「おぬしらがデウスエクスの手から取り戻した各地の復興を兼ねて、バレンタインに合わせた催しを開こうという話があるのじゃ」
そう話を切り出したのは、先だってケルベロスの仲間入りを果たしたファルマコ・ファーマシー(ドワーフの心霊治療士・en0272)であった。
「場所は秋田県秋田市の川反通り。県内屈指の歓楽街じゃな。長らくシャイターンの脅威に脅かされ、観光客の突然死や不審火などが相次いでいたという川反通りにも安心安全が取り戻されたはずだったのじゃが……」
ファルマコは悲しげに目を細める。
「やはり、一度遠のいた人の足を戻すのは難しかろう。軒を連ねた店に賑わいが戻ることはなく、今も通りすがるのは冬の風ばかりと聞く。……そこでじゃ」
名案閃く! とばかりに、ファルマコの杖が地面を叩いた。
「一日限定にはなるのじゃが、ケルベロスの皆で飲み食い出来る場所を作ってはどうじゃろうか? 実際に訪れてみて安心できるとわかれば、通りのイメージアップにもなるじゃろうて……いかがかの?」
手伝ってくれると嬉しいのじゃと続けながら、ファルマコの話は当日の予定に移った。
「まず午前中は、放火の名残などデウスエクスの爪痕がある店を何店舗かヒールしつつ、チョコレートやら何やらを運び込む。それからヒールした店を借り受けて調理に入り、お昼には接客や食事の提供じゃ。何を出すかは皆に任せるが……川反通りに居酒屋が多いからといって未成年やドワーフにお酒を提供してはならぬぞ! こればかりはご法度じゃ」
お酒入りのチョコもじゃぞ、とファルマコは念を押す。
「しかし、それ以外のことはバレンタインっぽさがなくならない範囲で、思うがままにやってもらえばよいのじゃ。当日は老若男女種族様々な人々に足を運んでもらいたいしのう。もちろんわしも手伝うが、此処は一つ、皆の力に期待させてもらうのじゃ」
ああ、それからな……と、やけに大仰な咳払いを一つ交えてから、ファルマコは最後にもう一言付け加えて説明を締めくくる。
「友達やら、気になるあの人に振る舞うチョコレートをこっそり調理中に作ったりしても構わんからのう? なにせバレンタインじゃからな。バレンタイン。うむ」
春まだ遠く。大雪残る川反通りには人を拒むような寂しさが篭っていた。
此処に暖かな風を吹かせるのが、今日のケルベロスたちに与えられた使命だ。
「始めるよ、リーネ」
「頑張ろうね、レーニちゃん」
鏡写しな双子、シュピーゲル姉妹が互いの手を取って空に掲げる。
すぅと吸い込んだ息に祈りを込めれば、響き渡るのは復興への前奏曲。
それは小鳥が春の訪れを告げるような、可愛らしい歌声だった。
●
心地よい音色が響く中、再会を祝う二人がいた。
「お元気そうでなによりです、ファーマシーさん」
「おお、アストン殿。その節は世話になり申した」
ニコラス・アストンとファルマコ・ファーマシー。彼らの出会いは、あの悪夢の檻の中。
あれからまだ一月足らず。煤けた店屋を見れば否が応でも思い出す。
「あの『街』ほどではないが、痛々しいのう」
「ええ、そうですね……」
身長も年齢もかけ離れているというのに、二人は似たような仕草で唸った。
そして――視線を交えると、揃って杖を持つ。
「では一つ、参ろうか」
「そうですね。この通りに、この街に、賑やかな人の営みを取り戻せるよう……」
ニコラスは微笑み、願いを込めて腕を振った。
柔らかな風が通りを抜けていく。微かに歌声を孕んだそれが店屋を撫でると、焦げ跡は消えて新緑に覆われた。
敷居を跨いでみれば一転、中は星空を下ろしたように蒼く輝き、吐息を漏らしてしまいそうなほどの美しさ。
「流石じゃのう」
笑いながら、ファルマコも古木の杖で地を叩く。
再び一陣の風が吹く。すると今度は、新緑の上に色とりどりの鮮やかな花が咲く。
「これはこれは、素敵な時間を過ごせそうなお店になりましたね」
随分可愛らしいヒールをかけたものだと、ニコラスもまた頬を緩ませた。
「さて、もう一働きしましょうか」
「おうとも!」
全てを癒してこそ心霊治療士だ。
張り切って行くドワーフの背を見ながら、ニコラスは今日という日が誰にとっても素敵なものとなるよう、静かに祈る。
癒やしの風は方々で起こり、その度に通りは元以上の美しさを得ていった。
もちろん幻想的になるばかりではなく、手作業で秋田らしい装いも取り入れられている。
例えば――なまはげの看板、だとか。
(「……なまはげ……」)
ヒール作業の最中、ふと目に入ったそれが、カッツェ・スフィルの心に重い靄のようなものを呼び込む。
此方もまた思い出してしまったのだ。つい先日の戦いと、苦々しい結果を。
「カッツェちゃん?」
目の前でしんなりと力なく垂れた竜の尻尾を見て、復興の様子を記録していたミィル・ケントニスが手を止めた。
すっかり見慣れた少女は先程まで元気で、とても饒舌だったのに。
どうしたのだろう。疑問を口にするより先にカッツェの視線を伝って、ミィルも心当たりにぶつかる。
「この前のこと、気にしているのね……?」
ぴくりと、カッツェの肩が動く。しかしミィルは二の句を継がず、沈黙が二人を包む。
「なんて言ったらいいのかな。カッツェもまだ、上手く飲み込めてなくて」
ようやく出せた言葉は探り探り。どうにか形にしても、やられたとかやってしまったとか、そんな台詞にしかならない。
もどかしいものだ。結局それ以上は何も言えず、縋るように見やったミィルは真剣で、しかし穏やかな笑みを向けていた。
細い指が黒髪を優しく撫でてくる。
「仕方なかったとか、残念だったとか。そんな慰めは言わないわ。戦った貴女に失礼だと思うから。……けれど、その苦しさに負けないでね」
「……うん」
そんな短いやり取りで、靄が全て晴れるわけでもない。
けれど今一時、カッツェはそれを組み伏せる。
「じゃあ罪滅ぼしじゃないけど、頑張るから。そのノートにもちゃんと記録しといてね!」
「勿論よ。……ところでカッツェちゃん。なまはげって角を生やして包丁持ってるわよね」
「うん」
「じゃあ、なんであれは頭に猫耳生えてたり、あっちは大鎌持ってたりするのかしら?」
「ヒールしたらそうなっちゃったの! ここなら全部守り神に見えるからいいでしょ!」
カッツェは顔を赤らめて哮る。
それを見やって笑い、ミィルは早速ノートにペンを走らせた。
●
ケルベロス総出のヒールはつつがなく終わり、舞台は借り受けた店屋の中へと移る。
早速、作業に取り掛かろうとするのは、カナートス・ガーデンなる旅団の三人。
「頑張るですよ……!」
「そう硬くなるな、メメ。この通り、食材も機材も準備万端だからな」
「ああ、大丈夫。きっと美味しく作れるさ」
声色から緊張の伺えるメメ――アメリー・ノイアルベールを、ユノー・ソスピタと龍造寺・隆也が励ます。
調理場に並んでいるのは小麦粉とバター、卵、チョコなどに加えて様々な形の抜き型。
「まずは……メメ、粉をふるってくれ」
「はいっ」
踏み台に乗って、アメリーは慎重に篩を振り振り。
粉雪のような粒が綺麗に溜まっていくのは、少し心地よい。
「その間に私はバターやら砂糖やらを混ぜ合わせてだな……」
「使い終わった道具は此方に寄越してくれ。俺が片付けよう」
「ああ、助かる。ついでで悪いが、そのチョコを取ってくれないか」
「ユノーさん、終わりました。次は――」
やはり同じ屋根の下で過ごしているからか、調理は円滑に進んでいく。
粉とその他を合わせて練り練り。作った生地を休ませる間は、調理器具を洗ったりなどしつつ。
「あとは伸ばして……型で抜いて、オーブンで焼けば完成だ」
「……あ、星の型があるです」
きらん、とアメリーの瞳が輝いた。
「じゃあ、メメはそれでやろう。私はこのハート型にしようかな……あぁ、隆也さんも一緒にやるか?」
「いや、俺は遠慮しておこう」
可愛い女の子が作ったクッキーの方が客も嬉しいだろう――という本音は胸に秘め、隆也は笑みを返す。
「そうか……では、もう少し頑張ろうな、メメ!」
「はいっ」
調理台一杯に広がった生地の端から、ぽんぽんと型を当てて抜く。
それを温めたオーブンに乗せて、暫く待てば。
「――焼けましたっ」
「うん、綺麗に出来たな」
甘い匂いがふわりと広がる、チョコクッキーの完成だ。
「メメはマナーハウスでも綺麗なお菓子を作っていたし、もしかすると料理の才能があるのかもな」
「そんな、ユノーさんが教えてくれたからです。それに、とても楽しく作れたから……」
「そうか? でも確かに、私も楽しかったな」
「おいおい、まだ終わってないぞ。ラッピングして並べないと」
此処からは俺も手伝おう。そう言った隆也を加え、最後の仕上げにクッキーを包装していく三人。
そこで、ユノーが通りの方に見つけたのは……。
「メメ、あれがファルマコさんではないのか?」
「あっ……ちょ、ちょっと行ってきますっ」
アメリーは詰めたばかりの袋を一つ取って、ぱたたたたと駆ける。
「ファルマコさん!」
「……おお? おお! ノイ……ああいや、メメ殿じゃったな! 来てくれたのじゃな!」
「はいっ。お友達と、チョコクッキーを作っていました。……あ、あの、よければお一つ、どうぞ」
「ほほう、これはこれは」
孫でも見守るかのような微笑みでそれを受け取り、ファルマコは中身を一摘み。
「……どうでしょうか……?」
「うむ……。甘く香ばしく、それからとても優しい味で、美味しいのぅ」
「ほ、本当ですか?」
よかったぁと、漏れそうな言葉を飲み込んで、アメリーは胸を撫で下ろす。
「これなら皆、喜んでくれるじゃろうて」
まだまだこれから忙しくなるが、頑張るのじゃぞ。
ファルマコは小袋を大事そうに懐へ収めると「後で、ご友人にも挨拶しにいくからの」と言い残し去っていった。
「――その様子だと、喜んでもらえたんだな」
「はいっ……!」
表情こそ大きく動かないが、戻ってきたアメリーからは察するものがある。
「良かったな。俺も来た甲斐があった」
「本当にありがとうございました……! それで……あの」
興奮が冷めてくると、入れ替わりで湧き上がってくるのは別種の不安。
「お二人のこと、お友達と紹介してしまったのですが……そう思ってて、いいでしょうか?」
おずおずとアメリーが聞けば、見上げられた二人は揃って笑いをこぼす。
「ああ、構わないとも」
「メメのことはもちろん、大切な友達だと思っているぞ」
「あ、ありがとうございます……!」
今日はお礼を言ってばかりだ。けれど晴れ晴れしい。
これからクッキーを配る人たちも、同じような気持ちになってもらえたらいいなと、アメリーは思った。
所変わって。
「なるほど、此方はユウ殿――いや、ファン殿の従兄殿と」
「ああ、そうだ」
ファン・ユウとジン・ユウが作業する場所に、ファルマコは居た。
「失礼を承知で伺うが、従兄殿は気分が優れなかったりするのかの?」
「……元からそういう顔つきだ。あまり気にするな」
「そうか。いや、立ち入ったことを聞いて済まなかった」
頭を下げるファルマコに、ファンは小さく手を振る。
「……しかし、まさか此方側になるとは思っていなかったな」
「全くじゃ。――ところで」
ぐいっと背伸びして、ファルマコは調理台を見やる。
「おぬしら、意外と可愛らしいものを作っておるのじゃな」
「……酒はダメだと聞いたからな」
そこにあったのは、苺や蜜柑などのジャムを詰めた果物型チョコレート。
片側だけの型にチョコを流して固めた後、空洞にジャムを入れてから貼り合わせるのだ。
中身に合わせて、チョコの形も変えてある。これなら何味なのか、ひと目で分かるだろう。
「わりと面白いと思うんだが、どうだ」
「うむ、大変良いと思うぞ。わしのようなドワーフでも気兼ねなくつまめるしのぅ」
どのような客人にも受けるじゃろうな! そう太鼓判を押して、ファルマコはまた何処かへと消えていく。
そして残った二人は、淡々と作業に戻る。
何せ同じ血を分けた従兄弟であるし、それなりに落ち着いた年頃でもある。
言葉少なでも通ずるものがあって不思議でない。
しかし、必要とあれば当然口を開く。
「ジン」
「……うん?」
「気になるなら、他所を見て来てもいいぞ」
「……うん」
ファンの従兄は、常人には察知できぬレベルで喜色を浮かべていたらしい。
そろりそろりと調理場の中を動き、ジンは隣の店での作業を眺めに向かった。
それは従弟の言うとおり、他所がどうしているか気になったのも理由だが。
(「此方なら、見られない」)
従弟へ渡すものを、従弟の前で作るのは無粋だろう。
こっそり持ってきたチョコレートを溶かしつつ、ジンは日頃の――そして今までの感謝をどのような形にするか、暫し考え込んだ。
そして準備も佳境に入った辺りで。
「ふっふっふ……」
一人の少女が、満を持して登場した。
「これがパティの秘密兵器なのだー!」
ばばん! パティ・パンプキンが持ち込んだのは、誰しも心をくすぐられる綿菓子機!
「しかもただの綿菓子じゃないのだ、チョコ入り粗目でチョコ綿菓子が出来るのだ♪」
人気になること請け合いだ! パティは既に勝利を(何のかはさておき)確信して胸を張る。
「でもな、ちゃんと動かなかったら困るからな。ここはまず、パティが試してみるのがいいな?」
自問自答で了承を得て、電源を入れる。
作業は難しくない。機械の真ん中に粗目を放り込んだら、円状に生じる綿を棒でぐるぐる纏めるだけ。
そう。それだけなのだが。
パティは重大なことを忘れていた。
自分がドワーフで、背がとても低いことを。
「あああーーー!?」
肝心の棒が届かない。行き場を失ったチョコ綿菓子が、次々溢れて飛び散っていく。
「――あら、あらあら。大変」
「うぅ、ミィルぅぅ……」
丁度いいところに通りすがった人物を見つめるパティ。
さすがに見過ごすことも出来ず、ミィルはテキパキと掃除をしてから踏み台までも用意した。
「これなら、パティさんも届くわよね?」
こくりと頷き、再チャレンジ。
「……! 出来た、出来たのだー♪」
パティはすっかり調子を取り戻して、大きな綿菓子を手にご満悦だった。
●
そうこうしているうちに正午を回って。
川反通り復興イベントは開始の時を迎え、早速クッキーやチョコが配られ始める。
「ファルマコさん! これで最後だから、そっち押さえててね!」
ドワーフにフラッグガーランドの一端を預けたレーニが、カフェとなった店の軒先にぱたぱたと飛び上がる。
「間に合って良かったのです。レーニちゃんが屋根につけてくれたリボンと旗と、リーネが真っ白クロスと編んだお花で飾ったテーブル。とっても可愛いお店ができました!」
「うむ。クロスはお花のレースがポイントじゃな。しかし本当にそっくりじゃのう」
ファルマコは姉妹を交互に見やった。
「薄緑の『ポンポン』がなければ、わしにはリーネ殿がわからなかったやもしれんな」
「ふふ、これはピンポンマムって言うんですよ?」
「そうよ。あぁ、どうせなら花を隠して当ててもらえば良かったかしら」
少し悪戯っぽく、姉妹は声を合わせて笑う。
「それも楽しそうだけれど。レーニちゃん、お客さんをお迎えしないと」
「! そうね、せっかく用意したケーキポップ、たくさんの人に渡したいもの!」
「おお、これまた可愛らしいのう」
繁盛間違いなし! ファルマコはそう言って、まんまるケーキのついた棒を一つ拝借していった。
そして程なく、彼の台詞は現実に。
ホワイト、ミルク、ストロベリー。様々な味に小鳥の顔をデコレーションしたケーキポップは、文字通り飛ぶように捌けていく。
「……あら? レーニちゃんが描いたのは小鳥さんだけじゃないのね?」
「気がついた? 実はナノナノさんのお顔も描いてみたのだけど、この子が一番人気かも! リーネのは、どれが人気かな?」
「リーネの小鳥さんは――真っ白な小鳥さんのが人気みたいね。そういえば絶対かわいいなんとかって呟いてる人がいたけど……何のことかな?」
「……何かな?」
二人は考える。
考えて――よく分からなかった。
「それよりまたお客さんよ!」
「頑張らなくちゃ!」
姉妹は胸に手を当てると、呼吸を整えた。
そして小鳥の刺繍が裾にあしらわれたお揃いのワンピースを、ふわりと揺らして。
鏡合わせにポーズを取って。
「「いらっしゃいませ! 小鳥さん印のケーキポップはいかがですか?」」
自然にぴったりと重なる声で、明るく朗らかに呼び掛けた。
子供人気といえば此方も負けていない。
「さあ、好きなように作ると良いのだ♪ 自分で作って自分で食べるのだ!」
お父さんお母さんも一緒にと、パティが一生懸命に声をかけていた。
幼い子供にとって「自分で作る」とは夢のような言葉だ。当然食いつきは激しく、パティが埋もれてしまいそうなほどに人が集まってくる。
それを何とか捌き切って、一息ついたところで。
「これは特別に作ったのだ」
「あら美味しそう。ふふ、ありがとうね」
先程の礼にとミィルにチョコ綿菓子を手渡して、さらにパティはもうひと頑張り。
「みんなが戻ってきて活気あふれる町になると良いのだ♪」
さらにさらに。
「去年は二人だったが――」
「今年はリーヤも一緒だな!」
「三人いっしょで、うれしい」
レスター・ストレインと、エリオット&エリヤのシャルトリュー兄弟。
彼らが切り盛りする一角も、また大きな賑わいを見せている。
「どこもかしこも、いい匂い」
「ああ、そうだな」
あの爺さんがチョコレート好きだったな――とまでは口にせず。エリオットはムースケーキを皿に乗せ、エリヤの手に。
「これはあっちのテーブルだ」
「うん。わたしてくる」
弟の言動は拙く緩慢だが、一生懸命なのは伝わってくる。
「よかった、大丈夫そうだな」
「あのほわっとした笑顔に、皆癒されるんだろう」
注文が止んだのを機に、エリオットとレスターはエリヤの仕事ぶりを微笑ましく見守った。
しかし、それも束の間。押し寄せる人波は目が回るほどの忙しさを呼ぶ。
「よし、切り替えていくか!」
エリオットはパチリと手を叩き、培った接客経験できびきびと注文を取り始めた。
(「さすがに慣れてるな」)
レスターも感心しながら加わりつつ、シンプルなお手製サンドイッチをずらりと作って並べていく。
(「二人ともすごいなぁ」)
僕もねむいなんて言っていられない。なんにもつくってないから、そのぶん真剣にお手伝いをしよう。
エリヤは決意を新たに、客席へ向かった。
ほわほわとした笑顔はそのままだ。ありがとうの気持ちが、自然とそうさせる。
(「いいよな、こういうの」)
弟の笑顔然り、友のサンドイッチ然り、自分のケーキ然り。
それが引き出したにこやかな笑みが、あちらこちらに伝播していくのがエリオットにも見える。
もちろん、自分たちの笑顔も輪の中の一つ。
どれほど忙しくなっても、三人は笑いを絶やすことなく働き続けた。
やがて日暮れが来て、賑やかな催しも終わる。
けれど、エリオットにもレスターにも、忘れてはならないことが最後に一つ。
「お疲れさん、これからも宜しくな」
「此方こそ。リーヤも、よろしくね」
何せバレンタインだ。
お菓子とチョコを渡し合い、その両方を受け取るばかりだったエリヤは。
(「僕からも、なにかお返しできたらいいな。今日はなにもないけど、そのうち」)
そう思いながら、まず二人に笑顔と言葉を返す。
「ありがとう」
作者:天枷由良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:13人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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