ヒーリングバレンタイン2018~いぬちょこ

作者:雨音瑛

●ヘリポートにて
 ミッション地域となっていた、複数の地域。これらのいくつかが、ケルベロスの活躍によって奪還成功の運びとなっている。
  解放したミッション地域には、現在住人はいない。しかし、引っ越しを考えている者が下見に訪れたり、周辺に住む住民が見学に訪れたりすることはある。
 そういった事情があるため、と、ウィズ・ホライズン(レプリカントのヘリオライダー・en0158)は続ける。
「取り戻した地域の復興も兼ねて、バレンタインのチョコレートを作ってみないか?」
 一般の人でも参加できるようなイベントを実施すれば、解放したミッション地域のイメージアップに繋がる可能性がある。
「こちらのヘリポートから向かってもらうのは、秋田県大館市の駅前だ。駅前では、忠犬として名高い秋田犬の銅像が訪れた者を出迎えてくれる」
 ここでケルベロスが成すべきことは、いくつかある。
 まずは、秋田犬の銅像を含む駅前一帯のヒール。
 続いて、チョコレートを作るための道具や材料の搬入。
 そして、イベントの進行と参加者のお世話。
 さらに、自分のプレゼント作成。
「ここで作るチョコレートは『犬の顔型』。型に流し込んだチョコレートが固まったら目や模様をデコレーションする。デコレーションが固まったら、ラッピングして完成。そんなに難しくないから、あまり器用でなくともかわいいものが作れることだろう」
 たくさん作って義理チョコにするもよし、一つを丁寧に作って贈り物にするもよし。ぜひ自分だけのチョコレートを作ってほしいと、ウィズは説明を終えた。


■リプレイ

●光降り注ぐ場所で
 人々の今後の生活をかかっている場所を、澄華は丁寧にヒールしてゆく。
 市邨は、大好きなムジカと並んでヒールを。
 恭志郎も、地面や建物にヒールを施してゆく。その途中、犬の銅像が目に入る。
 形自体は戻るのだからと銅像を念入りにヒールするホリィを、蓮も手伝う。
「忠犬が寂しくないよう、沢山の人が戻るように……な」
 この地にはかつて魔空回廊があった。
「私と因縁のあるデウスエクスが荒らした場所……私が、綺麗に、しておきます。もう、貴女の影に、怯えてばっかりの、私じゃ、ないです……!」
 ヒールした場所が修復されてゆくのを見て、カティアは安堵の笑みを浮かべた。
 ヒールを終えたら、チョコづくりに必要な道具の搬入だ。
 トロノイのオルトロス『ベルナドット』が犬ソリで資材を搬入する後ろを、ホリィのボクスドラゴン『サーキュラー』が押して手伝う。
 サモエドのような見た目をしているベルナドットは、誇らしそうに尻尾を振る。
「ヒールグラビティが使えない分、今日は人の役に立てて嬉しいんだな。よしよし、今日はモデルも頼むぜ」
 そう言って撫でるトロノイに、ベルナドットは一段と嬉しそうに尻尾を振るのだった。

●いぬちょこ
 さまざまな犬種の型が並ぶ。十郎が共に訪れた友人たちの選択を気にしていると、蓮が柴犬の型をガッと掴んだ。
「蓮は柴犬か。柴犬、可愛いよな」
 という十郎の言葉に、蓮は他の型をちらりと見て。
「型は悩むよな……私も短時間では決められぬと思い、自宅にて悩みに悩み、決めてきた……! ごめんな皆……!」
 と、蓮は他のわんこ型を振り切るように作業台へ向かって行った。
「澄華は何にした?」
 凛々しい大型犬だろうかと勝手にイメージしながら、十郎は問う。
「私は即決で狼犬だ……私の愛犬だからな。十郎は?」
「そうだな、俺は……」
 どうせなら違うものを選んだ方が楽しいだろう、と。迷った結果、十郎はバーニーズマウンテンドッグの顔型を選んだ。
 ベースはミルクチョコ、毛色は身長にチョコのペンで。
「やっぱ、ポイントは眉毛だな」
 作るのは1個だけではなく。友人用と字豊饒、人数分作って分けるつもりだ。
「おや、左潟殿のわんこ……眉が可愛いな」
「うむ、左潟殿のわんこ、眉が愛らしいのぅ……!」
 作業の手を止めて、澄華と蓮は十郎の作ったチョコを見る。
 気付けば、澄華の手元には伏せ、お座り、ダッシュなど愛らしいポーズの狼犬チョコが。
 蓮はわんこ本来の愛らしさを目指しつつ、色んな味で作ろうとミルク、苺、抹茶にホワイトなどのチョコの塊を目の前に置いた。
「あれ、蓮、何で彫刻刀……って!?」
 十郎が声をかけるが早いか。蓮は持参の彫刻刀を操ってゆく。
「マジか……おぉ、リアルだ……」
 作業する蓮を凝視し、十郎は感心したようにため息を漏らした。
「団で分け合える様、沢山作らねば!」
「れ、蓮殿……そんなに張り切らなくても……!」
 唸る彫刻刀に戦慄しながら、澄華は少しばかり距離を取るのだった。
「いやー、搬入はベルさん達大活躍でしたね! 上げ下ろし手伝ってるあいだに終わってて、ほんと捗りました」
 とは、恭志郎の言葉。ベルナドットはつぶらな瞳を輝かせ、彼を見ている。
 恭志郎もトロノイと一緒にベルのチョコを作ろうとサモエド型を手に取る。
 ベルに似たチョコは、ホワイトチョコを流し込んで、黒いチョコのボールで目鼻を飾れば、あっという間に完成だ。
「サモエド型で作るとベルさんそっくり! デコはどうしようかなー……うん、ホワイトチョコのペンでもふもふ感をさらに増量してみるよ」
 丁寧に毛並みを足すホリィを見て、恭志郎も何か思いついたようだ。
「俺は生チョコ風にして、中に求肥仕込んでみようかなぁ」
 チョコが固まったら、粉糖を振ってふわふわ感をプラス。
 出来たものをベルナドット本人と並べて、恭志郎は終末菜園の仲間に見せる。
「二人の作ったベルも愛情たっぷりだな。ベルは幸せ者だ」
 微笑むトロノイの手には、犬小屋の形をした箱。勧められ、ホリィは一も二もなく手に取る。中にそっと入れる際には、焼きもちを焼かないようにとサーキュラーの形のメッセージカードも添えて。
「三者三様のベルさん、どれも可愛いね。欠点は……もったいなくて食べれないことかな」
「確かに……崩すの勿体ない……じゃ、じゃあせめて記念写真でも!」
 恭志郎の提案に、二人はもちろん同意して。
 いぬちょこと一緒に、記念の一枚もできあがりだ。
 サモエドとシベリアンハスキーの型を手に取り、ノルはグレッグを観察する。
「俺はサモエドに似てるって言われるし、思うけど。グレッグは……猟犬とか警察犬とか、しっかりしてそうなやつかなって! シベリアンハスキーとか、しゃきっとしててかっこいいけど、たまにホワーンってするところ、似てるかなって思うんだよね」
「パッと見きつめの印象があるがそう言う可愛い面もあるのか……」
 褒められて、若干照れながらグレッグは秋田犬の型を手に取る。その動きを、ノルは見逃さず。
「かわいいよね、ふかふかしてるし!」
 彼もそう思っているのなら良いだろうと、グレッグはチョコを溶かして流し込んだ。固まるまでの間、グレッグはサモエドをスマホで調べる。
「確かに似ている。素直で無邪気そうな振舞いや雰囲気、目が綺麗で優しそうに見える所だろうか」
 言われ、ノルは少し照れたように笑う。そんな他愛もない話をしながら作る時間は、グレッグにとって。
「新鮮で、楽しい時間だな」
「うん。幸せな、時間だね」
 と、ノルは笑みを向けた。
 幸せな時間は、こちらでも。
 ヴィが、型のひとつを手に取る。
「マルチーズの顔かな、可愛い型だね。雪斗はどんなのを作るの?」
「ボーダーコリー! めっちゃ好き」
「あの牧羊犬の! 可愛いよね」
「ヴィくんはマルチーズ? ふわふわで可愛いよねぇ」
 型を決め、二人並んで作業スペースへ。
 まずはベースを、ヴィはホワイトチョコで、雪斗はビターチョコとホワイトチョコで作る。固まったら、型から外して顔のつくりこみだ。
「俺、絵心ないんやけど大丈夫かな」
 手をぷるぷるさせながら、雪斗はチョコのペンで顔を描いてゆく。目を青色で描いたら、雪斗のボーダーコリーが完成した。
 隣のヴィは、オリーブグリーンのキャンディーを瞳にして完成となる。
「わ、ヴィくんのわんこ可愛い! 流石!」
「ほら、なんとなく雪斗に似ている」
「俺に似てる? ……俺もね、この子どことなくヴィくんに似てるなぁって思いながら作ってた」
「おお、上手く出来ている!……って、俺に似ている? 何だか嬉しいな」
「同じ事考えてたんやね。なんや嬉しい!」
「お互いに似ているいぬちょこを作るなんてほんとに俺らって気が合うんだなぁ」
 言いつつ、チョコを交換して、相手の顔と見比べてみたりして。
 勿体なくて食べられないかもと思いながら、雪斗の顔には笑みが広がっていた。
 親娘が作るのは、ルティアスにとって父、ルチルにとって夫のためのチョコ。
「それ、アイちゃん?」
 母の作るチョコを見て、ルチルが声をかける。アイちゃんは、ルティアスのオルトロスだ。
「そうよ~。お父さんも大好きだから♪ 似てる?」
「んーー、アイちゃんそんな色じゃないよ?」
 厳しいコメントに汗を垂らし、ルチルはきな粉を振りかける。
「……じゃぁ……これで~」
「うん♪ OK♪ ルティはね、大きく作るのー」
「でも、そんなに大きくすると型にハマらないのよ?」
「いいの~!! おとうさん大きいから、大きいの作りたいの~!!」
 そんな娘の様子に微笑み、ルチルはルティアスのつくるチョコを観察する。
「そうね……じゃあ、ここは耳だから尖らした方がいいカナ?」
 ルチルはルティアスを直接手伝うことはなく、導くように助言を。
「うん、がんばりますーー!!」
 さらに気合いを入れて、ルティアスは造形を調整し始めた。
 カティアが作るのも、オルトロスを模した形。身体はピンクの苺味、口元には剣をくわえさせ、アラザンをちまちま乗せて。完成が近づいてニヤニヤするカティアの手元を、シュカが覗き込む。
「わ、かわいいね!」
「あ、ありがとうございます……」
 シュカに言われ、カティアは礼を述べる。あとは、ピンクと白のリボンで可愛らしくラッピングをすれば完成だ。
(「がんばった、自分への、ご褒美、的な……? ちょっと、恥ずかしいけど」)
 満足できる一品の完成に、カティアは再び笑みを浮かべた。
 シュカはホワイトチョコとキャラメルチョコを溶かし、選んだ型に流し込む。
 固まったところで、チョコのペンで目をぐるぐると。その上には、まるーい眉毛。
「口はうまく描けるかなぁ? うーん、ちょっとまがっちゃったかも?」
 試行錯誤を繰り返して、シュカの手作り柴犬チョコが完成した。大事に大事に箱の中へしまったら青入りのリボンをくるくる巻いて、仕上げに足跡シールをぺたんと貼り付けて。
 シュカの「いつもありがとう」の気持ちをいっぱい込めた、父へのいぬちょこが完成だ。
「狐もイヌ科なのに型はないのかのう……」
「ワンちゃんしかないんだよ~! 頑張ってつくろ?」
 なんてひなみくがなだめていたのも、最初だけ。いろんな犬の型を見て、灯、そしてミミック『タカラバコ』はすぐにご機嫌になる。
「ひなみく姉様はどの犬がすきかのう?」
「わたしの好きな? ええと……うーん、耳が立ってる子とか可愛いよね! でもなんで?」
「な、内緒なのじゃ! いくら姉様とて教えられんわい!」
 灯の様子を不思議に思いながらも、ひなみくは作業台へ向かう。
「聞いたかタカラバコ殿! お耳のピンとした犬を探すのじゃ!」
 タカラバコに耳打ちして、灯も作業台へ。一生懸命に、キャラメル色の犬に抹茶のチョコで瞳を飾る。ラッピングには、雛菊の花を一輪添えて。
「できたのじゃ! なかなかの力作だぞ! ひなみく姉様! 受け取って欲しいのじゃ!」
「それ、わたしに!? わああ、やったあ! 交換こ~!」
 ひなみくが差し出した棒付きチョコは、顔はアイシングで狐面のよう。さらに、型を応用してつくって尻尾もついている。
「狐っぽくしてみたよ! 灯ちゃんにあげる!」
「これ、わらわにくれるのかの……? えへへ、交換じゃな! 姉様、大好きなのじゃ!」
 灯は頑張って作ってくれたのだろう。それが嬉しくて、ひなみくは灯をぎゅっとした。
 ルティエが型を眺める様子を見て、クレーエも上機嫌に型を選ぶ。
「るてぃえって大型犬好き? 俺はねー、パグとかペキニーズがいーな。にゃんこもわんこも鼻ぺちゃ顔好きー」
「ん、秋田犬に……シベリアンハスキーに……あー、ピレネーのもっふもふもいいなぁ」
 聞きつつ、クレーエはこっそりハスキー型を選ぶ。
 尻尾を揺らしながら材料を選ぶルティエの様子を可愛く思いながら、クレーエもホワイトとビター、そしてストリベリーのチョコは飛び出した舌に使おうと溶かす。
「わっふ! とてもおいしそうな香りが……」
 ただよう甘い香りを吸い込みながら、ルティエはキャラメルとホワイトのチョコで模様を。ストロベリーは、ほっぺに。
「どんな感じになった??」
「んにゅ? こんな感じになったよ♪」
 と、慌てて普通のいぬちょこを見せるクレーエ。
 見せ合った後は、箱につめて完成。クレーエはバレないようにるてぃえ犬ちょこを綺麗にラッピングする。
「ばっちり! 顔も可愛くできた♪」
「俺も上手にできた♪ はい、サプライズチョコー」
「ありがとう! はい、クレーエ! これからもずっと大好きだよー」
 チョコを交換し、にこーと笑うルティエ。
「俺も大好き♪ これからも宜しくね、奥様♪」
 新しい関係を言葉にして、二人は笑みを向けあった。
 贈るならどれが良いかと思案する、市邨。を放って、ムジカはゴールデンレトリバー型にビターチョコを。ムジカにとって市邨のイメージは人懐こいもふもふ大型黒わんこだ。
 コーギーの型を選んだ市邨は、ストロベリーとミルクで可愛いマーブル模様を作ってゆく。追いかけて擦り寄ってくれるムジカは人懐っこいいぬのようだという。
 瞳は緑のアラザン。プルメリアの花を添えたところで、市邨は満足げに微笑む。その後は、ムジカが火傷しないかと過保護にうろついて。
「ムゥは出来た? 大丈夫?」
「緑のチョコペンで瞳を描いて……やーん、ちゃんと出来るから大丈夫」
 市邨に贈るチョコは自分で作りたいと、ムジカは作りかけのチョコを隠すようにして作業を続けてゆく。
 手を出すのは流石に無粋と思った市邨は、うー、と唸りながら傍らでステイする。
「唸るわんこ君は、ほっぺたつついちゃうから」
 仕上げは「大好き」の文字入れをしたプレートチョコ付の首輪。固まったのを確かめて、透明な袋に赤いリボンをかける。
 一緒に食べようという市邨の差し出したチョコは、確かに可愛い。が。
「アタシの脚、もっと長いのに~」
 なんてムジカに言われつつ、甘いひとときを楽しみにする市邨だ。
 色んな犬のチョコを作りたいと目を輝かせる一華と協力するのは、万里。
 万里が型から外した犬に、一華が次々とチョコのペンでデコレーションをする。
「柴、ダックス、ハスキー、ドーベルマン、少しずつ色の違うチョコを使って毛色を再現……あれ?」
 気付けば、万里が描いた覚えのない模様が。
 ミルク&ビター系の犬にはホワイトで、ホワイトチョコ犬にはミルクで、マロ眉が描かれている。
「柴犬はわかるけど……何故眉?」
(「動物変身で狐化した彼女もそういえば麻呂眉だしもしや全てのイヌ科がそうだと思っている……?」)
 万里の疑念をよそに、一華はとても楽しそうだ。
「これぞ工場長の所業! ね! ね! 一日工場長です!」
(「いや俺は一華さえ楽しければそれでいい、彼女が言えば鴉も白くなるんだ、なんでとか深く考えないでいい」)
「おお、それはよく描けたな、いい眉だ」
「んふふ、中々良い眉がかけまし……なんだかこの子がちょっとしょんぼり眉に……むむ、もう一回」
「こっちのコリーはしょんぼりしてるみたいで……そのプードルはなんか怒ってない?」
「う、うぐ……お、怒ってる? ううー気のせいだもんきっと大丈夫」
 そう言って、工場長はマロ眉犬を量産してゆくのだった。

●人々の笑顔
 大館駅近隣に住まう人と、引っ越しを考えている一般人もいぬちょこを作ってゆく。
「うまく出来ないところがあったら言ってね! 僕がんばってお手伝いします!」
 と、あちこち走り回るのはシュカ。
「犬について調べるなら、俺に任せて。気軽に声をかけてね」
 ノルも手を挙げ、人々の補助を。チョコを溶かしたり、ラッピングしたりする近くで、グレッグも裏方として追加の資材を運び込む。
 ヒールで修復された秋田犬の銅像も、どこか嬉しそうにその風景を眺めていた。

作者:雨音瑛 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:22人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 2
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