ヒーリングバレンタイン2018~てのひらから伝えて

作者:ふじもりみきや


 浅櫻・月子(朧月夜のヘリオライダー・en0036)は至極真面目な顔をして本を読んでいた。タイトルは「あなたとわたしのラブラブバレンタイン」と書かれていた。普段から彼女を知る者にとってはタイトルからして突っ込み所満載であったが、視線に気付くと彼女は本から顔を上げてこう切り出した。
「これまで諸君らもたくさんのミッション地域となっていた場所を奪還してきた。それはすばらしい成果で、誇るべきことだとわたしは思う」
「そうですね。みんなで頑張ってきて、成果を得た事は、素晴らしいことだと……そう思います」
 萩原・雪継(まなつのゆき・en0037)が穏やかにそう微笑んで、回答した。なんとなくその先を察している風であったが、何のことだかわからないアンジェリカ・アンセム(オラトリオのパラディオン・en0268)ははい、なんて真面目に聞きながらもちらちらと本のほうに視線を送っていた。
「……読むか?」
「はい!」
「そら。……とにかくだ。この取り返した地域の復興もかねて、バレンタインチョコレートを作ってみないか? という話なんだ」
「まあ。……え。あら??」
 話が妙に飛んだと、アンジェリカは瞬きをした。そして渡された本の帯に二度瞬きをした。まさかの空前絶後の超ホラーとか言う彼女にとっては割りと理解不能な文字が躍っていたからだ。
「え……ええと、バレンタインチョコレート、ですか?」
「そう。開放されたミッション地域は、基本的に住人がいないんだ。ただ、引越しを考えている人間が下見に来たり、周辺の人間が見学に来る事もある。ガワだけ戻っても、そこに人が生きていなければ意味がないだろう? だから、そういう人たちが参加できるようなイベントを行って、地域のイメージアップを図る……という計画らしい」
 ちなみに、といいながら月子は日本地図を広げる。ぴたりと指を差した場所は、
「福岡県福岡市だ。博多、と言ってもわかり易いかもしれないな。都会で、福岡タワーや水族館なんてものもある。が、今回赴くのは地元の公園だ。そこで、美味しいチョコレートを作るイベントと、チョコレートをもらうイベントがある」
 公園と、その周囲の商店街やお店をヒールしながらチョコレートを作ったり、渡したりするのが今回の目的だと、月子は語った。
 その言葉に、アンジェリカは口元に手を当てて少しだけ首をかしげた。
「貰う……プレゼントをもらえるのですか?」
 それはなんとなく、素敵なラブの気配がする。なんてアンジェリカの内心を知ってかしらずか、月子は首を横に振る。
「んー。どちらかと言うと、君たちに手伝ってほしいのは渡すほうだろうな。何せ可愛い&かっこいいケルベロスが手渡しでプレゼントをくれてなおかつ手を繋いでお写真を撮ってくれるなんて、考えただけでも儲かり……じゃない。喜ばれそうなそうな話じゃないか」
「まあ」
 いつの間にお写真まで撮ることになったのだろう。
「それでは、まるでアイドルの握手会みたいですわ」
「まるで、じゃなくてそのものですねぇ」
 黙って聞いていた雪継が、そこでようやく口を挟んだ。若干あきらめた感が滲んでいたのだが、
「つまりは、そういうことなのだと」
「うん、そういうことなんだ。何、建物にヒールをした後は、別に嫌なら好きなだけチョコを作っていればいいし、気の合う仲間内でチョコを作りあって食べて楽しんでも勿論いい。もし、気が向いたら遊びに来た一般人の人にチョコをプレゼントすればもっと喜ばれるだろう。それだけの話だ」
 せっかくの一日だ。楽しく過ごせばそれでいいのだよ、なんて。
 月子はおかしげに笑いながら話を締めくくった。


■リプレイ

 空は快晴。人通りも良好也。
「さあさあここがRaven'sキッチンです!」
 イチカとサヤは制服姿でにこやか。握手会は盛況のようで……、
「おぉぉみんな可愛い! KAWAIIは正義! え、あ、いや、イーリィさんはもうおいしくなあれに頼るイーリィさんじゃ……! ありますん!」
 お手伝いイーリィさんも、作ったり渡したりと忙しい。
「うおお負けてられない! ほらほら、ここにもとっても偉い神様がいるよ! 私と写真撮ろう握手もしよう!」
 走り回る制服姿のフェクトにイチカは笑う。
「フェクトちゃん神さまアピールしないほうがもしかしていいのでは?」
「自分の好きなもので売っていくのは、いいことよ。……社長も味見、どうかしら? なかなか美味しくできたと思うんだけれど」
 焼酎を混ぜ込んだチョコはちょっぴり大人の味がした。翌桧も頂きつつ。自分の欲望に忠実に生きてんなぁとは内心。
「らしくていいな。それに、みんな上手くやってるみたいだ。うん、売り上げも悪くない」
 人材派遣業の社長的にはそのあたりも満足いく結果だ。
「ほら、ラッピング終わったぞ♪」
 アラタが残りすきないチョコのラッピングを仕上げる。おそろいの制服が少し嬉しい。
「鴉のチョコとクッキーにはお花リボンだろ。星のチョコには……」
 一つ一つチョコにあわせて選んだ飛び切りのラッピングだ。サヤは感心したようにそれをとって徐に皆に渡し、
「たいへんかわゆい。そして……いつもありがとうございます! チョコください!! あとサヤは皆で写真がとりたいです」
 とならばと千歳は鴉の飴細工を皆に渡し、
「あら。いいわね。それと帰りに、お夕飯も如何? いい所を聞いておくわ」
「アラタモツ鍋がいい! それはそれとしてこの鳥形のショコラキャラメルをくらえ!」
 ばーん、とアラタが手を挙げると、フェクトも、
「モチロン私も用意があるよ! 神様のチョコレート……ゴョコレート!」
 なんかよくわからない凄いチョコを出した!
「フェクトちゃんの発想ゴッドだよね。わたしもみんなの分ちゃんとあるよー!」
 妙に感動しつつイーリィもチョコチップカップケーキを渡していた。ちなみに雪継に渡したら、満点です。美味しそうとの返答。内心明らか友チョコっぽくてしょんぼりさせたのにイーリィが気付いたかは不明である。
「あ。くださいって言われるまえにあげよと思ってたのに! ちゃーんと用意してあるよ」
 イチカも鴉の形のクッキーを。お返しは、という皆に、翌桧が肩をすくめた。
「覚えてたらな。終わったらさっさと片付けて、打ち上げでも行くか」
 元気な返答がある。もう暫く楽しい会は続きそうだ。

「何故こうなった」
「だってなぁ、普通に渡されるより可愛い着ぐるみにチョコをもらった方が嬉しいだろう! 中身がおっさ」
「言わない。それ以上は、言わない」
 狐きぐるみの馨がからりと笑い、狸きぐるみの最中は続きを飲み込む。子供にチョコを手渡し、握手もして。なんだかんだ真面目にこなす最中と、明るく愛想のいい馨。
「あ、もっくんにもチョコがあるぞ。1番の傑作だ!」
 こういうのも、なかなか悪くない。そう思う最中に、不意に馨がチョコを差し出した。
 思わず受け取って、握手をしてみる。チョコペンで顔が書かれたブサイクなネコちゃんチョコはなんとも可愛くて、
「……ありがとう」
 顔を見合わせると、互いに笑みがこぼれた。

「かけがえのないあなたが、いつも笑顔でいられますように」
「『氷と光の虹色ポルカ』一緒に踊って下さってありがとうございます♪」
 アイドル歌手『A.A』(エイア)のロゼはチョコカラーの衣装。ガールズバンド【quatre☆etorir】の鞠緒はカラフルなカップケーキ風の衣装で握手会にサイン会にと応じていた。彼女たちにかかればヒールもコンサートだ。
「鞠緒さん……、なんだか私幸せです。 作戦大成功ですね!」
 ほう、とロゼがいうと鞠緒もウィンクで答える。
「ではでは、ロゼさん、にじいろミュー ズ、ハートタッチ大作戦!」
 ハートのサインを一緒に作ると歓声が上がり。二人は顔を見合わせて笑いあった。

 リリウムが若干名残惜しそうにチョコドーナッツを渡す。
「だ、だいじにしてくださいね……! って、え、あ、わ、あばばば……! これはいったいどーゆー」
「すみません、リリウムちゃんのアホ毛は一人ひとなででお願いしますー」
 リリウムの突然のハプニングにも、ウォーレンは冷静に対処する。アホ毛御利益の噂も侮れない。
「さすがに疲れたねー」
「わたし、今日はとってもがんばりましたー……」
 ひと段落つくとぐったりなってしまったリリウムにウォーレンはほほ笑む。
「頑張ったリリウムちゃんに、はい。僕ら用に取っておいたチョコドーナツだよ」
 目の前に差し出されたそれに、リリウムの表情が一瞬で変わっていくのであった。

「お姫様だっこがこんなに需要があるとはな……」
「最近流行らしいですね~。皆、喜んでもらえてよかったな」
 人の波が引くと、漏らした巌に穣は笑った。ドライフルーツが入ったチョコレートも好評だ。
「あはは。お二人ともお疲れ様でした。大人気でしたね」
 隣の雪継も楽しげに。ひとしきり談笑した後で、巌が自分の作ったチョコを出した。
「んじゃ、落ち着いたところで……。いつもありがとう、これからもよろしくな」
「おや、先を越されましたか。……では。ゆきさんはどれが好きかな?」
「じゃあ、蜜柑と苺で……」
 ちなみに巌のは解っていると穣。それは恐れ入りましたと巌。
「折角だから皆で食べるか」
 まだまだ楽しい会は続きそうだ。

「どうもありがとう! これからもよろしく、だな!」
 【天剣絶刀】のヤトルがチョコを渡すと、女子高校生たちがきゃーきゃー言って受け取ってくれる。
「いやー、それにしてもこうも喜んでもらえると、こう言う事も大事だって分かるねぇ」
 隣で由美が照れくさそうに笑いながらチョコを渡す。当のヤトルといえば、
「ん、んん……うーん、おいしそうだ!」
 まだそういう実感は伴わないらしい。月子が吹き出した。アルトゥーロがチョコの袋を手渡す。中はトランプのスート型、四種のチョコが入った豪華な一品だ。
「君も渡せばいいのに」
「柄じゃない」
 月子の言葉にアルトゥーロは品物をにゅっと差し出す。
「手伝ってくれるか? 後で一杯おごるからさ」
「おや、わたしの一杯は高いぞ? ……あぁ、その前に、ほら」
 月子はひとつ袋からハートのチョコを手にとってアルトゥーロの口元へ差し出した。
「ハピハピ。ヴァレンタイーン。こんな物しかないけど、どうぞ」
 由美もヤトルにそっとチョコを手渡す。一緒に写真撮ってもらおうよなんてヤトルの手を引いて笑った。

「というワケで! 今日はここからフリーハグタイムだ! さァ、(主に女性陣)どっからでも掛かって来やがれ!」
「……ダァリン? ワァァ、「Free hug」なんて掛け看板何処に仕込んでたの!? そ、底抜けの、馬鹿だわ……!」
 今日一日。カタコイラジオ、出張版出張版は女性にサービスしまくり連絡先を片っ端から聞いていくダレンとかを捕らえていた。
 そして最後はこれである。カメラに纏はひらと手を振る。まだまだ遊びに来てねと声をかけ、
「さあさあいっくよ! ダレンちゃんの胸にダイブッ!!」
「オーケー……間違いなく嫁の愛が今日一番鋭いぜ……!」
 握りこぶしが鳩尾に突き立てて、纏はカメラにウインクするのであった。

 街の人々が嬉しそうにチョコを貰っている。
 その先に、大きなピンクのリボンを首にした猫がいた。遼である。
 ネコが渡すプレゼントに、子供たちは本当にうれしそうで、
「みゃあ」
 一人ひとり手渡しながら、彼女はじっとその顔を目に焼き付けた。大切な宝物を心にしまうように……。

 おいしくできた!
「ふふん、リディより美味しくなっちゃったかも」
 カルマのガナッシュをもっての言葉にむむっ。とリディはスプーンチョコをデコる手に力を込めた。仕上げの速度も上がる。
「……どうぞ」
 ずずいと差し出すリディ。
「食べさせてくれないの?」
 カルマは頑張ってみた! ほらほら、なんていっているけれど、本当は距離が縮まるかちょっとどきどきしている。
「……ほんとにその口はすぐ調子乗りますね」
 リディは思わずそういって押し黙る。いっそラッピングごと口に突っ込んでやろうかと思ったのは一瞬。
「……」
 勝てない。
 リディは溜息ついて、包んだばかりの袋に手をかけた。

「こうして、こうして……。はい、できました」
 アリスの作るトランプのスートの形のショコラブラウニーは、飛び切りの愛と思いがこもっていた。
「まあ。アリスさん、少し待ってくださいませ」
 アンジェリカが隣でクッキーに四苦八苦している。渡す相手を聞かれると、
「お恥ずかしながら、私はまだ……。アリスさんは」
「どなたに渡すのかは……内緒ですっ♪」
 ちらと流す視線。あぁと二人で見るその先は、
「アンジェリカ様、アリス姫様、こんな感じの装飾は如何ですかしら♪」
 料理をすることをとめられたミルフィが、ラッピングに精を出していた。
「はい、とーっても素敵です」
 可愛らしい包みと笑顔のミルフィに、アリスも嬉しそうに笑う。きっと喜んでくれるだろう。

「多分、本を見れば、なんとかなるはず……ごめんなさい」
「い、いえ。大丈夫です、不器用なりに包丁使いとかマシにな」
「はい二人ともそこで止まって」
「……すみません、刻むのとか溶かすのとか手伝ってもらえると嬉しいのです……」
 月のイメージは早くも崩れ去った。雪継は料理初心者で。まあ、二人で頑張りましょうなんて始めたのだけれど、
 月子が見かねて止めに入った。彼女は別に得意ではないが……。
 とりあえず基本から丁寧に。ゆっくり頑張る三人組。
「えと、生チョコ、上手にできてたら、お二人にも食べてもらってもよいでしょうか?」
 月の言葉にもちろんと月子は笑い。雪継はでは、交換しましょうなんて笑うけれど、
 ちゃんとできるまでどれだけかかるかは、また、別の話である。

「何となく色合いがこう……あの方を連想させて……とか言っておる間にメレンゲが……!」
 妄想と現実の狭間を行き交うような切実な声が響く。【盾組】はバンリを始め仲良く皆でチョコ菓子作りの真っ最中だった。一通り終われば試食の番である。せーので持ち合い、
「薄いヒビは入ったか。ま、仕方あるまい」
 ハートレスのマカロンは性格があらわれたか割ときっちりしていて、
「料理の基本はレシピに忠実に作ること、と。 なるほど、科学の実験に通じる気がするわ」
 アイリスも髪を結ってそわそわしていたのは最初のほうだけ。持ち前の堅実さでかっちりマカロンを仕上げていた。
「ふふ、私たちの笑顔とお菓子が、皆さんに届くと良いのですが」
 フィルトリアも基本に忠実に。和やかにでは試食でも……なんて始まるが、
「え、と私のはどーですか?」
 皆のを見て作ったはずなのに。
 リーンはなんかものすごい怪しくてお菓子じゃない色をしたナニカが出来上がっていた。
「勿論いただきますね。美味しいです」
 フィルトリアが笑顔でマカロンを口に。
「伝説のダークマカロンか……! うま、い」
 うむうむ。バンリもしみじみ言ってはっと顔を上げて……、
「……これは、土産だな。留守番連中にもふるまおう 緑は……ピスタチオか。うん、美味いな」
 ハートレスの言葉にあわわとバンリは視線をそらした。
「はい。ああ。ええと……ゼロさん。味が、よく」
 ふふふ、とフィルトリアがお姉さんみたいな顔で見ている。
「美味しい?では、早速街の皆さんにも配ってまいりましょうー」
 リーンもその反応に嬉しそうだ。
「なるほど。料理には、ああいうものも必要なのかしら」
 科学を超えるものがあると、アイリスなにやら納得顔。なんのことやらとハートレスは首を傾げるのであった。

「へえ? トリュフに火って使わねえのか。どれどれ……お、やっぱ合うなあ!」
「味は似た感じなんですね。でも舌触りが少し違う……かも……?」
「こういうのもたまには。いや、なかなか……」
「あそこには、近づいてはいけませんよ」
「あ、あら。でも、楽しそうですね?」
 ユストと紫睡と月子の酔っ払いの集い。雪継がアンジェリカに思わず言った。
「ふ……。飲めねえかわいそうな二人にはこの外国土産の良い紅茶をくれてやろう!」
「わあ、ユストさん紅茶も煎れられたんですか!? 私ももらっていいですか」
「ふははできるわけないだろう! 良かったら淹れてくれるかい? 報酬は恋バナだ。B級映画1本分のスペクタクルは保証するぜ?」
「まあ」
「ほう?」
 嬉しそうなアンジェリカと違う意味で目を輝かせる月子。頭を抱える雪継。
「はあ。なんだか幸せですねぇ」
 見ているとあったかい。まだ酔ってしまうのは勿体ないと紫睡は紅茶に手を伸ばした……。

「あたしはホワイトチョコの雪だるま作るよー!」
 【九龍】のひさぎたちは一仕事終えてチョコ交換会を始めていた。
 ひさぎのホワイトチョコの雪だるまに、エルスが目を輝かせる。
「皆様上手いねー」
「うん。みんな可愛くて美味しそう。勿論エルスさんのもね♪」
 いただいていいかしら? というリリィに、
「よ、よかったら、皆様も、食べてみ……?」
 エルスの顔から笑みがこぼれる。中身色々なぼんぼんショコラを差し出した。
 そういうリリィはロリポップチョコ。鈴カステラをコーティングした可愛いものであった。志苑がその横でそっと自分のものを置く。カップタイプのガトーショコラに、飾りは桜の花と葉っぱをあしらった。
「日ごろの皆さんの感謝をこめて……」
「まあ。本当に皆さん美味しそうです」
 お呼ばれしたアンジェリカも不ぞろいなチョコクッキーを横に置き、目を輝かせている。
 女子会のごときにぎやかさ。花のように話と笑みがこぼれる少女たちに、清士朗は笑いかける。
「あぁ。皆、お疲れ様。せめても飲み物をどうぞ?」
 チョコはない。しかし飲み物はある。握手会もさわやかにこなし、少女たちのチョコレートに対する感想も忘れない。先輩としてアンジェリカへの声かけも忘れない。……なので、
「ねえ、清士朗さんは、一体どなたの旦那様ですの?」
 思わず聞いた。
「ふぁ!? し、師匠は、師匠ですよ!?」
 思わず反応したのはリリィだった。志苑が真面目に、
「はい。いつもお世話になっております。勿論、ここにいる皆さんも、ですけれど……」
「……いつでも相談を、とは言ったが……」
 寧ろ清士朗のほうが笑いを堪えるのに難儀しているようであった。
「うん。恋話なら色々あるから、詳しい話はまた今度、です」
「まあ。是非に」
 エルスの言葉にアンジェリカは目を輝かせる。
「好きも嫌いも難しいな。ちびっ子達にどれが好きかなー?」
 ひさぎは尻尾をぱたと振る。近くに子供たちが様子伺いに来ていたみたいで、雪だるまチョコを持って腰を浮かせていた。
「じゃあ恋バナ肴に今日はどんどん食べるわよ! 頂きまーす!」
 フィアールカが宣言する。お茶会はまだまだ続きそうだ。

「そう。[Raison d'etre]のイブ・アンナマリア。握手、いいよ。写真も。サインは今回だけ特別ね。ゆぎくんも欲しい? なん」
「いーのいーの!? プリーズ! ゆぎくんへ☆って書いてほしーな!」
 【煌座敷】、歌手のイブの言葉に水流は笑顔だった。白&青のミニスカセーラー襟ワンピ、可愛く決めてアイドル風全開なのに、なぜか握手を求める水流。
「って、チヨくんも……!?」
「握手の方法を教わったからね、きっとばっちりなはず」
 いつの間にか隣にいるはずのチヨも列に並んでいた。
「ぐぬぬ。キラキラ可愛いコンビに負けてなるか……!」
 どうだ、と負けじと妖艶な着物姿で参加する曄。
「うんうん、さすがにイブは華があるし、水流もチヨも曄も愛敬と度胸がある。スキンシップがこなれてるというか……え。俺? ああ、うん。どう……ぞ?」
 女子高校生に黄色い声で騒がれ、レスターは内心恋人に謝りながらも途方にくれる。慣れていない。でも皆生暖かい目で見守るばかり。だけでなく、
「くっ、不慣れなレスターとチヨの可愛さよ……水流の愛くるしさよ……。ああ、可愛い。今日という日が可愛い。ああ可愛い子達よ……! うちの子にしたい」
 那智が不審者の如き勢いで裏方から彼らを見守っていた。しかし視線に気付いたのか、
「ぜひ皆に手渡して頂きたい」
 少し味に不安が残るけれど、なんてチョコのおかわりを持ってきた。
「待って、写真、撮る。いっぱい撮る。皆、きらきらしてる。さすがだな、見習いたい」
 引っ込もうとする前にチヨが声をかける。
「おっ。チヨくん写真撮影ー? はいちーず!」
 水流がどんとこい。なんて笑うと、曄もまたピースサイン。
「最後に皆で集合写真、とれたら良いなぁ」
 チョコも渡したいしとは曄の内心。
「あぁ。いや。……なんで誰一人助けてくれないの」
 もみくちゃにされて表情が妙に固まったレスターも一枚撮られた。
「そんな後だけど……日頃の感謝をこめて。皆俺の大事な友達だからさ」
 健気。チョコを配るレスターに、イブはそれを受け取った。
「ありがと。僕チョコ大好きなんだ。……皆で食べると、いっそう甘く感じるな」
 異論など、出るはずもなかった。

作者:ふじもりみきや 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:45人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。