オグン・ソード・ミリシャ~慄然たる異形の肉塊

作者:寅杜柳

●剛力と狂気
 遠い、遠い、どこかにあるオウガの世界。
 プラブータという名のその地でオウガの戦士達がその力を振るっていた。
 対峙するのは30メートルほどの巨体を持つ、忌まわしくもおぞましい肉塊。
 その巨体にも臆することなく戦士達は飛び込み触手を躱し、振り払い本体と思しき部位に拳を叩き込む。
 奇妙な動作で痙攣したその肉塊は力なくその場に崩れ落ちる。
「やったな!」
 戦士の一人が声を上げる。勝利の喜びに戦士たちが浸ろうとした時、肉塊が蠕動する。
 奇怪で名状し難い生物的な異音を発しながら、その死骸から巨大な肉塊が生える。その大きさは先程オウガが倒したそれより一回り大きい。
 それはどこかオウガ達への哄笑にも似た音を発しながら、その慄然たる姿を蠢めかせオウガ達へと這い寄る。
「……復活しようが殴り続ければいつかは死ぬだろう!」
「強くなったのなら強敵と戦えるいい機会だしな!」
 誰かが口にする必要もなかったか、オウガの戦士たちは再びその肉塊、オグン・ソード・ミリシャへと飛びかかっていく。

 ――数刻後、最後まで立っていたオウガの戦士が触手に貫かれ、その場にはコギトエルゴスムが八つ、転がっていた。

「ステイン・カツオ(剛拳・e04948)が予期していたんだが、クルウルク勢力がオウガの主星『プラブータ』を襲撃し、オウガの戦士達を蹂躙しているみたいなんだ」
 集まったケルベロス達に雨河・知香(白熊ヘリオライダー・en0259)が告げる。
「どうも先日のオウガ遭遇戦で現れたオウガ達は、この襲撃から逃れて地球にやってきていたみたいなんだ。詳しい所は新しくケルベロスになった彼女に説明をお願いしたい」
 知香に促された女性、かつてオウガの女神だったラクシュミが次いで説明を始める。
「こんにちは、ラクシュミです。定命化によってケルベロスになり、皆さんの仲間になることができました。オウガの女神としての力は失ってしまいましたが、これからまた、成長して強くなる事が出来ると思うと、とてもワクワクしています」
 オウガ種族は成長限界に達していた戦士も多く、ケルベロスになれればきっと同じように感じるだろう、そして確保して頂いた、コギトエルゴスム化したオウガも、復活すればケルベロスになるのは確実だろうと彼女は言う。
「ここからが本題なのですが、オウガの主星だったプラブータは、邪神クルウルクの眷属である『オグン・ソード・ミリシャ』に蹂躙されて、地球に脱出したオウガ以外は全て敗北し、コギトエルゴスム化させられてしまいました」
 沈痛な表情で彼女が言うには、初期時点ではそれほど強くないが、『撃破されると周囲のグラビティ・チェインを奪い、より強力な姿で再生する』という能力を持つ、再生しようと強化しようととにかく殴り倒すスタイルのオウガには致命的に相性の悪い相手だったらしい。
「地球に脱出してきたオウガ達も、逃走したわけではなく、グラビティ・チェインを略奪された為に飢餓状態となり理性を失い、食欲に導かれるまま地球にやってきたのです。……彼らも、理性さえ残っていれば、最後まで戦い続けて同じようになっていたでしょう」
 けれども、とラクシュミが言った。
「ケルベロスの攻撃で撃破されたオグン・ソード・ミリシャは、再生する事も出来ずに消滅してしまう、オウガとは逆に最高の相性になっています。そして、強大化したオグン・ソード・ミリシャも、今頃は力を失って元の姿に戻っていると思います」
 オウガのゲートは、岡山県の巨石遺跡に隠されている事も判明しました。ですので、一緒にプラブータに向かいましょう。そう、ラクシュミは告げた。
「ラクシュミがケルベロスとなった事から、コギトエルゴスム化しているオウガ達がケルベロスとなる可能性は非常に高い」
 ラクシュミに変わって知香が言葉を続ける。
「この戦いは、デウスエクスとしてのオウガを救出する為の戦いでは無く、同胞であるケルベロスを救出する戦いとなる。それに、プラブータを邪神クルウルク勢力の制圧下においたままだと、いつ邪神が復活して地球に攻め込むかわかったもんじゃない」
 同胞たるケルベロスを救い、地球の危機を未然に防ぐ。その為に今回の戦いは重要となるだろう、と知香は言って、敵の説明を始める。
「オグン・ソード・ミリシャの多くは、体長2m程度の初期状態に戻っており、それほど強敵ではない。ただ、中には、3~4m級や最大7m級のオグン・ソード・ミリシャも存在する可能性はあるから注意は必要だろう。攻撃手段は攻性植物に近いものと、触手を利用したものを使ってくるみたいだ」
 それから、と微妙に顔をしかめつつ彼女は続ける。
「敵の見た目なんだが、非常にこう、名状し難いというか、冒涜的? とにかく長く見続けてると、狂気にやられそうになるから気を付けてくれ。戦闘には影響は出ない筈だが、軽い錯乱状態となっておかしな行動をとってしまうかもしれない」
 そうなったら仲間がフォローしてくれ、と知香は説明を終える。
「地球ではない場所での戦いは大変かもしれない。オウガもその……ちょっとばかり力任せすぎるようだが、助け出せればきっと心強い仲間になってくれるはずだ」
 大変かもしれないがよろしく頼んだ、と知香は締め括り、ケルベロス達を送り出した。


参加者
神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)
橙寺・太陽(太陽戦士プロミネンス・e02846)
タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)
マイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)
朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)
四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)
シャーロット・ファイアチャイルド(炎と踊る少女・e39714)
水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)

■リプレイ

●剛力の痕
 オウガの主星、プラブータ。
 広大なその星の一角、おそらくオウガが戦った痕であろう窪地で夜営するケルベロス達がいた。
 朔夜月・澪歌(ヒトリシズカ・e18093)が展開した巣作りによる拠点は、敵を排除した後の荒れた場所であってもケルベロス達に癒やしの時間を与える。木々等でのカモフラージュは荒野では逆に目立つものの、窪地であるため恐らくは見つからないだろう。
 そんな拠点に神楽火・皇士朗(破天快刀・e00777)と太陽モチーフの全身強化外骨格を纏う橙寺・太陽(太陽戦士プロミネンス・e02846)が周辺の見張りから帰還する。
「宇宙服とか無しで別の星で動けるとは思わなかった」
 プラブータに来てある程度時間が経ったものの、別の星で普通に生きて活動できている自分自身への驚きはまだある。
(「もしケルベロスではない人生があったとしたら宇宙飛行士になりたいと思ったこともあるが……これは少々段階を飛ばしすぎだな」)
 アリアドネの糸の残る、歩んできた道を振り返り、皇士朗は思った。
「宇宙でカレーを食べるなんてなかなかできないよ!」
 見張りから帰ってきた二人に告げられた今晩のメニューはカレー。シャーロット・ファイアチャイルド(炎と踊る少女・e39714)が準備していた材料と調理器具で作られたその味は、レーション続きの舌に染み渡る。仲間達と共に作り、味わう、そんな日常的な感覚こそが恐怖に打ち勝つ手段なのだと彼女は本能的に知っている。
「はい。ドリンクどうぞ♪」
 見張りから戻ってきた二人に、水町・サテラ(サキュバスのブラックウィザード・e44573)がごく自然な動作で胸元からドリンクバーの飲料を差し出す。
 露出の多い黒タイツの軽装もあいまって、目の遣り所に困りつつ受け取る。
「……柄にもない事するもんじゃないわ」
 サテラが小声で呟く。初の地球外任務に胸の中は不安でいっぱいだが、やれるだけの事をやって帰還する。その為に空気を和ませようとした努力は仲間達には伝わっているようだ。
 そしてそのまま中断前に行っていた四方堂・幽梨(義狂剣鬼・e25168)との情報とアイテムの整理と報告書の記述に舞い戻る。探索中に撮影した写真やメモは異星という環境もあって、存外に多い。
 ちなみにカレー作りの際にテキパキ動き活躍していたのも幽梨(義狂剣鬼・e25168)だったりする。誤解されがちだが、彼女は炊事を趣味としており、いい雰囲気を作ろうと頑張った結果だ。
「それにしてもこんな植物もあるなんて、異星は地球とはまた別の生態系ができてるんですね」
 報告書の試料の一つとして、探索の最中にみつけて収穫したスパイシーな香りの果実を眺め、タンザナイト・ディープブルー(流れ落ち星・e03342)は明るく言う。
 そんな風に、探索の中のある夜は過ぎていった。

 翌朝。
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……まぁ、蛇しか居ないんだろうけどね』
 幽梨がどこかげんなりしたように言い、偵察に向かう。シャーロットも偵察班、サーマルスキャナーで遠くの熱源や影を確認しつつ、不用意な戦闘を避けるように警戒している。
 偵察班は隠密行動の為の防具特徴を活用している。集落や建物のない一面の荒野で、捜索の検討もつけ辛かったが、戦闘の痕跡はあり、その辺りにはいくつかのコギトエルゴスムもあった。派手な破壊跡の捜索には動物変身で小型の白獅子の姿になったタンザナイトが潜り込み、回収していく。
 待機班のヒナタも空を舞うが、見晴らしの良すぎる地形のせいか、主とあまり視界は変わらないようだ。
「やっぱ地球とは全然違う景色やなー。何光年くらい離れとるんかなー?」
 呑気に澪歌が傍にいる皇士朗に言う。
(「……もし迷子になったりしたら……ううん、弱気になったらアカン。皇士朗さんもおるし、絶対大丈夫や」)
 不安を振り払うように澪歌は頭を振り、傍らの真剣な表情の皇士朗を見る。
(「この一歩がいつか人類にとって偉大な飛躍だったと語られるようにするため、必ずオウガを救出し、全員無事に帰還しよう」)
 プラブータに到着した際に皇士朗が抱いた想いの通り、既に多くのオウガのコギトエルゴスムを回収している。少しでも見落としの無いように、多くを救うために彼は気合十分だ。
 そこに偵察班の一人であるマイア・ヴェルナテッド(咲き乱れる結晶華・e14079)が帰還し、隠密気流を解除する。他の偵察班のメンバーも少し遅れて全員戻ってくる。
「やっぱり孤立しているデウスエクスはもう、粗方倒してしまっているみたいね」
 敵の目を避けて偵察する中で回収できたコギトエルゴスムもそれなりにあったが、大部分は近くにオグン・ソード・ミリシャがいる状態。そんな中で比較的小型で数の少ない孤立している個体を慎重に選び、被害を最小限に抑え撃破し探索していたが、残すはそれなりの数のいる群のみとなっていた。
(「外宇宙のしかもデウスエクスの本拠なんて滅多に行けるものじゃないし、面白いものがいろいろ見つかりそうなものだけども」)
 見渡す限りの荒野、そして所々に聳え立つ冒涜的な存在のみ。マイアにとって面白そうな物は見つかっていない。
(「こんな環境になっているのも周囲からグラビティ・チェインを吸収したから、かしら」)
 自身の魔術的な経験から推測するも、それが事実かは不明だ。
「あっちの方……あの岩の影、何かいるかも」
 偵察に向かっていた方角と別の方へと視線を向けたシャーロットが言った。
 そこから這い出てきたのは長身のタンザナイトよりも少しばかり大きな肉塊が四体、それらより一回り大きい個体が二体。どこか古ぶるしい邪教の神殿の柱にも見えるそれらは、明確にこちらに向かってきている様子だ。
 これは迎撃あるのみ、そう判断したケルベロス達は各々の武器を構え、戦闘を開始した。

●狂気の眷属
「この身に刻みし名の下に集え衛星。雷を纏いて降り注げ!」
 サテラが擬似衛星を作成し打ち上げる。その衛星は天頂で反転、雷を纏って肉塊へと降り注ぐ。それに続いてシャーロットが青いドレスを翻し、ミサイルの弾幕を展開する。
 その間に太陽の全身に魔神の紋が広がり、戦の為の力を湧き出させる。
「我が身、是空と也……色ぞ風花の如く舞い踊り……泡沫が如く空と為せ……」
 幽梨が祝詞を口にし、黒鈴蘭に霊気を乗せて裂帛の気合と共に剣圧波を放つ。風花が舞い上がるように剣気の飛沫が空中へと舞い上がるが、異形達に堪える気配はまだない。
 異形が哄笑にも似た鳴き声をあげ、幽梨を捕らえんと触腕を伸ばし、さらに大型の個体が忌まわしい色合いの光を頭頂と思しき部位に集中、放出。
 しかしいずれも皇士朗が間に割って防ぎ、カウンターの討神百剣幻刃繚乱を放つ。刃の幻影が花吹雪の如く舞うも、手応えは想像以上に少ない。彼に連携して澪歌が星型のオーラを蹴り込み、ヒナタが同時に翼を羽ばたかせ清らかな風を送る。さらに、マイアが大地の惨劇の記憶から魔力を抽出し、前衛を癒やす。
「それにしても……あぁ、本当に昂るわ」
 どこかマイアのデウスエクスを見る目は熱っぽい。正面が開いた漆黒のケルベロスコートとその下の煽情的な服装、それに彼女自身の纏う雰囲気もあってとても危ないことになってはいる。狂気は狂気でも別ベクトル、不定ならぬ不貞。素かもしれないが。
「もし、こいつらが地球に来れば……」
 冒涜的な姿に白獅子はぞっとした。そんな不安を知ってか知らずか、肉塊は嘲笑のような奇声を発する。見透かされたような悪寒に、タンザナイトは大星願を構え視線を隠しつつ、獣化した逆の拳を叩き込む。
「太陽の刃で叩き割るっ!!」
 悍ましい柱にも似た肉塊を両断せんと太陽の炎を凝縮した大斧を振るうも、威力に任せたそれは精密さに欠ける。ぐにょり、と異形が刃筋を避けるように変形、刃は大地にヒビを入れただけだった。
 皇士朗がミサイルポッドから焼夷弾をばらまく。それに対抗するように、後方に控えていた大型の異形の中心部分に気味の悪い球体が生成され、奇怪な輝きを放ち異形達の肉体を修復する。
 シャーロットの魔法の杖が白い梟の姿に変わり、魔力を纏い痺れが残っている個体に向けて放たれる。さらに空の霊力を宿した幽梨の刀が比較的小型の肉塊を斬りつけ、その身を覆う氷の呪縛を一層深刻なものとし、澪歌がモーター音を唸らせチェーンソーの刃を叩きつけて冒涜的な光による加護を砕く。めり込む刃、おぞましい感触に澪歌が顔を顰める。
 さらに続いてサテラの纏う赤い液体が蠢き、おぞましい存在を飲み込まんとするも、蝕腕の一本を盾に防がれた。

 戦いは膠着状態のまま続く。
 名状し難い叫びが戦場に響く中、シャーロットのミサイルが肉塊の表面に触れて爆発を引き起こし、さらに視認困難な斬撃を幽梨が見舞う。彼女達の攻撃は妨害手としての恩恵もあり、大量の呪縛を敵へと与えている。
 ただ不幸なことに、小型の肉塊はいずれも奇怪な果実の輝きで広範囲を癒やす術を持っていた。さらに後衛の異形の悍ましい蠢く果実の輝きが呪縛を頻繁に祓い、その仕事の効果を大きく減らす。
「アイツが厄介だ!」
 太陽の怒りより生じた雷が後衛の異形を撃つも、続かない。敵が複数ポジションの場合、どの順番、どの戦法で攻略するか、今回ケルベロス達は想定をしていなかった。さらに敵の守り手の数も多く、後衛を先に叩くのは厳しいと言える。
 伸ばされる触手からヒナタがケルベロス達を庇う。護り手の少ない布陣であるため、皇士朗とヒナタにかかる負荷は大きい。
 マイアがヒナタに向けて桃色の霧を飛ばす。序盤から回復に専念、攻撃に回る余裕はない。
 それでも心と刃を一体とし、七哭景光と鬼哭景光に破魔の加護を宿した皇士朗の斬撃が異形を斬りさくと、耐えきれなくなったか肉塊が一度痙攣し、だらしなく地面に広がった。
 この勢いに乗って追撃が続く、
「あっちに進んでいたらもっと沢山……ああ!」
 そう思われたが突然、タンザナイトが叫び、武器を滅茶苦茶に振り始める。

●正気は折れず
 休憩を適度にとっての探索と、短期決戦に徹していたこれまでの探索ではそれは無かった。
 けれども長期戦になり、それができない事で最も近くで戦っていたタンザナイトがとうとう狂気に当てられてしまった。
 幽梨が慌てて心の安らぐ、眠気を誘う香草を嗅がせようとするが錯乱している彼に吸わせるのは至難の業の上効果も不明。いずれにせよ強引に止めねばならないとその身体を倒し、地面へと抑え込む。
「! 目を離して!」
 仲間の動向に気を配っていたマイアがさらに、澪歌が狂気に陥りかけている事に気づき、呼びかける。
「剣が、剣が! 迫って来て――」
 狙撃手としてずっと見ていたからか、澪歌も狂気に当てられかけている。
 そんな二人をフォローするように、敵の攻撃の出に気をつけつつも、なるべく敵の姿を直視しないようにしていたサテラが衛星を降らせ攻撃を継続。太陽もスパイラルアームを異形に叩きつける。しかし接近戦用のグラビティはいずれも同じ系統、見切られてしまい触手で止められてしまう。
 大型から伸ばされる触手が澪歌を貫かんと伸ばされる。
 けれどもそれは金色に輝くスーツ、ティランブラッドを纏う皇士朗に阻まれて。
「大丈夫だ、落ち着こう」
 指に輝く深青の輝石、そして愛しのヒーローの声に、澪歌は見るべき、討つべき敵を見据える。
「……私はみんなを救いたい!」
 傷が深いと見たシャーロットの両手には聖なる光。それが皇士朗の傷に触れると共鳴効果も相まって傷を大きく癒やす。さらにマイアの桃色の霧も重なり安全域へと持ち直す。
 その間に我に返ったタンザナイトも再び敵を見据え、飛び込み拳を肉塊に突き立てる。
 内心抱えていたプレッシャーが狂気に当てられて表面化して彼を責め苛んだが、命の続く限りの贖罪の為には少なくとも、足を止めるわけには行かないのだから。それに合わせて幽梨が緩やかな円弧の軌道を描く斬撃で斬りつける。その感触は厭わしいものだが、この時はすんなりと肉を通り抜け、両断した。
 さらに赤い液体が別の肉塊をくわえ込むように飲む。傍からみれば異形と異形の共食いにもみえなくもないそれは、赤の勝利に終わり、敵の数を一つ減らす。
「せえぇぇえい!」
 さらに太陽が気合と共に振るった大斧が異形を叩き切り、その蠕動を停止させる。
「蕃神の眷属よ、怖れるがいい。これがおれ達の……地球の力だ!」
 義妹の残霊が召喚した聖剣や魔剣の幻像を手に取り、皇士朗が乱撃を見舞う。一太刀一太刀にて砕ける刃の幻影は花吹雪の如く。とうとう護り手が全て崩れ落ち、残るは範囲攻撃で弱っている大柄な個体と、後ろの一体のみとなる。
「さあもう少し、頑張っていくよー!」
 白梟を放ちながらシャーロットが仲間を鼓舞する。彼女の笑顔は崩れない。そうある事でみんなも笑顔になるのだと信じているのだから。
「……永久に天上を廻る永劫の導き手よ。我が名の下に天の光を束ね我に仇為すもの天輝の嵐を!」
 マイアが呼び起こした破壊の嵐が巨大な肉塊を蹂躙する。
「天地を……繋げっ!」
 白獅子の咆哮。地の底から天へと登るような、莫大な光芒が巨大な肉塊を呑み込み、大型のそれを焼き尽くした。


 ほどなくして最後の一体の異形も撃破される。
「はい、つかれた時にはチョコレートだよ!」
 精神的なものも含めた疲れを癒すため、シャーロットが笑顔でチョコレートを仲間に差し出す。
 追撃を警戒していた幽梨だが、見渡す限りにおいてはあのおぞましい形は見当たらない。
「この周辺はこれで全部かしら」
 付近の探索を行っていたマイアとタンザナイトが宝石を手に戻ってくる。
「有難う。こちらに纏めるわね」
 こまめにやらないと後で困るから。そう言いつつサテラは回収したコギトエルゴスムや試料を整理し、報告書にまとめている。

 それから数刻探索は続き、
「そろそろ時間だ。……帰還しよう」
 時間を確認した皇士朗がそう告げる。予定されていた捜索範囲の大部分はすでに回っている。そして、事前に決めていた時間とケルベロス達の消耗具合を鑑みるとこの辺りが引き際だろう。
「お疲れ様ー、はもうちょっと先やなー」
 ゲートまではまだ距離がある。帰ったらその言葉を皇士朗に言おうと、澪歌は思う。
「それじゃ、帰るか」
 太陽が皇士朗の残しているアリアドネの糸を辿るように歩み始め、ケルベロス達は岐路に着く。
「見つけられなくて、ごめんなさい。次があるなら、きっと」
 一度だけ振り返り、タンザナイトが呟く。見つけられるものは念入りに探した、けれども全てを拾えたかは悪魔の証明となる。再来を誓い、白獅子は仲間達の後を追った。

 こうして多くのコギトエルゴスムを回収し終えたケルベロス達は、地球へと帰還したのだった。

作者:寅杜柳 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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