そこは商業施設の駐車場に設置された野外スケートリンク。家族連れや恋人、友人たちが楽しんでいた。
スケートリンクの中央に巨大な牙が突き刺さるまでは。
その牙は鎧兜を纏った竜牙兵へと姿を変え、周囲の人々を無差別に襲い始めた。
「いや、いやぁぁ!」
「こっちに来るな……! ぐぁぁ!」
幾重にも響く悲鳴。竜牙兵は笑い声を上げる。
「そうだ! オビエロ! もっとグラビティ・チェインをヨコセ!」
「ギャハハハ! ドラゴンサマにこのヒメイをササゲるのだ!」
氷上を血に染め、竜牙兵の咆哮が寒空へどこまでも響いていた。
●
「商業施設にあるスケートリンクに竜牙兵が現れて人々を殺戮することが予知されました」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は集まったケルベロスたちに用件を切り出した。
「急ぎ、ヘリオンで現場に向かって、凶行を阻止してください」
凶行を阻止するのが一番だが、注意点が一つある。竜牙兵が出現するより前に避難勧告をすると竜牙兵は他の場所に出現してしまい、事件が阻止できなくなる。
そうセリカは語った。
「皆さんが戦場に到着した後は、避難誘導は警察などに任せられる為、竜牙兵を撃破することに集中してください」
セリカは信頼に満ちた目で集まったケルベロスたちを見つめた。
それからセリカは手にした資料を一枚めくり、任務に必要な情報を説明する。
「まず、出現する竜牙兵の数は三体。二体がクラッシャー。一体がメディックです。便宜上、クラッシャーの竜牙兵を、A、B。メディックの竜牙兵をCと呼びますね」
竜牙兵のAとBは簒奪者の鎌を武器として扱い、そのグラビティを使用してくる。Cはゾディアックソードを装備し、そのグラビティを使用してくるのだとセリカは説明する。
「現場は商業施設の駐車場の一部分を、冬の間だけ区切って作ったスケートリンクです」
大人サイズから子供サイズまで、スケート靴の貸し出しもしているのだという。
スケートリンク上に竜牙兵は現れるが、ケルベロスにとって戦闘に支障はないとセリカは言った。
「また、竜牙兵は皆さんとの戦闘に入った後、撤退することはありません」
説明の最後にセリカはそう言った。
「たくさんの人が楽しんでいるスケートリンクで、竜牙兵の虐殺をさせるわけにはいきません。どうか、討伐をお願いします」
セリカはケルベロスたちに向かって、頭を下げたのだった。
参加者 | |
---|---|
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550) |
バジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462) |
アルバート・ロス(蒼枯れの森の闇医者・e14569) |
サフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381) |
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079) |
根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088) |
遠野森・空(虹描き・e44142) |
晦冥・弌(ドワーフの土蔵篭り・e45400) |
●氷上の竜牙兵
スケートリンク上に牙が突き立つ。
そうして三体の竜牙兵が現れた。
鎧と兜、武器を携えた竜牙兵たちは手近な者に武器を振り上げる。
しかし、その刃が届くことはない。
アルバート・ロス(蒼枯れの森の闇医者・e14569)が竜牙兵Aと一般人の間に割り込んだのだった。
白面でじっと竜牙兵を睨みつけながら。
「さあ、その腐りきった性根ごと世界から全摘出といくか」
そんな風に呟いた。
「な、ニ?」
「ケルベロス、だと……? ワレらの邪魔を……!」
「私たちがお相手します」
さらに根住・透子(炎熱の禍太刀の担い手・e44088)が竜牙兵Bへと攻撃を加えたのだった。
竜牙兵Bはひらりと攻撃を避けたが、注意を一般人から逸らすには十分だった。
「貴様らの狩りの申請は却下だ!」
灰山・恭介(地球人のブレイズキャリバー・e40079)は鉄塊剣を右手で肩に担ぐように構え、左手の日本刀は逆手に持ち高らかに宣言する。
「狩られるのは貴様らの方だ! 俺の剣で、地獄へ送ってやる!」
声にも表情にも竜牙兵に対する怒りが滲み出ていた。
あまりの迫力に残る竜牙兵の注意が恭介に引きつけられる。
その間に待機していた警察たちが一般人を避難誘導していく。
「ほらほら、俺達に任せてみんなは避難して」
立ちすくむ人々を励ますかのように遠野森・空(虹描き・e44142)は明るく周囲の人に声を掛ける。
「またすぐスケートリンク使えるようにすっからちょっと待っててなー」
ケルベロスたちが竜牙兵たちを引きつけている間に、スケートリンクから一般人は退避していた。
「皆さん、無事に逃げられたようですね」
ほっとしたようにバジル・ハーバルガーデン(薔薇庭園の守り人・e05462)は呟く。
スケート靴で上手く逃げられるのか心配だったのだ。だが不安はもうない。
「さあ、戦いだ。スケートリンクを破壊するのは忍びないが……貴方達には過ぎた墓標だろう?」
仲間たちの前に立つサフィール・アルフライラ(千夜の伽星・e15381)は竜牙兵たちに向かって告げた。
●氷上に舞うケルベロス
「よっしゃ、いっくぜ~! 旋風斬鉄脚!」
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)が氷を裸足で踏みしめ、繰り出す高速の回し蹴りが竜牙兵Aへと鮮やかに打ち込まれる。
冬の中、さらに氷の上だというのに泰地はいつも通りの格好、いつも通りの裸足であった。
「ナンだ、おまエ……ナゼ、ハダシなのだ……」
不意を突かれた竜牙兵Aは泰地の姿を見て思わず言葉を漏らしていた。
「楽しんでるとこを邪魔するなんて、デウスエクスは空気が読めないんだなぁ」
晦冥・弌(ドワーフの土蔵篭り・e45400)は呟きながら敵への攻撃準備に入る。
吸い込まれそうなほど青い瞳で目標を見据えていた。
狙いは竜牙兵A。今ダメージを一番受けている相手を攻撃するのだ。
弌は竜牙兵Aの懐に潜り込むように、回転しながら鋭く突っ込む。その高速回転は誰にも止められない。
「おのレ……!」
「次は僕の番です。このナイフを御覧なさい」
バジルは手にしたナイフを振りかざす。
「貴方のトラウマを映してあげますよ」
「ギャアアアアア!」
怪しく光るナイフ。竜牙兵Aは何か恐ろしい物を見たように悲鳴を上げて苦しみだす。
ケルベロスたちの作戦は、クラッシャーの二体を先に倒すことを中心に組み立てられていた。
「わーめっちゃ滑る! 俺スケートとか初めてなんだけど」
おどけながらも、空は手にした大きな絵筆で道を作りだし、竜牙兵Aに突っ込んで行った。
「ストラーイク! なーんてね」
竜牙兵A、Bも簒奪者の鎌で応戦する。ドレインスラッシュとデスサイズシュート。
「クラエ!」
「イケ!」
体力の吸収を目論んだ攻撃も、サフィールには効果も半減である。
「効かぬよ」
後衛を狙った鎌の投げつけもしっかりと泰地に阻まれてしまった。
「俺がいる限り、仲間には手出しさせないぜ!」
ファイティングポーズの泰地の体から汗が湯気となり立ち上っていた。
「はいはい、回復するよ。ほかほか~」
アルバートは暖を取るように湯気の立つ仲間に手をかざして回復させていく。
緊張感はあまりみられない。
「回復は僕に任せておくれ」
「ああ、攻撃に専念させてもらおう。手に負えない時は言ってくれ」
「仰せのままに」
サフィールの言葉に、アルバートは大げさな身振りで一礼して見せた。
そしてアルバートは仲間の強化も兼ねたヒールグラビティを使い分けていく。
回復を仲間に任せたサフィールは攻撃に専念する。
「そちら、お願いします」
「正面いただき~!」
空、弌はお互いに声を掛けあい、確実に竜牙兵Aの骨身を削っていく。
透子は味方の支援を中心に立ち回る。
味方への破剣付与、味方が狙いをつけやすいように魂うつしを行うなど臨機応変にグラビティを使い分ける。
「どうでしょう?」
「助かる」
魂うつしをかけてもらった恭介は礼を言い、鉄塊剣と刀を手に駆けだしていく。
「一匹残らず始末してやる!」
恭介が左目から地獄の炎を噴出させながら、剣と刀で竜牙兵Aを切り刻む。
数える事の出来ない速度。彼の奥義『我流剣技・双剣乱撃無間斬』である。
「さて、華麗に舞うとしようか!」
儚げな外見と裏腹に、芯を感じさせる力強さが声にはある。
サフィールの『風精の戯れ』。激しい風を呼び起こし、骨を切り刻むように彼女は舞い踊る。
その攻撃を避けることも出来ず、竜牙兵Aはキリキリと翻弄された。
「グアアアア!」
その風が過ぎ去った後、竜牙兵Aの体は骨もバラバラに氷の上に崩れ落ちていた。
「まずは一体、ですね。作戦通りです」
バジルが残る竜牙兵二体を睨みつけて言う。
「素晴らしくも珍しい形の骨なんだけど……」
アルバートは散らばった骨を見てふむふむと呟いた。
「……ちょっともったいなかったかな」
仮面のせいで表情は良くわからない。
他の者からするとただ睨みつけているように見えるだろう。
「次はもう一体のクラッシャーですね」
弌はもう次の目標を見据えている。
「一体減るだけでも気が楽になりますね」
そんな風に呟いて。
「ひゃっほう! ハレルヤ! さあ楽しくなって来たよ!」
はしゃぐように笑って、空は天に大きな虹を描く。
彼のグラビティ『虹翔』である。
光る翼と大きな絵筆を手に自由に飛翔するのであった。
「ハナレロ!」
一体を撃破された竜牙兵たちは警戒したのか距離を取り始める。
だが、その距離を詰めるのがケルベロスだ。
「逃さないぜ!」
泰地のブーストナックルが竜牙兵Bに叩き込まれた。
「グハァァ!」
バトルガントレットで加速した重い一撃。吹き飛ばされて体勢を崩す竜牙兵B。
「筋肉最強!」
「呪いを聞かせてやろう」
身軽に踊るように、サフィールは刀を手に竜牙兵Bへと接近する。
そして一息に貫いた。
「ギィィィ!」
貫いた先から呪詛で竜牙兵Bの骨身を魂から侵食させたのだ。
ケルベロスからの集中砲火は続く。
敵の能力を下げるべく、妨害を狙った一斉攻撃。
よろけた竜牙兵Bを弌は見逃さない。
「痛いですか? なら大丈夫」
がしりと掴んだ竜牙兵Bに囁く。
「その痛みもすぐ終わっちゃいますよ」
もうすぐ死ぬんだからと竜牙兵Bを引き裂きながらにっこりと彼は笑った。
「早く地獄に落ちろ!」
怒りの籠った恭介の咆哮が響く。地獄の炎はより一層燃え盛り、身を焦がすようである。
その炎は弾丸となり、竜牙兵Bを貫いた。
「剣は使うが、剣しか使わないとは言っていない!」
そう彼は不敵に言い放った。
「ケルベロスどもがァァ!」
竜牙兵Cからのゾディアックミラージュも、アルバートが回復させる以上脅威にはならない。
バジルは惨殺ナイフを手に竜牙兵Bに踊りかかった。
「その傷口を、更に抉ってあげます!」
傷口を広げられた竜牙兵Bは絶叫する。
大きくのけぞり、十分な隙がある。
そこへ――。
「お願い劫火、力を貸して……!」
愛用の刀『火焔野太刀 劫火』へ透子は精神力を注ぎ込む。刀身に魂を喰らう炎を纏う。
「灰燼焔薙!」
透子の奥義『滅殺剣 灰燼焔薙』が竜牙兵Bを切り裂いて、飲み込んだ。
燃え上がる炎は全身を包み込み、消えた後には動かぬ竜牙兵Bの姿だけあった。
「残るはメディックだけですね。速やかに終わらせましょう」
透子は竜牙兵Cを一瞥してそう呟く。
「グオオオオ! おのレ! オノレェェェ!」
竜牙兵Cの必死の反撃。
しかし勢いづいた彼らがそれだけの妨害で折れることはなく。
「もう少しです!」
バジルの惨殺ナイフが竜牙兵Cの傷を抉っていく。
「そろそろ終わらせてやろう」
更にサフィールのハウリングフィストが竜牙兵Cを吹き飛ばす。
着地した竜牙兵Cは大きくよろけた。
そこへ、泰地が放つ渾身の回し蹴り。鍛え抜いた筋肉がうねりを見せる。
「旋風斬鉄脚!」
重く鈍く響いた打撃音の後、折れた骨がボロボロと崩れ落ちていった。
もう竜牙兵Cが動くことはなかった。
●氷上には笑顔
「さあ、修復だよ!」
スケートリンクの修復はアルバートが呼びかける。
「手伝うよ。終わったら、ちょっとみんなで遊んで帰んね?」
「いいですね。折角ですのでスケートを体験してみたいです」
空の提案にバジルが頷く。
「私も少し遊んで帰りたいですね」
「えっと、ぼくも。ちょっとだけ……スケートってやったことはないんですが……」
修復にさらに加わった透子と弌も興味を示した。
「……誰も傷つくことはなかったな。この日常を守れて何よりだ」
怪我人がいないことを確認し終えた恭介は怒りの表情が消え失せて、穏やかにスケートリンクを眺めていた。
そしてくるりと背を向け、足を踏み出した。
彼の背後、修復が終わったスケートリンクでは――。
「皆さんに笑顔が戻ってよかったです」
慣れないスケート靴でバランスを取りながら、バジルは笑っている。
「ちょっと挑戦してみたかったんですよね」
「同感~。スケート初めてだしね。さっきは普通の靴で散々滑ったけどさぁ」
空は明るく笑って氷上に立つ。
「うわぁ~! これは楽しいですね!」
戦闘の時と打って変わって、年相応に透子は滑りながらも手足でバランスを取り、はしゃいでいた。
「ぼくも、ちょっとだけ。本当にちょっとだけですよ?」
弌は自分に言い聞かせるようにそろそろと足を氷の上に踏み出したのだった。
作者:流堂志良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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