ヒーリングバレンタイン2018~島根松江の温泉郷

作者:白石小梅

●ヒーリングバレンタイン2018
「ごきげんよう。もうすぐバレンタインの季節ですわね」
 朧月・睡蓮(ドラゴニアンの降魔拳士・en0008)は、語る。
「恒例行事と言いますかしら。今年も、奪還したミッション地域の復興支援を兼ねたバレンタインイベントを開くことになったそうですわ。わたくしも、修練も兼ねて参加しようと思いますの。皆さまもいかが?」
 強襲型魔空回廊によって侵略を受けた地域は住民の避難を余儀なくされ、廃墟と化してしまう。解放された今も、まだ人影はまばら。元々住んでいた人々は帰還を迷い、他県からの移住者を誘うことも出来ないでいるのだ。
「そこでケルベロスが破壊された街々をヒールし、更に一般参加型のイベントを行って、街が活気を取り戻す切っ掛けを作る。復興支援と経済支援の双方を兼ねたイベントですわ」
 ケルベロスのいくさは常に人々の営みと共にある。闘いにばかりかまけてはいられない。これは大事な使命でもあるのだ。
「ああ。もちろん、イベント中に大事な人へバレンタインプレゼントを用意するのを兼ねても構わなくってよ? そのくらいは、お目こぼししてもらわないとね」

●バレンタインと古代日本
「ちょうど風土記以前から存在する歴史の街、島根県松江市のとある温泉街から、バレンタインと古代日本を絡めたイベント依頼が来ておりますわ。中央を流れる川を挟むように温泉旅館が立ち並ぶ、風光明媚な場所でしてよ。ヒールすれば、ですけど」
 温泉街をヒールしたら、出店を並べて縁日のように彩って欲しい。品物や出店形式などは自由だが古代日本や神話と関連付けてくれると嬉しい、という内容だ。
「勾玉や因幡の白兎のモチーフなどかしら。もちろん歌や舞の披露などするのも構いませんわよ」
 旅館内の清掃などは時間がないため、基本的には通りや前庭での屋外開催となる。寒い時期だが、足元ストーブなどの暖房器具は貸与されるし、通りの足湯と旅館の露天風呂を解放するという。
「寒くなったら温泉に入りましょう。当日は一般の方にも全開放され混浴となりますので、湯着か水着をお召しになってね」
 すなわち『ヒールをして店列を整え』、『人々を招いて縁日を催し』、『ゆったりと温泉にも浸かる』という流れだ。
「細雪のちらつく冬に閉ざされた地にも、皆さまが種を撒けば新たに人々の営みが芽吹くはず。それに……厳寒の中で握り合う指先は、暖かなものでしてよ?」
 睡蓮はそういって、くすりと肩をすくめてみせた。


■リプレイ

●まだ空の暗い頃
 島根県松江市の温泉街に、番犬が集う。
「……さあ! まずは街並みを復興させましょう! 次は、道路と橋ですね。川の護岸もずいぶん傷んでますし、台風が来る前に集中復旧しちゃいましょう!」
 巻島・菫(サキュバスの螺旋忍者・e35873)に応えたのは、岡崎・真幸(脳みそ全部研究に費やす・e30330)。
「応。回廊破壊したからには復興しねえとな。松江市は島根の観光拠点だし……それに、ここは職場が近いんだ。元どおりにしないと気が済まない。秋子、行くぜ」
 二人の言葉を皮切りに、薄闇の中に癒しの輝きが煌く。
 見学の人々も到着し始めたようだ。
 比良坂・陸也(化け狸・e28489)の後ろには、珍しいもの見たさの幼子が列を成す。
「ん……お前ら、甘くて美味しい干菓子はいるかい? わかな、出すから配るの手伝ってくれ」
 その後ろで、トンカチに鋸を構えて腕をまくるのは、君乃・眸(ブリキノ心臓・e22801)。
「よし。こちらは設営に入ろウ。広喜、そこの木材を持っテきてくれ、柱にすル」
「おう、任せとけっ。力仕事は得意だぜ」
「眸さん七五三縄はこっちで良いですか?」
「設営を終えたら夜江さんに着付けを教えて貰って、いざ出陣! ですね!」
 一方、広場でスケジュールを配るのは、神咲・イサナ(月夜の銀狼・e45201)。
「皆さん、こちらがイベントの時間割になります。私は綱引き大会に出場しますよ。参加型ですから、楽しんでくださいね」
 飴屋すずは先駆けて営業を始めたようだ。虎丸・勇(ノラビト・e09789)が一席打って。
「さあ、可愛いうさぎさんの飴はいかがですかー! 寒い日にぴったりの、あったかい飴湯も美味しいよっ! そしてそして、美人店主の飴細工の実演販売もござれば!」
 菫が最後に温泉汲み上げポンプの稼働を確認し、飲み物を煽る。
「もしかしたら、私って建築や都市計画に向いてる? 自分の才能が怖いですねー」
 こうして松江市のバレンタインは始まったのであった。

●日の高く輝くころ
 今や表通りは人々で溢れ、昼食を求める人々はカレーの屋台に列を成す。
「白米に少量の赤米を混ぜて炊き上げるんだ。これをハート形に盛ると……ほら。因みに赤米は白米より先に渡来していて……あ、炯介、これお願い」
「了解……さあどうぞ、楽しんでね」
 目が回るほどの忙しさも、昼食時を過ぎれば一息ついて。
「ふう……どうにか切り抜けたね。古代日本と聞いてもピンとこなかったけど、物知りなヴィルがいてくれて助かったよ」
「そりゃあ僕は情報屋だしね。外国語だって堪能さ。にーはお! ぐーてんたーぐ! ってね」
「すごいよ。さすが。……ほんとだよ? さ、夕暮れ時の前に、仕込み直しだね」
 突っ込み待ちを褒め殺しで潰され、むずがる少年の肩に手を置いて、彼は微笑む。
 隣では、不動・大輔(不屈の風来忍者・e44308)が方向性のよくわからぬ出店を出している。
「さあ、焼きそばと女性ケルベロスを神話モチーフ衣装でアレンジした限定フィギュアだ! 職人として、ガンガン盛り上げていくぜ!」
 昼頃には焼きそばは売り切れ、フィギュアは外国人に結構人気なようだ。
 睡蓮の店を始め和小物店が多い中、昼を過ぎれば人気が出るのは茶菓子店。
 例えば、飴屋すず。
「チョコの甘さとまた違う飴の甘さを堪能していってください。……あ、最後尾はこっちですよ。ルードヴィヒさん、ちょっと店前お願いします」
「任せて。さあ、こころもお腹もあま~くぽかぽかになる飴湯は如何ですかー? 美人店主の作る、かわいい兎飴の製作実演もあるよー」
 ルルゥ・ヴィルヴェール(竜の子守唄・e04047)が、家族連れを案内するのは、滑らかな手つきで飴を練り上げる繰空・千歳(すずあめ・e00639)の前。
「同じ兎でも、色も形もとりどりに出来るのよ。子供たちに少しやってみさせてあげましょう。大丈夫。ちゃあんと手伝うから。あ、希莉。手がベタベタにならないようにね」
「うん……随分昔にやった気もするけれど、綿菓子ってコツをつかむのが案外難しいのよね……はい、出来た。アリシス、袋詰めお願い」
 綿あめを包む袋は、可愛らしい兎飾りの留め紐で留めて。
「はい。食べ終わったあとには、兎さんをお土産にしてね……ふう! さすがに疲れてくるね。あ、でも後で温泉に行けば疲れも吹っ飛ぶよね!」
 仕事後の楽しみを語り合いながら、飴屋すずはお客一人一人に手と心を重ねていく。
 一方、明晰な判断で大行列を捌く社風の出店は、EDBだ。
「ようこそ、いらっしゃイませ」
 涼やかな和服の男が五人。八岐大蛇の卵と銘打った温泉饅頭に、チョコペンでイラストを描いてくれるとなれば、すぐに女性たちの大行列が完成する。
「夜江殿、着付けを教えて頂きありがとうございマス。初めての着物……皆様とお揃いデス」
「着付けは大変でしたが、よかった。皆さん、着物姿もとても似合っていますね。エトヴァさんも」
「夜江殿こそ……とても良くお似合いデス」
「そうですか? ……少し恥ずかしいですね」
 艶やかな白梅模様の着物を見つめられ、彼女はそっと視線を逸らす。
 その隣で、ひょいっと饅頭をつまんだのは……。
「カルナ、味の具合はどウだ?」
「ふっ、ぐ! あ、はい……すみません。最高です。ところで、ジェミさん行商って言ってましたけど、どこまで行ったんでしょうね? 広喜さん、連絡来ました?」
「おう。今ちょうど、連絡入ったぞ」
 と、スピーカーの先から聞こえてきたのは……。
『もしもし! やっと通じた……迷っちゃったみたい。湯気が凄くて場所が……人に聞いてみます。すみません。ここは? え? アシハラノナカツクニ?』
 電波が悪いのか、そこで通信は途切れる。
「どこだろな? 知ってるか?」
「ああ……この辺ダ」
「そっか。んじゃ、もう少しだから頑張れってメールしとくわ」
 そんな妙な会話のしばらく後、彼は『この辺』から帰還したのであった。

 一方、イベント会場の一番手は、ヴィヴィアン・ローゼット(色彩の聖歌・e02608)たちだ。
「さあ、みんな! ここを取り戻した一人、鬼人と一緒に来たよ!」
 人々は英雄の凱旋に、大いに沸き立つ。
「はは……神様だって、この地が戻ってきた事を喜んでるだろう。今からそれを、演奏で表現するさ」
 大国主と白兎の衣装で、二人が構えるのは鼓と琵琶。
 ヴィヴィアンは彼にウィンクを投げて、緊張を解きほぐして。
「この地に、白兎様の加護がありますように! 『晴れ兎』聴いてください!」
 こうして、イベント会場は元気溢れる和の音色と共にその幕を開けた。

 次の歌い手は、櫛名田比売と須佐之男の衣装のペア。
「こんにちは! 『A.A』です! 親愛なる季由さんの演奏で、皆に笑顔と心躍る歌を贈ります! さあ、私の歌をたんと召し上がれ!」
「ああ。じゃあ、ロゼ。行こうか。皆を励まし盛り上げる俺達のステージ、最高の歌をプレゼントしよう!」
 撥が熱を込めて音を刻み、歌声は絢爛に、出会いと縁を祝う歌『祝宴』が紡がれる。
(「季由さんの三味線……私の歌を素敵に引き立ててくれる!」)
(「今も昔も人も縁も、総て結んで未来へと繋げよう!  さぁ、聴くがいい!」)
 すでに熱を帯びていた会場に、情熱の炎が燃え上がる。

 そして三組目はイブ・アンナマリア(原罪のギフトリーベ・e02943)のコンビ。
「やはり似合うね……その姿。勧めてよかった。お忍びで降りて来た天女のようだ」
 舞台袖で優しく語られた言葉に、イブは浴衣姿に纏った羽衣をかき抱いて。
「天女は流石に言い過ぎじゃない? スプーキー……いえ、スペクター」
 微笑んだ彼に促され、イブは舞台に登る。
「再び歩み始めるこの温泉郷に……いのちの輝きと、復興の歓びを旋律に乗せてお届けします。『めざめに至る序曲』です」
 その視線は、後ろに座った相棒……ハーフマスクで顔を隠した、エレキヴァイオリンの伴奏者へ。
 頷き合った二人の歌声と旋律は、優しく伸びやかに人々を包み込んで行く。

 広場はそれぞれの歌声に包まれ、心を震わせた。
 ならば次は……。
「綱引き大会、開催じゃぞぃ! さあ、掛け声は国来(くにこ)ならぬ福来(ふっこぅ)じゃーっ!」
 綱引き隊、紅組を率いるドラーオ・ワシカナ(赤錆た血鎧・e19926)が広場に躍り出る。対抗馬は、ホルン・ミースィア(ヘイムダルの担い手・e26914)。
「ボクは白組で参加だよ! 対抗できるのかって? むぅ……馬鹿にしないでよね! って、え? 鎧装は使っちゃダメなの? なんでぇ! ケ、ケルンおねーさぁん……」
「はは、ルールに出鼻をくじかれたようじゃの。安心せい、妾が白組に加勢するのじゃ! さあ、士気を上げよ! 妾たちが勝ったらみんなで焼き肉でも行こうなのじゃな!」
「ならこっちはワシが好きな食べ物奢ってやるぞぃ!」
 その言葉に、ひくりとセレネテアル・アノン(綿毛のような柔らか拳士・e12642)の耳が動く。
「私は拳士として普段から鍛えてますし、チアガールとして……紅組で出ますっ! 勝ったらめちゃくちゃ奢ってもらいますからね! ミミさんは、どちらですか?」
「……わらわは白組に参加するが、綱引きはいい勝負にせんと怪我するしな。力量を合わせないとじゃな」
「では、私が紅組に参加します」
「うむ。よろしくな、イサナ。さて、やれるところを見せてやらんといかんのぅ」
 勝負の隣では、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)の屋台が人々におでんを振舞って。
「さあさあ皆さん、応援中にお腹から温まりませんか~? 国引き神話や今回の綱引きに因んで、縁結びの手綱こんにゃくを入れてますのよ! 良いご縁に恵まれますように!」
 ちなみに勝敗は。番犬が少女ばかりだからと、力自慢たちの加勢が多かった白組に決まったそうな。

●山の向こうに日の沈むころ
 そろそろ人もまばらになり、茶野・市松(ワズライ・e12278)は足湯で一息ついて。
「足だけでも湯に浸かりゃあ、身体の疲れも取れるってな。いやあ、色んな空気が漂ってたなぁ。ヒコも目当てがあってよかったな」
「ふむ、丁度気に入っていた根付が壊れちまったとこだったからな。ありがてぇ。市松は器用だし練習すりゃ何か出店も出来るんじゃ……って、市松……お前という奴は」
 市松はじゃれるように、相方に湯を掛けたのだ。ふたりは口の端をにやりと歪め、身構え合って。
「おいおい、二人揃って水も滴るなんとやらにでもするつもりか?」
「はっ、好い男二人。出来上がるのはきっと間も無く、だ」
 湯の跳ねる音が、二人の間に響き合って。

 その反対側では、英・虎次郎(魔飼者・e20924)の夫妻が、湯に足を沈めている。
「アタシ、日本神話って詳しくなかったんだけど、結構面白いのな。出店も楽しかったぜ♪ ってーか、イザナギとイザナミってなんかアタシらみたいじゃね?」
「ラスト知ってるのか? 勘弁しろよ。ところで、ヒルト。これ、貰ってくれないか? 椿の彫刻がお前に似合いそうでさ。厄除けの御守りなんだって」
 きょとんとした妻に、彼が差し出すのは、つげの櫛。
「ずっと守るぜ、君の事……この笑顔も温もりも」
「はは、擽ってぇよ……な、何か妙に照れくせぇなこれ……」
 二人はため息を漏らしながらそっと足先を絡め、照れたように視線を逸らす。
 こんな触れ合いも、悪くはないな、と……。

 古都をそぞろ歩き、足湯に辿り着いたのは、アイヴォリー・ロム(ミケ・e07918)。
「……出店を賑やかしつの逍遥は時を忘れるけれど、指先が凍むね。どうぞ、お姫様」
 そう手を引くのは、彼女の王子様。
(「隣をゆく貴方の微笑み、優しいエスコート……まるで心浮き立つ幻のよう」)
 出来過ぎた一日に、ふとそんなことさえ思う。だが。
「温泉も良いね。いつか君の羽の付け根を観察してみたい」
「っ……発言が!  不健全です!」
「むしろ健全な証だと思うな。やっと一人の男として見てくれたの?」
「にやにやしないでくださいな……やっぱり全然夢の王子様なんかじゃない」
 彼はそっと、組紐で互いの小指を結ぶ。
「夢物語じゃないからね。君と俺の現の縁が、此れから先も確かであるように……」
(「もう。ずるいひと……わたくしだって、そう願っていますよ……夜」)
 指先に口づけを感じながら、彼女はそう祈る。

 一方、狸と小悪魔も、楽しいデートを終え、足湯にやってきた。
「そだ、わかな。この後、近くの神社にいかね? 境内には、触って祈れば願いが叶うっていう願い石があるんだってよ」
「へー! いいね! どんなお願いしよっかなぁ♪」
 その時彼女が、あっ! と一言。
「そだ、えっと……チョコは落ち着いてからがいいと思ったから家に置いてきてるの。だから……おうちに帰ってからのお楽しみ、ね?」
 はにかんだ笑みに、陸也は目をきょとんとさせて。
「はは、今食べたらきっとのぼせらぁ……」
 ゆるゆると流れる湯と時間の中で、二人はそっと身を寄せ合う。

 日暮れ時、露天風呂にも人々は集う。
 その端に陣取った真幸の隣。水着姿でにっこりと笑むのは……。
「今日はお疲れ様! ほら、先生がヒールした温泉だよ! 一緒に入る事なんてまずないから嬉しいな」
「秋子……」
 うんざり言っても、相棒は気にする様子もない。
「先生、ほらこっち! 頭洗ったり背中流してあげる!」
 湯着を引かれ、彼は諦めたように洗い場へと引きずられて行く。

 そう。今日は湯着を着て、誰もが共に入れる日。
「里桜。温泉はあったけーが、もーちょっとこっち来いよ。外はやっぱりさみーぞ」
 デフェール・グラッジ(ペネトレイトバレット・e02355)はそういって、連れ合いの肩を抱き寄せて。
「一緒に入れるなんて嬉しいね! 温泉ぽかぽかで温かーい……こんな風にゆっくり過ごすのもいいね」
「あー、なんつーか……その。いつも……サンキューな。こんなオレと一緒に居てくれてよ」
「こんな俺、じゃないよ、デフェだから好きになったんだし。私にとっては、大切で大好きな……恋人、だし……私の方こそ、ホントにありがとうだよ?」
 不器用な二人は、互いにそれ以上言葉にならぬままに、視線を絡め合う。

 はー、と深くため息を落とすのは、六道・蘭華(双霊秘詩の奉剣士・e02423)。
「ふふっ。凛那、いいお湯だね。ここの硫酸イオンが肌に効くらしくて。肌もキレイになるといいなぁ」
「うん、いいお湯だけど……蘭華姉、今でも隅々まで綺麗じゃない。むしろあたしかな……」
 指先に目を落とした相棒の胸元を、蘭華は軽く小突く。
「ん、ちょっぴり立派になった?」
「きゃぅっ! そ、そんなに大きくなってないよ! そんなこと言うなら、蘭華姉はどうなのさ!」
「それはだーめ。2人っきりの時に……ねっ」
 二人は水着での温泉という非日常の中、心行くまでじゃれ合う。

 新城・恭平(黒曜の魔術師・e00664)たちは二人、この日のことを語らって。
「和小物……古墳のイメージで並べたりしたのだが、どうだったかな? アリアさんの売り子は、大人気だったね」
「人気、だったかな……?」
 そりゃもう、と、恭介は頷いて。
「ところでアリアさん、温泉こんなに長く入って大丈夫かな?」
「確かに熱いの、苦手だけど……温泉は、気持ち良いし大歓迎。ふふ……折角一緒なんだし、直ぐ出ちゃうなんて、勿体ないでしょ?」
「それなら……よかった」
「……あ、そうだ。バレンタインチョコは、帰ってからのお楽しみ、ね?」
 二人はそっと肩を触れ合わせて。

 一方、ヴァルカン・ソル(龍侠・e22558)たちの頬紅は、湯のせいばかりでなく。
「一仕事終えた後の露天風呂は格別ね。景色も素敵だし、身体の芯まで温まるわ。この中で熱燗煽れたら、もっといいのに……」
「子供も入る露天風呂だからな。さくら、あとでもう一度、休憩処で乾杯といこうか」
 湯と酒で仄かに上気した彼女の顔には、艶がある。思わずヴァルカンは頭を振って。
「んー? なんだか、顔が赤いけど、何にのぼせちゃったのかしら?」
 ヴァルカンは明後日の方を向きながら、その肩を抱くように引き寄せて。
「……元からだ」
 その不器用な一言が、問いの答えを表していた。

 ヴィンセント・ヴォルフ(銀灰の隠者・e11266)は湯の側のベンチで、恋人の髪を括る。
「オレは桜みたいに、上手にはできないけど……はい。かわいいよ」
 艶やかな黒髪には、彼の作った作った髪飾り。
「……やっぱり明るい色が似合うね」
「ヴィンセントが作ってくださったんだもの。今日いらしたお客さまも、皆さん喜んでらっしゃいましたよ」
「……桜が喜んでくれるのが、いちばん嬉しい。桜、どんどん、きれいになってる……あ、かわいい、の方が良いだろうか」
「ヴィンセントのいちばん好きな、桜になりたいです……さ、お背中、流しましょうか」
「うん……あとで、オレも桜の背中、流してあげる」
 二人は手をつないで、湯へと歩む。
 すでに空は、夜の帳が下りていた……。

 こうして、松江市のヒーリングバレンタインはその一日を終える。
 番犬たちは、人々と共に触れ合い、喜び、語り合った。
 今日の思い出を胸に、再び番犬たちがこの地を訪れた時には、きっと、彼らが番犬たちを迎えてくれることだろう……。

作者:白石小梅 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:49人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 3
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