きらきら光って綺麗なやつ

作者:そらばる

●大願天女の甘い囁き
「っあーーー腹立つ~~~~~ッ」
 自室の扉を乱暴に開け放ち、帰宅したばかりの女性は愚痴全開で頭を掻きむしった。
「なんなわけレイカの奴! ただの同窓会にキンキラキンのでっかい宝石、これ見よがしにつけてくんなし! 結婚式かお見合いパーティーのつもり!? アンタ既婚者だろ旦那エリートだろあーあーわかったわかったセレブ自慢なのねご馳走さまですぅぅーっ!!」
 服もメイクもそのままに、女性はベッドに突っ伏した。しばしの沈黙。
「……はぁ。綺麗だったな。ブローチにネックレスにイヤリングにブレスレット……なんでもいいから私も宝石欲しいよぅ……」
 俗な本音がぽろりと零れた、その瞬間。
 唐突に、室内を幻の輝きが満たした。女性の目前に佇み微笑むのは、孔雀を思わせる姿をしたビルシャナの幻影。
 女性は身を起こし、大きく見開いた両眼で、食い入るように幻影を見つめた。
「そっかぁ……レイカを殺して、奪えばいいんだ……」
 女性の全身が、瞬く間に変質していく。煌びやかな宝石を思わせる、色とりどりに輝く羽毛に覆われた鳥人間の姿へと。
「なんて素晴らしい計画なんだろ。そうですよね、大願天女様……?」
 ビルシャナに変貌した女性は、消えていく幻影へと、うっとりと微笑みかけた。

●宝石大好きビルシャナ
 『綺麗な宝石を手に入れたい』。実に女性的で、古今東西普遍的な願望である。それを願うことになんの罪があろうか?
「でも……ビルシャナに……目を付けられたら……利用されてしまう……」
 とつとつと呟くフローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)に、戸賀・鬼灯(ドラゴニアンのヘリオライダー・en0096)は深く頷き返した。
「ビルシャナ菩薩『大願天女』。この者の影響において、宝石を欲した高峰・美栄子さんがビルシャナ化してしまいます」
 大願天女の影響に唆された人物は、個人的な願望を『他者を殺害する事で叶える』べく、ビルシャナの力をもって襲撃事件を起こそうとする。実行される前に、このビルシャナを撃破しなければならない。
「ビルシャナ化した状態の美栄子さんを説得し、計画を諦めさせることができれば、戦闘後、彼女を救うことも可能でございましょう」

 敵はビルシャナ1体。宝石の如き羽毛で燦然と輝く、宝石の如く煌めく鐘を打ち鳴らす、宝石の如き光で己を癒す、といったグラビティを使用する。ただ、見た目が派手なだけで、能力的にはスタンダードなビルシャナと変わらない。
 現場となるのは、昼過ぎ、美栄子の実家である郊外の一軒家。ケルベロスは、美栄子がビルシャナ化した直後に駆け付けることができるだろう。
「他の家族はでかけており、当該時刻には美栄子さん一人きり。加えて、こたびのビルシャナは逃走することもございません。余所事にはとらわれず、ビルシャナのみに集中することが望ましいでしょう」
 また、美栄子の説得に成功できれば、戦いは非常に有利になり、美栄子の命も救うことができる。
 『物理的に願いを叶えてしまう』、『暴力では願いは叶わないことを証明する』、『願望の内容が下らないと否定し、それを納得させる』……といった説得方法が考えられるだろう。
「願望とは、心の底から湧き上がるその人の本質の一つ。しかし、それを暴力で実現しようなどと、心から思っている者はそうそうおりませぬ。美栄子さんもまた然り」
 救出の希望を捨てず、できる限り説得に尽力するよう、鬼灯はケルベロス達に深々と頭を下げるのだった。


参加者
天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)
月海・汐音(紅心サクシード・e01276)
ノル・キサラギ(銀架・e01639)
アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)
盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)
フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)
天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)

■リプレイ

●子供じみた願い
 昼下がりの郊外を、ケルベロス達は美栄子の実家へと急ぐ。
「宝石かぁ……女の人じゃなくても、調べてみるとキラキラで、面白くて、魅了されるよね。なんとか上手い方向に持っていければ良いんだけど」
 前方に目的の一軒家を見据えながら、ノル・キサラギ(銀架・e01639)は素直な心情を吐露した。
「私も調べたら、色々あった。パワーストーンから、本当に高価なものまで。美栄子が欲しいのはどんな石だったんだろ」
 アウィス・ノクテ(ルスキニア・e03311)は幼い仕草で首を傾げた。もはや具体的に何が欲しい、という段階でさえないのかもしれないけれど。
「石、か。魔術や戦闘に使用するための宝石なら手にする機会もあるけれど……そうね、一般人からすれば高価な物の代表とも言えるもの。執着する気持ちは分からなくもないわ」
 月海・汐音(紅心サクシード・e01276)は冷静に理解を示した。だからこそ、美栄子に対して問わなければならないことがある。
「うらやましいって気持ちが、何を羨んでるのかは、もしかしたら美栄子さんにもわからないのかも」
 天羽生・詩乃(夜明け色のリンクス・e26722)はまっすぐに前を見つめながら、呟く。
「だったら、それが判る前に戻れなくなっちゃうのは悲しいなって思うよ」
 ほどなく辿りついた家屋へと、ケルベロス達は躊躇なく踏み込んだ。
 扉の向こうに気配を認め、盟神探湯・ふわり(悪夢に彷徨う愛色の・e19466)は浮世離れした眼差しで、確認するように仲間たちを見回した。
「説得の結果が出るまで、ふわり達から闘い始めちゃわないように、注意なの」
 皆は心得た頷きを返し、室内へとなだれ込んだ。
 その中央では、孔雀に負けず劣らずけばけばしいビルシャナが、嘴で念入りに宝石めいた翼を繕っているところだった。
「……あらなに、お客さん? ごめんなさぁい、これからわたし、友達殺しに出かけなきゃいけないのよー」
 やたらとフランクに、しかし思考の糸が何本か切れているかのような浮ついた顔つきで、ビルシャナはケルベロス達に笑いかけた。
 完全に、大願天女の洗脳下といった様子だ。
「宝石はとても綺麗ですからねぇ。心奪われるのも仕方がありません」
 穏やかに同情を寄せつつも、天壌院・カノン(ペンタグラム・e00009)は怖じることなくビルシャナの前へと歩み出た。
「ですが今の状態では瞳が曇ってしまっていらっしゃいますわ。私たちが治癒して差し上げなくては」
「チリョウ?」
 未知の単語を聞いたかのように、ぼやけた目つきで首を傾げるビルシャナ。
「ねぇ、ねぇ。本当に宝石奪って手に入れて幸せ?」
 澄んだ声音を上げながら、ひょっこりと体を乗り出して問いかけるアウィス。
「人から無理矢理うばうのは泥棒。暴力ふるったら悪いこと。それでも奪ってすっきりする? 罪を犯して、いろんな人から冷たい目で見られてでも、奪った宝石欲しいの? イミテーションや偽物かもしれないのに」
 問いかけに責める響きはなく、ただ淡々とデメリットが提示されていく。
「本当に欲しいなら、怒られたり、責められない手段で手に入れよ? その方がきっと気持ちもいい」
「えー……でも、どうしても欲しいのよね……」
 ビルシャナは叱られた子供のように、ごにょごにょとぼやいた。説得の内容に理があることはわかるらしく、反論に力はない。
 カノンが柔和に畳みかける。
「よく考えていただきたいのです。お金を溜めればいつか手が届くかもしれない物の為に、人の命を奪うのですか? 人を殺めたという十字架を一生背負ってまで手にする価値のあるものなのですか?」
「んん……でも、でも、今欲しいのよっ?」
「――あなた、考えるのを避けてるわね」
 子供じみたワガママを隠れ蓑に、命を軽視している……いや、その話題自体を避けていることを見抜き、汐音は果敢に切り込んだ。
「あなたの欲望を満たすための石ころ、そしてそんな石の為に流される血と命……果たして、本当に価値があるのはどちらかしら?」
「……うー……」
 抉るような問いかけに、ビルシャナは困ったように目を逸らし、とうとう嘴を噤んでしまった。

●願いを叶える本当の方法
「力ずくで奪ったとしても……手に入るモノは……煌びやかな宝石じゃない……。決して落ちない血が染付いた……罪の証……それを見る度に……その罪は想起されるよ……」
 とつとつと、呟くように語りかけながら、フローライト・シュミット(光乏しき蛍石・e24978)は杖に嵌め込まれた青蛍石の御守りを掲げて見せた。
「この石は……お父様から貰った大切な石……。石には……くれた人の想いが宿る……。宝石を奪う事は……その想いも壊す事になる……」
 寡黙で人見知りな少女は、しかし言葉を惜しまず語りかけ、まっすぐにビルシャナを見つめる。
「正当な手段で手に入れた……あなたが気に入った宝石こそ……あなたが望むモノ……」
「……」
 フローライトの説得に、ビルシャナは言葉を返さない。その眼差しは、床をなぞるように泳いでいる。
「貴女が望むのは宝石だけ、ですか?」
 レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)の投げかけた穏やかな問いに、ビルシャナの体がわずかに強張ったように見えた。
「たしかに美しい輝きは目を引き、時に人を魅了するでしょう。しかしそれは石を加工して、より輝かせる為に工夫を凝らしたからこそ」
 深みのある声音で、レフィナードは教え導くように語りかけていく。
「仮に貴女が友人を殺し奪いとったところで、その石は本当に輝いてみえますか? 友人の命という重み、それを奪ったという罪、そして後悔の念は石を輝かせるものでなく濁らせるものでしかありませんよ。それぞれの石にあう加工法がある様に、貴女を魅力的に魅せるものはそんなやり方ではありません」
 完全に俯いてしまったビルシャナの隣に、ノルは臆さず寄り添った。
「宝石が欲しいっていう欲望って、悪いものじゃないと思う。きらきらして綺麗だものな。俺も、宝石のこと調べてみたよ。調べるほど、楽しかった。あなたも、きっとそうだと思う」
 懸命に論理的であろうと努めるノルの言葉が、ビルシャナに降り注いでいく。
「でも、殺して奪うのは駄目だ。その方法は、あなたのためにならない。あなたが好きなのは、宝石であって、誰かから奪うことではないよね。奪って手に入れても、それはあなたにとっては所詮他人の物。憧れの煌めきに、ずっとその人の影を重ねることになるよ」
 宝石が好きで、調べて、選んで、対価を払って。それこそが、好きだから欲しいという気持ちを叶えられる、本当の方法。
「自分の為だけの輝きを探そう? 俺も、出来ることは手伝うから」
 ビルシャナは顔を上げない。しかし胸中の葛藤が徐々に増大してきているのが、傍から見ていてもわかる。
「宝石が羨ましい、っていう気持ちも確かかもしれないけど、美栄子さんは、幸せそうな同級生さんが羨ましかったんじゃないかな」
 詩乃の真っ直ぐな言葉に、底辺を彷徨っていたビルシャナの視線がぴたりと止まった。
「ねえ、だとしたら、たぶん、彼女を殺して奪うんじゃ、そのうらやましい気持ちは解消しないと思うんだ。自分でお金を稼いで、自分好みのものを手に入れたり、もしかしたら、頑張ってる美栄子さんをすてきな人が見つけてくれて贈ってくれたりするかもしれない。……そんな風にして手に入れるほうがずっとすてきで、価値のある宝石になると、私は思うな」
 今ならまだ間に合う。奪うよりももっとすてきな道がある。想いを込めた等身大の言葉で、一生懸命に諭す詩乃。
 大量の説得を浴びて、ビルシャナが泣きそうに歪めた顔をようやく上げた。そこには、さきほどまではなかったはずの、美栄子自身の面影が、確かに宿っている。
「ふわりね、宝石って似合う種類と形が人によって全然違うと思うの! だから誰かを殺して宝石を貰っちゃっても、それは全然似合ってないし宝石をダメにしちゃうと思うの。誰かがつけてるのを見て綺麗だと思っても、それを美栄子ちゃんがつけて似合わなかったら笑われちゃうのー……」
 ふわりは滔々と話しかけながら、ビルシャナの前へと歩み寄った。
「でもね、美栄子ちゃんだけに似合う宝石がきっとあると思うのー。それは誰かから盗っちゃうんじゃ、絶対に見つからないの」
 ビルシャナの羽毛に埋もれた首に、ふわりはそっと、持参したネックレスをプレゼントしてやった。
「……うん。こういうのが似合うの」
 中心にあしらわれたサファイアが、ビルシャナの胸元できらりと揺れた。
 ビルシャナは硬直する。思いがけず手に入ってしまった宝石に対して、喜びを見いだせず、ひどく戸惑い、狼狽している様子だった。
「わ、わた……わたし……」
 すがるようにケルベロス達の顔を往復する眼差しには、宝石を手に入れて満たされない自分への、強い困惑が宿っている。
「わたし、欲しかった……のに、なんで……っ!?」
 心を引き裂かれるような叫び。
 その瞬間、ビルシャナの体が、輝きに包まれた。

●抗う心
 光は、ビルシャナの体を隅々まで侵し尽くしていく。神々しく、威圧的に、その肉体を支配していく――。
「……いや」
 ビルシャナは――美栄子は、大きくかぶりを振った。光の蹂躙に抗うように。
「いや、いや! レイカを殺すなんて絶対にイヤッ! わたしは……私自身で、願いを叶えるの!!」
 美栄子が明確な抵抗を示した瞬間、光が質を変えた。
 強烈な白光。あたかも雷にでも打たれたように、美栄子の体がのけ反る。絶叫は光にかき消される。
 やがて光が退いたそこに立つ美栄子は、ビルシャナの姿のまま。……しかし。
「美栄子、大願天女の光に抵抗した……? 説得が成功したんだ……!」
 アウィスは素直な驚きと喜びに目を見開き、快哉の声を上げた。
 と同時、ビルシャナが機械的な仕草で両翼を大きく開いた。宝石の如き翼が燦然と光り輝き、ケルベロス達を威圧する。
 前線を押し込まれながらも、しかしケルベロス達の顔は希望に輝いている。
「大願天女に抗った美栄子さんに、我々も報いねばなりませんね」
「ええ。必ず、お助けしましょう……!」
 レフィナードは口元を綻ばせて悠然と守護星座を展開し、カノンはオーロラのような光で仲間達を包み込んでいく。
「支援は任せてくれ」
 いの一番に切り込んだのはノル。精密きわまる軌道を描いた飛び蹴りは、空を墜ちる流星の如く。
「このタイミングね」
 機動力を落とした敵へと、汐音はShadow Strike:Originにつがえた矢を放った。妖精の加護を宿した矢が、淡々と回避しようとするビルシャナの体を容赦なく追尾し、打ち据える。
「Trans carmina mei, cor mei……Intereas.」
 アウィスは澄んだ声音で崩壊のロンドを歌い上げる。澄んだ音、高く遠く、響く歌声。
「助けてあげたいね、ジゼルカ。力を貸してね」
 詩乃の呼びかけに応え、ワインレッドカラーのライドキャリバーが果敢に飛び出す。星型のオーラの蹴撃と炎を纏った突進が、ビルシャナを次々と打ち据えた。
「……あいつ、かなりよわってる。さっきの光のせいだろうな」
 耐性を振り撒くフローライトとふわりに加勢し、近衛木・ヒダリギ(森の人・en0090)は黄金の果実を実らせながら、眠たげな半眼で敵の状況を見取った。
 事実、ビルシャナの動きは何かに操られているかのように機械的でありながら、肉体的疲弊を隠しきれていない。
 天罰の如きあの光は、肉体の支配権を奪うための大願天女の攻撃だったのだろう。美栄子が抵抗したからこそ現れた光だ。説得の成果が、ありありと戦いに反映しているのだ。
 だが操られていればこそ、その行動には容赦も隙もない。宝石の鐘が甲高く煌びやかな波長でケルベロス達をかき乱し、強烈な発光で威圧してくる。
 ケルベロス達は決して急がず焦らず、自陣を固めながら、徐々に攻勢を強めていく。
「ふわりが全部癒してあげるの……痛いのも苦しいのも全部、今は忘れちゃって良いの。ふわりが愛してあげる、忘れさせてあげるの……」
 消耗が激しくなってきたアウィスを、ふわりが抱きしめ、癒していく。苦痛は、やがて過去となって忘れ去られていく。
「この石が……この魔術式が……お父様との大切な絆の証……」
 蛍石の御守の力を借りて、治癒を広げるフローライト。義父の訓戒を魔力に載せて、皆に『冷静さ』と『成功』を振り撒く。詩乃もA.A.code:Jewel Boxでサポートし、仲間の消耗は瞬く間に消えていく。
「煌めけ、Adamas……!」
 汐音は刃に『死』の力を纏わせ、大鎌を敵の首元へと振り下ろした。ビルシャナは大きく床に叩きつけられ、すぐには起き上がれない。
 早くも肉体の限界が訪れたのだ。
 これを逃さず、ケルベロス達のグラビティが殺到した。
「夢に還りなさい」
 時の雫。周囲の時間を『夢世界』の時間と同調させ、カノンはビルシャナに微笑みかける。ようこそ、こちら側へ。
 時間のズレによる衝撃にビルシャナが打ち据えられた隙を逃さず、アウィスは踊るように軽やかな足取りで肉薄する。
「ちょっと我慢してね、今、助けるから」
 にこりと微笑む可憐な少女から、黒い液体がわき出るように展開し、ビルシャナを丸呑みに襲い掛かった。
「正念場、ですね」
 レフィナードは治癒の手を止め、目にも止まらぬ早撃ちを叩き込んだ。宝石が砕けるような音が、澄んだ余韻を響かせる。
「いくよ葉っさん……」
 フローライトは、紫葉牡丹型攻性植物を乗せた右肩を前面にして突進を仕掛け、敵の防護を破壊する。
 砕けるように舞い散る羽根。その隙に覗けるのは、迸る魔力のいかづち。
「コードXF-10、魔術拡張(エクステンド)。転換完了、ターゲットロック。天雷を纏え! 雷弾結界(カラドボルグ)!」
 ノルの生命力より変換された魔力が、雷撃の結界となって十字型に展開し、ビルシャナの動きを一層阻害していく。
 汐音は創造する。かつてその目に焼き付けた、一振りの長剣を。
「断ち斬れ、オーレリア……!」
 彼方継グ金色ノ剣。明日を求める心を力となして、魔術回路と長剣が黄金に輝く。それは、運命の日から続く希望。
「絶対に、助けるんだ……!」
 詩乃のまっすぐな瞳が、敵の構造弱点を見抜く。痛烈な一撃が、宝石の如き両翼に、大きな罅を叩き込んだ。
 防御を崩されたビルシャナを、巨大な砲口が捉える。
「いったん、おやすみなの。ね?」
 愛らしく微笑みかけるふわりの大型砲台が、混沌の砲弾を容赦なく発砲した。
 砲撃の爆発の向こうで、宝石の煌めきが儚く霧散していった。

●大願天女の影を祓って
 グラビティの余波が退いたそこには、傷ひとつ、ビルシャナの面影ひとつない、生身の美栄子が佇んでいた。
 意識を失い、ふらりと倒れ込むその体をレフィナードがそっと受け止め、その寝顔に微笑みかけた。
「貴方を輝かせ、魅力的に魅せるものは、宝石ばかりではありませんよ」
「大丈夫です、ビルシャナから元に戻れたあなたの心は宝石のように輝いていらっしゃいますわ」
 カノンもまた眠る美栄子を覗き込み、穏やかに語り掛けた。
 美栄子をベッドに横たえ、ヒールの光が室内に満ちていく。
 修復を終えたフローライトは、蛍石の御守を胸元に引き寄せ、優しく撫でた。
「心の隙を突くビルシャナ……やっぱり厄介……」
 人が願いを失うことはない。利用される者は後を絶たないだろう。誰かが大願天女を撃破するまでは。
 その野望を砕くのは、ケルベロスしかいないのだ。

作者:そらばる 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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