鉄扇の武術を修めし女性

作者:なちゅい

●チャイナドレスで舞う女性武術家
 鉄扇とはその名の通り、鉄のパーツを使って作られた奥義だ。
 とはいえ、骨となった部分のみ鉄となっているものや、全てが鉄で作られているものなど、その種類は幅広い。
 携帯に便利な鉄扇は戦国時代の武士などが愛用していたようで、男性が使う武器として知られているのだが、専門学生である小松・眞凛は敢えてこれを使い、演舞を伴った武術を修めんと鍛錬に励んでいた。
「やっ、はあっ!!」
 街中だと人が多すぎて、鍛錬する場所を探すだけで骨を折れそうになる。
 そんな折、とある住宅地の外れ、並木道の向こうにぽつんとある廃屋を発見した彼女はそこで思う存分鍛錬することにしていたのだ。
「たああっ!!」
 チャイナドレスを纏い、鍛錬に汗を流す彼女。豊満な体を持つ彼女は、男性であれば誰もが見とれてしまうほどの容姿である。
 そんな彼女の背後からゆらりと現われたのは、ポニーテールの少女、幻武極だ。
「お前の、最高の『武術』を見せてみな!」
「……はああっ!」
 目から光を失い、小松は幻武極へと鉄扇を振るって攻撃を始める。
 幻武極は涼しい顔をして、その攻撃を軽くいなしていたが。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれなりに素晴らしかったよ」
 一通り技を見極めた幻武極は、虚空より取り出した巨大な鍵で小松の体を貫く。
「あっ……」
 意識を失い、小松は荒れた畳の上に崩れ落ちた。
 鍵によって突き刺されたはずの身体には外傷はないが、そばにはいつの間にか小松とほぼ同じ姿をした女性が現われていた。
「ちょっと試してみようか」
 幻武極は早速、そいつに対して拳を突き出す。
 女性は鉄扇で拳を受け止め、閉じた扇で幻武極を叩き、突いていく。さらに、風を巻き起こして応戦を行っていた。
 互いに繰り出す技はモザイクに包まれており、外からその技を確認するのが難しい。
 一通り、女性の技を確認した幻武極は構えを解いて。
「お前の武術を、皆に見せ付けてきなよ」
 それに応じて頷いた女性は、ゆっくりと廃屋から出て行ったのだった。

 ヘリポートには、すでにケルベロス達が集まっていた。
「鉄扇を使った舞の修道者が幻武極に狙われるようですね」
「うん、敵は自らに欠損した『武術』を奪い続けていて、モザイクを晴らそうとしているようだね」
 蒼龍院・静葉(蒼月光纏いし巫狐・e00229)の話に、リーゼリット・クローナ(ほんわかヘリオライダー・en0039)は頷いた。
 武術を極めんと修行する武術家を襲い続ける、ドリームイーター幻武極。
 今回奪った武術ではモザイクを晴らせなかったようだが、幻武極は新たに武術家ドリームイーターを生み出し、そいつに暴れさせようとするらしい。
「現れる武術家ドリームイーターは、襲われた武術家の目指す究極の武術家としての技を使うこともあって、なかなかの強敵だよ」
 幸い、夢喰いが人の多い場所へと出る前に迎撃できる状況なので、周囲の被害を気にせず戦うことができる。積極的にドリームイーターの撃破へと動きたい。
 現れる武術家ドリームイーターは、赤いチャイナドレスを纏って襲い掛かってくる。
 その姿は今回襲われる女性武術家とさほど変わらぬ見た目だが、鉄扇で繰り出すグラビティは全てモザイクに包まれているようだ。
 打ち捨てられて久しい廃屋で鍛錬していた女性武術家から生まれたドリームイーターは、己の技を他人に見せ付ける為に住宅街の中央を目指している。
「戦場想定場所は、京都府某所、住宅街僻地の並木道となりそうだね」
 廃屋と人の多い住宅街の間の並木道はかなり距離がある為、ドリームイーターがすぐ住宅地に到着する状況ではない。
 また、この場所はほとんど人通りのない場所である。
 並木道を廃屋方面に歩いていくことでドリームイーターと出くわすことができ、戦後のヒールだけで人的被害を考慮せず戦えるはずだ。
「ドリームイーターを倒した後は、女性武術家を発見の上で身体を温めるなどフォローをお願いしたいかな」
 冬場と言うことで、身体を温めつつ介抱してあげたい。
 また、襲われた女性武術家は襲撃時の記憶がほとんどないらしいので、事情を話すなどしてフォローするとよいだろう。
「武術というものは、本当に多種多様なのだと実感させられるね」
 これまで、リーゼリットは武術極による事件をいくつか見てきている。
 また、九尾扇という武器もケルベロスが使っているわけだが、それでも、鉄扇を使った武術というのには彼女は目新しさを覚えていたらしい。
「一風変わった武術と対するいい機会かもしれないね」
 とはいえ、今回はあくまで武術家ドリームイーター撃破依頼。
 それを念頭に置いた上で戦いに臨んでほしいと、リーゼリットはケルベロス達へと告げたのだった。


参加者
リリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)
一式・要(狂咬突破・e01362)
一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)
アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)
アデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)
蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)
御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)
宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)

■リプレイ

●鉄扇を操る女性武術家
 京都府某所。
 とある住宅地に降り立ったケルベロス達は、僻地を目指して移動を開始する。
「みんな、よっろしくー!」
 現代っ狐のウェアライダー、宇迦野・火群(浮かれ狐の羽化登仙・e44633)は仲間達へと明るく挨拶する。
 挨拶が終わる頃、メンバー達は並木道へと差し掛かった。
「にしても、武を奪う……なんだかピンとこないね」
 御廟羽・彼方(眩い光ほど闇は深く黒く・e44429)は、今回の事件を引き起こした元凶、幻武極について所感を述べる。
「強くなるために武を求めて、さらなる強さを求めるってことかな?」
 ヒーローを目指す彼方は護る為に強くなりたいと考えているからか、敵の考えがを理解しかねるようである。
「それでも、襲われた女性を護るために今はドリームイーターと戦うんだ!」
「正義の道も武術の道も、共に極みの道じゃ。自らの手で道を探し自らの足で道を歩んでこそ至れる道よ」
 ほぼ同じ年頃に見えるアデレード・ヴェルンシュタイン(愛と正義の告死天使・e24828)は、ヴァルキュリアとあって他メンバーより様々な経験を重ねているようだが、どうにも中二病めいた印象を抱かせる。
「それを人より奪って歩んだ気になるなぞ、外道にも劣る行為よ」
 そんな野放しになっている事件の元凶だが、今は並木道の向こう側からやってくる武術家ドリームイーターを先に対処せねばならない。
 チャイナドレスを纏うグラマラスな美女、小松・眞凛の理想となる姿を取ったその夢喰いは、懐から取り出した鉄扇を広げてみせた。
「鉄扇、ですか」
「漫画の中だけだと思っていたんだが、実在したのか……」
 オールバックの少年、アゼル・グリゴール(アームドトルーパー・e06528)の言葉に、ごく普通の青年といった容姿の一条・雄太(一条ノックダウン・e02180)が思ったままのことを口にする。
「また面白そうな武術のドリームイーターが出たものだネ! 実に興味深いなぁ?」
 デウスエクスに研究意欲を持つマッドサイエンティストの少女、蟹谷・アルタ(美少女ワイルド研究者・e44330)が興味津々とばかりに、相手を見つめていた。
 同じく、敵を見据えたアゼルはふと考える。
 元を辿れば、鉄扇は大陸の暗器だっただろうか。なら、チャイナドレスという格好もある意味相応しいものなのかもしれない。
「でもまぁ、見た目の感想を並べても仕方ないことですし、お仕事にかかるとしましょうか」
 おあつらえ向きに、この場に一般人の姿はない。もっとも、アゼルは想定外の乱入者の警戒は怠らないが。
「半端に使うくらいなら、普通の鈍器の方がましだろうけど……。あなたはどうなのかな?」
 水の闘気を纏う一式・要(狂咬突破・e01362)が夢喰いへと挑発するように言い放つと、敵も牽制の為かその場で舞い踊るように扇を操り始める。
 淡いモザイクに包まれる軽やかな舞い。火群はしばし、それを見つめていた。
 金髪に白百合を咲かせたリリア・カサブランカ(グロリオサの花嫁・e00241)もまた、魅力的な夢喰いの姿に見惚れてしまって。
「チャイナドレスに鉄扇で戦うなんて、映画のアクションスターのようね」
「ぬわーっ!? 鉄扇で舞いながら戦うなぞ、なんと格好のよい……」
 周囲が戦いに適しているかどうか確認していたアデレードも、そんな相手の姿に目を輝かせていたようだ。
「鉄扇で舞うように戦う、チャイナドレス姿の美女……。妖艶で強力な武術を持つ理想の女性だろうね」
 だが、目の前の相手は同じ姿のオリジナルから奪われた武術を具現化させた存在でしかないと、彼方は再認識して。
「そんな人の武を、奪わせるわけにはいかないよ!」
 ここからは戦いになる。彼方は羽織っていたコートを脱ぎ捨てた。
 準備運動を終えた敵は一気に距離を詰め、ケルベロスへと襲い掛かる。
「彼女の武術は、ドリームイーターに利用されていいものじゃないはず。必ず助けましょうね」
 仲間達に告げたリリアも相手に向かって駆け出し、高く跳び上がったのだった。

●折角の華麗な武術も……
 武術家ドリームイーターよりも僅かに速く、ケルベロスは立ち回り始める。
「先に行くね!」
 リリアが自身に続く仲間に呼びかけてから、夢喰い目掛けて流星の蹴りを繰り出す。
 続く後方のアゼルは一気に距離を詰め、ナインテールエッジを振るいつつ夢喰いの足を止めようとした。
 一見、鞭のようにも見える武器だが、紐に苦無をつけたような縄ひょうをイメージした獲物。それらは相手の体を幾度も打ちつけ、さらに相手の態勢を崩す。
 だが、夢喰いはやや無理のある態勢からも大きく跳躍しながら、閉じて棒状にした鉄扇をモザイクで覆いつつ振り上げてくる。
 それをバトルオーラ「水鏡」で包む両腕で要は受け止めた。
「鉄扇か……」
 殴打を凌ぎつつ、彼は考える。
 攻防一体、美しさまで兼ね備えている。その実、繊細であり、上級者向けの武器だ。
「……どっちにしても」
 可憐な相手と優雅な技のはずなのに、モザイクだらけな武器で台無しである。
 仲間が相手の足止めをしてくれているが、それでも命中に難があると踏んだ彼は、一度腰につけた弾丸を手にする。
(「狙うなら、扇の骨ね」)
 相手の無力化をと考える要だが、夢喰いに弾丸を弾き飛ばされてしまう。ただ、骨に小さなヒビを走らせる事はできたようだ。
 そんな敵の姿に、アデレードは「ぐぬぬ」と声をくぐもらせていたが。
「とはいえ、いかにも使いづらそうで切れ味も悪そうな大鎌を腕力で強引に華麗に扱うのも、浪漫と格好良さに溢れておる!」
 アデレードは叫ぶとおりに吸魂の大鎌を操り、刃に地獄の炎を纏わせて夢喰いへと切りかかる。
「何より正義っぽい!」
 最上段より、アデレードは焔を残して振り払う。
 身体に炎を燻ぶらせる夢喰い。だが、まだまだその動きは健在だ。
「まずは……」
 ザ・テイカーを嵌めた拳で、雄太は螺旋の一撃を叩き込み、相手を威圧しようと試みる。
「鉄パイプよりは短いし、いけるいける」
 軽やかに舞う相手だが、まだまだ力押しでも行けると雄太は感じていたようだ。
 仲間達が夢喰いの気を引く間、彼方は喰霊刀に喰らわせたエネルギーを狙撃役メンバー達へと1人1人与えていく。
 その際、彼方は時に儚げで悲しそうな表情を垣間見せたが、すぐに明るく振舞って。
「まだまだ、これからだよ」
「相手はキャスター、スナイパーのウチらが勝利の鍵だね。頑張ってこ!」
 その援護を受けた火群が飛び上がり、エアシューズに重力を込めて夢喰いの体を蹴りつける。
「ふむふむ、なるほど。扇をああ使う訳だ」
 そして、相手を観察していたアルタ。
「大丈夫大丈夫、ちゃんとお仕事も忘れてないサ」
 彼女は右半身を赤い液体状にワイルド化させ、攻撃を受けていた要に対して自らのガジェットから魔導金属片を含む蒸気を発し、仲間の体を包み込む。
 鮮やかに戦場を舞うドリームイーターは宙返りしながらケルベロスの頭上から現われ、鉄扇を振るって切りかかってくる。
 鋭い刃となった扇はメンバー達の体を切り裂き、鮮血を迸らせるのだった。

 鉄扇を使った華麗な女性の武術。
 それが本当に完成されたものであれば、この場のケルベロスだけでなく一般大衆をも魅了するほどの技となっていたかもしれない。
 しかし、目の前の相手は理想を具現化したドリームイーターに過ぎず、繰り出される技はモザイクに覆われて確認が難しい。
 雄太は前線で相手の繰り出すグラビティの合間に、仕掛ける。
「なら、喧嘩殺法はどうだ!」
 それにプロレス技を織り交ぜたのが、雄太の戦闘スタイル。
 足元の砂を掴んで投げ飛ばす彼はさらに殴りかかろうとするが、夢喰いが巻き起こす旋風に煽られ、その身が引き裂かれそうになる感覚を味わってしまう。
「どうせ痛いだけだ! なら、幾らでも我慢してやらあ!」
 半ギレになりながらも、雄太はつかみ所が難しい相手の動きを見極めて。
「鉄扇といっても、ナイフとそう変わらない。だったら――!」
 武器を振るったタイミングに合わせ、雄太は降魔の拳を相手に叩きつけて行く。
 その先はうまく射線が開けており、リリアが狙う。
「誓約の舞、魅せてあげる」
 青翠の風を纏い舞うリリアは、比礼の踊り手。
 彼女の指先から放たれた風は光を受けて煌き、夢喰いの体を追尾し、絡み付いていて切り裂く。
 その傷口からモザイクが零れ落ちるも、武術家ドリームイーターはなおも鋭い刃となった扇でケルベロス達に乱舞を繰り出す。
 宙に残る残光が、メンバー達の体を裂いて行く。
「扇の本来の用途を無視しその形状を変化させる事で、その攻撃軌道を読みにくくする。九尾扇とはまた違った運用で……」
 夢喰いの挙動ばかりを見つめているようで、アルタはしっかりと仲間の状態も見ているらしい。
「……はいはい回復ネ、いくヨー」
 チームの回復役となる彼女はワイルドスペースを振り撒き、仲間達の体の一部を暴走時の状態としつつ傷を塞いでいく。
 そうして、アルタはまた夢喰いの動きを注視し始めていたようだ。
 なおもモザイクを伴って鉄扇を振るって襲い来る夢喰いを、ディフェンダー陣3人がメインとなって押さえつける。
 斬撃に烈風が飛んでくれば、彼方は大地より惨劇の記憶を集めて魔力となし、仲間達へと癒しをもたらそうとした。
 そうした癒しを受けつつ、要は足止めから撃破に切り替えて電光石火の蹴りを叩き込み、夢喰いの体に痺れを与える。
 相手が身を竦ませれば、アデレードが吸魂の大鎌を回転させながら投げ飛ばし、夢喰いの着るチャイナドレスを切り裂く。
 そのドレスの切れ目からモザイクが見える。夢喰いは少しずつ息遣いが荒くなっており、消耗が激しくなってきていたことが窺えた。
 さらに、相手を苛む為に、火群が惨殺ナイフで幾度も切りかかる。
 彼女の斬撃は敵の傷を斬り広げ、モザイクの見える領域が大きくなっていく。
「…………!」
 序盤は華麗に戦っていたドリームイーターも、ケルベロスの攻めに動きを鈍らせてしまう。
 好機と見て、回復寄りで動いていた彼方が摩擦で燃え上がるエアシューズで、夢喰いの体を蹴りつける。
 打撃箇所が燃え上がり、夢喰いの足がもつれかけた。
 敵が僅かに動きを止めれば、回復を行っていたアルタが攻めに転じて。
「武術にかける想念かそれとも別の何かを個体化……興味深い事例だが、サンプルに取れないのが残念だネ」
 ワイルド化した右腕で、彼女は夢喰いの体を大きく切り裂いた。ワイルドスペースに交じり、モザイクが飛び散っていく。
 武術家ドリームイーターはそれでも、鉄扇を手に舞い上がる。
「ユニット固定確認……炸薬装填……セーフティ解除……」
 だが、それをさせじと、アゼルが腕にパイルバンカーユニットをセットして。
「目標捕捉、これより突撃する!」
 彼は舞う敵に照準を合わせ、その腹目掛けて杭を打ち込む。
 炸薬の爆発する衝撃を、直に受けた武術家ドリームイーター。
 地面へと倒れこんだそいつは徐々にモザイクを粗くし、消えてなくなっていった。
 敵の消滅を確認した要は脱ぎ捨てたコートを拾い上げ、埃をはたいて羽織り直す。
 メンバー達も互いの状態を確認する中、アルタだけは小さく嘆息して。
「仕方ない、自分で研究するサ」
 鼻を鳴らす彼女もまた、この一件の事後処理に着手し始めたのだった。

●魅力的な技を持つ彼女に
 ケルベロス達は、その場のヒーリングを手早く済ませる。
 アデレードが気力を撃ち出して道路の修復を完了し、先を急ぐ。
 廃屋へと駆けつけたメンバー達はすぐ、中に倒れている小松・眞凛を介抱する。
 そして、女性陣が彼女に風邪を引かせないようにと動く。
 まずは、火群が外套をかけ、ヒールを仲間に任せるリリアは、眞凛に外傷はないかと確認する。この場でもアデレードが気力を撃ち、手当てを行っていた。
 その間、男性陣は待機していたが、アゼルは念の為にと周囲の警戒に当たっていたようだ。
「うっ……」
「気付いた? 良かった」
 眞凛が目覚めたことで、リリアはホッと胸を撫で下ろす。
 男性陣もまた、彼女の元へと集まってきて。
「ほら、落し物」
「どうぞ、お気に召すかはわかりませんが」
 要が落ちていた鉄扇を眞凛に返し、アゼルは持参したホットドリンクを差し出していた。
「ま、レディが寒さに震えるのも趣味じゃないしネ?」
 礼を告げて受け取る彼女を見て、アルタが傍のガジェットを操作する。そこから蒸気を噴射することで、癒しに当たっていたのだ。
「決して、恩を売って後で武術とドリームイーターの差異を研究させてほしいとか考えてないから、ダイジョウブダイジョウブ」
 笑い飛ばすアルタの視線があさっての方向を向いているのは、気のせいだろうか。
 その後、一行はこれまでの経緯を彼女に説明する。
 眞凛が怖い思いをしたかも知れないと考えたリリアはできるだけ優しく、丁寧に接しながら話す。
「キミの鉄扇の華麗な技が、デウスエクスを惹きつけたんだよ」
 普段、軽い雰囲気の火群がそんな説明をすると、要も大きく同意してみせて。
「……にしても、結構見事な技だったわ。あれ独学なの?」
「ええ……と言っても、私ではないけれど」
「鉄扇は、俺には使いこなせそうにない」
 問いかけにやや戸惑いながらも頷いた眞凛に、隣人力を使って接していた雄太も彼女の技を絶賛して。
「デウスエクスを通してとはいえ、貴方の武術は凄かった。だから尊敬するよ」
 リリアも眞凛の目指す武術を賞賛しつつ、彼女のいち早い立ち直りと美しい武術の普及を願う。
「ひょっとしたら、ケルベロスの間でも彼女の武術が重要視される未来だってあるかも!」
「どうかしら」
 まだまだ武術を形とするのに手一杯だからと、眞凛は苦笑する。
 そんな彼女は大抵の不審者を返り討ちにする技量はあるだろうが、今回のような事態が再び起こる危険性があると要は注意を促す。
「あんまり危ないことしないでね」
「ええ、ありがとう」
 眞凛はそうして、自分に気を掛けてくれたケルベロス達へと感謝を込め、頭を下げるのだった。

作者:なちゅい 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月5日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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