●音々子かく語りき
「去年は沢山のミッション地域が解放されましたねー。いえ、去年だけでなく、今年に入ってからも何箇所か解放されましたし。皆さんの奮闘には感謝しきりです」
ヘリポートに並ぶケルベロスたちに頭を下げたのはヘリオライダーの根占・音々子。
ネジマキの生えた後頭部を皆に十秒ほど晒した後、彼女は顔を上げて本題に入った。
「それでですね。解放された各ミッション地域の復興イベントをおこなうことになったんですよ。基本的には地域内をヒールして回るんですけど、去年と同様にバレンタインと重なっていますから、チョコレートを配布するイベントも一緒におこなっちゃいまーす。で、皆さんにヒールしていただきたい場所は――」
音々子が皆にタブレットを見せた。
そこに表示されているのは愛知県清須市の地図。
「――スターブレイカーの影法師に占領されていた尾張星の宮駅周辺の市街地です。チョコの配布の会場として使うのはその市街地のグラウンドなんですけど……これがちょっといい感じのロケーションなんですよー」
音々子がタブレットをタップすると、清須市の地図がグラウンドの写真に変わった。
ごく普通のグラウンドだ。
傍に城が建っているという点を除けば。
「じゃーん! 清須会議とかで有名な清須城でーす! 私、思ったんですけど、せっかくこういう場所でイベントをおこなうんですから、戦国武将っぽい甲冑とかのコスプレをしたら、市民の皆さんにも受けるんじゃないでしょうか」
甲冑といっても、べつにリアリティを重視する必要はない。旗指物にスローガンを書いたり、兜の立物をユニークなデザインにしたり……といったやりかたで個性をアピールするのもいいだろう。
「もちろん、武将じゃなくても構いませんよ。あえて雑兵や忍者に扮するのも美味しいかもしれませんし、姫君とか剣豪とか茶人とかも悪くないですねー。まあ、どんな扮装をするにせよ――」
音々子はにっこりと笑った。
「――皆さんなら、清須の地に戦国のロマンを甦らせることができるはずです! 美味しいチョコとともに!」
●ちょこれぇと風雲録
「歴史は好きだが、コスプレってやつは苦手なんだよな」
剣豪めいた扮装の岡崎・真幸が周囲にヒールを施していた。
ここは愛知県清須市。かつては市内の尾張星の宮駅に魔空回廊が鎮座していたのだが、真幸を含む八人のケルベロスによって破壊された。
「あれから七箇月か」
真幸は街並みの向こうに目をやった。
清須城が見えた。
清須城の傍のグラウンドはチョコの配布会場となっていた。
「変じゃない……かな?」
空色の姫君の衣装を纏った空鳴・無月が尋ねる。
「変じゃないですよ。よく似合ってます」
と、答えたのはミント・ハーバルガーデン。彼女の衣装は青い甲冑。
「ありがとう……ミントも似合ってるよ」
二人がチョコを配り始めると、たちまちのうちに人だかりができた。目的はチョコをもらうことだが、写真撮影を願う者も少なくない。
「やはり、このような姿が映えるでしょうか」
ミントがカメラの前で模造刀を構えると、無月も扇子を手にしてポーズを決めた。
「こういう衣装は重くて動き辛い……ミントの甲冑も重いんじゃないの?」
「おーもーいー!」
と、叫んだのはミントではない。
無月と同様に姫君の衣装を纏った大弓・言葉だ。
「でも、女子の根性にかかれば、これくらい!」
『女子の根性』なるもので重量感を打ち負かし、なおかつ勝利の代償(額に浮き出た血管)を巧みに隠して笑顔を振りまきながら、言葉は人々にチョコを配って歩いた。梅の香りがする一口サイズの花形チョコ。
パティ・パンプキンも姫君の恰好をしていたが、動き辛さに苦しめられてはいなかった。
ポニーに乗っているからだ。
「白馬の王子ならぬ仔馬の姫君なのだー」
類は友を呼ぶ……というのとは少し違うかもしれないが、パティの周りに集まっている者の大半は子供だった。
「ん? 誰だ! 今、小さいって言ったのは!? パティは大人なのだー!」
子供たちに必死に『大人』の威厳を示そうとするパティ(十二歳)であった。
姫君に扮しているのは女子ばかりではない。
シグリット・グレイスも姫君の衣装で身を飾っていた。しかも、剣士のエスコート付き。
「姫、傍を離れないでくださいね」
人々にチョコを配りながら、剣士役のハチ・ファーヴニルはシグリットに声をかけた。
「なんていうか、その……あまりにも可愛すぎて、きっと放っておかれないっスから」
「そんなわけないだろう」
ハチの杞憂を切って捨てるシグリットであったが、ある意味では確かに放っておかれていない。一般人の多く(主に女子)は彼に熱い眼差しを送っている。
「それに、仮になにかあったとしても――」
女子たちに義務的な微笑を返しながら、姫は剣士に囁いた。
「――その時はおまえが助けてくれるだろう?」
「もちろんっス! この刀は姫をお守りする為にあるっスよ!
こちらにも女子受けしそうな男が二人。
藍染・夜と楝・累音である。
「さあ、好きなほうを選べ」
伊達政宗の甲冑に身を包んだ夜が二組の衣装を示した。
「左は正宗の正室、愛姫の衣装。右は正宗の腹心、片倉小十郎の衣装だ」
「では、左で」
「……本気か?」
「いや、冗談だ」
そう言って、小十郎の衣装を着始める累音。
「まあ、正室であれ、腹心であれ――」
冗談に対するお返しとばかりに夜がそっと手を伸ばし、累音の頬に指を這わせた。女子たちからの視線を多分に意識しながら。
「――骨の髄まで愛してやることに変わりはないが」
「……」
顔を引き攣らせる累音であったが、拒絶はしなかった。夜の意図が女子へのサービスであることを察したからだ。それでも『後で覚えてろよ』とアイコンタクトを送るのは忘れない。
そんな二人を見て、女子たちは黄色い声をあげていた。
その中でも一際大きな声を出しているのは根占・音々子だ。
「音々子様ったら……腐女子的な喜びを見出してないで、良い男性でも見つければいいのに」
嬌声をあげるヘリオライダーに呆れつつ、花魁姿の琴宮・淡雪はチョコを配っていた。
手渡しではなく、胸に挟んで迫るという形で。
『おっぱい教』なるものへの勧誘のチラシをチョコに添えて。
「なんだよ、オッパイキョーって?」
と、茶人に扮してホットチョコ抹茶ラテを配っていた鍔鳴・奏が訊いた。
「胸について悩む女性やおっぱい好きの男性のための宗教ですわ」
そう答えながら、独自の方法でチョコを配り続ける淡雪。
「さすが、淡雪さん。セクシーな配り方だ」
姫のような衣装(『ような』が付くのは自己流のアレンジが加えられているからだ)のリーズレット・ヴィッセンシャフトが深く頷いた。
「うずまきさん、あれだよ。あれこそが神髄なんだよ」
「……神髄?」
リーズレットに声をかけられて思わず自分の胸を見下ろしたのは瑞澤・うずまき。くノ一の衣装を着ているが、胸部が非常になだらかということもあって、色気は微塵も発していない。
「ボクに神髄は無理っぽいな」
「まあ、うずまきは……まだこれからだし。でも、リズは挟めるんじゃないか?」
奏がうずまきをフォローをした後で、リーズレットに話を振った。
だが、リーズレットは聞いていなかったらしく――、
「では、チョコも配り終えたことだし、リサイタルといくか!」
――マイクを手にして歌い始めた。誰に頼まれたわけでもない。歌いたいから歌うだけだ。
他の三人は聴き手となった。誰に強制されたわけでもない……が、拒否権がないのもまた事実。
「リズ姉ぇー! 素敵ぃ!」
うずまきが目を輝かせ、歓声をあげた。
しかし、淡雪と奏は――、
「り~ず~」
「わー、すごーい」
――声に張りがなく、目も死んでいた。
●ちょこれぇと戦国史
「おおう! これが清須城!」
アラタ・ユージーンhは清須城を見上げていた。勇壮な城に心を躍らせているのだが、彼女の姿も勇壮だ。黒田長政を意識して、二本の長大な角を有する桃形兜を被っているのだから。
「何百年もの時を超えて城が現代に甦るなんて……ロマンだな! あ?」
興奮気味のアラタの視界に入ったのは、竹槍を持った農民。
ヴァオ・ヴァーミスラックスである。
「ヴァオー! 勝負だぁー!」
場を盛り上げるべく、アラタはヴァオに斬りかかる真似をした。
「いや、俺は落ち武者狩りだよ? おまえ、ぜっんぜん落ちてないじゃん! めちゃくちゃ元気じゃーん!」
アラタが本気で攻撃を仕掛けていると思い込み、ヴァオは慌てて逃げ出した。
グラウンドの中央には第二の清須城が聳えていた。
全高三メートルの城型チョコだ。
その城の前に立っているのは神崎・晟とガロンド・エクシャメルとドラーオ・ワシカナ。
「清須城と言えば……清須会議」
夜と同じく伊達政宗の甲冑を着たガロンドが言った。
「会議と言えば……会議は踊る!」
赤威の重量級武者鎧で全身を固めたドラーオが叫んだ。いや、叫ぶだけにとどまらず、その場で踊り始めた。炭坑節を歌いながら。
「……なぜ、踊る?」
斯波義重に扮した晟はドラーオを呆然と見つめてたが、アラタから逃亡中のヴァオが傍を通りかかると、瞬時に表情を引き締めた。
「落ち武者狩りか!」
「え? なに? なんなの!?」
「清州城の築城主として、農民の狼藉を見逃すわけにはいかーん!」
恐れ戦くヴァオの腕を掴み、背負い投げを決める晟。
ガロンドも晟に加勢する……という態で、大御所の俳優めいたサンバを踊り出した。なんだか意味が判らない。
ドラーオだけはヴァオの討伐に加わることができなかった。
なぜなら――、
「ぜー、ぜー……もっと……軽い甲冑にしておくべき……だったぞい……」
――踊り疲れて息が切れていたからである。
「平和も戻ったことだし、チョコを配ろうか」
ヴァオの息の根が止まった(比喩)ことを確認すると、ガロンドはサンバをやめて、一般人たちにチョコを渡し始めた。兜の前立てに合わせた三日月型のチョコだ。
「うむ。そうしよう」
晟もチョコを配って回った。こちらはミニチュア清州城チョコ。
ドラーオはまだ息を切らしていたため、なにもできなかった。
「本日、この清須城では清須会議が開かれております」
人々の前で足軽姿の新条・あかりが実況をおこなっていた。『この清須城では』と言ってるが、城内ではない。グラウンドに畳を並べ、城の大部屋に見立てているのだ。
そこにいるのは三人の武将と二人の姫君。
「茶々、初! パパと呼んでいいんだぞ」
武将の一人である玉榮・陣内が姫たちに呼びかけた。姫の名前からも判るように彼が演じているのは浅井長政。清須会議の時点で既に故人となっているためか、ウイングキャットが人魂よろしく周囲を舞っている。
「パパー! イケてる服、買ってー」
と、初役の空国・モカが父の亡霊に甘えてみせた。
「買ってくれたら、チョコあげる。でも、パパじゃなくて――」
一般人のほうを振り返るモカ。
「――会場の皆にね!」
寸劇に興じながらもチョコの配布という使命は忘れていない。
一方、茶々のほうは亡父を無視して、人魂代わりのウイングキャットを招き寄せていた。いや、茶々ではなく、淀と言うべきか。豪奢な打掛を纏った大人の女なのだから。もっとも、演じているのは男の月杜・イサギだが。
イサギはウイングキャットの首に札をかけた。そこに記されている名は『ひでより』。時系列という概念は宇宙の彼方に追いやられたらしい。
秀頼の喉を撫でるイサギの傍には甲冑姿の比嘉・アガサが立っていた。役どころは柴田勝家だが、本物の勝家よりも迫力があるかもしれない。甲冑の重さに閉口し、いつにも増して不機嫌そうな顔をして、殺気めいた怒気を漂わせているのだから。
そんなカオスな面々を取りまとめるべく、三人目の武将が動き出した。
アジサイ・フォルドレイズが演じる豊臣秀吉だ。
人たらしの天才たる秀吉は会議の参加者たちに板チョコ(包装紙には『三法師』と記されていた)を手渡して回ったが――、
「市を返せー!」
――陣内がいきなり殴りかかった。
「おのれ、長政ぁ!」
「おーっと、秀吉がキックで反撃だぁー! どさぐさにまぎれて、勝家も蹴りまくっているぅー!」
と、熱を込めて実況を続けるあかり。
彼女が言うように勝家役のアガサも長政を蹴っていた。ただの八つ当たりである。それですっきりしたのか、アガサは一般人たちに近寄り、チョコを配り始めた。だが、チョコを受け取る者たち――特に子供たちの手は震えていた。不機嫌そうなアガサの顔に怯えているのだ。
「大丈夫だ。とって食ったりしないから」
アガサは子供たちにそう言ったが、仏頂面のままなので説得力がない。
「そんなに怖がることないんだよ」
と、淀が子供たちに笑顔を見せ、妹とともにチョコを配っていく。
そうしている間も秀吉と長政の乱闘は続いていたが――、
「わたくしのために争うのはやめて!」
――千手・明子が現れた。
身に着けているのは天鵞絨のマントと南蛮鎧。
そう、織田信長である。
「ここで親方様の登場だぁーっ! 皆の者、頭が高ぁーい!」
「ははぁー!」
あかりが声の限りに叫ぶと、秀吉は思わず平伏した。長政のほうは信長に殺されたということもあり、なにか言いたげな顔をしているが。
「はい。人間五十年、下天の内をくらぶれば……」
『敦盛』を口ずさみつつ、人々にカステラ(包装紙には『吉法師』と記されていた)を配る第六天魔王であった。
●ちょこれぇと忍法帖
「現代の秀吉、ここに見参!」
グラウンドの一角で岩櫃・風太郎が大音声を発した。後光のような意匠が施された兜を被り、千成瓢箪の馬印を背後に立てて。
「日ノ本の安寧は我らにお任せあれ!」
歌舞伎めいた大仰な動作でばら撒かれたのは豆……ではなく、きな粉餅チョコだ。
「あ、そーれ! 鬼は外! 福は内!」
前田利家に扮した石動・真吾が巨大な筆型のペイントブキを槍に見立ててゴッドグラフィティを発動させ、秀吉こと風太郎の体に『必勝』の文字を記した。
そんな二人のパフォーマンスに魅せられて、一般人が集まってきた。いや、一般人だけではなく、ケルベロスもいる。
「私も混ぜてくださいな」
と、一緒にチョコを撒き始めたのは神苑・紫姫。彼女が纏っているのはリボン付きの白い忍び装束。ビハインドのステラも同じ格好をしていた。
両者ともにくノ一を意識しているのだが――、
「ちっとも忍べてませんね」
――尖・舞香が呟いた。こちらは姫じみた和装。ただし、仮装ではなく、普段着である。
「まあ、なにはともあれ、私もチョコをいただきましょう……あら、美味しい。ほらほら、皆さんも頑張ってチョコを集めないと、私がぜーんぶ食べてしまいますよ」
人々を煽りつつ、チョコをキャッチしては口に運び、キャッチしては口に運び……と、美味なる反復作業を続ける舞香。
そんな彼女の横ではプラータ・ヴェントが抹茶とチョコレートのシフォンケーキを配っていた。衣装は法衣と黒頭巾。千利休のコスプレである。
利休は秀吉に切腹を命じられたわけだが――、
「さー、ノリ良くいきますよー!」
――プラータは法衣を脱いで忍び装束姿になると、『やられる前にやれ』とばかりに風太郎を攻撃した。チョコを投げるという形で。
「貴様、ニンジャだったのか!? 成敗いたす!」
「助太刀するぜ、殿!」
「私も!」
プラータに反撃を加えんとする風太郎。後に続く真吾と紫姫。
彼らから逃げつつ、ニンジャでリキューなプラータは一般人にチョコを渡して回った。
「どうぞ、召し上がってくださーい」
「あいつらに負けず劣らず――」
侍装束の十六夜・刃鉄が視線を移した。走り回る風太郎たちから、十六夜・琥珀とユーデッカ・フルコトに。
「――こいつらもノリノリだな」
「見たか、刃鉄! この菓子にて、琥珀姫は我が虜よ!」」
そう叫ぶユーデッカの隣では琥珀がチョコを頬張っていた。前者はくノ一に、後者は姫君に扮している。『姫が忍者に拉致された』というシチュエーションだ。
(「あー、帰りてー」)
そんな思いをなんとか抑えつけて、刃鉄は刀を構えた。
「山吹色ノ菓子デ姫ヲ釣ルトハ卑怯ナリ!」
棒読みである。
だが、この種の演技に向いてないのは琥珀も同じであり――、
「このチョコ、おいしー! ホント、おいしー!」
――拉致された姫らしからぬ歓声をあげている。
「はがねのぶんもとっといてあげるね! あとでたべよ!」
「……食べ過ぎると体に悪いですよ」
と、琥珀に小声で囁きかけた後、ユーデッカは刃鉄に斬りかかった。もちろん、本気ではないが、その迫力は剣士たる刃鉄のやる気を引き出すには充分だった。
二人は剣を打ち込んでは躱し、いつ終わるとも知れない死闘を繰り広げる……ような演技をしながら、人々に小判型チョコを手渡していった。
「一度、忍者の格好をしてみたかったんだよなー」
ハインツ・エクハルトも忍び装束に身を包んでいた。だが、忍者風なのは扮装だけではない。隠密気流で身を潜め、人々の前にいきなり現れて、驚かすと同時に楽しませている。配布用のチョコは当然のように手裏剣型だ。
「どうぞ、兵糧です」
ハインツの傍では篁・悠が俵型のチョコを配っていた。鉢巻きをして薙刀を携えた女武者の姿。
やがて、チョコはなくなったが、人だかりは消えなかった。写真撮影を希望する者たちが残ったのだ。
彼らの前でポーズを決めつつ、悠は恋人に微笑みかけた。
「こういうバレンタインも楽しいな!」
「うん。悪くない」
同じようにポーズを決めて、悠が小さく頷いた。
「鞠緒! ワシについて来い!」
「はい! 緋雨さん!」
町を駆け抜ける忍者が二人。
柵・緋雨と遠之城・鞠緒だ。
町の中をヒールして回った後、恋人たちは立ち止まり、見物客が集まってきたところでデュエットを始めた。
ただのデュエットではない。『忍び愛』という名のヒール系ワイルドグラビティ。題名の通り、世を忍ぶ恋をテーマにした歌だ。鞠緒は歌の中の恋人たちに自分と緋雨を重ねずにはいられなかった。
(「アーティストという職業柄、わたしたちの関係も公にはできない。もしも、二人のことがバレてカメラに追いかけられたりしたら……緋雨さん、わたしを連れて逃げてくださいね」)
その想いを読み取ったのか、緋雨は歌を終えると――、
「いくぞ!」
――鞠緒を抱き上げ、颯爽と走り去った。
後に残された見物客のうちの一人がからかうように叫んだ。
「爆発しろぉーい!」
ヒールをおこなっているカップルは他にもいた。
歩き巫女の衣装を着たコマキ・シュヴァルツデーンと、素浪人に扮したウルトレス・クレイドルキーパー。前者は神楽用の鈴を鳴らし、後者は愛用のエレキベースを爪弾き、『ブラッドスター』の歌声とメロディを響かせている。
(「手だけでは届く範囲も限られるけど――」)
歌いながら、コマキは心中で独白した。
(「――歌は風に乗って遠くまで届く」)
彼女に温かな眼差しを送りつつ、ウルトレスもベースを弾き続けた。
(「物理的な傷はグラビティで直せるが、大切な相手や思い出を失った人の心を戻すことはできない。それでも……」)
いつの間にか二人の周囲には一般人が集まり、一緒に『ブラッドスター』を歌っていた。
もちろん、彼らの歌声にヒールの力はない。
だが、そこに込められた感謝の念はケルベロスたちの心に癒し以上のものを与えてくれるはずだ。
作者:土師三良 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年2月13日
難度:易しい
参加:38人
結果:成功!
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