ヒーリングバレンタイン2018~温泉郷チョコ祭

作者:狐路ユッカ

●温泉郷とチョコレート
「皆の活躍で、これまでミッション地域になっていた場所の奪還に成功したじゃない? 今回、そこの復興も兼ねてバレンタインチョコづくりのイベントをやるんですって!」
 エルヴィ・マグダレン(ドラゴニアンの降魔拳士・en0260)は一枚の写真を取りだす。
「今回私たちが担当する地域は……岐阜県高山市の奥飛騨温泉郷! 古き良きお宿の立ち並ぶ素敵な温泉郷ね! っと、今は壊れちゃってる所も多いから……」
 みんなでヒールして回らないとだけど、と微笑んだ。
「デウスエクスのせいで営業できてなかった温泉も、皆が解放してくれたおかげで営業が再開できるって喜んでるはずよ。新しく旅館を始める人もきっとたくさんいるでしょうし、お引越しを考えている人が下見に来るかも。というわけで、そんな皆さん方をおもてなししちゃおうってイベントがあるの♪」
 エルヴィは、ホワイトボードにすらすらっとタイトルを書く。
『温泉バレンタインまつり』
 復興した土地にてバレンタインチョコを作り、そしてみんなで食べちゃおう、お客さんに配っちゃおうという企画らしい。チョコに限らず、飛騨はみたらしだんごや駄菓子も人気らしいので、それも食べたいな、なんて付け足してエルヴィは説明へ戻る。
「皆にしてほしいことは、まず会場のヒールね。ヒールが終わったら、旅館の厨房を貸してくれるみたいだからそこでチョコを作らせてもらいましょう。で、出来上がったお菓子は旅館のホールや談話室でお客さんに配ったり皆で食べたり……持ち帰って大切な人にプレゼントするのもいいわね」
 早速行きましょう、とエルヴィは立ち上がる。この魅力的な温泉郷を、どんどんアピールしていかないとね、と笑うのだった。


■リプレイ

 ケルベロス達はヘリオンから降りると、早速会場をヒールして回ることにした。
「星々よ、力を貸してください……」
 挟巳・霧依が祈りを込めてヒールをかけると、崩れかけた外壁や道路が星の煌めきを受けて見る間に元通りになってゆく。
「温泉郷、雰囲気も温かくて素敵だよね」
 ヒールを施され、瓦礫の山が無くなればそれはかつての輝き、優しさを取り戻した温泉郷へと変わっていく。ラグナシセロ・リズは、自分の力もしっかりと役に立っていることを確認しながら傍らに立つ妹、シエラシセロ・リズに笑いかけた。
「うん、道も綺麗に通れるようになったし、これでみんなも楽しめるね!」
 この後はチョコづくり! とシエラシセロは鼻歌交じりに調理会場へ向かう。主に試食がんばるぞ、と言いかけ、じゃなくて……と首を振った。今回は、喜んでほしい人がいるのだから自然と気合が入る。
 エルヴィ・マグダレンは、乳白色の温泉を見つけて首を傾げた。
「ん……? こんなとこにミルク風呂があったのね」
 うんうん、とミルム・エークが頷く。
「毛穴の汚れを綺麗にして、肌を柔らかくするスキンケアの効果があるんですよ」
 何を隠そう、このお風呂は彼女がヒールがてらミルク風呂に改造した温泉だったのだ。
「女性人気が出て復興に役立つと嬉しいですね」
「そうねぇ、美容風呂って宣伝したら流行っちゃうかもね?」
 楽しげにチョコづくりの会場へ向かうケルベロス達を見ながら、霧依はぼんやりと思う。
(「バレンタインといっても、私自身には特定の誰かが居たり、恋愛にもあんまり関心は無いのですが……」)
 バレタインは自分には関係のないイベント。そう思っていたが、視線を巡らせれば、そこにはケルベロス以外にも一般の参加者が集まり始めていた。
(「それでも、こうしたイベントを催して、人々の心を癒す事に繋がるのでしたら、私もまた全力を尽くしますし……」)
 チョコレートを配るケルベロス達と、それを受け取る人々の笑顔を見て、なんとなく腑に落ちるところがあった。
「……人々の心を癒す切っ掛けになるのなら、バレンタインデーというのも、存外に良いイベントですね」
 会場準備ももうすぐ終わる。一息ついたら、やわらかく癒してくれる温泉に浸かって行こう。そう考えて、霧依は一つの宿へ足を向けるのであった。

 さて、ところは変わってキッチン。
「オランジェット作りに挑戦よ!」
 気合いを入れて、九条・小町は拳を突き上げる。小町に倣い、神宮司・早苗も、おーっと拳を挙げた。オランジェット、というとまずはオレンジのシロップ漬けが必要となる。が、それは時間がかかるとわかっていたので、小町は保存容器に大量に詰め込んだ輪切りオレンジのシロップ漬けをどどんと取り出した。続くように早苗もレモンのシロップ漬けを横にどんっと置く。
「これをオーブンに入れるんじゃな?」
 小町は頷く。
「その間にチョコをテンパリングしましょ」
「てんぱりんぐ……な」
 チョコレートが分離しないよう、適温を保ってコーティングチョコを溶かす。
「早苗は彼氏に贈るんでしょ?」
「んー? そうじゃな、もちろん彼に送る用じゃ」
「どういう味が好みだって?」
「甘いのが好きだって言ってた!」
「ワイルドな見た目なのに甘い物が好きとかちょっと可愛いわね」
 作業しながらの会話も、非常に女子。今頃彼氏はくしゃみでもしているだろうか?
「小町は誰に贈るのじゃ?」
「私は特定の誰かにってわけじゃなく旅団に遊びに来てくれた男の子達に贈ろうかなって」
 ほう、と早苗は頷く。確かに小町らしいと言えば小町らしいが……そういえば。
「……あの時も言ってたが、旅団の時とはずいぶん雰囲気が違うのう?」
 ふと、尋ねてみる。
「……旅団の私はね、あれ雰囲気作ってるのよ」
 ああ、なるほど。なんとなく合点がいった。
「まぁ、確かにそれらしい雰囲気出てたから大成功じゃよ!」
 そうこうしている間に、艶のあるチョコレートでコーティングされたオランジェットが出来上がってくる。小町は思いついたように手を打った。
「チョコかけるだけじゃ派手さに欠けるし、私アラザンや金箔をちょっと乗せてみよっかな」
「んー、じゃあわしは粉砂糖でもかけてみるか、なんかおしゃれ感出るじゃろ!」
 出来上がったオランジェットは、金箔のキラキラに、粉雪の装いにと、見た目にも可愛らしい出来になった。
「復興先も、贈る相手も喜んでくれるといいわよね!」
「ふふ、そうじゃな。皆しあわせが1番じゃ!」
 綺麗にラッピングして、二人は贈る先へ想いを馳せる。誰もが笑顔になるバレンタインになりますように。

 揃いの浴衣と半纏を着て、二人は温泉郷にやってきた。二人きり、夫婦水入らずの旅行なんてどれほどぶりだろう。
「仕事を離れてこうしてあなたと出かけられるなんて嬉しいこと」
 遠之城・あきら子が嬉しそうに笑うと、遠之城・王點も静かに頷いた。通りを散策すると、そこかしこにイベントを楽しむ人々の姿が見える。
「ケルベロスの活動は中々出来ないけれど……政治家として復興に尽力していても、直接人々が笑顔を取り戻す瞬間を目にすることはめったにないですもの。とてもいい機会だわ」
 こうして人々が活き活きとした笑顔を見せてくれる場所に、最愛の夫と出向けた幸いを噛みしめてあきら子は夫の顔を振り返る。うん、と優しく頷いてそっと手を取ってくれた王點と、調理会場へ向かった。
「あなた、何を作るの?」
「チョコ焼きまんじゅうを作ってみようと思ってね」
 王點は、素まんじゅうを串に刺して焼いていく。本来焼きまんじゅうならば甘辛い味噌だれで味を付けるところだが、今回はバレンタイン。チョコレートを塗ってみようというのだ。こんがりと焼けた饅頭にチョコレートを塗りつけていく。
「チョコ焼きまんじゅうなんてよく考えたわね。料理のことはあなたには敵わないわ……」
 味見をしていると、あきら子は手元から焦げのにおいを感じてハッとする。
「あら、焦がしちゃった!」
 それから、二人は少し話をする。
「孫たちを取り上げたこと、あの子には可哀そうなことをしたわね。我が家が賜った使命のため……」
 労わるように、彼女の手に王點は自分の手を重ねた。
「だけれど家族が幸せに生きること、それも大事だもの。あの子が帰ってきてくれた……この機会を無駄にしないよう、わたしたちこんな風に一緒に作り上げていきましょうね」
 すっと串を持ち上げる。揃っている饅頭が、家族のように。
「ああ、これからもよろしく頼むよ」
 絆を、繋いで行けるように、と。

 うきうきしながら、シエラシセロはチョコづくりに取り掛かった。大好きな婚約者のために、ウエハースをチョコレートでデコレーションするつもりだ。細長く切って、イチゴやミルクチョコでコーティングすれば、見た目にもカラフルで可愛らしいチョコになるはずだ。用意したバラの砂糖菓子をワンポイントに飾れば、世界で一つだけのチョコレートが出来上がる。まずはコーティング用のチョコレートを溶かすところから。
「ラグは? 何を作るの?」
「僕は生チョコに挑戦してみるね」
 こちらも、大好きな人にあげるために初挑戦だ。頑張る! と笑顔で意気込みを語り、ラグナシセロは温めた生クリームに細かく刻んだチョコレートを投入した。
(「料理は結構得意だから、上手くいくといいな」)
 分離することもなく、順調にガナッシュクリームが仕上がってくる。うっかり水が入ったり温度管理を間違うとあっという間に分離してしまうから気を付けねば、とラグナシセロは手を動かした。大変な作業だけれど、相手が喜んでくれると思えば頑張れる。
(「あ、ラグの方から美味しそうな匂い……」)
 自分の作業を勧めていたシエラシセロがふんふんと香りに鼻を鳴らす。
「ねぇねぇ、食べてもいい? ボク味見できるよ!」
 にょきっとラグナシセロの肩越しにボウルの中を覗き込む。
「……シェラ、このチョコはガナッシュにするんだよ。つまみ食いしちゃダメだよ?」
 そっかー、と残念そうに笑って、シエラシセロはツマミグイモードから作業モードに切り替える。
「というかね、さっきからチョコがヤバい感じになってきてて……どうしよ、これ食べられる?」
「え」
 シエラシセロが指さした先の彼女のボウルの中身を見て言葉を詰まらせる。コーティング用チョコがなんかヤバい。
「失敗したら食べてもいいんだよね??」
 良いっちゃあ良いが……。
(「シェラも婚約者さんにあげるんだよね……」)
 手伝うから一緒に作ろう、とラグナシセロは自分のチョコを完成させると早速シエラシセロの手伝いに取り掛かった。
「なんとかできたーっ!」
 いくつか作った内から、一番仕上がりの良い物を選んで、予定通りバラの砂糖菓子をつけて可愛らしくしあげたチョコレートをラッピングする。ラグナシセロも、自分の生チョコレートを星形の箱に入れると、二人は顔を見合わせて笑った。余ったチョコレートは、二人で実食だ。
「どう? 美味しいかな?」
「にへへ、おいしいよとっても」
 すっかりとろけきった笑顔で生チョコを頬張り、シエラシセロは頷く。ボクのは大丈夫かな? と問う彼女に、ラグナシセロは一つ頷いた。
「シェラの作ったチョコもとっても美味しいよ」
 よかったー、と胸を撫で下ろし、
「喜んでもらえたら嬉しいね」
 互いに、渡す相手の事を想いながらもう一つ、チョコレートを口に運ぶのであった。

 こちらはというと、ミルムが生チョコを作っている。
「生チョコにはミルクが必要ですね!」
 自家製ミルクで作った生チョコをバットに流し込み、冷やしてココアパウダーをかけて切り分けているところに、エルヴィが通りかかった。
「生チョコ? 美味しそうね」
「是非! 御試食いかがですか?」
 はい、とピックを刺して勧めると、エルヴィは遠慮せず受け取り、もぐもぐと口を動かしながらミルムのミルク自慢を聞いた。なんか色々複雑な感じはしたが、美味しいからまあいっか、と二つ目を頬張る。
「あと、はい! これも!」
 ホットミルクチョコをカップに入れて、ミルムはにっこりと笑う。
「肌寒い季節でも身体の芯からポカポカになりますよ!」
「外はまだ冷えるものね。お客さんに配りに行きましょうか」
 これなら簡単に大量生産できるし、皆にいきわたりますよ、と意気込むミルムに、エルヴィは頷く。
「私もチョコレートドリンクを作ったから振る舞ってこようかな。……お客さん達も、あったまって行ってくれると良いわね」
 終わったら温泉も入りたいなぁ、と鼻歌交じりにロビーへ向かう。
 今日一日、温泉郷は甘いチョコレートの香りで充たされ、幸せな空気が充満するのであった。

作者:狐路ユッカ 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 0
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