ヒーリングバレンタイン2018~装飾の魔法をキミへ

作者:皆川皐月

●ふわふわきらきら
 いつもの会議室から香るのは、ほんのりと甘い香り。
 机に広がる資料には『ヒーリングバレンタイン 2018』のカラフルな文字。
 訪れた皆を漣白・潤(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0270)が笑顔で迎えた。
「皆さん、デウスエクス占領地域の奪還お疲れ様でした!あの、あの、とっても凄いです!」
 ケルベロスの活躍によって取り戻された地域の平和に、潤が興奮気味に身振り手振りで喜びを表す。少しして、ハッと思い出した顔で手にしていたカラフルなチラシを取り出した。
「あの、取り戻した地域の復興も兼ねて、バレンタインのお菓子を作りませんか……?」
 解放された地域に未だ人々は戻ってきてはいない。
 だが、引っ越しを考え下見に訪れた人や元住民、周辺住民が気軽に訪れることのできるイベントを開催することで、解放された地域のイメージアップにも繋がるのです!と潤は力強く頷いた。
 開催予定地は『岐阜県岐阜市』。
 戦国時代にはかの有名な織田信長の城下町として栄え、現代では岐阜四十四町からなる商工業の中心地として栄える賑やかな地域だ。
「まず、裁判所付近を中心にヒールを行います。それが終了したら……」
 よいしょと机の下に置いてあるらしい箱を漁る。
 取り出したのは繊細な砂糖細工の花のレースや蝶のレース。また、同様のレースで飾られたココアのカップケーキが次々並べられた。
「まひゅま……マシュマロフォンダント!と言います!繊細そうですが、実はとても扱いやすいのです」
 配布されたのは基本的なレシピ。
 潤の手描きらしいやや丸文字を要約すると―……。
 まず耐熱ボウルに大匙1のお水とマシュマロを入れてレンジでチン。
 溶けたマシュマロをつやつやになるまで混ぜたら、粉砂糖と混ぜよく練る。
 手につかなくなるくらい纏まったら、ベースの完成!
 ここから、色を付けたり型で抜いたり楽しく装飾しましょう!
「凄く簡単に言うと、甘い粘土の様な感じです。型で抜いたり、クッキーやカップケーキに少しお水でフォンダンを接着して装飾したり、好きな色のフォンダンキャンバスにチョコペンでメッセージも書けるのです。お花や猫や……そうだ、岐阜の金華山のリスを作ったりしても良いと思います」
 様々な気持ちを籠めた手で作るのは、世界に一つだけのお菓子。
 ふんわりほんのり甘い一時は老若男女問わず楽しめることだろう。

「ヒールと、道具と材料の搬入、イベントの進行……皆様のお手を一杯借りることになってしまうのですが、ぜひぜひ皆様も一緒に作りましょう!」
 楽しむ時は、みんな一緒に。
 よろしければ是非いらしてくださいね!と潤は楽しそうに微笑んだ。


■リプレイ

●下準備
 煙る砂埃と積み上がった瓦礫。痛々しいほど傷付いた岐阜の街に、光の雨が降る。
「この公園で、ここの人たちがもっと憩えますように」
 マグル達のヒールが街の傷を癒していく。響き渡る癒しの音と降り注ぐ薬液の雨、飛び回る小型ドローンが街に光を灯す。

●魔法を此処に
 準備が整った図書館に甘い香りが広がっていく。
 白のフォンダンにココアを混ぜ、マグルはベースのカップケーキへ貼り付ける。
「きな粉と黒糖をかけて……っと」
 仕上げに南瓜の種を飾れば、芽吹くようなカップケーキが完成。思ったより簡単かもと気分よく仕上げること、いくつか。
「漣白さん」
 マグルの声に振り返った潤がぺことりと頭を下げる。
「ちょっと色合いは地味だけど、甘くて美味しいですよ」
 お一つどうぞと差し出せば、潤はありがとうございますと微笑んだ。
 一方、ネロ・ダハーカは揃えた材料を前に思案顔。
「さて、どんな風に細工をしたものかな……」
 大切なあの子のための贈り物。であれば最高の魔法と真心籠めたラッピングで贈りたいのが乙女心。辺りを見回し、目についたのは見回る潤の姿。丁度良いと声を掛け、両手を合わせてねだってみる。
「ねえ、潤。初心者のネロに、ひとつ手解きをお願い出来て?」
「はい、お任せください」
 並べたのは一通りの道具。潤が手解いた基礎を元に、ネロの手は甘やかな魔法を織る。
 愛らしいあの子に贈るは一足早い淡春の色。カップケーキを飾る花のようなレースは玉座。銀玉のアザラン輝く王冠、大輪の春百花、羽広げる白の仔鳩は幸運の運び手。
「君の心にも、春を連れて来ます様に」
 あの子を想い無意識に緩むネロの目尻と声は、三つの庭に心からの祈りと魔法を籠めた。
 笑い声は絶えず、和気藹々と。大切な友人と一緒なら、不思議なほど会話は尽きない。
「景!景!マシュマロなのになんか硬いよ?!」
「硬いですが、しなやかなので色々な形にし易いみたいですね」
 明るい牡丹と静かな景。対照的な二人ながら、テンポよく進む会話は心地良く。ある程度進んだところで牡丹が景の手元を見れば、レースが並んでいた。
「牡丹さんは何を?……もしかして、ブローラさんですか?」
「うん、ブローラ!本物に似てるかな?」
 赤と黒の耳を付け、牡丹が完成させたのは相棒でテレビウムのブローラ。
 その隣、景が完成させたのはレースの花に止まる蝶と華やかなリボンで飾られたもの。
「余った物は、あとでお砂糖代わりに浮かべてみましょうか」
「わあ、楽しみだね!」
 別の机では材料と真剣に見つめるエヴァンジェリンと微笑ましく見守る和の二人。
 エヴァンジェリンが手に取ったのは、ヨーグルトとブルーベリーのカップケーキ。乗せるのは、大切な父が好きだと言った本、猫、犬に白黒の兎、薔薇、白い朝顔と―。
「……星も」
 開いた本から飛び出すように咲く花々と動物、煌めく星。お伽噺の様に素敵な仕上がりとなったが、当のエヴァンジェリンは不安顔。頭を過るのは大人の男性には似合わぬかもという心配。
「……子供っぽいって、笑われちゃうかな」
「大丈夫。エヴァにこんなにたくさん大好きて気持ち込められて、嬉しくない人なんておらんよ」
 ねー?と和が振れば、りかーもふわふわの尻尾をぱたぱたしてにっこり。
「そうかな、そうだと、いいな。……それから、これは、なごとりかーに」
「ん?ボクらに?ふふっ、なんや考えることは一緒やったんね」
 エヴァンジェリンからはレースの上に和の瞳とりかーの彩で結んだリボンのカップケーキが。和からは小さなエヴァンジェリンと父、そして犬と兎の人形が微笑むカップケーキが、「ありがとう」の言葉と一緒に交わされる。
 隣の机では、普段目にするマシュマロとは違うフォンダンにララは胸を躍らせ、ルテリスは感心していた。
「マシュマロに細工なんてできたのか」
「マシュマロって、こんな風に細工することもできるのね」
 口にした言葉が自然と被れば、つい見つめ合って笑みを交わす。
 腕が鳴るわ、と微笑んだララが作ったのは青い牡丹、赤い寒椿、桃色の薔薇、繊細な彼岸花。小振りな四種の花をココアカップケーキに飾る。
「私達のバンドの宣伝も兼ねて作っちゃった!参加者さん達、喜んでくれるといいな」
「ララは本当にすごいな……僕なんて」
 微笑む恋人の傍ら、ルテリスは小さな溜息をつく。掌で転がったのは、猫のつもりが何故かウニに似たフォンダント。だが、ルテリスの手元を覗き込んだララはパッと笑顔になる。
「わあっ!クストを作ってくれたの?嬉しい!」
 ありがとう、と微笑むララにルテリスは驚く。喜んでもらえないか、猫と伝わるかも分からなかったのに―……ふと見た恋人の横顔。艶やかに零れたアクアブルーが滑る白い耳元へ、そっと唇を寄せた。
「ララ―……大好きだよ」
 桜色の頬と零れる微笑み。あのねと紡いだララの答えは勿論、愛しい人の名前と心。密かに後ろ手に隠したフォンダントのマーガレットだけが、全てを知っている。
 別の机では弟のテトの手を、楽しそうに笑う姉のアーリャが引く。
「あのね、とってもかわいいの!いっしょにつくりましょ!」
「いいですよ、作りましょうか」
 正反対のようながらテンポよい会話とベース作りを経て、アーリャは春色のブーケに似たカップケーキを、テトは黙々と煌びやかな宝石箱に似たカップケーキを完成させる。
「見てください、中も凝ってるんですよ」
「テトは流石に器用ね、かわいい!……?なか?開くの?」
 小首を傾げたアーリャが蓋を開けば、飛び出したのはマシュマロの矢。毒を仕掛けてはだめよ?と呟けば、実用的でしょうと得意げな弟の顔。アーリャはちょっと弟の将来を心配しつつ、良いことを思い付いたとパッと微笑む。
「ね、ね、テトは何がすき?特別に姉がひとつつくってあげるわ」
「好きなもの……」
 突然の言葉に瞳を瞬かせたテトが少し思案してからアーリャの顔を見れば、自分を見つめる優しい微笑み。ふと目を緩めてぽつり。
「それじゃあ、お墓でも作ってください。それに花をたくさん添えましょう」
 んもう、もっとかわいいリクエストでもいいのに!と頬を膨らませながらも、アーリャの指は“いっしょに帰る場所”を作る。できた!とテトを見れば、マシュマロより柔い瞳とぶつかった。

●魔法使いたちの歌
 机に飾られた名札は『唄う大窯』
 クローネと共に机を囲むのは風太郎と晩。
「あ、あのー、お菓子でこんなことできるんですか?」
「マシュマロフォンダントは、ぼくも初体験だよ」
「社団法人やデザイナー資格が存在するほど愛好家が多いそうでござるよ」
 初体験と言いつつ手際のよいクローネは今にも鼻歌を歌いだしそうなほど。奥が深いと感慨深げに頷く風太郎も器用に作業を進めている。事前に調べはしたものの二人のように上手く出来るか不安であった晩は、シビアな計量という正確さで頑張ることに。
 形を整え終えたクローネが和紅茶カップケーキを手に取る。飾るのはフォンダンのリス……だけでは寂しい、と首を巡らせたところで目に留まったのは二人の姿。
「ふふ、これからもたくさんの人が訪れて、栄えていきますように……っと」
 楽し気なクローネを横目に、風太郎が作るのは湖。青のフォンダンで表面を包んだカップケーキの上、復興への祈りを籠めて蓮の花を咲かせた。同じく晩も成形の作業中。カップケーキの上、緑鮮やかなアスパラガス。もう一つ、桃色のフォンダントと爪楊枝片手に睨めっこ。
 その時、丁度作業を終えたらしいクローネが二人の手元を覗く。
「風太郎と晩はどんな装飾の魔法をかけるのかな?」
「拙者は湖に蓮の花を咲かせたでござるよ!」
 目を惹く青を前に出しクローネの視線を惹く傍ら、風太郎はこっそりと別の何かを作る。
「え、あ、ちょっとまって、まだ内緒ですよー」
 もう一輪のハマナスを震える手で作っていた晩は少し慌ててしまう。
 作業が終わり見せあえば、早春の様相を見せる晩の装飾、鮮やかな湖と微笑む三人のフォンダン人形、クローネのカップケーキ金華山にはリスと見慣れた子猿と黒獅子の姿。各々の可愛い魔法が、皆を笑顔に変えた。
 少女達で賑わう机には『黄昏星』の名札。
「マシュマロが粘土みたいになるわけが……うわ、本当になった?!」
「ましゅまろねんど、どんな味なんだろ。……うん、おいしい」
 言葉と裏腹に手早くベースを作り上げたさくらが驚く間に、こっそりベラドンナが味見。
「初めて、聞くけど、上手に、できる、かな?」
「わたしも初めてだけど、楽しそうっ」
「私も初めてで、今日はとてもわくわくしています」
 流華が瞳を輝かせ、シルとアリッサムも興味津々。集ったところでベースを分けた。
 料理は苦手でもできるはず!と意気込んたシルがベースと見つめ合い暫し。過ったのは雪だるまの姿。クッキーに合わせフォンダンを伸ばすも思う様にはいかず。
「う、うーみゅ?ちょっと難しい……みんなはどんなもの作るの?」
「ワタシは、赤や青、黄色の、色をつけて……」
 流華はフォンダンをリボンクッキーに重ね蝶のよう。アリッサムのカップケーキは色取り々の花が咲く。
「私はお花型で抜いて飾ってみました!あっ、もうちょっとピンク、こっちはオレンジ……」
 黙々と作業をするさくらの手元では白い薔薇が咲く。だが、横からたすけてーとベラドンナのか細い悲鳴。
「……大変です、なんかよくわからな生き物ができました」
「大丈夫よ、ベルちゃん!おねえちゃんがたす……ねこ?」
 なんやかんやベラドンナの作った不思議な生物に愛着が湧いたところで、皆の魔法も掛け終わる。
 食べる前に写真をと微笑むアリッサムの提案に、通りかかった潤がカメラ役を引き受けた。
 画面に映る笑顔と作品は、少女達の大切な一日を記録する。
 隣の大きな机には『秘密基地』の名札。
「溶けたマシュマロを固めて彩るのですね……成程」
「マシュマロフォンダント……ってもう、名前から可愛いね」
 レシピを横目に動かす手はそのままながら、志輝と勇はフォンダンを成形するスプーキーの技に目を輝かせていた。
 まるで魔法のように、慣れた手つきで形作られていくのはステージ。淡青のプレートに細巻きのコルネで咲かせるのはレースの波と花。舞台を縁取る五線譜は繊細に、秘密基地の名を飾る。
「もし佳かったら、皆の作品を上に乗せて見てくれるかい?」
 皆の視線に気づき、照れたように笑ったスプーキーが皆を誘えば笑顔が広がる。
 さあどれをどこに置こう?何を作ろう?と話しつつ、勇は猫の型を。アイラはトナカイと結晶型を。そして揃って手に取ったのはクッキー。
 同じだね、と笑いあい並んで作業。勇はチョコペンで猫の目と口、ヒゲもちょいちょい。アイラは遠い故郷を想い、真白のトナカイにきりりと勇ましさを、水色の六花にアザランのきらめきを施す。
「おっ、なかなか可愛くできたんじゃないかな」
「出来たの!」
 可愛らしい猫と雪国に微笑んだ記がカップケーキを白に塗り替えれば、隣の志輝もカップケーキを手に取っていた。記が慣れた手で鍵盤を描き、ト音記号に春色の蝶が飛べば、一足早い春の音楽会。志輝も記の手元を見つつ、見様見真似で色を付けて型を抜く。慌てん坊リスの落とした団栗が、アザランの煌めきで花を咲かせたような愛らしい春の図に。
「……落とした音を表現したつもりだったのですが」
「音を拾うリスさん素敵です!さ、和紅茶お供に早速ステージでライブと参りましょう!」

●香り立つ
「やるからには、完璧に」
 菓子作りの折、そう言ったラスキスの言葉通りの物がレイニーの目の前にあった。
 青と白の小花散り、頂きに添えられた白の片翼が印象的なカップケーキ。
「世界に一つのケーキです」
「――すげェ」
 レイニーは作品の美しさは勿論のこと、己の体質を知りながらも世界に一つと言いきった淑女への感嘆から、目を見張る。同時に目の前で優雅に紅茶を啜る“兎”の耳が僅かにピンと立ったのは一瞬だけ。
「食とは、目と香りでも楽しめるものです」
 例えあなたが“味わえなくても”、糧となるのです。互いに知れたこと。されど細やかな意地悪からそう言葉にして、ラスキスの細い指が摘まむ一欠片がレイニーの唇を突く。勿体無い、という言葉は飲み込んで。
「……やっぱ、アンタのくれるモンは甘い」
 ありがとな、と囀る“雀”から贈る“兎”への最大の賛辞。
 今日、彼女とここへ来たのは細やかなお礼も兼ねてのこと。
 先程までレスターと並んでフォンダントを楽しんでいた萌花が、今は向かい合って和紅茶の温かさに舌鼓を打っていた。
「ん。たしかに、美味しい。あんまり紅茶に日本のイメージなかったから、不思議な感じ」
「俺も、岐阜の和紅茶は初めて飲む。けど、おいしいね」
 天上は高く、気持ちの良いほど広い図書館の片隅。大きく取られた窓の前、机を挟んで友人と笑い合う時間は悪くない。
「キミには振り回されてばかりだけど、不思議といやな気はしない」
「おにーさんもあたしの魅力が理解できた?」
 レスターが湯気の立つティーカップを傾け笑う。
「そういう気まぐれな小悪魔なとこも、魅力だよ」
「ま、知ってるし。なーんてね」
 二つ並ぶフォンダンカップケーキに萌花の端末のシャッター音。
 白のリボン結ぶオレンジ色にハートの雨降るケーキと、春桃にひらりレースの蝶飛ぶケーキが入れ替われば、交換成立。
 性差も年の差も此処には無い。良き友よ、これからもよろしく。
 大きな窓に向かって置かれた小さな机とゆったりとしたソファに、二人並んで腰かける。
 時折あったタカラバコの摘まみ食いを越えながら、ひなみくと郁は楽しく終えたフォンダン作りの話をしながら、紅茶の温かさにゆったりと体を伸ばしていた。
「和紅茶、美味しいんだよ……ほんのり苦みが、きっとお菓子に合うよね」
 白い頬を薄桃に染めたひなみくが微笑めば、優しい瞳で見つめる郁も頷いて微笑み返す。
 ふんわり甘い空気の中、郁がおもむろに取り出したのは先ほど作ったマシュマロフォンダントのカップケーキ。白とピンクのストライプをベースに赤いリボンのフォンダントが結ばれた、プレゼントのような愛らしさ。
「これは、俺からひなへのプレゼント」
「えへへ、じゃじゃん!わたしは棒付きマシュマロ~!」
 可愛らしい音と共に取り出されたのは、真四角に成形したフォンダンにハートやリボンのアイシングが賑やかなひなみく特製のスイーツ。
 交換だね!と微笑む恋人の笑顔は今この瞬間何よりも愛らしく、彼女手製の菓子は何よりも美味しそうだった。そんな郁がちらりと横目で見るのは自分が作ったカップケーキ。
「自分で好きな形を作って遊ぶのって楽しいよな。粘土とか懐かしいし……けど、いっぱい遊んでた割に手先は器用にならなかったんだけどな」
 改めて目に付いてしまったリボンのよれやちょっとした粗。思いは込めたから、と恥ずかしさと照れくささから頬をかく郁に、ひなみくが花の様な顔で微笑む。
「このケーキから、郁くんの気持ちを感じるよ。箱に入れるくらい、いっぱいいーっぱい思いがあるのかなって!」
 沢山悩み考え作られた、世界で一つの郁の心と魔法が籠ったケーキ。受け取ったそれを宝物のように手に取り、ひなみくは笑う。
「ありがとう、郁くん!」
 だが、甘い空気より甘い物が欲しいタカラバコがひなみくの足をつつく。ぽたぽた垂れる涎が徐々に滝のよう。
 そんなタカラバコの様子に、二人は顔を見合わせ、噴出したのは同時。タカラバコちゃんのもあるよ~と笑うひなみくと、タカラバコの分だぞと笑い郁が星型のフォンダンクッキーを並べれば、全身で喜びを表すタカラバコがぴょんぴょん跳ねた。
 愛らしいクッションやに包まれて、向かい合うのは天音と潤。
「どんな感じかと思ったけど……マシュマロフォンダント作り、楽しかったわー!」
「お楽しみいただけて、良かったです」
 ぐ、と潤は拳を作る。訪れた一般客とケルベロスは勿論、目の前で思いきり楽しさを面に出す天音の姿は、企画した者として喜ばずにはいられなかった。
「特に潤ちゃんオススメのレース!あれ、作るのがすごくかわいくて!」
 調子に乗ってたくさん作っちゃったっ、と微笑む天音が様々なフォンダンレースを並べる。円形、四角、ハートや星、花型や蝶と幅広いデザインに潤も瞳を輝かせ、彩瑠さんすごいです!と小さな拍手。
「なのでなので、この和紅茶に装飾魔法をかけてもいいかしら?」
 天音の言葉に潤は瞬き。紅茶に魔法ですか?と首を傾げた。
「こんな風に、ね。もし良かったら潤ちゃんもいかが?」
 人差し指を唇に当て、「見ててね」と微笑む天音の指が摘まんだのは、白くて丸いフォンダンのレース。
 白磁のカップに透ける赤い紅茶の上、ゆっくりと落とされた繊細な白が、ふんわりと浮かぶ。
 いつもは大人しいドラゴニアンも、つい私も!とカップを差し出す装飾の魔法。
「勿論。砂糖がわりにもできて、ちょうどいい感じよね」
 くるりとスプーンが廻れば溶けてしまうけれど。
 今だけは、この温かい時間を楽しめる。
 近くに居た参加者とも分け合えば、もっともっと温かく。

 このひと時は勝利の余韻。救いあげられた街の灯りが煌々と輝いた。

作者:皆川皐月 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:30人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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