オグン・ソード・ミリシャ~見知らぬ戦場プラブータ

作者:陸野蛍

●強き意志と肥大する狂気
「……これで、どうだーっ!」
 全身傷だらけのオウガが振るった剣はその化け物――オウガ達にはそうとしか思えなかった――を真一文字に切り裂いた。
「倒しても復活するなら……復活しなくなるまで切り刻む!」
「待て! 後ろだ!」
 仲間のオウガの声が聞こえた次の瞬間、彼はグチャグチャに潰れた化け物から再生した触手で背中を貫かれていた。
「回復出来る者! 手を休めるな! 我等オウガが負けることは無い!」
「そうだ! 倒せば強くなる? それならば、それ以上の強さを見せよ!」
「立って拳を振え! 強敵を倒してこそオウガだ!」
 オウガ達は相対する20mの化け物が30mの大きさになっても一切引くことは無かった。
 40mの大きさになっても勝ち続ける意志を持ち続けた。
 だが、化け物が50m……60mを超えた頃、その戦場には幾つものオウガ達のコギトエルゴスムが転がっていた。
『おぐん そーど ほろわろ りむがんと みりしゃ なうぐりふ!』
 化け物の鳴き声だけが戦場に響き続けた……。

●オウガとオグン・ソード・ミリシャ
「みんな、集まったな。先日現れた『オウガ』について有力な情報が得られた。これから、俺達がやらなければいけないことも決まった。しっかり聞いてほしい」
 ヘリポートに集まったケルベロス達を見渡すと、大淀・雄大(太陽の花のヘリオライダー・en0056)は真摯な声で言葉を続ける。
「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していたんだけど、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているらしいんだ。オウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやって来た、グラビティ・チェイン枯渇状態のオウガ達だったって訳だ。詳しくは、オウガのラクシュミから説明をしてもらう。ラクシュミ」
 雄大が名を呼ぶとオウガの『女神』いや『ケルベロス』となったラクシュミが静かに一歩前に出、口を開く。
「こんにちは、ラクシュミです。このたび、定命化によってケルベロスとなる事ができたので、皆さんの仲間になる事ができました。オウガの女神としての、強大な力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています。オウガ種族は戦闘を繰り返し成長限界に達していた戦士も多かったですので、ケルベロスになる事ができれば、きっと、私と同じように感じてくれる事でしょう。皆さんに確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だと思います」
 麗しい外見とは真逆の強くなれることの喜びに柔らかく微笑むラクシュミ。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、全てのオウガ達がコギトエルゴスム化させられてしまいました。オグン・ソード・ミリシャの戦闘力は、初期時点ではそれほど高くないのですが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ為、オウガの戦士にとって致命的に相性の悪い敵だったのです。とにかく殴って倒す。再生しても殴って倒す。より強くなっても殴って倒す……を繰り返した結果、地球に脱出したオウガ以外のオウガは全て敗北してコギトエルゴスム化してしまったのですから。……地球に脱出したオウガも、逃走したわけではなく、オグン・ソード・ミリシャにグラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて、コギトエルゴスム化した事でしょう」
 淡々と自身の種族に起こった悲劇……事実をラクシュミは語るが笑顔を崩さず、希望の言葉を続けていく。
「このように、オウガとオグン・ソード・ミリシャの相性は最悪でしたが、ケルベロスとオグン・ソード・ミリシャの相性は最高に良いものになっています。ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまうのです。オウガの戦士との戦いで強大化した、オグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います。オウガのゲートが、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しましたので、一緒にプラブータに向かいましょう」
 その言葉は、ケルベロス達には衝撃的だったかもしれない。
 ラクシュミはケルベロスとなったとはいえ、現在まだデウスエクスであるオウガの主星へ向かおうと言うのだから。
 微笑むラクシュミを横に見ながら、雄大が更に説明する。
「ラクシュミが、ケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスになる可能性は非常に高い。この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いだと思ってくれていい。それに、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込んで来るか分かったものじゃない。オウガを救い、地球の危機を未然に防ぐ。その為にも、この戦いは重要になる。みんな覚悟を決めてくれ」
 デウスエクスの一種族丸ごとが定命化するのは『第二次侵攻』以降だとヴァルキュリア、そしてケルベロスこそ生まれなかったがローカストに続く事例になる。
 ケルベロス達の胸にも新たな仲間を得られるチャンスへの期待が広がって行く。
「オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っていて、それほど強敵じゃない。外見は、非常に冒涜的で、長く見続けた場合、狂気に取り込まれることになるので、気を付けて欲しい。具体的には、戦闘に影響が出る程じゃないけど、軽い錯乱状態となり、おかしな行動をとってしまう場合もあるみたいだ。仲間がそうなったら、周りのみんながフォローするようにしてくれ」
 戦闘に支障が出る程では無くとも、侵食してくる狂気と言うのは厄介なものに違いない。
「オグン・ソード・ミリシャは、攻性植物に近い戦闘方法と触手を利用した攻撃等を繰り出してくる。基本は2m級だけど、中には、3~4m級や最大7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性があるから、注意は怠らないようにしてくれな」
 遭遇するオグン・ソード・ミリシャが特定出来ない以上、個別戦闘能力があったとしても、対応は現場判断になるとのことだ。
「オウガは、脳筋……いやいや、戦闘種族だけあって、きっと俺達の力強い仲間になってくれるだろう!」
 ラクシュミの視線に気づいた雄大が言葉を詰まらせながらも力強く言う。
「邪神クルウルクの復活とかも冗談じゃないし! 戦場は『惑星プラブータ』!! 作戦目的はオウガのコギトエルゴスムの回収と障害になるであろうオグン・ソード・ミリシャの撃破! ヘリオンは岡山県の巨石遺跡に向かう! 準備の出来たケルベロスから、ヘリオンに乗ってくれ! 頼むぜみんな!!」
 強く叫ぶと雄大はヘリオンへと駆け、離陸準備を始めた。


参加者
ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)
ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)
シルディ・ガード(平和への祈り・e05020)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
リーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
リティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710)
アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)

■リプレイ

●惑星プラブータ
 岡山県の巨石遺跡に隠されていた『オウガのゲート』を使い、足を踏み入れたオウガの惑星『プラブータ』……オグン・ソード・ミリシャによって滅ぼされた惑星は、空に希望の光も見えず、大地もグラビティ・チェインが枯れ果て、荒野と化していた。
 この地に来るまで、新しい土地での探索に気持ちが高揚していた者も少なくなかっただろう。
 だが、そんな気持ちも惑星単位でグラビティ・チェインが尽きることの本当の意味を初めて目にし、皆、程無く収まっていった。
 何より、この枯れ果てた土地にコギトエルゴスム化し打ち捨てられた、オウガ達を種族として救うことが、今回、この地に赴いた目的だとケルベロス達は再認識していた。

●荒れた世界
「初めての地球外の作戦、まさか本当に他の星に行くことが出来るとは思っていませんでしたが、この有様を見てしまうと、グラビティ・チェインの枯渇で理性を失ってしまうと言うのも納得するしかありませんね……」
 言葉の最後に小さく『……一人でも多く救い出しましょう』と呟くと、ティオ・ウエインシュート(静かに暮らしたい村娘・e03129)は、仲間達の衛生面を考え、衣服や武装の汚れを落とす。
 初めての土地、どんな風土病があるか分からない――惑星自体にグラビティ・チェインが殆ど無い以上、病が感染する力すらあるかも不明だが――衛生的で居ることは、探索中の精神面にも影響が出る。特にこのチームの半数は女性である。身体を洗うことは不可能でも少しでも身綺麗には、しておきたい。
 彼等のチームは現在、ライゼル・ノアール(仮面ライダーチェイン・e04196)の創った『巣』と言う名の休憩ポイントで身体を休めていた。
 彼等の探索方針は数日の探索期間、可能な限り同じサイクルで、休憩を取り、食事も3食欠かすことなく、自分達のグラビティ・チェインを常に万全な状態に保っておくと言うものだった。
 夜の見張りも交代制にし睡眠時間も十分確保している。
 昨晩、3m級のオグン・ソード・ミリシャの夜襲があったが、初めての惑星でもベスト・コンディションを維持していた彼等は、難なく撃破することが出来た。
「シルディ、何を見ているの?」
 探索にも糖分が必要と持参した芋羊羹を片手にリティ・ニクソン(沈黙の魔女・e29710) が、何かノートを見ているシルディ・ガード(平和への祈り・e05020)に話しかける。
「夜書いた絵日記を見てたんだよ……と言っても、正直書くことは多くないよね」
 渋い笑顔を見せ、シルディが答える。
「辺りは一面の荒野。遭遇するのは冒涜的と言われていた、気持ち悪いオグン・ソード・ミリシャだけ。空の変化も殆ど無いし、少し肌寒いってことくらいかな? けど、オグン・ソード・ミリシャの傍には高確率で、オウガのコギトエルゴスムがあったよね?」
 彼等は既にオグン・ソード・ミリシャと数度戦闘を行っていたし、その都度周囲に転がっていた、オウガのコギトエルゴスムを回収していた。
 コギトエルゴスムになってしまえば、それ以上傷つくことも無ければ、移動することも適わない。
 60m以上の大きさに1度育った、オグン・ソード・ミリシャの傍にウーガの戦士達がコギトエルゴスムと化していたのも当然だろう。
 オグン・ソード・ミリシャは、デウスエクスと違い倒せば倒すだけ強く大きくなる……コギトエルゴスムになることは無い。
 デウスエクス同士の戦争とは様相が違ったのだ……簡単に言えば、理屈上倒せない相手とオウガ達は戦っていたのだ。
 ケルベロスがオグン・ソード・ミリシャを倒すことが出来るのは、デウスエクスでは無い為、止めを刺すことが出来るからだ。
 クルウルクからしてみれば、どちらかと言うと、こちらの方がイレギュラーなことだろう。
 そして回収した、オウガのコギトエルゴスムは、アシュリー・ハービンジャー(ヴァンガードメイデン・e33253)が纏めて預かっている。
 そのアシュリ―の隣でカップを抱え温かい飲み物を飲んでいるのは、八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)だ。
(「初めての場所、少し不安が無いと言えば嘘になりますが、頼りになる方達の為にも、頑張りましょう。アシュリーもライ兄さんも側にいてくれます。私は狂気になんて呑まれません」)
「鎮紅大丈夫か? リーナさんと交代しながらとはいえ、気流を張っての先行を担当してるんだ。疲れが出てないか?」
「大丈夫です。アシュリー」
 彼らのチームは探索進行にあたっても万全を期すようにしていた。
 気配を消す気流を操れる、鎮紅とリーナ・スノーライト(マギアアサシン・e16540) が常に警戒し、索敵や先行偵察もしている。
 その2人の様子を見ながら、ライゼルは心に誓う。
(「うん、僕の妹の為に、全てこの鎖の拳で粉砕するしかないな!」)
 考え方は若干脳筋のようだが、ライゼルに取っても見知らぬ土地、油断がある訳ではない。
 地球とは離れた土地だ、重傷を負うことで命の危険に晒されることも考えられるし、暴走など出来る筈も無いのだから。
 ゲートを通って此処まで来たとは言え、ゲートの全容が解明されている訳でもなく、一度通れたから次があるとも限らないし、ゲートが使用不可能になってしまえばピラーを通ることが出来なくなり、地球とどれだけ離れているとも知れない惑星に取り残されたら最後、救いは無いだろう。
「だけどさ、味方が増えるなんて貴重な機会だし、気合入れてオウガ達の救出続けねえとな!」
 相棒のミミック『ガジガジ』を横に、持って来たアウトドアグッズの再点検をしながら、百丸・千助(刃己合研・e05330)が言う。
(「それにしても地球を出ての作戦、ワクワクしてたんだけどな。見る物見る物初めてな物ばかりだけど、ほぼ荒野で……地球もドラゴンとかにグラビティ・チェインを全部取られたらこうなるのかな? ……油断出来ないぜ」)
 そして、千助は、初めて見たこの光景を目に焼き付けることを心に刻む。
 その時だった……。
 影に紛れて仲間の少女、リーナが姿を現した。
「……みんな、少し行った先。……オグン・ソード・ミリシャ……いた、よ……ただ」
「ただ?」
 記録用のカメラを携えながら、リティがリーナの次の言葉を促す。
「今まで見た中で、1番……大きい、よ。……多分、あれが7m級……。あと、3m級が、2体いたから……油断出来ないと、思う、よ」
「オウガさんのコギトエルゴスムは?」
 ティオの問いに、リーナは無言で頷く。
「行こう! 1人でも多くのオウガさんを助けなくちゃだよ!」
 シルディの言葉に仲間達は、力強く頷いた。

●邪神クルウルクの眷属『オグン・ソード・ミリシャ』
「Get Ready! Get Set! ――Go!!」
 叫びと共にライドキャリバー『ラムレイ』に騎乗したアシュリ―の『砲槍ロンゴミニアド』による、『さきがけの一撃』が7m級オグン・ソード・ミリシャに決まる。
『みりしゃ かるする ぷらぶーた なうぐりふ!』
 アシュリ―が槍を引き抜けば、どす黒い体液を体内から吐き出し、オグン・ソード・ミリシャは、意味が分からない鳴き声を上げる。
「何度見ても冒涜的……悪趣味な生き物ですね」
「攻性植物に近いと言っても……こちらの方が、よっぽど悪趣味ですよね。――断ち切るッ!」
 3m級に月弧の軌跡を描いた剣閃を浴びせながら、鎮紅もアシュリ―の言葉に同意する。
「敵戦力確認……データベース照合……火器管制システム、アップデート完了。最新パッチ、配信します」
 無機質な声で仲間達の集中力を高めるドローンを飛ばしながら、リティは7m級の周りに散らばっている、コギトエルゴスムを確認する。
(「……23、いえ24……8人1小隊で戦っていたとすれば、3小隊がこの個体に倒されたことになる。……時間が経っても7m級までしか小さくならなかった訳ね。……ボーナスステージだと思って、オウガのコギトエルゴスムを一気に回収させてもらうわ」)
「変身! 仮面ライダーチェイン! 星が変わろうがボクの力に変わりは無い! 全ての果てに展開せし鎖。それは支配ではなく天の抱擁。蔽え!」
 勇ましくバトルフォームへ変身するとライゼルは、地獄化した左腕から激の鎖、そして……冷え切った涙から静の鎖。2本の鎖を展開し、絡み合わせると炎と氷の力を反転させ、3m級を薙ぐように弾き飛ばす。
「……ん、邪神の僕……全て刈らないと、地球も危ない、かな。7m級……強敵だよ、ね。3m級は、先に……消させてもらうよ。集え力……。わたしの全てを以て討ち滅ぼす…! 滅せよ……黒滅の閃光!!」
 仲間達すら気づかぬ隙に3m級の死角を取ったリーナは、戦闘域に散らばる僅かに残った『プラブータ』のグラビティ・チェインを自身へと集束させ、自身の魔力と結合させるとその全てを媒体たる刃に込めて、3m級に至近距離から一気に莫大な魔力砲撃としてを放出する。
 だが、莫大な力を見せたリーナを7m級が見逃さなかった。
 見ているだけで何とも言いようのない不安や、深潭の声を呼び起こされそうな触手を持って、リーナを串刺しにしようとする。
『ガギッ!』
「そうは、いかないんだよ!」
 咄嗟にシルディが割って入り、柄にシルディとお揃いののリボンが付いた竜槌で7m級の攻撃を防ぐ。
「まだ、沢山のオウガさんを助けなくちゃなんだよ! だから、傷付いてなんていられないんだよ! ……その口より溢れる紅蓮の炎にて彼のものを守り給え!」
 シルディがそう口にすると、『ポンっ』という可愛らしい音と共に小さな火トカゲさんが姿を現すと、姿を変えティオを守る盾となる。
「気乗りしねえけど、オグン・ソード・ミリシャ! お前の姿も覚えておいてやるぜ!」
『後学の為にな!』その言葉が終わらぬ内に、千助は3m級に流星の輝きを纏った蹴りを放つ。
「言っておきますが、私達はオウガさん達より弱い。でも、オウガさん達より手強いです!」
 納刀した刀を瞬時に抜刀すると、言葉を残して3m級を切り捨てる、ティオ。
「7m級さんは、こう簡単にいかないんでしょうね」
 ティオの視線の先、7m級オグン・ソード・ミリシャは、紫色の体液と闇色の靄を出しながら、うにょにょと蛇のように、毒虫のようにその巨大な身体を蠢かせていた。
『みあ みあ おぐん そーど! みあ みあ おぐん そーど!』
 醜悪な音が戦場に響く。

●駆逐……惑星探索は続く
「その痛みも苦しみも焼き捨てる!」
 霊力を込め癒しの炎へと変えた竜の息を千助が鎮紅に向かって吹けば、その炎が彼女の傷を燃やし癒す。
『みりしゃ みあ おぐん そーど ぬい くるうるく!』
「……それ以上、見るな! 僕のそばまで下がれ!」
 バスターライフル『グラティサント』から、凍結光線を放ちながら、大切な人である『鎮紅』が狂気に呑まれないように声をあげる、アシュリ―。
「……大丈夫です。私もケルベロスです……オグン・ソード・ミリシャの狂気になんて呑まれません。そして、下がる訳にもいかないんですっ!」
 青ざめた表情にも強い意志を炎のように瞳にたぎらせ、鎮紅は地獄の炎と混沌の水を同時に身に纏う。
「この身に代えても。其の全てを、断ち切ります」
 鎮紅の放った斬撃は、オグン・ソード・ミリシャの幹とも言える茎のような部分に大きな傷を作る。
 戦闘開始から、9分。
 3m級2体を倒すのに、それほど手間を取ることは無かったが、7m級のオグン・ソード・ミリシャは、十分な強敵と言えた。
 それこそ、60mまで育てばデウスエクスであった、オウガの1小隊を軽く倒すことが出来た化け物だ。
 オグン・ソード・ミリシャが10分の1程度まで能力が落ちた所で『デウスエクス・プラブータ』とケルベロスではやはり、戦闘力に差がある。
 8人の誰か1人でも油断すれば、あっという間に窮地に陥りかねない。
 そして、その冒涜的な外観と放たれる瘴気は、狂気にこそ取り込まれる者はまだ居ないが、常に不快感を感じ続けながら戦っている様な感覚をケルベロス達に与えていた。
「これ以上、長期戦になったら不利だね。もう1度力を貸してなんだよっ」
 シルディがオオアリクイの形に擬態したオウガメタルに言葉をかけると白銀の粒子が、ケルベロス達を包む。
「邪悪な神の僕……貴方の命、ここで刈り取る……!」
 漆黒の短剣『魔宝刃ファフニール』をオグン・ソード・ミリシャの傷口に無理矢理差し込むと、リーナは一気に切り裂く。
「狂気を生みだすオグン・ソード・ミリシャ……興味深いけど、負けられないの」
 雷杖から少しでも仲間達の精神の助けになればと、癒しの雷を放ちながら、リティが呟く。
「オウガは俺達の仲間になるんだぜ! だから、オウガの故郷に、お前達みたいなのが居ちゃ、オウガの皆が安心して地球に来れねえよな!」
 空をも断ずる斬撃を放ちながら、千助が叫ぶ。
「私も、そう思います。1人でも多くのオウガさんを救う為、少しでも多くのあなた達に消えてもらいます」
 千助の斬撃を逆手でなぞるように、ティオも刀を一閃する。
「これで終わりだ。オウガもこの星もクルウルクの好きにはさせない! 喰らえっ! ワイルドバーンの一撃!」
 ライゼルの打ち出した、パワー重視の巨斧の一撃を受けた7m級オグン・ソード・ミリシャは、ゆっくりと横に倒れた。
 醜悪な臭いを出し、溶けるように荒れた大地に呑み込まれるように消えていく、オグン・ソード・ミリシャ。
 ケルベロス達は、ほっと一息吐くと、それぞれの周りに散らばった、オウガのコギトエルゴスムを1つずつ拾っていく。
 この戦闘が終わりでは無い、回復と休息を済ませたら、また探索を続けなければならない……まだまだ、気は抜けない。

●新たな地球の仲間を連れて
 7m級にこそ二度会うことは無かったが、ケルベロス達はこの後も数度のオグン・ソード・ミリシャと戦闘を行うことになる。
 だが、休息と食事を挟みバランス良く探索することで、効率よく――順調にと言っていいだろう――オウガのコギトエルゴスムを回収した彼等がやがて惑星プラブータを後にする時には、かなりの数のオウガのコギトエルゴスムを持ち帰ることになる。
 果たして、この神の石から生まれ出でるケルベロスは、どんな戦士だろうか?
 彼等と会える日はそう遠くないだろう。
『デウスエクス・プラブータ』ではない、地球の同胞たるオウガである彼等に……。

作者:陸野蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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