理想の姿

作者:緒方蛍

 山奥に響く怒濤の水音。
 辺鄙なところにあるがゆえに、人々に存在をほとんど知られていない滝がそこにある。真冬の滝、その日の水は凍っていなかったとはいえ触れた途端に手を引っ込めるくらいには冷たい。
 そんな滝の滝壺で、酔狂にも水に打たれる翁がひとり。
 彼は齢70、麓の村では知られた格闘家で、ケルベロスでこそないものの重ねた歳が強さのレベルとでもいうかのように自身の腕に自身を持っていた。
「ぬおおおおおおおっ、心頭滅却ゥゥゥゥゥゥッ!!!」
 強さの秘訣は修行を怠らないところでもある。滝に打たれた後は凍えそうなのにすぐ鍛錬に入る。まるで迷いを断ちきるかのように繰り出される拳、脚。流れるような動きはけっして老人のそれではない。
「はあああああああッ!! 夢一途!!!!」
 気合いとともに樹木に撃ち込んだ掌底。幾人もの挑戦者を沈めてきた一撃だ。ずどおおおん、と大きな音を響かせて太い幹が折れる。
「……ふぅ……」
 だがこんなものではない、と険しい顔は崩さなかった。翁には理想がある。そこに到達するにはまだまだ力及ばない。そう考えていたからこそ、鍛錬にも力が入る。
「……何やつ!」
 背後を振り返ると、槍撃のように鋭い一撃を撃つ。
「おっと……」
 誰もいなかったはず。けれどそこには不敵な笑みを浮かべる者がいた。手には巨大な、鍵。
「おまえの、最高の『武術』を見せてみな!」
 その言葉が合図であったかのように、老格闘家は次々と拳、足技を繰り出していく。けれど怪しいソレには決定的なダメージを与えられない。
 先ほど大木を倒した拳を、いとも容易く受け流したソレは、にやりと笑みを浮かべた。
「僕のモザイクは消えることがなかった……けれどおまえの武術は素晴らしかったよ」
 そうして手に持っていた鍵を翁の胸にまっすぐと撃ち込んだ。
「……ぐ、ぅ……」
 とさ、と彼が倒れ伏すのと同時、隣にはいつの間にか――魔法少女のような衣装をまとった美少女が立っていた。鍵を持った者は満足そうに頷く。
「さあ、おまえの武術を見せつけてきなよ」
 美少女は無言でこくりと頷く。そうしてすぐさま山道を麓の村へと下りていった――。
 
 ヘリオライダーの御門・レンは、集まった一同にお辞儀をした。
「近頃、武術を極めようと修行をしている格闘家、武術家が次々と襲われる事件が発生しようとしています」
 武術家を襲うのはドリームイーター、名は幻武極。
「その者は、自分に欠損している『武術』を奪って自身のモザイクを晴らそうとしていると思われます。今回襲撃された武術家の武術でモザイクが晴れることはないようですが、代わりに武術家のドリームイーターを生み出し、暴れさせようとします」
 出現するドリームイーターは、襲われた武術家が目指す『究極の武術家』の姿、技を使いこなすようで、かなりの強敵となるだろう。
「幸いドリームイーターが山の麓にある村に到着する前に迎撃することが可能です。周囲に民間人もいませんから、被害を気にせず闘ってください」
 それから、とレンは言葉を続ける。
「場所は人の通ることが少ない、獣道のみの山中です。ドリームイーターは1体。皆さんに悪夢を見せたりするような技も使ってくるでしょう。ですが皆さんなら必ず勝てると信じています」
 いつもそうに違いないが、全力で戦ってきてドリームイーターを打ち倒して欲しい、とレンはケルベロスたちに願う。
 レンは一度視線を落とすと、再度ケルベロスたちを強い眼差しで見つめる。
「……たとえ相手が美少女戦士や魔法少女の姿であっても、遠慮なさらないでくださいね」


参加者
メルナーゼ・カスプソーン(彷徨い揺蕩う空の夢魔・e02761)
赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)
アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)
四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)
軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)
レヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)
速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)
ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)

■リプレイ


 太陽が地平へと降りていく頃。
 夢喰いの暴虐を食い止めようと、8人のケルベロスたちが敵の侵攻経路に先回った。
 場所はとある山中。あるべき道は獣道しかない場所は、木々の枝葉が密に生い茂り、陽の光を遮って薄暗かった。
「傍迷惑な……もっと遠いところで暴れてくれないものですかね……」
 溜息でも吐き出しそうにメルナーゼ・カスプソーン(彷徨い揺蕩う空の夢魔・e02761)が呟く。手にしたランプ『青鷺火』を木の枝につるす。足下に置くだけだと腿丈ほどは伸びている雑草たちに光を遮られてしまうだろう。
「私、最近よく出没するっていう武術系のドリームイーターと戦うの、初めてなんだよね」
「美少女姿が理想像……か……」
 メルナーゼから少し離れたところで、彼女と同様にランプをつるそうとしていた赤星・緋色(小学生ご当地ヒーロー・e03584)の手からランプを受け取って枝の高いところに引っかけたのが軋峰・双吉(黒液双翼・e21069)だ。強面の顔はその筋の男と見られかねないが、彼の瞳にはゴロツキどもにはない優しさがあった。
「被害者の爺さんからは、俺と同じ匂いがすっぜ」
「双吉と同じ匂い?」
 また少し離れた場所でつるしたランプの位置を調整していたレヴィン・ペイルライダー(二挺拳ジャー・e25278)が、どういう意味だろうと不思議に思って問い返す。双吉はレヴィンを振り返った。
「……俺が思ってるだけだけどよ。誰かの夢なら守ってやりてぇって思うだろ?」
「まあ、そうかもしれないな」
「だろ? だからなかなか出会えねぇ同士が助ける対象とあっちゃあ、いつも以上に気合いが入らァ!」
 こぶしを握って双吉が(潜んでいるので小声、しかし熱く)言い切った直後、周囲の物音に耳をそばだてていた速水・紅牙(ロンリードッグ・e34113)が顔を上げ、ティリル・フェニキア(死狂ノ刃・e44448)がハッとした顔をする。仲間たちを振り返ったのはふたり同時。
「来るぜ」
「速いぞ」
 がささ、と聞こえる草を分ける音は風によるものではない。蜜に生える雑草たちをものともせず、夕闇を縫うようにやってくる影。
「ここから先は行かせないよ!」
「そちらが魔法少女風格闘家なら……わたしは、アイドル的格闘家風味で行きます、です……?」
 アンジェラ・コルレアーニ(泉の奏者・e05715)の語尾が上がったのは、一斉にランプに明かりが灯され、周囲がにわかに明るくなったその場に現れたのが、たしかにテレビアニメの深夜枠で見かけるような魔法少女――膝上丈フリルたっぷりのチュチュに淡いピンクのスカート、ニーハイ靴下はレース付きの白、スカートと合わせたとおぼしきショートブーツには白い羽の装飾、上着は各所に白いレースやフリルが散らされたセーラースタイル、袖はバルーン型。
「……ここまで被害者さんとかけ離れた姿を見たのは、初めてかもしれません、です……」
「理想……? コレ、おじいちゃんの理想……?」
 やや呆れ混じりに呆然としているのはその隣にいるティリル、首をひねったのは紅牙。
「…………長年修行を積んできた達人の理想がアレとは……」
「まあ、私のような美少女に老若男女問わず憧れてしまう気持ちはわからなくも……」
「いや、そうじゃないだろ」
 お嬢様然と、しかしどこかクールに言い切ろうとした四方・千里(妖刀憑きの少女・e11129)の言葉に思わずレヴィンが突っ込む。
 気を取り直した紅牙がひとつ息を吐く。
「まあ、理想の形は人それぞれだもんな」
「紅牙、おまえ良いこと言うな」
「なんだい、それ」
「わからんでもないけどな……」
 ティリルは肩を竦めると、魔法少女風格闘家のドリームイーターを見据える。
「なんにせよ、仕事は仕事。やることはキッチリやるさ」
「そうそう。倒しちゃえばとにかく良しだなっ! ……多分っ!」
 ケルベロスたちの闘志に呼応するかのように、魔法(略)ドリームイーターも殺気をみなぎらせる。睨み合いは長くは続かなかった。


「いざ尋常に勝負、です!」
 戦いの口火を切ったのはアンジェラだ。
 ばさりとコートを脱ぎ捨てると、こちらは一見チアガールの制服をアレンジしたようなアイドル衣装。魔法少女VSアイドル、少女同士の戦いは胸を熱くする者もいるに違いない。
 そうして高く跳躍したかと思うと、高さの頂点から急降下! 鮮やかな虹をまとった蹴りの一撃をドリームイーターに見舞う。その蹴りは8歳の少女のものとは思えぬ力強さがあった。
「子供の一撃と侮らないでください、です」
 今度は、と千里があたかも稲妻をまとう刀から繰り出す疾風のごとき突きを繰り出す。
 見た目で子供と侮ったのかまでは不明だが、ふたりのグラビティは確実にダメージを与えた。
 そうしてこちらも子供代表、元気いっぱいの緋色の攻性植物が実らせた黄金色の果実が、前衛の3人を照らしてバッドステータスへの耐性を付けることを試みる。
「回復とキュアは任せてっ!」
 事前にヘリオライダーから聞いていた悪夢への対策だ。
「嬢ちゃんたちばかりに遅れはとってらんねぇ、ってなァ!」
 彼女の懐に素早く潜り込み、突き出した手のひらから放つ一撃は彼女の肩を捉えた。
 しかし夢喰いもやられてばかりではない。魔法少女の服の裾のあちこちから溢れたモザイクが巨大な口の形となり、緋色を襲う。
「……っ、こんなの平気だよ」
「やってくれるね……!」
 紅牙が大量の霊力を帯びた紙でできた兵たちを前衛に撒く。
「ありがとう、紅牙さん」
 緋色の礼に紅牙が笑みで返す。その間に夢を見るような表情で魔力を高めていたのがメルナーゼだった。
「誰も彼もが小休止。決して叶わぬ願いの波止場……」
 子守歌を歌うような、けれど敵に対してそんな優しさはない低い詠唱はどこか悲哀を帯びる。それはもしかしたら、彼女が背負う業によるものなのかもしれない。自らを包むような羽は何かを護っているようにも見えた。
 幸福が己の首を絞める、と断罪するかのように唱えていると、プリンセスクロスの長靴の下、青く光る大きな魔方陣が浮かび上がる。それがくっきりと浮かび上がるとメルナーゼはドリームイーターを見据えた。
「……魅惑の世界へご招待」
 魔方陣の蒼に照らされた金の瞳が光った、かのように見えた。
「ッぐ、……!」
 『ユメノセカイ』、メルナーゼだけの御技がドリームイーターを襲い、彼女の顔がわずかに歪む。
「負けてらんないね」
 ドリームイーターという獲物を見つめるティリルの両眼は何かのスイッチが入ったように常になく輝きギラついて、猟犬とも狂犬とも形容できた。
「受けてみな!」
 構えた低い位置から飛び、横に薙ぐように繰り出したスターゲイザー。腿にダメージを与え、ドリームイーターの体がわずかに傾ぐ。
 攻撃を継いだのはレヴィンのリボルバー銃から放たれた銃弾。バッドステータスを付与することはできなかったものの、手痛い一発を与えた。


 数ターンが経過し、8人のケルベロスの前にさすがのドリームイーターも押されつつあった。
 倒すのも時間の問題か。誰もがそう思う中、紅牙はひとり悪寒を感じていた。
(なんだ……?)
 瞬きのたびにチラつく、フリル。
 初めは彼女の服が残像になっているのかと思った。だがすぐに違うと気付く。
(こ、これは……!)
 フリル、レースをあしらったシャツにスカート、そう、ドリームイーターの服のはずだ。なのにその衣装を着ているのは。
「うわあああっ!!」
 くるりとかわいらしく振り返ったのは禿頭の老爺で――おそらく今回の被害者。
(夢! これは夢だっ!)
 そう、まさしく悪夢。
 老爺が伸ばしてくる手を振り払おうと、闇雲に暴れる。
「なんだ、どうした? まさか……!」
 紅牙の異常に気付いたレヴィンがすぐに気力溜めを使おうとしたのを阻むように、夢喰いが拳を彼へ叩き込む。避け損ない、顎に食らってしまった一撃に、頭がくらりと揺れる。
 垣間見えたのは、餅だ。
 白くてすべすべ、ほかほかと湯気が立ち上る餅はつきたてだとわかる。その隣にあるのはぷっくりとコブが膨らんだ焼きたての餅。さらにその横には海苔が巻かれた磯辺、香ばしい黄粉がまぶされたもの、砂糖醤油、ベーコンとチーズがのせられたもの……。
「も、餅……!」
 餅好きのレヴィンにしてみれば、あたかも餅天国。あの餅この餅、全部食べたい! だってほら餅はこっちに来てくれている……!
 しかし天国はすぐに地獄と化した。それらの皿がレヴィンに迫ってくるのはまだしも、近付くにつれて高さ5メートルはあろうかという大きさだったと気付く。
「え……ええっ?!」
 呆気にとられているうち、気付けば囲まれ、迫られ、絶体絶命――!
「しっかりしてよねっ!」
「ほらっ、気合い入れ直してッ」
 緋色の一喝とともにオラトリオヴェールが、ティリルの声とともに気力溜めがそれぞれかけられる。
「……っ、サンキュ、ティリル」
「餅に殺されるかと思った……」
「餅?」
 かわいらしく小首を傾げた緋色に、レヴィンが慌てて首と手を横に振る。
「な、何でもない。助かったよ、緋色」
(…………もし)
 私が悪夢に囚われていたら、とメルナーゼは仮定する。
(その時は……)
 廃墟の中で筆舌に尽くしがたい危機感、焦燥感、後悔に苛まれ、ぽつんと立っているかもしれない。だが、そんなものがなんだというのか。惨劇には負けないだけの精神力を、メルナーゼは持っていた。
 気力溜めを施そうかとしていたアンジェラは、すぐに彼女へ向き直る。もしかしたら悪夢は自分が見ていたかもしれない、払おうと暴れて仲間を攻撃したかもしれない。
 千里もまた自分に降りかかるかもしれなかった悪夢がちらりと脳裏をよぎる。それは惨劇というより、記憶に近かったかもしれない。二度とは見たくないものだ。
 双吉にしても、見ればそれが悪夢に違いないと思うものはある。孤独。ひとりぼっち。それはかつて荒んでいた頃の自分。戻りたくはなかった。
 ティリルも、かつての思い出とは呼びたくない記憶があった。できれば完全に忘れ去ってしまいたいものを強制的に見せられてしまえば、暴れてしまうかもしれない。
「あなたの相手は、私よ……」
 ドリームイーターの気を逸らすように、メルナーゼが時空凍結弾を放つ。着弾命中。その間に気を取り直した紅牙がいきり立つ。
「よくもやってくれたね! お返しするよ……!」
 悪夢にやられた仕返しは是が非でもしなければならない。昂揚した紅牙が鋭い眼差しでドリームイーターを睨み、腰を低く構える。
「アタシの速度について来れるかなっ?!」
 拳や脚を息をつかせぬ突風のように、連写するストロボの光のように繰り出される連撃。そう、『フラッシュ・ラッシュ』だ。
「私からもプレゼントだ。……受け取りなッ!」
 ラッシュの間に宙に描かれた巨大な魔方陣。その中心から現れたのは巨大な氷剣。そうして、出現したと思えば細部を視認する暇もなく、少女の体目がけて突き刺さる! ティリルの『シゼアルディ』は確実にダメージを与えた。
「ここは山奥、在るのは人が通るには不向きな、道とは言えない獣道、です」
 アンジェラがぽそりと呟く。そうして翼を震わせると、ドリームイーターの胸倉を掴み――。
「ちょっぴりスリリングな散歩道にご招待、です」
 無邪気と形容できる笑顔で言うと、やおら急上昇。そうして翼力、重力を使い、錐揉み状に急降下し、細身の体を地面へと叩き付ける!
「ぐ、あ……ッ」
 見た目にそぐわぬ呻き声を上げると、彼女は地に膝をつく。その脚を狙ったのは緋色だ。
「ひっさつ小江戸ビーム!」
 グラビティチェインをビーム状にして叩き込む一撃。まさしくどこかの正義の味方然としたグラビティは、彼女が編み出した『小江戸ビーム』、そのいりょくはばつぐんだ! 夢喰いの脚を焼き、怒りに燃え上がらせることに成功。
 そうして双吉のブラックスライムが使い手の意思を読み取り、ふるりと震えた。
「鍛え続けた『武』。ケルベロスになって2年半……」
 それ以前、路地裏で荒れて喧嘩を繰り返した日々を入れても、闘争キャリア15年。
「……そんな俺じゃあ殴り合えない。なればこそ――惑わす! 投影、大量受苦悩処。串刺し地獄行きだぜ!」
 針のごとく鋭く、槍のごとく剛く伸ばされたブラックスライム7本、あたかもケイオスランサーの連撃に見えるそれが放たれる。
「…………っ!」
 双吉必殺の『ケイオスランサー・張(ケイオスランサー・パピエマシェ)』。だが、7本の槍が本命ではなかった。ドリームイーターが避けようと体重を移動させた刹那のこと。
「……なーんてなぁ、のハッタリだ。まっ、マジモンの地獄行きにならねえように祈って死にな」
 一際輝くケイオスランサー数本がドリームイーターの肩や脚を鋭く貫いた!
「……チッ、トドメにゃならなかったか」
 ふらりと立ち上がる夢喰いに、双吉が眉間に皺を寄せる。
「任せろ!」
 銃を構え、好機を狙っていたのはレヴィンだ。その口許にはにやりと不敵な笑み。
「喜びな、全弾プレゼントしてやるよ!」
 低い銃声が、ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ……繰り返され、仕留めたかに見えた。
「……なにぃっ!?」
 ふらつきながらもレヴィンを狙った彼女による一撃。躱し損なうが、たいしたダメージは受けなかった。そうして、レヴィンは夢喰いの背後で、動きを見せたひとりの少女を見止めた。
「……っ、よろしく頼むよ!」
 はっとしたようなドリームイーターが振り返るより速く動いた影。
「気づいたときにはもう遅い……」
 妖刀『千鬼』を、弓を引き絞るように構えていたのは千里。
「――よくも仲間を、私を、やってくれたね……おまえは塵も残さず消してあげる……」
 神速の突きを、深々と胸へと突き立てる。
「……さようなら」
「ア……ア……、……」
 最後の呻きを残し、ドリームイーターは千里の宣言通り、塵となって消えた。


 数時間に及ぶ戦闘のように思えたが、実際は1時間も経っていない。
 ほっと一息ついたケルベロスたちのうちの何人かは周囲のヒールを、またある者たちはまだこの獣道の先に倒れているであろう老武術家の元へと向かっていた。
(俺が『徳』を以て美少女を目指すように、爺さんは『武』を以て美少女にならんとしているのか? それとも究極を目指したら自然と美少女の姿に行き着いたのか?)
「……訊いてみたいもんだ」
「へ? なんか言ったか?」
「なんも言ってねぇ」
「ま、なんにせよ、達人の目指した武術とやらもなかなかだったじゃないか」
 双吉とレヴィンの話に混ざったティリルが笑った。
「爺さんは暖かいところに連れて行こうぜ」
 何しろ真冬に滝に打たれた後に放置されているのだ。風邪を引きかねない。

 ――その後、老武術家の家に何があったのかを語る者はいなかったという。

作者:緒方蛍 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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