
『今癒します。蒼の抱擁にて、再び立ち上がる力を!』
大きく広げられたヴァルキュリアの翼から、穏やかなる海のうねりにも似た光波が広がり、倒れているヒエルを優しく包み込んだ。
「すまん、助かった。それにしてもたった一撃が……みんな、当てられないよう気をつけろ」
おう、と答えてウルトレスがベースギターを激しく弾きならす。
「コマキさん!」
「ええ、速攻で片づけましょう」
狂気に捕らわれ体の動きが鈍ってしまうまえに。名状しがたい不快感に喉を塞がれてしまう前に。
覆いかぶさってくる闇を跳ね返さんと、銀環の魔女は指先でルーンを描きながら、声も高らかに歌う。
『棘の無い薔薇は無い、恐ろしさの無い魔女もまた然り!生と死の垣根に立つ女、その末裔を甘く見ないでッ!』
ボーカルラインと対になるように、疾走感のある16ビートにちょっとメロウ気味なベースが乗せられる。ビーム粒子を芯にしてイバラの形を成したエクトプラズムが飛び、うねうねとくねる巨躯に被弾した。
光が突き抜け、茨に縛られた邪神の眷属の血を啜った赤い花弁が暗い荒野に飛び取る。
中腹に穴をあけられたオグン・ソード・ミリシャが、一瞬、固まった。
『お……おおぉ……』
「再生できないので戸惑っているようだな。『そのままそこを動くな。今、その首――らしきものを落としてやろう』」
ケルベロスたちの後ろでまだ燃え続ける小さな焚き火の光が、夜に邪神の眷属の影を作りだしていた。
九字護法を指に挟んだ黎鷲が、色を濃い影にグラビティ・チェインでできた呪いの楔を打ち込んでゆく。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
オグン・ソード・ミリシャは体を激しくくねらせて、呪縛から逃れようと躍起になった。腐肉と吐き気を催す液体が飛び散り、臭いを吸い込んだケルベロスたちの内臓を冷やし固める。
「無駄だ。そう簡単にこの呪いから逃れる事は出来ない」
だから潔く切り倒されろ。黎鷲は仕上げの一本を大地につき刺した。
さあ、やれ、と狭霧を振り返る。
『面倒なんで、テキトーに斬りますよ』
どこが首なのか。錆びの浮いた日本刀を手に観察していたのだが、狭霧にはまったく判別がつかなかった。絡みつきあう数多の触手の中に飢えた目があったような気もしたが、すぐにぬめぬめとした体液で隙間がふさがれて見えなくなった。
狂気に満ちた姿を凝視していたせいか、目の奥に重い塊の存在と頭痛を感じる。
狭霧は己を鼓舞するように一喝すると、おぞましい臭いがさらに強くなるゾーンへと足を踏み入れた。
グラビティを乗せた刃を振るい、邪神の眷属ごと冒涜的な夜そのものをダイナミックに斬り刻む。
「うおぉぉぉっ!」
一振りごとにベチャベチャと汚らしい音をたてて、切り刻まれた肉片が地面に落ちていく。
『魂現拳』はまだ回復支援を受けていないルリィを乗せると、腐肉液の雨が降りかかる前に逃げた。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!!!』
穢れた叫び声とともに、ずたずたになったオグン・ソード・ミリシャの体が再構築していく。身体の一部がハエトリグサのように変化した。
二枚の平たい、巨大な触手が広がりながら逃げる『魂現拳』を追う。
「やらせるか! みんなで地球に、大切な人のところに戻るんだ。新たな仲間たちとともに!」
『裁きの雷鳴』をとどろかせながら、リューディガーが触手をブロックする。
だが、オグン・ソード・ミリシャの恐怖が銀狼の気迫を上回った。痺れながらも葉のような触手を力技で閉じる。中にケルベロスを捉えたまま、空高く振り上げた。
一拍の静止。
次の瞬間、勢いよく獲物を捕らえたハエトリグサを荒野に叩きつける。
草が潰れて割れ、中身が毒の体液とともに飛び出した。
「リューディガー!!」
ヒエルは浄化の気を込めて叫んだ。
●夜明け
回復途中でぐったりと横たわる体に、新たに生えた触手が振り下される。
どう、と大地が揺れて、土の塊と銀狼の体が空を飛んだ。
「下がって! みんな、早く下って!」
キアラは深い悲しみで声を濡らし、デウスエクスたちとの戦いの末に命を落としたケルベロスの英霊を、地球から遠く離れたプラブータ星まで呼び寄せた。
「どうかその深き愛で、傷つき倒れた戦士をお助けください」
寂寞の調べが狂気を退け、仲間たちが受けた傷を癒していく。
『魂現拳』が復活したルリィを乗せて前線に戻ってきた。
三度迫る触手の前でアクセルターン、車体で容赦のない追撃を弾く。
ルリィは『魂現拳』から飛び降りると、リューディガーに手を差し出した。ドイツ語で「しっかりして」と激を飛ばす。
「みんな一緒に帰るんでしょ。こいつをぶっとばして!!」
引き起こして『魂現拳』に乗せ、ヒエルが待つ後方へ送った。
「よくもやってくれたわね」
首から下げたスカーレット・ムーンが揺れ、残像が三つに分裂する。
『お前には分かるまい! 私の身体を通して出る力が! 滅殺!!』
三方向からほぼ同時に、オグン・ソード・ミリシャに向け衝撃波が放たれた。
回転するチェーンソー剣の刃が、忌まわしき者の体を削る、削る、削る!
三十メートルはあった巨体がやせ細り、ずぶずぶと沈んでいく。
それでも、しかし――。
オグン・ソード・ミリシャの体は依然として十メートルを超えている。グラビティ・チェインによって、驚異的な再生能力を封じられているとはいえ、まだ余力を残していた。体の一部に腐液を溜めて膨らませて、不吉な果実を全身に実らせる。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
怨嗟の叫び声に震えて殻が割れて、狂気に満ちる禍々しい光が四方に放たれた。魔光はケルベロスたちの体を貫いて、大地を穿って腐らせた。
『サイレンナイッ フィーバァァァァッ――!!』
ウルトレスがかき鳴らすベースから疾走感溢れるデスラッシュ・サウンドが流れ出る。
音は弱った細胞に活力を入れたばかりか、ゆっくりと夜の幕をおしあげて、荒野に朝日を呼び込んだ。コマキが狂気に陥りかけて流した涙を、朝の輝かしい光が焼き消す。
「コマキさん、歌って」
「ごめんなさい、私……」
「大丈夫。貴女は聡明な魔女。そして一番大切なひと。最後まで一緒に、いや、この戦いに勝って地球に戻りましょう」
魔女は邪神の眷属の前に立った。頭に光の輪を乗せて、高らかに約束された勝利を歌う。
空気が震えて朝靄に無数の「虚無球体」が沸き起こった。オグン・ソード・ミリシャの体にまとわりつき、触れた端から壊れて丸く腐肉を削りとっていく。
「あとひと踏ん張りだ!」
銀狼の遠吠えが朝の空に流星を走らせる。
黎鷲は精神を極限まで集中させて、胸の前で印を組み結んだ指にグラビティ・チェインを溜めた。
滅びに抗うオグン・ソード・ミリシャがほどけていく体の一部を触手として振るおうとしたその時、かっと目を見開いて精神波を飛ばした。
メディックとして回復支援に集中していたキアラの頭に影が差したのは一瞬の事で、その上にあった触手は跡形もなく吹き飛ばされていた。一滴の腐酸液も落とさず。
キアラは黎鷲を振り返ると、感謝の微笑みを浮かべた。
朝の風に背を押され、黒銀髪の鬼が虚ろな大地を駆ける。
――呪怨斬月。
狭霧が手にする数々の血で濡れ錆びし日本刀が、美しくも呪わしい軌跡を描いてオグン・ソード・ミリシャを切り倒した。
腐り溶けた体が、大地に染み込んでゆく。
辛くもケルベロスたちは巨大オグン・ソード・ミリシャとの戦いに勝利した。
ウルトレスとコマキが手と手を取りあって、大地に落ちたコギトエルゴスムを拾い集める。ひとつひとつ、慈しみながら。
オウガのコギトエルゴスムは勝利を称えるかのように、二人の手の中で朝日を弾いて輝いていた。
作者:そうすけ |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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