ぼくらの学校生活をよりよいものに

作者:狐路ユッカ


「なんでこの僕が生徒会長なのに、みんないう事を聞かないんだ……! これじゃ僕の評価がどんどん下がってしまうじゃないか!」
 馬路・優は自室で頭を抱え、唸った。彼は、念願の生徒会長に選ばれた……が、生徒会長とは名ばかり。不良はのさばるわ成績不良者はわさわさいるわ、校則違反の極短スカートの女子、ワックスでキメッキメのイキり男子だらけなのである。優はその苗字をからかわれ、『マジメくーん』なんて弄られている。おかげさまで頼りない生徒会長はお飾りなどと言われ、教師陣からも『もっと毅然とした態度で生徒をまとめ上げて欲しい』とダメだしされる始末だ。
「ああ、すんなりいう事を聞いてくれる生徒ばかりならいいのになぁ……」
 その時だ。彼の目に、鳥の姿の何かが見えた。その幻影は、優しく彼に微笑みかける。
 それならば、不真面目な生徒は消えてしまえばいいのでは? 甘い囁きに、優はガバリと顔を上げた。
「そうか! 成績不良者、校則違反、僕に逆らう生徒……不要な生徒は皆殺しにすればいいんだ! そんな簡単な事に気付かなかったなんて……」
 絶対に殺してやる。そう呟きながら部屋を出る優を、大願天女は優しげな瞳で見送り、すぅっとその姿を消した。


「大変なんだよ、ヴォル・シュヴァルツ(黒狗・e00428)さんに頼まれて調査してたら、大願天女の影響でビルシャナ化する高校生が現れることがわかったんだ」
 秦・祈里(豊饒祈るヘリオライダー・en0082)は手元のバインダーに視線を落とす。
「今回狙われたのは、馬路・優君。生徒会長をやってる高校二年生らしいんだけど、学校中の不真面目な生徒にナメられちゃって悩んでたとこを付け込まれたんだ」
 皆に自分のいう事を聞いてほしい。この学校を変えたい。その願いがねじ曲がり、いう事を聞かないようなヤンチャな奴や、成績や素行が悪くて学校の評判を落としそうなやつは皆殺しにしてしまえ、という自分勝手な願いに変わってしまったようなのだ。
「皆には、この事件が起きる前にビルシャナを撃破して欲しい。……今回の事件に関しては、このビルシャナになった馬路君を助ける手段があるよ」
 祈里は指を三本たてて一つずつ折りながら説明を続けた。
「ひとつ、願いを叶えてしまう。……でも、皆にいう事を聞かすなんてすぐには出来ないからこれは無理だね。ふたつ、これからしようとしている事では願望を叶えるのは無理と証明する。みっつ、その願望は下らない事で、叶える必要なんてない、と思わせる。……こんなとこかな?」
 優の生死は問わないが、できれば助けてあげたいよね、と祈里は続け、目を伏せた。
「ビルシャナは念仏を唱えたり、閃光を放ったり、炎を飛ばして攻撃してくるから、気を付けてね」
 戦う場所は馬路くんの家になるけど、幸か不幸かご家族は不在だし、周囲の人の避難も考えなくて大丈夫だからね、と付け足し、祈里はケルベロス達をヘリオンへと案内した。
「馬路君はさ、きっと心からこんな事望んでないと思うんだ。学校をよりよくしたい、ただ、それだけだったと思うんだよね」


参加者
デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)
除・神月(猛拳・e16846)
イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)
ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)
紗・緋華(不羇の糸・e44155)
陽月・空(陽はまた昇る・e45009)
クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)

■リプレイ


「不要な生徒を皆殺しにしてしまえとは……。珍しくまじで危険すぐるビルシャナですね。考えを改めて貰わなくては」
 珍しく危険なビルシャナ。ピヨリ・コットンハート(ぴょこぴょん・e28330)がそう称したビルシャナが、この家の中にいる。
「古傷が疼くゼ……なんてナ。手間かけねーようにやりぬくサ」
 辺りに人がいないのを確認し、軽く腕を回すと除・神月(猛拳・e16846)はまっすぐに馬路・優の家へ向かう。
「どうしてこう真面目なヤツって両極端に走るんだ? ま、ビルシャナが焚き付けた……ってのはあるが」
 デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)はそう呟きながら優の家の前に立った。正面切って優の家にお邪魔するケルベロス達。玄関の戸が、開いた。そこに立っていたのは、ビルシャナ化した優。かっちりとした詰襟の学生服を纏ったビルシャナだ。すぐにわかった。外での戦闘になると、マズイ。
「よォ、邪魔するゼ」
 神月はタバコをふかしながら、威圧感モリモリで優を後ずさりさせるようにずいずいと部屋の中へ入る。
「な、なんだ君は!!」
 ドッカとリビングのソファに腰かけると、ニィと唇の端を釣り上げた。
「お前からすリャ、あたしみてーなのは不真面目な不良になりそーだよナ。そんなあたしから一つ教えてやりてー事があんだヨ」
 彼女が部屋に入ったのとケルベロス全員が家の中に入ったのを確認し、ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)は玄関の戸を静かに閉めて鍵をかけた。クーガー・ヴォイテク(紅蓮の道化師・e46526)は神月を守れるようにと彼女の隣に座る。
「人の家に入ってきて勝手にソファに……! 何なんだ!」
 ケタケタッと神月が笑う。
「あんまり真面目で必至過ぎるとヨ、逆にからかいたくなっちまうのが性分なんだヨ」
「なっ……」
「それが必至こいて殺しになんて来てみナ、今のお前は殺せる力があるかも知れねーガ、むしろ他校も含めてそいつらの仲間全員から『バカじゃねーの』とか思われて終わりだゼ?」
 ハッ、と鼻で笑い挑発する神月に、優はわなわなと震えて声を荒らげた。
「僕をそれ以上愚弄するな! 殺すぞ!!」
 出来るもんならやってみな、と言いたげな視線が優に向けられる。その緊迫した空気を破ったのは、クーガーの問いだった。
「なぁ、お前さんの願いってよ。『この学校を変えたい』ってことだろ?」
「そうだよ、だから不要なものを排除するんだ!」
「そうやって自分の思い通りにならない人を殺していったら、学校で大きな問題になって、みーんなキミのいる学校から離れちゃって、生徒が足りなくて学校なくなって、生徒会長で無くなるとか起きちゃうけど、平気なの?」
 陽月・空(陽はまた昇る・e45009)が、ことりと首を傾げる。
「生徒が足りなくなる? そんなことはないさ」
 優は殺したその後など見えていなかった。殺した人数を引いた数は残ると思っているのだ。
「今のキミを生徒会長になった頃のキミが見たら、どう思うかな。何とかしたい人達と同じって思っちゃうんじゃないかな」
「そんなことは知らない。僕は僕の正義を貫くだけだ!」
 優がそう叫んだ直後、ただ、純粋な疑問が投げかけられる。
「貴方が言うところの『不要な生徒』を全員殺した場合学校に生徒ってどれくらい残る?」
「半分以上は残るさ。問題なんてない!」
 紗・緋華(不羇の糸・e44155)の問いにきっぱりと答えきった優。緋華は、そう。と言って、続けた。
「仮にある程度残ったとして、大量虐殺があった学校では去る生徒はいても、入りたい生徒はそういないだろうからそれも考慮すると……」
 そして、顔を上げる。


「……まぁ、学校が変わると言えば変わるのかな。廃校という方向へ、一直線に」
 優の肩が揺れた。
「相手が言う事を聞かないから暴力で一方的にねじ伏せる、なんて最低の行為です」
 ピヨリが念を押すように付け足すと、優はふるふるとその羽毛を震わせた。
「力尽くの統治、独裁、支配。一瞬満足を得られても、後には何も残らず……どころか、土台毎失うばかりだけどそんな行く末が、望み?」
 クーガーは眉を寄せて、問う。
「どんだけいるかはわからねえけどよ、殺人事件が起きるんだ。『学校の評価はクソ下がる』だろうよ。それじゃ変えたいって願いは叶えられないんじゃねえか?」
 お前の『変えたい』は滅ぼしたい訳じゃなくて、『良いものにしたい』じゃないのか? その問いに、優は嘴を開く。
「でもっ……でも僕がするのは殺人じゃない! 粛清だ! 罪を焼き払うんだ!」
 だが、『人が大量に虐殺された』という事実は誰が見ても変わらない。そんな学校に誰が行きたいと思うだろうか。苦しむように歯ぎしりをする優に、イヴリン・アッシュフォード(アルテミスの守り人・e22846)が声をかける。
「皆死んでしまえばいい、なんていくらなんでも短絡すぎないか?」
「どこがだよ! いらない奴は、いらないんだ!」
「成績不良者、違反者、非行に走る者、皆そうしたくてそうしてると、本気でそう思ってるのか?」
 優は解らないと言ったように片眉をあげる。イヴリンはゆっくりと、諭すように続けた。
「勉強に取り組んでも思うように理解ができない、成績が上がらない者もいるだろう。そのせいで精神的に行き詰まってルールを破ったり非道徳なことをしたりする者もいるだろう」
「は……?」
「その者たちに対して、優は本当に親身になって取り組んだのか?」
 く、はは、と優は笑い出す。
「知るか! 努力が足りないから成績が上がらないんだ! 何が精神的な行き詰まりだ、そういうのを甘えっていうんだ!」
 なんというブーメランだろう。――優こそ、向き合わなかったから、いう事を聞いてもらえなかったのではないのか。こうやって暴れようとしているのは、精神的な行き詰まりからと言えないだろうか。デフェールは、ふと口を開いた。
「生徒会長……ってぇのは大変だよな」
「え」
「不良にゃ疎まれ、センコーには無理難題言われる。だが、皆殺しにしたところでテメーの評価が地の底まで下がるだけだ」
 さら、とデフェールの長髪の間から瞳が覗いた。
「それやっちまったら不良と同じどころかさらに下に行くぞ」
 お前が要らないと言った、不良よりも、更に。
 その言葉に、優はうっと言葉を詰まらせる。もしかしたら、とユリスが提案した。
「馬路くんが生徒会長に向いていない可能性もあります」
「なん、だって?」
「その場合、馬路くんには他に何か優れた力がある筈です。それは生徒会長の役職以上に信頼と感心を集める事でしょう」
「ちがう……」
「生徒会長が人生の全てではない。生徒会長にならなくても政治家にも社長にもスポーツ選手にもなれます。あなたの得意な事をよりよく行う事で学校はより良い物となる。それは生徒会長より優れた者かもしれません」
「ちがうちがうちがうちがうちがう!! 僕は生徒会長として学校を良くするのが使命なんだお前なんかに何が!!!!!」
 ぶわ、と羽毛が逆立つ。いけない。ユリスは瞬時に気付いて口を噤み、そして切り替えるようにもう一度声を上げた。
「なら……! 思い出して下さい。あなたが生徒会長になる事を応援してくれた人が居るはずです」
 逆立って開いた羽毛が、ゆっくりと落ち着いていく。
「あなたを信じ投票した人がいる。あなたも彼らを信じ、協力を求めるです」
「僕……に……」
 デフェールが肩を叩いた。
「テメーも一人で抱え込んでんじゃねーよ。ダチに愚痴の一つでもこぼしゃいーだろうが」
「だち……」
「真面目でも出来ることと出来ねーことくらいあんだろ。副会長とかにも任せりゃいーんだ」
「そもそも、だ。その責任を一生徒である優に押し付けてる教師たちの方が問題あるんじゃないか? 少なくとも私は気にくわないな」
 イヴリンがそう告げる。学校は一人が作り上げるものではない。教師も生徒も一丸となり、作り上げるものではないのか……と。
「あなただけで悩まないで」
「貴方が生徒達に見せるべきだったのは、何を言われても、どんなに馬鹿にされても折れない生徒会長としての意志。学校生活をよりよくしたいという心からの思いを、彼らが聞く耳を持つまで、真正面から伝え続ける事だったのではないでしょうか?」
 ピヨリがまっすぐに伝える。
「諦めたらそこで試合終了です。頑張ってください」


「せんせ……ぇ、僕……生徒会長をしたいです……」
 瞬間、まばゆい光が優の身体を包んだ。
「僕は……暴力に訴えずに学校を変える! 殺したりなんてしない、もう騙されない!」
 その決意の言葉に呼応するかのように、彼を包んでいた光が弾ける。それは優――ビルシャナの身体を強かに打った。すると、優は先刻までの意識を手放したのか、ゆらゆらと揺れながらこちらへ指先を向けてくる。
「……良く言ったナ」
 神月は口角を上げると、ソファから立ち上がった。ビルシャナの指先から、閃光が迸る。
「っと!」
 緋華とクーガー、ミミはその閃光の前へ躍り出ると、仲間を庇うように立った。びりびりと痺れるような痛みに、眉を顰める。
「っとぉ……、舐められんの嫌ならなんか格闘技やろうぜ」
 デフェールは自らの感覚を最大限まで引き上げ、ビルシャナの動きを見据える。
「殺す、殺ス!」
 既に優の意識を無くしたビルシャナは歯ぎしりをしながら羽毛を膨らませ、ケルベロス達を睨みつけていた。神月は傷を負ったクーガーにエネルギーの光球を飛ばす。
「夢想の門を遥か越え。思い描く理想の大地へ」
 ユリスは次元の狭間から現れる水晶剣を掴むと、ビルシャナに向かって勢いよく振りぬく。
「我らを導け虚人の鍵よ。阻む全てを斬り裂いて」
「ぎ、ああああ!」
 ばさぁ、とビルシャナの羽毛がその場に舞った。暴れながら放つ炎を迎え撃つように、緋華はエアシューズを走らせて、重力の煌めきを込めた蹴りを放つ。
「……っ」
 肌が焼ける痛みが、着地と共に緋華を襲った。
「大丈夫か」
 イヴリンは最前に立つ仲間へとヒールドローンを展開する。
「どうも」
 不器用な礼を言い、緋華は癒えた傷を確認しながらビルシャナへと視線を戻す。
「ほろびよ」
 わからせてやる。とばかりに、ピヨリは黄色いヒヨコ……ピヨコをむんずと掴むと振りかぶってビルシャナへぶん投げた。ピヨコはパタパタと慌てながら、ビルシャナ目がけてぶっとんでいく。
「ぐああああああ!」
 強烈な熱をそこで炸裂させたピヨコは、やがておとなしくピヨリの元へ戻ってきた。転げまわるビルシャナ目がけ、空はドラゴニックハンマーを掲げる。
「行くよ」
 発せられた轟竜砲に、ビルシャナは勢いよく地へと叩き付けられた。
「私が成る。私が求む。運命を断つ、赤い糸」
 ――糸の如く。
 緋華の指先から、彼女の血液が細く噴出された。それはもがくビルシャナの身体を捕え、糸のように絡みつく。くっ、と力を込めて糸を引けば、ビルシャナの身体は締め上げられて、切り刻まれた。
「戻ってこいよ! ……ま! 不良代表なオレが色々言ったところで説得力皆無だが、なッ」
 デフェールは銃を構える。――ドドドドドドッ。地獄の炎で強化された弾丸が、ビルシャナを打ち貫いた。どさり、とその場に倒れ込んだビルシャナは、もう動かない。……『ビルシャナ』としては。


 倒れたビルシャナの身体が強く光った。羽毛が、バラバラと抜け落ち、光と共に消えていく。その羽毛が完全に抜け去ったのち、そこには何処にでも良そうな純朴な男子高校生が転がっていた。まだ意識は戻らないようだが、呼吸も整っているし、命に別状はないようだ。
「よかった、もとに戻ったんだな」
 クーガーはミミに命ずると、家に傷が入った場所をヒールさせる。
「怪我もないみたいだね」
 ホッと胸を撫で下ろすと、ケルベロス達は戦闘痕にヒールを施し、優を部屋まで運んでやった。
「学校か……実際に行ってみないと分からない世界」
 空はぽつりと呟く。優の部屋の本棚にはたくさんの学習参考書が並んでいた。
「う……」
 深く眠っている優をベッドへ寝かせると、イヴリンはそこへ毛布をかけてやる。
「ああいうデウスエクスは良く頑張っている者にこそつけ入ろうとするのだ。優が今まで良く頑張った証しでもあるのだぞ」
 優しくそう言って、踵を返した。
「マ、目指してた通りにってのは難しいもんサ。あたしは真面目なのも嫌いじゃねーシ、力抜いて頑張ってみなヨ」
 ぽん、と優の頭に手を置いて、神月は笑う。
 静かに、部屋を出ていくケルベロス達。優はその間起きることは無かったが、眠りへ沈む意識のどこかで、その優しい声を聞いていただろう。――次に起きるときは、もう惑わされない。自分の意志で歩むのだ。一人ではないと教えてくれたのだから、次は、必ず。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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