剣に生きる者

作者:天木一

 山の木々に雪の積もる中、剣道着だけという薄着の男が腰に差した刀に手を置き構える。
 目の前には雪化粧された竹。鋭い息と共に刀が抜き打たれ、一閃した刃が竹を断ち切る。
「はっ!」
 そのまま流れるように振り上げた刀を両手で握り、袈裟斬りに振るい残った竹を更に短く斬り落とす。
「ふっ!!」
 そして体を入れ替え反転すると、背後の竹を横一線に断ち切る。それを続けて周囲の竹を次々に斬り払うと、ゆっくり息を整えて刀を鞘へと納め残心する。
「免許皆伝といっても剣の道を極めたことにはならぬ。まだまだ先は長い、いや、終わりなどないのかもしれない……ならば行けるところまで行くのみ」
 壮年の低い声には強い意志の力が籠っていた。その前に何の前触れもなく幻武極が姿を現す。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
 その一言で落ち着いていた男の心が昂り、烈火の如く燃え上がると柄に手を掛けた。
「はあぁっ!」
 気合一閃、抜刀した刀が首を斬り、更に返した刀が肩から胴に抜ける。そして踏み込んで横に移ると胴を両断する勢いで振り抜く。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 一息でそれだけの連撃を受けながらも、幻武極は全くの無傷で手にした鍵を無造作に男の胸に突き刺す。すると男はガクッと崩れ落ちて意識を失った。
 その横には男と同じ姿のドリームイーターが生まれ出る。
「お前の武術を見せ付けてきなよ」
 幻武極がそう言葉をかけると、男は腰に差した刀を抜く勢いで一閃させ、周囲の竹を全て両断した。
「我が剣に斬れぬものなし!」
 音も無く刀を鞘に納めると、男はゆっくりと山を下り始める。その方角には人々の住まう町があった。

「どうやら次に現れるドリームイーターは剣の達人のようですね」
 ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)がケルベロス達に新しい事件が起きる事を告げる。
「幻武極というドリームイーターが、稽古している武術家を襲い自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているようです」
 その隣で資料を配るセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)が事件の説明を始めた。
「ですがモザイクは晴れず、武術家ドリームイーターを生み出して人々を襲わせようとするようです」
 剣術家の理想の姿となったドリームイーターは人に止められるような存在ではない。
「被害が出る前に、ドリームイーターを迎撃し撃破して欲しいのです」
 今ならば敵が町に着く前に迎え撃つ事が出来る。
「敵は剣術家のドリームイーターで、刀一本を武器に鋭い攻撃を仕掛けてくるようです。北辰一刀流の流れを汲む剣士のようで、洗練された剣術を使うようです」
 鋭い剣技で容赦なく命を奪いに来る。油断すれば痛い目に遭うだろう。
「現れるのは宮城県で、山の麓にある町に続く道で待ち構えてることになります。既に避難警報は出ているので周辺の人々は逃げ出しています。戦いに巻き込む心配は無いでしょう」
 近くに民家も無いので被害を気にせず全力で戦う事が出来る。
「剣士のドリームイーターだけあり、己が剣を存分に振るえる戦いを望んでいるようです。ですので戦いを望めば逃げる事無く決着が着くまで戦い抜くでしょう。思う存分戦い、敵を倒して人々を守ってあげてください」
 説明を終えたセリカが一礼し、ヘリオンの準備に向かった。
「剣を極めようとしているのですか、私も剣を使うので仕合うのが楽しみになりますね。剣で競いたいと云うのなら満足するまで付き合いましょう」
 微笑むヒスイの瞳にはその柔らかい表情とは裏腹に闘志が宿っていた。それに触発されたようにケルベロス達も戦意を高め、戦いの準備を始めるのだった。


参加者
シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)
ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
伊上・流(虚構・e03819)
霧島・絶奈(暗き獣・e04612)
百丸・千助(刃己合研・e05330)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ

●雪降る
 白く薄化粧された山道にケルベロス達が立ち塞がる。
「武術家が自分の理想の姿を思い描くことに罪はないが、それが人を襲うのであれば話は別だ。力なき人々を守る騎士として、凶行をなんとしても喰い止めなければならない」
 シヴィル・カジャス(太陽の騎士・e00374)がこの道は通さぬと気迫を放つ。
「武術……今度は剣術ですか。いけませんね、不謹慎と分かっていながらお手合わせいただくのが楽しみです」
 ヒスイ・エレスチャル(新月スコーピオン・e00604)は口元の笑みを手で隠す。
「叶うならば、敵を倒した後でご本人と剣を交えてみたいものです」
 剣について語り合う為にも敵を倒す事に集中する。
「そうですね。不謹慎ですが、相手が剣士となれば手合わせが楽しみになってしまいます」
 血が滾るような気持ちを抑えるように、風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)はちらりと降る雪に触れた。
「剣の道を極める為の修練中だったとは言え、免許皆伝を貰える程の人が我を忘れて幻武極と対峙して行き成り襲うのだろうか?」
 疑問に伊上・流(虚構・e03819)は首を傾げ、何かしらのグラビティによる精神操作を受けたのかと推測する。
「一意専心の成せる業でしょうか? ドリームイーターに狙われる程の熱意はある意味見習うべきかもしれませんね」
 ただの一般人がそれだけの鍛錬をするのは大変なことだと、常に笑みを浮かべる霧島・絶奈(暗き獣・e04612)は感心した。
「剣術家のドリームイーター、腕試しにはもってこいの相手だな!」
 元気に百丸・千助(刃己合研・e05330)がこれからの戦いが楽しみで仕方ないと笑う。
「一人の剣士の理想とした剣がどれほどのものか……是非とも剣を交えて確かめてみたいもんだ」
 同じ剣を使う者として血が騒ぎ力が入る。
「剣術の達人、一体どれほどの強さなのでしょうか。話を聞いただけでも……正直、すごく緊張します」
 緊張した面持ちでカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)は冷たい風に体を震わせた。
「剣の道、武の道。極める事の難しさは、少しは知っているつもりです」
 戦場に身を置く八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)はその果てなき道を思う。
「だから、知りたいのでしょう。其の先に在るものを。なればこそ、挑みましょう。私たちの武を以って、討ち取らせて頂きます」
 武には武を、一対の深紅のダガーナイフに触れた時、視界に道を悠々と歩く、刀を腰に差す侍のような恰好をした武術家ドリームイーターの姿が見えた。

●剣士
「刺客か、ならば我が剣の錆としてくれよう」
 侍もケルベロス達を視認し、腰の刀に手をやって駆け出す。
「現代の侍ですね。見た目が本人の通りなら、相当鍛え上げているのでしょう」
 こちらも負けてはいられないと絶奈は地面に鎖を広げ魔法陣を描いて、仲間達を守護する力を戦場に満たす。
「太陽の騎士シヴィル・カジャス、ここに見参!」
 名乗りを上げたシヴィルは、生み出した弾丸を放ち敵の足を凍りつかせた。
「百丸流が百丸・千助、推して参る!」
 続けて名乗った千助は駆け出し地を蹴り、矢のように飛び蹴りを顔面に叩き込もうとする。それを敵は刀で迎撃しようとするがミミックのガジガジが足に齧りつき、注意を逸らした隙に顔面を蹴り抜いた。だが仰け反りながらも敵は刀を抜き打ち千助の足を斬りつける。
「みんなが全力で戦えるように、支援がんばるね!」
 弓を構えたカロンは千助に向かって矢を放ち、傷を癒すと共に破邪の力を与える。
「そこ行く剣士さん。相手をお探しならお手合わせ願います。これでも腕に覚えはありますので」
 にこやかに声をかけたヒスイは、反りが大きな湾刀を抜き放って胴を斬り裂く。敵は躱そうと一歩引くが切っ先が腹を抉って血が流れ落ちた。
 侍もまた反撃に刀を斬り上げると、テレビウムが身を挺して攻撃を受け止め、刃によって抉られ画面が割れる。
「経験を積み重ね精錬させた技が業となる。教科書通りの技が通用出来るのも限度がある事を教えてあげようか」
 流は木を利用して姿を隠し、敵の視線を切ると木を蹴り上り頭上から妖刀を抜き放って襲い掛かり、肩に刃を突き刺して赤い血を撒き散らす。
「敵は後を取る構え、ならこちらは攻めの陣形でいきましょう」
 敵を見据えた鎮紅は扇を取り出して広げ、指し示すように向ける。すると仲間達に意思が伝わり鋒矢の陣となって敵に襲い掛かった。
「行きます!」
 呼気を整え心と刃を一体とした恵は、一気に間合いを縮めて刀を抜き打つ。刃が胴を裂きすぐに間合いを離して敵に攻撃をさせない。
「小賢しい!」
 すると侍は上段に刀を構えて踏み込み、刃が肩へと振り下ろされる。
「危ないです!」
 慌ててカロンは光の盾を生み出して敵の刃を防ぐが、盾は僅かな間に切り飛ばされた。だがその間に恵は身を投げるように飛び退いた。
 その隙にミミックのフォーマルハウトは太腿に噛みついて敵をよろけさせる。
「山のように巨大なドラゴンやダモクレスさえ屠るケルベロスの剣技、見せてくれよう!」
 力強く踏み込んだシヴィルは、太陽の黒点をイメージした大剣を豪快に振り下ろす。受け切れぬと敵が身を捻って躱すと、地面に叩きつけて大地を抉り、その衝撃波で敵を吹き飛ばした。
「紙一重で致命傷を避けているようですね、ではもう一歩踏み込んでみましょうか」
 そこへ大きく踏み込んだヒスイは湾刀を袈裟斬りに振り下ろす。敵は刀で受け止めようとするが、体勢不十分で肩を斬られながら地面に転がった。
「地獄も、混沌も。余す事無く使い切るまで――」
 鎮紅は二本のナイフを引き抜き、駆け出すと起き上がった敵の脚を斬り裂いてすれ違う。
「一撃離脱なら、容易く後の先を取ることもできないでしょう」
 間合を見計らい、恵は踏み込んで刀を振り下ろす。それを敵が一歩引いて避けたと見るや、すぐに自らの体を後退させる。すると僅かに遅れて首のあった場所に敵の刃が走り抜けた。仕切り直しと侍は上段に刀を構える。
「その構え、破らせてもらうぜ」
 調息して千助はずいっと間合いを詰め、二本の刀を左右に抜き放ち斬り掛かる。右の刃が胴を薙ぎ、敵の振り下ろす刃を左の刀で受け止める。だが渾身の力が込められ刃が千助の額に当たり血を流す。
「貴様がどのような卓越した剣技の使い手だろうと関係無い。貴様が日常に害為す異端の存在である以上、俺は貴様を狩り屠るだけだ」
 流は視線を敵の手元に向けグラビティを集めて爆発を起こした。衝撃に敵の刀を握る手が緩む。
「その若さで免許皆伝を受けるほどの実力は決して侮れませんね。……それがデウスエクスによる紛い物でなければの話ですが」
 絶奈は薬液の雨を降らし仲間達の血を洗い流し清める。
「人が長年の努力によって身につけた武術を、人を襲うために利用するとはな」
 そのような真似は許せないと、シヴィルは竜の幻影を呼び出して猛る炎を浴びせる。
「斬る!」
 じりっと間合いを寄せた侍が炎を斬り裂き迫る。
「剣と剣の勝負。どちらの技量が上か試してみましょうか」
 合わせてヒスイが湾刀を振るい、刃と刃がぶつかり火花が散る。敵が刀を滑らせて手を斬りに来ると、ヒスイは剣先で弧を描き刀を巻き上げて弾いた。互いに一歩引き間合いを空け、更に斬り結び火花を散らした。
「先ほどのやり取りで間合いは見切りました」
 鋭い気迫と共に恵は霊力を纏わせた刀で突きを放ち左肩を貫く。対して敵の刃が胴を薙ぐが紙一重で身を反らす。
「見切っただと? ならば受けてみよ!」
 返す刀が踏み込みながら続き、右に左にと連撃が浴びせられる。それを恵は刀で受けながら押し込まれていく。
「剣の腕は確かでも、多人数と戦うのは不得手のようだな。その隙を突かせてもらう」
 流は背後に回り、恵が攻撃を受けている間に近づき背中を深く斬りつける。
「ならばここで会得してみせよう!」
 振り返り侍は刀を振り下す。
「上段からの打ち下ろし。どれだけ強力でも来ると分かってれば止められるもんだぜ」
 千助は二刀をクロスして敵の攻撃を受け止め、前蹴りを腹に打ち込んだ。
「何よりも好ましいのは微塵も揺るがないその志です。故に、その『武術』は本人に返して貰いますよ」
 多重魔方陣を展開した絶奈は巨大な槍の如き閃光を放ち、敵の全身を包み込み吹き飛ばした。
「ちぃっ」
 侍は刀を鞘に納めて構える。
「カウンターが来るとわかっていれば、正面から襲う理由はありません」
 右のナイフに紫の炎を纏わせた鎮紅は、敵の背後に回り背中に突き立て引き裂きながら刃を抜く。
「わ、私も攻撃だってできますから!」
 姿勢を崩したところへ疾く駆けたカロンは、獣の腕を振り抜いて拳を腹に叩き込んだ。

●死線
「これほどの猛者と戦えるとは、お主らを斬り捨てさらなる高みに上るとしよう」
 殺気を放ち居合の構えのまま腰を落とす。
「貴様の剣技は紛い物だ。人を襲おうとする汚れた心から放たれる技等、この私には効かない!」
 心の欠けた剣など恐るるに足らずとシヴィルは近づき、放たれた居合の刃を大剣で受け止め、羽根を模した無数の光の矢を放って全身を貫いた。だが侍は怯まず刃が閃きシヴィルの胸を斬りつけた。
「剣士を名乗るだけはありますね。ですがこちらも負けていられません」
 飛び込んだ恵は上から刀を振り下ろす。敵が横振りに迎撃すると刃がぶつかり互いの距離が離れる。すぐに恵は回り込みながら斬撃を放ち、敵に攻撃の間を与えない。
「まともに切り結ぶつもりはない。俺の目的はただ異端を狩るだけだ」
 その間に流は駆け、勢いよく跳んで木を蹴って視線を振り切り、死角から刀を振るい肩から背中にかけて刃を走らせ赤い線を刻んだ。
「真っ直ぐ剣を振るだけが剣術じゃあないぜ、オレの動きについてこれるかな!」
 駆け抜けながら千助は左の刀を振るう。敵がそれを刀で弾くと、そのままの勢いで背後に回り込み右の刀で背中を突き刺した。だが侍は背を向けたまま脇の下から刀を突き出すと、ガジガジがその体で攻撃を受け止めた。
「互いに間合いの測りは終わったようですね、ではさらに一歩踏み込んでみましょうか」
 ヒスイは敵の間合いに踏み込む。それは自分の間合いでもある。互いの刃が必殺の一撃となって襲い掛かり、ヒスイの一撃は肩に、敵の一撃は脇腹を切り裂いた。だが互いに致命傷となる前に身を引く。
「その剣は、無闇に人を傷つける為に鍛え上げたものではないはずです」
 絶奈は魔力を操り糸のように細くして遠隔操作し、ヒスイの傷を縫い合わせて塞ぎ止血した。
「まだだ、我が剣に斬れぬものはない!」
「こちらもまだ全てを出し切ってはいません。どちらの引き出しが多いか勝負です」
 低く懐に入った鎮紅は紫の炎纏う二本のナイフを走らせ、脇と脚の傷口を抉るように切り裂いた。同時に侍は柄で鎮紅を押して斬り捨てようとする。それをシヴィルが大剣で受けるが肩から深く刃が入る。
「攻撃が鋭くなってます! 気を付けてください!」
 すぐにカロンは魔法を発動し、祝福と幸運を司る鐘の荘厳な音が響きシヴィルの傷を癒してゆく。
「貴様の紛い物とは違う、これが己の血肉となるまで練り上げた剣だ!」
 シヴィルは大上段から大剣を叩き込む。敵は両手で持った刀で受けるが、勢いに負けて刃が額を割って血が流れる。
「紛い物の化けの皮が剥がれてきましたね。このまま一気に攻め立てましょう」
 静かに敵に気付かれぬように絶奈は足元から黒い液体を広げ、敵に届いた瞬間覆いかぶさるように広げて包み込んで拘束した。
「斬り―――――――刻む!!」
 刀に光の霊力を帯びさせた恵は駆け出し、敵の脇をすり抜けながら神速で剣閃が幾重にも走り、無数の連撃を浴びせ敵を斬り裂きすり抜けた。
「其の歪み、断ち切ります」
 続いて鎮紅なナイフを深紅に淡く光らせ、幾重にも剣閃を走らせ花びらが舞うように光を散らしながら敵の体を斬りつけた。
「死地にあってこそ、剣は強くなる」
 全身から血を流しながら、侍は上段の構えを取る。
「それ以上剣を振るわせません!」
 カロンは魔法の光線を放ち、敵の腕を石へと変えてしまう。
「鮮血をその身に纏って舞え……朱裂!」
 解放した霊力を超圧縮し二刀に纏わせ、千助は光る長大な透き通った剣を振り抜き、敵を縦横に斬り裂いた。十字に傷が走り血が噴き出す。だが千助の体からも血が噴き出る。いつの間にか敵が石と化した手を気にもせず剣を振り下ろしていた。
「ここが死線ですね、さあどうします?」
 敢えてヒスイは踏み込んだまま動きを止める。
「決まっている」
 すると刺すような殺気と共に居合が放たれ、切っ先が喉に届く。ヒスイはそれを紙一重で仰け反って躱し、薄く切った首から血を流しながら湾刀を横に薙ぐ。刃が敵の胴を断ち切り、敵の上半身が崩れ落ちる。
「日常に害為す異端なる存在を全て狩り屠るが俺の存在意義。貴様の概念存在――全て浄め祓い滅する!」
 流の右肩に白い0と1の数列・難解複雑な数式が収束し、白い焔の翼が生み出される。右手に形成された白い焔の刃を薙ぎ払い、敵を消し飛ばした。

●剣の道
「う……私は……?」
「目が覚めましたか? あなたはデウスエクスに襲われたのです」
 介抱され目を覚ました男性に絶奈が事情を説明する。
「外傷は無いようだ。意識ははっきりしているか?」
 気遣い流が目を合わせて尋ねる。
「はい、ありがとうございます。お蔭で命拾いしました」
 すっと姿勢を正し膝をついた男性が頭を下げる。
「私の剣は皆さんに通じたのでしょうか?」
「手練れの剣士でした。楽しい手合わせでしたよ」
 男性が尋ねると、恵が剣士として戦った感想を述べる。
「もっと目標を高く持つといい、その方がより成長できるだろう」
 世の中には想像も出来ぬ領域があるとシヴィルがアドバイスを送る。
「今よりもっと腕を磨いて強くなったら、いずれ剣を交えられるといいな」
 剣の道を志す者同士のシンパシーを感じ、千助が声をかける。
「武の道を極めるのは難しいものです。終わりがあるのかすら分からないのですから」
「そうですね。どこまでも続く道です」
 ケルベロスであってもその境地には至れないと鎮紅が告げ、男性は深く首肯した。
「あ、あの……がんばってください」
 何か励ます言葉をかけようとしてカロンは上手く言葉が出ずに簡単な応援をし、それしか言えぬ自分に肩を落とす。
「よければ腕前を拝見できないでしょうか、私も剣には覚えがありまして」
「助ていただいたお礼もできぬのは心苦しいと思っておりました。私の剣でよければ……」
 その肩を軽く叩きながらヒスイがそうお願いすると、二つ返事で男性は立ち上がる。
 振るう剣は実直で飾り気はないが実戦を想定したもの。剣を追求する姿は同じ剣の道を行くケルベロス達を触発し、それぞれも剣を抜き剣の舞が雪の下で煌いた。

作者:天木一 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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